噛み合わない女子会【Happy New Year】
真柄 葉
コメント 8
シナリオID:1806
オープニング
そんな冒険者御用達の酒場に、人知れず開催されている『集まり』がある事を、皆さんはご存知だろうか。
冒険者達が夜な夜な集い飲み明かすメインホールを奥へと進み、カウンター脇を通りさらに奥へ。まるで隠されたように設置されたそのテーブルこそが、その集まりの主舞台である。
それは月の始まりの日。
噂を知る婦女子達が約束をするでもなく集っては、夜の遅くまで繰り広げられる密会ガールズトーク。
決まり事など何もない。だけど、笑いもあれば涙もある。うだうだと飲むだけの月もあれば、恋バナで朝日を拝むこともある。ただただ思いのままに喋るだけ。唯一目的があるとすれば、それはただの暇つぶし。だけど、それでいい。それが必要だと婦女子達は集まってくる。依頼で疲れた体を引きずり、受け取った報酬を握りしめて――。
そして、1222年1月某日。新年を祝う祭り事も落ち着いたこの日、『踊る小熊亭』の奥にあるそのテーブルには、いつものように『予約中』と書かれた木札が置かれていた――。
解説
マスターより
リプレイ
「えっと、『踊る小熊亭』の奥の方って事なんだけど……」
手にしたメモを頼りにデイジー・ロックウェルは、冒険者達で賑わう夜の店内を奥へ奥へと進んでく。
途中、給仕娘に場所を聞きつつ、辿り着いたのは――。
「そちらを選ぶのでしたら、こちらの方が……い、いえ、なんでもありません」
「帝国焼き! そう帝国焼きですわ!! 帝国焼きに清き一票をお願いいたしますの!!」
「ん? どっちだと思う? ふふっ、今は女の子って事にさせてもらってるよ。今はね」
「……食べるだけ食べてとっととお休みですか。はぁ、まだまだ子供ですね」
「その程度でこのハイスピードキャスターに勝とうなどと。縦ロールにしてから出直してくるといいですわ」
「あ! 好物は饅頭とイケメンです! 後、友達募集してます! 大募集中です!!」
女子会の席であった。
「…………あ、間違えた、かな」
デイジーはメモを渡した友人に軽く殺意を抱きながら、その場を回れ右――――。
「何処へ行かれるんですか?」
した所で、手を取られた。
まさか、あの混沌とした空気の中、自分の接近に勘付いた者がいるのか。
デイジーは恐る恐る振り返る。
「お待ちしておりました、デイジーくん。お話は伺っています」
その手を取ったのはセツリだった。
既に女子会常連の域にまで足を踏み込んだセツリは、当然出席者の数も把握済み。
用意してあった『デイジー専用』と書かれた椅子に彼女を誘導した。
「皆さん、お待たせしました。参加者が揃いましたので今月の女子会を始めたいと思います」
ぺこりと頭を下げたセツリに皆が拍手を送る。
「この会に初めてお見えの方もいらっしゃるみたいですので、自己紹介からしま――」
「はいはい!! 僕からいいかな!!
「何を仰います!(ひっく) 一番は私からと相場が決まっておりますわ!!(ひっく)」
折角のセツリの司会進行も、カミンル・マオのかぶせ気味の挙手とリリリリスの酒臭い机ドンに阻まれる。
「僕の名前はカミンル! 見た目はオトメ! 心もオトメ! でも体は男の子! 女子会って聞いて居てもたってもいられず参加したよ! だって、オトメだもん! いいよね!!」
「私はリリリリスと申しますわ! 帝国一のお嬢様(自称)にして至高の皿の申し子ですわ!(ひっく)」
共に初参加のカミンルとリリリリスが我先にとアピールを開始する。
