明日のお妃様は誰だ! 第一回お妃様未公認選抜戦!!
馬車猪
コメント 5
シナリオID:2837
オープニング
●
「これより第一回、レイウェスト皇子のお妃様候補選抜大会を開催します!」
壇上の紳士の宣言に凄まじい熱気が籠もった雄叫びが爆発する。
「妃殿下には『知力』『体力』『時の運』など様々なものが要求されるでしょう。第一回である今回は、全ての前提である『体力』を競って頂きます」
逞しい女軍人も、上品な衣装の下にダンスで鍛えられた体を持つ令嬢も、特に何の背景もないが素質だけはある一般人の女性もやる気が燃え盛っている。
地位はおそらく次期皇帝な皇子様。
環境を考えると信じられないくらいに性格がまとも。
顔面性能の平均値が高い冒険者と比べても美しいと評価される美貌。
非公認選抜戦とはいえ、自身の能力を証明する機会を逃すようなら男女的な意味での狩人としては失格だ。
「司会と選抜の試験官は私、カール・イスターツが。選抜内容の決定と準備はは冒険者が行います」
なお、冒険者はお妃様候補志願者としても試験官としても参加可能である。
●数日前
「殿下に女っ気のないのが問題なのだ!」
いきなり暴言を吐き始めたのは結構名が知られた剣士だ。
剣の腕は優れていても政治的な感覚は一般的な農家のご婦人と比べても劣っている。
「あんたなー」
剣の腕は論外でも授恵者としてはそろそろ中堅越えの少年がじろりと見る。
「レイ……皇子様は忙しいんだ。女を口説く暇と口説かれる暇がないだけだろ」
責任も統治範囲も小さなリットでも休みがほとんどないのだ。
帝国全体に責任を持つしかない皇子様がどれほど過酷な立場にあるか想像するのは容易だ。
「悠長なことを言っていい状況ではない! これを見ろ!!」
剣士が薄い冊子を会議室の机に叩きつける。
リットは「高価なやつを乱暴に扱うなよ」と文句を言いかけ、冊子の表紙絵を見て激しく瞬きする。
「なにこれ」
「レイウェスト様をネタにしたいかがわしい本だ!」
剣士は怒りで顔を赤くしていて、この場に冊子の作者がいれば叩き斬ってしまいそうな勢いだ。
リットは許可をとってから無言で冊子をめくる。
(きれーだけど俺はエルフのねーちゃんの方がいーなー。でもこのレイウェスト、なんで男といちゃついてんだ?)
スラム出身の無教養な少年には、極めて高度な技術と学識の持ち主が綴った物語は理解できない。
「ともかく!」
剣士が吠える。
リットは仕方なく冊子を閉じて机の上に戻す。
「殿下が思春期の適齢期であるにも関わらず浮いた噂の一つも無いのが根本的な原因だ!! こんな冊子など、殿下に相応しいお方が現れれば瞬く間に消えてなくなる!!」
(そっかなー)
リットは、冊子の美しい絵を通して感じられる情念がその程度で消えるとは思えない。
「殿下に許可をお願いしても遠慮されるに決まってる。だから我々で妃候補の選抜試験を実施するのだ!!」
剣士は盛り上がる。
会議室内にいる運送業者や帝国軍士官も「候補者をお勧めするくらいなら不敬にはならないよね」という感じで意見がまとまっていった。
●
「という状況ですので協力をお願いしたいのです」
カール・イスターツは激務の中、無理矢理時間を作って冒険者ギルドを訪れている。
色々あって元侯爵領1つを実質的に担当しているので、頑健な心身でも耐えきれない疲労が全身に滲んでいる。
「協力って、鎮圧の?」
受付嬢は真顔で問うた。
