肉料理の感想は従者の制服と共に
黒代朝希
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シナリオID:2339
オープニング
冒険者ギルドにとある依頼が舞い込んできた。
内容は「店が契約を結んでいる牧場から仕入れた肉を使った料理の試食をしてもらいたい」というものだ。
というのも名の高い美食家等に提供する場を設けられているそうなのだが、其れとは別に多様な立場の人物から料理の感想を聞いて更にこの肉を使う料理の完成度を詰めたいのだそうだ。
その肉で作られた肉料理を食べて忌憚なくその感想を述べる事。
それが今回の依頼の内容だ。
だが、今回の依頼にはもう一つ要がある……
それは「冒険者は執事服・メイド服を着て料理を食べる事」、だそうな。
一体なんだそりゃ、となるだろうが……かの店は肉料理の味だけでなく外連味として美人のメイドと逞しくも繊細な執事……その二名の給仕係が看板店員となって店を盛り上げている要因だったそうな。
だが、貴族との試食会の日付を取り決めた直後、二人の給仕係はそれぞれの事情でその試食会の日までに帰ってくる事が出来なくなってしまったのだ。
この事情に貴族側は理解を示したものの、どこか落胆した様子を見せた事から店側は冒険者ギルドに依頼を出したのだ。
店側もどうせなら万全のパフォーマンスが可能な状態で試食会に挑みたいし、顧客でもある貴族を喜ばせたいという願いもあっての依頼だ。
妙に顔面偏差値が高めの冒険者達ならそれぞれ執事服やメイド服を着こなせるだろうし、サイズも予備を合わせれば複数名の冒険者を執事やメイドとして送り出せるとの事だ。
まず、肉の種類は牛、豚、鶏肉の三種類を選ぶ事が出来る。
次に振る舞われる料理の内容は格式高いコース料理からメジャーな家庭料理まで幅広く対応しており、この依頼を受けた冒険者の要望に応じて作ってくれるそうだ。
依頼主としても自分とは異なる視点からの意見を聞き、それを元に料理を作るのは良い発想の転換となる……との事だそうだ。
いずれにせよ、牧場から仕入れた上質な肉。それらを使った肉料理を食べてその感想を述べる。
ただそれだけだが……店としてはしっかりと感想を述べて料理の発展を望んでいる。
より正確で具体的な感想を述べれば、より良い結果をもたらす事になるだろう。
また、余裕があれば執事服やメイド服を着た状態でのパフォーマンスを披露する事も可能だ。
元より本来の給仕係である二人も、歌唱などで店の客を喜ばせる事もあったそうな。
いずれにしても、危険性自体は相当に少ない。
やる事自体は「肉料理をオーダーし、それに対して正確で出来る限り具体的な感想を述べる事」……
もう一つは「メイド服または執事服を着て参加する事」だ。
冒険者はたまの休暇としてこの依頼に参加するのもありだろう。
内容は「店が契約を結んでいる牧場から仕入れた肉を使った料理の試食をしてもらいたい」というものだ。
というのも名の高い美食家等に提供する場を設けられているそうなのだが、其れとは別に多様な立場の人物から料理の感想を聞いて更にこの肉を使う料理の完成度を詰めたいのだそうだ。
その肉で作られた肉料理を食べて忌憚なくその感想を述べる事。
それが今回の依頼の内容だ。
だが、今回の依頼にはもう一つ要がある……
それは「冒険者は執事服・メイド服を着て料理を食べる事」、だそうな。
一体なんだそりゃ、となるだろうが……かの店は肉料理の味だけでなく外連味として美人のメイドと逞しくも繊細な執事……その二名の給仕係が看板店員となって店を盛り上げている要因だったそうな。
だが、貴族との試食会の日付を取り決めた直後、二人の給仕係はそれぞれの事情でその試食会の日までに帰ってくる事が出来なくなってしまったのだ。
この事情に貴族側は理解を示したものの、どこか落胆した様子を見せた事から店側は冒険者ギルドに依頼を出したのだ。
店側もどうせなら万全のパフォーマンスが可能な状態で試食会に挑みたいし、顧客でもある貴族を喜ばせたいという願いもあっての依頼だ。
