ハーレムごろし~ラミアの百合ハーレム編~
眞石ユキヒロ
コメント 5
シナリオID:1855
オープニング
●
「百合ハーレム! ラミアの百合ハーレムを倒してくださる冒険者さんはいらっしゃいませんか!?」
辺境都市群のギルド職員、兼ドゥジン信徒のライリー・ベルは叫んだ。
前回、マーメイドの逆ハーレム討伐依頼の説明を担当した際は三徹で暴走して怒られたが、今回は二徹。大丈夫だ、問題ない。そう思っていたのに早速言葉に本性が混じった。
食事や歓談中の冒険者の視線が集まる。先輩職員が睨み付けてくる。ライリーは光の速さで全方位に頭を下げてから訂正した。
「失礼しました! イェルノー荒野に現れ、荷馬車を襲うラミアの百……群れを退治してくださる冒険者さんはいらっしゃいませんか!?」
再度、百合ハーレムと言いかけたが、二徹だから耐えられた。三徹だったら耐えられなかっただろう。先輩職員もライリーを見つめているが、その表情からはいくか険がとれている。この調子でいけば今回はちゃんと説明できる。大丈夫大丈夫。
百合は好きだ。人間のハーレムは合意の元なら別にいい。ただ、人間をおびやかす亜人や魔獣のハーレムが許せない。それだけなのだ。
前回、マーメイドの逆ハーレムは冒険者たちによって倒され、襲われた少年は完治し、現在は授恵者としての手ほどきを受けている。これはハッピーエンドに分類できなくもない。
けれど、今回の件は――。
ライリーは興味を持って集まってきた冒険者たちに一礼してから、依頼内容の説明を開始した。
「イェルノー荒野に現れたラミアの群れが御者と馬を殺害し、荷馬車から積み荷を奪って逃走。同様の事件が数件起こっています」
拳をぐっと握り、こみ上げてくる怒りを抑えながら、ライリーは淡々と説明するよう心がけた。
「相対した荷馬車の護衛によると、特異個体のラミアが他のラミアたちを指揮していたようです。……花の匂いを漂わせ、愛の言葉を囁きながら」
これも文書に書いてある本当のことだ。手元に依頼の文書があったら握りつぶしていたかもしれないほど腹立たしい事実だ。
愛の言葉を囁きながら命を奪わせるだと? ふざけるな。
「由々しき自体ですよね! このままではラミアの百合ハー……群れに辺境都市群の物流をぐちゃぐちゃにされてしまう可能性があります!」
一瞬本性が出そうになって、すぐに訂正した。額に汗をかきながら横目で先輩を伺う。すでに自分の仕事に戻っている。
私だって今日は三徹じゃない、二徹だ。もうあんな失態はおかさない。大丈夫。イケる、イケる。
「亜人の百合ハーレム、絶対に潰しましょうね!」
満面の笑顔で、ライリーが両拳を胸の前でぐっと握る。それから数秒後、ライリーは自分が失言をしたことに気づくのだった。
先輩がカウンターを両手で叩いた瞬間、ライリーの感情が恐怖に塗り替えられた。
「ライリー・ベル。アンタはそうやってすぐ調子に乗って……!」
目つきの鋭い先輩がカウンターから出て、依頼板の前にやってきた。ライリーは両手を胸の前でぶんぶんと振りながら弁明する。
「違うんですこれは! 私はこうやって冒険者の皆さんの士気を高めているんです! 業務の一環です、業務の一環!」
二徹の脳みそをフル回転させ全力で弁明するライリーに先輩職員は嘆息する。
「あーそうかい。今はそういうことにしといてやるよ、まったく……」
先輩職員はライリーを一睨してから、冒険者たちに頭を下げた。
「ベルの発言はともかく、辺境都市群の物流に影響が出始めているのは事実です。あいつらはまず馬や荷馬車の車輪を狙うとも報告されています」
眉根を寄せた先輩職員は更に踏み込んだ依頼の説明に入った。
「今回はラミアの集団をおびき寄せるため、依頼主から荷馬車が貸し出されます。御者は当ギルドの職員です」
「御者の隣にもう一人乗っていただくことも可能です! ちなみに御者は授恵者のエルフ男性です!」
ライリーが重要な情報と、あまり重要でない情報を付け加えた。
「絶対に絶対に絶対に! 物流のためにラミアのハー……群れを倒してきてください、よろしくお願いします!」
ライリーの言葉のあとに、先輩が折り目正しい礼をする。
それに続いて、ライリーが最敬礼をする。冒険者たちはそこに言葉以上の強い意図を感じた。
●
イェルノー荒野の岩陰にて、彼女たちは寄り添い、身体を休めていた。
いずれも上半身は美しい人間の女性、下半身はヘビとなっている。つまるところ彼女らこそ、現在辺境都市群の物流を乱しているラミアたちである。
『あらあら、可愛い子ヘビちゃん。そんなに近づいたら私と貴女の尻尾が絡まってしまうわ』
その中心に座する一回り大きなラミアが、しなだれかかってきたラミアの細い肩を抱いた。
『う、運命が絡まるなんて、そんな……!』
肩を抱かれたラミアは頬を赤らめ、俯いた。照れながらも尻尾をじりじりと、特異個体の方に寄せてしまう。
『待ちなさいよ! 抜け駆けは許さないんだからね! ……お姉様、いい匂い』
特異個体の後ろに座っている群れ一番の巨乳のラミアが、高い位置にある腰のくびれにしなやかな腕を巻き付けて、特異個体の気を引こうとする。
『ふふっ、私はみんなを愛してるんだから、焦らなくて良いわよ』
特異個体は自分に抱きつくラミアに流し目を向けた。
『お姉様、美しいです……!』
流し目を浴びたラミアの腕がほどけ、身体を痙攣させながら特異個体の尻に顔を埋めた。
『当然よ、みんなを率いる私は強く美しくあるべきなんだから』
『お姉様ぁ!』
『愛していますぅ!』
ラミアたちの言葉に、特異個体は口の端をつり上げ、瞳を三日月型に細めた。
(テキトーに愛を囁いとけば言うこと聞くんだから楽よね。いざとなったら切り捨ててもいい尻尾なのに)
尻尾をくるんと回しながら、特異個体は人差し指の先を下唇に当てた。
『あなたたち、最高よ』
その言葉に、特異個体を取り巻くラミアたちは嬌声を上げた。
「百合ハーレム! ラミアの百合ハーレムを倒してくださる冒険者さんはいらっしゃいませんか!?」
辺境都市群のギルド職員、兼ドゥジン信徒のライリー・ベルは叫んだ。
