【若木】狂騒収まらない暴種
広大野人
コメント 15
シナリオID:2262
オープニング
港町ウシタ滞在中のジード・ランスウッドに組織幹部の一人、トレイシーが訪れていた。
「……という訳で、帝国領に向かいたいです。ジード様」
プレゼンの為に作成した数枚の書類。
それは、とある冒険者から得た情報が記されていた……『円種』と呼ばれる植物を模したようなクリーパーの出現についてだ。
「ふむ……『神実』の研究が一段落した今、新たな可能性を求めるのも悪くはないか」
「相手は生物ではないから成果が出るとは思えませんが、エーテルの枯渇した大地でも強い植物もあるかもしれませんし、可能性という意味なら十分に研究価値はあるもの……と認識しています」
「『瞳』は我が思うものではなかった。だが、それをより良い物へと進化させるに足る何かを得られるかもしれんな」
そう言って、ジードは浅く座っていた席から立ち上がると、一つの大きな木箱へと向かった。
中から取り出したのは『神実』の原苗。これを増やす方法はジードしか知らない。
「幾つか渡しておこう。ただし、使いどころには気をつけろ」
「畏まりました。成果が出たら連絡します」
極めて貴重な『神実』の原苗を受け取るトレイシー。
ジードに言った台詞に噓偽りはない。ただ……もう二度と会えないかもしれない……そんな予感も持っていた。
「大変、お世話になりました。ジード様」
「礼はいらん。優秀な研究者に何もさせないのは愚者のする事だと思っているだけだ。行った先での活躍を期待しているぞ」
トレイシーは深々と頭を下げる。
情がある訳ではない。けれど、自身の存在を適切に取り扱ってくれた事に対する感謝はあるからだ。
●
待ち合わせ場所はヴォーンの街だった。
領主であるイルダ・セルフォライドの館に集まったのは、王国騎士イェルド・ルリンと冒険者エクエス、研究員のトレイシー。そして……帝国から派遣されたという一人の男性。
「ガークハーグ出身のシュナン・ボートンだ。商人として、レイウェスト様が率いる帝国軍の活動に協力している」
明朗快活な声を発した商人は、一見すると屈強な戦士のような体格を持っていた。
クリーパーが跋扈する帝国領内を行商していても不思議ではない程に。
「我が故郷であるガークハーグの奪還に向けて、調査を引き継ぎたい」
「なるほど……」
ぶっきらぼうにイェルドは応えると広げられた帝国領内の地図を見た。
この商人の故郷であるガークハーグは、地方都市のようだ。規模的にはヴォーンの街よりも大きいようだが、それでも鎮守府都市ほどの規模ではない。
イルダが心配そうに確認する。
「調査に必要な費用を負担いただけるそうですが、本当に大丈夫なのですか?」
「心配無用。むしろ、王国の方々の手を勝手に借りたとあっては、帝国軍の顔に泥を塗ってしまう」
もっともらしい台詞を堂々と言われては、イルダもそれ以上の事は言えなかった。
「分かりました。ただ、クリーパーの脅威に対して、協力体制は継続という事でよろしいですね」
「勿論。得られた情報は必ず伝えよう」
即答する商人からは悪意や敵意は感じられない。
隠している……様子にも見えないとイェルドは思った。
「まぁ、やる気があるなら良い事だ。調査の引き継ぎに当たっての条件も大丈夫って事だな?」
確認するような質問にシュナンは頷くと、エクエスとトレイシーに視線を向ける。
「それも問題はない。俺は商人だから戦えないし、研究の取り纏めも忙しくてできない。むしろ、適任者がいるならありがたい話だ」
「よろしくお願いします」
「ちゃんと研究できるような体制なら文句はないかな……」
エクエスとトレイシーがそれぞれ応えるのであった。
●
前回の調査場所よりもやや北側の荒野に一行は向かっていた。
目撃情報によるとこの先には『円種』が大規模な群れとなっている……らしい。
「無駄に足音を立てなければ襲って来ないと分かってりゃ、調査も捗るってものだ」