「はは……二人の後だとなんだかやりにくいけど……僕はハーヴィ。駆け出し占い師をしてるよ。女子会ってどんな所だろうって前から興味があったから参加してみたんだ。よろしくね」
二人の勢いに押されつつもハーヴィが続き。
「Alexandraです。ちょっと飲ませ過ぎました反省します」
酔っ払いをちらりと見ながらAlexandra・Hexe・Claudiaが盛大な溜息をついた。
「zzz……」
視線を移せば、椅子の上で金色の毛玉がまーるくなっているし。
「これも初めて見ますわね。ふむふむ」
バンビは出てくる料理を最速で箱に詰めてお持ち帰りの準備に忙しい。
「あ、はは……えっと、よろしくお願いします」
デイジーの乾いた笑いと共に、今年最初の女子会がスタートした。
「ねぇ、皆の見た初夢ってどんなのだった? あ、よい夢を見た人は言わなくていいから、あんまり望ましくない夢を見た人がいたら話して。悪い夢を他人に話すことは『離す』事になるって、どこかで聞いたことがあるんだ。だから、この場で話してしまって、すっぱり忘れてしまおうよ」
運ばれてくる料理や酒に舌鼓を打つ参加者に、ハーヴィが話題を投げかけた。
「なるほど、その話題を持ってこられますのね!(ひっく) いいでしょう、私が語って差し上げますわ!」
真っ先に食いついたのはリリリリス。そんなに飲んで大丈夫か? と皆からひやひやされつつ、初夢について語りだす。
「私は暖炉のある温かい部屋で寝ていましたの!」
自慢のドヤ顔でそう言い切ったリリリリス。
一方、続きがあるものとじっと耳を傾ける参加者達だったが、その口からは一向に続きが出てこない。
「……それだけ?」
「それだけですわ!」
思わずハーヴィが問いかけるも、リリリリスは「どうです、すごいでしょう!」とやたら自慢げに胸を張っている。
もちろん、他の参加者はそんなリリリリスを見て頭に疑問符を浮かべるのだが、話はまだ終わっていなかった。
「ただ……」
先ほどのよっぱ全開な雰囲気を一変させ、物悲しく瞳を潤ませたリリリリス。
「目覚めたら雪に半分埋まっていましたの。やっぱり8日間何も食べずに見る夢は、健康によろしくないですわね」
はぁ~と酒臭い息を吐くリリリリスに、参加者達の盛大な溜息が零れた。
「なかなか面白い夢を見てるんですね! 参考になります!」
何の参考になるのか全く分からないが、何故か感心しているカミンルが次は自分だと手を上げる。
「僕の初夢はですね……いやぁ、もう最高でした!」
先ほどの件があっただけに、期待に満ちた視線がカミンルに注がれた。
「花の舞い散る木の下で、結び合う視線と視線――」
これは恋バナか、と乙女達は俄然食いつく。
「逞しい『彼』の腕が木に当てられ、距離が詰まる」
ゴクリと喉を鳴らす乙女達を前に、恍惚と語るカミンルは、滔々と甘い夢を語り続けた。
「近づいていく唇と唇。甘蜜の如く蕩ける様な……時間が……」
しかし、次第に様子のおかしくなってくるカミンルに、乙女達が嫌な予感を感じ出す。
「うへ……ぐへへへへへ……! はぁ! たまらん! 今思い出しただけでも――――おっと涎が」
あふれ出てくる涎をすすりながら、締まりのない笑みを浮かべるカミンルに、乙女達はドン引き。
「たまんねぇ……はぁ、たまんねぇですよ……! ねぇ、皆さんもわかりますよね! この夢のすばらし――――って、皆さん?」
夢の素晴らしさに同意を求めようとしたカミンルだったが、乙女達の興味は既に別の話へと移っていた。
「あのー……皆さん?」
完全に興味を無くされたカミンル。しかし、彼は泣かない。だって、男の子だもん!