妙に顔面偏差値が高めの冒険者達ならそれぞれ執事服やメイド服を着こなせるだろうし、サイズも予備を合わせれば複数名の冒険者を執事やメイドとして送り出せるとの事だ。
まず、肉の種類は牛、豚、鶏肉の三種類を選ぶ事が出来る。
次に振る舞われる料理の内容は格式高いコース料理からメジャーな家庭料理まで幅広く対応しており、この依頼を受けた冒険者の要望に応じて作ってくれるそうだ。
依頼主としても自分とは異なる視点からの意見を聞き、それを元に料理を作るのは良い発想の転換となる……との事だそうだ。
いずれにせよ、牧場から仕入れた上質な肉。それらを使った肉料理を食べてその感想を述べる。
ただそれだけだが……店としてはしっかりと感想を述べて料理の発展を望んでいる。
より正確で具体的な感想を述べれば、より良い結果をもたらす事になるだろう。
また、余裕があれば執事服やメイド服を着た状態でのパフォーマンスを披露する事も可能だ。
元より本来の給仕係である二人も、歌唱などで店の客を喜ばせる事もあったそうな。
いずれにしても、危険性自体は相当に少ない。
やる事自体は「肉料理をオーダーし、それに対して正確で出来る限り具体的な感想を述べる事」……
もう一つは「メイド服または執事服を着て参加する事」だ。
冒険者はたまの休暇としてこの依頼に参加するのもありだろう。
解説
肉料理を食べて、その感想を述べるシナリオとなります。
要は料理回という事で、難易度は相当に優しいものとなります。
ただ、好きに料理を食べ、メイド服か執事服を着てみて下さい。
マスターより
黒代朝希です。
アニエピカでの初シナリオとなりますが、どうぞよろしくお願いします。
リプレイ
とある料理店。
そこでは貴族や冒険者等の多様な人々招いての試食会が行われる。貴族等の上流階級の人々も鼻持ちならない人物はおらず、和やかな雰囲気が試食会の会場に満ちている。
そんな中、冒険者達はメイド服や執事服を着て試食会に参加。
これによって料理店の看板であるニ名の代わりにメイド服や執事服を着た男女が、試食会に参加した賓客に対しての目の保養となっていた。
「そうですね…せっかくなので、本格的なコース料理を頂きたいですね。貴族に出されるコース料理、料理の勉強のためにもしっかり味わいたいです」
その冒険者の一人であるリサ・ベイカー……『食にうるさいお嬢様』はメイド服を着こなし、席に座っている彼女は、エスト・ポーラのそこそこ高名な商家『ベイカー家』のお嬢様……
でありつつも父に反発して家出をしたのであるが、今でもその眼力は健在である。
現に提供されたスープ料理に使われた肉質の良さを一目で見抜いている。
「提携している牧場からの仕入れということですけど……この質のお肉を安定的に仕入れられるなんて、凄いですね。人気のお店な訳もわかります」
その言葉に店主も良い表情を見せ、貴族も仕入れルートの観点から評価する者も出始める。
店を構える料理人ともなると、その店で使う食材の仕入れルートも独自で確保しなければならない。
料理の腕にはどうしても勝らないが、同時に欠かせない大事な評価点である。
その観点を指摘したリサ自身は礼儀作法にのっとってスープをスプーンで掬い、口に運んでいく。
「これは……あっさりな塩味に、しっかり煮込まれたすね肉……その旨味がスープに出ていて、しかもお肉が柔らかい!」
シンプルな味付けの料理の味を引き出すには、複雑な味わいの料理よりも大きな手間がかかる。
ごまかしが介入する味わいではない故、シンプルさを損なわない様に引き出すのは繊細な手順が必要になるからだ。
「次はステーキ……ニ種類のお肉がありますね?」
肉の量自体は少ない。
しかしリサが肉の内の一つを切り取り、口に運べばその分『質』を極めている事が理解できた。
「や、柔らかい……フィレ肉自体はもともと柔らかい部位ですけど、これは……」
味付けもスープと同じくシンプルで、フィレ肉の質の良さを引き立たせている。
