大ハーレムごろし~蹴散らせ、オークの森! 編~
眞石ユキヒロ
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シナリオID:2308
オープニング
必ず、かの邪知暴虐の王を除かねばならぬ……とは思うが、実質的には不可能だった。
なぜならヤツは特異個体。身体の大きさ、運動能力の高さ、頭の良さ。どれをとってもかなうはずがなかった。
実際、王発案の「夜に小さな都市を狙い、店の倉庫から酒や食料を奪う」作戦は全て成功している。
女どもは皆、王に夢中だ。昼夜を問わず『王様、王様』と甘い声を出しながらしなだれかかり、以下略。
俺らのような下っ端は全く、ちっとも、これっぽっちも相手にされない。
オークたちは思い出し激怒した。
誰のおかげで今の暮らしができていると思っているのだ、あの王は。
『なぁ……ちょっとくらいなら、バレないよな。……食っちまっても』
一体のオークがぽつりとこぼした言葉に、都市の倉庫から盗んだ品物を運ぶオークたちの間の空気が張り詰める。
『……こんだけあるし、ちょっとくらい無くしたってバレやしねぇよなぁ?』
『ってか、駄賃みたいなもんじゃね? 俺ら必死こいて働いてんだし?』
同意するオークが現れ、徐々に空気が変わっていく。
王を除くのではなく、王のおこぼれに(勝手に)あずかる。
にんまりと口角を上げたオークたちは岩陰で担いだ木箱を下ろし、中の酒瓶や食料を口に運んだ。
●ライリーも激怒……しない?
辺境都市群冒険者ギルド内。
「最近、辺境都市群の複数の小さな都市にて、酒や食料が盗まれる事件が多発しています」
綺麗な字で綴られた文書の貼られた依頼板の前で、辺境都市群ギルド職員、兼、ドゥジン信徒のライリー・ベルは神妙な面持ちで依頼の詳細を語る。
「現場に残る匂いや足跡などから、犯人……? 犯亜人……? はオークの集団だと推測されています」
(また集団か? 今度こそハーレムなどとは口にしないつもりなのか、ベル……?)
今まさにカウンターから依頼板へと向かっているギルド職員ツェレンは、異常に大人しい後輩に何故か寂寞とした思いを抱く。
「斥候からの情報によるとオークは特異個体を核とし、中規模の住処を森林に築き集団で生活しているようです」
辺境都市群に森林は少ない。地図を広げ、狙われた都市にチェックを入れ、そこから一番近い森林を当たったら――というわけだ。
(心境の変化、か?)
すでに依頼内容を理解しているツェレンには、余計なことに気を回す余裕すらあった。
ツェレンはつい先日、リザードマンの彼氏と結婚式を挙げたばかりだ。
愛しい伴侶と結ばれたという事実と、その事実がもたらす幸福感。
結びつきから生まれる充足感や安心感は、仕事に挑む自分に心境の変化を与えてくれた。
「森の中ですが、特異個体と女オーク、男オークでそれぞれ居場所が別れているようです。よって今回の依頼では、二手に分かれていただきます」
(ベルにもそういった何かがあったのかもしれないが……)
状況の変化に伴う視点の変化が、ツェレンを正解に近い見解へと導いた。
「男オークの側にはツェレンが、特異個体と女オークの側にはティボー……が同行します」
ライリーは自分の隣に陣取る誘拐犯にじとりとした視線を向けた。
「はい、よろしくお願いします。元誘拐犯、現冒険者……いや、前から冒険者だったんですけど……」「手短に自己紹介と挨拶だけお願いします」
ライリーの珍しくまともな突っ込みに、ツェレンも無言を貫く。
「ウォーリアのティボーです。ハーフリングだからってナメないでくださいよ。これでも実力は人並み以上のつもりなので」「次はツェレン先輩です」
不自然なほど冷静なライリーに言葉を遮られたティボーは、ツェレンに視線を向けた。
「ギルド職員かつウォーリアのツェレンです。今回の依頼に同行させていただきます。よろしくお願いします」
ツェレンは以前のように気負いすぎたりせず、ごく自然な挨拶と折り目正しい礼をした。
「冒険者のみなさんも、先輩もティボー……さんもお気をつけて」
心配そうに眉尻を下げて、ライリーが依頼に参加する全員に声をかける。
(ベル。私はなぜだか、ハーレムなどと騒がない今のお前の方が恐ろしく感じるぞ)
そんな本心を隠し、ツェレンはライリーを安心させるように笑いかけた。