「もちろん今年の夢も最速ですわ」
カミンルが拳を握り涙をこらえている横では、バンビによる初夢披露が始まっていた。
「借金取りをぶっちぎり、ヤコブをぶっちぎり、レイウェストをぶっちぎり、ヒルルクをぶっちぎり、征竜すらぶっちぎる。この世でこのオレに勝る最速無し。
並みいる敵の全てを抜き去り、遥か彼方の先頭を突っ走る俺も、まさかあんなものがあんな所にあんなふうに存在しているとは気づきませんでしたわ」
どんなオチが待っているのかと、皆が固唾をのむ中、バンビはカッと目を見開き――――。
「あの『小石』さえなければ……躓いた拍子に盛大にすっころび、光の速さで地面から投げ出され、そのままの勢いで星の海へと飛び出したはいいが、いくらもがこうがちっとも戻ること叶わず、ロスガリアからどんどんと遠ざかって行って……」
まったく話について行けない参加者達を最速で置き去りにしながら。
「そして、ついに俺は――――考える事を止めましたわ」
バンビは額に浮いた脂汗を拭った。
「まったくなんちゅう夢見で目覚めるのでしょう。最悪でしたわ」
と、一人不満げに空を見上げたバンビ。呆気にとられる周りの空気などものともしないバンビ。膝の上で暇そうに欠伸をしている愛猫のルカ。やはり彼女は今年も『最速』であった。
「……『星の海』ですか」
そんなバンビの話に、唯一ついて行っていた(?)人物――Alexandraがぽつりと語りだしす。
夢の中で出会ったのは、自分と似た境遇を持つ少女。
他人の思惑に人生を蹂躙された儚い命。
こちらの世界ではその結末を知る事は出来なかった少女との邂逅は、彼女を喜ばせた。
もう一度会えた。もう一度言葉を交わせた。
それだけでAlexandraは満足だった。それが全て泡沫の夢であったとしても――。
結局、言葉に出したのはそれだけ。
参加者が頭の上に「?」を浮かべるのも気にせず、Alexandraは口に運んだコップの影で小さく笑った。
「……って、ああっ! Alexandraじゃない!!」
そんなAlexandraの話を食事がてら聞いて居たデイジーが突然声を上げる。
何で今まで気づかなかったのかという、周りの無言のツッコミにも気付かず、デイジーはAlexandraに詰め寄った。
「この間の武闘祭では不覚を取ったけど、今度もし対戦する機会があるなら絶対負けないから!」
一体何の事かときょとんとするAlexandraに、デイジーはビシッと指を向け宣言する。
「……ああ、誰かと思えば一回戦で対戦した」
「う゛っ……そ、そうよ!」
「私の魔法の前に為す術無く敗れた」
「う゛う゛っ……! わ、悪かったわね!!」
「確かお名前は……デイ――ビット」
「デイジーよ!? 何で男の名前なの!!」
すごい形相で向かってくるデイジーに、Alexandraは店のメニューに自ら手を加えた特性おつまみをパクリと口に放り込みながら、適当に答える。
「ぐぬぬ……まぁ、負けたあたしが何を言っても言い訳になるんでしょうけど!」
「あ、これイケますね。食べますか?」
「え? ああ、いただくわ――――って、そうじゃない!」
「お口に合いませんか」
「そんな事ないわ! とても美味しい!」
「そうですか。それはよかった」
「……って、そうじゃなくて!?」
ちょっとうれしそうに微笑んだAlexandraに、デイジーは更にヒートアップ。
「今年も武闘祭があれば、必ず勝つわ! 絶対にアナタに勝って――いえ、一勝をもぎ取って見せるわ!!」
再びビシッとAlexandraを指さしたデイジーが高らかに宣言する。
「……ただ、魔法はそのちょっと苦手だから、そこんとこよろしくお願いするわね?」
「……お願いされ――ませんが?」
「なんでよっ!?」
猪突猛進が服を着た様なデイジーの懇願を、Alexandraはあっさりと拒否した。
「あ、ちなみに私は死んでましたね」
と、突然セツリが自らの初夢を話し始める。
いきなりの告白に、参加者がぎょっと視線を集めた。
「いえ、死んでいたけど生き返った? 何と言えばいいのでしょう、幽霊……とかそういうものになっていました」
首をかしげる参加者を前に、セツリも首をかしげる。
「すみません、混乱させてしまいましたね。とはいえ、自分でもよくわかってないのですが……ほんとに夢とは不思議なものですね。一体どのような経験をすればあのような夢を見るのか」
結局何の夢だったのか言わずに話を終えてしまったセツリ。
