ガレット・デ・ロワに毒の罠
七海真砂
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シナリオID:1790
オープニング
「さあ、ガレット・デ・ロワを配るよ!」
そこにあったのは一軒の菓子店。その前に置かれたテーブルの上にはガレット・デ・ロワ。新年を祝って、特別にこれから、ガレット・デ・ロワが無料で振る舞われるのだ。
集まってきた人々が、次々とガレット・デ・ロワを口に運ぶ。すると――。
「うっ」
「ぐうっ!?」
ガレット・デ・ロワを食べた途端に皆、苦しそうに呻いて倒れていくではないか!
辺りに悲鳴が響き渡り、大勢の人が動かなくなっていく……。
「新年を祝って振る舞われるガレット・デ・ロワに、何者かが毒を混ぜる……という夢を見たのじゃ」
そう冒険者達に切り出したのは、『預言の魔女』オペラだった。
彼女の見る夢は、ただの夢ではない。このままでは必ず現実になってしまう事件を、オペラは予知夢という形で夢に見ることができるのだ。
「ガレット・デ・ロワってなんだ?」
「パイ菓子じゃ。中にアーモンドクリームが入っていてのう……」
「へー、美味そう」
首を傾げたのは、冒険者になって間もない少女、ステラであった。興味を持った様子のステラに「うむ、美味じゃぞ」と笑みを覗かせながら、オペラは続ける。
「ガレット・デ・ロワを振る舞うのは、最近町で評判の菓子店『アンジェロ』じゃ。安く美味しい菓子を売っていての。わらわも一度行ったのじゃが、クリームがふわぁ、とろぉと口の中でとろけるのじゃ」
「ほほう」
ステラが目を光らせる中、オペラはこほんと咳払いをひとつ。脱線しかけた話題を軌道修正して、説明を続ける。
「で、じゃ。その『アンジェロ』の店の前でガレット・デ・ロワが振る舞われるのじゃが、店主のアンジェロが少し目を離した隙を突いて、毒を混ぜる不埒者がおるのじゃ」
オペラによると、焼き上がったガレット・デ・ロワを店の前に運んだあと、切り分ける為のナイフを取りに戻る、その僅かな間に、男がガレット・デ・ロワに近付いて、液体状の毒を振りかけるのだという。
男の詳しい素性などは不明だ。が、
「ガレット・デ・ロワに近付いていく男がいれば、その男が犯人というわけじゃ。おぬしらには、ガレット・デ・ロワの近くを見張り、この犯人を取り押さえ、事件を防いで欲しいのじゃ」
ガレット・デ・ロワは縁起物。できれば、あまり騒ぎにならないように配慮しながら対処してほしい、とオペラは言い添える。
「確かに『毒だー!』なんて騒いでたら、そんなお菓子は食べる気失くしちまうかもなぁ……」
腕を組みながら「むむむ」とステラが唸る様子に「そういうことじゃな」とオペラは頷いた。
「注意すべき点は、警戒を厳しくしすぎても良くないという点じゃ。男が近付いてくるタイミング、その隙が無ければ、もしかしたら男は現れないまま終わってしまうかもしれないからの」
その場合、事件は起こらないかもしれないが、また後日、別の日に起こってしまうかもしれない。それでは意味が無くなってしまう。
犯人を確実に取り押さえるには、犯人が現れるような状況を維持しなければならない。
「なるほど。ガレット・デ・ロワに付きっきりで警護、とかじゃダメなわけだ」
「そういうことじゃな」
ちょっと一工夫が必要かもしれないが、なんとか頼むのじゃ、とオペラは頭を下げる。
「犯人にうまく対処できれば、もう何の心配もいらないのじゃ。せっかく行くのじゃし、皆もガレット・デ・ロワを食べてくるといいのじゃ」
ちなみにガレット・デ・ロワの中には『当たり』の入っている物がある。それを引き当てた者には、幸運が訪れるという。
「新年最初の運試しに良いと思うのじゃ」とオペラは言った。
解説
マスターより
リプレイ
話を聞いて、レイヤ・ダライ=カホールは憤慨していた。
「人魚の神の信徒として許してはなりません。必ず報いを与えなければ……!」
レイヤの信仰する人魚の神の教義の多くは、ケーキを使った例えで伝わる。ケーキを汚すもの、それすなわちレイヤの信じる神を汚すものと同じ!
