【幻秋】飼えないこの子のお別れ会
眞石ユキヒロ
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シナリオID:3305
オープニング
●
「僕は飼えないって言ったんですよ」
辺境都市群冒険者ギルド、食堂。職員であるティボーは組んだ指に顎を乗せ、俯いた。肘をのせているテーブルには白くて円形――ただし足らしき部分が尻尾のようになっている――の手のひらサイズの生き物がころころと転がっている。
「だというのに、後ろにくっついてきて「強くなりたきゃイタズラするよ~?」と一つ覚えのように問いかけてきたんですよ、この妖精は」
ふざけた問いかけだのに、まるで自分のコンプレックスを見抜いているみたいだ。
ティボーは横目で白い生物の、落書きみたいなまんまるの瞳を睨む。一般的な感性を持っているならば、この妖精の見た目を愛らしいと思うのかもしれない。しかしティボーの心には花を愛でるほどの余裕もなく。
「コイツに与える食糧なんて一欠片もないのにコイツは僕の食事を奪い取って平気な顔をしているんですよ?」
テーブルを挟んで対座する先輩――ライリー・ベルはティボーの言葉を聞きながら、背後に星空と猫を背負ってぐちゃぐちゃの思考をかき混ぜていた。
ロスガリアにおいて妖精は魔獣である。コイツことジュールは妖精の一種という噂もある。
ライリーにとって魔獣のハーレムは絶対悪だ。しかしコイツは徒党を組んではいない。ただティボーにべったりとくっついているだけだ。
(つまりティボーさんはジュールのハーレムに入れられてしまった第一号……ってコト!?)
考えた末に妙な結論に到達してしまう。
「ティボーさん、ダメです考え直しましょう! 無害そうに見えても妖精は魔獣です! 魔獣のハーレムに入るなんて!?」
「何の話ですか?」
バンッと机を叩いて立ち上がったライリーに、ティボーが苦笑いする。カタンと椅子が倒れる頃には、ティボーはライリーが何を考えたかをなんとなく理解していた。
(やっぱり、この人をこの件に関わらせちゃいけませんね)
相談する相手を間違えているのはわかっていた。しかし彼女以外に自分の話を聞いてくれる職員も現在はいなかった。
自分の叫びで頭を痛めながらも、ライリーはテーブルについた両手でふらつく身体を支えている。
最近は寝不足が深刻なようで、眼の下のクマも化粧で隠せなくなってきている。「寝たほうが良いのでは」と忠告しても、「今回は絶対に落とせないんです!」「仮眠は取ってますから」と言って聞かない。
「コイツは僕の方で処分しておきますよ。ライリーさんはとっとと仕事を片付けて家に帰ってください」
「ごはんあきた~。おかし~くだもの~」と唸るジュールをひょいと抱え、ティボーは席を立つ。ライリーは「魔獣、ハーレムは、ダメ、ですよ……!」とだけ残して自分の持ち場へと戻っていった。酔ってもいないのに千鳥足で。
(この人に無駄な元気が残ってなくて今だけは良かったですよ、本当に)
判断力の低下しているライリーに今だけは感謝して、ティボーは倒れた椅子を無言で直した。
●
ジュールを連れギルドを出たティボーは、建物の背面にある花壇のレンガに腰を下ろした。
まだ日も高い。雑草を抜かれたばかりの地面に寝転ぶジュールはころころ転がりながら「おかし~、くだもの~、たべたらあそぼ~」などと暢気に要求してくる。身体に土がついてもお構いなしだ。
(弟や妹の身体が強かったら、こんな感じだったんでしょうか)
思った瞬間には、自分の両頬をバチンと叩いていた。ジュールに対して変な感情移入をしかけている。
(家族にもコイツにも失礼ですよ、そんなのは)
視界の端にチラチラと映る淡い赤紫のシクラメンに、なぜか妙に苛立った。
「……お菓子や果物を食べさせて遊べば消えてくれるんですか?」
足を組む。苛立ちを隠さず、感情のままに口にする。土の上でゴロゴロしていたジュールは直立し、ティボーを見上げる。
「うん!」
にっこりしながら元気な返事。その単純さに目眩がする。ティボーからすればそのわかりやすさは好ましかったが、コイツには生きていたいという本能がないのかという疑問も残った。
「僕は飼えないって言ったんですよ」
辺境都市群冒険者ギルド、食堂。職員であるティボーは組んだ指に顎を乗せ、俯いた。肘をのせているテーブルには白くて円形――ただし足らしき部分が尻尾のようになっている――の手のひらサイズの生き物がころころと転がっている。
「だというのに、後ろにくっついてきて「強くなりたきゃイタズラするよ~?」と一つ覚えのように問いかけてきたんですよ、この妖精は」
ふざけた問いかけだのに、まるで自分のコンプレックスを見抜いているみたいだ。
ティボーは横目で白い生物の、落書きみたいなまんまるの瞳を睨む。一般的な感性を持っているならば、この妖精の見た目を愛らしいと思うのかもしれない。しかしティボーの心には花を愛でるほどの余裕もなく。
「コイツに与える食糧なんて一欠片もないのにコイツは僕の食事を奪い取って平気な顔をしているんですよ?」
テーブルを挟んで対座する先輩――ライリー・ベルはティボーの言葉を聞きながら、背後に星空と猫を背負ってぐちゃぐちゃの思考をかき混ぜていた。
ロスガリアにおいて妖精は魔獣である。コイツことジュールは妖精の一種という噂もある。
ライリーにとって魔獣のハーレムは絶対悪だ。しかしコイツは徒党を組んではいない。ただティボーにべったりとくっついているだけだ。
(つまりティボーさんはジュールのハーレムに入れられてしまった第一号……ってコト!?)
