【妖薙】新しい未来へ
崎田航輝
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シナリオID:2755
オープニング
シャルガネ、臥魅郷。
その高台に建つ絢酉神社にて、静霞は冒険者達へ頭を下げていた。
静霞の祖先、絢酉桜寿が残した予言書に従い、海に蔓延る妖怪を退治してからしばらく。新たな妖怪達が現れる事はなく、郷は穏やかな日々が続いている。
それは予期された郷の滅びを、確かに退けつつある証左でもあり……静霞が見せる顔は明るかった。
ただ、静霞が次に零す声音は真剣なものだ。
「もう少しで、郷は未来を変える事が出来ます。けれど……最後に残った脅威こそ、真に恐るべきものなのでしょう」
これまで多くの妖怪を打倒してきたが――未来を変える為に、あとひとつだけ行うべき事があると予言に記されているのだと言った。
それこそが、最後に残った脅威の討伐。
「“巨大な闇”……そう記された存在の打倒です」
それが叶わねば、郷の滅びの運命を変える事は出来ない。
だから、と静霞は冒険者達を見つめて。
「最後に、皆様のお力を貸して下さい」
●最後の予言
「郷を滅ぼす脅威の正体が何なのか、それは予言に記されてはいません」
静霞は今一度予言書に目を落としながら、そう語る。
ただ、予想できる事はあると言った。
「皆様に協力をして頂き始めてから、私も神社に眠る古い文献を調べ直していたのですが……」
そこで絢酉桜寿の時代のものらしき書を見つけたという。
「それは予言の類ではありません。ただ……漂着民の方々が目撃した事をきっかけに、郷で古くから恐れられるようになったものについての覚書でした」
それは現在、郷の中でも格言やことわざの題材して残っている。
「それが“悪鬼”です」
赤肌の巨躯として描かれたその想像図は、目撃情報を正確に再現したものかどうかは判らない。
ただ巨大な武器を持つ姿は……予言に書かれた“巨大な闇”の数少ない描写とも一致するのだという。
「郷を滅ぼそうとする首魁は、この悪鬼の事なのかも知れません」
静霞の声音には畏れの感情が滲む。
それは郷の人間として、その血が恐怖する存在なのかも知れなかった。
「“巨大な闇”は、比類なき力を持つとも予言されています」
そこに冒険者を送り出す事には、静霞にとって迷いもあるだろう。
それでも打倒せねば、郷の滅びは免れないのだから。
「戦いに……赴いて頂ければと思います」
曰く、“巨大な闇”は海から出現するという。
「前回調べて頂いた、海底の洞窟の先……そこにあるという島に、まずは姿を現すと思って間違いはなさそうです」
“巨大な闇”はそこから郷を目指して移動する。
郷に到達させてしまえば……被害は避けられないだろう。
「この敵が郷に到達する前に、打倒を目指して下さい」
島から郷までは、海も挟んでかなりの距離がある。
相手が強大だとしても、粘り強く戦いを続ける事で勝利も見えるかも知れない、と。
「私達からは、船を出させて頂きます」
島自体は容易に泳いでいける場所ではない。
その移動手段として、大きな帆船の調達をしたのだと静霞は言った。
「住人の方々にも協力をして頂けた結果です。今では郷の者全員が、皆様を応援したいと思っていますから」
そのくらいしか助力は出来ませんが、と。
「郷の未来を……お願いいたします」
●未来へ
「もし、全てが無事に済みましたら……是非、また郷で過ごしていってください」
と、静霞はそう声を明るくした。
何でも、新たに祭りの準備を始めているのだという。
「皆様と共に過ごす、平和の祭典に出来ればと思っています」
郷の中心には大きな櫓が組まれており……本番では提灯の灯りを中心に踊りが計画されているといった。
郷の人々も進んで協力し、冒険者達と本当の平和を謳歌出来る時間を待っている。
「そう、郷の方々といえば――」
あれから一層、郷の雰囲気も良くなっているのだと静霞は微笑む。
「郷には同盟からの人々も来ていますが――そういった商人の方々とは、適度に距離をおいてお付き合いをしていこう、という事になりました」