●狂人
冒険者たちの背中を見送ってから、ライリーは依頼板に向き合って息を吐き出した。
誕生日の一件以降、ライリーの心の表面は凪いでいた。
彼女の気持ちを穏やかにさせるのは、冒険者たちからもらったばーすでーかあどだ。気持ちのこもったそれを毎日のように読み返して、心の狂った部分を自覚し、修正を加えている。
(オークの集団。大きなハーレムが倒されたとして、あたしはその時……)
以前のように、満面の笑みで喜ぶのだろうか。それとも。
(優しい人達を、強い人達を。死地に向かわせるしかできない自分を、あの時みたいに責めたりするんだろうか)
冒険者たちが向かうのは言葉の通じない相手との命の取り合いだ。前回のような平和な戦いとは勝手が違う。
ライリーは彼が授恵者の力を自分に披露したときから目をそらしてきた恐怖に、向き合い始めている。
(最近は戦闘になりそうな依頼の話をするときだって常にうっすら「怖い」って思ってるのに……。なんで、あたしはこんな中途半端な気持ちで人を送り出して……)
ピンを外し、依頼内容の書かれた文書を回収する。
(亜人や魔獣のハーレムを殺すのは人の平和を守ることだから悪いことじゃない。でも、そのために誰かが苦しむのは良いの?)
(殺しを煽ったあたしが罪人っていうならそれでいい。でも、そのために戦って苦しむ誰かが罪人扱いにならない保証は?)
(昔のあたしが、亜人の群れを一人で殺しきった彼に恐怖したみたいに……?)
瞳孔が開く。心拍が乱れる。膝が震える。倒れないために依頼板に手をつく。
(これ以上余計なことを考えるな。考えてもどうしようもない。ただぐちゃぐちゃになるだけだ……)
額から零れる汗を腕で拭い、カウンターの中へと引き返して行く。
(そうだ、この依頼が無事に終わったら人を誘って旅行とか行こう。楽しいことを増やせばきっと、きっと苦痛だって薄れてくれるから!)
冒険者たちの優しさを糧に正気を保っている。それが現在のライリーだった。
解説
マスターより
リプレイ
「さて、今回はこのオークのハーレムをぶっ潰せば良いんだな?」
さらりとした金髪の筋肉質なヒューマン、アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトは瞳の奥に正義の青い炎を灯し、確認する。
「俺は食料庫の方に行くぜ」
瞳には迷いも恐れも存在しない。
真っ先に要点を確認し、自分の意思を明確にする。しかも類い希な美貌をもつ婚約者までいる。まるで物語の中の騎士のようである。
「んじゃ、俺は寝室の方、行こうかなっと」
赤い鱗と獲物を狙うような鋭い金色の瞳を持つ精悍なリザードマン、サイラスがもう一つの行き先を選択する。
さて、今回出会うオークの肉体にはどのような用途があるだろうか。
できればオークのエーテルから自分が竜になるためのヒントを得られればいいなと考え、たくましい腕を組む。
(オークのエーテルに剣鱗と似たような雰囲気あったら竜化のヒントになる?)
サイラスは己の大望を叶えるため、一人考えをめぐらせる。
さて、ここに一部メンバーにとっての気がかりがある。アルベルトはハーレムと口にしたが、ライリーはハーレムと口にしていない。
(夢ネタや競泳のときと比べ物にならないくらいライリーさんのテンションがヒクゥイ!)
桃色にも見える薄い茶色のロングヘアと若緑の瞳の華奢なハーフリング、アルマ・ヴァレンタインは驚きに目を丸くしている。
ティボーへの態度が冷たいのは残当として。ツェレンの結婚で尻に火がつく年齢でもないだろうし……と考えはするがわからない。
「ボクはオークたちの寝室の方に行くねー」
わからないので目の前の依頼の方針を口にする。見知った顔も多いし、やることはシンプルなオーク退治なので考えすぎずにいこうと決めながら。
「自分も寝室の方に同行しよう」
逆立てた赤い髪に黒のバンダナを巻き、その下から青い瞳を覗かせる筋肉質なヒューマン、ブレイドが宣言する。
前回の依頼は結婚式の出席であり、この依頼で本格的に戦闘復帰することになる。
(気を引き締めてかかるとしようか)
その一方で、ライリーに以前のような狂……覇気が感じられないことが気がかりでもあった。
(自分達の療養中にあった誘拐騒ぎが関係してるのかそれとも……?)
