【観桜会】桜とお城と玉こんにゃくと
そうすけ
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シナリオID:2044
オープニング
●
満開の桜花に彩られた並木が両側に連なり、屋台の店から威勢のよい売り声が飛び交う。
そこここに吊るされたヒカリゴケのランタンが、人いきれに煽られるのか、かすかに揺れ動きながら、夜桜見物の人々をふんわりと照らす。
ゴールディの情報屋ラズリーは、仕事帰りに立ち寄った自然公園の、薄紅色に霞む景色を見て息を飲んだ。
「すごいなあ。それに、めっちゃ、ようさん人おるやん。まあ、こんなに綺麗やったら、そら、みんな花見にくるわ」
吹きかかる桜の花びらが、頭に肩に降り積もる。
道の上に張りだす枝をよく見ると、気の早い桜はもう若葉の芽を出していた。今が八分咲き、早ければ明日にも満開になるだろう。
(どうせやったら昼の桜も見て帰らんと損やな。今日は宿をさがして泊まろか)
観桜会と銘打たれた自然公園の花見は、今年の開催でちょうど10年になる。
屋台の園内出店が特別に許可されるのは、桜の咲き始めから散り初めまでのおおよそ一週間だけだ。ラズリーに花見を勧めた人曰く、夜間の観桜会は今年が始めての試みらしい。
(桜の木に火がついて、火事になったらアカンという理屈らしいけど……。いままでやらんかったんは、ホンマもったいない)
万が一にも風や酔っ払いの悪戯で、提灯やランタンの火が枝に移り、火事になると大変だ。だから、これまでは、桜の枝や木の近くに提灯やランタンを吊るすことか禁じられていた。ヒカリゴケのランタンが冒険者たちの提案よって発明されたおかげで、夜間の観桜会が可能になったのである。
ちなみに、視界を埋め尽くす桜の木に吊るされたヒカリゴケのランタンは、すべてヴィンダールヴルの工房からの貸し出しだ。
(ぜんぶ無償で貸し出しって、太っ腹やな。と、そんなことよりも)
ラズリーは視線を下げると、きょろきょろと園内を見まわした。
知り合いが屋台を出していると聞いていたのだが。
「あ、あった。あった――」
目的の屋台をみつけて歩み寄ろうとしたとたん、怒りに弾けた大音声が、ゴザを広げて酒盛りをする花見客のふらふらした笑いを散らした。
「バカヤロウ!!」
ラズリーが見ている前で頭にねじり鉢巻をまいた体の大きな男が、まだ顔に幼さを残した青年の頭に拳骨を落とす。一発、二発、三発。ゴン、ゴン、ゴン。
「ど、どないしたん?」
「どうしたも、こうしたもあるか。あれを見てみろよ。ちょっと目を離した隙に、こいつが面白がってたくさん作りやがった」
男の横からひょいと屋台の裏を覗く。
子ブタを丸ごとに込めそうな大釜の中に、三色団子がたくさん入っていた。サヤエンドウとゴボウ、長ネギ、ニンジンも入っている。団子と団子の間にちらっと見えているのは、鶏肉か。
「え……っと、なに、これ。もしかして、その子が煮物に甘い団子をぶち込んだから怒ってるんか?」
「団子じゃねぇよ、玉こんにゃく……。え、知らねぇのか?」
ラズリーが三色団子だと思ったのは、野菜で色付けされた玉こんにゃくだった。スイーツではない。
青年が、玉こんにゃくの色づけが面白くて、ついつい作りすぎてしまったと項垂れる。
「売れのこっちまったら大損だ」、と頭を抱える男。
青年は小さな体をますます小さくする。
玉こんにゃくの煮物は一日ぐらいは持つだろう。が、できれば早めに売り切ってしまいたい。味が染み込んで美味しさが増している、といったところで昨夜の作り残しを買いたがる客はそういないだろう。
「ついでに様子を見にきただけやけど……しゃーない、うちも売る。手伝ったるから、エプロン貸して」
満開の桜花に彩られた並木が両側に連なり、屋台の店から威勢のよい売り声が飛び交う。
そこここに吊るされたヒカリゴケのランタンが、人いきれに煽られるのか、かすかに揺れ動きながら、夜桜見物の人々をふんわりと照らす。
ゴールディの情報屋ラズリーは、仕事帰りに立ち寄った自然公園の、薄紅色に霞む景色を見て息を飲んだ。
「すごいなあ。それに、めっちゃ、ようさん人おるやん。まあ、こんなに綺麗やったら、そら、みんな花見にくるわ」
吹きかかる桜の花びらが、頭に肩に降り積もる。
道の上に張りだす枝をよく見ると、気の早い桜はもう若葉の芽を出していた。今が八分咲き、早ければ明日にも満開になるだろう。
(どうせやったら昼の桜も見て帰らんと損やな。今日は宿をさがして泊まろか)
観桜会と銘打たれた自然公園の花見は、今年の開催でちょうど10年になる。
屋台の園内出店が特別に許可されるのは、桜の咲き始めから散り初めまでのおおよそ一週間だけだ。ラズリーに花見を勧めた人曰く、夜間の観桜会は今年が始めての試みらしい。
(桜の木に火がついて、火事になったらアカンという理屈らしいけど……。いままでやらんかったんは、ホンマもったいない)
