【夏果】リブラネスタコレクション【月影】
津軽無色
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シナリオID:2327
オープニング
それは奇しくも通算154度目となる誕生日のこと。
エフィミア・リリックは休暇の最中立ち寄ったリブラネスタの街で、やけ食いしていた。
もちろん――もしも髪を結い上げ眼鏡をかけただけの状態をそう言って差し支えないのなら――変装も忘れていない。
ちなみにやけ食いしているのは自分を祝うためなどという可愛らしい理由ではなく、ただ単に休暇を有意義に過ごしているだけだ。
「第一、今更ひとつやふたつ歳を重ねたところで、別に嬉しくもなんともないわよ」
誰かに聞かれたら、きっとそう答えていただろう。
そもそも今は何かを祝うような気分にはなれそうもない。
「やや、これはこれはエフィミア殿、まさかリブラネスタにいらしたとは」
やがて、今日何度目かの食事を遮ったのは、顔馴染みの初老の男性。
名はオッシ、数十年前からしばらくの間、探索絡みで何度も贔屓にした商人だ。
もっとも、彼が拠点となる店舗をエドゥノーグからリブラネスタに移して以降は会う機会も減っていたのだが。
それはそれとして。
「失礼ですが、どなたかとお間違えではございませんか?」
「は?」
「“は?”じゃないわよまったく、少しは察しなさい……!」
「はあ……」
まったく空気を読まない顔馴染みを小声で𠮟責しながら、エフィミアは彼を半ば強引に向かいの席へ座らせた。
「それで? 何かあった?」
「分かりますか」
「長い付き合いだもの」
「はははっ、エフィミア殿にはかないませんな」
「しッ!」
「おっと失礼。いや実はですな、今度港の一角を借りて催し物をすることになりまして。と言いますのも、このところ各地の名物自慢が活発になっとりますでしょう? それにあやかって、いっそのこと競わせてみたらどうだなんて声が上がりましてね、商人や料理人、職人までもが息巻いてるんですわ。それで、一応勝ち負けを決める体裁でやるつもりなんですが、目的はあくまで名産品の知名度を上げて消費を促すことなんです」
「いいじゃない、何か問題でもあるの?」
「そうですな、知名度を上げるにはたくさんの客を呼び込んで盛り上げなきゃあいけません。すると当然、じゃあどうやって盛り上げるのかって話になりまして。いろいろと協議した結果“水着姿の紳士淑女に各地の名産品を使ったデザートを食べてもらって、その食べっぷりを競おう”ってことになったんですよ」
「いろいろと言いたいことはあるけど、食べっぷりって……大食いでもさせる気?」
「いえいえ、どちらかと言うと食べ方のほうですな。上品だったり綺麗だったり可愛らしかったり艶っぽかったり悩ましかったり微笑ましかったり元気がよかったり豪快だったり、とにかく魅力的に食べた奴ほど偉い、そうやって食べられたデザートほど美味いと、まぁこういうわけです」
「なるほど、それで水着着用ってわけ」
「おっしゃる通りです。見目にも涼しげで華やかな美男美女が! 美味しそうにデザートを食べて! それを競い合う! どうです盛り上がりそうでしょう?」
「で、その美男美女の選定に難航してる、と」
「……おっしゃる通りです」
「心当たりがないこともないけど」
「おお、本当ですか!」
「まぁ一応ね。それから、勝負は2チームの対抗戦にしたらどう? 個人戦にしちゃうと、上位との差が広がるほど下のほうに材料提供した業者があとあと不利だもの」
「妙案ですな。では産地や業者もばらばらになるよう二手に振り分けるとしましょうか」
「うん、そっちはお願いね」
「いやはやお話して正解でした。年の功というやつですかな」
「オッシ坊やが言うようになったじゃない」
気がつくと、物憂く圧し掛かる心持ちが、幾分軽くなっていた。
うまく乗せられた気がしないでもないが、滞在中の時間潰し程度にはなるだろうか。
エフィミアはこの古い知人に少しだけ付き合ってやることにした。
●!?