なお、参考として見せられた冊子のタイトルと著者名は既に記憶に刻み込み、次の休みで探して購入するつもりだ。
「レイウェスト皇子のことを案じている人達ばかりですから手荒な解決は避けたいです」
心痛でカールの表情は不健康だ。
弟子も多数関わっているので責任をとることに納得はしている。
しかし若い弟子が未熟故の馬鹿をやらかして弟子の未来が閉ざされるという展開は絶対に避けたいのだ。
「カールさんが止められては?」
受付嬢が常識的な反応をする。
「……娯楽がないのも原因ですので、息抜きになればという意図もあります」
帝国の復興はまだ途中だ。
つまり娯楽が少ない場所が多い。
わずかとはいえ余裕ができた状況で時間を消費するための娯楽が少ないのは、治安を悪化しかねない条件が揃っているといえる。
「具体的にお願いしたいのは選抜戦の内容決定と審判です」
カールは本人非公認であることを繰り返し強調する。
「私達が準備できるのは長距離走程度です。華やかな催しになるよう冒険者の皆さんの知恵を借りたいですし、試験官もお願いしたいです。もちろんお妃様候補志願者としての参加も歓迎します」
最終的に責任をとる覚悟を決めている彼は、透き通るような笑みを浮かべていた。
「これより第一回、レイウェスト皇子のお妃様候補選抜大会を開催します!」
壇上の紳士の宣言に凄まじい熱気が籠もった雄叫びが爆発する。
「妃殿下には『知力』『体力』『時の運』など様々なものが要求されるでしょう。第一回である今回は、全ての前提である『体力』を競って頂きます」
逞しい女軍人も、上品な衣装の下にダンスで鍛えられた体を持つ令嬢も、特に何の背景もないが素質だけはある一般人の女性もやる気が燃え盛っている。
地位はおそらく次期皇帝な皇子様。
環境を考えると信じられないくらいに性格がまとも。
顔面性能の平均値が高い冒険者と比べても美しいと評価される美貌。
非公認選抜戦とはいえ、自身の能力を証明する機会を逃すようなら男女的な意味での狩人としては失格だ。
「司会と選抜の試験官は私、カール・イスターツが。選抜内容の決定と準備はは冒険者が行います」
なお、冒険者はお妃様候補志願者としても試験官としても参加可能である。
●数日前
「殿下に女っ気のないのが問題なのだ!」
いきなり暴言を吐き始めたのは結構名が知られた剣士だ。
剣の腕は優れていても政治的な感覚は一般的な農家のご婦人と比べても劣っている。
「あんたなー」
剣の腕は論外でも授恵者としてはそろそろ中堅越えの少年がじろりと見る。
「レイ……皇子様は忙しいんだ。女を口説く暇と口説かれる暇がないだけだろ」
責任も統治範囲も小さなリットでも休みがほとんどないのだ。
帝国全体に責任を持つしかない皇子様がどれほど過酷な立場にあるか想像するのは容易だ。
「悠長なことを言っていい状況ではない! これを見ろ!!」
剣士が薄い冊子を会議室の机に叩きつける。
リットは「高価なやつを乱暴に扱うなよ」と文句を言いかけ、冊子の表紙絵を見て激しく瞬きする。
「なにこれ」
「レイウェスト様をネタにしたいかがわしい本だ!」
剣士は怒りで顔を赤くしていて、この場に冊子の作者がいれば叩き斬ってしまいそうな勢いだ。
リットは許可をとってから無言で冊子をめくる。
(きれーだけど俺はエルフのねーちゃんの方がいーなー。でもこのレイウェスト、なんで男といちゃついてんだ?)