前回、マーメイドの逆ハーレム討伐依頼の説明を担当した際は三徹で暴走して怒られたが、今回は二徹。大丈夫だ、問題ない。そう思っていたのに早速言葉に本性が混じった。
食事や歓談中の冒険者の視線が集まる。先輩職員が睨み付けてくる。ライリーは光の速さで全方位に頭を下げてから訂正した。
「失礼しました! イェルノー荒野に現れ、荷馬車を襲うラミアの百……群れを退治してくださる冒険者さんはいらっしゃいませんか!?」
再度、百合ハーレムと言いかけたが、二徹だから耐えられた。三徹だったら耐えられなかっただろう。先輩職員もライリーを見つめているが、その表情からはいくか険がとれている。この調子でいけば今回はちゃんと説明できる。大丈夫大丈夫。
百合は好きだ。人間のハーレムは合意の元なら別にいい。ただ、人間をおびやかす亜人や魔獣のハーレムが許せない。それだけなのだ。
前回、マーメイドの逆ハーレムは冒険者たちによって倒され、襲われた少年は完治し、現在は授恵者としての手ほどきを受けている。これはハッピーエンドに分類できなくもない。
けれど、今回の件は――。
ライリーは興味を持って集まってきた冒険者たちに一礼してから、依頼内容の説明を開始した。
「イェルノー荒野に現れたラミアの群れが御者と馬を殺害し、荷馬車から積み荷を奪って逃走。同様の事件が数件起こっています」
拳をぐっと握り、こみ上げてくる怒りを抑えながら、ライリーは淡々と説明するよう心がけた。
「相対した荷馬車の護衛によると、特異個体のラミアが他のラミアたちを指揮していたようです。……花の匂いを漂わせ、愛の言葉を囁きながら」
これも文書に書いてある本当のことだ。手元に依頼の文書があったら握りつぶしていたかもしれないほど腹立たしい事実だ。
愛の言葉を囁きながら命を奪わせるだと? ふざけるな。
「由々しき自体ですよね! このままではラミアの百合ハー……群れに辺境都市群の物流をぐちゃぐちゃにされてしまう可能性があります!」
一瞬本性が出そうになって、すぐに訂正した。額に汗をかきながら横目で先輩を伺う。すでに自分の仕事に戻っている。
私だって今日は三徹じゃない、二徹だ。もうあんな失態はおかさない。大丈夫。イケる、イケる。
「亜人の百合ハーレム、絶対に潰しましょうね!」
満面の笑顔で、ライリーが両拳を胸の前でぐっと握る。それから数秒後、ライリーは自分が失言をしたことに気づくのだった。
先輩がカウンターを両手で叩いた瞬間、ライリーの感情が恐怖に塗り替えられた。
「ライリー・ベル。アンタはそうやってすぐ調子に乗って……!」
目つきの鋭い先輩がカウンターから出て、依頼板の前にやってきた。ライリーは両手を胸の前でぶんぶんと振りながら弁明する。
「違うんですこれは! 私はこうやって冒険者の皆さんの士気を高めているんです! 業務の一環です、業務の一環!」
二徹の脳みそをフル回転させ全力で弁明するライリーに先輩職員は嘆息する。
「あーそうかい。今はそういうことにしといてやるよ、まったく……」
先輩職員はライリーを一睨してから、冒険者たちに頭を下げた。
「ベルの発言はともかく、辺境都市群の物流に影響が出始めているのは事実です。あいつらはまず馬や荷馬車の車輪を狙うとも報告されています」
眉根を寄せた先輩職員は更に踏み込んだ依頼の説明に入った。
「今回はラミアの集団をおびき寄せるため、依頼主から荷馬車が貸し出されます。御者は当ギルドの職員です」
「御者の隣にもう一人乗っていただくことも可能です! ちなみに御者は授恵者のエルフ男性です!」
ライリーが重要な情報と、あまり重要でない情報を付け加えた。
「絶対に絶対に絶対に! 物流のためにラミアのハー……群れを倒してきてください、よろしくお願いします!」
ライリーの言葉のあとに、先輩が折り目正しい礼をする。
それに続いて、ライリーが最敬礼をする。冒険者たちはそこに言葉以上の強い意図を感じた。
●
イェルノー荒野の岩陰にて、彼女たちは寄り添い、身体を休めていた。
いずれも上半身は美しい人間の女性、下半身はヘビとなっている。つまるところ彼女らこそ、現在辺境都市群の物流を乱しているラミアたちである。
『あらあら、可愛い子ヘビちゃん。そんなに近づいたら私と貴女の尻尾が絡まってしまうわ』
その中心に座する一回り大きなラミアが、しなだれかかってきたラミアの細い肩を抱いた。
『う、運命が絡まるなんて、そんな……!』
肩を抱かれたラミアは頬を赤らめ、俯いた。照れながらも尻尾をじりじりと、特異個体の方に寄せてしまう。
『待ちなさいよ! 抜け駆けは許さないんだからね! ……お姉様、いい匂い』
特異個体の後ろに座っている群れ一番の巨乳のラミアが、高い位置にある腰のくびれにしなやかな腕を巻き付けて、特異個体の気を引こうとする。
『ふふっ、私はみんなを愛してるんだから、焦らなくて良いわよ』
特異個体は自分に抱きつくラミアに流し目を向けた。
『お姉様、美しいです……!』
流し目を浴びたラミアの腕がほどけ、身体を痙攣させながら特異個体の尻に顔を埋めた。
『当然よ、みんなを率いる私は強く美しくあるべきなんだから』
『お姉様ぁ!』
『愛していますぅ!』
ラミアたちの言葉に、特異個体は口の端をつり上げ、瞳を三日月型に細めた。
(テキトーに愛を囁いとけば言うこと聞くんだから楽よね。いざとなったら切り捨ててもいい尻尾なのに)
尻尾をくるんと回しながら、特異個体は人差し指の先を下唇に当てた。
『あなたたち、最高よ』
その言葉に、特異個体を取り巻くラミアたちは嬌声を上げた。
解説
●目標
・荷馬車を襲うラミアの百合ハーレム討伐
●敵情報
・ラミア(特異個体)
荷馬車を襲う百合ハーレムの主。三メートルほどの体高を持つ。
主に他のラミアを指揮して戦う。指揮の最中は岩陰に隠れている。
ラミアが半数以上倒されたら、残ったラミアに戦場を任せ、自分は撤退を開始する。
尻尾による締め付けと、槍による攻撃を行ってくる。
香水に凝っていて、匂いに敏感。
PCが香水か、匂いに関連するスキルを所持していると……?