万が一にも風や酔っ払いの悪戯で、提灯やランタンの火が枝に移り、火事になると大変だ。だから、これまでは、桜の枝や木の近くに提灯やランタンを吊るすことか禁じられていた。ヒカリゴケのランタンが冒険者たちの提案よって発明されたおかげで、夜間の観桜会が可能になったのである。
ちなみに、視界を埋め尽くす桜の木に吊るされたヒカリゴケのランタンは、すべてヴィンダールヴルの工房からの貸し出しだ。
(ぜんぶ無償で貸し出しって、太っ腹やな。と、そんなことよりも)
ラズリーは視線を下げると、きょろきょろと園内を見まわした。
知り合いが屋台を出していると聞いていたのだが。
「あ、あった。あった――」
目的の屋台をみつけて歩み寄ろうとしたとたん、怒りに弾けた大音声が、ゴザを広げて酒盛りをする花見客のふらふらした笑いを散らした。
「バカヤロウ!!」
ラズリーが見ている前で頭にねじり鉢巻をまいた体の大きな男が、まだ顔に幼さを残した青年の頭に拳骨を落とす。一発、二発、三発。ゴン、ゴン、ゴン。
「ど、どないしたん?」
「どうしたも、こうしたもあるか。あれを見てみろよ。ちょっと目を離した隙に、こいつが面白がってたくさん作りやがった」
男の横からひょいと屋台の裏を覗く。
子ブタを丸ごとに込めそうな大釜の中に、三色団子がたくさん入っていた。サヤエンドウとゴボウ、長ネギ、ニンジンも入っている。団子と団子の間にちらっと見えているのは、鶏肉か。
「え……っと、なに、これ。もしかして、その子が煮物に甘い団子をぶち込んだから怒ってるんか?」
「団子じゃねぇよ、玉こんにゃく……。え、知らねぇのか?」
ラズリーが三色団子だと思ったのは、野菜で色付けされた玉こんにゃくだった。スイーツではない。
青年が、玉こんにゃくの色づけが面白くて、ついつい作りすぎてしまったと項垂れる。
「売れのこっちまったら大損だ」、と頭を抱える男。
青年は小さな体をますます小さくする。
玉こんにゃくの煮物は一日ぐらいは持つだろう。が、できれば早めに売り切ってしまいたい。味が染み込んで美味しさが増している、といったところで昨夜の作り残しを買いたがる客はそういないだろう。
「ついでに様子を見にきただけやけど……しゃーない、うちも売る。手伝ったるから、エプロン貸して」
解説
●
桜が満開の春の一日、屋台が立ち並ぶ自然公園で開催される観桜会に参加しましょう。
会場内には射的やさまざまな食べ物の屋台のほか、射的場などがあります。
桜の下で家族や友だちと宴会したり、桜並木をそぞろ歩きしながら屋台を冷やかしたり、はたまた自分で屋台を出したり。
思い思いに過ごしてください。
・描写される時間帯は、昼前から夜まで。OPの翌日となります。
晴天。夜も雲がなく、月が出ます。時々風は吹きますが、寒くはありません。
・桜、満開です。
・自然公園はかなり広く、公園の中心にはまわりを堀で囲った城のような館が建っています。
夜はライトアップされます。
・お堀を手漕ぎボートでまわることができます。
・公園内には明かりの乏しい場所があり、廃れた礼拝堂まで桜の栞を取りに行く、という肝試しイベントも行われています。
・ラズリーの知り合いの屋台で玉こんにゃくが売られています。美味しいですよ。
※ご希望があれば、ヒカリゴケのランタンをお貸しいたします(協賛・ヴィンダールヴルの工房)。プレイングに貸出希望とご記入ください。
※未成年キャラの飲酒は描写しません。あしからずご了承くださいませ。
マスターより
ラズリーの知り合い屋台を手伝う必要はありませんが、玉こんにゃくは美味しいですよ(えー)。
よろしければご参加ください。
リプレイ
●
カズマ クレセントブラッドは、凝視していたら吸い込まれてしまいそうな、真っ青な空に向かって体をのばした。
まだ冷たい風を首筋に感じながら、薄紅色がとてもきれいな景色を見まわす。
早朝にもかかわらず、周囲には早くも花見特有のざわめきが満ち始めている。大勢の人がやってくる気配がしていた。
「へぇ、縁日みたいな感じだな……さてと、俺もちょっとは頑張るかな!」
それにしても、よくこんないい場所がとれたものだ。
桜の並木道の向こうでは大道芸をする人がいたり、熊のぬいぐるみを着た人がりんご飴を売り歩いていたり。
屋台を構えた場所は、広い公園の中心に建つ、まるで城のように立派な白亜の館へ向かう道沿いだった。
「おおーい、カズマ。手が止まってンぞ。それじゃあいつまでたっても、友だちと遊びに行けないぜ」
うるさいよ、などと店のものたちに憎まれ口をたたきながらも、カズマは笑顔だ。
それもそのはず、屋台の手伝いが終われば、仲のよいみんなと一緒に桜を見ながら屋台を巡ることになっている。
(その前に、やることが山盛りだけど)
ただ設営の手伝いをするためだけに駆り出されたのではない、銭勘定の確かさを買われて売りの手伝も頼まれていた。