考えた末に妙な結論に到達してしまう。
「ティボーさん、ダメです考え直しましょう! 無害そうに見えても妖精は魔獣です! 魔獣のハーレムに入るなんて!?」
「何の話ですか?」
バンッと机を叩いて立ち上がったライリーに、ティボーが苦笑いする。カタンと椅子が倒れる頃には、ティボーはライリーが何を考えたかをなんとなく理解していた。
(やっぱり、この人をこの件に関わらせちゃいけませんね)
相談する相手を間違えているのはわかっていた。しかし彼女以外に自分の話を聞いてくれる職員も現在はいなかった。
自分の叫びで頭を痛めながらも、ライリーはテーブルについた両手でふらつく身体を支えている。
最近は寝不足が深刻なようで、眼の下のクマも化粧で隠せなくなってきている。「寝たほうが良いのでは」と忠告しても、「今回は絶対に落とせないんです!」「仮眠は取ってますから」と言って聞かない。
「コイツは僕の方で処分しておきますよ。ライリーさんはとっとと仕事を片付けて家に帰ってください」
「ごはんあきた~。おかし~くだもの~」と唸るジュールをひょいと抱え、ティボーは席を立つ。ライリーは「魔獣、ハーレムは、ダメ、ですよ……!」とだけ残して自分の持ち場へと戻っていった。酔ってもいないのに千鳥足で。
(この人に無駄な元気が残ってなくて今だけは良かったですよ、本当に)
判断力の低下しているライリーに今だけは感謝して、ティボーは倒れた椅子を無言で直した。
●
ジュールを連れギルドを出たティボーは、建物の背面にある花壇のレンガに腰を下ろした。
まだ日も高い。雑草を抜かれたばかりの地面に寝転ぶジュールはころころ転がりながら「おかし~、くだもの~、たべたらあそぼ~」などと暢気に要求してくる。身体に土がついてもお構いなしだ。
(弟や妹の身体が強かったら、こんな感じだったんでしょうか)
思った瞬間には、自分の両頬をバチンと叩いていた。ジュールに対して変な感情移入をしかけている。
(家族にもコイツにも失礼ですよ、そんなのは)
視界の端にチラチラと映る淡い赤紫のシクラメンに、なぜか妙に苛立った。
「……お菓子や果物を食べさせて遊べば消えてくれるんですか?」
足を組む。苛立ちを隠さず、感情のままに口にする。土の上でゴロゴロしていたジュールは直立し、ティボーを見上げる。
「うん!」
にっこりしながら元気な返事。その単純さに目眩がする。ティボーからすればそのわかりやすさは好ましかったが、コイツには生きていたいという本能がないのかという疑問も残った。
解説
●目標
・ジュールを満足させて消す
●できること
・ジュールにお菓子や果物を与える
満腹になるまで食べさせてあげましょう。
買ってきても良いし、ギルドの調理場を借りることも可能です。
・ジュールと遊ぶ
1対1のかくれんぼです。ジュールがギルド内のどこかに隠れます。
ジュールの隠れる場所は
・1階
・食堂(10×7ヘクス)
・依頼受付カウンター(10×10ヘクス)
・個室(1×1ヘクス)
・2階
・個室(1×1ヘクス)
・宿直室(2×2ヘクス)
・会議室(5×5ヘクス)
のうちどこか1カ所です。
1回の対戦で3カ所を調べることが出来ます。1つスキル(汎用含む)を使用した場合は1カ所調べた扱いになります。
ジュールと楽しく遊ぶことが重要なので勝ち負けは成功度に影響しません。
他の遊びも可能です。
・その他
ジュールに色々試してみたり、NPCと会話しても良いです。
●NPC
・ティボー
冒険者ギルド職員。ハーフリングのウォーリア。
やさぐれた仕事人間。誕生日とか関係なく働く。
ジュールを鬱陶しく思いながらも感情移入しかけている。
・ジュール(コイツ)
妖精(?)。甘いものと遊びを要求してくる。
ジュールへ向けて「強くなりたい」系の発言をすると……?
