【想石】パン屋の情熱を取り戻せ!

七海真砂

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シナリオID:1892

オープニング

「はあ……」
 冒険者ギルドで、溜息をつく男がひとり。
 小麦粉のついたコックコートにコック帽――その姿は、どこからどう見てもパン屋だった。
 だが。今その男は遠い目をして佇んでいる……。
「……なあ、あんた達、宝石化の魔物ってやつの騒動は聞いているか?」
 男は言った。
「俺はどうやら、パンを愛し、パン作りに燃えるパン屋だったらしい。だが――その情熱を、失ってしまったんだ……」

 宝石化の魔物に接触した人間は、持っている大切な想いが宝石化してしまい、その想いを失ってしまう――。
 男は、パン屋にとって一番大切なものを失ってしまったらしい。
「パンを焼く気にならなくってな。店は、開店休業状態だ。俺のパンを食べたいって、楽しみにしている人達が店に来る。けどよ、これっぽっちもパンを焼く気になれねぇんだ……」
 まるで抜け殻みたいになっちまったのさ、と自嘲する男の横顔は、どこか悲しげだった。

「俺の想いの宝石を砕けば、俺は元に戻れるらしい。でも、俺は想いの宝石をダンジョンのどこかに落としちまったんだ……なあ、あんた達、俺の想いの宝石を探してくれねぇか? 頼む!」
 そうしたら、俺はきっとパン屋に戻れる。
 戻れるんだ!!
 男は、縋るように冒険者達にしがみつく。
「今思えば、ダンジョンに呑み込まれてすぐ、小麦色の食パンみたいな宝石っぽい物を見た記憶があるんだ。きっと、あれが俺の想いの宝石に違いねえ! なあ、頼む、頼むよ!!」

解説

 パン屋さんの『想いの宝石』を探して砕き、彼のパン屋魂を取り戻しましょう!  証言を元に、想いの宝石が置き去りになってしまっていると思われる枝場は特定されています。しかし、その枝場には『宝石化の魔物』がいるため、危険です。  この枝場にいる宝石化の魔物は、チョコレートの体をした狼です。体当たりや、噛みついて攻撃をしてくる他、チョコレートの体をぐにゃりと変形させて、受けるダメージを和らげてしまう特殊能力も持っています。  数は全部でニ十体ほど。今後更なる被害が起こらないようにするためにも、きっちり仕留めた上で、パン屋さんの想いの宝石を探してあげてください。  パン屋さんの想いの宝石は、パン屋さんっぽい見た目をしているようなので、他の落ちている宝石と見分ける参考になるでしょう。  なお、魔物に接触すると皆さんの想いも宝石になってしまいます。が、授恵者の場合は想いが失われてしまうことはありません(ただ想いの宝石ができるだけになります)。 「自分の想いの宝石は、きっとこんな感じだ!」というご希望などありましたら、プレイングに書き添えてください。

マスターより

 こんにちは、七海です。  パン屋さんの危機、美味しいパンが食べられなくなっちゃう人達の危機です! どうかパン屋さんの情熱を取り戻してあげてください!  なお、【想石】の特設ページにもあるように、参加者の方には、連動エピローグノベル公開時に記念の宝石アイテムが配布されます。よろしければご自分の想いの宝石など、お持ち帰りくださいませ。  それでは、ご参加をお待ちしております。

リプレイ

「パン屋さんの為にも、皆の為にも頑張ろう!」
「ああ。パン屋の大事な情熱、必ず取り返してくるぞ!」
 ルルト・アーキスとアルバス・ロウルは視線を交わして頷き合うと、皆と共に目的の枝場を目指していた。
「美味しいパンの危機! なんとかしなくちゃいけませんね。それにしても……」
 と、不意に疑問を口にしたのはエルナ・クルプファルツだ。
「パン屋さんの想いの宝石は、どんな形なのでしょうか! 食パン型? バゲット型?」
 どんな形なのか、考えるだけでお腹が空いてしまいますね! とお腹に手を当てて歩くエルナの言葉に、
「「確かに」」
 と、合唱したルルトとアルバスが顔を見合わせる。
「――焼き立ての、あの山のような形なのだろうか?」
「ふかふかのを切って、バターを塗って……美味しいよね~」
 あのパンを食べる瞬間の味わいと香ばしさを思い出すと、胃がきゅうっとしそうだ。
「――ととっ。そうじゃなくて、えっと」
「ハハッ」
 想いの宝石の形だっけ、とあたふたするルルトの様子に思わず笑むアルバスである。
「形もそうですけど、重さも……想いが重いほど宝石は重くなるんでしょうか?」
 だとしたら、重さもかなりあるのかもしれませんね、とユークリア・フィナンシェは小首を傾げつつ考える。
 どこかに、1億年前から恋してるなんて歌があったけれど、そんな想いだったら地面が抜けちゃうかもしれない……なんて想像すると、ちょっと楽しい。
「とにかく、張り切ってパン屋さんの想いを取り戻していきましょう。ね、エルナさん!」
「はい!」
 エルナと頷き合いつつ、ユークリアは進んでいった。