手伝いを頼んだものにすれば、それに加えて、若くてカッコイイ青年を店の前に立たせておけば、若い女の子がたくさん買いに集まってくる……という計算をしたようだ。
そんな思惑をまったく感知していないカズマは、食材が入った箱を持ち上げた。
中身はキャベツ玉かジャガイモか、やたらと重い。
腰を痛めないように気をつけながら、指定された場所まで運ぶ。
夜は夜でやらなければならないことがある。タイミングが重要なその仕事で、腰を痛めていると思うように動けない。だから気をつけなくては。
(夜が楽しみだなあ)
その時のことを考えてニヤリとしたカズマの名を、ユニゾンで呼ぶ声がした。
「おっ、来たか」
だわとサラが、桜が落とす淡く優しい色の影の下で、仲良く手を振っている。
ふたりの後ろから、アルト=ミルドレッド=バ・ロッサとルアンナ・ミュラーもやって来ていた。
作業をしていた手を止めて、みんなを出迎える。
「昼になったら離れられるから、ちょっと待っててくれ。あ、そうだ。じゃがバターかポップコーンか、どっちがいい?」
カズマはみんなのリクエストを聞くと、自分が設営を手伝った屋台から出来たてのものを取ってきた。
アルトは紙袋に入れられたポップコーンを受け取ると、いま来た道を振り返り、目を細めて春風に揺れる桜並木を眺めた。
「ふぅーん、今年も綺麗に咲いたわね。こういうイベントは楽しみね」
アルトの桜と合わせた春色のロングスカートがふわりと揺れる。
サラは微笑みながら髪を手で押さえた。
「えっと、ね。だわおにいちゃんに、誘われて、来た、の。どんなところか、なぁ……えへへ、楽しみ」
「ああ、楽しみだな」、とサラの隣でだわが言う。
「ここを教えてくれたルアンナに感謝だ」
「感謝だなんて……私はみなさんと花見に来られて嬉しいです。とっても桜が綺麗ですけど、それだけじゃないんです。屋台の他にもいろいろとイベントが行われているので、楽しみましょうね」
公園内にはきっと、さまざまな種類の屋台が並んでいるのだろう。威勢よく客引きをしている声がこちらにまで飛んでくる。
4人で日当りのよい公園のベンチに腰掛ける。ポップコーンを食べながら、みんなでカズマを待つことにした。
●
昼を告げる鐘の音を聞いたあたりから、サイラスの焼きそばを買い求める客が増え始め、行列は桜木の8本先まで続いていた。
「ありがたいことだが……、こりゃ困ったな」
余るようなことがあったなら連れてきた食いしん坊に食べてもらえばいいか、と思っていたが、ところがどうしてどうして、なかなかの繁盛ぶり。
すっかりお預けくらった狼の大福が、サイラスの足元で拗ねて丸くなっている。
(早めに昼を取っといてよかったぜ)
くぅんと情けない声に、サイラスは麺をあおるベラをダイナミックに動かし続けたまま、眼だけをすっと斜め下へ動かした。
「さっき食べただろ? あとで味見がてらおやつをやるから、桜でも見ておとなしく待っていな」
大福は花見に興味がないようだ。花より団子らしい。
桜が散るころであれば、風に舞い飛ぶ花びらを追いかけて遊んだかもしれない。今はぷいっと濡れ光る鼻を横へ向けて、大きな欠伸をしている。
サイラスは苦笑しながら、焼きそばを竹の皮で作った皿に入れた。
「はい、お待ち! 熱いから気をつけて」
ありがとう、という愛らしい子どもの声に笑顔を向け、親にも2皿手渡す。片手でお代を頂戴しながら、ベラを握る手の甲で額に浮いた汗をぬぐった。
まだまだ順番待ちの列は途切れない。それどころか、ますます長くなっていく。
この分では、夜桜の下で宴会をする客の需要を当て込んで持ってきた肉を、串に刺している暇が取れない。
「大福……お前に手伝いができる手があればなぁ」
と、ぼやいたところで返事があった。
「焼きそばを食べた後で、俺が手伝ってやろうか?」
「誰かと思ったらカズマじゃないか。それに……」
笑顔のルアンナがすいっと鉄板の前に進み出る。
「焼きそば4つ、お願いします」
キャアキャアとはしゃぐ声に目を向ければ、いつの間にか大福が屋台から出て、アルトやサラと嬉しそうに戯れている。
だわがサイラスに木の椀を差し出してきた。
ベラを鉄板の端に置いて、椀を受けとる。
「だわ、これは?」
「玉こんにゃくだ。向こうでラズリーが手伝っている。サイラスの店に行くなら持っていってくれ、と頼まれた」
「ラズリー? 来ているのか」
「来ている」
「お出汁が染み込んでて美味しいですよ!」
ルアンナが横から太鼓判を押す。
「でもこのプルプルの食感、こんにゃくって何から出来てるんでしょう?」
サイラスは頂きものの玉こんにゃくを味見した。
「うん、おいしい。たしか、原材料は『こんにゃく』という名の芋だったような……いや、記憶があいまいだ。礼を言いに行くついでに、ラズリーにちゃんと聞いておこう」
鉄板に油をひいて、焼きそば用の肉を焼く。
ザルから手づかみで切った野菜を取り、鉄板に乗せると、ジュジュッ、という音とともに白い湯気がたった。
