春待ちの椿祭り

久生夕貴

コメント 5

シナリオID:1849

オープニング

 その日、ギルド職員リゲル・ルースティカの元に、ある依頼が届いた。

”シャルガネにあるイヨ地区で開催される『椿祭り』に参加してほしい”

「そうか、もうそんな時期か」
 依頼書を確認しながら、リゲルはひとりごちた。
 この地区では毎年2月上旬ごろ、『椿神社』を中心とする祭りが開催される。
 新しく始まった一年の豊穣と幸運を祈願するために始まったそうだが、「春呼祭」とも言われ、地元住民に愛されている祭りのひとつだ。
 椿祭りの特徴といえば、三日間夜通しで行われるということだろう。
 開催期間は深夜でも人でにぎわっており、その独特の雰囲気を味わいたくて訪れる者も多い。
 各地を旅していたリゲル自身も、若い頃何度か参加したものだ。

 依頼主はシャルガネ出身の富豪で、高齢から現在病床についているとのことだった。
 毎年通っていた椿祭りに行けず、随分気落ちしている様子が文面ににじんでいる。
 依頼の概要はこうだ。

・今年の椿祭りの様子を報告してほしい。
・お札を「お椿さま」に奉納してほしい。

 前者は自分の代わりに祭りを楽しんでもらうことで、追体験をしたいということなのだろう。
 依頼主は必ず着物で参加していたそうで、全員分の衣装まで準備するとのことだった。
 後者は祈願を込めたお札を椿神社の御神体である「千年椿(お椿さま)」に届けてほしいとのことだ。
 椿神社には樹齢千年を超える椿が在り、地元住民から「お椿さま」という愛称で親しまれている。
 この千年椿こそが神社の御神体でもあるため、この祭りに参加する者はお椿さまに参拝する習わしとなっているそうだ。

「要するに、細かいことは考えず各々楽しんでもらえればよい」

 リゲルは集まった冒険者達へ向け、あっけらかんと笑った。
「それが一番、依頼主のためになるからのう」
 子どもの頃から毎年通っていたのだ。きっと数多のドラマを祭りの中で積み重ねてきたのだろう。
 だからこそ、冒険者たちが銘々楽しむことが依頼主の意に沿うはずだと。
 
 お椿さまによろしく。

 受け取ったお札を手に、冒険者たちはシャルガネへ向かった。

●春を呼ぶ祭り、開催
 目前に広がる光景を、冒険者たちは半ば呆けながら見つめていた。
 椿祭りは開催日の午前0時から始まるため、その時間に合わせて向かったのだが。
 神社周辺は煌々とした灯に包まれ、区画一帯が暗闇の中に浮かびあがっていた。
 辺りは深夜だというのに祭囃子が流れ、露店が立ち並ぶ長い参道には、晴れ着に身を包んだ人々が行き交っている。
 大人も子供も、若者も年寄りも。
 今年も祭りを迎えられたことを祝うかのように、みな笑顔で楽しげで。

 その賑わいは境内に入ると一旦落ち着き、行灯を手にした参拝者は鎮守の森の合間を社殿に向かって進んでいく。
 灯篭が淡く照らす社殿の隣に、『お椿さま』は立っているそうだ。