「オークのハー……ではなく集団の討伐、ですね。私も寝室的な場所? に向かいますね」
猫耳のように一部が跳ねた茶髪と茶色の瞳の華奢なヒューマン、東雲・更紗も穏やかに意向を口にする。
(うー……ん? なんだかライリーさんに元気がないみたいですね。やはりいつもの勢いがないと調子が狂ってしまいます……)
ツェレンの結婚式でも、なんとなくライリーの様子に違和感はあった。
更紗はサシャ・テーリングを手招き、自分に視線の高さを合わせてしゃがんだサシャの耳に疑問を吹き込んだ。
「サシャさんはライリーさんのご様子について、心当たりやなにか伺っていたりしますか……?」
長い銀髪を高い位置でお団子にした緑の瞳のヒューマン、サシャは小首をかしげ、穏やかに微笑んだ。
「それに答えるには……まずは本人に許可をいただく必要がありますわね」
サシャは更紗だけに聞こえるように、小さな声で返答をした。以前に一度聞いたことはある。けれどその時ともまた様子が変わっているようにも見える。
サシャは不安定なライリーを心配しつつも、立ち上がりいつもより元気に声を上げる。
「食料庫に行きますわよー!」
「俺もそっちだな。皆の戦闘をサポートするつもりだ」
シルバーアッシュの長髪とホリゾンブルーの瞳の細身のヒューマン、ハールも方向性を明確にした。
(んー? ライリー、なんだか覇気がねーっつか……)
ハールはライリーに歩み寄り、不遜な笑みを正面から向ける。
「まー元気の出ねえ日もあるよな! つーわけで、終わったら俺に一杯付き合ってくれよ」
ライリーは「皆様に奢らせていただきますね」と曖昧な笑みで、冒険者を労る約束を取り付けた。
●
寝室と食料庫、分担を決定した冒険者たちは荷馬車に揺られ、オークの住処を目指す。
「ティボー様、先日までは不審な気持ちがありましたの……ごめんなさい。これからは頼らせて下さいね」
ぎゅうぎゅう詰めの荷馬車の中で、サシャが正直な気持ちを口にして頭を下げる。ティボーは目をぱちくりさせながら「むしろコッチが迷惑をかけたというか。すみません」と、サシャ、サイラス、アルマ、ハールに頭を下げた。
蒸し暑い荷馬車内になんとなくの緊張が充満する。
「そいえばもともと大柄なブレイドさんやサイラスさんがいるから目立たないけど、ティボーさんも1.5倍くらい(当社比)あるよねー……本当にハフリン……?」
許す許さないは一旦置いておく。誘拐事件の際にティボーへの攻撃をスケープセイントしたアルマが、空気を変えるべく別の話題を提供する。
ティボーが横を向いて、ほんのり尖った耳を見せた。
「ほ、本当なのですか? 荒野の熱気が見せる幻などではなく?」
アルマより先に、身長にコンプレックスを持つ更紗が反応した。
「更紗さんよ、ちょっと水を飲んでおいた方が良いんじゃないか?」
隣に座るブレイドが、ギルドから支給された水袋を差し出す。
「ってか、俺も飲んどくわー」
サイラスが水を身体の奥へと流し込む。冷たさが身体に染みたような気がした。
「こういうものは飲めるタイミングで飲んでおくべきだよな!」
アルベルトは暑さに負けず溌剌と語り、水袋の口を開けた。
「こういう時ってよ、味がなくても水は美味いって特に感じるよな」
一息ついたハールが、目を閉じしみじみと口にする。
サシャやアルマ、ツェレンも水を飲み、それぞれにリラックスしている。
皆で同じような行動を取ったことで、荷馬車の中になんとなくの連帯感が生まれた。
これから命を預け合うのだから、それは決して無駄にならないだろう。
●B班
オークの住む森へ到着した。
冒険者たちはA班、B班に別れ、行動を開始する。
「ツェレン様、倒して倒して、カレピ様の所へ戻りましょうね」
B班のサシャが片手を握り、案内役も兼ねるツェレンを鼓舞した。