ルアンナたちと玉こんにゃくの味についておしゃべりしながら、焼きそばを作る。
おいしそうな音と匂いに惹かれて、アルトとサラが鉄板の前に寄ってきた。
「はい、お待ち! それで、カズマ。本当に手伝ってくれるのか?」
「夕方までしか手伝えないが、それでもよかったら」
是非もない。ありがたい申し出だ。
じゃあ、とアルトはお裾分けをねだる大福から焼きそばを遠ざけながら、大福の耳の後をかいてやる。
「カズマの代わりにこの大福を、屋台の食べ歩きに連れて行れていくわね」
●
城のように立派な白亜の館にめぐらされた堀の手前で、だわとサラはルアンナと大福をつれたアルトと別れた。
薄雲のように堀沿いに群れている桜が、指先で触れようとするかのように、水に向かって枝を伸ばしている。
「わあ、すごい。桜が、あんなに」、と感動るすサラをエスコートして、だわは館には入らずに、堀に架かる橋のほうへと近づいていった。
「どこにいくの、だわおにいちゃん」
「あれに乗ろう」
橋のたもとに遊覧用の小舟がつけられていた。堀を一周するそれは、自分で小舟を漕ぐなら無料らしい。
「俺が漕ぐ。サラ、そっちに座れ……少し揺れるから、気をつけろ」
小舟は小さくできた花筏の間を、ゆっくりと進んでいく。
刻々と日暮れていく空が桜の表情を変えていく中、だわとサラはふたりっきりで花見を楽しんだ。
小舟を降るころにはすっかり日が暮れていた。
桜の枝に吊るされたヒカリゴケのランタンが、そこかしこで淡い光を放ち、花霞を照らす。
「これは……」
「わぁ! とっても、綺麗……! 灯りがぼんやり、桜を照らして、て……淡いオレンジ色に、染まってる、ね」
「幻想的で綺麗だな」
ふたりは桜並木道を折り返し、桜よりも周囲に気を配りながら進んだ。昼もかなりの人出だったが、夜は今年から始まったという桜のライトアップを目当てで来る人が増えたのだろう。
「しかし、盛況だな。はぐれるなよ」
くい、とマントが引かれて、だわは斜め下へ顔を向けた。
「わ、わ、人の波に、攫われちゃいそう。だわおにいちゃん、あの、その……」
「……ん? ああ。繋いでおくか?」
「うん!」
桜よりも手を赤くして、サラは差し出された手をしっかり握った。
(嬉しいのと、……ちょっと、ドキドキ、する、かも。……どうして、かな?)
幸せな気持ちになって足を弾ませていると、だわが微笑みながら話しかけてきた。
「……何だか、今日は一段と元気が良いな。暖かくなったからか、美しい景色のお陰か?」
「ううん、なんでも、ない」、といいつつも顔がニンマリする。
「そうか……」
サラは周囲に漂うおいしそうな匂いの中からこれぞというものを探そうとしていて、ふっと視界の隅に過ったものを見過ごしそうになり、慌てて見返した。
「あ、射的の屋台がある、よ! ね、やってみ、よう?」
射的は先にコルクをつけた投げ矢を3本使って景品を狙い、棚から落としたらもらえる仕組みだった。
景品の棚を前にして考え込むサラの隣に、だわが並ぶ。景品を吟味しながら、サラは大きく領いた。桜色した大きなウサギのぬいぐるみを狙うつもりらしい。
「……重心を、狙って……えい!」
投げ矢はみごとウサギのお腹に当たったが、ほんの少し棚の端へ下がっただけだった。さすが特賞、そう簡単に落ちてくれないようだ。
「次は俺の番だ」
ふたりは交互に矢を投げたが、ぬいぐるみは落とせなかった。かわりに残念賞のリンゴ飴を貰った。
「残念だったな」
「うん……でも、リンゴ飴、おいしい、ね」
そう言って、だわに笑顔を見せるサラの頬に、桜の花びらが一片とまった。
●
さざめく人々の声。ヒカリゴケのランタンが発する優しい光が、散り落ちた桜で装飾された石畳の通りを照らす。
アルトとルアンナは、大福を送ってきたついでにサイラスの屋台で肉の串焼きを買い、近くのベンチに並んで座った。
夜桜の間から、空にかかった金色の月を見つつ齧りつく。
「こういう……家で食べるものとちょっと違うのって、なんだか楽しいわよね」
「そうですね。ねえ、アルトちゃん。肝試しの前にもう一度、玉こんにゃくの屋台に寄っていきません?」
「いいけど……よく食べるわね」
「腹が減ってはなんとか、ですよ」
残った串をゴミ箱に捨てて、2人はラズリーが手伝いをする玉こんにゃくの屋台へ向かった。
「また来てくれたんか。おおきに!」
「玉こんにゃくがおいしかったから、また来ちゃいました」とルアンナ。
アルトは売り台の上に身を乗り出して、大釜の中を覗きこんだ。
「すごい。昼にはあんなにあったのに、もうほとんど残っていないわね」
「みんなのおかげやで。特にカズマがあっちこっちで、おいしい、おいしい、って宣伝してくれたから」
ラズリーの知人である屋台の主人と店子も、2人に感謝した。サイラスもつい先ほど大福に店番をさせて買いに来てくれたという。
「はい、どうぞ。ちょっと色が悪なってもうてるけど、味はようしみてるで」