「そういうわけだから美男美女諸君、よろしくね」
エドゥノーグ探索者支援ギルドギルド長エフィミア・リリック(154歳)がリブラネスタの冒険者ギルドを訪ねるなり――一応依頼という体ではあるが――冒険者を仕切り始めたのは、その日の夕方のこと。
彼女を知っている者もそうでない者も何を言っているのか分からないと思うが大丈夫、誰にも分からない。
「ちょっとそこ、聞いてる? じゃあ今から私を挟んで二手に分かれてちょうだい。なるべく均等になるように」
居合わせた冒険者たちは訝しみながらも一応言うとおりにする。
そうして二つの集団ができると、エフィミアは満足げに頷いた。
「よし。各自、隣にいる顔はしっかり覚えといて。当日はそのメンバーで組んでもらうから。……今気がついたんだけど、チーム名欲しくない? なるべく分かりやすいやつがいいわね。それじゃ、きみたちは今から――」
●月影
そして当日、リブラネスタ港内にて。
とりあえず言われるがまま会場入りした奇特な冒険者たちは、協賛している職人から好みの水着を、商人や料理人からはあらかじめ打ち合わせて用意してもらったデザートを譲り受け、各々思うところはありつつも、とにかくチーム【月影】として特設ステージの左翼を担っている。
右翼側にはチーム【陽光】のメンバーが並び、そして両者の間にはなぜかエフィミアまでもが水着姿で控えていた。
真夏の強い日差しが差し込む会場には既にたくさんの観衆が詰めかけており、大変な熱気に包まれている。
そんな中、おもむろにエフィミアが前へ進み出て、またしても仕切り始めた。
「今日は暑い中集まってくれてありがとう! 司会はこの私、エフィミア・リリックが勤めさせてもらいます。よろしく。――それじゃ早速ルールを説明するわね。今から【陽光】と【月影】の各チームが交互に1回ずつ、トロピカルデザートを食べるパフォーマンスを披露します。そのとき“いいね!”って思った人は、惜しみない拍手を送ってあげてください!」
説明に呼応するように、会場は割れんばかりの拍手で満たされる。
「そうそう、その調子。あとはこれを繰り返すだけ。最終的に、よりたくさんの拍手をもらったチームが勝者よ。どう? 簡単でしょ?」
「パフォーマンスって具体的に何をやるんだ?」
拍手が疎らとなったころ、観客の中からそんな声があがった。
「もっともな疑問だわ。ここはひとつ模範演技と洒落込みましょうか」
エフィミアは待ってましたとばかり指を鳴らす。
するとステージ脇からスタッフが駆けてきて椅子やらテーブルやらを設置し、更にはどこからか弦楽の涼やかな調べが流れてきた。
エフィミアは伴奏に合わせるかのようにゆったりと椅子に歩み寄って腰掛け、悩ましげに足を組み。たとえるなら恋人を待つが如き面持ちで伏し目がちに頬杖をついていると、やがて給仕風の男性が様々なベリーが宝石のように散りばめられた小振りなサマープディングを盆に乗せ、彼女の元を訪れた。
音もなく卓上へ供えられたそれへ、エフィミアは切なげな眼差しを向けて。
てっぺんにフォークを突き刺したかと思うと、一息に口に運び。
丸呑みした。
その瞬間、そこそこいい感じに沸いていた筈の会場は、一気に静まり返った。
がんばれ冒険者たち。
開幕早々凍てついたイベントが成功するかどうかは、きみたちの活躍にかかっている!
解説
マスターより
リプレイ
「エフィミアさん……っ」
「長殿、その……途中まではよかったのに、なぜ……?」
恐るべきは探索支援ギルドギルドマスターにして当イベント司会進行役のエフィミア・リリック女史のデモンストレーションだった。会場が一斉に静まり、トーラは狼狽を禁じ得ず、エル=バ=ノイアンをして言葉が見つけられぬほどの事態となった。
「な、なんとかしましょう!」
皆が動けぬ隙に、トーラは誰よりも速く動き出す。
またたく間にエフィミアの元へと駆け寄り、その手を引いて舞台袖へと連れて行った。
「え? 何? ちょ、ちょっと――」
「――はい、エフィミア・リリックさんの一発芸でしたー!」
そのまま観衆が不審に思う前に――
「さあさ、リブラネスタコレクション、夏! ――開幕ですっ!!」
凍てついていた観衆はこの宣言で我に返ったのか、ぱらぱらと拍手してくれた。
この熱を逃してはならない。
●もしもコレクションが失敗に終わったら?