スラム出身の無教養な少年には、極めて高度な技術と学識の持ち主が綴った物語は理解できない。
「ともかく!」
剣士が吠える。
リットは仕方なく冊子を閉じて机の上に戻す。
「殿下が思春期の適齢期であるにも関わらず浮いた噂の一つも無いのが根本的な原因だ!! こんな冊子など、殿下に相応しいお方が現れれば瞬く間に消えてなくなる!!」
(そっかなー)
リットは、冊子の美しい絵を通して感じられる情念がその程度で消えるとは思えない。
「殿下に許可をお願いしても遠慮されるに決まってる。だから我々で妃候補の選抜試験を実施するのだ!!」
剣士は盛り上がる。
会議室内にいる運送業者や帝国軍士官も「候補者をお勧めするくらいなら不敬にはならないよね」という感じで意見がまとまっていった。
●
「という状況ですので協力をお願いしたいのです」
カール・イスターツは激務の中、無理矢理時間を作って冒険者ギルドを訪れている。
色々あって元侯爵領1つを実質的に担当しているので、頑健な心身でも耐えきれない疲労が全身に滲んでいる。
「協力って、鎮圧の?」
受付嬢は真顔で問うた。
なお、参考として見せられた冊子のタイトルと著者名は既に記憶に刻み込み、次の休みで探して購入するつもりだ。
「レイウェスト皇子のことを案じている人達ばかりですから手荒な解決は避けたいです」
心痛でカールの表情は不健康だ。
弟子も多数関わっているので責任をとることに納得はしている。
しかし若い弟子が未熟故の馬鹿をやらかして弟子の未来が閉ざされるという展開は絶対に避けたいのだ。
「カールさんが止められては?」
受付嬢が常識的な反応をする。
「……娯楽がないのも原因ですので、息抜きになればという意図もあります」
帝国の復興はまだ途中だ。
つまり娯楽が少ない場所が多い。
わずかとはいえ余裕ができた状況で時間を消費するための娯楽が少ないのは、治安を悪化しかねない条件が揃っているといえる。
「具体的にお願いしたいのは選抜戦の内容決定と審判です」
カールは本人非公認であることを繰り返し強調する。
「私達が準備できるのは長距離走程度です。華やかな催しになるよう冒険者の皆さんの知恵を借りたいですし、試験官もお願いしたいです。もちろんお妃様候補志願者としての参加も歓迎します」
最終的に責任をとる覚悟を決めている彼は、透き通るような笑みを浮かべていた。
解説
※注意※
この依頼で勝利してもレイウェスト皇子の妻の座に近づけたりはしません
●目的
レイウェスト皇子のお妃様候補選抜大会を無事終了させること
●競技
・冒険者が選抜戦の内容決定に関わらない場合
長距離走、着替え(更衣室は選手1人に1つ用意されます)、ダンス(踊れない場合は腹筋運動)の総合評価で順位が決定されます
・複数の競技がある場合
基本的に冒険者の意向が優先です
冒険者の意見がまとまらなかった場合は、カールが頑張って評価します
●場所
安全が確保された広大な平地
更衣室や飲食のための天幕が複数用意されています
●冒険者以外の志願者
・帝国軍女性士官数名
個人参加です。体力は非授恵者としては非常に優秀ですが、ドレスの着付けは苦手でダンスは壊滅的です
・富裕層出身の女性
幼女、少女、年齢的にはご婦人の合計3名
実家は帝国復興事業に全力を投入しているので金銭的余裕はありませんが、3人とも年齢の割に高度な教養を持っています
しかし全員非授恵者で、体力はその年齢にしては鍛えている程度でしかありません
・一般参加者
冒険者が参加しない場合は参加します
覚醒者になった直後の帝国人少女です
●他
・リット
たくさんいる観客が暴れないよう見回りをしています
・剣士
カールの弟子達
脳味噌筋肉。授恵者としては中堅に達していません
「これで問題解決だ!」と思いながら後方運営者面しています
・カール
ストレスで胃を痛めて休憩しています
冒険者が希望されたら、司会の役割も試験官の立場も喜んで冒険者に譲ります
マスターより
リクエストありがとうございます
たぶんギャグがコメディになるんじゃないかなとおもいます
リプレイ
●
会場設営は急ピッチという表現では足りない速度で行われた。
「ゴッチ先生の弟子さん達も運営、ですから」
エルのこの言葉は100パーセント正しい。
肉体労働をさせられた剣士達に文句はあるかもしれないがそもそものきっかけは彼等なので文句を言う資格はないのだ。
(自身の能力を証明する機会を逃すようなら男女的な意味での狩人としては失格……!?)
本人は可憐な少女でも冒険者としては熟練のトーラが静かに動揺している。
これは選抜戦発起人が無知から発した言葉であり、トーラも普段なら微笑んで流せる程度の戯れ言だ。
(狩人……レイウェストさまを狩る!?)