それも冒険者の案を参考にしての事。
近隣で商業的に成功している「倭桜ノ街」にも助言を求めつつ……郷に合った商業をゆっくりと形成していこうという空気になっているのだと言った。
「臥之木さんを始めとした、郷の若い方々も概ね、それで合意しているようです」
彼らは現在、無理に新規性のある商売を始めるのではなく……シャルガネの文化や海の幸を保全し、活用していく方向に向いている。
そのためにも神社や郷の自然を守る事に、モチベーションも上がっているようだ。
「事業や神社を守る事に関連して……魔術師様も協力していただける事になりました」
魔術師・公陽篤杜がとるその方針も、冒険者の助言によるものだ。
「近隣の安全確保だけでなく……お守りやおみくじの販売、管理など、神社の商業的な面も支えて下さる事になっています」
皆が未来を見て、歩み出している。
きっと、郷はこれからもっと良い方向に向かってゆくだろう。
「全て皆様のおかげです」
だから、どうか最後の戦いもご無事で、と。
静霞は頭を下げる。
「皆様の帰還を、待っていますから」
そう告げて、冒険者達を見送るのだった。
解説
マスターより
リプレイ
帆船が波立つ海上を進み出す。
「郷の雰囲気、良くなってよかったよね」
陸地を遠目に見送って……トゥーリは船上で思いを零していた。
予言に端を発し、妖かしとの戦いを始めて幾月か。敵を倒すだけでなく、郷と寄り添ってきたから感じるものがある。
「そうね」
と、ロゼットも声を返す。
いかに信仰を保ち、未来に残すか。自身の歩む道にもまた、活かせるものを得られたと思う――だからこそ、と。
「後は最後の大仕事。郷を守るために死力を尽くしましょう」
東の先を見据える。
その彼方に、小さな島の影が見え始めていた。
「あそこから大将が出てくるってわけだ」
やってやろうじゃねえかと、ハヤト=ガラン=ヴォルファングは拳を握る。
シャルガネは、ハヤトにとって他でもない故郷でもある。
そこを荒そうというのなら。
「黙って見過ごせねぇ。行くぜ」
「はい!」
応えるエルナ・クルプファルツが、垂らされたはしごに足をかける。
潜んで接近するため、距離を取って浅瀬に降りておく策だ。
ここから先は死線上。
けれど声音は前向きに。
「さあさ最後の大一番! 鬼退治ですね!」
予言の闇を祓ってしまいましょう、と。
エルナの言葉に皆も気を引き締め、島へと向かった。
地形の凹凸に隠れながら、島の岸に着くと――早々に敵影が見えた。
「妖狐と牛鬼、ですわね」
ネーヴェ・グラヌローザが呟く。
宙を舞う、狐の妖怪。そして海辺に位置する牛頭の異形。それらは何かの前触れを感じるように、狭い範囲を行き来していた。
「現れるのを待っているのかもしれませんね」
イヴェール・イリュジオンが言うのは無論、予言された脅威の事だ。
(……古くから存在するなら、大型相当の可能性もありますか)
間違いなく強敵ではあろう。
ならばこそ、見える敵は早期に排除しておきたい。
故に皆は頷き合うと、戦闘態勢。まずはハヤトが飛び出し、岩を蹴って跳躍すると――
「うるぁ!」
低空にいた牛鬼の頭上を取り、強烈な蹴り下ろしを叩き込んだ。
そのまま忍刀でも突き刺し、牛鬼ごと地に降りてゆくと……時を同じく、ヴィナスは妖狐へと弓を構えていた。
おそらく相手は遠距離攻撃も有している。だからそれが向けられる前にと、精密な狙いで胴体を深く穿ってみせる。
その一体が衝撃に落下してくると――
「行けるかい」
「任せてくれ」
応えて岩場を走り出すのがシャドウ。
低い位置の岩を蹴っては登り、高度を上げて。その妖狐へ迫ると……ダガーとナイフで連閃。素早く四散させた。
エルナが矢を宙で炸裂させて空の三体を巻き込むと、イヴェールも放った矢を光の破片にして同じ個体を削ってゆく。
この間、牛鬼は攻勢に出てくる、が。
「させないわ」
ロゼットが祭棍へ聖なる輝きを凝集させて、真っ直ぐに刺突。強烈な一打で、異形の脚を数本砕いてみせた。
ネーヴェも白銀に煌めかせた魔力を放ち、鋭い衝撃を叩き込んでゆく。
