【泥乱】ディズル内乱

アシムベート・グリオウ

征竜様の巫女様がまた現れるとは、激動の時代だな。ギシュムの若者達にも良き影響を与えてくださっているようだ。しかし、巫女殿の周囲の者を、儂はどこかで見たことがある気がするのだが。
古きよりの言い伝えにはそれなりの理由がある。勇敢と蛮勇は異なるのだ。儂の言葉が彼らに届かぬのは、……自業自得とはいえ歯がゆい事だな。

ディズル大湿地帯にて第三の征竜の巫女が保護されました。彼女を奉じて沼地の敵へ戦いを挑まんとする若者達と、大酋長アシムベートや古老達の間に、静かな亀裂が生じつつあるようです。
(5月11日より 【泥乱】ディズル内乱 連動シナリオリリース予定!)

assignment【泥乱】ディズル内乱 概要

「【泥乱】ディズル内乱」は第三の征竜の巫女イネス・コンテスティがギシュム族の若者ヴァーロゥムに保護された事に端を発し、大酋長アシムベート・グリオウの求心力低下と相まって生じたリザードマン部族の分断を扱う連動です。巫女イネスとの交流を機に不倶戴天の敵である雲霞鳥と泥血啜る月吸蟲の徹底的な掃討を目論む若手と、それらの脅威を知る古老とが方針を巡り対立します。

assignmentここまでの流れ

ギシュム族の若者ヴァーロゥムが湿地帯で助けた迷い人は、征竜の巫女と付き人と自称し、その言葉と武力で若いリザードマンの尊敬を勝ち得た。征竜からの言葉として、「征竜の数が神代より減っており彼らリザードマンに早く竜となって欲しい」という。巫女らの周囲に帝国の影を感じたアシムベートは、彼女らの周辺を探ることとした。

person_pin関連NPC

ディズル大湿地帯の最大派閥であるギシュム族の酋長。ギシュム族が泥血啜る月吸蟲を封印している一帯の管理を担うことから、大酋長とも呼ばれる。武威ばった人物ではあるが、人柄は良く義理堅い。帝国近衛騎士になったエフレムの兄貴分でもあり、マナズィールも共にしたことがある。

《本連動での動き》

昨年、独断でシルトラース帝国のリーンエス王国侵攻に加担する密約を結んでいたことを告白して以降、求心力の衰えが見られている。

亡国となった帝国の皇族の、唯一と思われていた生き残り。皇位継承順位こそ八位と低いが、皇帝ヨゼフとその子女である第三皇女イダとの間に生まれた生粋の皇族と言われている。帝都から脱出して以降、各国の支援や冒険者達の助力を受けて帝国南部を奪還し、その後も帝国民の安住の地を確保しようと努めている。

《本連動での動き》

恩義のあるアシムベートの苦境を伝え聞くも、ディズル大湿地帯の内政問題である為に介入をためらっているようだ。

【蠱毒】ラスリャマスの乱ではアシムベートに従った、ギシュム族の優秀な若手戦士。将来の族長候補として期待されていた中の一人である。

《本連動での動き》

集落の外縁警備を行っていた際に、道に迷ったという『征竜の巫女』と付き人を助けた。

極北からやってきた三人目の征竜の巫女。とても美人のヒューマン女性。南へ進んでいたところ、沼地に遭遇して困っていたらしい。思考はどちらかというと戦士であり、リザードマンの生き様に共感したので彼らが強くなるために協力したいという。

《本連動での動き》

ギシュム族に保護され、疲れを癒やすべく療養している。

枯れ木のような長身の老人。鋭い目と隙の無い身ごなしが特徴のヒューマン。極北山脈の近くの村落の生き残りで、村人が皆死に絶えた村で1人暮らしていた所を巫女に拾われたという。

《本連動での動き》

格闘術を嗜むが現役は引いたと自称し、若いリザードマンがクリーパーを狩る際には師匠や軍師のように振舞う。

menu_book関連用語・情報

ギシュム族

リザードマンの中で大きな勢力を誇る武闘派一族で、『泥血啜る月吸蟲』の結界の管理や封印強化の儀式の遂行を担ってきた。二年前にラスリャマスの乱を退けた偉大な戦士アシムベートが変わらず大酋長を勤めている。 アシムベートが、滅亡以前のシルトラース帝国が計画していたリーンエス王国侵攻作戦に無断で協力を約束していた事を告白して以降、その求心力には衰えが見られている。