・ラミア
特異個体に愛を捧げるラミアたち。二メートルほどの体高を持つ。
初手で馬か車輪を狙う可能性が高い。
二匹一組で散開しながら攻撃するのが特徴。
槍を持った個体が尻尾による締め付けと槍による攻撃を行い、弓を持った個体が後方から援護する。
先に特異個体を倒すと、その時点で生存しているラミアは撤退を開始する。
●NPC
・御者
ギルド職員でシューター。ペットはいない。過去の失敗から冒険者の言うことを素直に聞く。
戦闘参加可能。
特に指示がない場合はホークアイを用い、荷馬車や馬を狙う敵に強射、生命力が1/3になったPCにヒールをする。
プレイングで指示があれば薄煙炸弾、濃煙炸弾のいずれかも使用可能です。
戦闘に参加させず荷馬車に乗せておくことも可能です。
・馬二頭
場合によっては死ぬ。どちらかに攻撃が当たると、荷馬車を牽いてどこかの街に走り去ろうとする。
御者を荷馬車に乗せたままにしておけば、攻撃が当たった場合も馬をなだめてその場にとどめることが可能です。
・ライリー・ベル、先輩職員
リプレイでは最後にちょっと登場するかもしれません。
●状況
荷馬車でイェルノー荒野にある各都市間を移動し、ラミア百合ハーレムをおびき寄せます。
荒野は晴れていて、出発は朝。岩とかあります。
・荷馬車
御者の隣に1人座れます。他のメンバーは併走するか中で待機になります。
車輪は4つあり、1つが3回攻撃されたら破壊されます。
中には依頼主の好意で参加人数分+御者と馬用の水袋(小)が用意されています。
荷馬車と馬二頭と水袋は依頼人の所有物なので、依頼終了後に返却になります。
馬や御者を殺されたり、車輪を破壊された場合は、ラミア百合ハーレムの討伐に成功しても成功度が下がります。お気を付けください。
マスターより
OPにお目通しいただきありがとうございます!
眞石ユキヒロと申します。
2回目になりますハーレムごろし。今回はいい匂いがするラミアの百合ハーレムの殲滅です。
前回を見ていなくても支障のない内容ですので、ご新規さんもお気軽にご参加くださいませ。
そしてハーレムを潰す愉悦もとい楽しみを知りましょう(笑顔)
余談ですがこの先、ライリーの先輩にはちょっと変わった役どころになってもらいたいと考えています。
質問があれば冒頭に【質問】と書いて相談卓に投稿すればライリーが答えられる範囲で答えます。
リプレイ
●
辺境都市群、冒険者ギルド内。
眼鏡をかけた緑髪の青年、ロドリック・アルカインは眉間に皺を寄せ、困惑していた。
(相手が亜人だというのに、受付嬢の興奮振りは一体どういうことか……?)
ライリーだけではない。穏やかな笑みを浮かべた銀髪の女性、サシャ・テーリングもアルパカ印のサシェを片手に興奮しているように見受けられる。
(いや、世の中には知らない方が良い事もあるだろう。詮索はするまい)
覗き込んだら二度と帰ってこれない深淵がすぐ隣にあるような、不思議な心地がした。
ロドリックは今回の依頼でどのような行動をすべきか、それだけを考えることした。
(愛の言葉……是非お聞きし資料にしなくては……全て記憶して帰りますね)
サシャは記憶力をマインドセットしなければと考えつつ、手の中の香り袋に視線をやった。特異個体は花の匂いをさせながらラミアたちに愛を囁いていたらしい。
想い人に贈ると破局するという噂のあるサシェ。さてさて、どなたに差し上げましょう。
赤い鱗と巨躯、自ら打った立派な刀が印象的なリザードマンのサイラスも、ロドリックとは別の視点から困惑していた。
(百合に挟まる男はダメとかドゥジンシになかったかなぁと?)
他者の趣味や信仰を否定しないサイラス的には悩んでしまう部分だった。ライリーは「人に迷惑をかけるなら百合も薔薇も関係ない」と主張していたが、百合に挟まる男はダメだと叫ぶドゥジン信徒が存在するのもまた事実。
もちろん討伐はする。だが、どう割り切るかを考える必要もあった。
大胆に胸元を開いたドレスアーマーを纏う、ピンク色の長髪の少女、リリリリスは彼ら彼女らの困惑や思惑の外側にいた。
「私が居れば、こんな依頼は華麗に優雅に華憐に達成して差し上げますわ!!」
しかし考えていることは大幅にズレていた。
(至高の皿の前ではナマモノはほとんど食材!)