その牛鬼は倒れず、毒霧を返すが……受けたロゼットは高い守りで耐え抜き、仲間の視線に頷きを返して。
「まだ大丈夫よ」
「それじゃあ、まだまだ攻めるよ!」
応えるトゥーリが無数の光弾を形成。流星群を降らすように、妖狐三体を消滅させた。
と、その時――地鳴りが響く。
亀裂が奔った岩場が、震動と共に瓦解する。
砂煙が爆裂するように噴出すると――塵の垂れ幕の奥に巨大なシルエットが浮かんでいた。
海風に払われて、その姿はすぐに露わになる。
「予言の悪鬼、だね」
トゥーリの声に皆が頷く。
赤肌の人型。金棒を持つそれは、仰ぎ見る程の巨躯を持つ妖怪。邪魔な岩場を力で薙ぎ払うと……小鬼達と共に西へと移動を始めた。
歩むだけで、煽られるような風が吹く。
それは確かに滅びを齎す厄災であったろう。
けれど、故にこそ冒険者達は怯まない。トゥーリは声音に気合を込めて。
「ここで全部祓わないとね!」
「そうだね」
ヴィナスも冷静に敵を観察する。
予言の通り、向かう先はやはり大陸の方向だった。
ならばそれまでに、如何に数を減らせるか。
それが何より重要な戦いになると判っているから……ヴィナスは躊躇わず射撃。矢を炸裂させて多数の子鬼を穿ってゆく。
「小鬼も脆くはないね。着実に叩いていく必要がありそうだ」
「そのようだな」
頷くシャドウも狙いは小鬼。
そこへ駆ければ、自然と悪鬼を守るように行く手を阻んでくるから――最前の個体を、まずは連続斬撃で倒してゆく。
ただ、悪鬼は既に海へと入りつつあった。
ハヤトは空へ昇ろうとする牛鬼を蹴り落とし、更に跳躍してもう一体の牛鬼も掴んで引きずり下ろしながら――
「こっちもそろそろ動くか」
「ええ」
ロゼットが海へ向かいながら船へ合図を出すと、皆も頷く。
同時に、攻撃も忘れない。ネーヴェが光弾で牛鬼と小鬼を巻き込めば……トゥーリも魔法を重ねて集団の体力を削る。
エルナも同じ敵の群に射撃すると、イヴェールも後退しつつ矢弾を射出。飛散する光で四体ほどの小鬼を塵にしていた。
未だ敵の数は多いけれど――
「ここで可能な事は出来ましたかね」
「そうですね! 行きましょう!」
応えるエルナも海へ泳ぎ入り、皆と共に船へ戻る。
そして海中に薄らぐ悪鬼の姿を追い、海を進み出した。
海上を滑る船は、高速だ。
敵群も決して鈍重ではないが……こちらはそれを上回る速度で追随する事が出来た。
ただ――
「また現れましたね」
イヴェールが甲板から仰ぐと、新たな妖狐の姿がある。
既にこちらに敵意を見せ、妖気を揺蕩わせているが……それ故に冒険者達も迅速。まずはハヤトが帆柱を蹴って宙へ跳び、蒼空を背に妖狐へと肉迫していた。
妖狐も迎撃態勢を取るが――
「落とさせてもらうぜ!
それを上回る速度で翻り、ハヤトはまず一体を踏みつける。
そして次の妖狐にも蹴撃を叩き込むと……反動を利用し傍の一体へも斬撃。纏めて海面傍まで叩き落としてみせた。
「あと一体を頼むぜ!」
「了解」
答えたヴィナスは甲板から弓を引き絞る。
刹那、上方へ撃ち上げた矢でその一体の体勢を崩し、高度を落とさせた。
妖狐達は水気で形作った刃を放ってくるが――走るシャドウは、その軌道を寸前で全て見切って。
「当たりはしないさ」
体を僅かにずらす事で紙一重で回避。船縁を蹴って跳ぶと……回転しながら一息に三体へ斬撃を見舞っていた。
脚を、尾を、体の端々を断たれて水面でよろめく妖狐達。
そこへエルナも弓弦を引いていた。
番えられる矢は、鮮やかに明滅する光の塊。瞬間、放たれたそれは色彩を流動させて――鮮烈な輝きの欠片となって妖狐を貫いてゆく。
「あと少しです!」
「ではこれで」
と、イヴェールも微かな時間差を置いて射撃。千々に砕け散る矢の衝撃で、妖狐を纏めて消し飛ばした。
その間、ネーヴェは悪鬼の歩む周囲を見やっている。
そこには未だ大勢の小鬼の姿があった。
その一体一体も決して弱くはないと判っていたが――
(少しばかり、進軍の邪魔をする事は出来るでしょうか)
その狙いで用意したのは、船に積んでおいた投網だ。漁に用いる頑丈なもので、母蜘蛛糸のロープを組み合わせてある。