しかし対象が想い人なので冷静に考えるのは不可能だ。
「みんな、殿下の妃になりたいか~!! 宮殿に行きたいか~!!」
皇子から直接叙任された騎士、アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトが壇上から参加者を煽っている。
侯爵令息、帝国騎士、熟練冒険者と様々な立場を持っているのに今日は何故か愉快なにーちゃんっぽい。
うおお、と大地がうなるような返事が聞こえたのは錯覚だが気配はそれ以上だ。
帝室やレイウェスト皇子に対する敬意を持つと同時に野望と自負を持つ女性達が、瞳を爛々と輝かせて競技の開始を待っている。
「わたしに敵わないようならお妃様になる資格はありません。そう、これは、しゃんかしゃっ」
トーラの舌がちょっとだけ空回る。
「参加者、に紛れての障害役なんです! 簡単にわたしを追い抜けるとは思わないで下さい」
台詞の後半では落ち着きを取り戻し、まだドレスもハイヒールも身につけていないのに淑女らしい気品を醸し出していた。
「はじめ~!」
帝国代官見習いリットが競技の開始を大声で告げる。
トーラは通常の参加者達より明らかに速く、バンビは飛び出すタイミングが理論上の最大値といって良いほどに早い。
「敵も障害もないのはオレさまには不利ですけど」
依頼では敵と戦う前に戦場を走り抜けたりするのも頻繁なので加減速も判断も鍛え抜かれている。
最高速では負けても判断から行動までが非常に早く、精鋭の女性軍人達もなかなかバンビを追い抜けない。
長距離走を終えるとドレスへの着替えだ。
妃なら従者が気付けをするだろう、と思う人間は帝国らしい脳筋さが足りない。
1番に着替えを終えたのは最高速で圧倒的なトーラだ。
ハーフリングであるトーラ専用にオーダーメイドされた正装は、トーラの魅力を正しく引き出すだけで貴婦人らしさを演出する。
「次……は」
競技内容を初めて知らさせたトーラが焦る。
「レイウェストさま、が、わたしの……」
忙しい皇子のために短い時間でかつ正確にかつ情熱的に愛を語るという、実にハイスピードな競技である。
困難な戦闘も交渉もこなせるトーラではあるが、ほぼ私的な目的で活動中に不意討ちされると初心な面も出てくる。
「最速の夜伽マスターとしてはこのコンテストに参加しないわけにはまいりませんわ。実際の依頼でやりました。レイレイの奥様はこの俺ですわ」
ここまで約5秒である。
バンビは普段から高度な呪文を精緻かつ高速で操っているので当然のように滑舌は抜群で聞き取り易い。
なお、どこで未遂をしたかというとレイレイが極北から帰還した際の歓迎会だったとか。
「そういえばお妃さまの仕事が何かは子づくり以外に何をするのでしょうね。しかしゴブリン皇帝……魅力的な響きですわ」
これが常人の発言なら呆れられたかもしれないが、美と知と力を兼ね備えたバンビなら実力相応の発言になる。
前置きが終わり熱烈な愛の言葉が始まっても、滑舌は良く言葉は聞き取り易いままだった。
(タイム差、も大きいけど、評価点が)
エルは人材不足で採点も兼任している。
戦闘とその次はトーラとバンビで独占中だが、トーラは恥ずかしさで口説き文句で苦戦、バンビはぶっつけ本番で周囲にあわせてはいるが基本が黒ローブなので着付けの点数は平均以下。
各要素の採点結果と総合するとかなりの接戦だ。
だからこそ盛り上がる。
観客は主に地縁や部隊の縁で応援するので、盛り上がっている観客が非常に多い。
(ウィル、そっちは?)
