【若木】失恋太守のお忍び旅行

広大野人

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シナリオID:2411

オープニング

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 コンラート・マフダルは若くして一族の長に就いた強者であり、天霧りに消ゆる幽界樹(ミスティアニ・アストラキル)の出現によって多くの都市が滅んだ中、偶然と地力によって現存する鎮守都市オルセンの太守でもある。
 その執務は多忙を極めていた。
 一般的に考えれば、4つの鎮守都市の中で無事だったは、オルセンのみだ。
 親族や知り合いを頼って、多くの避難民が集まるのは……自然な事だろう。
 かくして、オルセンは人口増加とそれに伴う様々な問題を抱えようとしていた。とりあえず、最大の問題は衣食住の確保と、今後の見通しそのもの。
 冬になる前に一定の目途は立たせたい……というのが、オルセン上層部の考えである。
「……私がシャルガネ居住区に出向く理由があるのか?」
 納得できないという表情を隠す事なく言ったコンラートの台詞に、若そうな女性の部下が仰々しく応える。
「オルセンでの過度な外部との接触は、レイウェスト様にいらぬ疑念を抱かせてしまう可能性があります。その為、オルセンではなく外地を選択しました」
「その理由は分かる。では、なぜ、温泉地なのだ?」
 わざわざシャルガネ居住区の隅、露天風呂付き離れのある旅館に泊まる事はない……という訳だ。
「……その旅館、使わなくなった家屋をリフォームしたという事です。新たな物を一から作るより、既存の物を利用した方が何かと都合が良いかと。その為、視察するには最適と判断しました」
 もっともらしい台詞をツラツラと述べる部下。
 最初から用意していた言葉ではない。なんとかして、激務の中で休んでいただこうという気遣いから企画した事であるからだ。我ながら見事な言い訳と思う。
 正面から「休んでください」と言っても、話すら聞かないコンラートではあるが、太守としての目的があれば別だ。
 資源を再利用するという話は、現状のオルセンにとっても悪い話ではない。
「確かに、一理あるな……それだけではないのだろう?」
「勿論です。都市作りに役立てられそうな技術……『絡繰り』の技術者との面談も予定に組み込んでいます。また、例の植物研究者も、都合が良ければお会いする事も可能かと」
 部下の説明にコンラートは唸りながら思案する。
 太守としての業務も多い。一泊した事でスケジュールがズレ込んで支障が出るような事はないだろうが……と迷っているのだろうと部下は脳内で勝手に思い浮かべていた。
(これを機に『コンラート様を微笑ましく見守る会』を大きく発展させたいですわ)
 部下は内心、とんでもない事を考えていた。
 身長が小さい事を気にしている、ちったいコンラート様。少しでも威厳ある態度を見せようと、あれやこれや気を遣っている気配りコンラート様。偉そうな態度しながら優しい指示を出してくるツンデレコンラート様。
 そのいずれも愛おしい(注:当部下視点)。
(冒険者の方の中にもきっと『同志』がいるに違いありません!)
 ちいたい男の子とお姉さんのカップリングのドウジンなる存在を部下は知っていた。
(それに……コンラート様もそろそろ良いお年。叶わぬ恋から醒めて貰いたいもの……失恋太守とは呼ばせませんわ!)
 部下の目から見ても分かっている。
 クーネという女性を、コンラートが敬愛しており、一途に思い続けている事を……しかし、それは絶対に叶う事がない恋なのだ。
(想いすらも承知の上だったとしたら……クーネ様も罪深い人です……)
 だからこそ、コンラート様には新たな恋を歩んでもらいたいと部下は思っていた。
 クーネ様を敬愛する事、それ自体は構わない。あの御方はそれに見合う以上の存在なのだから……けれど、敬愛する事と恋愛は違うものだ。
 などと色々と考えていた所で、コンラートから声が掛けられる。
「分かった。そこまで手配しているのであれば、行かねば相手に失礼というものだろう」
「ありがとうございます。それでは詰めの調整を行って参ります」
 深々と頭を下げて部下は退室した。
 コンラート(推し)がどんな出会いを得るのか、それが楽しくて思わずステップを踏みそうな足取りを必死に堪えながら。