船乗りも手伝い、小鬼達へ近づくと――ネーヴェはエーテルを巡らせたその網を船縁から投擲した。
網には重石が付けてあり、広がりながらも水に沈むようになっている。
その狙い通り、網は被さるように小鬼へ。体に絡みつくように歩みを阻害していた。
小鬼にとって網を破る事も難しくはないだろう。ただ、ひとところに纏められた状態で進軍を阻害されたのは事実。
その一瞬の隙に、水中に入っていたロゼットが下方に泳ぎ……小鬼達の直上に迫っていた。
小鬼達は網を破って応戦しようとする、が、遅い。
ロゼットは煌々と輝く魔力を棍へと纏わせて……打撃。体力が目減りしていた個体から散らせていく。
無論、小鬼も反撃するが……ロゼットも堅牢。幾重もの打撃を耐え抜いていた。
その頃、トゥーリも悪鬼に狙いを定めている。
悪鬼自体は未だ傷も浅く、他の妖怪の被害にも目を留めないが――
(ここで少しでも削っておければ……)
思いと共にトゥーリは魔力を明滅させ、幾つもの光の球を顕現。近場に残る小鬼も数体巻き込みながら、悪鬼の膚を灼いてみせた。
悪鬼は僅かに上方へ目を向ける。が、トゥーリは深追いはせず、船と共にしかと距離を取っていた。
皆も悪鬼への攻撃を焦らない。
ハヤトは水面に出ていた小鬼を踏みつけて倒すと――再び跳んで上方へ。牛鬼へ拳の一打と刃の刺突を加え、その命を奪っていた。
それから船へと戻り皆へ声を向ける。
「もう一体も来るぜ」
視線の先は残存する牛鬼。
言葉通り、こちらに飛来してくるが……頷くエルナが弓を引いて。
「行きますよ!」
正面から射撃。一直線の軌道を描いた矢で、牛鬼の顔を深々と穿ってみせた。
牛鬼は速度を落としながらも毒霧を撒くが――イヴェールはその中でも揺らがず、真っ直ぐに弓を構えている。
「どちらにしろこれで終わりです」
放たれた射撃は、凄絶な威力。剛速で飛翔しながら牛鬼の口から胴体、尾までもを貫いて――空中に霧散させた。
多少の負傷は残ったものの、それはトゥーリが治癒の光を与えて回復する。
「あとは向こうだね」
と、ヴィナスが目を向けるのは悪鬼の周囲。
そこでは水中のロゼットに優位を取ろうとしてか、小鬼達が水面付近に姿を現していた。
が、それは船上からは格好の的。
ヴィナスは灯した光を矢にして弓に番えると――発射。宙で爆裂させて小鬼達を藻屑へ変えてゆく。
「このまま一掃していこう」
「ああ」
応えるシャドウも船縁を蹴って水上へ。
一体の小鬼へ、振り上げたダガーを突き立てて倒すと……そのまま傍の一体へ斬撃。首元を斬り裂いて体力を奪ってゆく。
「まだ、終わらないさ」
逆側の小鬼が襲ってこようとすれば、更にそちらへナイフで一閃。鋭い斬閃で返り討ちにした。
残る小鬼は水中へ距離を取ろうとする、が。
(逃げ場は、ないわよ)
そこには上を仰ぎ見るロゼット。
海底を蹴って勢いをつけると、水中を滑るように進んで小鬼の背へ。棍で突き上げるように背を穿って打倒する。
海底側にも小鬼は残っていたが、既に少数。
それに後れを取るロゼットではなく……一体を打ち倒すと、素早く残る敵にも対応を続けていった。
洞窟海域が近づいても、皆は焦燥しない。
トゥーリやネーヴェが悪鬼に魔法を打ち込んでゆくと、ヴィナスも矢を命中させて確実に動きを鈍らせてゆく。
それでいて深追いも避けて……新たな妖狐の討伐を優先していった。
遠方に陸地が見え始めると、悪鬼の歩む海底も浅くなってゆく。
上陸すれば、郷までは決して長くはない。だが、ここまで戦闘が続く事もまた冒険者達には想定の内だった。
水面が盛り上がり、赤肌が姿を現す。
海辺に辿り着いた悪鬼は、郷を目指すように大股に闊歩し始めていた。
が、その真正面。
幾つもの川が流れるその間で、悪鬼に立ちはだかる姿がある。
それは仰ぎ見るように弓を構えるエルナ。
「行かせませんよ!」
言葉と共に引き絞る矢には、焔のようにゆらゆらと揺らめく陽炎。
悪鬼に先んじて上陸していたエルナは……エーテルを練り上げ、自身の攻撃力を最大限にまで引き出す準備をしておいたのだ。