エルが着替え用の天幕の周囲で警戒中の狼へ連絡を入れる。
返答は戦闘時と同じくらいの緊張感があった。
(そのまま、おねがい)
祭りの熱で自制心が緩んでいるのかどうかは分からないが、覗きを試みる者が結構な数いて警備も大忙しのようだ。
エル自身は採点だけでなく給水体制の維持も並行して行っている。
とにかく人材がいないのだ。
「容器、運ぶ、慎重に」
軍の有志はともかく剣だけが巧みな者達を指揮するのは、エルでもとても大変だった。
●
競技会は後半戦に突入する。
唐突に現れた吊り橋という地形で、帝国騎士と代官見習いという帝国の選良が大きなボールを投げて競技参加者を妨害している。
「なあにーちゃんこれほんとにやっていいのかよ!」
「リット、今の俺達は●●●●●と○○○○だ!」
「なんか変なもの受信してるだろにーちゃん!」
アルベルトとリットの腕力による投擲ではあるが、十分に手加減されているし迫力があるのもあくまで演技だ。
演技の中に狂気とかどこからか受信したものが含まれているかもしれないが。
吊り橋を越えても試練は続く。
「来たか」
直前までの言動から想像し辛いシリアス顔で出迎えたのはアルベルトだ。
「殿下のお妃様になりたいなら俺を倒してみろ!」
「え、アルベルトさんと勝負ですか……?」
トーラは困惑するがそれは思考の表層だけだ。
心も体もとっくの昔に闘争時のそれに切り替わっている。
「勝てるか怪しいですけれど、全力で挑ませて頂きます……!」
自らを障害役と称していた彼女は既にない。
ここにいるのは自らの恋心を抱えて一直線に前へ進む挑戦者だ。
なお物理的には一直線ではない。
「なにっ」
アルベルトはドレスを傷つけないよう注意しながら剣を繰り出そうとしたが剣が届く範囲に相手がいない。
トーラはホライゾナルジャンプで飛び退いたのだ。
その直後からトーラの猛攻が始まる。
ドレスの裾が元の高さに戻るより早く、普段以上の集中と気合いで魔法を打ちだしアルベルトの装甲と防御を貫く。
役割上仕方がないといえ演技中のアルベルトと今のトーラでは力が違い過ぎ、防具の差があっても苦戦必至だ。
「見事……」
アルベルトが力なく膝をつくのは演技でも、負けを認め相手を称賛する気持ちは本心だ。
「続いて行きますわよ!」
「君はもう少し普通に挑戦しても、と危ないっ」
バンビもアルベルトに回復の余裕を与えず押し通る。
それを見て、一般参加者達もルールの範囲内で容赦せずに帝国騎士という難関を乗り越えていった。
●
最後はダンスだ。
「どんなダンス、が、来る、かな? 誰か踊れる人、いる?」
そう言うエルは1度見本を見れば男パートも女パートも担当可能だ。
非授恵者から見れば理不尽なほど広範囲に能力が高いのが、格の高い授恵者というものだ。
「一般的な踊りであればなんとか」
授恵者としての格は高いゴッチも冒険者ほど多芸ではない。
今も、過去の記憶から社交とダンスについて引っ張り出している最中だ。
「お願い、します」
エルは楽器を抱えてゴールへ急ぐ。
ゴールであると同時に最後の競技の場所だ。
複数組が同時に踊れる空間が確保され、しかし楽隊はいない。
エルはこほんと咳払い。
装備は戦闘用のままだが、一般的な基準での礼儀や演技はお手の物だ。
屋根もないので音響面の環境が悪い。それでもエルの演奏技術は十分以上に高度で一般参加者が飲まれかけるほどだ。
「む、これは」
「なかなかやりますわね」
バンビが優雅に、それでいて不敵に微笑む。
「魔法を行使するうえで正確な動作は重要。正確かつかっちりと踊ってみせましょう」
鍛えられた体幹と運動神経が頭の天辺から手足の指先までを美しく踊らせる。
ただし踊りの内容はキャンプファイアの周囲で踊るそれだ。
踊り自体は素晴らしいので、観客はもちろんゴッチ先生も他の競技参加者も混乱させる。
混乱せずペースを乱さなかったのは、トーラだけだった。
●
競技が終わるまでも大変だったが終わってからも大変だ。
「おつ、かれ」
採点結果の集計と総合評価の確定まで、実質1人でやるしかなかったエルが主にゴッチに声をかける。
「ええ、本当に」
軍関係の偉い人も来ていたのでゴッチはいつものように剣に関係ない仕事で酷使されている。
「結果を発表する!」
怪我の治療跡はあるが疲れは見せないアルベルトが壇の下で結果を発表する。
「大変な熱戦で接戦だった。個人的にはレイウェスト殿下に全員紹介したいくらいだ」
アルベルトの発言に多少のリップサービスは含まれているが本音の割合も高い。
レイウェスト皇子の忙しさが今の半分程度であれば、機会を見つけて紹介していたかもしれない。
「第一回お妃様未公認選抜戦、優勝者はトーラさんだ!」
未公認。
それを聞いたトーラは残念なようなホッとしたような複雑な感情を抱き、しかし全力を出した結果に納得する。
「これ非公認だったんですか……」
「名声は有用な道具ですわよ」
僅差で2位になったバンビが不敵に笑う。
レイウェスト皇子の隣の座を巡る競争は、まだ始まったばかりなのだ。
エルは落ち着いた観客から帰路へ誘導している。
(娯楽、は、大事)
皆興奮して疲れてもいるようだが精神の緊張が抜けている。
(それに、優秀な人材、も、見つけられる、かも?)