「宙に浮いて研究できれば良いけど」
シュナンの台詞にトレイシーが背を伸ばしながら言った。
一方、警護役であるエクエスは警戒を続けながら周囲の風景を見ていた。
「何か……寂しい風景ですね。荒野が続いているだけで」
「以前は草原だったような気がするがな……何年も故郷に戻ってないから、覚えてねぇんだわ」
苦笑を浮かべるシュナン。
聞けば、商人として帝国内のあちらこちらの都市を回っていたという。
「帝国崩壊時はどこにいたのかな?」
トレイシーの質問に商人はやや間を空けてから答えた。
「オルセンにいたな。まぁ、一時は死ぬかと思ったぜ」
「ふーん……じゃ、分樹は見たんだ?」
「いやいや、怖くて建物の地下室に逃げ込んでいたから見てねぇよ」
この男、戦士のような身体つきではあるが、戦えるような性格はしていないらしい。
今も一行の一番後ろを歩いているし。
「そろそろ、目撃現場に到着じゃねぇ?」
見渡す限りの荒野の中、やや盛り上がった小さい丘の上に立つと、シュナンは手をかざした。
視線の先に土煙が広がっている。
『円種』が走り回っているのだろう。
「よし、俺らはここで大人しく観察しておくか」
「冒険者の邪魔する訳にもいかないからね。賛成だよ」
シュナンがどんと直立し、トレイシーはどこから取り出したのか持ち運びできる一本足の椅子のようなものを手にした。
その様子にエクエスが冒険者達に告げる。
「私はここで二人を護衛していますので、皆さんは安心して討伐に専念して下さい」
という事で、『円種』討伐の依頼が開始されるのであった。
解説
マスターより
リプレイ
見渡す限りの荒野の中、アルマ・ヴァレンタインは王国領側となる山々に眺めていた視線をエクエスへと向けた。
「引き続き、『円種』の調査だねー。エクエスさんもこの前ぶりだよー」
「はい。よろしくお願いします」
以前よりも人間らしくなった剣士。
王国から帝国に。思えば遠くまで来たものだ。
その時、アルマの脳裏にある老ドワーフの職人が浮かんだ……そういえば、塔で直接見た方が良いと……言う話があったからだ。
「エクエスさんと都合がつけば、みんなで今度いってみないー?」
「私はいつでも大丈夫ですよ」
一応、エクエスも冒険者という立場なので少しは自由が利くのだ。
それに……あの塔が絡む事ならば、確かめないといけないだろうし。
「もちろん、おねえさんも一緒していいのよね?」
エミリア・シバがエクエスの真横に並び、濃紫色の髪を揺らしながら訊いてきた。
合わせるようにロイ・アウレアも軽く手を挙げながらやって来る。
「オレも行きますよ。『円種』に関わりがあるかわからないが、例の黒い霧……黒紫這者との繋がりがあっても困るからな」
「そうよね……姿形は違ってもクリーパー。調べてみて無関係ならそれでも良し、よね」
「どうだろう。今の所、黒紫這者を連想させないだろうか?」
ロイの質問にアルマは首を傾げた。
現時点では共通点は感じられない……が、そもそも、まだ調べている最中なのだから、今日の依頼で何か分かる事もあるかもしれないとも思うのだった。
一方、研究者であるトレイシーの隣にはルベア・ベルニがミア=リゼルと共に並んでいた。
「無事に就職できたけど、なかなかやりごたえのある研究になりそうだよ」
組織から見事に離反できた。
帝国領に入っている分には一安心というものだ……もっとも、裏切りに勘付かれて刺客が送り込まれる可能性もある訳だが……。
「そうみたいね……こうも『円種』の群れが多いと、奥に踏み込めば踏み込む程、数も多くなっていくんだと思ってしまうわ」
ルベアが神妙な顔つきで告げる。
確認されている『円種』の数は前回の倍以上は確実なのだ。もっと奥に近づけば『円種』の数が増えるのではないかと疑うのは真っ当だろう。
「今回も引き続き調査……ですね」
ミアが手を翳して一番近い土煙を眺める。