 まずは神社に参拝し、その後は各々自由に。

 何を見ようか。
 何をしようか。

 冬夜の寒さも、いつの間にか気にならなくなっていた。

解説

【目的】 椿祭りに参加し楽しむ。 【状況】 シャルガネにあるイヨ地区では、2月上旬に春を呼ぶ椿祭りが開催されます。 依頼主に喜んでもらうためにも、めいっぱい楽しみましょう。 【服装】 依頼人のはからいで参加者の皆さまには着物が貸与されます。 着たい柄や色がある場合はプレイングで指定、特になければこちらで適宜選びます。 (今の時期は寒いため、指定がなければ男性は羽織長着、女性は小紋袷に羽織か道行となります) 【できること】 参拝は全員参加。 それ以外は下記内容からお選びいただき、タグで指定してください。 字数の都合上、タグは二つくらいまでに絞ったほうが描写が濃くなると思います。 ●神社のお椿さまに参拝する(全員参加) 神社の御神体である千年椿にお参りします。 この木には神様が宿り、訪れる人にご加護を与えると言われています。 大切な祈りや誓いをそっと神様に届けるのもよいでしょう。 現在、椿は満開です。 ●組紐を買う【組紐】 草木染の糸で作られた組紐を購入できます。 糸の組み合わせや長さは自由。 髪を結ったり、帯締めにしたり、アクセサリーや小物の一部にしたり…… 丈夫な紐なので使い方は無限大です。 特別な一本を作ってみませんか? >草木染の種類と色 アカネ…赤色 アイ…藍色または青 サクラ…桜色 シコン…紫色 エンジュ…黄色 ヨモギ…緑色 ●神社周辺に出ている露店を回る。【露店】 椿祭りは三日間夜通しで行われています。 周辺では様々な店が出ており、縁起物(お守りやお札など)や椿をモチーフにした雑貨を買うこともできます。 また、軽食や甘味、甘酒なども楽しめます。 ●イヨ地方の名産みかんを楽しむ【みかん】 この地域では様々な種類のみかんが栽培されており、味や香りもさまざま。 みかんそのものはもちろん、みかん丸ごと入ったみかん大福や、みかんジュース、みかん酒、みかん茶……などが味わえます。 ●その他 依頼であるお札の奉納は冒険者がお椿さまに参拝した時点で達成されるため、プレイングに書かなくて大丈夫です。 基本的にフリー内容なので、やりたいことがありましたら(依頼の趣旨に反しない程度で)お好きにお書きください。

マスターより

お世話になっております、久生です。 リクエストいただいた内容を、私なりにアレンジさせていただきましたがいかがでしょうか。 ぶらりと観光するもよし、大切な人と特別な時間を過ごすもよし。 お気軽に参加し、お好きな時間をお過ごしくださいね。 プレイング楽しみにお待ちしております!

リプレイ


 目前にそびえる御神木を囲むように、八人の冒険者が並んだ。
 千年椿(お椿さま)を見上げ、ネーヴェ・グラヌローザはため息を漏らす。
「美しいですわね……」
 纏う小紋、藍地にちらした雪輪と白椿が、行灯の光に淡く映え。見事に咲き誇った深紅の花々をしばし見つめてから、そっと手を合わせる。

 ――私の大切な人達が、幸いでありますように

 彼女の傍らに立つのは、墨紺の紬に同色の外套を羽織ったキーゼ。
(この地ではこの木を切れば神殺しになるのですかね……)
 場所や歴史が変われば、祈るべき神も変わる。 
 ある意味それ(神殺し)は容易なことで、だからこそ在り続けることに意味があるのだろう。

 などと考察する隣では、パヴェル・A・サムルガチェフがそろりと周囲を見やる。
(なるほど、ああやって祈るのか)
 芥子色の長着に柳葉色の羽織、藍色の襟巻を身に着けた姿はどこか柔らかな印象を与える。
 柏手(かしわで)を大きく鳴らし、二礼。角隠しの帽子が落ちないよう、手を添えて。

 ――今年こそは、魂の番(つがい)と結ばれますように

 フラム・アニムスは初めての着物に、背筋が伸びる思いだった。
 生成り色の長着にオリーブ色の羽織は、彼の髪色(橙)によく引き立つ。
 帯は髪色と同じ橙、羽織紐は瞳と同じ目が覚めるような蒼を。炎を模った房飾りがアクセントになっている。

「今年も大福さんや皆さんと楽しく、健やかに過ごせますように」

 手を合わせ願いを口にすると、肩に乗っていた黒猫(ビビ)がにゃあと鳴いた。首に巻いた朱の丸くげ紐は、椿型の飾り結びだ。

 大福は相棒の粽(ちまき)と一緒に、千年椿へ深々とお辞儀した。
「お椿さま、はじめましてなのだ」
 身に着けたのは黒紋付袴。肉球紋入りの胆礬色の羽織は特注品だ。
 そんな大福に寄り添う粽の首輪には、胆礬色の縮緬飾りがあしらわれている。

(ここにいるフラムとねねとキーゼとぱべるは大福の大切な人たちなのだ。
 この先、どんな戦いがあっても皆が元気で笑っていられますように……なのだ)
 皆の幸せを願い、隣にある温もりを確かめるように。
(粽は大福が幸せにするから大丈夫だけど、病気と怪我は飛んでけー! でお願いしますなのだ)