心地よい触感のフィレ肉を咀嚼し、堪能し終えたリサはもう一つの肉へとナイフとフォークを使い――
「もう1つは、サーロイン……!! 舌の上でお肉が溶けたのですけど!?」
上質なお肉の脂は口の中で溶ける。
噂では聞いていた事であるが、実際に経験するとここまでの感動と官能を与えるものなのか。
そんな感慨を持ってリサはステーキを口に運び、この皿における肉の量に込められた意味を悟った。
「成程……脂が多いので、これは沢山食べるより少しを味わうのがいいですね」
そうして料理を食べ終えた後、リサは店の従業員たちにこう提案する。
「そういえば、メイド服を着て食べるだけ? なのもあれなので……実際に給仕のお手伝いさせて頂きたいです」
本職には及ばずとも尽力するという意思を見せ、リサは店側の手伝いを行う許可を得たのだった。
「今日はお肉食べ放題だと聞いてやってきました。良い匂いです。これは期待が高まってしまいますね」
同じ頃、リディリディ・トゥラ・イェレミースはメイド服に裾を通して店の食卓に着き、肉料理を楽しみに待っていた。
(しかし食べるのに支障はなさそうなので構いませんが……これはお仕事着ではないのでしょうか。やはりヒューマンというか、街に住むヒトの考えることはよくわかりませんね)
今回の依頼の参加条件となるメイド服……彼女が着用したロングスカートの裾を摘まんで放すリディリディ。
彼女はエルフ。見た目は若々しく見えても、その実年齢は66歳。
ヒューマンに換算すれば立派な老人であるが、エルフからすれば『年齢相応にまだ精神が未熟』と言える年齢。
そこを加味しても、今回の依頼の要件はリディリディには感覚としては分かり辛いものであった。
(けれど、この丈長のは良いですね。品があります……と、)
借り受けた丈長のメイド服を何となく気に入りながらも、オーダーを聞く段階に入った旨を受けてリディリディは注文を出そうとするが――
「えっ!? お肉は三種類のうちひとつだけなんですか……? それは困りました。残すことなどないので食べさせてもらえないでしょうか」
そう懇親の説得の末、何とか三種類の肉をオーダーできるようになったとの事。
「こちらは果実のソースですね。酸味が合うと思いますし、個人的には別の果実の方が合うと思いますが、お肉が美味しいのは変わらないので頂きましょう」
リディリディは綺麗に食事を進めていく――傍から見ると綺麗な食べ方をしているようだが、時間をかけて見ているともりもりと皿が積み重なっていくことに気が付くだろう。
彼女は健啖家であり非常にたくさん飲み食いをするにも関わらず、その身は華奢であるという一部の女性の敵とも言える体質なのだ。
「忌憚なく感想をって依頼でしたね。それでは少しだけ」
リディリディは専門的な料理の知識は持たない。
しかしエルフとして森に住んでおり、超人的な味覚と看破の技能を持つ彼女はそれを応用して単純な味の感想や焼き加減、それに先程食した果実のソースを使った料理にて使われていた果実の質や調理法について店側に忌憚無い評価を提供。
それらは後にエルフの人向けの料理を作る際の、礎になったという――
「おしゃれだろう? ゴールディのマフィアの正装はスーツである」
自慢げに執事服を披露するのはストレガ・L・リベルガストラ……ゴールディに所属するゴブリンの内、ゴブリナの氏族である少女。
ゴブリンはゴールディに所属しない人類に敵対するゴブリンの影響もあり、差別問題が根深い種族。
故にゴブリンを代表するゴールディのマフィア達は『ヒト族に嘗められないように、そして時に貴族を相手に商売する関係上身なりには気を付けなければならない』という事を強く意識している。
幸いこの試食会にやってきた者達はそう言った差別意識とは無縁の善人だったが、そのゴールディの理念をここで示す事は後のゴブリン差別を払拭する礎になるかもしれない。
「私はマフィアではないが、氏族として顔を出す事があるのでスーツも持っているのだ……まあ執事服はスーツではないのだが」