前の依頼でもそこそこの情報を得る事は出来ているが、今回は研究者のトレイシーも一緒なのだ。色々な事が分かるかもしれない。なにせ彼女は、あのジード・ランスウッドが一目置いた研究者なのだから。
知った顔でトレイシーは頷く。
「クリーパーとしての性質は変わらないだろうからね」
「確か、エーテルを求めるものだと……でも、地上をずっと転がっているだけというのも変ですよね」
ぐるぐるとただ遊びで転がしている訳がない。
「……そう聞くと、なんだか『元』がありそうな気がする話だけど、それはそう簡単には見つからないかな」
ルベアの台詞にトレイシーは含みのある笑いを浮かべた。
「相変わらず鋭いじゃないか。種って言うのならば、当然、元があっても不思議ではないからね」
既に研究者の視線は二人ではなく、『円種』へと向いていた。
白狼の胴を撫でながら、アルシエラ・ライゼルは帝国商人であるシュナンの一方的な話を聞いていた。
「……まぁ、そんな訳で、この先に俺の故郷ガークハーグがあるって訳だ」
要約するとガークハーグという街は帝国崩壊時の混乱に巻き込まれたらしい。
街を脱出できたという住民は、ほぼ居なかったようで文字通りの全滅という事だ。
「そう……」
決して素っ気ない訳ではないのが、アルシエラはとりあえず応えた。
この手の話は珍しい訳ではない。帝国が滅んだ時、幾つもの都市や街が犠牲になっているのだから。
「ところで、冒険者の嬢ちゃん。その子は、相棒かなんかか?」
「……こっちは相方のシア」
「そうかそうか。俺にもいるんだよ。もっとも、ただの雑種犬だけど、な!」
豪快に笑う様子からは悪人の気配はしない。たぶん、根っからこんな性格をしているのだろう。
サイラスは特に誰かと絡む事はなく、一人、僅かに盛り上がった地面の上で仁王立ちしていた。
エクエスを除けば特段、見知った仲でもないし、関わらなくとも依頼には影響はなさそうだ……となると、サイラスに出来る事は一つ。
竜花琴を手にした。
「見た目、明らかな形状の種……か」
形から入る――訳ではないかもしれないが、植物型のクリーパーならば特徴を引き継いでいる可能性は大いにある。
「討伐しながら解明するだけだな」
なんにせよ、倒さないと先には進めないのだから。
●
ある程度の距離まで詰めた所で先頭を行くルベアが白鞭を構えたアルシエラの動きを制した。その意図をアルシエラはすぐに理解する。
「行くの……かな?」
群れは幾つかある事は分かっている。一番近い群れを誘き出すタイミングで、ルベアが何かを『試そう』としていたからだ。
「多分、それの射程は個体差でギリギリだと思うから……先に、私から行くよ」
そう告げるとルベアは駆け出した。
同時に体中のエーテルを噴出し、宙を飛ぶように跳ねる――持てる力を全て掛けて、ルベアが確かめたのは……。
「思った通り、地面を通じなければ、感知されない」
シーフが行使できるエアーライドは、高くはないが宙から浮いて移動できるようになる。その結果、『円種』は接近するルベアに全く気が付かなかったのだ。
なお、判明したこの情報は後々、大きな意味を持つ事になる。
もっともルベアの行為は『かなり危険』な事だっただろう。万が一、『円種』の感知方法が全く別だったら彼女は集中攻撃を受けていたのだから。
「シア、行って!」
アルシエラが相方にお願いすると同時に、群れから一番近い『円種』に射程ギリギリの射撃を行う。
「……攻撃を受けた以外は……変わらない、ですね」
どうやら群れの中で感覚を共有している様子もないようだ。今回も組織的に統率された動きをしてこないと見ていいだろう。
直前まで地中をスキルで確認していたエミリアがストーンブラストを放っていた。『円種』……ではなく、やや離れた所だ。
「爆発の音や振動では誘導できないみたいね……感知できるのは人の足音かしら」
もしくは生物の足音に誤認させる事ができれば確認できるかもしれないが……ただ、試してみた価値はあった。
「なるべく距離を取りながら……でも、エクエスちゃん達が観察しやすいようにはしたいわね」