食材と認識している。上半身は人間で、下半身はヘビのラミアを。
●
一行は荷馬車と御者が待機する街の外れへ向かった。
ロドリックが御者に地理を確認する。御者は地図を懐から取り出して広げた。
「なるほど、このあたりに大きな岩が多いんだな」
残りのメンバーもどう行動するかを話し合う。看破を持つサイラスが御者の隣に座り、行く先に目を光らせる。超嗅覚を持つリリリリスが荷馬車の中からラミアの香りを嗅ぎ分ける。天眼を持つサシャは荷馬車に併走し、遭遇戦に備える。そういう方向性で話は進んでいく。
「アルカイン様はいかがなさいますか?」
男二人が隣に座ることが決定してから瞳をギラつかせはじめたサシャが尋ねる。ロドリックは気圧されながらも己のマインドセットを思い出す。苦手な看破系は装備していない。そして大変なことに気がついた。
(魔導の潮流をセットし忘れている……!)
うっかりだ。ただショックを受けることしかできない。
急に落ち込みはじめたロドリックを見かねたサイラスが口を開く。
「テーリングの反対側を走っとけば良いんじゃないかと」
「そうだな! それで決定だ!」
ひとまず、先ほどのミスは忘れる。ロドリックは腕を組み何度も頷いた。
「早速参りましょう! 調味料の匂いがするラミアだなんて、たのしみですわ!」
荷馬車に乗り込みながらリリリリスがウキウキと語る。サシャが馬車の左側につく。ロドリックも反対側につく。サイラスが御者の隣に座ったところで荷馬車は動き出した。
●
「調味料の香りが左右から近づいてきますわ! テーリング様がいらっしゃる左の側からは特に強い匂いがしますわ!」
一行はそれぞれ視線を動かした。左を向いたサイラスの金色の瞳が、岩陰から顔を出すラミアの存在を看破した。
「いるぜ。ざっと見た感じ、三組六体って感じだなー」
荷馬車が止まる。御者席を降りたサイラスはサシャの隣に立ち、ラミアの位置をサシャに教えた。それから刀と竜鱗の盾を構える。
「アルカイン様のいらっしゃる右側には……匂いからして一組二体、といったところですわね!」
荷馬車から大胆に飛び出し、リリリリスは木の大剣とノブレス・オブリージュを携え、ロドリックの前に立った。
岩から顔を出したラミアがリリリリスを見ながら舌なめずりをしている。
ロドリックは迷った。反対側の方が厳しい戦いになるのは明白だし、可能なら自分も加勢すべきだ。だが、授恵者とはいえ少女一人を置いてこの場を離れるのは――。
「こちらは私に任せて、向こうの守りを固めてくださいませんかしら?」
リリリリスは自身に槍を向けながら接近するラミアに鋭い殺気をぶつけた。同時にフレグランスの香りも伝わり、ラミアの表情がうっとりとしたものに変わる。
「待て。私もこれくらいのことはする」
ロドリックは車輪を隠すように横に、馬の身体を隠すように縦にアイアンウォールを召喚した。これでリリリリスがかばう対象は御者のみになる。御者は授恵者だ、そう簡単に死ぬことはないだろう。
リリリリスはラミアの奥へ視線をやった。ラミアがいる。
ラミアは御者を狙い矢を放った。リリリリスは重点硬化とカバリングを行い、輝くエーテルを纏った華麗なるローザハーレで矢を受ける。痛みはほぼ無い。
●
サシャは近づいてきたラミアにサシェを投げた。驚くべきことにラミアはサシェを掴んで匂いを嗅ぎ始めた。
『うわっ、超いい匂い……』
サシャにはラミアの言葉が「シャー」と聞こえた。サシャは気づいた、亜人語適正をセットし忘れていたことに。
(不覚ですわ……ですが足止めには成功しましたから、気を落とさずに)
天眼で把握した場所から、ラミアが予想通りに姿を現した。サシャは彼女が矢を放つ前に宿り木の杖の先から爆炎2を放ち、爆風と共に葬り去った。
『なんなのかしら……揃いも揃って匂いをさせる人間ども……。皆、愛する私の匂いが一番よね!?』
特異個体が吠える。サイラスとサシャはそちらを見た。
「「いい匂い、人間、私、一番」だそうだ」
反対側にいるロドリックが聞き取れた部分を全員に伝える。瞬間、サシャは考えた。
「アルカイン様! ラミアたちの言葉、一言一句忘れずに記憶しておいてくださいね!」
ラミアたちの言葉は、あとでロドリックから聞き出せば良いのだ。
「あ、ああ。わかっ、た?」
急なお願いに翻弄され、うかつな返事をしたロドリックにサイラスは内心同情した。しかし戦闘中だ。まずは目の前のことを考える。この集団はある程度戦力を削られると撤退行動に移るらしい。
(面倒い弓を減らしてから特異個体の方を狙うのが理想……)
サシェを受け取ったラミアは、特異個体の言うことを聞かず匂いを嗅いでいる。
サシャは一瞬口の端を上げてから、次に狙うべきラミアに近づく。
サイラスは自分をガン見するラミアに近づきながら、鋳造を発動した。大斧の形を真似たエーテルがラミアの上半身を切り裂いた。
サイラスの強いフェロモンに惹きつけられ、使命を忘れたラミアが2体やってくる。ラミアが突きを繰り出し、ラミアが愛の矢を放った。
「モテ期? ってやつかよ?」
両方からの攻撃を受けても冗談を飛ばせるほどには、サイラスは頑丈であった。
●
攻撃を背に受けながらもリリリリスは前進する。
「私がいる限り、馬車には鱗一枚触れさせませんわ!」
ラミアにシーザーロアを叩きつける。
ロドリックは考える。今こちらで効果的な範囲攻撃を行える者は自分しかいない。
『可愛い子ヘビちゃんたち、私の腕の中で感じたときめきを目の前の敵にぶつけなさい!』
特異個体が次の命令を叫んだ。
「「腕の中、ときめき、ぶつけ」などと言っているぞ!」
伝えているロドリックにはさっぱり意味がわからなかった。だが様々な教本で愛の知識を得ているサシャは的確に特異個体の意図を理解した。
「近接攻撃をしろ、という意味だと思われます! 皆様、あまりラミアに近づかないように気をつけてくださいませ!」
リリリリスに執着するラミアは彼女に近づき、その豊満な身体にヘビの下半身を巻き付けた。咄嗟に重点硬化を発動したが、身動きはとれそうもない。
「たのしい、じゃなかったですわ、義務ですわ!!」
愉悦の表情を凜々しいものに変化させて、リリリリスは何かをごまかそうとする。
それを気にする余裕もなく、ロドリックは思考をめぐらせていた。
(魔導の潮流の代わりになるもの……、攻撃集中だ!)