ツェレンは照れながらも、「あと数秒で目的地に到着します」と静かに告げる。
木と木の間に縄を張り巡らせ、壁のようにした奇妙な光景が目に入った。
「縄の隙間から中を窺えそうですね」
サシャは部屋の周囲をぐるりと回り、中のオークと障害になりそうなもの、不自然に積まれている木箱などの位置を把握した。それらを小枝で地面に描き、説明する。
「こちらの木は倒して、敵を分断できればと思いますの。それから敵は可能な限り木箱から引き離して戦いたいと思っています」
できれば品物を被害者に返したいと願いながら、サシャが手短に意見を述べる。
「……壊しちまったらもったいないもんな」
物品の大切さは痛いほどわかる。ハールはサシャの言外の気持ちを汲み取った。
「なら、俺がオーク共を引きつけるぜ」
立ち上がり、食料庫の入り口に身体を向けるアルベルトに、サシャは「待ってください」と声をかけた。
ダマスカス鋼の祭刀を掲げ、エーテルの波動を解き放ちハウリング・オブ・ブルーフレアを発動した。それぞれの身体を包むように青白い光が立ち上る。
士気の上がったアルベルトは攻撃集中した。
次にサシャはアルベルトに輝刃3を贈った。アルベルトの竜鉄の大太刀が淡い透明な光を帯びる。
アルベルトは「助かるぜ」と感謝の言葉を残し、チャージングで入り口から食料庫に侵入した。入り口近くの木により掛かって寝ているオークたちめがけて、巨大な光塊を纏わせた武器を振り下ろす。
「貴様らを殲滅する!」
闘気槌3がオークたちに激しい痛みを与え、目を覚まさせる。大威力の攻撃に巻き込まれた木は、奥のオークと出入り口を分断するように大きな音を立てて倒れた。無傷のオークたちも目を覚ます。
『俺らのアイドルを倒しやがった!』
「オークたちはアルベルト様に木を倒されて怒っているようです」
ツェレンと共に侵入したサシャが簡潔にオークたちの感情を伝える。
オークたちは怒りのままにアルベルトに近寄り殴りかかった。アルベルトは重点硬化2で攻撃を受ける。
一撃が重い。アルベルトの体幹はしっかりしているが、それでも身体がグラつく。しかし。
「なんてことないぜ!」
歯を見せて余裕ありげに笑った。
アルベルトと合流したツェレンを確認してから、ハールも食料庫に侵入し、倒れた木の陰でハイディングを使用した。
(オークが木箱から離れたタイミングで仕掛けたいよな……)
注意を払えば木と縄の間を音もなく通れるだろう。ハールは枝の隙間から様子を見ながら時を待った。
(イケるか?)
先手必勝を発動し、音も立てず移動する。
一番後ろのオークの背後から破鎧砕2を喰らわせる。物防低下は失敗したが攻撃は命中し、オークがうなり声を上げた。
『こんな所にもいやがったぜぇ!』
オークが振り向きざまに拳を振るうが、ハールは反応強化し回避した。
オークの声を聞いたサシャは、ツェレンに輝刃3を贈ってから、銀髪を揺らしハールの側へと軽やかに駆けた。
天眼を持つサシャは、ハールの方にオークが数体向かっていることも認識している。
(ハール様が危険そうなら加勢した方が良いかもしれませんね……)
アルベルトが攻撃集中を込めた闘気槌3を繰り出す。二撃目を喰らったオークたちはごろりと倒れた。息はない。
「お前たちが見るべきは俺だ!」
アルベルトはチャージングし距離を詰める。接近するアルベルトに反応し、オークたちが殴りかかった。重点硬化2を使い切ったが、目的は果たせたと言える。
ハールは再び先手必勝を発動し、サシャに視線が向かないよう移動し、破鎧砕2を叩きつけた。デバフは通らないが、攻撃は命中する。
(トリプルファングに切り替えるか?)
仲間の支援に徹しているサシャに、一瞬だけハールが視線を向ける。サシャが頷き輝刃3を贈る。それからサシャは武器を宿り木の杖に持ち替えようとして、やめる。
(アルベルト様のご様子が……!)