悪鬼も異変は感じ取ったろう。
だがそれに対処するだけの時間を、エルナは与えない。
刹那、込めたエーテルの全てを解放しながら――極大の光を纏った矢を発射。閃光と共に突き抜ける衝撃で、悪鬼の腹部へ風穴を開けていた。
悪鬼は唸りを轟かせてよろめく。
それでも倒れず敵意を向けてくる、が。
「こちらですよ」
そこへ走るのが、エルナに続いて上陸していたイヴェール。相手の視線ごと惹きつけるよう、エーテルの塊を顔へと叩きつけてみせた。
そのまま接近して足元へ斬撃を刻むと……悪鬼は怒号を上げるよう、イヴェールへ金棒の一撃を返してくる。
その威力こそ強力、だがイヴェールが耐え抜くと――
「すぐに癒やすよ!」
直後にはトゥーリが魔力を煌めかせ、爽風を吹かすように癒やしの光を注がせる。
その清涼な感覚が傷を薄らがせると……ネーヴェもまた杖を軽やかに振るって、夜空の月の如き冴え冴えとした輝きで痛みを拭い去った。
「これで問題はありませんわ」
「では攻めるだけだな」
言ったシャドウは既に悪鬼の足元。
影が這うように、疾風の如く背後へ回ると跳躍し――高く舞い上がりながら膚を縦横に抉り裂いてゆく。
悪鬼は再度棍棒を振り上げようとする、が。その先端を走るのがハヤト。
「使わせてもらうぜ」
相手の懐へ繋がる梯子。それを登るように駆け、跳んだハヤトは……悪鬼の頭上。まずは脳天へと強烈な打撃を加える。
よろけた巨体へ、更に踵落としを撃つと――
「こいつも貰っておけ」
降下しながら斬撃。上体を広く斬り裂いた。
悪鬼は堪らず下がろうとする、が、そこを狙うのがヴィナス。
「悪いけど、させないよ」
瞬間、放たれた矢の空をも裂くような、重いエーテルの込められた一矢。突き刺さって膚を穿ち、臓物をも蝕んで巨躯を揺らがせる。
悪鬼は倒れながらも、呪力でヴィナスを蝕み返すが……直後にはロゼットが祈りを汚れなき光へ昇華させていた。
「邪な力は、すぐに消し去ってみせるわ」
言葉の通り、光は清廉な祝福となって呪いを浄化する。
同時、ネーヴェが癒やしの輝きを与えれば傷も残らなかった。
悪鬼は体勢を直そうとするも――
「ここまでです」
イヴェールが裂帛の斬撃。脚を断って巨体をひれ伏させる。
悪鬼は這いながら抵抗するが、冒険者側も治癒役の働きで負傷を残さない。エルナが更に射撃を重ねて首元を穿つと――
「お願いします!」
「ああ、これで最後にしよう」
応えるヴィナスが頭部へ矢を放ち――悪鬼の命を貫いた。
悪鬼は慟哭と共に、霞となって消滅する。
後に残ったのは、快い海風と静寂。
残党が現れない事も確認すると……皆は勝利の実感に頷き合っていた。
●標
「郷の未来を、守って頂けたのですね」
臥魅郷。
皆を迎えた静霞は、戦いを労い、勝利の喜びを見せて――「ありがとうございました」と礼を述べていた。
抱く思いはあるだろう。
けれどまずは皆へ休息を勧めつつ……「その後は」と声を明るくして。
「祭りがもうすぐ始まりますから。ぜひ、参加していって下さい!」
郷が賑わいに包まれる。
道々は提灯で明るく照らされ、住民も皆表へ出てきている。
そこへ多くの観光客が訪れ、盛り上がりはこれまでにないほどだった。
そんな人々を、エルナは櫓の傍へ導いてゆく。
これから踊りが始まるのだ。
「どなたもみなさん、どうぞどうぞ! 見様見真似で大丈夫! 前の方に倣っていれば覚えられますよ!」
そして小気味好い太鼓が鳴り始めると、エルナは率先して踊って見せた。
「盛り上がってきましたね!」
「ええ、楽しいものですね」
頷くのはネーヴェ。こちらも輪に入って踊り始めている。
櫓を巡るようなステップに、腕を使った独特な身振り。その趣と、何より皆で共に踊るその時間が、笑顔を溢れさせた。
エルナも同じ気持ちで踊ると、次は櫓へ上がって。
「もっと元気に行きますよ!」
太鼓に加わり、ドンドンドンとリズムよく演奏。
更に明るさを得た音色に、人々は一層の笑顔で踊りを楽しんでいた。
そんな踊りと音を楽しみながら、ハヤトは屋台に寄っている。
酒坏も傍らにおいて、天ぷら蕎麦で勝利の食事だ。