 やがて、一行は目的の枝場に差し掛かった。この枝場はダンジョンの中でありながら空のようなものがあり、辺りは明るく感じられる。照明の用意もしてあったが、どうやら灯さなくても大丈夫そうだ。
「この唸り声……」
「来たみたいですね!」
 やがてアシュリー・ロックハートが低く唸る声を、エルナの目が近付いて来る影を捉える。狼に似た声、姿を持つチョコレート色の魔物――宝石化の魔物達だ!
(狼と同じ声なら真似はしやすいな……こんな感じか?)
 サイラスはすぐさま、狼に似せた声を発する。傷を負って、弱っている狼の鳴き声に似せた声だ。魔物達が狼のような習性を持っているなら、困っている仲間かもしれない声を無視はしないだろうと読んでのことで――それを耳にした魔物達はぴくりと耳を立て、こちらに向かって駆けてくる。
「先頭の奴から引き付けていくか」
 アルバスは大剣を構えると、攻撃と共にシーザーロアで先頭の魔物の意識を自分に向けさせた。アルバス目掛けて飛び掛かるように進む魔物に、後ろの魔物達も続こうとする。
「撃つよ! 気を付けてね!」
 エーテルを籠めた光の矢を構えながら呼びかけたルルトは、魔弓を引き絞って一気に放った。それは魔物達の間で炸裂し、無数の光の破片となって魔物達へと突き刺さる。
「エルナさん、突撃準備完了です!」
「輝刃を纏う魔砲攻撃! これが本家本元のエルナ砲です!」
 皆の身体能力を向上させたユークリアが、更にエルナの攻撃性能を強化しながらゴーサインを出すと、エルナは一気にタイダルストリームを解き放った。轟音と共に衝撃波を放ちながら伸びたエーテル光波は、多くの魔物達を呑み込んでいく。
「避けられたと思った? まだまだっ」
 ハッとして飛び退こうとした前列の魔物達に、アシュリーが薙ぎ払った大剣が襲い掛かる。
 刃に切り裂かれた魔物の身体は、まるでチョコレートが波打つかのようで。一瞬、ふわりとチョコレートの匂いが香った気がする。
「いけない、パンの話をしてたせいか、チョココロネが食べたくなってきた……じゅるり」
 舌なめずりしながら、集中集中と敵を睨むアシュリーだったが、今度は敵が一瞬チョコ溢れるチョココロネのように見えてきてしまって――さっさと倒して美味しいチョココロネを食べに行くっきゃないね! と大剣を握り直す。
「変形しながら攻撃を避けるなら、点より面の攻撃がいいよな――ってことで」
 サイラスの召喚した紅玉竜が辺りの魔物を一斉に攻撃し、更にエーテル光を武器に纏わせたアルバスの闘気槌が追い打ちをかける。それでも衝撃に耐えきった魔物が、反対にアルバスの腕に噛みついてくると、青紫色の宝石が弾ける。
「! 想いの宝石か……!」
「あれが!」
 桜の花びらを閉じ込めたかのような模様が煌めくのを見て、アルバスとアシュリーが立て続けに声を上げる。
(説明は受けていたけど……本当に宝石になるんだね~!)
 実際にこの目で見ると、やはり驚いてしまうし――じゃあ、自分の想いはどんな宝石になるのだろうかと、アシュリーは試してみたくなってしまって。
(ちょっとだけ……!)
 アシュリーは殺気と共にエーテルを叩きつけ、自分の方にも魔物を引き寄せようとする。軽く唸った魔物は、矛先をアシュリーの方へ変えて突撃した。
「わ……」
 途端、きらめいたのはエメラルドのような輝きを持った宝石だった。その細長い曲線を描いた形は、なんだかゴーヤにも似ていて。
「この形……確かに料理といえばゴーヤだけど……? とととっ!」
 更に続く魔物の攻撃を盾で防ぎつつ、想いの宝石をキャッチするアシュリーである。
(あの場所が良さそうですね!)
 ユークリアは魔物達の動きを見ながら位置を見定めると、天へと祈りを捧げた。ゆらり、うっすらとした透明な霧が漂う中を、ルルトの重撃射が飛んで行く。
「ヴリトラちゃんご飯よー」
 動きを鈍らせたそこへ、サイラスの声と共に飛来した炎龍が突撃し、爆発しながら還っていく。たまらずに倒れた魔物を見やったサイラスは一瞬だけ唸った。
「素材……つってもなー、チョコレートか」
 回収しても何に使うというか、物には限度があるというか。流石にチョコレートの毛皮は非常食にもならんかな、とぼやきつつも、それでも一度は手に取ってみるサイラスである。
「はいはーい! まとめて行きますよー!」
 そんな脇を抜けて降り注ぐのは、エルナのメテオライトだ。度重なる広範囲攻撃の連続に、力尽きてバタバタと魔物達が倒れ、そんな仲間の姿を見た残りの魔物達の足が、思わず鈍る。
 その瞬間、眩い雷の嵐が荒れ狂うと魔物達に直撃した。すかさず、アルバスは残る魔物達の視線の動きを追う。
(こういう時こそ、統率を取るボスへ目がいくものじゃないか?)
 リーダー格がいるなら、その個体を引き付けたい。そう考えたアルバスは一体の魔物に目を付けると距離を詰めた。
「よそ見はさせん」
 振るった大剣と共に叩きつけたエーテルが魔物の執着心を煽る。その目が確かにアルバスを睨み、飛び掛かる様を見たルルトは、更に敵を追い込むように炸光矢を撃ち、後退ろうとしていた魔物達の動きを食い止めにかかる。
「こういうのは、どうかなっ!」
 アシュリーは肉体を蝕むエーテルをまとわせた大剣で魔物に斬りかかっていく。ぐにゃりと、溶けたチョコレートのように体を器用に動かして攻撃の威力を逸らそうとする魔物だが、叩き込まれたエーテルは確かに、その耐久力を損なわせていく。続けざまに、ユークリアが放った祭刀の一撃に、魔物の体が震えた。
「あっ」
 それと同時にきらりと輝く宝石が一つ。自分の想いの宝石だと直感したユークリアは、それを握りながら敵と向き合う。
「さて――こんな毛皮でも素材は素材だ」
 一度回収したなら、その姿は再現できる――サイラスが鳥獣戯で呼び出したのは、紛れもなく眼前の魔物と同じ姿をしたモノだった。攻撃を仕掛けながら、更にサイラスが模写した鳴き声が辺りに響けば、魔物達は動揺と困惑を浮かべる。
「今のうちに、一気に追い詰めちゃいましょう!」
「ですね!」
 エルナのタイダルストリームが敵を呑み込み、頷いたルルトの矢が再び炸裂する。その破片の隙間を縫うようにアルバスが振り下ろした闘気槌が一気に伸び、浮き足立った魔物達を一掃していく。
「逃がさないよ!」
 間合いを詰めたアシュリーの強打やユークリアの魔法が、残る魔物を一体ずつ撃破していき……そうして、この場所に巣食う宝石化の魔物は、すべてが倒れたのだった。