●
 『円種』や『分身樹』に対する情報の整理や研究が一段落して、トレイシーは帝国の商人シュナン・ボートンの勧めもあって、シャルガネ居住区に訪れていた。
「見れば見るほど興味深い所だね……というか、シュナンさんは兎も角、エクエスさんもここに来た事はあるんだね」
「一応、冒険者ですから」
 微笑を浮かべて応えるエクエス。
 3人が目指す場所は、シャルガネ居住区の隅にある、とある旅館だった。
 なんでも、シュナンが是非とも会わせたいお方がいるという話だ。
「俺が言うのもなんだが……まぁ、失礼ないように……気にはしないだろうけど……」
「ふむ……帝国商人の君が言うのだから……まぁ、そこそこ偉い人なのかな? エクエスさんはどう見る?」
「想像もできません」
 植物型クリーパーへの研究が終わったら次の就職先を探す必要がある訳だが、シュナンが先手を打った形かなとトレイシーは内心、考えていた。
 王国には暫く帰れないので帝国で研究をするのも悪くはない。
 意気揚々と進むシュナンが思い出した様に手を叩いた。
「お、そうそう。部屋は別々に取ってあるからよ。必要があったら呼ぶ感じで」
「シュナンさん、質問良いですか?」
 エクエスが手を挙げて尋ねた。
「私(ボク)は一応、護衛という立場ですが……宿ではどうすれば?」
「あー。その事か。ずっと護衛していて貰ったから、宿では休みで良いよ。滞在中での警備は宿に任せてあるから」
 そう答えて、シュナンは旅館の入口に視線を向けるのであった。

●
 旅館そのものを貸し切りという形になった大口の客に、旅館は大忙しだった。
 いつも念入りに行われている掃除も、更に徹底して行われ、庭の手入れも総出だ。その為、リィミア・コゴウジも絡繰り師ゲンナイも、寛いでいる暇は無かった。
「すげぇZE……オルセン太守が泊まりに来るなんて……」
 大きいスケールの出来事にゲンナイは夢でも見ているのかといった表情を浮かべていた。
「それも、ゲンナイをご指名とはな……まぁ、どこかでお前の絡繰りが目に入ったのでござろう。ドワーフ王国で造った投石器、良い評判だったらしいじゃないか」
 絡繰り師としての腕前に関して、リィミアもそこは認めている。
 集落を飛び出していって戻って来た経緯があるが、ゲンナイは一族の誇りとも言えよう……オルセン太守に粗相がなければ、だが。
「くれぐれも失礼がないようにな。披露する絡繰りは大丈夫でござるか?」
「何度も何度も確認してるZE!」
 グッと親指を立てるゲンナイ。
 帝国の大都市オルセンだけではないが、帝国領内は不作が続いている。
 色々な方策で解決に向けて誰もが試行錯誤や研究を繰り返している訳だが、そこにゲンナイが持つ絡繰りを役立てられないか……直接、見に来るのだ。
「そういや、警備ってどうなっているので?」
「その心配はない。冒険者に依頼を出している。交代制で警備してもらいつつ、暇な時は宿で過ごしてもらえばいいでござるからな」
 集落の周囲は基本的に余所者が入り込む余地がないので、警備は万全だ。冒険者に依頼したのは体裁的な側面もある。
 もっとも、オルセン太守自身、警備がいらないと言われる程の強者らしいが……。
 冒険者にも会える機会を作って貰おう……リィミアはそんな事を考えるのであった。