(怒り狂ったエフィミアさんに錨と重り付の鎖でぐるぐる巻きにされて、海に放り込まれるかもしれません)
本人が聞いたら「私をなんだと思ってんの」とでも言いそうだが、一度抱かれたイメージを払拭するのはそう容易くない。
とにかくトーラは去来した絶望的な可能性を振り払うように首を振り。
アイパッチの位置を確かめ、真っ黒な三角帽子のつばをぎゅっと握って。
要所を隠すビキニよし。
下半身のふとましさを誤魔化す(※要点)ズボンよし。
カットラス……は今回使わないけどよし。
マント代わりのジュストコールーーすべてよし!
海賊船の船長に身を包み、けれど小っちゃくて可愛らしい。
そんなハーフリングのお嬢さんが威勢よく指を鳴らすと、水夫風の男が物静かで給仕然とした歩みで姿を見せる。
先ほどエフィミアが就いていた席にトーラがちょこんと座り。
少し遅れて卓上に水夫が彩りも鮮やかなフルーツカクテルを置いて、更に紅茶を注ぐ様を、観衆は静かに見守っていた。
肌に伝わる空気を振り切るかのように、トーラは目いっぱい明るい声で語り始める。
「これは……パイナップルを半分に切って器にしてるんですね。まぶしい黄色にスイカの赤、キウイの緑――お団子の白など。カラフルで見た目も素敵ですね!」
その扮装とは対照的に親しみやすくて少し大げさな語り口調は通りがよく、早速一部の観衆からの拍手を得る。
「では失礼して」
静かにスプーンを手に取って、程好い大きさのみを掬い取り、よく味わいながら何度も口へ運ぶ。見た目に反した非常に洗練された所作が、とても目を惹いたようだ。
「……うん、シロップは甘めですけど、酸味のあるパイナップルやベリーで味の変化があって飽きません♪」
決して頬張ったりはせず、あくまで上品に咀嚼し、それでいて幸せそうに食べるキャプテンに、そしてそのパフォーマンスに誰もが安堵して、次に目を見張った。
「シャクっとしたリンゴやスイカ、柔らかいバナナ、もっちりとしたお団子と、それぞれの食感も楽しいです!」
日差しのきつい会場で、涼しげなトロピカルフルーツの盛り合わせをおしゃれにいただく。
しかも、その魅力が最大限伝わるように、的確なレポートを交えて。
トーラのパフォーマンスは、彼女が口直しの紅茶を飲んで、お日様のような笑顔を見せた瞬間、なかなか多くの拍手と声援を引き出すことに成功した。
「よかった……」
実はあんまり美味しくてつい完食してしまい、みっともないのではと不安だったのだ。
●テロリスト
「素敵な演出だったわね。でも【月影】だって負けてないのよ? いらっしゃい色男さん!」
薄幸の美青年の退場を見送って、エフィミアは次の挑戦者を招き入れた。
「駄目だよいきなりハードル上げたりしちゃあ」
「同族のよしみってやつよ」
「やれやれ、そういうことにしておこうか」
出てくるなりエフィミアと軽口を叩き合うその男、アラン・スミシーは、出場者の中でも抜群に年かさのエルフ。とは言えくたびれた様子はなく、少なくない女性が好意的に“大人の男性”と表現し得る整った容姿の持ち主だ。
そのいでたちは膝下丈の水着にあえて白いワイシャツをあつらえて着崩し、麦わら帽子にサングラス、そしてサンダルと非常にオーソドックスなコーディネートだが、ゆえに着用する彼のルックスと、ある種妖しく胡乱な雰囲気を魅力として際立たせているようだ。
更に、その口上から早くも会場で笑いが起こり、掴みは上々である。
「じゃ、よろしくねアラン!」
「ほいほいっと」
エフィミアが下がるのに合わせてアランは着席する。
すぐに彼の元へ給仕が訪れ、乳白色の液で満たされたグラスを置く。
あえて名付けるならば、ライチとキウイのヨーグルト和え、リキュール仕立て。
「それじゃーいただこうか。と言っても……おじさんが食べるところを眺めたって面白くないと思うよ」
おどけてみせれば観衆から小さな笑いが起こり。
「いやいやだってほら、主役はデザートだもの」
グラスを掲げ、陽光に向けて映えるようにするっと傾けて見せ。