「はは、夢っていうのは記憶が見せる幻って言われているね。欲望、願望、絶望、希望。色々な望みが、記憶と混ざり合ってみる事の出来る一夜限りの幻。でも、セツリさんの見た幻が悪いものであったのなら、きっと『離す』事が出来たはずだよ」
そんなとりとめもないセツリの話を、ハーヴィは綺麗に纏めた。
●
一つの話題が終われば腹もすく。
参加者達はハーヴィの提案に従い、寂しくなった机の上を補充するために新たな注文の手を上げる。
デイジーが夜も結構いい時間なのに、脂がたっぷり滴る分厚いステーキを注文すれば、Alexandraが出て来たチョリソーに秘伝のスパイスを振りかけ自分色に染めている。
セツリは相変わらず0が少ないメニューにしか目が行かないし、リリリリスは「同盟焼き」なる食べ物をものすごい形相で睨み付けていた。
バンビは出てくる料理を相変わらず、まだ手も付けていないうちから箱に詰めて持ち帰る準備に忙しいし、カミンルは踊る小熊亭限定メニュー「巨大イケメン饅頭」を前に涎を垂らしながら頬擦りしている。
「ふぅ……やっぱりここの料理はおいしいね」
まるで戦争のようだった食事タイムも終わり、食後の一服タイムへと突入した参加者達。
「ええ、とても。そして、懐に優しいのも好感が持てます。高収入な冒険者を相手にしている店なのに、ここまで価格を抑える経営努力には本当に頭が下がりますね」
Alexandraが甲斐甲斐しく他のメンバーにドリンクサービスを行っていく中、セツリは踊る小熊亭を見渡した。
「とはいえ……今年こそはこのどこかずれているらしい金銭感覚をどうにかしたいですね」
しかし、彼女には悩みがあった。
北壁山脈の田舎から出て来たセツリ。極貧と言っても過言ではない生活を送ってきた彼女には、壊滅的に金銭感覚がなかった。
冒険者になり、一般的な金銭感覚に触れるうち、次第に物の価値にも理解を示してきてはいたのだが……。
「今もこうして次々と運ばれていくメニューを見ていると……普段より贅沢をしているはずなのに、どうにもこの辺りに心苦しさが溜まっていくような感じがします」
と、セツリは他の机へ給仕係が運んでいく皿を見ながら、自分の胸を押さえた。
「なんでしょう……『こちらの方が費用対効果が高い』と思ってしまって……」
「え、いい事な様な気がするけど」
「ありがとうございます。ですが、この振舞のせいで依頼で同行する方まで変な目で見られることもあるんです。いつまでもこのままでは申し訳ないので、この感覚をどうにかしたい、一般的な金銭感覚を身に着けたい、それが私の目標ですね」
きっと去年は色々な失敗をしたのだろう、いつもは立派に立っている耳をしゅんと垂れたセツリ。
「それがセツリさんの今年の抱負なのかな?」
そんなセツリに苦笑しながらもハーヴィは問いかけた。
「今年の抱負……になるのでしょうか。確かに、治したいとは思っていますね」
「セツリさんならきっとうまくいくよ! そうだ! ねぇ、皆。折角の新年だしさ、今年の抱負を言い合わない?」
セツリの抱負を聞いたハーヴィは、すっかり静かになっていた参加者達に提案する。
「ちなみに僕はね」
と、先陣を切ったハーヴィ。
「とある子達と仲良くなりたいんだ」
何処か遠くを見ながらゆっくりと語りだした。
ハーヴィの目標。それは以前知り合った二人の少女の事だった。
一人はロスガリアでもそれなりに有名な人物。そして、もう一人は――。
「言葉も通じないから、大変なんだけどね。実はその子はちょっと特別で、今は近づいて触れあう事も話す事もできないんだ。だけど僕は、彼女が辛い過去を抱えてるんじゃないかなって思ってる。
だからこそ、仲良くなりたいし、大切にしたい。せっかく結べた縁だからね、今年は何とかお近づきになりたいな」
「その子ってもしかして……」
と、ハーヴィにセツリが問いかけると、にこりと微笑みだけを返された。
「もう一人は――知ってる人が居るかな? 征竜の巫女さんだよ。こっちもちょっとしたご縁があって……というか、さっきの女の子絡みなんだけどね」
何処か寂しげに続きを話し出すハーヴィ。
「……ねぇ、皆はどう思――――いや、ごめん。これは適当に聞いていい話じゃないね。
そう言う訳で、僕の新年の抱負は、二人の女の子と仲良くなること! 頑張るぞ!」
最後にグッと拳を握ったハーヴィに、皆は小さな拍手を送った。
「オレはもちろん今年も変わらず『最速』ですわ」
ハーヴィについで話し始めたのは、鞄いっぱいに詰まった箱にホクホク顔のバンビだった。