再びエーテルを高める。いつもの得意な戦闘スタイルではないが、だからと言って戦えない訳ではない。
ロイがエミリアの台詞に同意しつつ、ルプスに『円種』を誘き出すように仕向けると、頭の中で考察を続けていた。
(足音を感知するなら、どこかに感覚器官があるんだろうな……)
空気に伝わる揺れは届いていない様子なので、そう考えると残りは接地している地面からとなる。ただ一般的な植物とクリーパーはそもそも存在自体が違うので推察自体が難しいとも言える。
(円種の一部が欠損して感知能力が鈍るなら、その部位が触覚のような感知器器官かも……)
問題があるとすれば、その一部をどう明らかにするかだ。
『円種』は一つの種のようなものがグルグルと回転して走り回っている。一先ずは弱点や特性を狙いやすい所を把握するのが先決だろう。
注意深く観察を続けるロイの脳裏に、一つの仮定が過った。
(植物なら親株の存在や成長している可能性も……)
種でこの位の大きさなのだ。果たして、成長しきってしまうと……どうなってしまうのだろうか……。
トレイシーとシュナンの二人には現地に到着するまでの間、念写で状況を知らせておいて良かったとアルマは内心思っていた。
予習……という訳ではないが、事前にある程度分かっている状態からと何も知らない場合では、初見から得られる情報量と分析量は変わって来るからだ。
「『円種』は視覚ではなくて振動で獲物を感知してるって実演したいけれど……」
やや先行している仲間達を追いかける。
その真横をミアが並んだ。
「戦闘中は静寂地帯が使えないですからね」
「そうなんだよ。まずは戦闘状態に入った群れを討伐してからかなー」
群れはまだ奥にも控えているので慌てる事はまだ無い。
むしろ、支援職としては、仲間が戦闘でダメージを受けてしまって継戦能力が低下してしまう事を今、心配した方が良いだろう。
「『円種』が爆発した時に発生する黒い霧の影響も、できれば早く解除したいです」
ミアの言葉にアルマは頷いた。
まだ判明していない攻撃パターンや距離を詰められた場合も想定して動く必要がありそうだからだ。
射程を活かしてサイラスが射撃攻撃を開始していた。
「なるほど。飛び道具で攻撃を受けた場合は、おおよその方向は感知できるという事か」
一定範囲に効果が及ぶスキルや攻撃に対しては感知できなくとも、矢や弾など単発の物が命中した際には、飛んできた方角に向けて移動してくるようだ。
「それに、あの動き……」
群れの中でもやはり、規則性は見られない『円種』。誰かの指示によって動いている訳が無い……が、それを無意味と決めつけるのも違うようだ。
「名前の通り、種なら発芽する場所があるんだろう」
それが土の中なのか、あるいは地表なのか分からないが……。
前衛で戦う仲間達の姿と『円種』の位置を確認しながら、サイラスは次の矢を番えるのであった。
一つ目の群れを苦も無く全滅させ、二つ目の群れも何とか倒し切った。
だが、三つ目の群れに関して、冒険者達は苦戦する――理由はスキルの使用回数だった。
「そろそろ効果が切れますので注意して下さい」
ミアの声が響いた。
ブルーフレアの効果時間は限られている。一方、『円種』は一気に倒しきれないと爆発するし、その度にバッドステータスをばら撒いて来るので厄介な事この上ない。
「ボク達も積極的に前に出て『円種』を引き付けようかな」
スキルを行使するエーテルが枯渇しかかっているが、『円種』からの攻撃の肩代わり位ならできるとアルマが意気込んだ。
「私達も敵を引き付けますので」
「よろしくねー」
二人が最前線に進む事で状況は少し改善されるが、もう少し早いタイミングでも良かったかもしれない。
戦場を走り回っていたルベアは顔を流れる汗をそのままに短剣を振り続ける。
苦し紛れに放ってきた触手のようなものを紙一重で避け、エーテルを振り絞って『円種』に多段攻撃を叩き込んだ。