食事の関係上手袋は外し、しかし獣骨は普段より主張はしないものの小さいものを髪飾りにつける。
「これが私であるので……私自身は特にパフォーマンスを持ち合わせているわけでもない事も留意してほしい」
失敬とは言わずにその意志を示すストレガ。
その事は店側も貴族側も理解を示し、恙なく試食会が始まっていく。
「フム……美味だな」
ストレガが注文したのは鶏肉又は豚肉で、いずれも家庭料理。
提供されたのはショウガをつけた豚肉を焼いた料理……
いわゆるショウガ焼きと呼ばれる家庭料理だ。
「肉もそうだが、他の食材も良い品を使っているのが分かる。素材の味を引き出すのが上手いな」
だが、何より彼女が着眼していたのは『再現できる事』。
一般家庭がやろうと思えば模倣でき、かつ美味しいという事を評価基準としてストレガは考えている。
「食材の良し悪しはあれど貴賤はなく、食は万世共通の幸福なれば……食べて舌で味わいながら頭に思い浮かぶレシピを万覚帳に書いている事は許して頂きたい」
――『独りで知を追い求めるには限界がある。知を求める同士に我が名を託し、更なる知を広く求めん。我等知を紡ぐ者』……
知識と名を受け継いでいき、知を紡ぐのが『ストレガ』というゴブリン。
当代の『ストレガ』が着眼したのは『食』……全ての動物の根源と言える事象を『ストレガ・L・リベルガストラ』は突き詰める。
「私も料理をする者であるので他人の料理を多く食べて感想を持ち帰り、自分のものにしていくのだ」
茶を飲む事で口の中の脂を洗い流し、浮かぶ創意工夫……もっと良いアレンジが思い浮かぶなら伝え次に活かせるようストレガは店に評価を述べていくのであった。
「執事服って初めて着るなぁ。髪、ちょっと整えよう」
「ちゃんと着こなして肉料理をいただきましょう」
最後の試食を行うのは、ヴィナスと海神・江流の二名。
東方大陸にルーツを持つ風貌の江流と優男系の外見を持つヴィナス。
彼らの執事服姿は、試食会にやってきた貴婦人方も顔を仄かに赤く染める凛々しさ。
ヴィナスは失礼ではない範囲で店内を拝見しており、それは彼が出奔したとは言え『商人の端くれみたいなもの』であったが故に、彼にとって店内の内装やテーブル周りは興味あるものであった。
「江流は何を食べる? 俺は決めてあるけど」
「注文は……この店で一番振る舞われているお勧めの牛肉料理を」
「じゃあ、俺はグラーシュで」
そうして二人は注文を出し、グラーシュ……牛肉、ラードとタマネギ、パプリカなどから作られるスープの家庭料理と、先程リサに提供されたフィレとサーロインのステーキがそれぞれヴィナスと江流の前へと皿が出される。
(死んだ母さんが作ってくれたようなものと違って洗練されてるとは思うけど……懐かしいな)
(見渡してみれば、身分の有りそうな身なりの客が多いが……着飾ってはいるが庶民の人も試食会には出ているようだ)
それぞれ料理が提供される際にそんなことを思いながら、江流はナイフとフォーク、ヴィナスはスプーンを使って料理を口に運んでいく。
広がるのは上質な肉の味。
ステーキはフィレ肉の柔らかさとサーロインの脂、グラーシュは洗練されていながらもどこか温かみを感じる味わいが口の中に広がっていく。
(旨いな……大陸でポピュラーな作法から考えると正道ではないかもしれないけれど、牛肉に最も合うソースは醤油なんて話もあるから、そんなソースも試してみてもいいかもな)
自分が料理を考えると米を考えてしまうけれど仕方ない。だって江流はお米の国の人だから。
「シャルガネは依頼で何度も行ってるけど、同盟と違った街並みが興味深いなっていつも思ってるよ……そう言えば、シャルガネだとコース料理的なものはあるのか?」
「シャルガネでのコース料理っていうと……会席料理かな。儀礼的な意味もある料理なんで酒と一緒に楽しむためのメニューだね」
そんな風にシャルガネについて話を始めていくヴィナスと江流。
そこからシャルガネに興味のある貴族が江流に話を持ち掛け、シャルガネについて談話を進めていく和やかな時間が流れていく。