「借金取りをぶっちぎり、ヤコブをぶっちぎり、レイウェストをぶっちぎり、ヒルルクをぶっちぎり、征竜すらぶっちぎる。ハイスピードキャスターは今年も戦場を支配しますわ」
「うん? なんかこれ夢で見ましたわね」と首をかしげるバンビに、皆が苦笑する。
「戦場を支配! いいわね! とてもかっこいいと思うわ!」
と、一人食いついたのがデイジーだった。
「私はやっぱり去年の私を越える事ね! 色々と思い返すと不甲斐ない事が沢山――――」
そう言いつつデイジーはふとリリリリスに酒を注いでいるAlexandraに視線を遣る。
「武闘祭とか、武闘祭とか! 今年も開催されるなら、必ず一勝! 今度は決勝の舞台で待ってるから!」
と、再びずびしっとAlexandraを指さしたデイジー。
「……今年も返り討ちですよ。デイ――サイトさん」
「デイジーよ!? 誰が鉱物よ!」
「っ!?」
何でデイサイト知ってんだこいつみたいな顔をするAlexandraに、デイジーは更に憤怒を爆発させる。
「大会までに対キャスター戦術をきっちりと身に着けるから! 次は絶対負けないわ! その首洗って待っている事ね!」
「……いいですが。どうせまた返り討ちですよ」
「言うじゃない! 見てなさい!」
一触即発。バチバチと火花を散らす両者。
「実に美しい! これが友情の姿なんですね! 僕にもそんなにお熱くなれる相手が欲しいですよ!」
そんな二人の間に、カミンルが拍手をしながら割り込んだ。
「はいっ! という訳で、とても素晴らしい関係をお持ちの二人を前に、僕の目標を話すのは少し気恥しくもあるのですが! このタイミングでなくては話せないと覚悟を決めました! 聞いてください! 僕の目標は――――」
皆の視線を一身に引き付けたカミンルは。
「ズバリ! イケメンの彼氏を作る事!!」
今年の抱負を大々的に宣言する。
「いやぁ、彼氏って素敵ですよね! イケメンは心の栄養です! もちろん多少顔面偏差値が低くともそれはそれで味があって素敵です! ともかく、男の子って素晴らしいって事です!!」
カミンルは男らしくグッと拳を握り熱弁した。
「……しかしながら」
しかし、力強く握っていた拳は、次第にゆっくりと下がっていく。ついにはがくりと肩を落とし、大きなため息をついたカミンルは。
「体が男ってだけで、なぜ皆逃げていくのですか? 僕が何か悪い事しましたか? 心の乙女が囁くままに、ちょっと追っかけしただけなのに……ナニがついてるのがそんなにいけないのですか!? 皆さんはどうお考えか、ぜひお伺いしたいです!」
それはもう色々あったのだろうと想像させるカミンルの慟哭に、一同再びドン引き。
机ドンドンしながら必死に訴えかけるも、誰ひとりとして賛同を得られなかった。
仕方ないよね。皆、ナニはついてないもの……。
――カラン。
「……過去に縛られて居てはいけませんわ」
そんなカミンルの話を聞きながら、ウイスキーグラスの氷を見つめるリリリリスがぽつりと呟く。
「過ぎ去りし過去を思い忍ぶのは結構です……しかし、それに引きずられてはいけませんわ」
アンニュイな表情で熱い吐息を吐くリリリリスに、参加者達に言い知れぬ不安が広がる。
「え……リリリリス、なんか変なもんでも食べた……?」
ハーヴィが代表して恐る恐る問いかけるが、リリリリスは薄く微笑むだけでグラスから視線を外さない。
その姿はまるで深窓の貴婦人か、それとも高級娼婦か。
神秘的ですらあるその表情と言葉遣いからは、普段のリリリリスを想像する事すら出来なかった。
「私も、過去に縛られず、未来に生きねばと常々思っておりますの……家の……復興。そんな未来も、あるのかもしれませんわね」
哀愁を漂わせる溜息と共に、リリリリスは自嘲気味に微笑んだ――――かと思ったら。
「さて皆様、そろそろお時間ですわ(ひっく)」
リリリリスが完全にすわった目で、一同を見渡す。
参加者一同、誰だこんなに飲ませた奴はと一斉にAlexandraを見やった。
「……」
しかし当のAlexandraは、何食わぬ顔でおかわりの一杯をこさえている。
「ふふふ……そんなに熱い視線を向けられては、私照れてしまいますわ。そして、その視線に応えなければいけないと、心が叫んでいますの! さぁ! 私が、特別に用意しました至高の一皿を召しあがってくださいませ!」
いや、送ってねぇよと心のツッコミが送られる中、暴走中のリリリリスは高らかに腕を上げ指をかき鳴らした。
すると、どこからともなく現れる給仕たち。そしてその手にはクロシュがかぶせられた皿が。
