誕生日なので好きな物持ち寄って騒ぎたい!
眞石ユキヒロ
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シナリオID:2007
オープニング
(誕生日はひとりぼっちの予定だ)
両親とはだいぶ離れて暮らしているけれど、仲は良好だ。多分、手紙とかプレゼントとか、そういった心のこもった物は届けてもらえると思う。今だって三ヶ月に一回は手紙のやりとりをしているし。
でも会いに来ることはないと思う。リーンエス王国を離れるときに「遠いし会いに来なくて良いから!」と私が何度も念を押したから。当然、王国にいた頃の友達とも疎遠になった。
辺境都市群に来て、趣味仲間や仕事仲間はできた。でも誕生日は教えていない。親しい人を作るのが、まだ少し怖い。
誕生日を一番に祝ってほしかった彼とは、もう二度と会わない方が良い。
(こじらせてんなぁ、我ながら)
自室のベッドに腰をかけ、カレンダーを眺めてため息をつく。特に何も用意していないのに、誕生日には赤丸を付けてしまっている。
(まぁ、なんかちょっと良いことが起こるとか。そのくらいなら期待したって良い、よね……?)
今日は徹夜の気分じゃない。なんだか悲しい空想ばっかり頭に浮かぶからベッドに横たわる。
これなら明日は素晴らしい仕事ができそうだ。なんて思いながら無理矢理自分を寝かしつけた。
●断片
「こんなところに、人が来るなんて……」
「……様、良いお名前……。あたしは……」
「……にご入学され……。……あたしに……文字……?」
「……これは……とても素敵なお話で……あたしもいつか……」
「……様はこのお話が……あたしも読んで……」
「……様が……あたしを……好き……?」
「……そんな……あたしで……いいの?」
「あたしも……様が……好き……」
「……が! ……の集団が! ……いやぁっ!」
「やめて! ……様を傷つけないで! ……様! ……様ぁ!」
「……様! 今の力は……?」
「……様! 危ないです! 一緒に逃げ……! ……様!」
「……様のお家は授恵者をお嫁に迎えたいと……」
「……様はあたしと……結婚したい……?」
(あたしは授恵者じゃないから、彼を守ってあげられない)
「結婚の話は、お断りします……!」
「大好きでした、……様」
(下級貴族であった彼は結局、下級貴族の授恵者と結婚したらしい。『私が好きなのは貴女ではない。それでもかまいませんか』なんて、わざわざ質問した上で)
(お相手は『かまいません、私が貴男を愛していますから』と、力強く答えたらしい。街は祝福ムードに染まった)
(この美談に平民のあたしはいらないから、あたしは王国を去った。両親にも友達にもこんなこと、話せなかった)
●ライリー、むなしい
結論から言うと素晴らしい仕事はできなかった。
(もう誕生日は天井のシミでも数えてようかな……)
「ベル、何をぼんやりしている! お前には文書のチェックを任せているだろうが!」
「は、はい! 天井のシミを数えています!」
「何の話だ!?」
ツェレン先輩に怒られて、手元の文書にぼんやりと視線を落とす。
今日は徹夜もしてない。頭も冴えてるはずだ。それなのに。
(馬鹿だな。諦めたものを思い出して落ち込むなんて)
「すみません、受付嬢さん」
カウンター越しに冒険者に話しかけられた。瞬間、ライリーはドゥジン的な危機に陥ったときのことを思い出した。
冒険者にお金を払い、ご飯を奢り、ドゥジンシのネタ出しを手伝っていただいたあの一夜を。
(冒険者さんなら、お金を払えば誕生日も一緒にいてくれるんじゃ……?)