「教えにもこうあります。『ケーキに毒を盛ったと? すぐに追いかけよ……いえ、やっぱり私が殺ります』と……!」
ケーキに毒を盛る、すなわち祝いに呪いをまくことの愚かさ、そしてそれに対する怒り……。神の教えに忠実なレイヤの目はすっかり据わっている。
「食べ物を駄目にするのは、ダメ、と思う」
美味しそうなお菓子を、台無しにしようとするなんて……とエルも頷く。もう少し、犯人の詳しい情報があれば参考になるかもしれないと、エルは予知夢で見た犯人の服装や体格などをオペラに尋ねる。
「服装はごく普通の普段着じゃった。体格も極端に痩せている訳でも、太っている訳でもなかったのじゃ。身長はおぬしよりも高く……」
オペラは、だわの方を見て、だわと同じか少し低いくらいだと思うのじゃ、と言う。
「へー。だわって身長いくつ?」
「173」
「てことは犯人は170センチくらいか? ふつーだなー」
だわに確認したステラが言うように、犯人は平凡な男性らしい。普通すぎて特徴らしい特徴が無い、という感じだろうか。
「毒を入れさせないってだけなら付きっ切りで見張ってれば良いだけなんだけど、捕まえないといけないからなあ」
さてどうしたものか、と考え込むキリクに「そうだよなぁ」と頷くステラ。むむむ、と唸ったそこへレイヤが口を開く。
「ガレット・デ・ロワに近付いて、液体状の毒を振りかける――つまりその時、ガレット・デ・ロワは犯人以外が見ていないってことになります。そこで……」
「なるほど。じゃあ……」
「なら、わたしは……」
「そういう事ならば、俺は……」
提案が一つ出ると閃いたアイデアが次々と重ねられていく。そうして、作戦を纏めると、一行は菓子店アンジェロに向けて出発するのだった。
「リル、おねがい」
アンジェロの近くに着くと、エルはペットの栗鼠のリルに見張りを頼む。エーテルリンクで通じ合ったリルは頷くと、壁伝いに屋根を上って、頭上から近付いてくる者がいないかを見る。
通行人に紛れて、様子を伺いながら歩くのは、だわ。仲間達と一ヶ所に固まりすぎる事が無いようにと、何気なく歩いている様子を装いながらチラリとアンジェロに目をやる。店頭には、まだガレット・デ・ロワは置かれていない。
(店頭を気にしている男は……)
キリクがさりげなく周囲に目をやると、うろうろとしながら店頭の様子に目をやる男が一人。確証は、まだ無い。だが、あの男かもしれないと、キリクは仲間達とすれ違いながらそっと伝える。
(この、ウィンドウから、なら、ちょうど見える……)
エルはショッピング中を装いながら、ショーウィンドウ越しに男の様子をチェックする。
その時。
「~♪ ~♪ ~♪」
鼻歌混じりに店内から出てきたのは、パティシエ服姿の男性だった。彼が店主のアンジェロなのだろう。その手にはガレット・デ・ロワが抱えられている。
そんなアンジェロがガレット・デ・ロワを置いて、一度店内へ戻っていった時だった。すかさず、冒険者達のチェックしていた男が、ガレット・デ・ロワに近付こうと動き始める。リルが大きく動いて合図を出し、それに気付いたエルがショーウィンドウ越しに他の仲間達へ合図を出す。
背後で起こった、そんな動きには気付かないまま、ガレット・デ・ロワの前まで近付いた男は、懐に手を差し込む。
小瓶を握り、その蓋をひねる音――小さく波打って響く液体の音を、喧騒の中で、だわの耳が拾うと、すぐにだわは進行方向を変えた。
しかし駆けつけるよりも早く、男が小瓶を取り出し、行動に移ろうとした時だった。
(――今です!)
「!?」
男の動きが思わず止まった。
――目の前にあったガレット・デ・ロワが、増えたじゃあないか!