「これは……! 皆さん、見てください。これじゃないですか?」
 宝石化の魔物を倒し終えた一行が、奥へ向かって進んでいくうち、エルナがそれに気付いて声を上げた。
 丸ごと一斤の食パンを横から見た時のような形をした、小麦色の宝石――。
「確かに、これはパンだね」
「パンだなあ……」
 覗き込んだルルトやサイラスが頷く。普通の宝石とは一線を画したビジュアルは、パン屋の想いの宝石としか考えられず、一行はこの場でそれを砕いた。
「他に見つかった宝石も、念の為に持って帰りましょうか」
 パンの宝石以外にも、いくつか宝石らしきものを拾った一行は、代表してエルナがポーチにそれをまとめた。
 他にも被害に遭って想いの宝石を落としたままになっている人がいるのかもしれない……というか、おそらくそうなのだろうから……ギルドに届けておけば、問い合わせがあった時に照合できるはずだ。
 太陽みたいに明るく輝いている、自分の想いの宝石が混ざってしまわないよう気を付けながら、エルナはそれをしまいこむ。
「? ユークリアさん? どうしたんですか?」
 と、ふと見れば、ユークリアが自分から生まれた想いの宝石を手に無言で押し黙っている。エルナが首を傾げると、「ええ、ちょっと」とユークリアは笑う。
(健康の大切さ、運動と活力での幸せへのこだわり、生きることへの力、強さ……)
 残留思念感応で見えた気がしたのは、そんな感情と――あの時、守ってくれた仲間への感謝だったから。
(特に、エルナさんには感謝しきれませんね)
 その相手であるエルナを見つめて、目を細めるユークリアだった。
「さてと。さっきは回収したけどなー」
 サイラスは「どうしたもんかなぁこれ」と呟く。チョコレートの鎧とか作ったところで、誰が使うのかといった問題もあるし……などと思っていたら。
「……食べられるのかな?」
 素朴な疑問を口にしたルルトが、迷宮飯レシピ集完全版を開いた。
 載っているかな、最近急に突然大量発生した魔物だから無理かな――などとページをパラパラしている。
「ルルト、それ……食べるのか?」
「ん? さすがに食べないよ、調べるだけ」
 レシピを調べているという事は……と、おそるおそる口にするアルバスだったが、ルルトにそのつもりはないらしい。「未知の食材へチャレンジ……ではなかったか」と、アルバスはホッとしたように笑う。
「でも、お腹が空いたな……」
 焼き立てのパンの話をたっぷりして、チョコレートな狼を目の前でたっぷり見たのだ。胃袋に訴えかけてくる何かがあっても、不思議では無いだろう。
 くぅ、と小さくお腹が鳴ったとしても、誰が責められるだろう!
「わかるぅ。もうずっとチョココロネが食べたくて!」
「ああ、無性にチョコとパンが食べたいよ」
「チョコ食べたーい!」
 アシュリーが同じようにお腹を鳴らして言えば、アルバスもルルトも頷いて。
「こうなったら、パン屋さんの無事を確認しながらパンを買いにいくしか!」
「それだ!」
「そうしよう」
 取りこぼしている宝石が無いか、もう一度よく確認しながら、一行は地上へと引き上げることにする。
(この間よりも少しだけチョコがかった色に……? いや、気のせいかー?)
 サイラスは、新しく手に入った想いの宝石の色が前とは微かに違う気がして、まさか今回の敵の姿が反映されたのだろうかと訝りつつ、それを荷の中へしまう。
(太陽が無いところでも、太陽の下にいる時みたい)
 ルルトは拾い上げた自分の想いの宝石を、ワクワクした気持ちで眺める。
 それは、新緑のような緑色――あの冒険者になったばかりのワクワクを、思い出させてくれる色だった。