やがて皿も片付き、シャルガネ談義も一通り聞いてお開きになった頃……
ヴィナスと江流は二人で上質なオレンジジュースを飲みながらまったりとくつろいでいる。
「……ま、今はシャルガネに帰る家はないからなぁ」
「俺は実母が亡くなり継母が迎えられてから親子関係というものが冷え込んでね、正直故郷は土地ではなく人物……生まれ故郷という理由で街並みを好きになるってことはないけど、やっぱり生まれ育った分馴染み深い」
どことなく、二人して独り言のようにそんな言葉を漏らす。
ヴィナスについては自身のルーツと言える内容であったが、江流は依頼を通じてヴィナス――ルース・アーダベルトの弟の本名を知っている。
故に話してもいいかなとヴィナスは心を許した。
「本当の意味での家庭料理は、実は子どもの頃で終了してるからかな……弟とご飯食べる時もついそういうのを選んでしまう」
その弟も実家である商会には不要な親を叩き出す計画をヴィナスは聞き、弟の計画を支持・支援している。
しかし、そんな活動も順調かどうかは関係なく世界の無常さを示すものであり――
「ほっとできるのがいいね、家庭料理は」
だからこそ、そう定義したいとヴィナスは述べる。
その言葉に対し、江流はこんな風に返す。
「俺は……立ち寄る場所がなくなったって意味で寂しいと思う事もなくもないけれど、自分にとっての起源があの場所なのだと忘れない限りは……あそこを故郷と思っていてもいいかなって勝手に思ってるよ」
だから、格調高い作法や料理の価値には理解を示そう。
しかし……日頃口にする料理にはある程度の気安さがあって欲しい。
そんな風に、ヴィナスの家庭料理に対する思いを肯定するのであった。
「所で……江流、随分洒落たブーツだね。特に踵の輝きとか」
「ん、靴のこれか。流石に目ざといね」
話を切り上げ、ヴィナスは執事服に映える江流の上質なブーツに話題を振る。
過去を述べる時間は終わり、これからは未来を見据える時間となる。
「せっかくだから、その一歩への想いを聞かせてもらおうかな!」
「口にすると陳腐になりそうだから、結果がついてきたらご報告しようかな」
そんな風にヴィナスの言葉をやり過ごし、代わりにヴィナスから渡されたレターセットに料理の意見・感想を述べていく江流。
彼ら二人のほかにも、ストレガ、リディリディ、リサらもそれぞれ総括を店の従業員や店主に述べていっている所だ。
やがてその総括が締めくくりに入り、五名の冒険者はとある一言を持ってこの依頼の終了を報告する。
――ご馳走様でした、と。
そこでは貴族や冒険者等の多様な人々招いての試食会が行われる。貴族等の上流階級の人々も鼻持ちならない人物はおらず、和やかな雰囲気が試食会の会場に満ちている。
そんな中、冒険者達はメイド服や執事服を着て試食会に参加。
これによって料理店の看板であるニ名の代わりにメイド服や執事服を着た男女が、試食会に参加した賓客に対しての目の保養となっていた。
「そうですね…せっかくなので、本格的なコース料理を頂きたいですね。貴族に出されるコース料理、料理の勉強のためにもしっかり味わいたいです」
その冒険者の一人であるリサ・ベイカー……『食にうるさいお嬢様』はメイド服を着こなし、席に座っている彼女は、エスト・ポーラのそこそこ高名な商家『ベイカー家』のお嬢様……
でありつつも父に反発して家出をしたのであるが、今でもその眼力は健在である。
現に提供されたスープ料理に使われた肉質の良さを一目で見抜いている。
「提携している牧場からの仕入れということですけど……この質のお肉を安定的に仕入れられるなんて、凄いですね。人気のお店な訳もわかります」
その言葉に店主も良い表情を見せ、貴族も仕入れルートの観点から評価する者も出始める。
店を構える料理人ともなると、その店で使う食材の仕入れルートも独自で確保しなければならない。
料理の腕にはどうしても勝らないが、同時に欠かせない大事な評価点である。