アルベルトの額から滝のように汗が流れ、顎からこぼれ落ちている。無理もない、殆ど一人で攻撃を受け続けているのだ。サシャは縄と木の間を抜け、急いでアルベルトの側に向かう。
「コレで最後だ!」
アルベルトは攻撃集中の闘気槌3をオークたちに叩きつける。オークたちの肉体がぐらりと揺れるが、何とか持ち直した。
『俺ら下っ端の気持ち、思い知れ!』
激怒するオークの群れがアルベルトに殺到する。
「アルベルト様、回避に専念してください! 傷は私が癒やしますわ!」
サシャが叫ぶ。アルベルトはオークたちの攻撃の軌道を観察し、その全てを回避した。
激怒するオークたちの背後に素速く駆けより、ハールがダマスカス鋼の短剣二刀流によるトリプルファングを見舞った。振り向きざまに振るわれるオークの拳を反応強化を用いて回避する。
「今、回復を!」
サシャは倒れた木の後ろから半身を出し、アルベルトにヒール3を撃ち放った。瞬く間にアルベルトの肉体に活力が戻ってゆく。
「ありがとう! この恩は攻撃に乗せて返すぜ!」
アルベルトは攻撃集中し、鋭撃2をたたき込んだ。その衝撃にオークは倒れ、呼吸は間もなく停止した。
ハールはオークにトリプルファングを浴びせた。オークの息が急激に荒くなる。
サシャは宿り木の杖を力強く握りアルベルトの斜め後ろに立つと、周囲にメテオライト3を発現させた。それらはふわりと舞い上がったかと思うと勢いをつけ、オークたちの肥え太った肉体に容赦なく降り注いだ。
●A班
A班はティボーに案内され、寝室へと向かっていた。
「ティボーさん……。いろいろ事情はあるんだろうから深くは聞かんでおこう。志願してきたからにはしっかり体を張ってもらえればそれでいい」
険しいがどこか人を落ち着かせるような声で、ブレイドが静かに語りかけた。ティボーは「あざす」と目を丸くしながらその寛容に感心した。
『オーク様ぁ! 次はあたいを可愛がってくださぁ~い!』
『もうちょっとだけ待っていておくれよぉ? 子豚ちゃん』
ちなみにティボーは亜人語適正所持。
「……自分は中を探ってくる」
ブレイドが音も立てずに部屋の周囲を回りながら双波を用いて内部の構造やオークの居場所を確認し、その結果をメンバーに言葉で説明する。
図を描いて説明するという発想はあるが、更紗の前でそれをするのは少し気が引けるのだった。
「一番奥にオークたちが固まっている。その手前に二本の木がある。うまいこと横倒しにできれば一度に相手する数を制限できそうだが……?」
「おれも伐採あるからそっち回れるぜー」
サイラスが大蛇見の短剣部分を見せながらニヤリと笑う。
「では私はオークたちの前にアーケインテンペスト改を敷いてみますね」
更紗も竜石の杖を握って方針を固める。
「じゃあボクはコレだー」
アルマはグランドクロスを掲げ、全員にハウリング・オブ・ブルーフレアを使用した。
(オークたちはなんというか……夢中みたいだな)
ブレイドが疾風足を用いオークの近くの木まで駆け抜け、トリプルファング改の合間にフェザーステップを挟み、素速く木を伐採する。木が横倒しになる大きな音に慌てるオークもいれば、構わず王に求愛を続ける猛者もいた。
(ひとまず、手数の多いブレイドさんにコレかなー)
続いてアルマが侵入する。倒れた木の陰に小さな身を隠し、ブレイドに輝刃3を与える。
(なら俺はあっちをどうにかするかー)
サイラスが炎翼で飛ぶように駆け、大蛇見の短剣部分を用いて反対側の木の伐採に取りかかった。
実に手際が良く、あと一撃入れば木は望む方向へと倒れてくれるだろう。
(では、次は私の番ですね)
更紗がブレイドの斜め後ろに立ち、アーケインテンペスト改をオークたちの前方を中心に敷いた。こうするだけで自動的にオークたちの出入り口(予定)を塞ぐことができる。
(一応、このタイミングで使っておきましょう……)
更紗はいざという時に備え、超魔法を発動した。
ブレイドもサイラスの伐採を手伝う。二本の木は見事に、オークたちの行く手を阻む障害物に変化した。
(これなら天眼がなくとも敵の動きはほぼ把握できる気がするな)
二度目の大きな音に、王に夢中だった猛者も流石に振り向こうとするが、稲光に絡め取られ身動きが取れない。
アルマは思い切ってオークたちの側に一歩踏み込み、グランドクロスの先端を向け、魔矢を放った。
(向こうは動けないみたいだから、ちょっと悪い気もするけどねー)
だからといって手を抜いたりはしない。全員の命が掛かっているのだから。
(こっからはおれも攻撃参加といきますかー!)