ロドリックは攻撃集中のあとにメテオライト2を発動した。彼の周囲に小さな光弾が大量に出現し、リリリリスを取り巻くラミアに降り注ぐ。
ラミアたちはあっという間に死体になった。
●
サイラスに近づこうとするラミアに、サシャが横からタイダルストリーム2を放ち蹴散らす。
サイラスはラミアに追われながら、特異個体に向かって一気に距離を詰めていく。それから攻撃集中し、刺築を発動する。サイラスの分身擬きが6体現れ、特異個体とラミアに武器を振るう。
『私を守って、お願いよ!』
「ラミアたちが特異個体に向かっていくぞ!」
ロドリックの叫びにサイラスが振り返った。生き残ったラミアたちが特異個体になだれ込む。サシェを持っていたラミアは特異個体に捧げるかのようにサシェを投げた。
特異個体は後ずさりながらそれを受け取り、その匂いに一瞬うっとりした。
「伝わらないでしょうけれど説明しますね。そちらは失恋できると有名な一品ですの」
言いながらサシャは祈った。六角形の柱が現れ、特異個体を閉じ込める檻となった。光縛封だ。
『なんだこれは!? 今すぐ私を出せ!』
光縛封を槍で突きながら何かを騒ぐラミアを背に、サシャは荷馬車を確認した。サシャが先に指示したとおり荷馬車は岩場の陰に移動され、御者は周囲を警戒している。
リリリリスとロドリックが轍の向こうから全力で駆けてくる。
サイラスは特異個体を助けに来たラミアたちにエーテルで強化した尻尾を振るい薙ぎ払った。ラミアたちは倒れ、黒い煤のようなエーテルが舞う。
(このスキルの脾煤揺って名前、嫌がらせになるんかな? 捩り元百合の一つだし)
百合に挟まる男というより百合を解体処理する男になっている自分を認識しながら、たった一匹になった特異個体に視線を向けた。
『クソッ! 人間どもが小癪な!』
「どうでもいい負け惜しみだ、気にすることはない」
「そんなことはありません。すべてを記憶しておいてくださいませ」
ロドリックとサシャがそんなやりとりをする程度には、一行には余裕があった。
特異個体は光縛封への攻撃を続けているが、割れることはなく。特異個体が封じ込められている間にサシャがサイラスとリリリリスにヒールをかける余裕すらある。
全快した二人とサシャで光縛封を取り囲み、やや後方にロドリックが位置する。間もなく光縛封は消えた。
『私だけでも逃げてやる!』
特異個体はその大きな身体で、リリリリスとサイラスの間を強引に突破した。
「逃げる気だ!」
ロドリックの言葉に弾かれたように走り出したサシャは、タイダルストリーム2を放つ。エーテル光波が特異個体の身体を熱く包んだ。
「貴方の為に身を捧げた子達に相応しい弔いを聞かせて下さいますわよね……」
恍惚の笑みが美しい。
『ザコどもは私の美しさを引き立て、私に切り捨てられるために存在するのよ!』
リリリリスがチャージングで駆け、破鎧砕をたたき込んだ。鱗が砕け、派手に飛び散る。
「あら……やはり匂いが違いますわね……これは……下味は大丈夫そうですわね」
『私の完璧な鱗がぁ!』
「私が素敵な至高の皿にしてさしあげますわ!!」
サイラスは攻撃集中し背に焔翼を纏い加速して、雷神剣でその背を切りつけた。
「これは解体処理!」
『いい匂いが、血でぇ……!』
ロドリックが宿り木の長杖から魔矢2を飛ばした。
「他者を切り捨てるなら自分が討たれる覚悟もしておくんだな!」
『ぎゃぁぁ! 死にたくなっ……!』
それが特異個体の断末魔だった。
●
リリリリスがフレグランスで生臭さを消したラミアの肉をランタンでフランベしている。
「ワニと似たようなモノですわ!」
下処理も完璧。最高の皿の完成は約束されたも同然。
その遠くで、サイラスはラミアの身体をまじまじと観察していた。
(夢にあったドゥジンシの生体解説とそこまで変わんないなー。鱗とか、何か使えるかなと)
装飾品としての需要もありそうだと考え、模様の違いに着目する。
荷馬車の影ではロドリックがサシャに亜人の発言を教えていた。
「「ザコ、私、美し、切り捨て、存在」と聞こえたのだが……」
約束は約束だ。ロドリックは眉間に人差し指を当てながら、ラミアたちの言葉を伝える。
「なるほど、つまり「取り巻きのザコは私の美しさを引き立て、切り捨てられるだけの存在」と言っていたのですね。百合らしく咲き誇っていただきたかったですわ……」
サシャはドゥジン信徒特有の補完力で、言葉の欠片たちを正確に組み直していく。
「完成ですわ!」
リリリリスが大きな声で至高の皿の完成を叫んだ。全員の視線が否応なく集まる。
「さぁ、皆様も是非ご賞味くださいませ!」
キラキラと輝く瞳で、串に刺したラミアの肉を運ぶ。
「いや、食べ物の匂いじゃないだろそれ」
サイラスはストレートに拒絶した。差し出された肉は身長差のおかげで口元に届かなった。
「私は食べな……! ぐあっ! なんだこの味は!?」
ロドリックも拒絶したが距離感を誤ったリリリリスが口の中に肉を入れてしまった。
「リリリリス様の料理の価値を正しく理解できる方に差し上げた方が……」
サシャは近寄られる前に話を逸らそうとした。それでもリリリリスはサシャに食べてもらいたい、という表情で迫ってくる。
突如、二人の間に御者が入り込んだ。そしてその美味しそうな肉を自分にくれと懇願した。
おあつらえ向きに悪食がいた。サイラスは口元を両手で押さえ青白い顔をするロドリックの隣に立ち、同情を込めて彼の肩をぽんと叩いた。
リリリリスは御者を、サシャはロドリックとサイラスを見て、それぞれ別の方向に感動した。
辺境都市群、冒険者ギルド内。
眼鏡をかけた緑髪の青年、ロドリック・アルカインは眉間に皺を寄せ、困惑していた。
(相手が亜人だというのに、受付嬢の興奮振りは一体どういうことか……?)