だいぶ寂しい発想だった。それでもお金を払って一緒にいてもらうむなしさよりも、誕生日にあれこれ考えて落ち込むむなしさを回避したかった。
●こわーい先輩と、依頼
翌日、依頼板に以下の内容が綴られた文書が掲載された。
「『祝わなくても良いんです。私、ライリー・ベルと誕生日を一緒に過ごしてください!』」
ライリーの先輩であり、授恵者に目覚めて日の浅いシカのハーフビースト、ツェレンが掲載されたてほやほやのそれを淡々と読み上げる。
「『水上都市アキュアリスタのカフェを貸し切って、カフェのご飯や私が焼いたパンを食べたり、ドゥジンシを読んだり、お話をしたり』」
「『私の目の前でイチャイチャするところを見せてくださってもかまいません。というかお願いします、我々の業界ではご褒美なので!』」
「『わずかな時間ですが、みんなで楽しく過ごせれば幸せです!』」
「『少額ですが報酬も用意します! 初対面の方も大歓迎です!』」
淡々と読んでいるが、内心は情けない気持ちでいっぱいだった。
(ベルのやつ、こんな形で自分の誕生日を宣伝するなんて……)
最近はいやにぼんやりしていたが、こんなことを考えていたんだろうか。
(私に言ってくれれば、プレゼントのひとつくらい用意してやったというのに……)
怒ってばかりの私に相談するほど後輩も脳天気ではないと納得はする。するが。
(……言いようもなくモヤモヤするな)
ツェレンとてライリーが嫌いだから怒っているわけではない。むしろ、やればできるのに変なことをするライリーがもったいないと思って、ついキツく言ってしまう。
その後、自己嫌悪する。
(これを機に、少しはベルと打ち解けられたら良いのだが……。いや、そもそも私が行ってベルは喜ぶのか?)
ライリーが自分を見る目を思い出す。動揺、混乱、恐縮。そういう言葉ばかりが当てはまる。
(……会場に誕生日プレゼントを贈るだけにしよう)
ツェレンはライリーが何をもらえば喜ぶのか、ぼんやりと理解している。しかしドゥジンシは作り方がわからない。本は値段が高すぎて恐縮される可能性がある。羊皮紙やインクは特別感が足りない。
「これだ!」というクリティカルなプレゼントには、頭の中ですらなかなか巡り会えない。
ツェレンはため息をついてから、取り合えず『少額ですが報酬も用意します!』という悲しい記述を二重線で消した。
●そして前日のライリー
(パンの仕込みは終わった。あとは持って行くドゥジンシの選別……)
テーブルに積み上げたドゥジンシの山をより分けていく。
自分が主人公のやつ。ナシ。
皇子×王子、王子×皇子のエモ系の山。ヨシ。
皇子×侍従、侍従×皇子のエモ系の山。切ないけどやめておこう……。
神匠の発禁ではない武勇伝の写本。ヨシ。
新米授恵者がひょんなことから王子と一緒に冒険をし、片思いを募らせていく夢物語の写本。ヨシ。
冒険者たちが倒した魔獣の可食部分を探し調理するコメディの写本。ヨシ。
「あんまり持ってっても大変だしね」
トランクケースを広げ、傷つけないよう袋に入れたドゥジンシを敷き詰めていく。
(はー、まさかこんな依頼をしてしまうなんて。とはいえ冒険者さんが集まってくれて心底安心したわ……)
ライリーが目を細め、口の端をにっとつり上げる。それから、きょとんとした顔になる。
(そういえば、報酬のくだりを二重線で消したのって、誰なんだろ)
きっと善意の冒険者さんだろうと勝手な解釈をして、ライリーは両手を頬に当てた。ならば善意はしっかり受け取らねば。
ライリーは満面の笑みを浮かべながらトランクケースを閉じた。
解説
マスターより
リプレイ
辺境都市群冒険者ギルド、依頼板の前。
屈強な男性のブレイドと、華奢な少女の東雲・更紗が同じ文書を見つめていた。
「まあ! ライリーさんのお誕生日なんですね。わざわざ依頼の形式になさらずとも一言お声がけ下さればよかったのに……」
背伸びして文書を読む更紗の横で、ブレイドは気まずそうに眉をひそめた。
(妙齢のご婦人の出す依頼としては何というかその……これは聞かぬが花というやつか)
「でも集まった皆さんと賑やかにお祝いするのも良いかもしれませんね?」
そんな二人の背後に、紫の髪の可憐な少女が立った。
「お二人もライリー様のお誕生日をお祝いするのでしょうか?」
シェルリア・リトヴァールだ。振り返る二人に元気に溢れた笑みを向ける。
ブレイドが頷き、更紗が微笑み返すと、シェルリアは笑みを深めた。
「私ももちろんお祝いしますよー!」
シェルリアもライリーが依頼を出したことに疑問を抱いてはいた。
けれど祝うという明るい話題があるなら、それを大切にする方がよほど建設的だ。
●
冒険者たちは依頼の準備のため、貸しキッチンに集合していた。
「俺はハール。美人に会えるって聞いてきたんだけど、っと……皆、依頼人とは顔見知りなのか」
シルバーアッシュのさらりとした長髪が印象的な男性、ハールがメンバーを見渡す。美人と美少女の三人。野郎もいるが、まぁいいだろう。
「はい、依頼人とは同好の士です」
美女――銀髪をくるりとまとめたサシャ・テーリングはハールの発言に小首をかしげて柔らかく微笑む。ハールも目を細めて不遜な笑みを返した。
「皆様にご報告いたしますね」