泥血啜る月吸蟲

伝説に残る『竜喰らい』などの超大型級に匹敵する強力さを有するとも言われている、ディズル大湿地帯の一角に物理的に封印された大型級のクリーパー。エーテルの乱れた湿原でしか生きられないと目されており、エーテルが清浄化された石垣とその内側を流れる川により形成された封印で閉じ込められている。しかし、月吸蟲が存在することにより周囲の環境は徐々にエーテルが乱れていき、石垣は崩れ、川も湿地で侵食されていくことが分かっている。かつて新暦1044年には封印が破れる事件があり、再封印のためにリザードマンは多大な犠牲を払った。そのため、ギシュム族の主導の下、月吸蟲への攻撃と封印の強化が定期的に行なわれている。
最後の封印強化は二年前。メドゥの指先ラスリャマスによる妨害が行われたが、冒険者の協力によって儀式を成功させた。

封印地帯

エーテルが清浄化された石垣と、その内側を流れる川により囲い込むことによって形成されている。月吸蟲によってエーテルの乱れが広がると、封印にも影響が出るため、石垣にはエーテルの清浄化を保つ能力のある石柱が要石のように一定間隔で埋め込まれている。封印地帯の内部に出入りするには、石垣の間に作られた通路を通り、跳ね橋のように門を降ろして内側の川を渡る必要がある。

封印地帯内部の生態

乱れたエーテルにより、クリーパーが発生しやすい環境になっている。しかし、それらのクリーパー達は仲間意識があるわけでもなく、互いに共食いを繰り返す、弱肉強食の世界を形成している。無論その頂点にいるのは月吸蟲であり、リザードマンにより加えられている攻撃によって弱まった力を、他のクリーパーを捕食することにより取り戻していると言われている。またリザードマンにとっては皮肉にも、封印地帯を形成する石垣は、雲霞鳥の格好の繁殖地となっているようだ。その他の原生生物も逞しく生きている他、かつて戦場に散ったリザードマンのスケルトンなども封印地帯をうろついている。

雲霞鳥

生息域はディズル大湿地帯全域。少数であれば比較的楽に討伐可能。超低空を飛翔するものの湿地帯から出ることはない。
一定数以上集まった雲霞鳥は集団で狩りを行うが、その際に雲霞鳥は薄い靄に包まれ、この靄が雲霞鳥たちを強化する役割を担っている。靄を纏った雲霞鳥群は大湿地帯を傍若無人に食い荒らす。そのためリザードマンたちは雲霞鳥を見つけようものなら早期に討伐し、群れの形成を遅らせながら、次の群れに備える――というライフサイクルとなっている。

●
 その日、ギシュム族の若者ヴァーロゥムは星を見つけた。――と言うのは、戦士である彼には似合わぬ詩的表現であったが、彼女を見たときに雷霆に打たれたような衝撃が走ったのは事実である。

「ありがとうございます。お恥ずかしながら供の者も私も旅慣れず、道に迷っておりました」

 ディズル湿地帯の地形は部外者には見分けがつくまい。ひとまず休息を、と集落へ案内すると、疲労が出たのか彼女は床についた。供の老人は心配ないと言うが、ヴァーロゥムは様子を見に行く自分を止められなかった。数日もすれば、気心も知れて親しく話をするようになる。そんな雑談の合間に、彼女の素性を聞いた。

「イネス・コンテスティ……。素敵な名前だな。彼女は、征竜様の巫女様なのか」

 身分と言う概念は、リザードマン種族の中ではあまり重きをなさないが、それでも偉大なる征竜の巫女という立場は大きい。あの日に見つけた星は天高く輝く偉大な星で、ヴァーロゥムは地から見上げるのみ。それでも彼は満足だった。

「話に聞いておりましたが、リザードマンは敬虔な種族ですな。高みを目指すことに励み、自身を磨く姿は大変素晴らしい」

 巫女の付き人だという老人、バルバスは優れた武芸者だった。ヴァーロゥム自身も含め、手合わせをした者は苦も無くひねられる。若きリザードマン達に不足していた集団での戦い方を、理屈立てて教える知識もあった。己の武に奢ること無く、請われれば気軽に稽古もつけてくれる姿は、以前までの大酋長アシムベート・グリオウを思い出させる。