・ライリー・ベル
ティボーの先輩。ドゥジン信徒。仕事と信仰のおかげで徹夜と過眠のフルローテ。
●状況
辺境都市群冒険者ギルドにいます。昼さがりです。天気は良いです。
マスターより
冒険者の皆様、当依頼をご確認いただきありがとうございます!
眞石ユキヒロです。
ティボー誕生日シナリオです。
ジュールが可愛いので書きたいなと思っていたらティボーが悶々とする話になりました。
誕生日って何なんでしょうね。
質問があれば冒頭に【質問】と書いて相談卓に投稿すればライリーが答えられる範囲で答えます。
※当依頼は参加時に仮プレイングの提出を推奨しております。
絶対ではありませんがご一考いただけると有難いです。
リプレイ
●
辺境都市群冒険者ギルド、背面の花壇に冒険者たちは集まってくれた。
「今は強さはいいので、イタズラしちゃ駄目ですよー?」
「いらないのー?」
トーラは直立するジュールと目線を合わせるべくしゃがむが、向こうの方が遥かに小さい。
(なんだか……魔獣というより鳥と目線を合わせるような感じですね……)
互いの間に敵意は一切無い。というかここに集まった全員に、この我が儘な魔獣への敵意が存在しない。
「まぁ、こちらが話題のジュールさんですか」
東雲・更紗はいつも通りおっとりと、この珍妙な生き物をじっくりと眺めている。
傍らの巨漢――ブレイドは中腰になり、このお菓子な妖精と更紗を交互に見て、なんとも複雑な表情になった。可愛らしいお子様が二人。
「あっ、ブレイドさんと更紗さん、こんにちは~」
目が合ったアルマ・ヴァレンタインに快活な笑顔で手を振られ、反射的に手を振り返す。
何というか。
(この場に混じるには自分は大きすぎるのではないだろうか?)
ブレイド以外全員が未成年に見える小さな身体の持ち主なのだ。その中に混ざってお菓子作りなどをするのは、説明しがたいが気が進まない。
「お前さんはどんな遊びが好みなんだ?」
よって、お菓子のあとの遊びに付き合うことにする。
●
「というわけで! ボクはちょっとだけギルドに用事があるからまたね~」
ティボーはてとてとと歩くアルマの小さな背を、無表情で見送った。彼女が真面目に仕事をする人物だということはこれまで一緒にこなした依頼で理解してはいる。それどころか自分の傷を肩代わりするほどの善人――もとい恩人なので悪いようにはしないだろうという信頼がある。
「仮眠と美容の時間だよー。ティボーさんをびっくりさせちゃおう!」
アルマから告げられた言葉に、ライリー・ベルはドゥジン界隈で常に一定の賑わいを見せる、黒塗りの馬車にぶつかる絵物語を思い出したが多分関係ないです。
なんでティボーさん? という疑問は秒で吹っ飛んだ。
用意されたのは最高級の宿の如きふかふかベッド。見てるだけで飛び込みたくなる魅惑のプレイスである。
「ふっふっふ、あとはボクに任せるだけで大丈夫! 万事解決! だよー!」
愛らしい笑顔で美味しい話をぶら下げてくる。ヤバイ。ライリー負けそう。
「勿論ベストは尽くすよー」
アルマの言葉に嘘はない。でもライリーには仕事が――!
数分後。部屋にはすやすやライリーと、彼女の肌や髪の状態を確認し、手持ちの道具箱の中身との格闘を始めたアルマが居た。
(肌の色に合う粉はあるねー。髪型とかはあんまり大きく変えると業務に支障が出そうだし、毛先を巻いてみようかなー)
まずは鏡に向かって自分で練習だ。筒状の厚紙に髪の毛を巻き付け、数分待つ。解放すると、アルマの朱華の髪の先がくるりと螺旋を描いた。
手入れの行き届いた髪は、紋具が放つ僅かな光を吸い込んだみたいに、つやつやと輝いている。
(彼に見てもらいたいなー。なんて)
お洒落をすると心が弾む。アルマはニコニコと鏡を眺めながら、ライリーにもそういう気持ちを持ってもらえると良いなと思った。
●
「とても甘い香りで……すでに焼き上がりが楽しみですね」
「更紗さんの作られる飲み物も楽しみにしています」
ホクホク湯気を立てているうちにトーラが潰しきったカボチャは、厨房の一角に甘やかな匂いを漂わせる。通りすがる職員や冒険者たちが幾たびも足を止め、「余ったら貰えるかな?」などと交渉するほどに期待値が高い。
「でしたらなるべく早めに取りかかるといたしましょうか。……それと」
更紗は懐からあるものを取り出した。
「トーラさんもよろしければ」
トーラは潰したカボチャにバターなどを手際よく混ぜながら、横目でそれを確認する。
「はい。わたしもこれが終わったら取りかかりますね!」
トーラが生地を寝かせつつ、あるものに取りかかる横で、更紗の戦いが始まった。
林檎に梨――今が旬の果物たちを使ったフレッシュジュースの作成だ。
(どちらかと言えば材料の調達の方がメインでしたが……)
目映くも頑丈なクリスタル・フレッシュジューサーを調理台にセット! 半分に切った林檎をスクイィィィィィズ!!!