解説

●目的 オルセン太守が泊まる旅館の警備 ●状況 冒険者達はギルドを通じて旅館の警備依頼を受けた形となります……が、警備上の問題は起こりません。その為、受け持ち以外の時間は自由に過ごして貰って大丈夫です。 希望すればオルセン太守コンラートとの面談も可能です。 その際、トレイシーやゲンナイなどのNPCの同席も必要であれば可能です。 宿は、民家を改装した母屋と離れで構成されている旅館です。詳しい情報が必要な場合は、『露天風呂付きの離れで何も起こらないはずがない!』(シナリオID:2222)をご参照下さい。 ●鎮守都市オルセン  今回のシナリオの舞台ではありませんが、コンラートへ献策を考えている方はワールドガイドを確認いただければと思います。  現時点において、オルセンでは冬に向けての食糧備蓄と不作への対策、北から南下してくるクリーパーへの対処が直近の課題となっております。オルセン兵を帝国領内の他諸都市に派遣できる程の余力はありません。  また、ある事情によって『エーテル石』も保管してありますが、こちらに関して、コンラートは触れるつもりはありませんので話はしても流される事になると明言しておきます。 ●過ごし方の例  一般的な旅館と同等の設備は備わっていると思って下さい。風呂に入っても食事を堪能しても良いですし、真剣に警備していても大丈夫です。また、それ以外にも…… ・コンラートと面談する ・同行者やNPCと一緒に過ごす ……等も可能です。ただし、行動が可能かどうかは、判定を行った上で描写します。 戦闘行為は華麗にスルーされます(筋トレや訓練、演習を否定しているものではありません)。 ●同行者がいる場合  プレイングで『互いに相手を明記』するか『【タグ】で統一』するようにお願い致します。 ●NPCとの交流について  ジードなどの一部のNPCを除き、当MSが管理する登録・非登録問わずNPCを呼ぶ事ができます。時系列的に……という所は冒険者の皆様がシナリオに参加する形と同様に対処させていただきます。  なお、友好度に応じて、各キャラクターへの対応に差異が生じるのはご了承下さい。 ●質問  過ごしたいNPCと関われる行動が、可能かどうかで悩まれる際等、質問を可とします。  エクエスが頑張って回答しますが、回答は描写を保証できるものではありませんので、参考程度にして下さい。

マスターより

 おはようございます。当依頼にて51作目となった広大野人です。  都市ガークハーグの奪還は、黒い霧が邪魔しているので、ここで一端、休憩を兼ねた日常シナリオとなります。  そして、これまでオープニングで顔を見せていただけだったオルセン太守コンラートの登場です。失恋太守とか酷い事言ってすまん、コンラート君……まぁ、仕方ないよね! そんな訳で、彼が元気になれるような方策だったり、情報だったり、冒険者からの見立てだったり、絡みをお待ちしております!  もちろん、特に絡まないで温泉宿でふつーに過ごして貰っても大丈夫です!