それは、レイヤの幻術によるものだった。更にキリクが念動力を込めると、まばたきした男の目の前で、更にガレット・デ・ロワがぶるぶる震える。ゆらぁり――右へ左へ、小刻みに動くガレット・デ・ロワの様子に、男は戸惑い、固まったまま動けない。
すかさず、そんな男めがけてエルが近付き、その目を見つめてヒュプノシスを試みた。
「な……ぐっ!」
しかし男は昏倒には至らない。それを見た、だわは即座に無拍子を打つ。男がバランスを崩して倒れていく一方、素早く肉薄して小瓶を奪い取ったエルはしっかりと毒薬の蓋を締め、念の為だわが出したマントで包む。
「いけない! 父ちゃんの持病の癪が!」
「急病人のようですね、運びましょう」
倒れた男の傍にステラとレイヤが駆け寄り、騒ぎが起こる前に一芝居打つ。それは大変だ、とだわが担いで歩き出す様子を、周囲の人々が怪しむ様子はない。しばらく歩いて、適当な路地へと一行が入っていく。と、
「さあ、ガレット・デ・ロワを配るよ!」
通りの向こう、アンジェロの前から、そう呼びかける声が聞こえた。
「……騒ぎにはならずに済んだようですね」
「うん。良かった」
アンジェロの様子を確認しながら、キリクとエルが胸を撫で下ろす。どうやら、大きな騒動に発展することなく事件に上手く対処することができたようだ。
(人の名誉はひとたび損なわれれば、外傷よりも治りにくいからな……)
そのような事態にならなくて良かったと、だわは意識を失ったままの男を下ろした。
「とりあえず、ロープで縛って置いておきましょう。なにせガレット・デ・ロワが私たちを待ってますので!」
「いや、全員で離れるのは……」
手早く男を縛り上げると、すっかりガレット・デ・ロワを取りに行く構えのレイヤだが、だわは、流石にそれはまずいだろうと、自分が男を見ておくことを申し出る。
「じゃあ急いで貰ってくるから、そーしたら交代しよーぜー!」
猛ダッシュしたステラが素早く戻ってくると、だわと交代する。幸いにもガレット・デ・ロワはまだ残っていて、だわも1ピース手に入れることができた。
「リルは、代わりに『動物のおやつ』、ね」
きちんとリス用のおやつを用意していたエルが取り出すと、リルはあっという間にまっしぐら。美味しそうにおやつを食べ始める。
「ふふふっ。それでは私達もいただきましょう!」
「おー!」
いただきます、と手を合わせて五人も一斉に食べ始めた。
「んん……さすがアンジェロのガレット・デ・ロワです、なんて美味しいのでしょう!」
パイ生地の中から広がるアーモンドクリーム、鼻にふんわりと抜けていく甘い香り……レイヤはうっとりとした顔で味わっていく。
「クリームみっちりで食べ応えあるなぁ」
「これが、ガレット・デ・ロワ……」
ステラがもぐもぐと幸せそうな顔をすれば、エルは家族の皆にも食べさせてあげたいなぁ、と、みんなの顔を思い浮かべる。
「なるほど、確かにこれは絶品だ」
だわがそう頷いた時だった。キリクがガレット・デ・ロワを見つめながら小さく声をあげる。そこから飛び出していたのは、小さな陶器のひとかけら。出てきたのは、船の形をしたフェーブだった。
「キリクさん、当たりですね。おめでとうございます」
誰が当たっても、喜びはケーキのように分かち合うべし。レイヤは自分のことのように嬉しそうに笑う。ささやかな幸運を手にしたキリクには皆から拍手が贈られ、キリクも「ありがとう」と返した。
ガレット・デ・ロワを美味しく食べ終えると、一行は犯人を連れ、冒険者ギルドへと戻って来ていた。
「なぜこんな真似を?」
意識を取り戻した犯人に向かって、レイヤとキリクが代わる代わる問い質す。
「この毒でお菓子を楽しむ人を屠るのが目的だとでも?」
「……弓と短剣、どっちが好み?」
取り押さえた毒をチラつかせたり、武器を見せながら男に向かって話しかけるものの、男はただ静かに黙っているだけ――黙秘を貫こうとする男の様子からは、感情の機微もほとんど読み取れない。
あるいは、同じ菓子職人だったりするのだろうかと考えていたレイヤだったが、男の素性の方も、ハッキリとはしないままだ。
(あの時、この男は、眠らなかった……授恵者でなければ、意思の強固な人物?)