サイラスは攻撃集中し、鳥獣戯でデカい蜘蛛を再現し、オークハーレムを襲わせる。
邪魔者には苦しんでいただきたい。サイラスの粋な贈り物である。オークたちは当然逃げられず、すでにアルマの魔矢を受けていたオークは息絶えた。
『子豚ちゃんたち、ボクを庇っておくれよぉ!』
王以外は移動力が極めて低く動けない状態である。よって王に群がっていたオークたちは自動的に王を庇う羽目になる。
(この様子なら私もあちらに踏み込んでよさそうですね)
更紗はティボーのデバフを受けていないオークに魔錆3を撃ち込んだ。
ブレイドは竜爪の篭手と竜爪の短剣によるトリプルファング改でオークを始末した。
(更紗さんの魔錆3が効いているな)
ブレイドは緊張した面持ちの更紗をチラリと横目で見て、ほんの一瞬だけ優しい気持ちになった。
アルマが距離を取りつつ別のオークを魔矢で射貫いた。オークが苦しみの声を上げる。
(手応えあり、だね)
同情心も少しは湧く。しかしこちらだって負けるわけにはいかないのだ。
(さぁて、もう一度っと)
サイラスは再度攻撃集中し、鳥獣戯で今度は小魚の群れを再現し、オークの塊にぶつけた。
森の中を魚が泳いでいる。滅茶苦茶だがロマンティックでもある。この攻撃で小魚たちに噛まれたオークが二体お亡くなりになっていなければ。
『なんなんだよお前らぁ!』
アーケインテンペスト改の中でも動ける王がブレイドに近寄り力任せに殴りかかった。見切り2を使った回避により、空振りに終わったが。
更紗はブレイドに殴りかかった王に反射的に魔弾を撃ちそうになったが、直前で冷静になる。
(しっかりと倒しきらなくては)
すでに死にかけているオークに魔弾を飛ばし、その命を絶つ。
これで残るは王のみ。
「覚悟してもらおうか!」
ブレイドはトリプルファング改をお見舞いする。
王の脂肪は格別に分厚いが、肉体にはしっかりと傷が刻まれた。
「もう逃げられないからねー!」
アルマは距離を取りつつ王の分厚い脂肪を魔矢で貫く。
王の呼吸が荒くなり、動きが鈍ってきた。
「お前からはどんな素材がとれんの?」
サイラスは魔竜で巨大な混沌の魔獣を作り出し、王を襲わせた。
魔獣の爪が腹を引き裂き、王の必死の呼吸が虚しく響く。
『くそっ! ボクだけでも逃げ延びてやる……!』
死を目前にしながらも王は生存を諦めなかった。出入り口の前に立つブレイドに殴りかかろうとする。しかし破れかぶれの攻撃などブレイドには見切られる。
そして。
「許しませんからね」
更紗の放つ魔弾が王を射殺した。
●
冒険者たちは二つの部屋の中間地点で再会した。
どちらのグループも終わったら増援に向かうという方向性だったため、このようなことになった。
「いやー、オークのハーレムは強敵でしたね……」
芝居がかったセリフのあとに、アルマが満面の笑みを浮かべる。
「それじゃ更紗さーん! ちょうど材料もいっぱいあるし前に聞いたシャルガネの角煮? っていうの一緒に『調理』してみよー!」
「角煮ですか、アルマさん。ナイスあいであだと思います!」
亜人。料理。その言葉に苦い記憶が蘇るメンバーが数名。しかしすぐに頭から振り払った。
「王はおれが回収したいし、その料理に全部のオークを使うわけじゃないよな?」
サイラスが一応確認する。彼の頭の中は現在、素材のことに支配されている。肉、皮、骨、エーテル。他にも使えそうなもの全部。
「一匹だけでもすっごくおっきいし、普通にそこらにいるのを数匹材料にするつもりだよー」
サイラスはアルマの発言を聞いた直後に王の寝室へと炎の翼で飛んだ。
「ブレイドさんも出来上がりを楽しみにしててくださいね?」
「ああ、更紗さんとアルマさんの料理、楽しみにしている」
更紗は期待を滲ませるブレイドに、目を細めて可愛らしい笑みを浮かべた。
「私たちは木箱を荷馬車に積みませんか?」
サシャが小首をかしげつつ穏やかな笑みを浮かべ、アルベルトとハールに提案をする。
「力仕事なら任せろ!」