リプレイ

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 友人からの話を聞き、彼氏とのデートスポット候補に旅館内をリサーチしていたアルマ・ヴァレンタインは急遽、呼び出しを受けて、応接室へと足を運んでいた。
(異常があった訳じゃなさそうだけど……)
 この時間の警備担当はアラン・スミシーだが、特に問題が発生している様子ではない。
 ふらふらと中庭を巡回するアランの姿が見えている訳だし……。
「失礼するんだよ」
 応接室の扉を開くとそこには、警備対象であるコンラート・マフダルの姿。
 その斜め横に座っているのはアルマと同じように警備依頼を受けたユズだった。
 ユズはアルマの姿を見てポソっと説明する。
「コンラート様、偉い人。お忍び、だけど、二人っきりは、『大人の事情』で、ダメって」
「あ……そういう事」
 警備上の都合というか体面的な事もあるようだった。状況にもよるだろうが……。
 アルマはチラリと視線をコンラートに向けた。
(あの人がクーネさん好き好き太守サマなんだ……別に小さくない気もするんだけど)
 独自の意訳と当社比を浮かべる。
 そりゃ、ヒューマンと比べたら背は小さいかもしれないが、ハーフリング同士で見れば気にもならない事である。
 そのコンラートは背筋を伸ばす必要性がなくなったので、くつろぐように足を崩した。
「それで、今から何か余興が始まるのですか?」
 どうも彼の頭の中では冒険者が余興する事になっているようだ。
 ユズは頷くと水晶球(くりすたるぼーる)を取り出す。そして、真剣な眼差しで座卓の上に置いた。
「……ボク、本職、占い師。コンラート様、占わせて、欲しい。その、もし、良かったら。気分転換、なるかもしれない、し……」
「占いですか、是非とも。それで、何を占うので?」
「……えと、恋占い、得意。誰か、意中の人や恋人、居れば……上手くいくか、見られるけど……別の事でも……見ること、出来る」
 その言葉にコンラートが肘をついた手で頭を支える。
 占いとはいえ、結果を聞くというのは悩ましいものだ。暫し、間が流れてからコンラートの視線がアルマへと向いた。
「ヴァレンタイン卿からお願いしよう」
「え? ボクから? じゃ、じゃ……お願いします!」
 少し照れながらアルマは正座待機して応えた。
 ユズはコクンと頷くと、ジッと水晶球を見つめる。球の中に広がる陰影や視覚的なイメージから、占い結果を読み取るのだ。
「……願い、続ければ、在りたいと、思うが、ままに――在り、続ける……」
「つまり、ボクが彼氏と一緒に居たいと願い続ける限り、それは叶い続けるって事だね!」
 嬉しそうにアルマが拳を握った。
 その様子を見てコンラートが興味深そうに水晶球を覗き込むが、当然、紡いだ言葉が文字となっている訳では無い。
「どうやら、それなりに信頼はおけるようですか……」
「あー。ボクを実験台にしたのー!?」
「警備では無かったのか?」
 その返しにアルマは渋々、頷いた。見た目以上に狡猾かもしれない。この男。
「内容は同じで良い。ただ、私の意中の人は誰だとは言わないけれど」
「大丈夫……」
 知っているからとは言葉にはしないけれど。
 再び、ユズは水晶球にのめり込むように見つめる。
「……高く、高く、そびえ立つ、クーネ(女性)。手を伸ばし、見上げ、声は届かず……」
「……やはり身長か……」
 ボソっと呟いたコンラートの感想。
 だが、占いとは揶揄的な側面もある。そびえ立つ女性が何を意味するのかまで、ユズも分からなかった。
「男の人、好きな女の人より背、高く在りたがる。どうして、だろう」
「……そうしたいだけだ」
 コンラートは無意識に横を向いていた。
 心の中まで水晶球に見られたくない……そんな思いかもしれない。けれど、ユズは首を横に振る。
「変えられない部分、なんだから、寧ろそこはありのままで、他の部分で魅力、アピールした方が、いい」
「他の部分、ですか……」
「うん。それに、そのままの、コンラート様、とても魅力的……と、思います」
 その言葉にコンラートは息を漏らすと頷いた。
 変えられないのは事実。出来る所で何とかしていくしかない。少なくとも、お世辞でもそう言ってくれる人が居るのは、ありがたい話なのだから。
「ありがとう、ユズさん。そして、ヴァレンタイン卿。この先どうなるか分からないけれど、気持ちに区切りがつきそうだ」
「なら、占いして、良かった」
 失恋太守の言葉と態度に、ユズは占い冥利があったと実感できて、そう答えるのであった。

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 離れでの夕食。ただの警備にしては豪勢な内容を楽しんでいたミア=リゼルとエナハルト・ティルムだったが、ふと思う事があってミアが手を止めた。
「あの……エナ」
「どうしたんだい、畏まって?」
 微笑を浮かべて同じように手を止めるエナハルト。
 優し気な視線がミアをみつめる。
「その、エナ……私、あなたのご家族にご挨拶するべきでは……と思うんです」
 彼の動きが止まったが、それは一瞬の事。少し身を乗り出し、手を伸ばして、ミアの顔に掛かっている髪を除けながら答えた。
「ミアが大丈夫なら、僕は問題ないよ」
 その言葉の意味をミア自身、よく分かっていた。
 親への挨拶となると、流れ的に家柄の話にはなるだろう。ティルム家は領地を持つ貴族でもあるので、避けては通れない事なのだ。問題は……ミアに血の繋がりと呼べるものが無いという事実だった。
「……今、生きているのかもわからないし……できれば会わせたく、なくて……本当の父親も、誰だか……せんせい……彼ら(ソーン・クリエ)との一件が落ち着いたらで、いいので……」
「それで良いと思う。ただ、ミアが気になるという事であれば……」
 そこまで告げて、エナハルトは首を横に振った。
 ミアはきっと知らないのだ。ティルム家から歓迎される事を……縁談をいつも持ちかけて来る父親がこの所静かな理由をエナハルトは察していた――つまり、ミアの身辺を探って問題ないと判断したのだろう。
 あの父親の事だ。ミアも知らない事を何か知っている可能性もある。
「……不安かい?」
 だから、今は大切な人の気持ちを大事にしようとエナハルトは思い、そう訊ねる。
「不安ですけど……エナがいるから、平気です」
 そう答えると胸に手を当てて、一呼吸置いてから想いを伝える。
「好きな人と一緒なら、なんでも大丈夫なのです」
「それは、僕もだよ。けれど、無理はしないで欲しい。ミアの笑顔が見られなくなったら、きっと僕は辛くなるから」
 いつものよく見る微笑みを魅せてエナハルトはグラスをミアに渡すのであった。