ライリーだけではない。穏やかな笑みを浮かべた銀髪の女性、サシャ・テーリングもアルパカ印のサシェを片手に興奮しているように見受けられる。
(いや、世の中には知らない方が良い事もあるだろう。詮索はするまい)
覗き込んだら二度と帰ってこれない深淵がすぐ隣にあるような、不思議な心地がした。
ロドリックは今回の依頼でどのような行動をすべきか、それだけを考えることした。
(愛の言葉……是非お聞きし資料にしなくては……全て記憶して帰りますね)
サシャは記憶力をマインドセットしなければと考えつつ、手の中の香り袋に視線をやった。特異個体は花の匂いをさせながらラミアたちに愛を囁いていたらしい。
想い人に贈ると破局するという噂のあるサシェ。さてさて、どなたに差し上げましょう。
赤い鱗と巨躯、自ら打った立派な刀が印象的なリザードマンのサイラスも、ロドリックとは別の視点から困惑していた。
(百合に挟まる男はダメとかドゥジンシになかったかなぁと?)
他者の趣味や信仰を否定しないサイラス的には悩んでしまう部分だった。ライリーは「人に迷惑をかけるなら百合も薔薇も関係ない」と主張していたが、百合に挟まる男はダメだと叫ぶドゥジン信徒が存在するのもまた事実。
もちろん討伐はする。だが、どう割り切るかを考える必要もあった。
大胆に胸元を開いたドレスアーマーを纏う、ピンク色の長髪の少女、リリリリスは彼ら彼女らの困惑や思惑の外側にいた。
「私が居れば、こんな依頼は華麗に優雅に華憐に達成して差し上げますわ!!」
しかし考えていることは大幅にズレていた。
(至高の皿の前ではナマモノはほとんど食材!)
食材と認識している。上半身は人間で、下半身はヘビのラミアを。
●
一行は荷馬車と御者が待機する街の外れへ向かった。
ロドリックが御者に地理を確認する。御者は地図を懐から取り出して広げた。
「なるほど、このあたりに大きな岩が多いんだな」
残りのメンバーもどう行動するかを話し合う。看破を持つサイラスが御者の隣に座り、行く先に目を光らせる。超嗅覚を持つリリリリスが荷馬車の中からラミアの香りを嗅ぎ分ける。天眼を持つサシャは荷馬車に併走し、遭遇戦に備える。そういう方向性で話は進んでいく。
「アルカイン様はいかがなさいますか?」
男二人が隣に座ることが決定してから瞳をギラつかせはじめたサシャが尋ねる。ロドリックは気圧されながらも己のマインドセットを思い出す。苦手な看破系は装備していない。そして大変なことに気がついた。
(魔導の潮流をセットし忘れている……!)
うっかりだ。ただショックを受けることしかできない。
急に落ち込みはじめたロドリックを見かねたサイラスが口を開く。
「テーリングの反対側を走っとけば良いんじゃないかと」
「そうだな! それで決定だ!」
ひとまず、先ほどのミスは忘れる。ロドリックは腕を組み何度も頷いた。
「早速参りましょう! 調味料の匂いがするラミアだなんて、たのしみですわ!」
荷馬車に乗り込みながらリリリリスがウキウキと語る。サシャが馬車の左側につく。ロドリックも反対側につく。サイラスが御者の隣に座ったところで荷馬車は動き出した。
●
「調味料の香りが左右から近づいてきますわ! テーリング様がいらっしゃる左の側からは特に強い匂いがしますわ!」
一行はそれぞれ視線を動かした。左を向いたサイラスの金色の瞳が、岩陰から顔を出すラミアの存在を看破した。
「いるぜ。ざっと見た感じ、三組六体って感じだなー」
荷馬車が止まる。御者席を降りたサイラスはサシャの隣に立ち、ラミアの位置をサシャに教えた。それから刀と竜鱗の盾を構える。
「アルカイン様のいらっしゃる右側には……匂いからして一組二体、といったところですわね!」
荷馬車から大胆に飛び出し、リリリリスは木の大剣とノブレス・オブリージュを携え、ロドリックの前に立った。
岩から顔を出したラミアがリリリリスを見ながら舌なめずりをしている。
ロドリックは迷った。反対側の方が厳しい戦いになるのは明白だし、可能なら自分も加勢すべきだ。だが、授恵者とはいえ少女一人を置いてこの場を離れるのは――。
「こちらは私に任せて、向こうの守りを固めてくださいませんかしら?」
リリリリスは自身に槍を向けながら接近するラミアに鋭い殺気をぶつけた。同時にフレグランスの香りも伝わり、ラミアの表情がうっとりとしたものに変わる。
「待て。私もこれくらいのことはする」
ロドリックは車輪を隠すように横に、馬の身体を隠すように縦にアイアンウォールを召喚した。これでリリリリスがかばう対象は御者のみになる。御者は授恵者だ、そう簡単に死ぬことはないだろう。
リリリリスはラミアの奥へ視線をやった。ラミアがいる。
ラミアは御者を狙い矢を放った。リリリリスは重点硬化とカバリングを行い、輝くエーテルを纏った華麗なるローザハーレで矢を受ける。痛みはほぼ無い。
●
サシャは近づいてきたラミアにサシェを投げた。驚くべきことにラミアはサシェを掴んで匂いを嗅ぎ始めた。
『うわっ、超いい匂い……』
サシャにはラミアの言葉が「シャー」と聞こえた。サシャは気づいた、亜人語適正をセットし忘れていたことに。
(不覚ですわ……ですが足止めには成功しましたから、気を落とさずに)
天眼で把握した場所から、ラミアが予想通りに姿を現した。サシャは彼女が矢を放つ前に宿り木の杖の先から爆炎2を放ち、爆風と共に葬り去った。