最初は食べ方が分からずにオロオロし、ルアンナに教えてもらったアルトも、玉こんにゃくの味に太鼓判を押す。
「本当においしいわ。歯ごたえが独特で、面白いし」
玉こんにゃくはもちろんのこと、長ネギや鶏肉などにもしっかり醤油がしみ込んでいるが、見た目よりも味は濃くなく、何度でも食べたくなるおいしさだ。
「あ~、お腹いっぱい」
「それでは、腹ごなしも兼ねて肝試しに行きましょう」
みごとな枝垂れ桜の下をくぐり抜け、頭にいくつか桜の花びらを乗せたまま、2人は肝試しの受付にやってきた。
係員が、簡単な地図とヒカリゴケのランタンを差し出す。
「怯えずにちゃんとルートを回った証拠として、祭壇に置かれた栞を持って帰ってきてください」
アルトが懸命に強がりを言っているが、声の震えは抑えられないようだ。
「ふ、ふふふふん。きききき肝試しくくくくらい……べべっべべべ別に、これこここれっぽっちもこあくなんか、ないわよ。ほほほほら、ささささささっさと、さっさと行くわよ。さっさと行ってさっさと終わらせちゃうわ」
ぴったりとルアンナの背に身を寄せて出発する。
しばらくいくと、廃れた教会に行きついた。月下でみるそれは、いかにも悪霊が出そうな雰囲気を醸し出している。
「ひぇ!?」
恐怖と同時に、ふと異空間に迷い込んでしまったかのような錯覚を覚えた時だった。暗闇にぼーっと白いものが浮かびあがったような気がしたのだ。
2人は目配せし合う。
アルトが怯えた目でルアンナに頷いた。ルアンナは返事をせず、耳を澄ました。
(……ほかの肝試しの人たちかも知れない)
急に周囲の暗闇が濃くなり、ヒカリゴケのランタンが発する光が頼りなく感じだす。四方八方から誰かに見られているような気がした。心臓の鼓動が早まる。
不意に別方向で枝の折れる音、砂利を踏みしめる音が重なった。
アルトがギャッと叫んで、ルアンナの背をぐいぐい押す。
「は、はははは、早く教会の中に、はははは、入るのよ!」
言われなくてもそのつもり、とルアンナは駆けだした。
「ま、ままま、待って!」
軋むドアを開いて礼拝堂に転がり込む。
「祭壇……アルトちゃん、栞はあの上です」
「……って、なんで通路が塞がれているのよ!」
身廊に木箱が積み上げられ、通れなくされていた。
2人はヒカリゴケのランタンを細かく揺らしながら、しかたなく壁際を進む。
「え?」
ルアンナにつられてアルトも顔をあげた。
壁の高いところで光が灯ったのだ。
――と、武者鎧を着たゾンビが高笑いしながら落ちて来た。
「ひょぇぇぇぇぇっ!」
アルトが大きな悲鳴があげた。驚いたルアンナも悲鳴をあげる。
「ひぃぇぇぇぇぇっ!」
パニクリながらもアルトは腰にさげたダマスカス鋼の祭刀へ手を伸ばす。
「や、ややややや、やられませんわよ。お、オバケなんか、こここ、怖くないんだからぁ!」
「ちょっと待った。早まるなよ、俺だ、俺」
ルアンナが掲げたヒカリゴケのランタンの光に、あわてて顔のメイクを落とすカズマの姿が浮かびあがった。
「え、カズマさん?!」
「大成功……って、いてて! よせ、アルト。悪かったって」
アルトがポカポカと音が聞こえそうな勢いで、カズマの頭を殴る。
「そんなに怖かったのか」
「…っま、まぁ、これくらい、別に、全然、どうってこともなかったわね」
無事に栞を手に入れて教会を3人で出ると、限られた明かりのなかで桜の花びらが舞っていた。
カズマ クレセントブラッドは、凝視していたら吸い込まれてしまいそうな、真っ青な空に向かって体をのばした。
まだ冷たい風を首筋に感じながら、薄紅色がとてもきれいな景色を見まわす。
早朝にもかかわらず、周囲には早くも花見特有のざわめきが満ち始めている。大勢の人がやってくる気配がしていた。
「へぇ、縁日みたいな感じだな……さてと、俺もちょっとは頑張るかな!」
それにしても、よくこんないい場所がとれたものだ。
桜の並木道の向こうでは大道芸をする人がいたり、熊のぬいぐるみを着た人がりんご飴を売り歩いていたり。
屋台を構えた場所は、広い公園の中心に建つ、まるで城のように立派な白亜の館へ向かう道沿いだった。
「おおーい、カズマ。手が止まってンぞ。それじゃあいつまでたっても、友だちと遊びに行けないぜ」
うるさいよ、などと店のものたちに憎まれ口をたたきながらも、カズマは笑顔だ。
それもそのはず、屋台の手伝いが終われば、仲のよいみんなと一緒に桜を見ながら屋台を巡ることになっている。
(その前に、やることが山盛りだけど)
ただ設営の手伝いをするためだけに駆り出されたのではない、銭勘定の確かさを買われて売りの手伝も頼まれていた。
手伝いを頼んだものにすれば、それに加えて、若くてカッコイイ青年を店の前に立たせておけば、若い女の子がたくさん買いに集まってくる……という計算をしたようだ。
そんな思惑をまったく感知していないカズマは、食材が入った箱を持ち上げた。
中身はキャベツ玉かジャガイモか、やたらと重い。