●
 割り当てられた警備の時間を終えた所でルベア・ベルニは突如、応接室へと案内された。
「絶対なにかあるやつと思ったら……えと……」
 出迎えたトレイシーの奥に座る眼光鋭いハーフリングの姿が見えて、ルベアは驚いた。
 偉そうに座る人物が警護対象のオルセン太守コンラートだという事は知っているが、トレイシーの面談の相手がその人物だとは思わなかったからだ。
(こないだ予想した通りの感じになってきたわけ?)
 研究者であるトレイシーは人材不足の所において優秀な人材に成り得る。ガークハーグの件が解決すれば、トレイシーは次の就職先を探すようだったが……。
「何だか遠い存在になる気がして微妙に複雑な気分よ」
 小さな声で彼女に告げると微笑を浮かべて囁くように返事をした。
「私が偉くなったら専属の護衛で雇ってあげよう」
 冒険者を養えるほど偉くなるつもりかどうかは兎も角、どうやら、悪い話ではなかったようだ。
「実はこれまでの経緯を話していく中で、ルベアの話になってね。証人……という訳じゃないけれど、同席をお願いしたいのさ」
「それなら良いけど」
 気を取り直してルベアはコンラートへと視線を向けた。
 背の小さいハーフリングだが全身から発せられる強者感は感じる。弓の腕はかなりのものらしい。礼儀上、挨拶程度しなければと思い、静かに頭を下げた。
「冒険者のルベアです」
「オルセン太守コンラート・マフダルだ。くつろいでいた所、呼び出して申し訳ない」
「いえ。友人の事ですので」
 コンラートはルベアの返しに頷くと、トレイシーへと視線を向ける。
 ここからは『仕事と待遇』の話が主だった。オルセン周囲で獲れる作物の品種改良と各種研究。研究所となる場所や設備の状況、予算などだ。
 ルベアはオルセン太守と植物研究者の話を聞きながら、ふと思った。
(これ……人事とか事務、雑用も含めたら、他にも人が必要なんじゃ……)
 研究者ではなく事務方に強い人材。誰かアテがあったかな……と頭に浮かべるが、特にこれといった人は出てこなかった。
(まぁ、急ぐ話もでなさそうだし)
 まずはガークハーグの黒い霧をどうにかして晴らして、街を奪還しなければ先に進めないのだから。