『なんなのかしら……揃いも揃って匂いをさせる人間ども……。皆、愛する私の匂いが一番よね!?』
特異個体が吠える。サイラスとサシャはそちらを見た。
「「いい匂い、人間、私、一番」だそうだ」
反対側にいるロドリックが聞き取れた部分を全員に伝える。瞬間、サシャは考えた。
「アルカイン様! ラミアたちの言葉、一言一句忘れずに記憶しておいてくださいね!」
ラミアたちの言葉は、あとでロドリックから聞き出せば良いのだ。
「あ、ああ。わかっ、た?」
急なお願いに翻弄され、うかつな返事をしたロドリックにサイラスは内心同情した。しかし戦闘中だ。まずは目の前のことを考える。この集団はある程度戦力を削られると撤退行動に移るらしい。
(面倒い弓を減らしてから特異個体の方を狙うのが理想……)
サシェを受け取ったラミアは、特異個体の言うことを聞かず匂いを嗅いでいる。
サシャは一瞬口の端を上げてから、次に狙うべきラミアに近づく。
サイラスは自分をガン見するラミアに近づきながら、鋳造を発動した。大斧の形を真似たエーテルがラミアの上半身を切り裂いた。
サイラスの強いフェロモンに惹きつけられ、使命を忘れたラミアが2体やってくる。ラミアが突きを繰り出し、ラミアが愛の矢を放った。
「モテ期? ってやつかよ?」
両方からの攻撃を受けても冗談を飛ばせるほどには、サイラスは頑丈であった。
●
攻撃を背に受けながらもリリリリスは前進する。
「私がいる限り、馬車には鱗一枚触れさせませんわ!」
ラミアにシーザーロアを叩きつける。
ロドリックは考える。今こちらで効果的な範囲攻撃を行える者は自分しかいない。
『可愛い子ヘビちゃんたち、私の腕の中で感じたときめきを目の前の敵にぶつけなさい!』
特異個体が次の命令を叫んだ。
「「腕の中、ときめき、ぶつけ」などと言っているぞ!」
伝えているロドリックにはさっぱり意味がわからなかった。だが様々な教本で愛の知識を得ているサシャは的確に特異個体の意図を理解した。
「近接攻撃をしろ、という意味だと思われます! 皆様、あまりラミアに近づかないように気をつけてくださいませ!」
リリリリスに執着するラミアは彼女に近づき、その豊満な身体にヘビの下半身を巻き付けた。咄嗟に重点硬化を発動したが、身動きはとれそうもない。
「たのしい、じゃなかったですわ、義務ですわ!!」
愉悦の表情を凜々しいものに変化させて、リリリリスは何かをごまかそうとする。
それを気にする余裕もなく、ロドリックは思考をめぐらせていた。
(魔導の潮流の代わりになるもの……、攻撃集中だ!)
ロドリックは攻撃集中のあとにメテオライト2を発動した。彼の周囲に小さな光弾が大量に出現し、リリリリスを取り巻くラミアに降り注ぐ。
ラミアたちはあっという間に死体になった。
●
サイラスに近づこうとするラミアに、サシャが横からタイダルストリーム2を放ち蹴散らす。
サイラスはラミアに追われながら、特異個体に向かって一気に距離を詰めていく。それから攻撃集中し、刺築を発動する。サイラスの分身擬きが6体現れ、特異個体とラミアに武器を振るう。
『私を守って、お願いよ!』
「ラミアたちが特異個体に向かっていくぞ!」
ロドリックの叫びにサイラスが振り返った。生き残ったラミアたちが特異個体になだれ込む。サシェを持っていたラミアは特異個体に捧げるかのようにサシェを投げた。
特異個体は後ずさりながらそれを受け取り、その匂いに一瞬うっとりした。
「伝わらないでしょうけれど説明しますね。そちらは失恋できると有名な一品ですの」
言いながらサシャは祈った。六角形の柱が現れ、特異個体を閉じ込める檻となった。光縛封だ。
『なんだこれは!? 今すぐ私を出せ!』
光縛封を槍で突きながら何かを騒ぐラミアを背に、サシャは荷馬車を確認した。サシャが先に指示したとおり荷馬車は岩場の陰に移動され、御者は周囲を警戒している。
リリリリスとロドリックが轍の向こうから全力で駆けてくる。
サイラスは特異個体を助けに来たラミアたちにエーテルで強化した尻尾を振るい薙ぎ払った。ラミアたちは倒れ、黒い煤のようなエーテルが舞う。
(このスキルの脾煤揺って名前、嫌がらせになるんかな? 捩り元百合の一つだし)
百合に挟まる男というより百合を解体処理する男になっている自分を認識しながら、たった一匹になった特異個体に視線を向けた。
『クソッ! 人間どもが小癪な!』
「どうでもいい負け惜しみだ、気にすることはない」
「そんなことはありません。すべてを記憶しておいてくださいませ」
ロドリックとサシャがそんなやりとりをする程度には、一行には余裕があった。
特異個体は光縛封への攻撃を続けているが、割れることはなく。特異個体が封じ込められている間にサシャがサイラスとリリリリスにヒールをかける余裕すらある。
全快した二人とサシャで光縛封を取り囲み、やや後方にロドリックが位置する。間もなく光縛封は消えた。
『私だけでも逃げてやる!』
特異個体はその大きな身体で、リリリリスとサイラスの間を強引に突破した。
「逃げる気だ!」
ロドリックの言葉に弾かれたように走り出したサシャは、タイダルストリーム2を放つ。エーテル光波が特異個体の身体を熱く包んだ。
「貴方の為に身を捧げた子達に相応しい弔いを聞かせて下さいますわよね……」