と豪快にいきたいところだが、更紗にはブレイドのような上背は無い。小さな台に乗っかって、両手でぎゅっっぎゅと林檎を回すように押し込む。
(ふふっ、グラスがカラフルなジュースで満たされていきます)
丸鉢には食べやすいように切った林檎や梨、葡萄などを彩りよく盛り付けてゆく。
(ジュールさんだけでなく、ブレイドさんや皆さんも喜んでくれると良いのですが)
オーブンからクッキーを取り出すと、甘い香りがぶわっと広がった。
湯気を立てるそれにふーふーと息を吹きかけてから、一口囓る。
(完成です!)
素朴なカボチャの風味が鼻の奥へと抜けてゆく。口内を満たすは素朴な甘さと焼きたて故のふんわり感。
大きな丸皿に、かぼちゃ、こうもり、お化けの型でくりぬかれたクッキーを丁寧に並べる。それを溢さぬよう、ゆっくりとギルドの背面――テーブルと椅子で急造されたジュールのためのお茶会会場に運んだ。
「沢山焼いたので遠慮せず食べて下さいね?」
「わかった~!」
ジュールはシーサイド・フルーツカクテルの入っていたグラスからちょこんと顔を出している。どんな飲み方をしたのか、それだけで容易に想像がついた。
「おいしそ~!」
トーラがテーブルに皿を置くが早いか、ジュールはそこにダイブした。
「一応、皆で食べるものなのだから、マナー良く、な?」
「……まにゃ?」
力量には執着するが、それとは別種の強さにはどうも疎いらしい。
「大丈夫です。あと二皿焼いてありますから」
「ああ、では自分たちはそちらをいただこうか。運ぶのを手伝おう」
ブレイドは手にしていた梨ジュースのグラスをテーブルに置き、申し出た。
「ありがとうございます! 甘さ控えめの紅茶も用意していますので、そちらも楽しんでいただけると嬉しいです」
「あの、私もお手伝いした方がよろしいでしょうか?」
「大丈夫ですよ。すぐに終わりますのでジュールさんを見張っていてください」
ジュールはというと、皿の上を這い回りながらクッキーをバクバクと胃(?)に納め続けている。何かの競争みたいだと思い、更紗はくすりと笑った。
その笑みを見届けたブレイドがゆっくりと席を立ち、トーラと並んで歩いて行く。
「お二人とも、行ってらっしゃいませ」
(私とブレイドさんも、並ぶとあのくらいの身長差なのでしょうか?)
二人の背を見送りながら、更紗は思う。
「私とブレイドさんは、周りの皆さんの目にどのように映っているのでしょうか」
「そういうのもあり、くらいですかね」
ぼんやりと呟いた更紗に、栄養満点の葡萄に口を付けていたティボーが答える。それから「しまった」とばかりに口を手で覆った。
更紗のふっくらとした両の頬が、桜色に染まっている。その代赭色の瞳に映るのは背の高い、頼りになるブレイドただ一人だ。
「みんな~、ライリーさんつれてきたよ! って、アレ?」
皿の上ではジュールが泳ぎ、更紗は秋の桜を周囲に咲かせ、ティボーは一口サイズの林檎を掴んだまま気まずそうにしていた。
「ま、いっか。座ろー」
考えても仕方ない。ライリーをティボーの隣に座らせ、アルマは皆を見渡せる席にちょこんと腰掛けた。
「ジュールさん、ボクからもコレ!」
迷宮神の甘味箱をテーブルの上でババン! と開く。
「わぁ~!」
ジュールは後先考えずに飛び込み、茶色い輝きにかじりついた。
●
「ティボーさん、妖精ハーレムの住人になってしまったわけではないですよね?」
「……。……率直に言わせてもらいますと、変ですよ貴女」
アルマは観察する。ティボーはいつもよりほんの少し気後れしているような気がする。あのかたーいティボーに対してこれだけの効果が出たなら、アルマの試みは充分に成功していると言えた。
「ギルドの裏でこっそり? お茶会をするなんて贅沢ですよね」
更紗はブレイドが帰ってきたところで我に返った。今は紅茶をお供に焼きたてで暖かいクッキーをいただいている。
「けぷっ」
ジュールはというと、甘味箱の中で仰向けになっている。
「あそぼ~」
「そういう約束だったな」
ブレイドはジュースやお菓子でペタつくジュールを手で掬うと、洗い場に連れて行った。このままかくれんぼを開始させるとあちこちを汚してしまうと判断しての行動だ。
ライリーが何かをうるさく言っていたが気にしたら負けだ。
「どれ、綺麗になっただろうか?」
身体を拭いてやると「ありがと~!」と感謝される。まるっきり子供なのだ。
(更紗さんよりも言動が幼く感じるな……)