冒険者以外の参加者も気合いが素晴らしかった。
才能の煌めきを見えた者も少なくない。
私腹で来た帝国軍士官や官僚が満足そうな顔をする、意義のある大会であった。
会場設営は急ピッチという表現では足りない速度で行われた。
「ゴッチ先生の弟子さん達も運営、ですから」
エルのこの言葉は100パーセント正しい。
肉体労働をさせられた剣士達に文句はあるかもしれないがそもそものきっかけは彼等なので文句を言う資格はないのだ。
(自身の能力を証明する機会を逃すようなら男女的な意味での狩人としては失格……!?)
本人は可憐な少女でも冒険者としては熟練のトーラが静かに動揺している。
これは選抜戦発起人が無知から発した言葉であり、トーラも普段なら微笑んで流せる程度の戯れ言だ。
(狩人……レイウェストさまを狩る!?)
しかし対象が想い人なので冷静に考えるのは不可能だ。
「みんな、殿下の妃になりたいか~!! 宮殿に行きたいか~!!」
皇子から直接叙任された騎士、アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトが壇上から参加者を煽っている。
侯爵令息、帝国騎士、熟練冒険者と様々な立場を持っているのに今日は何故か愉快なにーちゃんっぽい。
うおお、と大地がうなるような返事が聞こえたのは錯覚だが気配はそれ以上だ。
帝室やレイウェスト皇子に対する敬意を持つと同時に野望と自負を持つ女性達が、瞳を爛々と輝かせて競技の開始を待っている。
「わたしに敵わないようならお妃様になる資格はありません。そう、これは、しゃんかしゃっ」
トーラの舌がちょっとだけ空回る。
「参加者、に紛れての障害役なんです! 簡単にわたしを追い抜けるとは思わないで下さい」
台詞の後半では落ち着きを取り戻し、まだドレスもハイヒールも身につけていないのに淑女らしい気品を醸し出していた。
「はじめ~!」
帝国代官見習いリットが競技の開始を大声で告げる。
トーラは通常の参加者達より明らかに速く、バンビは飛び出すタイミングが理論上の最大値といって良いほどに早い。
「敵も障害もないのはオレさまには不利ですけど」
依頼では敵と戦う前に戦場を走り抜けたりするのも頻繁なので加減速も判断も鍛え抜かれている。
最高速では負けても判断から行動までが非常に早く、精鋭の女性軍人達もなかなかバンビを追い抜けない。
長距離走を終えるとドレスへの着替えだ。
妃なら従者が気付けをするだろう、と思う人間は帝国らしい脳筋さが足りない。
1番に着替えを終えたのは最高速で圧倒的なトーラだ。
ハーフリングであるトーラ専用にオーダーメイドされた正装は、トーラの魅力を正しく引き出すだけで貴婦人らしさを演出する。
「次……は」
競技内容を初めて知らさせたトーラが焦る。
「レイウェストさま、が、わたしの……」
忙しい皇子のために短い時間でかつ正確にかつ情熱的に愛を語るという、実にハイスピードな競技である。
困難な戦闘も交渉もこなせるトーラではあるが、ほぼ私的な目的で活動中に不意討ちされると初心な面も出てくる。
「最速の夜伽マスターとしてはこのコンテストに参加しないわけにはまいりませんわ。実際の依頼でやりました。レイレイの奥様はこの俺ですわ」
ここまで約5秒である。
バンビは普段から高度な呪文を精緻かつ高速で操っているので当然のように滑舌は抜群で聞き取り易い。
なお、どこで未遂をしたかというとレイレイが極北から帰還した際の歓迎会だったとか。
「そういえばお妃さまの仕事が何かは子づくり以外に何をするのでしょうね。しかしゴブリン皇帝……魅力的な響きですわ」
これが常人の発言なら呆れられたかもしれないが、美と知と力を兼ね備えたバンビなら実力相応の発言になる。
前置きが終わり熱烈な愛の言葉が始まっても、滑舌は良く言葉は聞き取り易いままだった。
(タイム差、も大きいけど、評価点が)
エルは人材不足で採点も兼任している。
戦闘とその次はトーラとバンビで独占中だが、トーラは恥ずかしさで口説き文句で苦戦、バンビはぶっつけ本番で周囲にあわせてはいるが基本が黒ローブなので着付けの点数は平均以下。
各要素の採点結果と総合するとかなりの接戦だ。
だからこそ盛り上がる。
観客は主に地縁や部隊の縁で応援するので、盛り上がっている観客が非常に多い。
(ウィル、そっちは?)