「勝った後の味は最高だな」
さくっとした衣に、海老の旨味が滲み出る。つゆがその味に相性抜群で……蕎麦を啜れば得も言われぬ美味だ。
太鼓は快く、人々が愉快に踊る様もまた見ていて飽かず。この景色を守る事が出来た実感を、改めて得るようだった。
酒坏を呷ると気分も良くなって。
(こんな夜には――)
綺麗所を見つけて声をかけでもしたい、けれど。
「――ま、今日はこれだけでも悪くねえ」
酒をまた注いでもらって味わうと、それだけでも心地よい。
だからハヤトは暫し、リズムと提灯の灯り、皆の踊りに心を委ねて――
「さて、次は何食うかな」
言うとまた歩みだす。
祭りは長い。その楽しみを、存分に味わってゆくように。
祭囃子が響く中、シャドウも屋台巡り中。
中でも特に興味を引いたのが――
「へえ……スシ?」
その見た目にも惹かれ、食べて行くことにした。
注文したのは売れ筋という鮪。
「どれどれ」
早速出てきたそれを、口に運んでみると――
「こ、これは……!」
カッと目を見開く。
鮪のなめらかな舌触り。香り高い醤油。そこに程よいわさびの味が加われば、未体験の風味が広がって。
「うっ美味いぞーーー!!」
まるで目から光線が出るほどの衝撃を受ける。
それからイカやタコ、穴子にハマチ……人気だというものを食べては目を輝かせ、新たな文化に感動を得てゆくのだった。
「あっ、お寿司、美味しそうですね!」
と、そこに行き合うのがエルナ。運動した後の食事にと……海の幸を活かした郷の美味が気になって来ていたのだ。
ネーヴェも一緒なので、折角ならばと同席。自分達もお寿司をいただく事にした。
おまかせで握ってもらうと、鮭に鮪にエンガワにと彩り豊かで。あむりと食べたエルナは、魚の味の粋に、顔を華やがせる。
「美味しいです!」
「ええ」
ネーヴェも貝や鮪を味わって、嫋やかな笑み。
「食事が進んでしまいますわね」
皆の美味しそうな表情を見ると、その楽しさにこちらの美味も倍増するから。皆はそのまま暫し、屋台巡りを楽しんでいった。
イヴェールも食べ歩きをしている所。
蕎麦に寿司にと、初めての食べ物も多く……屋台に立ち寄ってはそれらを味わっていく。
「シャルガネの味、といっても多様ですね」
蕎麦一つとっても出汁は色々、寿司もネタが多彩で。それらの違いを楽しみつつ……お土産に出来るものを見つければ足を止めて。
「この辺りにあるものは良いですね」
色彩豊かな落雁や果物飴、鯛焼きなども、持ち帰れそうだと見れば買っていった。
と、そこでネーヴェ達とも合流。
「お買い物ですか?」
「ええ」
ネーヴェに答えたイヴェールが買ったものを見せると、エルナやシャドウも興味を持って……暫し皆で買い物。
「こちらも良さそうですね」
と、イヴェールが干物を始め、乾物などの珍しいものも見つけると……早速皆でお土産にと、仕入れていくのだった。
それが終わると――
「神社に行こうと思いますが」
イヴェールのその言葉に皆も頷き、同道する。
同じ頃、トゥーリも神社へ向かっていた。
道中、悟とも行き会って……二人で参道の階段を上る。
「あれからどう?」
「皆、前向きになってるよ」
応える悟の声は明るい。
郷の特色を活かした商業は、少しずつ形を取っている。すぐに成功はしないだろうが、若者達はやる気に満ちているのだと言った。
「皆さんのおかげだ。ありがとう」
「また困りごとがあったら言ってね」
力になるから、と。
トゥーリの言葉にも悟は礼を述べ……共に境内に着く。
そこには魔術師、篤杜の姿もあった。
「今日はここで?」
「ああ」
トゥーリに篤杜は頷く。祭りを手伝いつつ、神社にも行き来し……今はお守りを売っているのだといった。
と、そこでエルナ達もやってくる。
「お守りを買いに来ました!」
「選んでくれ」
篤杜が示したのは厄除けのお守りだ。
冒険者の力によって、郷は現実に災厄を避ける事が出来た。それもあって、観光客にも人気なのだという。
「郷を見限るような真似をしていた事を、反省している。貴殿らのおかげで、やるべき事を見つけられた」
礼を言わせてほしい、と。