この小さいのと更紗を比較すること自体、相当に特殊なのだが。ブレイドにとって更紗が身近になっていることの証左と言えた。
●
走らせた宗波に、特別小さな存在は引っかかっていない。
(ここには居ないということだろうか)
面積も広く隠れやすそうなカウンター付近にいるだろうかと思ったが、どうも違うらしい。
「見ぃつけた……!」
「で良いのだろうか」を沈黙に秘す。二階の個室の扉を開きながら口にしてみたが、どうも居ないらしい。反応がない。
「見ぃつ……?」
この言葉を口にすること自体に疑問を感じつつ、隣の宿直室の扉を開く。
「みつけた~!」
とす、と背中にふわついた突撃を受ける。ジュールだ。
「自分が見つかってしまったか」
ぽてっと床に転がったジュールを拾い上げ、急いで皆の待つギルドの裏側へ向かった。
●
「じゃ~ね~、ありがと~!」
満足したジュールはテーブルの上で皆にお辞儀をしてからぴょんと飛び降り、いずこかへと去っていった。
「アレ、一人で生きていけるんですかね?」
ティボーの疑問が届く間もなく、ジュールの姿は全員の視界から消え去ってしまった。
「まぁ、良いんですけど」
言葉は落ちて転がる。
残るはジュースにフルーツカクテル、果物にカボチャクッキーに紅茶と、甘美な存在証明ばかりである。
「あの、ティボーさんにプレゼントがあります」
積極的に無を湛えようとするティボーに、更紗が膨らんだ封筒を差し出す。それを目にした瞬間、ティボーの傍らで放心していたライリーが両手を合わせ、わかりやすいほどに笑顔になった。
「わたしたちからの誕生日プレゼントですよ」
トーラが大きな目を細め、イタズラっぽく笑う。
「これ、この場で開いちゃって良いものですか?」
「特に問題は無いと自分は思うが、皆はどうだろう?」
「ボクとしてはなるはやで読んでほしいかなー?」
特に異論も出ないため、ティボーは椅子に腰掛け封を切った。
(『お誕生日おめでとー! 来年はもうすこーし肩の力が抜けてますよーに。』……余計なお世話ですよ)
アルマからだ。肩の力を抜ける日なんて、いつ来るかわからないというのに。
(『お誕生日おめでとうございます! お二人の仲、陰ながら? 応援しておりますね。』……は!?)
更紗からだ。更紗、アルマ、ライリー、トーラを何度も何度も見た。アルマは得意げな笑顔で、ライリーは普通に笑っていて、トーラはいつも通りの笑顔で。更紗は不安げにティボーを覗き込んでいた。
(……億が一にもありえませんよ、そんなのは)
一緒の地獄に人を連れて行く気になんてなれない。そんな言葉を飲み込んで、ティボーは次の便せんに目を向ける。
(『いつもギルドの業務お疲れ様です。ライリーさんのフォローも助かってます!』)
トーラからだ。あいも変わらず真っ直ぐである。何を考えているか手に取るようにわかる。
(……自分のことを優先してくださいよ。本当に)
万事上手くいくということはない。けれど努力した分だけ確実に彼女は前に進めると、ティボーはうっすら信じているのだ。
(最後はブレイドさん。『誕生日おめでとう。強さは一日にしてならずという、お互い精進を忘れぬようにしよう。』)
ブレイドを見上げる。鈍く光る刃の如く、確かにある目映さを感じる。
(貴男はきっと気付いていないでしょうが)
ティボーはブレイドのありようを好ましく感じていた。
●
そして、それぞれの想いがつまった便せんたちは、封筒にしまわれる。
「……あざました」
小さな声と、下げられる頭。言葉に絡む想いは、複雑で。
辺境都市群冒険者ギルド、背面の花壇に冒険者たちは集まってくれた。
「今は強さはいいので、イタズラしちゃ駄目ですよー?」
「いらないのー?」
トーラは直立するジュールと目線を合わせるべくしゃがむが、向こうの方が遥かに小さい。
(なんだか……魔獣というより鳥と目線を合わせるような感じですね……)
互いの間に敵意は一切無い。というかここに集まった全員に、この我が儘な魔獣への敵意が存在しない。
「まぁ、こちらが話題のジュールさんですか」
東雲・更紗はいつも通りおっとりと、この珍妙な生き物をじっくりと眺めている。
傍らの巨漢――ブレイドは中腰になり、このお菓子な妖精と更紗を交互に見て、なんとも複雑な表情になった。可愛らしいお子様が二人。
「あっ、ブレイドさんと更紗さん、こんにちは~」
目が合ったアルマ・ヴァレンタインに快活な笑顔で手を振られ、反射的に手を振り返す。
何というか。
(この場に混じるには自分は大きすぎるのではないだろうか?)