エルが着替え用の天幕の周囲で警戒中の狼へ連絡を入れる。
返答は戦闘時と同じくらいの緊張感があった。
(そのまま、おねがい)
祭りの熱で自制心が緩んでいるのかどうかは分からないが、覗きを試みる者が結構な数いて警備も大忙しのようだ。
エル自身は採点だけでなく給水体制の維持も並行して行っている。
とにかく人材がいないのだ。
「容器、運ぶ、慎重に」
軍の有志はともかく剣だけが巧みな者達を指揮するのは、エルでもとても大変だった。
●
競技会は後半戦に突入する。
唐突に現れた吊り橋という地形で、帝国騎士と代官見習いという帝国の選良が大きなボールを投げて競技参加者を妨害している。
「なあにーちゃんこれほんとにやっていいのかよ!」
「リット、今の俺達は●●●●●と○○○○だ!」
「なんか変なもの受信してるだろにーちゃん!」
アルベルトとリットの腕力による投擲ではあるが、十分に手加減されているし迫力があるのもあくまで演技だ。
演技の中に狂気とかどこからか受信したものが含まれているかもしれないが。
吊り橋を越えても試練は続く。
「来たか」
直前までの言動から想像し辛いシリアス顔で出迎えたのはアルベルトだ。
「殿下のお妃様になりたいなら俺を倒してみろ!」
「え、アルベルトさんと勝負ですか……?」
トーラは困惑するがそれは思考の表層だけだ。
心も体もとっくの昔に闘争時のそれに切り替わっている。
「勝てるか怪しいですけれど、全力で挑ませて頂きます……!」
自らを障害役と称していた彼女は既にない。
ここにいるのは自らの恋心を抱えて一直線に前へ進む挑戦者だ。
なお物理的には一直線ではない。
「なにっ」
アルベルトはドレスを傷つけないよう注意しながら剣を繰り出そうとしたが剣が届く範囲に相手がいない。
トーラはホライゾナルジャンプで飛び退いたのだ。
その直後からトーラの猛攻が始まる。
ドレスの裾が元の高さに戻るより早く、普段以上の集中と気合いで魔法を打ちだしアルベルトの装甲と防御を貫く。
役割上仕方がないといえ演技中のアルベルトと今のトーラでは力が違い過ぎ、防具の差があっても苦戦必至だ。
「見事……」
アルベルトが力なく膝をつくのは演技でも、負けを認め相手を称賛する気持ちは本心だ。
「続いて行きますわよ!」
「君はもう少し普通に挑戦しても、と危ないっ」
バンビもアルベルトに回復の余裕を与えず押し通る。
それを見て、一般参加者達もルールの範囲内で容赦せずに帝国騎士という難関を乗り越えていった。
●
最後はダンスだ。
「どんなダンス、が、来る、かな? 誰か踊れる人、いる?」
そう言うエルは1度見本を見れば男パートも女パートも担当可能だ。
非授恵者から見れば理不尽なほど広範囲に能力が高いのが、格の高い授恵者というものだ。
「一般的な踊りであればなんとか」
授恵者としての格は高いゴッチも冒険者ほど多芸ではない。
今も、過去の記憶から社交とダンスについて引っ張り出している最中だ。
「お願い、します」
エルは楽器を抱えてゴールへ急ぐ。
ゴールであると同時に最後の競技の場所だ。
複数組が同時に踊れる空間が確保され、しかし楽隊はいない。
エルはこほんと咳払い。
装備は戦闘用のままだが、一般的な基準での礼儀や演技はお手の物だ。
屋根もないので音響面の環境が悪い。それでもエルの演奏技術は十分以上に高度で一般参加者が飲まれかけるほどだ。