その観点を指摘したリサ自身は礼儀作法にのっとってスープをスプーンで掬い、口に運んでいく。
「これは……あっさりな塩味に、しっかり煮込まれたすね肉……その旨味がスープに出ていて、しかもお肉が柔らかい!」
シンプルな味付けの料理の味を引き出すには、複雑な味わいの料理よりも大きな手間がかかる。
ごまかしが介入する味わいではない故、シンプルさを損なわない様に引き出すのは繊細な手順が必要になるからだ。
「次はステーキ……ニ種類のお肉がありますね?」
肉の量自体は少ない。
しかしリサが肉の内の一つを切り取り、口に運べばその分『質』を極めている事が理解できた。
「や、柔らかい……フィレ肉自体はもともと柔らかい部位ですけど、これは……」
味付けもスープと同じくシンプルで、フィレ肉の質の良さを引き立たせている。
心地よい触感のフィレ肉を咀嚼し、堪能し終えたリサはもう一つの肉へとナイフとフォークを使い――
「もう1つは、サーロイン……!! 舌の上でお肉が溶けたのですけど!?」
上質なお肉の脂は口の中で溶ける。
噂では聞いていた事であるが、実際に経験するとここまでの感動と官能を与えるものなのか。
そんな感慨を持ってリサはステーキを口に運び、この皿における肉の量に込められた意味を悟った。
「成程……脂が多いので、これは沢山食べるより少しを味わうのがいいですね」
そうして料理を食べ終えた後、リサは店の従業員たちにこう提案する。
「そういえば、メイド服を着て食べるだけ? なのもあれなので……実際に給仕のお手伝いさせて頂きたいです」
本職には及ばずとも尽力するという意思を見せ、リサは店側の手伝いを行う許可を得たのだった。
「今日はお肉食べ放題だと聞いてやってきました。良い匂いです。これは期待が高まってしまいますね」
同じ頃、リディリディ・トゥラ・イェレミースはメイド服に裾を通して店の食卓に着き、肉料理を楽しみに待っていた。
(しかし食べるのに支障はなさそうなので構いませんが……これはお仕事着ではないのでしょうか。やはりヒューマンというか、街に住むヒトの考えることはよくわかりませんね)
今回の依頼の参加条件となるメイド服……彼女が着用したロングスカートの裾を摘まんで放すリディリディ。
彼女はエルフ。見た目は若々しく見えても、その実年齢は66歳。
ヒューマンに換算すれば立派な老人であるが、エルフからすれば『年齢相応にまだ精神が未熟』と言える年齢。
そこを加味しても、今回の依頼の要件はリディリディには感覚としては分かり辛いものであった。
(けれど、この丈長のは良いですね。品があります……と、)
借り受けた丈長のメイド服を何となく気に入りながらも、オーダーを聞く段階に入った旨を受けてリディリディは注文を出そうとするが――
「えっ!? お肉は三種類のうちひとつだけなんですか……? それは困りました。残すことなどないので食べさせてもらえないでしょうか」
そう懇親の説得の末、何とか三種類の肉をオーダーできるようになったとの事。
「こちらは果実のソースですね。酸味が合うと思いますし、個人的には別の果実の方が合うと思いますが、お肉が美味しいのは変わらないので頂きましょう」
リディリディは綺麗に食事を進めていく――傍から見ると綺麗な食べ方をしているようだが、時間をかけて見ているともりもりと皿が積み重なっていくことに気が付くだろう。
彼女は健啖家であり非常にたくさん飲み食いをするにも関わらず、その身は華奢であるという一部の女性の敵とも言える体質なのだ。
「忌憚なく感想をって依頼でしたね。それでは少しだけ」
リディリディは専門的な料理の知識は持たない。
しかしエルフとして森に住んでおり、超人的な味覚と看破の技能を持つ彼女はそれを応用して単純な味の感想や焼き加減、それに先程食した果実のソースを使った料理にて使われていた果実の質や調理法について店側に忌憚無い評価を提供。
それらは後にエルフの人向けの料理を作る際の、礎になったという――
「おしゃれだろう? ゴールディのマフィアの正装はスーツである」