ブレイド以外全員が未成年に見える小さな身体の持ち主なのだ。その中に混ざってお菓子作りなどをするのは、説明しがたいが気が進まない。
「お前さんはどんな遊びが好みなんだ?」
よって、お菓子のあとの遊びに付き合うことにする。
●
「というわけで! ボクはちょっとだけギルドに用事があるからまたね~」
ティボーはてとてとと歩くアルマの小さな背を、無表情で見送った。彼女が真面目に仕事をする人物だということはこれまで一緒にこなした依頼で理解してはいる。それどころか自分の傷を肩代わりするほどの善人――もとい恩人なので悪いようにはしないだろうという信頼がある。
「仮眠と美容の時間だよー。ティボーさんをびっくりさせちゃおう!」
アルマから告げられた言葉に、ライリー・ベルはドゥジン界隈で常に一定の賑わいを見せる、黒塗りの馬車にぶつかる絵物語を思い出したが多分関係ないです。
なんでティボーさん? という疑問は秒で吹っ飛んだ。
用意されたのは最高級の宿の如きふかふかベッド。見てるだけで飛び込みたくなる魅惑のプレイスである。
「ふっふっふ、あとはボクに任せるだけで大丈夫! 万事解決! だよー!」
愛らしい笑顔で美味しい話をぶら下げてくる。ヤバイ。ライリー負けそう。
「勿論ベストは尽くすよー」
アルマの言葉に嘘はない。でもライリーには仕事が――!
数分後。部屋にはすやすやライリーと、彼女の肌や髪の状態を確認し、手持ちの道具箱の中身との格闘を始めたアルマが居た。
(肌の色に合う粉はあるねー。髪型とかはあんまり大きく変えると業務に支障が出そうだし、毛先を巻いてみようかなー)
まずは鏡に向かって自分で練習だ。筒状の厚紙に髪の毛を巻き付け、数分待つ。解放すると、アルマの朱華の髪の先がくるりと螺旋を描いた。
手入れの行き届いた髪は、紋具が放つ僅かな光を吸い込んだみたいに、つやつやと輝いている。
(彼に見てもらいたいなー。なんて)
お洒落をすると心が弾む。アルマはニコニコと鏡を眺めながら、ライリーにもそういう気持ちを持ってもらえると良いなと思った。
●
「とても甘い香りで……すでに焼き上がりが楽しみですね」
「更紗さんの作られる飲み物も楽しみにしています」
ホクホク湯気を立てているうちにトーラが潰しきったカボチャは、厨房の一角に甘やかな匂いを漂わせる。通りすがる職員や冒険者たちが幾たびも足を止め、「余ったら貰えるかな?」などと交渉するほどに期待値が高い。
「でしたらなるべく早めに取りかかるといたしましょうか。……それと」
更紗は懐からあるものを取り出した。
「トーラさんもよろしければ」
トーラは潰したカボチャにバターなどを手際よく混ぜながら、横目でそれを確認する。
「はい。わたしもこれが終わったら取りかかりますね!」
トーラが生地を寝かせつつ、あるものに取りかかる横で、更紗の戦いが始まった。
林檎に梨――今が旬の果物たちを使ったフレッシュジュースの作成だ。
(どちらかと言えば材料の調達の方がメインでしたが……)
目映くも頑丈なクリスタル・フレッシュジューサーを調理台にセット! 半分に切った林檎をスクイィィィィィズ!!!
と豪快にいきたいところだが、更紗にはブレイドのような上背は無い。小さな台に乗っかって、両手でぎゅっっぎゅと林檎を回すように押し込む。
(ふふっ、グラスがカラフルなジュースで満たされていきます)
丸鉢には食べやすいように切った林檎や梨、葡萄などを彩りよく盛り付けてゆく。
(ジュールさんだけでなく、ブレイドさんや皆さんも喜んでくれると良いのですが)
オーブンからクッキーを取り出すと、甘い香りがぶわっと広がった。
湯気を立てるそれにふーふーと息を吹きかけてから、一口囓る。
(完成です!)