篤杜が述べると、トゥーリもお守りを手に取りつつ頷いた。
「神社を守るのも大変だと思うけど、頑張ってね」
それにも篤杜は「ああ」と応えていた。
イヴェールは郷へ視線を巡らす。
自分達が守る事が出来た場所を、改めて見ておきたかったのだ。
「良い眺めですね」
「ええ」
と、声を返すのが――高台で祭りを見ていたロゼットだ。
そこへ、静霞が社殿から出てくると……ヴィナスも丁度合流。皆で郷を眺めた。
祭りは未だ盛り上がり、人々の楽しげな声が響いてくる。
静霞はそれを穏やかな顔で見ていた。
「この景色は皆様のお力で出来たものですね」
「それだけでもないよ」
ヴィナスは声を返す。
静霞の判断や働きもあったからだろう、と。
「商人との付き合いの件も、考えて下さって良かった」
その事が郷自身で道筋を作る助けになると、ヴィナスには判っていた。
それに、ヴィナスもあくまで……ここには“冒険者”として居たかったから。
今、仕事を完遂出来た事に思いも巡らせながら――
「これを」
と、ヴィナスは認めておいた書を渡す。
他の依頼で改めて考えていた、“商人としての自分”。
今回の事で、その背が押された――そんな感情もあって筆を走らせたものだ。
「同盟の商人で困ったことがあったら開封してください」
それはヴィナスにとって……『俺』ではなく『僕』からの感謝の形。
言葉に静霞は、深く礼を述べて、大事に受け取っていた。
「平和を手に入れられたのは、予言があったからよね」
静霞と並んで郷を見るロゼットも、そう口を開いた。
自分達の力はあれど……それが郷を守るきっかけになったのだと。
だから、と。
ロゼットは静霞の顔を見やる。
「絢酉桜寿――その予言が真実であったこと。それから今までの顛末。それを巻物にしてはどうかしら」
「巻物、ですか?」
「ええ。それを神社に残すの」
目を向けた静霞に、ロゼットはそう応える。
「桜寿の残した書によって、未来の私達が、それを偉大な働きだと知る事が出来たわ。そして、平和を守り、その大切さを実感出来た」
それと同じように、と。
「いつか未来の巫女が、郷を守るために行動した人々を思い出せるように」
「素敵ですね」
静霞は頷いて、ぜひ取り掛かりたいと言った。
自分がやった事は多くないけれど、と。
「皆様という方々がいた事を、伝えて残したいです」
その役目なら出来る気がするからと、そう言った。
郷からは今も明るい賑わいが聞こえてくる。
人々が前向きな心で、歩む先。それこそがきっと、未来への道筋に違いなかった。
マスターコメント
ミドルシナリオ難しい 報酬:標準8 / 6〜8人
2023年02月06日 13時05分15秒 公開
相談掲示板
ヒーラーの神官戦士ロゼット、よろしくね。 【妖薙】の最終回、なんとか成功で完結させたいわ。 敵は西に、人里の臥魅郷へ移動していくようだから、 こちらも戦場を移しながらの段階的な戦闘になりそう。 増える妖狐は倒し続けるしかないとして…。 1の島で牛鬼を削って、増援が出たら移動して。 2と3の海で小鬼と牛鬼を削って。 4の陸地から悪鬼の討伐、という感じかしら…。 ちなみに海の深度1は海面から海底まで最大20m、 深度2は最大40mと。飛び道具を使う場合の目安に。 5の臥魅郷でも妖狐は出現するから、戦闘は続くけど。 5は倒しきれなかった残り敵と、総力戦になりそうな。 とりあえず思ったままに。まずは成立を願ってるわ。
エルヴンシューターのエルナです! みなさまよろしくお願いいたしますね! 先ずは成立を願いつつ! 最後の予言の悪鬼!鬼退治といった所でしょうか! 里への被害が出ないよう、食い止めて行きたいですね! 4段階に移動する戦場! 流れはロゼットさんの挙げられている感じでよいと思います! 悪鬼さんは海底を移動するので、2、3の戦場では攻撃するのは難しそうですね……! 最後の陸地までに悪鬼さん以外の敵さんを全滅させられるくらいが目標になるでしょうか! 悪鬼さん以外を早めに撃破できたら、先回りして陸地で待ち伏せロングアクション大火力とか準備してみたいです!