腰を痛めないように気をつけながら、指定された場所まで運ぶ。
夜は夜でやらなければならないことがある。タイミングが重要なその仕事で、腰を痛めていると思うように動けない。だから気をつけなくては。
(夜が楽しみだなあ)
その時のことを考えてニヤリとしたカズマの名を、ユニゾンで呼ぶ声がした。
「おっ、来たか」
だわとサラが、桜が落とす淡く優しい色の影の下で、仲良く手を振っている。
ふたりの後ろから、アルト=ミルドレッド=バ・ロッサとルアンナ・ミュラーもやって来ていた。
作業をしていた手を止めて、みんなを出迎える。
「昼になったら離れられるから、ちょっと待っててくれ。あ、そうだ。じゃがバターかポップコーンか、どっちがいい?」
カズマはみんなのリクエストを聞くと、自分が設営を手伝った屋台から出来たてのものを取ってきた。
アルトは紙袋に入れられたポップコーンを受け取ると、いま来た道を振り返り、目を細めて春風に揺れる桜並木を眺めた。
「ふぅーん、今年も綺麗に咲いたわね。こういうイベントは楽しみね」
アルトの桜と合わせた春色のロングスカートがふわりと揺れる。
サラは微笑みながら髪を手で押さえた。
「えっと、ね。だわおにいちゃんに、誘われて、来た、の。どんなところか、なぁ……えへへ、楽しみ」
「ああ、楽しみだな」、とサラの隣でだわが言う。
「ここを教えてくれたルアンナに感謝だ」
「感謝だなんて……私はみなさんと花見に来られて嬉しいです。とっても桜が綺麗ですけど、それだけじゃないんです。屋台の他にもいろいろとイベントが行われているので、楽しみましょうね」
公園内にはきっと、さまざまな種類の屋台が並んでいるのだろう。威勢よく客引きをしている声がこちらにまで飛んでくる。
4人で日当りのよい公園のベンチに腰掛ける。ポップコーンを食べながら、みんなでカズマを待つことにした。
●
昼を告げる鐘の音を聞いたあたりから、サイラスの焼きそばを買い求める客が増え始め、行列は桜木の8本先まで続いていた。
「ありがたいことだが……、こりゃ困ったな」
余るようなことがあったなら連れてきた食いしん坊に食べてもらえばいいか、と思っていたが、ところがどうしてどうして、なかなかの繁盛ぶり。
すっかりお預けくらった狼の大福が、サイラスの足元で拗ねて丸くなっている。
(早めに昼を取っといてよかったぜ)
くぅんと情けない声に、サイラスは麺をあおるベラをダイナミックに動かし続けたまま、眼だけをすっと斜め下へ動かした。
「さっき食べただろ? あとで味見がてらおやつをやるから、桜でも見ておとなしく待っていな」
大福は花見に興味がないようだ。花より団子らしい。
桜が散るころであれば、風に舞い飛ぶ花びらを追いかけて遊んだかもしれない。今はぷいっと濡れ光る鼻を横へ向けて、大きな欠伸をしている。
サイラスは苦笑しながら、焼きそばを竹の皮で作った皿に入れた。
「はい、お待ち! 熱いから気をつけて」
ありがとう、という愛らしい子どもの声に笑顔を向け、親にも2皿手渡す。片手でお代を頂戴しながら、ベラを握る手の甲で額に浮いた汗をぬぐった。
まだまだ順番待ちの列は途切れない。それどころか、ますます長くなっていく。
この分では、夜桜の下で宴会をする客の需要を当て込んで持ってきた肉を、串に刺している暇が取れない。
「大福……お前に手伝いができる手があればなぁ」
と、ぼやいたところで返事があった。
「焼きそばを食べた後で、俺が手伝ってやろうか?」
「誰かと思ったらカズマじゃないか。それに……」
笑顔のルアンナがすいっと鉄板の前に進み出る。
「焼きそば4つ、お願いします」
キャアキャアとはしゃぐ声に目を向ければ、いつの間にか大福が屋台から出て、アルトやサラと嬉しそうに戯れている。
だわがサイラスに木の椀を差し出してきた。
ベラを鉄板の端に置いて、椀を受けとる。
「だわ、これは?」
「玉こんにゃくだ。向こうでラズリーが手伝っている。サイラスの店に行くなら持っていってくれ、と頼まれた」
「ラズリー? 来ているのか」
「来ている」
「お出汁が染み込んでて美味しいですよ!」
ルアンナが横から太鼓判を押す。
「でもこのプルプルの食感、こんにゃくって何から出来てるんでしょう?」
サイラスは頂きものの玉こんにゃくを味見した。
「うん、おいしい。たしか、原材料は『こんにゃく』という名の芋だったような……いや、記憶があいまいだ。礼を言いに行くついでに、ラズリーにちゃんと聞いておこう」
鉄板に油をひいて、焼きそば用の肉を焼く。
ザルから手づかみで切った野菜を取り、鉄板に乗せると、ジュジュッ、という音とともに白い湯気がたった。
ルアンナたちと玉こんにゃくの味についておしゃべりしながら、焼きそばを作る。
おいしそうな音と匂いに惹かれて、アルトとサラが鉄板の前に寄ってきた。
「はい、お待ち! それで、カズマ。本当に手伝ってくれるのか?」