サシャの言葉に、貸しキッチン内全員の注意が引きつけられる。
「お店で誕生日ケーキの仕度をしていただけました。盛り上ったタイミングで供していただけます」
貸しキッチン内に明るい感情が満ち満ちる。
「自分はこれからピザを調理する」
ブレイドは温かい気持ちを無表情の裏に隠したまま、マジカルポケットから袋にしまったピザ生地と具材と職人の家事用品を取り出した。ハーブ塩を混ぜた生地は爽やかな香りを漂わせる。
「私はばーすでーかあどの準備をしますね。皆さま、ライリーさんへのメッセージをお願いします」
先に書いてきた更紗は最初に、何を書くかは決まっているという顔のサシャにレターセットを渡した。
「ハールさんはご自分のレターセットを持ってきていらっしゃるのですね」
「他にもパウンドケーキと初摘み百合茶? いろいろ持ってきた」
ハールがそれらをダイニングテーブルに置く。
「ではご自分のレターセットにメッセージをお書きになりますか?」
「書くと言いたいが、字を書くのはそれほどうまくねーから代筆してもらいたいんだ」
ハールは自分のレターセットを持って、思案顔のシェルリアの隣に立った。気品のある出で立ちから読み書きも得意そうだと判断しての行動だった。口の端を上げ目を細め、更にもう一押し。
「なぁ、いいだろう? 美人のお嬢さん」
「えぇ!? び、美人!?」
シェルリアは自分を形容する言葉に両眼を大きく見開いた。動揺のあまり口の端が引きつり、頬に熱が集まる。
しかしこれは大切な場面。自分の選択も誕生日会の盛り上がりに関わる。
「……ええと、承ります!」
「感謝する。内容は……」
シェルリアが羽根ペンを執ると、ハールは淀みなくメッセージを口にした。
「更紗さん、すまんが手伝いを頼めるか?」
更紗は生地を伸ばすブレイドの隣に用意された台の上に立った。早く大きくなりたい。
「ブレイドさんはお手製のピザをお作りになるんですね……いえ、ちょっと意外といいますか……?」
慣れた手つきで生地にフォークを刺しながら更紗が言う。その間にもブレイドは窯の様子を確認する。
均等に小さな穴を開けた生地に更紗はチーズをのせ、ブレイドは胡椒を振りかけオリーブオイルを垂らした。生地を釜に入れ、ブレイドは更紗に渡されたメッセージカードに取りかかる。シンプルな言葉を書いてから、代筆を終えたシェルリアにバトンタッチした。
その間に更紗、ブレイド、サシャが同じ封筒に名前を書いていく。
「代筆は必要ですか?」
サシャがハールに問う。
「自分の名前くらいならなんとか。それとも俺の代筆をしたいのか? 美人のお嬢さん」
ハールは不敵に笑ってナンパを開始した。それなりに世間を知るサシャは、返事をせず笑みを浮かべるだけであった。
●
窯からピザを取り出したブレイドは十二等分して、一切れを更紗に渡した。それを口にした瞬間、超味覚を持った更紗が愛らしい笑みを浮かべた。
「……はい! これならお店にお持ち込みしても大丈夫だと思いますよー?」
もう一切れ、と手を伸ばしそうになって引っ込める。それはあとのお楽しみだ。
「……太鼓判ももらえたしいい出来になったな、感謝する」
ブレイドは冷めないうちにピザをマジカルポケットに収納する。
「この百合茶? ってやつは店で湯を貰って淹れればいいんだろう?」
「はい。百合茶であることを隠してお借りしましょう」
サシャは店を訪ねた際にメニューに百合茶が存在することも確認している。言葉の真意を瞬時に理解したハールは笑みを崩さず頷いた。
「それでは会場のカフェに参りましょうか♪」
更紗が貸しキッチンのドアを開き、それに皆が続いた。
●
先にカフェの二階で待っていたライリーは、階段を昇るたくさんの足音を聞いて机から頬を剥がした。
「お越しいただきありがとうございます!」
素速く立ち上がり、深々と頭を下げる。
「お誕生日おめでとうございます! でも水くさいです、普通にお誕生日を教えて下さればいいのにっ」
シェルリアが真っ先に元気よく、親しみの籠もった言葉を口にした。
「誕生日は特別で誰かと過したくて当然です。私にその栄誉を頂けて嬉しいですわ」
「お誕生日おめでとうございます!」
サシャも更紗も笑顔でライリーに祝辞を述べる。ブレイドが同意するように頷く。ライリーは「皆様、本当にありがとうございます!」と興奮気味に返した。
「俺はハール。よろしく、ライリー」
この中で唯一、初対面のハールが一歩進み出てライリーに名乗る。
「ってわけで誕生日おめでとう。そう聞いてたし」
ライリーは気後れしながらも「ライリー・ベル。辺境都市群のギルド職員です。ありがとうございます……」と自己紹介した。
●
階段側のテーブル上にはブレイドと更紗が焼いたピザ、ハールが淹れた百合茶と切り分けたパウンドケーキ、ライリーが焼いたパン、頼んだ珈琲、ナポリタン、百合茶、BLTサンドが置かれた。
「ライリー様、パン焼けるんですね! すごいです! ……んー、胡桃入ってて美味しいです!」
「実家がパン屋ってだけですので……」
瞳に星を蓄えたシェルリアに賛辞を呈されて、ライリーは後ろ頭をかいて照れた。それからピザを口にし、初摘み百合茶を飲む。美味しい。
(タイプの違う美男美女に囲まれて美味しいものをたっぷりいただけてドゥジンの話もできるなんて……!)