素朴なカボチャの風味が鼻の奥へと抜けてゆく。口内を満たすは素朴な甘さと焼きたて故のふんわり感。
大きな丸皿に、かぼちゃ、こうもり、お化けの型でくりぬかれたクッキーを丁寧に並べる。それを溢さぬよう、ゆっくりとギルドの背面――テーブルと椅子で急造されたジュールのためのお茶会会場に運んだ。
「沢山焼いたので遠慮せず食べて下さいね?」
「わかった~!」
ジュールはシーサイド・フルーツカクテルの入っていたグラスからちょこんと顔を出している。どんな飲み方をしたのか、それだけで容易に想像がついた。
「おいしそ~!」
トーラがテーブルに皿を置くが早いか、ジュールはそこにダイブした。
「一応、皆で食べるものなのだから、マナー良く、な?」
「……まにゃ?」
力量には執着するが、それとは別種の強さにはどうも疎いらしい。
「大丈夫です。あと二皿焼いてありますから」
「ああ、では自分たちはそちらをいただこうか。運ぶのを手伝おう」
ブレイドは手にしていた梨ジュースのグラスをテーブルに置き、申し出た。
「ありがとうございます! 甘さ控えめの紅茶も用意していますので、そちらも楽しんでいただけると嬉しいです」
「あの、私もお手伝いした方がよろしいでしょうか?」
「大丈夫ですよ。すぐに終わりますのでジュールさんを見張っていてください」
ジュールはというと、皿の上を這い回りながらクッキーをバクバクと胃(?)に納め続けている。何かの競争みたいだと思い、更紗はくすりと笑った。
その笑みを見届けたブレイドがゆっくりと席を立ち、トーラと並んで歩いて行く。
「お二人とも、行ってらっしゃいませ」
(私とブレイドさんも、並ぶとあのくらいの身長差なのでしょうか?)
二人の背を見送りながら、更紗は思う。
「私とブレイドさんは、周りの皆さんの目にどのように映っているのでしょうか」
「そういうのもあり、くらいですかね」
ぼんやりと呟いた更紗に、栄養満点の葡萄に口を付けていたティボーが答える。それから「しまった」とばかりに口を手で覆った。
更紗のふっくらとした両の頬が、桜色に染まっている。その代赭色の瞳に映るのは背の高い、頼りになるブレイドただ一人だ。
「みんな~、ライリーさんつれてきたよ! って、アレ?」
皿の上ではジュールが泳ぎ、更紗は秋の桜を周囲に咲かせ、ティボーは一口サイズの林檎を掴んだまま気まずそうにしていた。
「ま、いっか。座ろー」
考えても仕方ない。ライリーをティボーの隣に座らせ、アルマは皆を見渡せる席にちょこんと腰掛けた。
「ジュールさん、ボクからもコレ!」
迷宮神の甘味箱をテーブルの上でババン! と開く。
「わぁ~!」
ジュールは後先考えずに飛び込み、茶色い輝きにかじりついた。
●
「ティボーさん、妖精ハーレムの住人になってしまったわけではないですよね?」
「……。……率直に言わせてもらいますと、変ですよ貴女」
アルマは観察する。ティボーはいつもよりほんの少し気後れしているような気がする。あのかたーいティボーに対してこれだけの効果が出たなら、アルマの試みは充分に成功していると言えた。
「ギルドの裏でこっそり? お茶会をするなんて贅沢ですよね」
更紗はブレイドが帰ってきたところで我に返った。今は紅茶をお供に焼きたてで暖かいクッキーをいただいている。
「けぷっ」
ジュールはというと、甘味箱の中で仰向けになっている。
「あそぼ~」
「そういう約束だったな」
ブレイドはジュースやお菓子でペタつくジュールを手で掬うと、洗い場に連れて行った。このままかくれんぼを開始させるとあちこちを汚してしまうと判断しての行動だ。
ライリーが何かをうるさく言っていたが気にしたら負けだ。
「どれ、綺麗になっただろうか?」
身体を拭いてやると「ありがと~!」と感謝される。まるっきり子供なのだ。
(更紗さんよりも言動が幼く感じるな……)
この小さいのと更紗を比較すること自体、相当に特殊なのだが。ブレイドにとって更紗が身近になっていることの証左と言えた。
●
走らせた宗波に、特別小さな存在は引っかかっていない。
(ここには居ないということだろうか)
面積も広く隠れやすそうなカウンター付近にいるだろうかと思ったが、どうも違うらしい。
「見ぃつけた……!」
「で良いのだろうか」を沈黙に秘す。二階の個室の扉を開きながら口にしてみたが、どうも居ないらしい。反応がない。
「見ぃつ……?」
この言葉を口にすること自体に疑問を感じつつ、隣の宿直室の扉を開く。
「みつけた~!」
とす、と背中にふわついた突撃を受ける。ジュールだ。
「自分が見つかってしまったか」
ぽてっと床に転がったジュールを拾い上げ、急いで皆の待つギルドの裏側へ向かった。
●
「じゃ~ね~、ありがと~!」