自慢げに執事服を披露するのはストレガ・L・リベルガストラ……ゴールディに所属するゴブリンの内、ゴブリナの氏族である少女。
ゴブリンはゴールディに所属しない人類に敵対するゴブリンの影響もあり、差別問題が根深い種族。
故にゴブリンを代表するゴールディのマフィア達は『ヒト族に嘗められないように、そして時に貴族を相手に商売する関係上身なりには気を付けなければならない』という事を強く意識している。
幸いこの試食会にやってきた者達はそう言った差別意識とは無縁の善人だったが、そのゴールディの理念をここで示す事は後のゴブリン差別を払拭する礎になるかもしれない。
「私はマフィアではないが、氏族として顔を出す事があるのでスーツも持っているのだ……まあ執事服はスーツではないのだが」
食事の関係上手袋は外し、しかし獣骨は普段より主張はしないものの小さいものを髪飾りにつける。
「これが私であるので……私自身は特にパフォーマンスを持ち合わせているわけでもない事も留意してほしい」
失敬とは言わずにその意志を示すストレガ。
その事は店側も貴族側も理解を示し、恙なく試食会が始まっていく。
「フム……美味だな」
ストレガが注文したのは鶏肉又は豚肉で、いずれも家庭料理。
提供されたのはショウガをつけた豚肉を焼いた料理……
いわゆるショウガ焼きと呼ばれる家庭料理だ。
「肉もそうだが、他の食材も良い品を使っているのが分かる。素材の味を引き出すのが上手いな」
だが、何より彼女が着眼していたのは『再現できる事』。
一般家庭がやろうと思えば模倣でき、かつ美味しいという事を評価基準としてストレガは考えている。
「食材の良し悪しはあれど貴賤はなく、食は万世共通の幸福なれば……食べて舌で味わいながら頭に思い浮かぶレシピを万覚帳に書いている事は許して頂きたい」
――『独りで知を追い求めるには限界がある。知を求める同士に我が名を託し、更なる知を広く求めん。我等知を紡ぐ者』……
知識と名を受け継いでいき、知を紡ぐのが『ストレガ』というゴブリン。
当代の『ストレガ』が着眼したのは『食』……全ての動物の根源と言える事象を『ストレガ・L・リベルガストラ』は突き詰める。
「私も料理をする者であるので他人の料理を多く食べて感想を持ち帰り、自分のものにしていくのだ」
茶を飲む事で口の中の脂を洗い流し、浮かぶ創意工夫……もっと良いアレンジが思い浮かぶなら伝え次に活かせるようストレガは店に評価を述べていくのであった。
「執事服って初めて着るなぁ。髪、ちょっと整えよう」
「ちゃんと着こなして肉料理をいただきましょう」
最後の試食を行うのは、ヴィナスと海神・江流の二名。
東方大陸にルーツを持つ風貌の江流と優男系の外見を持つヴィナス。
彼らの執事服姿は、試食会にやってきた貴婦人方も顔を仄かに赤く染める凛々しさ。
ヴィナスは失礼ではない範囲で店内を拝見しており、それは彼が出奔したとは言え『商人の端くれみたいなもの』であったが故に、彼にとって店内の内装やテーブル周りは興味あるものであった。
「江流は何を食べる? 俺は決めてあるけど」
「注文は……この店で一番振る舞われているお勧めの牛肉料理を」
「じゃあ、俺はグラーシュで」
そうして二人は注文を出し、グラーシュ……牛肉、ラードとタマネギ、パプリカなどから作られるスープの家庭料理と、先程リサに提供されたフィレとサーロインのステーキがそれぞれヴィナスと江流の前へと皿が出される。
(死んだ母さんが作ってくれたようなものと違って洗練されてるとは思うけど……懐かしいな)
(見渡してみれば、身分の有りそうな身なりの客が多いが……着飾ってはいるが庶民の人も試食会には出ているようだ)
それぞれ料理が提供される際にそんなことを思いながら、江流はナイフとフォーク、ヴィナスはスプーンを使って料理を口に運んでいく。
広がるのは上質な肉の味。
ステーキはフィレ肉の柔らかさとサーロインの脂、グラーシュは洗練されていながらもどこか温かみを感じる味わいが口の中に広がっていく。