ライリーは亜人ハーレム壊滅の報を受けた時のような満面の笑みを浮かべた。
●
談笑しながらパウンドケーキを平らげたところで、テーブル上の皿はすべて空っぽになった。
「ここからは教本熟読タイムですね!」
「ブレイドさん、筋肉のドゥジンシがありましたら一緒に読みましょうね」
「何故、有害図書を自分に勧めるんだ……?」
「俺、ドゥジン信仰ってあんまり詳しくないんだけど。ライリー、教えてくれよ」
「!? ……その前に一旦、皿片付けてきます!」
高く重ねた皿を抱えて、ライリーが階段を降りていく。
「私もご一緒しますね」
サシャは手伝おうとする面々に「お任せください」の意を込めて目配せし、残った皿を積み重ねた。
●
二人は許可を取って少しだけ店の外に出た。
「最近のライリーは少し元気がなかったので、ちょっと気になりまして……」
数分の沈黙のあとに、ぽつりと言葉が漏れた。
「……サシャになら話してもいいのかも。あのね……」
ライリーは故郷での出来事を、言葉に詰まりながらもサシャに打ち明けた。
「ご自分で選んだとしてもお辛かったですね。私から見てそのご縁でライリーが幸せになれたとは思えませんが……。幸・不幸を決めるのは貴女ですもの……泣いて怒っても良いのですよ」
ライリーは見せてもらった幸福な夢に泣いたり怒ってはいけないと思い込んでいた。
「頭が真っ白になる程に心を吐き出したら周りを見直しませんか。人は幸せに鈍感、不幸に過敏なので……。辛い時はどれほどの幸福が周りにあっても気付けてない時が……」
(そっか、あたし、つらかったんだ)
わだかまる感情をぐっと飲み下す。消化の可否はこれからのあたし次第だ。
「どうか新しい恋にGO! しましょう。宜しければ婚活とか同行しましてよ。萌に理解ある方を探しましょう」
ずずずいっとサシャがライリーの手を両手で握る。ライリーは困惑しつつもぶんぶんと首を縦に振った。停滞するよりよほど良い。
●
教本を積み上げた奥側のテーブルに全員が集まっていた。
サシャとシェルリアはライリーが築いた王子×皇子の山を崩している。
「王×皇はバイブルと言って良いですわね!」
サシャが手にした教本には、二人(と侍従)の出会いをねつ造したストーリーが描かれている。二人で過ごした心細い夜……妄想は自由だ。
「良いですね……エモい……尊い……」
シェルリアが読んでいるのは命を狙われ姿を消した王子を心配する皇子の心情が、ねつ造と共に綴られた切ないものだ。二人だけで珈琲を飲んだ朝、以下略。
(公式が結婚式を用意する、最大手。さすがだわ……)
ライリーはサシャとシェルリアから借りた王子×皇子などの山を崩している。シェルリア曰く「萌えは分け合えば何倍にもなるのです」。無限ループだ。
「ほらブレイドさーん、大好きな筋肉のドゥジンシですよー」
更紗は魔獣調理コメディと迷って手に取った神匠の人生のねつ造を掲げる。
「……更紗さんよ、なぜ筋肉本を執拗にプッシュしてくるんだ」
ブレイドの脳裏を「ヤラナイカ」という言葉が過る。記憶にはナニモナイはずなのだが。
●
「字を読むのは得意じゃねーから、ライリーのお気に入りの一冊を朗読してほしい」
場の空気にヒビを入れたのは、ライリーをつんつんと構っていたハールの提案だった。
「やめておけ、今ならまだ引き返……!」「素敵な提案ですね」
忠告するブレイドの言葉を更紗が遮った。
「覚悟、してくださいね?」
言いながらもライリーの覚悟は定まっていない。声が震えている。
「覚悟なら最初からあるぜ」
対してハールは椅子の背もたれに身体を預け、足を組んでいる。
ライリーは武勇伝の写本を手に取り、赤面したり噛んだりしながらなんとか序章を読み上げた。神匠と、ねつ造ライバルが鍛冶の腕を競い合う比較的健全な内容だ。男同士のトラブルがそれなりに含まれるが。
ブレイドにとっては聞くに堪えない内容だった。ハールの表情を伺う。珈琲片手に余裕の笑みである。どういうことだ。
「ライリー、かわいいぜ」
(ハールさんは話ではなくライリーさんの話す様子を愛でているのか……?)