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「この温泉に来るのも3回目ねぇ」
 浴衣姿のエミリア・シバは膝に乗せたエクエスの頭をゆっくりと撫でながら話す。
 月の光に照らされて反射する金髪は風呂上りという事もあって、いつも以上にしなやかだった。
「宿での過ごし方もだいぶと慣れてきました」
「それもそうね」
 部屋ごとに差異はあるものの、どこに何があるか、旅館全体の作りとか、馴染んだ気がする。仲居さんも全員ではないが知った顔だ……エミリアとエクエスの二人が恋人や夫婦であるように接してくる人と、仲の良い姉妹だと思って接してくる人と、仲居さんによって対応がマチマチだが……。
「最近、トレイシーちゃん達の護衛しているようだけど、どんな感じなの?」
「トレイシーさんは興味ある事を見つけると急にどこか行ってしまいますし、シュナンさんはその度に慌てますし、お二人とも面白い人達です」
 容易に想像がついてしまう状況だが、エクエスは冒険者としての仕事は出来ているようだ。
「賑やかそうね。仕事以外はどう? 好きなものとか、やりたい事とかできた?」
 クスっと笑いながらエミリアは訊ねる。
 記憶を失い、真っ新の状態で目を覚まして1年以上が経過しているのだ。その間、色々な事があった。今の世の中の良い所も悪い所も……。
「まだまだ分からない事だらけです。ただ……やっぱり、世界って広いんですね。知らない場所、知らない土地、いっぱいあって、人々が生活している。私(ボク)はもっと沢山、知りたいです」
「……そう」
 エクエスの頭をゆっくり撫でながらエミリアは応えた。
 剣士は上目遣いに視線を向けて来る。
「エミリアさんと色んな所に旅をしたいです」
「おねえさんもだけど、まずは抱えている案件を解決しないとね」
「はい!」
 即、返ってきた言葉に、エミリアはエクエスの手をギュっと握る。
 楽しい未来を願う事が出来る――そんな剣士を見られる事が、今の自身(おねえさん)……『私』には、とても幸せだと感じられるのだから。

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 案内された豪華な造りの応接室。
 その上座に、寡黙そうな部下を脇に控えさせた上で、何枚も重ねた座布団に座っているコンラートの姿を認め、レティシア・レインフィールは丁寧な物腰で挨拶をしていた。
「太守様にご無沙汰しております」
「レインフィール卿、久方ぶりです。確か……昨年の秋頃でしたか?」
 頷きながら肯定の言葉を返しつつ、レティシアは心の中で気を引き締める。
 というのも、以前、余計な事を言ってしまって困らせてしまった思いがあったからだ。
(……きっと今でも、クーネ様には信頼以上のものをお持ちになられているはず)
 しかし、考えてみると実に不思議なものだ。
 オルセンを救った救世主といえども、そう簡単に宝剣を預けるものだろうか。かと言って、個人的な恋慕で宝剣を渡すような無能な為政者にも見えない。
 そこまで考えたが、詮索も余計……と思い、レティシアは言葉を紡ぐ。
「オルセンの状況はその後、どの様な状態でございますか?」
「泣き言は言いたくはないですが『厳しい』の一言です。街道のおかげでギリギリ繋いでいるようですが、不作の状況を解決しない限り、冬には餓死者も出る恐れがあります」
「それほどに……」
 想像以上の状況にレティシアは驚く。
 不作とオルセンの人口増加は食糧問題を急激に悪化させているようだ。
「エーテル浄化者によるエーテル浄化が有効と聞きます。オルセン周辺やオルセンに避難してきた者達に中心に捜索を行ってみてはいかがでしょうか?」
「なるほど。オルセンの周辺はどこも不作だが、避難民までは見逃している可能性はある」
「過去の記録を遡り、豊作気味だった村や集落があれば、無意識な能力使用による影響を受けていた可能性はあります」
 レティシアからの指摘にオルセンは大いに頷いた。
 太守がどこまで農業施策に関わっているかどうか分からないが、確かな手応えを感じられる。
「助言感謝します、レインフィール卿」
「いえ、不作で最も苦しむのは多くの無辜の民です。私は国を問わず、どの民にも飢えて欲しくはございません」
 少し表情が柔らかくなったコンラートに、レティシアは微笑を浮かべながらそう告げるのであった。

マスターコメント

 お疲れ様でした&ご依頼にご参加いただき、ありがとうございました。  コンラートとの面談や自由な時間をそれぞれお過ごしいただけたようで、なによりです!  そして、トレイシーの更なる行先(?)も決まったようで……今回のコンラートとの関わりが、オルセンに今後どう繋がっていくかは……これからの展開次第という事で!  それでは、改めて、依頼へのご参加、ありがとうございました。また機会があれば冒険者の方々のご参加の程、お待ちしております。
イベントシナリオ

イベントシナリオ普通 報酬:標準7 / 4〜25人

2022年08月28日 19時17分06秒 公開

大成功

相談掲示板

投稿はありません

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0