「千年椿……春呼祭を見守る御神体、か……」
 Alexandra・Hexe・Claudiaは宵空に広がる枝葉を見上げていた。
 淡い桜色に白花が描かれた着物は見立てもらったままを身に着けたが、よく似合っている。
(彼女に……マリステラにも見せたかったな)
 艶やかな葉の間を埋め尽くす花々。彼女の瞳をどんなふうに彩っただろう。
 ――椿だけじゃない。此処には見せたいものが。聴かせたいものが多すぎる。
 二度と叶わぬ願い。
 幾度となく胸をよぎる想いは、いまだ着地点を見つけられず漂いまどうばかりで。
 それでも何か手を伸ばせたらと、この地を訪れてみた。

 巡る季節。
 未来への祈りを束ねて――

 静かに手を合わせたAlexandraと同じく、ここに居ない者へ想いを馳せるのはジュスト・ヴェルジー。
「千年椿か、見事なものだ」 
 命を解き放つように咲き誇るさまは、思わず見惚れるほどに神々しい。
 今年も咲いてくれたことに感謝しつつ、来年も見られるようにと祈っておく。
(こういう催しが好きそうな彼女も、悔しがっているだろうし)
 身に着けた淡い利休鼠の縮緬長着に、鉄紺の羽織。
 この姿を見たら、なんと言うだろうか。
 彼女の着物姿も見てみたかった――そんな本音は胸の奥にしまいつつ。

 カイン・ステラは静粛な気持ちで向き合っていた。
(お椿さま、はじめまして。今日は病気で来られない人の代わりに来ました)
 紺無地の長着に、藍染めの羽織。羽織裾はむらくも染めで雲模様が描かれており、落ち着いた中にも洒落た雰囲気を感じさせる。

(あなた様にお会いできないと凄く落ち込んでるらしいんで、凄い我が侭言いますけど……その人にかつてを懐かしめるような、優しく柔らかい風をいただけないでしょうか)

 この空気を少しでも感じられるように。
 そう祈り終えると、耳元で相棒(リス)がチチっと鳴いた。
「お前もお椿さまが気に入ったのか? 地に根差しているなら、イアース様とも馴染みある方だしな」
 偉大なる土の神へ思いを馳せつつ。
 参拝を終え預かってきたお札を納めた一行は、神社を後にした。


●
 灯と祭囃子が溢れる参道を、ネーヴェは改めて見渡した。
「真夜中から始まるお祭りだなんて、神秘的ですわね……皆さまと来られて嬉しいです」
 行き交う人々の眩しい笑顔。
 きっとみな、この祭りを心待ちにしていたのだろう。
「この面子は久々ですね、海に遊びに行った以来、ですか……?」
「そんなに間が空いたかぁ? なら尚更楽しまねぇとなぁ」
 キーゼとパヴェルの言葉に、フラムと大福も頷く。
「みんなで集まれて俺も嬉しいです。組紐づくり凄く楽しみですね!」
「わくわく! 何色にしようかなぁなのだ♪ 粽にも作ってあげたいのだ~!」
 和気あいあいと色を選ぶ五人の隣では、ジュストが物珍しそうに組紐を眺めていた。
「なるほど、シャルガネで腰に巻いているアレの上から更に巻いて固定するのか。装飾品でもあるんだね」
 シャルガネ文化に明るくない彼にとって、目にする多くが新鮮で。
 一方、Alexandraも組紐に見入っていた。
(今や連れ立つことも叶わないけれども。せめて何か、証になるものを……)
 美しく編み込まれ、簡単には切れない強さを持つという。
 これならば、自身の内で行き交う感情の欠片を繋ぎとめてくれるのではないか。
(学園にはたしか、銀の鎖(彼女の形見)が残っていたはず。組紐を併せて飾るのもよいかもしれない)