アルベルトがハキハキと喋りながら食料庫に向かう。
「美人の頼みだし、断る理由もないわな」
意気揚々と歩くアルベルトに、自分のペースで歩を進めるハールが続いた。
●
「よっ、もどったぜ~」
ギルドに帰ってきて最初にライリーに報告をしたのはハールだった。
「いや~なんだかんだいって俺の練度は皆に比べて低いからな。でもまあ生きて帰ってこられたなら儲けもんだな。というわけで俺を労ってくれると嬉しいんだが、ライリー?」
ボロボロになりはしなかった。けれども疲弊はしたし、命の奪い合いにより精神は削られた。それでも生きてはいる。
「まあ……なんだ、今は木箱の処遇の件で外にいるが、サシャさんをはじめここの依頼を請けるのは気のいい奴が多い。いい仕事をしているライリーさんの愚痴や気晴らしになら自分達も付き合うぞ?」
穏やかに平坦にブレイドが語る。相手を驚かせないための術だ。けれど語るのは本心だ。
「アルマさんと一緒にシャルガネの角煮も作ってきたんですよ。一緒に食べませんか?」
小さな両手を胸の前で合わせ、更紗がキラキラと瞳を輝かせる。
「「甘露アリの恵み」とか、「高級醤油」も使ってじっくり煮込んだんだよー。美味しいよー」
アルマがニコニコとマジカルポケットから大きな鍋を取り出した。いい匂いが漂う。
「おっ! それ、気になってたんだよな! 俺も食べて良いか?」
木箱の処遇の相談を終えたアルベルトとサシャがギルドの中に入ってくる。
サシャはふっと優しく微笑み、小さな声でライリーに告げた。
「お辛いですか? 私はライリーの気持ちを理解するには生き方が足りませんが……このお仕事についてなら、こうして信頼できる方が仕度して下さるからこそ戦い方を考えられます」
ライリーは気付いた。サシャが自分を理解できないのは、自分が殻に閉じこもるからだと。
「ライリーが後押しして下さるのは更に安心で、誇らしく出陣してます。自分が選んだ仕事を、思うままに進める私は幸せ者ですわ」
サシャの声の優しさに、ライリーの目の端に涙が溜まった。
「悩みがあれば聞くし、それは俺以外もそうだろ。責任を負う者同士、腹割って話せると俺は嬉しいけどね」
ハールの優しさにも嘘は無いと思う。だから涙が引っ込んでくれない。
「しかし……すまん、ドゥジン絡みだけは理解の外だからほかをあたってくれると助かる」
こちらを笑わせるためのようなブレイドの言葉に、ライリーは己の愚かさを再度自覚した。
「あたしが間違ってました。一人で勝手に考え込んでみなさんに心配かけて。……本当にごめんなさい!」
それからカウンターを出て、全員に向けて深く頭を下げた。
更紗は何らかの答えを得たライリーに「元気を出してくださいね」と励ましの言葉を贈った。
アルベルトは頭上に「?」マークを複数浮かべるが、きっとこれは良いことなのだろうと解釈し、快活な笑みを浮かべた。
アルマも事情はわからないがテンションの低さは気になっていたため、めでたしめでたしなのだろうと結論づけ、取り分ける皿を借りに食堂へ向かった。
サイラスはそっぽを向いていた。向こうはハーレムが滅びる、おれは自分の成長、変化のために動く。今回も素材ゲットできたし。
とはいえ甘く煮た肉は気になる。一杯頂きがっつり食べる。それでいいか。
それから、冒険者たちと職員と下っ端の宴が、ギルドの一角で始まった。
マスターコメント
ミドルシナリオ普通 報酬:多い7 / 6〜10人
2022年07月20日 13時36分43秒 公開
相談掲示板
よっ、ハールだ。しがない盗賊だよ。遅参失礼、よろしくな…ってんで、出発考えるとそろそろ話し合っといたほうが良いみたいだな。 つっても、俺はちょっと急用があって挨拶だけ先に…って感じなんだが。夜中にはまた書き込めると思うから、ちょいと待っててくれな!(仕事に出掛けていく)