「……大酋長アシムベート、様」

 その名を口にすれば、憧れに裏切られたような苦い思いが籠もった。部族を裏切ったと悪し様に言われているわけでは無い。しかし、若者達の間では、ヒューマン国家の争いで一方に荷担しようというアシムベートの独断は批判的に見られていた。クリーパーとの戦いで、他の種族と共闘するのならば良い。魔獣やアンデッドであっても、世界の敵であるならばリザードマンの武を振るうに不足は無い。しかし、人間同士の争いに加担することに義はあるのか。魂を磨く戦いとして相応しいのか。彼には疑問であった。

「征竜様は、今も極北の地で一人、世界の敵と対しておられます。リザードマン一族がその座に至るのであれば、新たな同胞として歓迎なさるでしょう」

 ヴァーロゥムをはじめ、迷える若きリザードマン達の悩みを耳にした巫女イネスは、そう彼らを勇気づける。

「――迷いがあるのならば、戦うが良い。湿地帯には無数の敵がおろう」

 バルバスの言葉に、目が覚めたように感じた。そう、魂を磨く為の敵はすぐそこにいるのだ。封印地帯のクリーパーや魔獣どもへ無用に仕掛けることを古老は禁じているが、命を惜しむ怠惰かつ臆病な言い分だと若者達は思う。

「戦って、戦って。いつか、かの泥血啜る月吸蟲を討ち取れば、征竜様も我らをお認めくださるだろうか」

 ラスリャマスの乱に振り回され、冒険者達に助けられるばかりであった二年前までの自分たちと今の自分たちは違う。旅人の指南を受けて彼らは戦い方を知り、冒険者と肩を並べて戦える程度には強くなったと感じていた。ふたたび冒険者達と共に戦いを挑めば、大酋長アシムベートすら、封じることしか出来なかった古きクリーパーとて、倒せぬ存在ではあるまい。戦うのだ。若者は、遠い星を目指してその日、一歩を踏み出した。

●
 伝統を重視するリザードマンに似合わず、若者と古老との間に静かな亀裂が生じているという話は、遠く帝国南部鎮守都市ヴィントにまで届く。

「ディズル湿地帯では、アシムベート殿が苦境に立たされているそうだな。我が父が為した密約の為に、苦労をかける」

 執務室の帝国皇子レイウェスト・バルダスはそう嘆息した。つい先日、リーンエス王国にて内々に婚約を交わして戻ってきた日から、疲れた様子だと周囲には心配されていた。婚約相手のメアリー王女に不満は無い。自分が学ぶ機会の無かった王族としての知識と覚悟を、彼女は持っている。政略の面からだけでなくとも、良縁と感じてはいた。それでも、周りに見える光景が以前より少し色あせ、狭くなった気がする。

「これが本来の、……皇族の感じる空気なのでしょうか、母上」

 民を導く者に『自由』など望むべくもない。帝国奪還に走り続けていた間の、風通しの良さは本来の王の在るべき姿とは異なるのだろう。それでも、帝王教育を受けていないレイウェストにとってはその時の方が居心地は良かった。

「アシムベート殿にも、今は会いに行ってはならぬのだろう、バルディオン」
「は。あくまで彼の地の内側で起きている事態であれば、内政干渉に当たるかと」

 伸ばしたかった手が、狭くなった境界に阻まれる。メアリー王女と言葉を交わす前の自分であれば、大恩のある大酋長の苦境に何をおいても駆けつけようとしただろう。今もそうしたい気持ちは大きい。しかし、立場が許さないことを理解できてしまう。

「……冒険者に、彼の地の調査と助力を依頼しては如何でしょうか」
「そう、だな。そうしよう。手配を頼む」

 自分の甘えが、彼に気を回させてしまった。シルトラース帝国の皇帝となるにはあまりに覚悟の足りない自分の内心を、バルディオンは見透かしているのだろう。それでも、彼は父ヨゼフのもとへ馳せ参じることなくレイウェストのもとに残ってくれている。せめて、彼ら家臣が誇れる主であらねばとレイウェストは思い、――彼の心の在処はまた窮屈さを増した。


 執筆:紀藤トキ
アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0