仲間からの援護射撃を受けていた事もあって、爆発する前に何とか倒せたが、視界の中、別の『円種』があらぬ方向に向かって移動していくのが見えた。
「奥の個体が逃げ出している」
全力で走っても間に合うとは思えないし、そもそも、他の『円種』も残っているので持ち場を離れる事はできない。
「次は私が、行くよ……」
相方を呼び戻しつつ、アルシエラが白鞭を振りかぶりながら駆ける。足の速さはルベアに敵わないがそれでも射程の長い武器を手にしている事もあるので、機動戦は多少有利だ。
また、今回、冒険者達が連れて来たペットは大きな活躍を果たした。アルシエラのシアとロイのルプスが居なければ討伐数はもう少し下がったかもしれない。
誘き出しと盾となっていたのだ。これは後でしっかりと褒めてあげなければと思う。
「届いて」
願うような言葉と共にエーテルを込めた一射をアルシエラは放つ。
それは深々と『円種』の硬い表皮を貫いた……が、それだけではまだ倒せない。
「撃ち漏らしはできるだけオレの方でカバーしますから」
そこへ、別方向からロイの声と共に鋭い矢が飛翔してきた。
できれば出現している『円種』を全て討伐させたい所だが、無理は禁物だ。それに今回の依頼、『円種』の全滅を目的とはしていない。
(分散して別々の方角に向かって逃げる……誰かが指示を出していないとすれば、最初からそうプログラムされているのか?)
植物ではないので『円種』から共感できるものは得られなかったが、その分、推し量る事はできそうだった。
そして、ロイの推測にエミリアも近い考えに至っていた。
「動きに統一感はないけれど……無駄がないようにも思えるわね」
短絡的に見れば纏まりのない機動で走り回っているように思える『円種』だが、戦闘中でなければ、大地の隅々を確認しているように思えたのだ。
「……きっと、そこに意味があるんだわ」
「植物に似せるという事は、自然にも似るという事だ。個体同士の連携も無い、全体としての纏まりも無い。だが一つの目的があるんだろうな。だから、無駄がないように見える」
エミリアの攻撃に合わせるに矢を放つサイラス。
これが動植物であれば、例えば――種としての繁栄、生息域の拡大、という大目的があるという事だ。
(……大目的まで『似せた』なら、そういう事だな)
クリーパーはエーテルを吸い尽くしていく。
この『円種』も、そこは変わらないはずなのだから。
●
幾つかの『円種』は逃がしてしまったものの、かなりの数を討伐した。
トレイシーは戦いから戻ってきた冒険者達に向かって手を叩いて出迎える。
「なかなか楽しめたよ。特に『光縛封』で閉じ込めた時はどうなるか、実に興味深かったし、静寂地帯も良い試みだったよ。結果は兎も角、ね~」
結果的に閉じ込めても行動に変化はなく、エリアサイレンスも音が発生しないだけで、地面を伝わる振動は感知されていたのだ。
「やってみないとどうなるか分からない以上、意味はあるという事だから、研究者としては有意義だったよ」
「それなら良かったけど」
安心した様子のアルマにエクエスが相槌を何度も打った。
「私は、ピースしながらブンブンと腕を振っているから、最初はアルマさんが何をしているのかと思いましたよ」
「アピールし過ぎたね。『円種』がいっぱい寄ってきたから」
一連の事で分かったのは、『円種』が足音ではなく振動で感知しているという事だ。
それも生物と分かる足音だ。人だけではなく狼も認識していたので、馬や牛などにも反応するだろうか。
ロイが荒野を見渡す――見渡す限りの荒野に、動物の気配はない。
「……多数の『円種』が大地を走って植物を踏み荒らし、生き物に襲い掛かってくるという事だな」
今、冒険者達が見ている光景はその惨状の結果という事なのだろう。
トレイシーの方に振り返ってロイは話を続ける。
「此処でこの有り様だから、先は酷い状態かもな」
「だろうね」
両肩を竦めるトレイシー。そこへ、アルシエラが干し肉と水筒を回収して戻ってきた。『円種』が食べたりするのかと思ってばら撒いたものだが、見向きもされなかったのだ。付け加えると閃光塗弾も『円種』の気を引くものではなかった。