(旨いな……大陸でポピュラーな作法から考えると正道ではないかもしれないけれど、牛肉に最も合うソースは醤油なんて話もあるから、そんなソースも試してみてもいいかもな)
自分が料理を考えると米を考えてしまうけれど仕方ない。だって江流はお米の国の人だから。
「シャルガネは依頼で何度も行ってるけど、同盟と違った街並みが興味深いなっていつも思ってるよ……そう言えば、シャルガネだとコース料理的なものはあるのか?」
「シャルガネでのコース料理っていうと……会席料理かな。儀礼的な意味もある料理なんで酒と一緒に楽しむためのメニューだね」
そんな風にシャルガネについて話を始めていくヴィナスと江流。
そこからシャルガネに興味のある貴族が江流に話を持ち掛け、シャルガネについて談話を進めていく和やかな時間が流れていく。
やがて皿も片付き、シャルガネ談義も一通り聞いてお開きになった頃……
ヴィナスと江流は二人で上質なオレンジジュースを飲みながらまったりとくつろいでいる。
「……ま、今はシャルガネに帰る家はないからなぁ」
「俺は実母が亡くなり継母が迎えられてから親子関係というものが冷え込んでね、正直故郷は土地ではなく人物……生まれ故郷という理由で街並みを好きになるってことはないけど、やっぱり生まれ育った分馴染み深い」
どことなく、二人して独り言のようにそんな言葉を漏らす。
ヴィナスについては自身のルーツと言える内容であったが、江流は依頼を通じてヴィナス――ルース・アーダベルトの弟の本名を知っている。
故に話してもいいかなとヴィナスは心を許した。
「本当の意味での家庭料理は、実は子どもの頃で終了してるからかな……弟とご飯食べる時もついそういうのを選んでしまう」
その弟も実家である商会には不要な親を叩き出す計画をヴィナスは聞き、弟の計画を支持・支援している。
しかし、そんな活動も順調かどうかは関係なく世界の無常さを示すものであり――
「ほっとできるのがいいね、家庭料理は」
だからこそ、そう定義したいとヴィナスは述べる。
その言葉に対し、江流はこんな風に返す。
「俺は……立ち寄る場所がなくなったって意味で寂しいと思う事もなくもないけれど、自分にとっての起源があの場所なのだと忘れない限りは……あそこを故郷と思っていてもいいかなって勝手に思ってるよ」
だから、格調高い作法や料理の価値には理解を示そう。
しかし……日頃口にする料理にはある程度の気安さがあって欲しい。
そんな風に、ヴィナスの家庭料理に対する思いを肯定するのであった。
「所で……江流、随分洒落たブーツだね。特に踵の輝きとか」
「ん、靴のこれか。流石に目ざといね」
話を切り上げ、ヴィナスは執事服に映える江流の上質なブーツに話題を振る。
過去を述べる時間は終わり、これからは未来を見据える時間となる。
「せっかくだから、その一歩への想いを聞かせてもらおうかな!」
「口にすると陳腐になりそうだから、結果がついてきたらご報告しようかな」
そんな風にヴィナスの言葉をやり過ごし、代わりにヴィナスから渡されたレターセットに料理の意見・感想を述べていく江流。
彼ら二人のほかにも、ストレガ、リディリディ、リサらもそれぞれ総括を店の従業員や店主に述べていっている所だ。
やがてその総括が締めくくりに入り、五名の冒険者はとある一言を持ってこの依頼の終了を報告する。
――ご馳走様でした、と。
マスターコメント
お疲れ様です。
従者服を着ての試食会、大成功です。
ショートシナリオ易しい 報酬:標準5 / 4〜8人
2022年07月22日 17時47分04秒 公開
大成功
参加者
リサ・ベイカー
- イェレミース トゥラ リディリディ
ストレガ・L・リベルガストラ
ヴィナス
海神 江流
相談掲示板
No.1
もぐもぐ・・・、リディリディです。 今回は美味しいお肉をどれだけ食べても無料ということを聞いて参りました。 よろしくお願いします。
ヴィナスだよ、よろしくね。 美味しいお肉を食べられるみたいなんで楽しみ。