満足したジュールはテーブルの上で皆にお辞儀をしてからぴょんと飛び降り、いずこかへと去っていった。
「アレ、一人で生きていけるんですかね?」
ティボーの疑問が届く間もなく、ジュールの姿は全員の視界から消え去ってしまった。
「まぁ、良いんですけど」
言葉は落ちて転がる。
残るはジュースにフルーツカクテル、果物にカボチャクッキーに紅茶と、甘美な存在証明ばかりである。
「あの、ティボーさんにプレゼントがあります」
積極的に無を湛えようとするティボーに、更紗が膨らんだ封筒を差し出す。それを目にした瞬間、ティボーの傍らで放心していたライリーが両手を合わせ、わかりやすいほどに笑顔になった。
「わたしたちからの誕生日プレゼントですよ」
トーラが大きな目を細め、イタズラっぽく笑う。
「これ、この場で開いちゃって良いものですか?」
「特に問題は無いと自分は思うが、皆はどうだろう?」
「ボクとしてはなるはやで読んでほしいかなー?」
特に異論も出ないため、ティボーは椅子に腰掛け封を切った。
(『お誕生日おめでとー! 来年はもうすこーし肩の力が抜けてますよーに。』……余計なお世話ですよ)
アルマからだ。肩の力を抜ける日なんて、いつ来るかわからないというのに。
(『お誕生日おめでとうございます! お二人の仲、陰ながら? 応援しておりますね。』……は!?)
更紗からだ。更紗、アルマ、ライリー、トーラを何度も何度も見た。アルマは得意げな笑顔で、ライリーは普通に笑っていて、トーラはいつも通りの笑顔で。更紗は不安げにティボーを覗き込んでいた。
(……億が一にもありえませんよ、そんなのは)
一緒の地獄に人を連れて行く気になんてなれない。そんな言葉を飲み込んで、ティボーは次の便せんに目を向ける。
(『いつもギルドの業務お疲れ様です。ライリーさんのフォローも助かってます!』)
トーラからだ。あいも変わらず真っ直ぐである。何を考えているか手に取るようにわかる。
(……自分のことを優先してくださいよ。本当に)
万事上手くいくということはない。けれど努力した分だけ確実に彼女は前に進めると、ティボーはうっすら信じているのだ。
(最後はブレイドさん。『誕生日おめでとう。強さは一日にしてならずという、お互い精進を忘れぬようにしよう。』)
ブレイドを見上げる。鈍く光る刃の如く、確かにある目映さを感じる。
(貴男はきっと気付いていないでしょうが)
ティボーはブレイドのありようを好ましく感じていた。
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そして、それぞれの想いがつまった便せんたちは、封筒にしまわれる。
「……あざました」
小さな声と、下げられる頭。言葉に絡む想いは、複雑で。
マスターコメント
冒険者の皆様、ご参加いただきありがとうございました!
問題なくジュールを送り届けることができたので、大成功とさせていただきます!
称号は全員に差し上げます。
改めて、当依頼へご参加いただきありがとうございました!
眞石ユキヒロでした。
イベントシナリオ普通 報酬:無し4 / 4〜25人
2023年11月12日 14時24分22秒 公開
大成功
相談掲示板
トーラです。 よろしくお願いします! あと一人で成立ですね。 わたしは何か甘いお菓子を作ってみようかと思います。 何かリクエストがあれば対応するので言って下さい!
ブレイドだ、よろしく頼む。 今回は無事成立しそう…か? まあ一人ならイザとなれば引っ張ってくるアテもある。 お菓子なんかには縁遠かったからおまかせするほかないが… 自分はかくれんぼにでも付き合うとしよう。
成立ですね! 改めてよろしくお願いします! とりあえず南瓜のクッキーを用意して行く予定です。 甘いものが得意でない方用に、甘さ控えめのものも用意していきますね。
無事に成立で何よりです。 東雲更紗と申します、よろしくお願いしますね。 南瓜のクッキー!楽しみにしていますね。 私は果物のほう・・ということでフルーツカクテルなどの準備でもと。 ティボーさんもせっかくのお誕生日ということですし またレターセットでばぁすでーかぁどを作ってみたいと思いますので 皆さまも字数に余裕がありましたらご一緒にいかがでしょうか?
レターセット良いですね。 では、わたしも加わらせて頂きます!
ギリギリ挨拶になったけどアルマだよ、どーぞよろしくねー お菓子に果物にかくれんぼも分担バッチリ?みたいなので ボクはライリーさんの体調とおめかしをどうにかー…できるといいなあ あ、バースデーカードにも参加させてもらうねー
アルマさんも来てどうにか成立だな、よろしく頼む。 手短だがバースデーカードの記入も入れてプレイングは提出完了している。