「うおおおおおおおっ! 焼くぞ、どんどん焼くぞ!」
 地上に戻った一行がパン屋さんの元へ向かうと、そこには、情熱を取り戻して早速パン作りに励むパン屋さんの姿があった。
「うわぁ、いい香り……」
「美味しそうですね!」
「もちろん! どのパンも自慢のパンさ! ああ、俺は何で、こんなに大事なことを一時でも忘れちまったんだろうなぁ……みんな、どんどん焼くから食べてくれ!!」
 パン屋さんは、すぐにまた新しい生地を捏ね始める。
 そんな姿を見て笑顔で視線を交わすと、一行は美味しい焼き立てのパンを求めて、店内に入っていった。

マスターコメント

 皆さんのおかげで、無事にパン屋は情熱を取り戻し、みんなの元に美味しいパンが届くようになりました……ありがとうございました!
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2022年02月20日 21時50分30秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. No.1

    サイラスだ、よろしくなー とりあえず最低人数は揃った。 パン屋さんっぽい形、小麦色の宝石とは。と言うのはまあ置いておいて、とりあえず闘気槌とか見たいな面での攻撃を狙った方が変形で防御されても安心かなと?

  2. ルルト・アーキス

    ルルト・アーキスだよ、よろしくね! 出発が確定してよかったんだよ。 数が多いようだから逃がさないようにしないとだね。 とりあえず、捜波でマークして注意しようと思ってるんだよ。 なるほど面攻撃…まとめた所に炸光矢を撃ちこんでみようかな?

  3. アルバス・ロウル

    ウォーリアのアルバス・ロウルだ。よろしく! よし、出発確定だな。 闘気槌に炸光矢、どちらも範囲攻撃だな。 ならばシーザーロアでできるだけ一所に集めようか。

  4. ユークリア・フィナンシェ

    ヒーラーのユークリアです。 宜しくお願いしますね! ブルーフレアをお持ちのヒーラーさんがいらっしゃらない限りは、レゾナンスオブヴァローで範囲バフを使いたいと思います。 あとは範囲攻撃持っていきましょう

  5. アシュリー・ロックハート

    はじめまして、ウォリアーのアシュリーだよ。よろしくね♪ 一か所に集まったところを範囲攻撃で薙ぎ払う感じだね。

  6. No.6

    まあ例だけどね闘気槌 炸光矢は無差別なんで使う時はウォーリア離れてからにしないと危ないからねー

  7. ルルト・アーキス

    アルバスが引き付けてくれるならそこを狙ってみるんだよ。 アドバイスもありがと! 皆を巻き込まないように使う時は気を付けるね。 バフもすっごく頼もしいな。

  8. エルナ・クルプファルツ

    飛び込み参加! エルヴンシューターのエルナです!皆さまよろしくおねがいしますね! 範囲攻撃で一網打尽!ですね! メテオライトを準備していこうと思います! 引き付けにヴァローもありがとうございます! 頼りにさせて頂きますね!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0