 同じ頃、カインはみかん屋台を見つけ立ち寄っていた。
「へえ……まるごとって贅沢だな」
 まずは一番人気のみかん大福を食べてみる。
 みずみずしい甘酸っぱさ、それを包む白あんと求肥が絶妙で美味しい。
 お土産にいくつか買い、次はみかんジュースを試そうとして目を見張る。
「凄いな……こんなに種類があるのか」
 ずらりと並んだジュースは、よく見ると少しずつ色の濃さが違う。どうやら使われたみかんの種類が違うらしい。
 これは試し甲斐がありそうだ――カインの探求心に灯がともる。

 戻って、組紐作り。
 糸の色選びをしていたキーゼの裾をネーヴェが引いた。
「そういえばキーゼさんは神社で何をお祈りしましたの?」
「ああ……美味しいお酒がありますように、ですかね」
 息をするようにとぼけておくと、ネーヴェは「あなたらしいですわね」と微笑みつつ。
「……これが近いでしょうか」
 彼の瞳と糸を見比べながら、より近い青を選ぶ。短杖に括り付ける飾り紐を作るつもりだ。
「大福さんとフラムさんはどの色合いになさいましたの?」
 興味津々で二人の手元を覗き込むと、フラムは真剣なまなざしで茜色と鮮やかな青色の糸を編んでいる。
「大福さんの耳の色(アカネ)と俺の瞳色(アイ)の2色を組んで……」
 持ち前の器用さで繊細な模様を編む隣では、大福も慣れた手つきで茜と藍の糸を花型に編み込んでいた。
「飾り紐にして弓筒に結ぶのだ! 粽には首輪を編んであげるのだ~!」
「ふふ、お二人ともさすがお上手ですわね。私たちも頑張りましょう」
「そうですね。では、僕はこれにしましょうか」
 キーゼが選んだのは真紅の糸。意外な色選びに驚くネーヴェへ飄々と。
「ほら、運命の赤い糸、というらしいですからね」

「いやぁ。お前さんらがくっつくなんてなぁ……。あっという間にキーゼの旦那に取られちまった」
 パヴェルは軽く笑いながら、ご両人(キーゼとネーヴェ)へ目配せした。
「なぁなぁ、知り合った経緯もそうだが、決め手はどっちだったんだぁ?」
 突然の恋話にネーヴェがそっと恋人を見やると、キーゼはさらりと答えた。
「機を見るに敏、とでも言いましょうかね。人気が高いのは知っていましたからね。先手を取りました……恋愛も戦も、基本骨子は同じですよ」
 出会いは、とある依頼でのカード遊戯。
 決め手は、決戦前に自ら好意を告げた。
 なぜ急にこんな質問を? そんな視線を感じ取ったのかパヴェルは微笑(わら)った。
「番をさがすにゃまだまだ俺も経験が浅いからな。のんびりしてたら取られちまった。なら身近な奴らの恋愛話がちょうどいいと思ったのさぁ」
 白き華(ネーヴェ)へのひと目惚れをあえてあっけらかんと明かし。
「いいだろ。過ぎた話なら腹割ってもよ」
「そうですね。盤上をひっくり返せる手筈があるならのんびりでもいいですが……早く動くことをお勧めしますよ」
 パヴェルの意を汲み取ったキーゼは率直に答えた。ネーヴェは今になって知った事実に驚きつつも感謝を告げ。
「その、私達は確かに早かったですけれど……ペースは人それぞれだと思いますから。パヴェルさんの歩調に合わせて下さる方はきっといらっしゃる筈です」
「ああ。ありがとな」
「皆さんに愛されていますね、貴女は」
 そうキーゼがネーヴェへ微笑んだ(気遣った)とき、フラムが声を上げた。

「よし、編み終えました!」

 肉球形のチャームを取り出し、最後に取り付ける。
「これを帯に通して……根付の完成です!」
「なるほど、良い出来ですね。実用的ですし」
 決してお世辞を言わない相手(キーゼ)に褒められると、嬉しさもひとしおというもの。
「大福ももうちょっとなのだ~!」
 太めに編んだ藍を茜が縁取る首輪紐。先に編み終えた飾り紐と見比べ、ネーヴェは微笑む。
「ふふ、粽様とお揃いですのね」
「粽と大福はこれからもずっと一緒なのだ。これはその誓いなのだ~!」
 簡単には切れない絆。誓いの証。