地獄を乗り切るには割り切ることも必要だとブレイドは知っている。
(自分も、勧めてくる更紗さんの言葉ではなく、その姿を愛でれば……)
更紗は可愛いらしい。客観的な事実だ。だがそれだけで割り切れるほどブレイドは器用ではない。真面目すぎた。
●
「これを基に斜め45度アレンジしてネタとしましょうか」
サシャはギラついた瞳のまま武勇伝の写本を胸に抱き、独りごちた。
「沢山読みましたね! お腹いっぱいの気分ですー!」
教本の山を前に大きく伸びをして、シェルリアがニコニコと笑っている。
「ブレイドさん、筋肉の本がまた見つかりました!」
「自分は……もう、いい」
元気が有り余る更紗に対し、ブレイドは考えるあまり無表情になっている。
(ドゥジン信仰の詳細はわかんねーけど、ライリーたちが楽しそうだからいいか)
ハールはライリーの頬をつん、とつついた。
皆が大体満足したところでそれは彼女と共にやってきた。
「誕生日おめでとう、ベル」
辺境都市群冒険者ギルド職員であり、シカ頭のハーフビーストのツェレンが階段付近で大きなケーキを抱えている。
チョコプレートにはライリーの誕生日を祝う言葉と、サシャ、ブレイド、更紗、シェルリア、ハールの名が刻まれている。
「では私はこれで……」
「ツェレンさんもご一緒しませんか?」
ケーキをテーブルに置き、踵を返したツェレンをサシャが呼び止めた。
「お祝いは人が多い方が楽しいと思います」
ツェレンは振り返り、ライリーの表情を伺う。夢見心地の瞳だ。拒絶は感じられない。
「美人なら何人でも歓迎だ」
ハールが椅子を持ってきた。仕方ない、座ってしまおう。
●
サシャの提案で、ライリーの誕生日を祝う歌が響く。涙ぐむライリーに、更紗が膨らんだ封筒を渡す。
「開けてみてください!」
(『お誕生日おめでとうございます! お会いしてからたくさんの素敵な依頼や、教本へのご縁を頂き本当にありがとうございます。これからも素晴らしいドゥジンの道をご教示くださいましね』)
更紗だ。信仰は歩みを止めぬ限りどこまでも続いていく。
(『ライリーに教えて頂いた貴族喰×首領や学園長×第一王女は衝撃でした……。「すぅいいと!」がゴーフル様を求める言葉だったとは……。自分の視点だけではどうしても世界が狭くなりますね。これからも教えて下さいませ』)
サシャだ。心を繋ぐことで世界は無限に広がる。
(『誕生日おめでとう、これからも良い仕事をよろしく頼む』)
ブレイドだ。わかる、新たな依頼を求めていることが。
(『萌えにあふれた素晴らしい一年になりますように』)
シェルリアだ。初心を忘れず高みを目指すべしという有難い教訓だ。
「これは俺からだ」
ハールも別の封筒を差し出した。
(『手元に残るモンを渡せるってのは良いことだな。相手が美人なら尚更だ。提案してくれた更紗や代筆してくれたシェルリアにも感謝だな。誕生日おめでとう』)
うわ、ストレートでめっちゃ照れるじゃん。
「私が描いた教本も差し上げます!」
シェルリアから王×皇をはじめとした教本が手渡された。ライリーは皆から貰った幸福を溢さぬよう抱きしめた。
「あたしはこの仕事に就けて本当に良かったと思います。ありがとうございました!」
ライリーは深々とお辞儀をしてから蝋燭の火を消した。ケーキ七等分の難易度は恐ろしく高かったが、皆の結束でなんとかなった。
●
本日一番幸せなのは間違いなくあたしだ。冒険者さんたちが気にしてくれたから、祝ってくれたからそうなれた。
ありがとうございます。これまでも、これからもよろしくお願いします。
マスターコメント
ショートシナリオ易しい 報酬:無し5 / 4〜10人
2022年04月01日 09時57分06秒 公開