「本物の種なら、どこかで発芽するもの……と思うけど……」
「それが種だしね。ただ……植物の種っていうのは、発芽する条件が決まっているのさ」
いかにも研究者ぶっている彼女の台詞に触発され、アルシエラの頭の中で何かが閃いた。
「発芽する条件……もしかして、『円種』も条件がある? いや……条件を満たしたから行動が発生する?」
その洞察にミアがアッと声を挙げる。
「クリーパーの動きが不自然だと思っていたのですが、条件が引き金となって行動を起こすのであれば、別々の個体である『円種』の動きが似る理由になりますね」
「なんだい、私がいなくとも問題なく考える事ができるじゃないか」
乾いた笑い声を上げてトレイシーはアルシエラとミアの推察に同意する。
ミアが慌てて手を振り、専門家の見立ては必要ですと伝えると、続けて疑問を口にした。
「私は『円種』は種みたいな見た目だと思うのですが、元がどこかにあったりするのでしょうか?」
その質問にトレイシーはコクリと頷くと北の方角を指さした。
「一般的に種は自然発生しないからね。種を発生させる『親』が存在していると思って良いよ。それがどんな形状しているか分からないけれど」
『親』がどこに存在するのか、現時点では分からない。ただ、『円種』の活動範囲から推測するに、あり得ない程遠くもないだろう。
「オレ達が戦ったのは『親』が作り出したものと言う事か……だとしたら、これだけの大きさと数を生み出せる『親』というのは、どの位の存在だ?」
ロイの質問に一行の視線がトレイシーに集まった。
『円種』の大きさは人の子供位はある。
例えば、林檎の実は拳程の大きさだろう。その実をつける林檎の木は見上げるほどある訳で……。
「恐ろしい所に気が付いたね。まぁ、単純比較という話で良いなら……聞きたい?」
「あまり聞きたくないかもだけど、聞かないといけないよね。これから先、ボク達は場合によってはそれを倒さないといけないだろうから」
アルマが浮かべた苦笑にトレイシーは頷いてから面々に告げた。
「少なく見積もっても、屋敷一つは超える大きさじゃないかな……」
それほどの大きさのクリーパーは大型級にも匹敵するかもしれない。
当然の事ながら、討伐する事自体、大変なものになってしまう。
「……エミリアさんに調べて貰ったようだけど、幸いな事に地中に根っこは伸びていないから、まぁ、地下茎で増えるタイプじゃないのは救いだと思うよ」
地下茎とは文字通り、地中の中で伸びていく茎の事で、一部の植物に見られている。
万が一にも目に見えない地面の中で広がっていたら手に負えない事になっていただろう。
「ただ、植物と完全に一緒ではないから、地下茎ではないものの、類似の可能性は想定していて良いと思うよ。大型級とは、そんな突拍子もない存在だと思っているしね」
軽い感じでそんな所感を述べるトレイシーに対し、アルシエラは深刻そうに呟いた。
「大型級にも、匹敵する……植物型のクリーパー……」
トレイシーは面々を順に見渡した。
思い至っている事がある様子だ。
「私はおおよそ想像ついているけれど……例えば、屋敷よりも大きいクリーパーを冒険者達の中には見たり、聞いている人もいるんじゃないかな?」
「「??」」
トレイシーは冒険者達の反応を見て、口元を歪めた。
そして、まるで死刑宣告するようにその名を口にする。
「天霧りに消ゆる幽界樹」
「まさか……いや、あの黒い霧の正体がそうなのであれば、あり得るか……」
ロイが言葉を喉奥から振り絞るように発する。
知らない訳がない。冒険者の中には帝国南部鎮守都市ヴィントで戦った者もいるのだ。
それは帝都中央に現れた樹木型の超大型クリーパー。帝国崩壊時に主要都市にも出現しており、ガークハーグにも出現している可能性もある。
ヴィントに出現したクリーパーですら、その討伐には苦労しているのだ。同等クラスでなくとも、厄介な敵である事は確かだ。