「お前さんも器用だなぁ。何を作ったんだい?」
 パヴェルに声をかけられたジュストは既に二本目を編み終えていた。
「従姉と自分用の土産にね」
 前者は桜色と淡い緑を。
 後者は薔薇色と橙に近い黄色を組み合わせた。
「どうしてこの色を選んだんですか?」
 フラムの素直な問いかけに、ジュストは瞳を瞬かせ。
「そうだな……桜と緑の組み合わせは春らしくて良いかなって。こっちは……なんとなく、かな」
 贈る相手の好きそうな色と、自分の瞳色。
 贈る相手の髪色と、彼女の瞳色。
 無自覚な選択の意味を彼自身が知るのは、もう少し先の話なのだろう。

「Alexandra様も仕上がりましたのね。素敵ですわ」
「……ありがとうございます」
 ネーヴェの視線先、Alexandraの手元には金に近い黄と夜を思わせる濃藍を編んだ飾り紐が仕上がっていた。
(この証に願うものは……なんだろう。安寧? 幸運……)
 気づけば選んでいた色。見つめ、小さくかぶりをふる。

 ――再会、これは私の望みという方が近いけれど。

 形になった想い。持ち帰って添えてやろう。
 そう心に決め懐にしのばせると、ほんの少し心が形を得た気がした。
 
 キーゼとネーヴェも編み終えたところで、パヴェルがよし、と声を上げた。
「俺も仕上がったぜぇ」
 彼の手には茜と藍、そして紫の糸が編み込まれた紐。飾り結びにし、金具を取り付け。
「なかなか良い出来だろ? 耳飾りにしてみようってなぁ」
「よく似合ってるのだ! 渋かっこいいのだ♪」
 大福の言葉に周囲も頷く。パヴェルは満足そうに組紐を懐に入れると、立ち上がった。
「ちょっと鉛管を吸ってくらぁ」
 ふらりと店をあとに、宵灯りにまぎれていった。

●
 時は少し遡り。
 屋台を渡り歩くカインは、みかんづくしを堪能していた。
「このみかんは甘さと酸味のバランスがいいな。蜂蜜漬けやジャムにすると美味そうだ」
 コンポートにしてパウンドケーキに使うのもいいだろう。
「こっちは香りが最高だな……! ジュースやアイスにすると引き立ちそうだ」
 ひと口にみかんと言っても、品種によって味や食感、香りが随分と異なる。みかんの奥深さに感銘を受けたカインはマジカルポケット一杯に買い込んでいく。
 最後の店を出た所で、大福とフラムがやってくるのが見えた。
「カインなのだ! みかん食べて来たのか?」
「ああ。お前たちもか? ちょうどいいのがあるぞ」
 カインが指さした先を見て、二人は瞳を輝かせた。
「フラム! 粽! みかん大福! 大福って書いてあるのだ!」
「本当ですね! 大福さんに食べてもらわなくっちゃ!(使命感)」
 うっきうきで店に向かう彼らをカインは微笑ましく見送り、他の露店巡りへ向かう。
「留守番組にお土産買ってやらないとな」
 おやきや焼き鳥を食べつつ、雑貨屋を回りながら椿染のスカーフと絹糸で織られたリボンを買った。
 ふと椿柄が描かれた絹更紗に目が留まる。
「これならケープに使えそうだ」
 肩元でランが嬉しそうに鳴いた。
 
 ジュストは甘酒を飲みながら、露店を見て回っていた。
 王国から遠く離れた地ならば、行儀の悪さも見咎められない。それは次期当主を期待される彼にとって、束の間の休息に近いものだろう。
 ふと、簪売りの店の前で足を止めた。
「――シャルガネの髪飾りか」
 椿の飾りがついたそれを手に取り、ひとりごちる。
 もし彼女がシャルガネの服装をするなら、髪飾りも合わせた方が統一感が出るだろう(きっと似合うし正直俺が見たい)。
 土産が組紐一つだけだと嫌味言われるかもしれないし(本当は一緒に行きたかったアレソレを土産にぶつけ)、買っておこう。
 贈った相手がどんな顔をするのか想像し、少しだけ居心地の悪さを感じながら簪を懐に入れる。
 内心をよぎる感情(無自覚の)は、聞きなれない祭囃子のせいにした。