同時に、あえて自分は添え物と位置付けると、この時点で拍手が飛んできた。
「あ、そこ拍手しちゃう? それはそれでおじさん傷つくなー」
更に軽口で笑いを誘って。
かざしたままのグラスをよく観察し。
「うん、まずライチとキウイの新鮮な香りが、ヨーグルトによってマイルドになっている。
お互いを邪魔せず合体していて……――少し香るアルコールが昼夜問わず“今こそがバカンス”であると、そう知らせてくれているようだ」
この炎天下で特に大人が垂涎しそうな口上をのたまった。
やがて卓上に下ろしてスプーンを用い、まずはライチを、続いてキウイを口に運び。
「味のほうは……ふむ」
充分にもったいつけて味わい、飲み込んで息を吐いた。
「果実の酸味に少し甘めのヨーグルトに、これは生クリームと……ココナッツの香りもするね。それらが寄り添うように口当たりを良くして味わいを広げてくれる。そして鼻から抜けるように香るアルコールは度数が低めだけど、食べきれば程よい酩酊感が包んでくれそうな――そうだな、パティシエの“この味と共に休日を楽しんでくれ”という心意気が、味覚を通じて見た目以上の心地好さを齎す」
詳細な食レポに「よこせー」などの声もたびたび起こるが、アランは悪戯っぽく笑ってスプーンを進め、グラスを傾けるのみだ。
そう、これはテイスティングを用いたパフォーマンスである。
即ち――口達者を駆使した飯テロである!
観衆は自身が口にできぬ無念の悲鳴とともに大きな拍手を以てアランの心得と、その巧みなパフォーマンスを讃えた。
●イノセント
「ちょっと、これおかわりないの?」
エフィミアは空になったグラスを舞台袖に向けて揺らす。
【陽光】の貴婦人のしめやかな演奏に気分がよくなったのだろう、その上で司会を利用しているのか、あるいは忘れているのか、いずれにせよ酒を欲しているのは確かだ。
「しょーがないお姉さんだねー」
程なくアランは新たなヨーグルト和えと、何やらいろいろと乗った豪勢なトレーを手に再び登場した。
パイナップルが描かれた子供っぽくて可愛い水着を着た、十歳ほどの男の子を伴って。
アランはエフィミアにグラスを渡し、そのまま卓上に次々とデザートを並べる。
一方の男の子――エヌは、卓上のそれらを興味津々とばかりじろじろと眺め、けれど手を出そうとはしない。
かと思えば、着慣れていないのか水着姿に――あるいはその着心地に戸惑っているようで、所在なさげにもじもじしたり、きょろきょろとアランとデザートを交互に見たりしている。
そんな様子を見かねたのだろう。
「エヌ、遠慮しなくていいからお食べ」
アランは彼の頭にぽんと手を置いて、穏やかに言い聞かせた。
「……! 食べていいのか!?」
「もちろん。 おっと、まずは座ろうか」
「分かった!」
保護者の許しを得たエヌは、大喜びで腰かけて早速フルーツグラタンに手を付ける。
「……!!」
口に入れた瞬間、目を輝かせて次々と口に運び、あっと言う間に一皿平らげてしまった。
「紹介が遅れたわ、早速いい食べっぷりを見せてくれているこの子はエヌ! 果たしてこの小さな体にどこまで入るのか、目の前に並ぶデザートの運命や如何に!」
「ってことは、他のも全部オレの?」
「そうよ、好きなだけ食べてくれていいからね」
「!」
実は先ほどから期待に満ちた眼差しをちらちらと他のデザートに向けていたエヌは、司会に勧められるや否や、もう止まらなかった。
フルーツをたっぷり盛り合わせたパフェに、ミックスベリーの散らされた生クリームのほかほかパンケーキ、青空で染めたようなゼリー、そしてチェリーを添えたプリン――などなど、曰く“とてもキラキラしている”デザートを片っ端から口に入れ、そのたびに顔いっぱいで感激を表す様が実に微笑ましい。
「どうだエヌ、美味いか」
「うまい、どれもうまい」
アランが苦笑交じりに尋ねれば、エヌは心の底からそう答え。
口の端に付いたクリームにも気づかずに自身の瞳もキラキラさせて、なお食べ続けた。