戻ったぜー。成立まであと二人だが… 二手に分かれて同時攻略…ってことでいいのかな、これは。受付のお姉さんの先輩も誘拐犯さんもウォーリアなら、盾役に不足はないってこったな。俺は当たると死ぬから助かるぜ… オークはいずれも攻撃力防御力ともに高い、となれば戦闘においてはバフデバフの刺さり具合が重要になってきそうだな。 正面から攻略が難しそうなら、油断させる工夫とかも必要になってくるのかもしんねーけど。かなり酒飲んでるみてーだし、オークにおそれをなした近隣の住民を装って差し入れと称してさらに混ぜ物を提供するとか。
ブレイドだ、よろしく頼む。 成立するか微妙な所だが担当や作戦を決めておくのに賛成だ。 後から来ると思うがひとまず更紗さんとAの方を担当しようかと思う。 デバフと火力を任せる形になるが手数を生かしたり回避スキル積んで前衛やるかなと。 真っ向勝負も芸がないし木を倒して一度に相手する数を減らすのでも狙ってみようか…
お、しばらくぶり! ん、了解だ。そういや木があったな、木が…じゃあ、そっちをうまく使わせてもらうか。 じゃあ俺はBのほうにいくぜ。俺は(すぐにレベル上がってしまうからレベルの割に)練度もそう高い方じゃないから、工夫を凝らしていきたいところだ。
サシャと申します。今回もよろしくお願いします。 人手が少ないままでしたらNPCの方もご一緒にB→Aと倒すのはと思ったのですが、最低出発が6名でしたのね…よく確認してませんでしたわ。 NPCの方々にはどう分かれて頂きましょう? 皆様のスキルと戦い方に合せ手分けして頂けると更に強力な盾に成って頂けるかと。 私は皆様にブルーフレアを掛けた後は攻撃スキルを多く支度してBに参加させて頂きますね。 戦い方で思い浮かぶのは、Bも木を倒してオークを分断、1体ずつ倒す形ですがハールさまの戦い方がお決まりでしょうか?宜しければ合わさせて頂きます。
東雲更紗と申します。 先日ぶりや少しお久しぶりになります、よろしくお願いいたしますね。 出発人数が6人ですと集まるか少々不安もありますね。 行き先はブレイドさんとAのほうに回ろうかと思います。 NPCさん達の分かれ方ですか、うーん…そうですね 敵情報の所にあるAティボーさん同行、Bツェレンさん同行のままでもいいですし、 変更していただいても大丈夫ですよ。 足止めにアーケイン改、火力に超魔法、デバフに魔霞と一通りは準備していきますね。
そうだな…一応今日中に一度提出しておこう。 NPCの配分についてはそのままでもいいかな、と。 っと、悪い、具体的な戦い方について書いてなかったな。 Bも木を倒して分断して一体ずつ、って感じでOKだ。 ツェレンに意識が集中している間にハイディングで忍び寄って、 トリプルファングで攻撃の予定だ。 一体倒して手数を減らせたらデバフを仕込んでいく予定だが、 最初からハイディング+デバフを入れて皆の攻勢をサポートでもいける。
っと増えてたな!( 成立おめでとう。よろしく頼むぜ〜
No.9
サイラスだ、まあギリギリだが とりあえずA行こうかね、術あるのでそちら使う
ウォーリアのアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 出発時間ギリギリの参加になってしまい申し訳ない。 俺は、Bに向かおうと思う。
まぁ増えましたわね、改めて宜しくお願いします。 NPCの方々は班分けされてたのですね、見落としてましたわ。 教えて下さりありがとうございます。 ここまでで表明があった方を一覧にしてみました。 A班、ティボー様、ブレイド様、更紗様、サイラス様 B班、ツェレン様、ハール様、アルベルト様、サシャ ハール様は倒し方を教えて下さり感謝します。 私はハール様と合せながら、アルベルト様の動きもサポートさせてて頂きますね。
出発ギリギリの挨拶になっちゃってごめんね ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー 行き先はきれいに3:3で分かれてるみたいだしー… ボクはA班のほうにいってみるね