これで成立かな。 今ひとつ実力不足の感は否めないが 一生懸命がんばるので、よろしくお願いします。
無事成立致しまして何よりですわ。 ヒーラーのネーヴェ・グラヌローザと申します。どうぞ宜しくお願い致します。 郷を救う為に、私も精一杯尽力致しますわ。 基本の流れは私もロゼット様の仰る流れで宜しいかと存じます。 もしも海に入る方がいらっしゃれば、2と3の戦場でも攻撃は出来そうですが……海中装備は正直あまり強くは御座いませんから悩ましいところですわね……。 あとは敵の動きを段階的にでも遅らせることが出来れば、私達もより戦い易いでしょうかね。例えば、母蜘蛛糸のロープを繋げたものを投擲して海上に引っ張り出すか、或いはその場に留め置いたりでしょうか。 閃光塗弾の目眩しも考えたのですけれど、光は深度が深くなると届かなくなりますわよね……。 個人の動きとしては今のところ、魔法攻撃を主体にしたいと考えております。
成立して良かったわ。 ウォーリア1、シーフ3、シューター1、ヒーラー3、と。 装備やスキル次第だけど、対空になる妖狐戦が厳しい、かな? 私は耐久重視の近接型だから、2と3の海では「水泳」を入れて 海中の小鬼や牛鬼を減らしても良いし、対空戦が手薄になるなら 「魔矢」を多めに入れて、妖狐戦の加勢をしても良いかなって。 >エルナ 大火力、良いんじゃないかしら。唯一のシューターだから、 それまでは妖狐戦も考えてくれると、ありがたいのだけど。 >シャドウ こちらこそ、よろしくね。敵数は多いし、頑張りましょう。 >ネーヴェ 海底を行く鬼の頭上に、船から重石を付けた漁網でも投下するとか…? 小鬼くらいなら絡まって、足が鈍ってくれないかしら…。
シーフのヴィナス。 よろしくね。 基本の流れは同意するよ。 5は確実に被害が出るし、4の戦場で止めたいね。 まずは挨拶まで。
ウォーリアのイヴェール・イリュジオンです。 どうぞよろしくお願い致します(ぺこり) 基本的な流れはロゼットさんの挙げられてる通りで良いと思います。 剣か盾か外して弓を持つことも出来ますが…剣の場合、シーザーロアなど悪鬼への足止めに仕えそうなのが使えなくなります。 盾の場合は守りを捨てます。 現状では妖弧が厄介そうなので盾を外して弓にして良い気がしてますが… 2、3で悪鬼へ攻撃する場合は船から離れて仕掛けた方が良さそうでしょうか? 船上の方が安定はしてますが、悪鬼の攻撃に巻き込まれて破損するのは避けたいですし。
無事成立!満員御礼ですね! 改めてみなさまよろしくお願いしますね! >対妖狐 もちろんです!炸光矢の範囲攻撃で削っていこうと思います! 妖狐さんは近接攻撃もあるみたいですから、近接武器でもそのタイミングを狙えば攻撃は可能な気がします! 子鬼さんも数が多いですから、巻き込みに注意しつつそちらにも炸光矢を撃ち込んでいきたいですね!
>イヴェール >剣・弓・盾 守りを捨てる分はヒーラー3人の回復数でも 補えそうだから、剣と弓が良いかもしれないわね。 妖狐は射程20の魔法を空から放たれると厳しそうで。 帆船はそれなりに頑丈そうではあるけど、ボスの悪鬼の 攻撃には巻き込まれないように、離した方が良いかも。
それでは今回は回復はお任せするとして、剣と弓でいきましょうか。 一方的に撃ち下ろされるような状況は避けたいですしね。 こちらを無視して悪鬼が臥魅郷へ真っ直ぐ向かう可能性もありますので、効果があるか分かりませんが4で悪鬼の足止めにシーザーロアでの惹き付けをやってみるつもりです。 それで止まらないようなら取り敢えず足を一本切り落としますか。
> 漁網 良さそうですわね、準備出来ないかやってみます。投擲も漁スキルで補そうな気が致しますし。 杖を持つ分だけ、強い回復魔法は持っていけないと思いますが、サイドヒールの手数の多さで補えたらと思っておりますわ。 いよいよ明日出発ですわね。どうぞ宜しくお願い致します。
明日が出発ね。 島で牛鬼、近海で小鬼、洞窟海域は妖狐か小鬼を削っているわ。 陸地までに、数的な不利を消すことができていれば良いのだけど。 回復はヒール4で、ネーヴェと逆で回数より回復量を選んでおくわ。 あと悪鬼の【束縛】が、強度次第で厄介だから真サルベーションの 解呪を用意してるわ。シーフが回避を下げられたり、移動や命中に マイナスされると戦闘が長引いて、郷の被害も増えそうだから。 郷でのお祭りは、高台の神社から全体を見物させてもらうわね。 最後のお祭り、良い気分で楽しめるように成功させましょう。
トゥーリだよ! 顔出しできてなくってゴメン! 相談の流れとみんなの宣言を確認して、範囲回復と遠距離攻撃重視にしておいたよ。 場合によっては船から降りて、近接役の人とかを回復射程に入れ込むイメージだね。 みんな、がんばろうね!
おーっす! ギリギリになっちまってすまねぇな! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 方針は了解したぜ! 俺は近接しか出来ねぇから空中にいやがる敵はホライゾナルジャンプで跳び乗って堕とすか他の皆に任せる感じになるな。