やがて最後のプリンを完食してさくらんぼをくわえ、種を器に戻した途端。
エヌは大きな欠伸をする。
目をこする様に察したのだろう、アランは彼をおぶって、ゆっくりと退場した。
エヌはまるででっかいデザートにでも囲まれているかのような、幸せいっぱいの寝顔をしていた。
起こさないように、すっかり袖まで引き上げたのを見計らい、エフィミアが率先して手を叩く。
「いい食べっぷりを見せてくれたエヌくんに拍手ー!」
唖然としていた観衆はこれに応え、大きな拍手を以て少年を送り出した。
●細かすぎて伝わらなくても
「さあみんな、いよいよクライマックスよ! この炎天下でお熱いのをかましてくれた【陽光】に【月影】はどう立ち向かうのか――真打、エル=バ=ノイアンの入場です!」
エフィミアの紹介を受けて袖から出てきた黒髪の青年は、目元を縁取る隈を除けばしっかり整った眉目に精悍で逞しい体躯を併せ持つ、正統派の美丈夫だ。
今日は恋人に貰った結い紐で長い髪を後ろで纏めての登場である。
トップスは白地の六花柄を基調とし、裏地から襟、袖にかけては葉柄の薄花色を覗かせ。
ボトムはゆったりとした呉須色のサーフパンツでシンプルながらバランスのいいコーディネートとなっている。
そしてその広い肩には、なんと白猫の“みつき”がちんまりと乗っているではないか。
この他意がないゆえのあざとい存在に、早くも会場からは声援が飛ぶ。
「……人気者だな、みつきは」
自分宛とは考えず愛猫の喉をくすぐって、エルは気取ることもなく自然体で椅子へと腰かけた。
彼の目の前に供えられたのは、マンゴーあんみつ。
小振りなグラスの底から中ほどまでにクラッシュした寒天を敷き詰め、上質の粒あんを中心に、マンゴーの水羊羹、白玉、フレッシュマンゴー、クリームを開花のように盛り付けて、更にマンゴーソースをかけていただくという、マンゴー尽くしの粋とも言える逸品だ。
そして、一見すると分からないが、実は餡の上下に生チョコレートも潜んでいる。
だが、これほどのデザートを前にしてさえエルが想うのは、【陽光】の一員として参じた恋人の姿。
先ほどのリュートによる弾き語りは無論見事というほかなかったが、何にもましてその清廉な出で立ちと佇まいの、なんと美しいことか。
そう思って、ふと舞台袖のほうを見ると、まさしくその恋人がこちらを見詰めている。
(そういえば、驚かせたのかも知れない)
たまには分かれて対抗というのも面白そうだと、そう思って何も知らせずに参戦したが、実際どう思われたのだろう。
去来した不安は、けれど目が合った途端頬を赤らめてそっぽを向いた彼女の様子が払拭してくれた。
エルがふっと微笑んだところ、観衆から小さな悲鳴が上がり。
その折に、エフィミアが咳ばらいを一つして、あんみつを指差す。
「んっんー。ねえ、愛しい人を眺め続ける美男子っていうのも悪くはないけれど……それ、溶けてるんじゃない?」
「む」
指摘を受けて卓上を見直すと、隠し味の生チョコレートが四方に広がり、黒蜜のように行き渡っていた。
実はこれこそがこのデザートの真の狙いで、暑中に食すべきものという観点から、溶けてこその変化を楽しめるように作られているのである。
恋人を見詰めていたらチョコレートも溶けてしまった。
そんな機微が観衆に伝わったならいいのだが。
(……いや、うん。情緒を揺さぶるような芸当は俺には難しいか)
客席からの反応らしい反応はみられない。
(もうやぶれかぶれだ、どうにでもなれ)
そう思った途端、ふと悪戯心が湧いて。
観衆、特にたびたび悲鳴や声援を送ってくれたあたりに軽く手を振ってみると、会場のところどころ――女性客ばかり――から妙に偏った拍手が贈られた。
(しまった、少しやりすぎたか)
存外に大きな反響を受けてまた舞台袖に目をやれば案の定、恋人がむくれており。
あとで詫びてデートにでも付き合おう。
エルは密かに誓いを立てながら、マンゴーソースをかけて、やっとデザートをいただいた。