恍惚の笑みが美しい。
『ザコどもは私の美しさを引き立て、私に切り捨てられるために存在するのよ!』
リリリリスがチャージングで駆け、破鎧砕をたたき込んだ。鱗が砕け、派手に飛び散る。
「あら……やはり匂いが違いますわね……これは……下味は大丈夫そうですわね」
『私の完璧な鱗がぁ!』
「私が素敵な至高の皿にしてさしあげますわ!!」
サイラスは攻撃集中し背に焔翼を纏い加速して、雷神剣でその背を切りつけた。
「これは解体処理!」
『いい匂いが、血でぇ……!』
ロドリックが宿り木の長杖から魔矢2を飛ばした。
「他者を切り捨てるなら自分が討たれる覚悟もしておくんだな!」
『ぎゃぁぁ! 死にたくなっ……!』
それが特異個体の断末魔だった。
●
リリリリスがフレグランスで生臭さを消したラミアの肉をランタンでフランベしている。
「ワニと似たようなモノですわ!」
下処理も完璧。最高の皿の完成は約束されたも同然。
その遠くで、サイラスはラミアの身体をまじまじと観察していた。
(夢にあったドゥジンシの生体解説とそこまで変わんないなー。鱗とか、何か使えるかなと)
装飾品としての需要もありそうだと考え、模様の違いに着目する。
荷馬車の影ではロドリックがサシャに亜人の発言を教えていた。
「「ザコ、私、美し、切り捨て、存在」と聞こえたのだが……」
約束は約束だ。ロドリックは眉間に人差し指を当てながら、ラミアたちの言葉を伝える。
「なるほど、つまり「取り巻きのザコは私の美しさを引き立て、切り捨てられるだけの存在」と言っていたのですね。百合らしく咲き誇っていただきたかったですわ……」
サシャはドゥジン信徒特有の補完力で、言葉の欠片たちを正確に組み直していく。
「完成ですわ!」
リリリリスが大きな声で至高の皿の完成を叫んだ。全員の視線が否応なく集まる。
「さぁ、皆様も是非ご賞味くださいませ!」
キラキラと輝く瞳で、串に刺したラミアの肉を運ぶ。
「いや、食べ物の匂いじゃないだろそれ」
サイラスはストレートに拒絶した。差し出された肉は身長差のおかげで口元に届かなった。
「私は食べな……! ぐあっ! なんだこの味は!?」
ロドリックも拒絶したが距離感を誤ったリリリリスが口の中に肉を入れてしまった。
「リリリリス様の料理の価値を正しく理解できる方に差し上げた方が……」
サシャは近寄られる前に話を逸らそうとした。それでもリリリリスはサシャに食べてもらいたい、という表情で迫ってくる。
突如、二人の間に御者が入り込んだ。そしてその美味しそうな肉を自分にくれと懇願した。
おあつらえ向きに悪食がいた。サイラスは口元を両手で押さえ青白い顔をするロドリックの隣に立ち、同情を込めて彼の肩をぽんと叩いた。
リリリリスは御者を、サシャはロドリックとサイラスを見て、それぞれ別の方向に感動した。
マスターコメント
冒険者の皆様、ご参加いただきありがとうございました!
眞石ユキヒロです。今回も字数がヤバかったです!
皆様的確なプレイングでどなたをMVPにするか選べなかったため全員をMVPにしたかったのですが、システム的に無理でした。
せめて全員に称号を贈らせていただきます。お気に召したらご使用いただけると嬉しいです。
MVPはハーレムごろしを盛り上げたという意味で、亜人語適正を持ってきてくださったロドリックさんに差し上げたいと思います。
そして次からは「亜人語適正所持者がいない場合はリプレイ内の亜人のセリフは翻訳されない」旨を解説に記載することにします。
亜人語適正無しで「わからん、殺す!」ってやるのも楽しそうですけれど。
またご縁がありましたらご参加いただけると嬉しいです。
改めてご参加いただきありがとうございました!
ショートシナリオ普通 報酬:多い4 / 4〜8人
2022年01月31日 10時38分04秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
No.1
サイラスだ、とりま看破とフェロモン持って前に出ようかと。 まあ成立するか自体分からんけどもプレは書いとく。
ヒーラーのサシャ・テーリングです。お見知りおき下さい。 私は、破局すると噂の有るアルパカ印のサシェを持とうと思います。 香水ではないので無効かもですが…サイラスさまがお持ちですから結果は拝見出来ますね。 御者に馬車の守りをお願いする内容でプレを提出しますので、差し障り有りましたらお知らせくださいませ。 特異個体が撤退を始めたら、光縛封で時間稼ぎをしてみようと思います。
前日に失礼。ゆりはーれむ……? いや、亜人だから動物のような物なのでは……? とはいえ、雌獅子にかしづかれる雄獅子に憤る者もいると聞く師、気に障る者にとっては関係ないのだろうか。 馬車と敵の間を遮るようにアイアンウォールを張る予定だ。突撃したい人が居るかもしれないので、手番最後に出す。あとは普通に範囲攻撃だな……。
ロドリックさま、宜しくお願い致します。 プレは提出して有りますので、後お1人来てくださる事を願いますわ。
私(ワタクシ)が来ましたわ!!!(どやぁぁぁぁ) 敵は匂いに弱いようですわね!?では、私の取って置きのフレグランス(香水)を持って行きますわね!! 馬車を敵に攻撃されない為にも、カバリングを使い シーザーロアで敵を引き付けますわね!!!