「さぁ、皆様、大変お待たせいたしましたわ! 本日のメインディッシュですわ!!(ひっく)」
有無を言わせず参加者の前に並べられた皿が、リリリリスの一声により開帳される。
「私の理解や常識を■■■で■■したようなこの見た目! あの日体験した●●●●でXXXのようなこの美しさ! これぞまさしく▲▲▲でエレガントの極み! 彼のとっとと死ね太郎(旧名)にも瓜二つなこの一品こそが、私の提供する至高の皿!! さぁ、皆様! 思い存分召し上がってくださいまし! ご心配は無用ですわ、おかわりも沢山ご用意し――――」
――――バタンっ。
意気揚々と至高の品を紹介していたリリリリスの身体が、突然ふらりと揺れたかと思うと、豪快に後ろに倒れた。
「ふぅ……やっと効きましたか」
そんなリリリリスの様子に、Alexandraは心配するでもなく安堵のため息をつく。
「やっと効いた……という事は、何か盛りましたね?」
そんなAlexandraにセツリが問いかけた。
「こうなる事が予想できていましたから。しかし、思いのほか耐性が高かった」
Alexandraは乙女にあるまじき格好でいびきをかくリリリリスを見下ろし、「今度はもう少し強めにしますか」と一人頷いている。
「み、皆、占いに興味はないかな? 僕のカード占い、結構当たるって評判なんだよ」
そんなAlexandraから目をそらしつつ、ハーヴィが皆に提案した。
「そ、そうね。とは言っても恋……恋かぁ。あんまり興味はないけど、せっかく占ってくれるっていのならお願いしようかしら」
例の皿をそっと脇に退け、カードを並べだしたハーヴィに、デイジーが声を上げる。
「ではこちらは」
と、別の席ではバンビが扇子を取り出し扇ぎだした。
「この最速の手妻。皆様には、見切れまして?」
するとどうだろうか、扇子が起こす風にふわふわと紙の蝶が舞っている。
夜の酒場で幻想的に舞う蝶を、参加者達がうっとりと見つめた。
「本当はヒーローになる事が目標なんだよね」
盛り上がる皆を見つめつつ、カミンルが小さく呟く。
「弱きを助け強きを挫く。そんな……彼みたいなヒーローに僕はなれるかな」
「きっとなれますよ」
そんな呟きが耳に入ったのか、セツリが小さく答えた。
「……うん、そうだといいな。ありがとう」
「どういたしまして。お互い頑張りましょう」
二人は小さく微笑むとグラスを合わせた。
こうして、いつもより少しだけ賑やかになった女子会は、夜遅くまで続いた。
彼女たちの「今年」に幸多からんことを――――。
マスターコメント
ミドルシナリオ普通 報酬:標準8 / 6〜8人
2022年01月17日 02時33分58秒 公開
相談掲示板
私(ワタクシ)、リリリリスですわ!! 新年の抱負ですわね。 今年こそ、至高の皿(リリリリス★スペシャリテ)の新たな境地を開拓したいですわね… きっと夢の中なもヒントはあるはずですわ!
バンビですわ。 今年も最速最速―
セツリと言います、よろしくお願いします。 新年の抱負……ふむ……
デイジーよ!よろしく頼むわ! 抱負ね?今より強くなる事ね!!
カミンル・マオです! 顔はまだありませんが、心は立派な乙女です! みんなよろしくね。 今年の抱負は当然、イケメンの彼氏を作ることです!! ……あーあ、空からイケメンが降ってこないかなぁ。
ハーヴィだよ、よろしくね。 女子会に性別?が混ざって良いものかちょっと悩んだけど、この場では女の子として振る舞うので許して欲しいな。実際の性別? ふふっ、それは秘密。 職業占い師だから、一年の運気とか恋愛運とか占って、会に花を添えよっかなって思ってるよ。
抱負……(考え続けていた) あ、金銭感覚というかお金に関する価値観を直したい、かもしれませんね。 いえ、浪費で困っているとかではなく、むしろ逆というか、余裕があるはずなんですがなんだか引かれることが多くて……(使わない方向で考えると野草だの木の根だのでも平気でいける人
もうすぐ出発ですわね! >ハーヴィ様 それは大丈夫ですわね!以前、お嬢様の中のお嬢様を決める大会でも言いましたが 『心にお嬢様があれば』誰でもお嬢様ですわ!(※個人の見解です) >セツリ様 奇遇ですわね、私も節制はせねばならないとは思うのですが…えぇ、えぇ…思うのですが… …最近だと食べられる野草も少なく… ふふ、私。話の間に食べられるお菓子を持って行きますわね。 語らいの際に、皆様で食べられるように致しますわ~!(おほほ)