「夕方までしか手伝えないが、それでもよかったら」
是非もない。ありがたい申し出だ。
じゃあ、とアルトはお裾分けをねだる大福から焼きそばを遠ざけながら、大福の耳の後をかいてやる。
「カズマの代わりにこの大福を、屋台の食べ歩きに連れて行れていくわね」
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城のように立派な白亜の館にめぐらされた堀の手前で、だわとサラはルアンナと大福をつれたアルトと別れた。
薄雲のように堀沿いに群れている桜が、指先で触れようとするかのように、水に向かって枝を伸ばしている。
「わあ、すごい。桜が、あんなに」、と感動るすサラをエスコートして、だわは館には入らずに、堀に架かる橋のほうへと近づいていった。
「どこにいくの、だわおにいちゃん」
「あれに乗ろう」
橋のたもとに遊覧用の小舟がつけられていた。堀を一周するそれは、自分で小舟を漕ぐなら無料らしい。
「俺が漕ぐ。サラ、そっちに座れ……少し揺れるから、気をつけろ」
小舟は小さくできた花筏の間を、ゆっくりと進んでいく。
刻々と日暮れていく空が桜の表情を変えていく中、だわとサラはふたりっきりで花見を楽しんだ。
小舟を降るころにはすっかり日が暮れていた。
桜の枝に吊るされたヒカリゴケのランタンが、そこかしこで淡い光を放ち、花霞を照らす。
「これは……」
「わぁ! とっても、綺麗……! 灯りがぼんやり、桜を照らして、て……淡いオレンジ色に、染まってる、ね」
「幻想的で綺麗だな」
ふたりは桜並木道を折り返し、桜よりも周囲に気を配りながら進んだ。昼もかなりの人出だったが、夜は今年から始まったという桜のライトアップを目当てで来る人が増えたのだろう。
「しかし、盛況だな。はぐれるなよ」
くい、とマントが引かれて、だわは斜め下へ顔を向けた。
「わ、わ、人の波に、攫われちゃいそう。だわおにいちゃん、あの、その……」
「……ん? ああ。繋いでおくか?」
「うん!」
桜よりも手を赤くして、サラは差し出された手をしっかり握った。
(嬉しいのと、……ちょっと、ドキドキ、する、かも。……どうして、かな?)
幸せな気持ちになって足を弾ませていると、だわが微笑みながら話しかけてきた。
「……何だか、今日は一段と元気が良いな。暖かくなったからか、美しい景色のお陰か?」
「ううん、なんでも、ない」、といいつつも顔がニンマリする。
「そうか……」
サラは周囲に漂うおいしそうな匂いの中からこれぞというものを探そうとしていて、ふっと視界の隅に過ったものを見過ごしそうになり、慌てて見返した。
「あ、射的の屋台がある、よ! ね、やってみ、よう?」
射的は先にコルクをつけた投げ矢を3本使って景品を狙い、棚から落としたらもらえる仕組みだった。
景品の棚を前にして考え込むサラの隣に、だわが並ぶ。景品を吟味しながら、サラは大きく領いた。桜色した大きなウサギのぬいぐるみを狙うつもりらしい。
「……重心を、狙って……えい!」
投げ矢はみごとウサギのお腹に当たったが、ほんの少し棚の端へ下がっただけだった。さすが特賞、そう簡単に落ちてくれないようだ。
「次は俺の番だ」
ふたりは交互に矢を投げたが、ぬいぐるみは落とせなかった。かわりに残念賞のリンゴ飴を貰った。
「残念だったな」
「うん……でも、リンゴ飴、おいしい、ね」
そう言って、だわに笑顔を見せるサラの頬に、桜の花びらが一片とまった。
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さざめく人々の声。ヒカリゴケのランタンが発する優しい光が、散り落ちた桜で装飾された石畳の通りを照らす。
アルトとルアンナは、大福を送ってきたついでにサイラスの屋台で肉の串焼きを買い、近くのベンチに並んで座った。
夜桜の間から、空にかかった金色の月を見つつ齧りつく。
「こういう……家で食べるものとちょっと違うのって、なんだか楽しいわよね」
「そうですね。ねえ、アルトちゃん。肝試しの前にもう一度、玉こんにゃくの屋台に寄っていきません?」
「いいけど……よく食べるわね」
「腹が減ってはなんとか、ですよ」
残った串をゴミ箱に捨てて、2人はラズリーが手伝いをする玉こんにゃくの屋台へ向かった。
「また来てくれたんか。おおきに!」
「玉こんにゃくがおいしかったから、また来ちゃいました」とルアンナ。
アルトは売り台の上に身を乗り出して、大釜の中を覗きこんだ。
「すごい。昼にはあんなにあったのに、もうほとんど残っていないわね」
「みんなのおかげやで。特にカズマがあっちこっちで、おいしい、おいしい、って宣伝してくれたから」
ラズリーの知人である屋台の主人と店子も、2人に感謝した。サイラスもつい先ほど大福に店番をさせて買いに来てくれたという。
「はい、どうぞ。ちょっと色が悪なってもうてるけど、味はようしみてるで」