「む、これは」
「なかなかやりますわね」
バンビが優雅に、それでいて不敵に微笑む。
「魔法を行使するうえで正確な動作は重要。正確かつかっちりと踊ってみせましょう」
鍛えられた体幹と運動神経が頭の天辺から手足の指先までを美しく踊らせる。
ただし踊りの内容はキャンプファイアの周囲で踊るそれだ。
踊り自体は素晴らしいので、観客はもちろんゴッチ先生も他の競技参加者も混乱させる。
混乱せずペースを乱さなかったのは、トーラだけだった。
●
競技が終わるまでも大変だったが終わってからも大変だ。
「おつ、かれ」
採点結果の集計と総合評価の確定まで、実質1人でやるしかなかったエルが主にゴッチに声をかける。
「ええ、本当に」
軍関係の偉い人も来ていたのでゴッチはいつものように剣に関係ない仕事で酷使されている。
「結果を発表する!」
怪我の治療跡はあるが疲れは見せないアルベルトが壇の下で結果を発表する。
「大変な熱戦で接戦だった。個人的にはレイウェスト殿下に全員紹介したいくらいだ」
アルベルトの発言に多少のリップサービスは含まれているが本音の割合も高い。
レイウェスト皇子の忙しさが今の半分程度であれば、機会を見つけて紹介していたかもしれない。
「第一回お妃様未公認選抜戦、優勝者はトーラさんだ!」
未公認。
それを聞いたトーラは残念なようなホッとしたような複雑な感情を抱き、しかし全力を出した結果に納得する。
「これ非公認だったんですか……」
「名声は有用な道具ですわよ」
僅差で2位になったバンビが不敵に笑う。
レイウェスト皇子の隣の座を巡る競争は、まだ始まったばかりなのだ。
エルは落ち着いた観客から帰路へ誘導している。
(娯楽、は、大事)
皆興奮して疲れてもいるようだが精神の緊張が抜けている。
(それに、優秀な人材、も、見つけられる、かも?)
冒険者以外の参加者も気合いが素晴らしかった。
才能の煌めきを見えた者も少なくない。
私腹で来た帝国軍士官や官僚が満足そうな顔をする、意義のある大会であった。
マスターコメント
お疲れ様でした!
ショートシナリオR普通 報酬:標準4 / 4〜8人
2023年03月15日 22時33分38秒 公開
普通
相談掲示板
ウォーリアのアルベルトだ よろしくな。 とりあえずは成立したか。 今のところ、参加者は俺以外全員女性か。 俺は、当然試験官として参加の予定だ。 試験内容は、『殿下の妃になりたいなら俺を倒してみろ』だ。 いざという時、殿下をお護りすることが出来る程の実力があるか試験するぜ。 勿論、俺からも(手加減して)攻撃はするぜ。(本気で挑む演技はするが) 後は、志願者に吊り橋を渡らせて、途中で俺とリットが「アミーゴ」と叫びながらバレーボールを投げつけるのも良いかもな とりあえず合言葉は 「ニュー○ークに行きたいか〜!」 で決まりだな ・・・元ネタがごちゃ混ぜになっているが気にしないでくれ
エル、です。どうぞ、よろしく。 …ええと、運営のお手伝い、で、参加、でも、いい、です、よね…? とりあえず、ダンス曲の演奏、しようか、な、と。 他も、色々、雑用、とか…。
トーラです。 ええと、、、試験頑張ります……!!
リットだぜよろしく! 皇子様って大変だなー……。
この勝負、もらった。