相談掲示板
ハールだ。美人に会えると聞いて来たんだが…誕生日か。こりゃ、手ぶらじゃいけねえな。【質問】で彼女の好みを聞いてもいいか? …いや、冗談だ。ともあれ、楽しい1日になるといいな。
サシャと申します。お初の方はお見知りおき下さいませ。 ハール様、お好みを聞いても良いと思いますわよ? 私は最近入手したドウジン本の交換(読み合う)やおしゃべりが出来たら嬉しいと思ってます。 後は何を致しましょうか…お店の方にケーキとかお願い出来たら素敵なのですけど…ダメ元で皆さまで連名で注文をしてみませんか? 或いは別の事でも構いませんわ、アイデアがあれば乗せて頂けたらと思っております。 せっかくですし心に残る1日と出来ましたら嬉しいですわ。
シェルリア・リトヴァールといいます、よろしくお願いします! ライリー様ってば水くさいです! 普通に誕生日を教えて下さればいいのにっ。 もちろんお祝いしますよー、私の拙作(ドゥジンシ)で良ければお持ちしましょう! サシャ様提案のケーキ連名注文も素敵ですね! 実行するなら私も参加させて頂きたいです!
お、構わねえなら聞きたいな。 サシャの「連名でケーキか何か注文」ってのにも賛成だし、それに役立てられれば尚良い。 俺は彼女のことはこの通りよく知らねえが、出来ることはあるからな。 【質問】 …というわけで聞きたいんだが。 ライリーの好きな食べ物とか飲み物とかが知りたいね。
辺境都市群のギルド職員、兼、ドゥジン信徒のライリー・ベルでございます。 このたびは依頼への……というか私の誕生日会? へのご参加ありがとうございます! 【回答】 これは……持ってきていただける、という解釈でいいのかな? なら皆で食べられるものが良いかなぁ。……ピザとか! あ、あと! ハーブティーが好きです! ……これで回答になってるかな? ダメだったら教えてください、考え直すので!
東雲更紗と申します、よろしくお願いいたしますね。 ライリーさんのお誕生日会ですか、それはみんなでお祝いしませんとね。 サシャさんの連名でケーキなどの注文、とてもステキなあいであだと思います! ぜひ私も参加させてくださいましね。 ドゥジン関係でもお世話になっておりますしお誕生日会ですから、 私はばあすでいかあど?なるものを作ってみたいなと思います。 レターセットでも準備しようかと思いますので、 よろしければ皆さまも一言メッセージなどご一緒にいかがでしょうか?
ライリー、回答ありがとな。 皆で食べられるもの……じゃ、今出ている案に加えていくつか持ち寄るか。 (メモしつつ)十分参考になった。当日を楽しみにしてくれ。 ああ、バースデーカード。食べ物は食うとなくなっちまうが、それなら残っていいな。乗っからせてもらうぜ。
ハールさま、ケーキへの同意と質問とありがとうございます。 シェルリアさま、更紗さまもご同意いただけたので 皆さまの連盟と言う事でカフェの方にご相談しますね。 (ケーキが無い場合は他のお料理も有りますので、持込み許可を頂くとか掛け合います。) あ、ブレイドさまがまだでしたが…更紗さまがお話しして下さると思いますのでGOサインです。 ライリーさまはお答え下さりありがとうございます。 一言メッセージ、私も是非に。 ライリーさまにでしたら、一言では足りないかも知れませんね…。
顔出しが遅れてすまない。ブレイドだ、よろしく頼む。 ライリーさんの誕生日だったのか。 有害図書はともかく、依頼では世話になってるし参加させてもらおう。 連名でのケーキ注文やバースデーカードも誕生会ならではだしいいと思う。 せっかくだし自分もなにか持ち込みを考えてみるか…