「まぁ、まだ決まった訳じゃないし」
気休めのようにトレイシーは告げる。
そして、くるくると指先を回しつつ台詞を続けた。
「今回の戦闘を見させて貰ったおかげで、全部とは言わないけれど、この先に進むために必要な情報は揃ったんじゃないかな。手に負えないようなクリーパーが出たら、また冒険者達にお願いするだろうしね。ところで、サイラスさんはさっきから何をしているのかな?」
「レポート提出の為のメモを作成している」
「へぇ。まぁ、ありがたい話だね。私にも後で見せてよ」
ぐいっと頭をサイラスに寄せてトレイシーはメモを覗き込んだ。
『円種』は死体が残らず塵と化す事や、弱った個体が別の群れと合流しても、特段変わった反応を示さなかった事などが記されていた。
観察した情報をそのまま文章に書いただけでは報告書にならない。依頼主が求めているのは情報に基づいた分析なので、ギルドに戻ってから丁寧に書き残すのは大事な事だ。
「……勝手にしろ」
「クールだねぇ」
サイラスの返事に微笑を浮かべるトレイシーだった。
一方、エミリアは依頼主であるシュナンに声を掛けていた。
この帝国商人を疑っている訳ではないが、やはり、どんな人物なのかは知っておいて損はないだろうし。
「それで、シュナンちゃんは商人さんなのよね? 普段はどんな物を取り扱ってるのかしら?」
「これさ」
そう言ってポケットの中から取り出した金貨一枚、エミリアに投げて寄越した。
エミリアは危なげなくキャッチする。
「模様の入っていない硬貨……じゃなくて、金そのものね」
「そういう事だ。貴金属のやり取りが主体さ。だから、残念だが冒険者に役立つものはないな」
流石に金の剣や鎧は売ってはいないみたいだ。
「それは残念ね。エクエスちゃんと一緒にお買い物ができると思ったのに」
「……金でも買いますか?」
真横に立っていたエクエスが首を傾げる。
買った所であまり意味はない……というか、換金の手間賃を入れたら赤字になるだけだから買う必要はないというものだ。
「そうね……いずれ世界を巡る旅に出るのなら、あってもいいかもだけど」
例えば未開の地に行くような事があれば……何かの足しにはなるかもしれないと思うのであった。
思った以上にトレイシーが冒険者達と友好的にやり取りをしている様子にそれまで黙って見守っていたルベアが、話に区切りがついた所でこっそりと彼女を呼んだ。
「面食らってない? 少なくともここに居る皆、裏はない人達だろうけど……」
「おや、心配してくれているのかい?」
茶化すように笑うトレイシーに照れ隠すよう、視線を外しながらルベアは答える。
「……多少なりとも、信頼してくれる相手に不快な思いをさせたくないし。それに、こういう関係性の方が研究もやりやすいでしょ?」
誰も信用していない――かつて、トレイシーはそう言った。けれど、今、彼女の表情からはそのようには見えない。共に謎に挑む仲間のように、冒険者達と接している。それが嬉しく思えた。
「そうだね。研究で大事なのはコミュニケーションだから。私は研究者で色々な事を知っているつもりだけど、それはあくまで知識に過ぎない。ルベアのようにクリーパーの前に立つなんてできないから。これからも頼りにさせてもらうよ」
耳元で愛を囁くように静かに告げたトレイシーにルベアは思わず身を引いてしまうのであった。
マスターコメント
ミドルシナリオ普通 報酬:標準7 / 6〜8人
2022年06月29日 21時29分48秒 公開
相談掲示板
ヒーラーのミア=リゼルです。よろしくお願いしますね。 ヴォーンの街のことも気になりますが…まだ手は出せないので。 今回は観察している皆さんのサポートですね。基本的に安全は保証されているものとして…前回の結果も含め、踏み込んだ条件潰しが必要、ということでしょうか…? 行動内容はまだ考え中です…取り急ぎ、ご挨拶のみで失礼しますね。
ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー とりあえず道すがら念写で前回の様子を映したりして 観察と分析の参考にでもしてもらおうかなあと 戦闘部分は前回の再現も入れたりつつ追加でほかのことの確認もとかー…? まだ思い浮かばないのでひとまずこのへんで
シーフのルベアよ、宜しく。 トレイシー引っ張って来れた…! 今回新たに確認できそうなことと言えば、群同士の連動性とかよね…。 とりあえず数が前回に増して多いし、最初は範囲攻撃で数減らしをしたいところだけど。
シューターのロイ・アウレアです。ヨロシク。 動きの観察重視、一定ラウンドで逃亡って事だから倒せる分は倒しても…良いのかな? ルプスと連携して狩猟の要領で追込み(囮)や引き回しと 単体&範囲攻撃で反応を見るのを考えてます。 円種を合流させたり、皆さんの範囲攻撃内に引き寄せたりも可能なので して欲しい動きがあればお知らせください。極力合わせるよ。
取り急ぎの挨拶だけになってしまうけれど、 シーフのエミリアよ、よろしくね。 前回の報告書なども踏まえて、何ができるかを考えてみようかと思うわ。
シューターのアルシエラ……宜しくね。 みんな、色々試してきたんだ。 倒して行けば成功にはなるみたいだね。 何か思いついたらやってみる。
はっ…! も、もう明後日の朝出発ですか!? 今夜と明日で詰めないとですね… とりあえず戦闘に関しては、確か祈雷には反応しなかった…ので …あれ、クリーパーってことは、「あらゆる手段を用いてエーテルを収集しようとする」……はず、ですよね? それなのにぐるぐる地面の上を回っているだけなんて… 地中に何か、あるんでしょうか? 推測は空振り三振に定評がある後ろの人なので何もない可能性もありますけど、ちょっとこのあたりを調べてみますね。
No.8
サイラスだ,まあ今更だが 弓持ち込んで遠距離で潰すかなと。
相手が植物っぽいのに加えて『振動(足音)』足音ってあるので、実は地中に本体がいたりしないかと少し思っていたので、双波で持っていって何か埋まっていないか調査を思っているわ。 スキル頼みでしかないのでミアちゃんとはアプローチが違うかもだけれど、情報を合わせられればと。 あと今回は魔法も持っていく予定で、爆炎当たりの対象識別のない【爆】とか地面に衝撃を与えたら、そこに敵が集まらないかなども試してみたい、とか思っているわ。 うまくいけば敵を誘導するのにも使えそうだし。
植物云々の話が出てたので 【植物共感】を持つつ予定の人が居たら教えて欲しいな。 今のところ【植物共感】と【超視力】の予定です。 被ってたら別の汎用で観察するね。
なるほど、地中に本体…その可能性もありますね。 私はヒーラーなので地中のものを波系スキルで調べることはできないのですが、何か別の方法でお手伝いができたら…!いろんな視点から調べてみましょう。 植物共感…周辺の植物から情報を得る、ということもできそうですね。 もし円種が遠隔操作系のクリーパーの端末だとしたら…ジャマー…とか…試してみる価値はあるでしょうか?
わ、もうすぐ出発になったねー 汎用は先にいった念写とー… 音(振動?)で感知するのを実演するのにエリアサイレンスにしようかなと 誘導にご協力してもらえるみたいなので まだ試してなかった?普段はお互い距離を空けてる円種を 光縛封で狭い範囲に複数入れてみて何か反応とかしないか試してみるねー あ、ジャマーは前回やってみたんだけど手応えなさそうな感じだったかもー…?
はっ、すでに試した後でした…!!>ジャマー ありがとうございます。それなら別のスキルを…何か、試してみますね!
1日を切ったので【植物共感】を入れたプレで確定するね。 空振りならそれはそれで、植物とも違うと判るから問題なしと言う事で 明日はよろしく。
No.15
とりあえず普通に潰すのと、超視覚で観察に専念しようかと。基本は大事だし