最初は食べ方が分からずにオロオロし、ルアンナに教えてもらったアルトも、玉こんにゃくの味に太鼓判を押す。
「本当においしいわ。歯ごたえが独特で、面白いし」
玉こんにゃくはもちろんのこと、長ネギや鶏肉などにもしっかり醤油がしみ込んでいるが、見た目よりも味は濃くなく、何度でも食べたくなるおいしさだ。
「あ~、お腹いっぱい」
「それでは、腹ごなしも兼ねて肝試しに行きましょう」
みごとな枝垂れ桜の下をくぐり抜け、頭にいくつか桜の花びらを乗せたまま、2人は肝試しの受付にやってきた。
係員が、簡単な地図とヒカリゴケのランタンを差し出す。
「怯えずにちゃんとルートを回った証拠として、祭壇に置かれた栞を持って帰ってきてください」
アルトが懸命に強がりを言っているが、声の震えは抑えられないようだ。
「ふ、ふふふふん。きききき肝試しくくくくらい……べべっべべべ別に、これこここれっぽっちもこあくなんか、ないわよ。ほほほほら、ささささささっさと、さっさと行くわよ。さっさと行ってさっさと終わらせちゃうわ」
ぴったりとルアンナの背に身を寄せて出発する。
しばらくいくと、廃れた教会に行きついた。月下でみるそれは、いかにも悪霊が出そうな雰囲気を醸し出している。
「ひぇ!?」
恐怖と同時に、ふと異空間に迷い込んでしまったかのような錯覚を覚えた時だった。暗闇にぼーっと白いものが浮かびあがったような気がしたのだ。
2人は目配せし合う。
アルトが怯えた目でルアンナに頷いた。ルアンナは返事をせず、耳を澄ました。
(……ほかの肝試しの人たちかも知れない)
急に周囲の暗闇が濃くなり、ヒカリゴケのランタンが発する光が頼りなく感じだす。四方八方から誰かに見られているような気がした。心臓の鼓動が早まる。
不意に別方向で枝の折れる音、砂利を踏みしめる音が重なった。
アルトがギャッと叫んで、ルアンナの背をぐいぐい押す。
「は、はははは、早く教会の中に、はははは、入るのよ!」
言われなくてもそのつもり、とルアンナは駆けだした。
「ま、ままま、待って!」
軋むドアを開いて礼拝堂に転がり込む。
「祭壇……アルトちゃん、栞はあの上です」
「……って、なんで通路が塞がれているのよ!」
身廊に木箱が積み上げられ、通れなくされていた。
2人はヒカリゴケのランタンを細かく揺らしながら、しかたなく壁際を進む。
「え?」
ルアンナにつられてアルトも顔をあげた。
壁の高いところで光が灯ったのだ。
――と、武者鎧を着たゾンビが高笑いしながら落ちて来た。
「ひょぇぇぇぇぇっ!」
アルトが大きな悲鳴があげた。驚いたルアンナも悲鳴をあげる。
「ひぃぇぇぇぇぇっ!」
パニクリながらもアルトは腰にさげたダマスカス鋼の祭刀へ手を伸ばす。
「や、ややややや、やられませんわよ。お、オバケなんか、こここ、怖くないんだからぁ!」
「ちょっと待った。早まるなよ、俺だ、俺」
ルアンナが掲げたヒカリゴケのランタンの光に、あわてて顔のメイクを落とすカズマの姿が浮かびあがった。
「え、カズマさん?!」
「大成功……って、いてて! よせ、アルト。悪かったって」
アルトがポカポカと音が聞こえそうな勢いで、カズマの頭を殴る。
「そんなに怖かったのか」
「…っま、まぁ、これくらい、別に、全然、どうってこともなかったわね」
無事に栞を手に入れて教会を3人で出ると、限られた明かりのなかで桜の花びらが舞っていた。
マスターコメント
お待たせいたしました。
楽しいお花見シナリオを書かせてくださり、ありがとうございます。
玉こんにゃく、このシナリオを書くにあたって初めて食べたのですが……おいしいですね!
そうすけは鷹の爪を入れてピリッと辛くしたのが好みです。
改めて、ありがとうございました。
ショートシナリオR易しい 報酬:少ない6 / 4〜8人
2022年04月27日 18時45分06秒 公開
大成功
相談掲示板
ルアンナです、よろしくお願いします♪ お花見、楽しみましょうね! (リクシナに参加いただきありがとうございます。自由に観桜会を満喫していって下さいね♪)
えっと、サラ、です。よろしくおねがい、します。 ルアンナおねえちゃんが、声掛けてた、って、聞いた、の。あの、ね、…ありがと、う。 …えへへ、観桜会、楽しみ。 わたしは、だわおにいちゃんと、いっしょに、回ると思う、よ。
だわと呼んでもらえれば。よろしく頼む。 ……観桜会という名の祭りか。 ルアンナの声掛けに感謝を。 良い祭りだな。ゆっくり過ごさせてもらおう。 ……さて、どこから見るかな。
No.4
サイラスだ、よろしくなー とりあえず出店するかなと
あ、アルトよ… 特に何かしたいこととかなにも思いついてなくて、どうしようかなって考えてるわ…
アルトさん、それなら夜桜を見ながら一緒に肝試ししませんか?
キモダ…べ、べべべべ ベツニカマワナイワヨ、ソレクライゼンゼンヘイキヨ…()
カズマだ、よろしくな! 俺は、どしよっかな〜