●閉会
圧倒的に女性層の支持を得た【月影】最後のパフォーマンスを終えて騒めく会場では、本日参戦したモデルやその着こなし、そして彼らが口にした数々の魅力的なデザートの話題が飛び交っていた。
やがて両側の舞台袖から【陽光】と【月影】のメンバーが姿を見せて、開幕時と同様にエフィミアが両陣営の間に立つ。
「はい、注目ー!」
エフィミアが手を叩いて観衆を制し、概ね静まったところで笑顔を見せる。
「みんな今日は楽しんでくれた? どっちも最高だった――個人的にはそう思うわ。だけど悲しいかな、これって勝負なの。あとは分かるわね? 分かってるわね!?」
そうして主催者のオッシから集計結果を預かったエフィミアは、今度はなぜか不敵に笑った。
「それでは発表します。結果は【陽光】と【月影】が……なんと同率! でもね、聞いて? “引き分け”なんて言葉、味気ないと思わない? だから――この場にいる全員が勝者よ!」
エフィミアの宣言で、観衆も、オッシも、【陽光】と【月影】の一同も皆、唖然とした。
ともあれ、これを機に今夏のリブラネスタは果物や水着を中心に消費が促され、景気が上向いたのだという。
めでたしめでたし。
マスターコメント
ショートシナリオ易しい 報酬:少ない4 / 4〜6人
2022年08月14日 17時05分03秒 公開
相談掲示板
トーラです。 よろしくお願いしますね! 今のところ一人だけですけど、盛り上げるために頑張りたいところですね(エフィミアさんは見なかったことにしつつ) 被りを避けた方が良いかとも思うんですけど、今のところどんな格好でどんなものを食べるかは決めてないんですよね…(水着イラストの納品待ちです…!) フルーツはブルーベリーとかで何か作れたらというところなので、思い付いたらまた発言しますね!
なかなか人が集まりませんね。 もし盛り上がらなかった場合、エフィミアさんに錨と重りの付いた鎖でぐるぐるに巻かれて海に捨てられるという噂が……(
…これは、【陽光】に合流して片方だけでも成立を目指した方が良いのでは…?(その後人が来るフラグかも)
お邪魔するよー! コンテスト?か何かだって?おじさん美味しいの好きだから 飛び込みしちゃった! もし人数が間に合わなかったらよきにはからえということにするよー
食べれば良いってアランに言われた。オレ食べる。 集まらなかったら何かくれさい。(両手を差し出す)
あと1人ですね。 陽光の方も成立していますので、移ることは考えず成立を期待しましょう! とりあえず行動は提出しておきます!
ありがとうお嬢さん! こちらも行動は提出しておいたよ、よろしくねー!
さて、これでどうかな。これで成立、形になりそうだな。皆、よろしく頼む。
お!足りたね!ありがたい! よろしくお願いするよー!
よろしく。良かった。
はい。 よろしくお願いします! とりあえず、エフィミアさんを袖に下げて一発芸ということにして誤魔化そうと思っています。 下げたらすぐにパフォーマンスに移りますね! エフィミアさんに鎖でぐるぐる巻きにされて海に放り込まれないよう頑張りましょう!
よくわからないから、とにかく食べる。つもり。こういうのを食べるのは初めてだけど、がんばる。
そうですね。 果物を食べて宣伝しようという連動なので、美味しく食べている様子を見せれば良いと思いますよ~。
こっちは枯れたおじさんだから食べレポデザートメインでやろうと思うよ~、 エヌは元気いっぱい食べてね~
ちょうど水着ピンナップが納品されたので、パフォーマンスの水着はこれで行こうと思います!
おおっ!素敵な水着だねー! パフォーマンス楽しみにしているよ!
ありがとうございます! もうすぐ出発ですね。(エフィミアさんに鎖で巻かれて海に沈められないよう)楽しんでいきましょう!
所謂海賊風かな?すごくキュートでクールだね! おじさんのはかなり地味かもしれないけど パフォーマンス頑張るよー!トーラくんも頑張ろうね!