「んんん~! もっちもちなのだ~!」
 みかん大福を食べた大福とフラムは、至福の表情を浮かべた(一文に福が三つ!)。
「本当ですね! みかんとの相性も抜群です!」
「大福、もっちり度が上がった気がするのだ!」
 粽とビビにはみかんや焼き魚を。フラムは大福(食べる方)とみかんの花の蜂蜜を、大福(もっちりな方)は大福(もっちもちな方)とみかん茶をお土産に買い込んだ。
「お、重い……買いすぎたのだ」
「お、俺も……」
 その重さは、きっと幸せと優しさを詰めこんだ証。

 キーゼと露店を回っていたネーヴェは、ふと彼を振り向いた。
「どうかしましたか?」
「一つ、覚えていてくださいましね」
 真っすぐに向き合い、ずっと心にあった言葉を告げる。
「私、仮にあなたが先手を取らなかったとしても……きっと、あなたを選んでいたと思います」
 微笑み手を引こうとした刹那、彼の口元がふっと緩んだ。

「――ええ。知っていますよ」

 微かに凪いだ瞳。
 自分にだけしか向けられない顔(表情)に、心音が跳ねた。
 ああ。もう。

 なんて憎らしい(愛しい)ひとだろう。

 きっと私はこれからも翻弄される甘さに浸り、そのたび彼を好きになるのだ。
「……お守りは他の方から頂いた方がより効果が高いそうですよ」
 頬の赤さを隠すように、お守りの交換を提案する。
「いいですね。貴女は無鉄砲なところがありますし(そこが可愛いんだけれど)」
 黒地に白椿、白地に赤椿。
 互いに手渡す、対のお守り。

●
 春を待つ。
 お椿さまを見上げたパヴェルは小さく笑んだ。

「――なあ。お前さんはどんな願いを受け取って来たんだぃ?」

 千年もの間この地を見守ってきた神は、どれほどの生き様を見届けてきたのだろう。

 ――幸あらんことを

 春を呼ぶ。
 カインがそっと見上げた先で、優しい風が吹き抜けた。

マスターコメント

 お椿さまへ  長い間、貴方様には世話になったね  おかげで悪くない人生だった  この札を届けてくれた若者達がいただろう?  若い頃の私たちを思い出してくれただろうか  頼んだよお椿さま  遺していく妻と  わがままを聞いてくれた彼らに幸あらんことを  私からの今生最後の願いだ  ●ご参加ありがとうございました!●
ショートシナリオR

ショートシナリオR易しい 報酬:標準8 / 4〜8人

2022年02月18日 11時38分48秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ネーヴェ・グラヌローザ

    リクエスト主のネーヴェ・グラヌローザと申します。 この度はお誘いにご快諾下さいまして、ありがとうございます。また早速、新規にご参加下さった方もいらっしゃって、大変嬉しく思います。 皆様どうぞ思い思いの時間を過ごして頂けますよう。 参加者全員で参拝した後は自由行動になるのですね。 ふふっ、どれも魅力的な内容で、どれにしようか悩みますわね。

  2. ジュスト・V・ケレス

    新規で参加させて貰ったジュストだ。 素敵な催しに参加する機会を設けて頂き、ネーヴェさんには感謝を。 千年椿に詣でるのも楽しみだけれど、シャルガネの衣装を着ることが出来るのも嬉しいね。 俺は参拝が終わったら、散歩がてらお土産を探す予定。 組紐も興味深いし、露店を覗くのも良いかな。 個人行動になると思うけど、すれ違ったり同じ場所に居合わせるかもしれないし、その時はよろしくね。

  3. カイン・ステラ

    カイン・ステラだ。 俺も新規で参加させてもらってる。よろしくな。 参拝終わったらぶらぶら歩く予定。 個人的にはみかんが気になっているかな。

  4. パヴェル・A・サムルガチェフ

    パヴェルだ。お誘いありがとうな。 キモノ体に合うか気になるが、着飾ってもらえるのはうれしいねぇ。

  5. フラム・アニムス

    フラムです!ネーヴェさん、お誘いありがとうございます。 キモノ…?とかいうのを着るのが楽しみです! 組み紐は皆さんとお揃いになるのかな? ミカンもおいしそう…! 楽しみがいっぱいで目移りしちゃいますね(ごくり)

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0