強い意志をもって犯行に臨んだのだとしたら、口を割ろうとはしないかもしれない、と、エルは思う。
「とにかく、犯人を引き渡して、終わり、かな……」
この場合は一応未遂になるから、あまり重い罪にならないのかな、と首を傾げるキリクだったが、そこはオペラの予知夢によって発覚した事件だから、相応の罪が科されることになるだろう、とギルドの職員は説明する。
「………」
その時、男の様子に一瞬、少しだけ反応があったようにキリクには思えた。
(罪の重さに反応したのか? いや……)
そういう動揺は感じ取れない気がする。だとしたら、反応したのはオペラの予知夢についての話題の方だろうか? しかし、それが何故なのかまでは掴めない。
「毒を盛るような私怨があったのかどうかは知らんが……」
引き連れられていく男の背を見ながら、だわが呟く。これから詳しい取り調べが行われたら、その辺も明らかになるかもしれない。ともあれ当面の間、男が身の自由を取り戻すことは無いだろう。
こうして、事件は幕を下ろしたのだった。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準4 / 4〜8人
2022年01月12日 10時18分13秒 公開
相談掲示板
レイヤ・ダライ=カホールです、よろしくお願いします。 ケーキに毒を撒くなんて!新年早々なんということを…! こんな行いを許してはなりません。必ず報いを与えなければ…! まだおぼろげですけど、 幻影とかでガレット・デ・ロアを増やしたら…とか考えてます。 迷いを生めば毒瓶を奪ったりもしやすいかも。
エル、です。…シューター、です。 どうぞ、よろしく。 幻影でガレット・デ・ロアを増やすの良さそう、と思います。 他は、周りの人たちの注意を他に引き付ける、とか…? わたしは、とりあえずペットのリル(栗鼠)に見張りをしてもらう、とか…。
シューターのキリクだ、よろしく。 お菓子に毒をかけられないように妨害しつつ、騒ぎにならないように捕まえろって事なのか。 念動力ってスキルは物をちょっと動かせるから、犯人の男がガレット・デ・ロアの前に来た時に左右に動かして驚かせてみようか、なんて考えてる。
念動力も良さそう、です。 ガレット・デ・ロアが動いたらきっと、驚く…。 犯人を取り押さえる方はどう、します、か? 暴れたりされなければ、捕まえてすぐに場所を離れるとかでもいいかも、ですけど。
>取り押さえ うーん、どうしましょうか。 騒ぎにならないようにっていうのがだいぶ難しいですね、 「ガレット・デ・ロワに近付いて、液体状の毒を振りかける」 なんてことができるってことは、誰にも見られてないタイミングです。 こう、こそっとやれば誰にもきづかれない、かも? 声をかけてヒュプノシスで眠らせるとか、 口に蒸留酒を流し込んでフラフラにさせちゃうとか。 いっそ殴って気絶させて急病人ってことで連れ出すとか…?
>誰にも見られてないタイミング そう、ですね。 割と、ガレットが配られる前は、お店に注目は集まってない、のかも。 殴って気絶、ができるなら簡単そう…? わたし、はシューターだからできるかどうか…。 ヒュプノシス、はうまく効けば、静かに捕まえられそう、です。 スキルはもってないですけど、取ることは、できますけど…?
ウォーリアだ。……だわと呼んでもらえれば。よろしく頼む。 ぎりぎりの参加ですまんが、これで成立だな。 殴って気絶させればいいのか。(拳グッ) 素早く殴る動作なら任せてほしい……と言いたいところだが、相手が屈強であれば一撃では気絶しない可能性もあるしヒュプノシスの方が安全だと思う。 毒薬を持った手を掴めば普通は反射的にこちらを見るだろうし、それなら無音でいけそうだな。 ……俺はモブパワーで潜伏してみるかな。 もしガレット・デ・ロワに近付く者が1人でなかった場合、空振るとまずい。
それじゃあわたしは、眠らせたり気絶したりした犯人を【演技】で急病人ふうに扱って運び出しますね。 連れ出したらロープでしっかり縛ってとりあえず置いておきます! なにせ、ガレット・デ・ロワがわたしたちを待ってますので!
4人になって良かった、です。 >殴って気絶 あ。そう、ですね。相手が屈強なら…。 スキルのヒュプノシス、取ったので、眠らせるの挑戦、してみます。 犯人の詳細がよく分からないし、色々手段を用意しておくのがいいのかもです、ね。 >犯人を【演技】で レイヤさん、よろしくお願いします。 運ぶのに手伝いが必要なら…。 毒薬もちゃんと確保しないと、です、ね。
ヒュプノシスの取得、助かる。 万一催眠が上手く行かなかったり、犯人がこちら側に引っかかったら……まあ殴るか。 ロープと演技も任せよう。 捕まえた犯人は可及的速やかに冒険者ギルドへ運びたいところだが……ガレット・デ・ロワ……。 ……。口に放り込むくらいの時間はあるだろうか。 あとは、俺の方で超聴覚を用意していこうかと思う。液体状の毒ということだから、瓶の中で液体が揺れる音など聞き取れないかと。雑踏に紛れて聞こえない可能性もあるが念の為。 そうだ、0〜9の数字の件だが。被った時のことを考えて第1〜第3希望まで書いて出す予定だ。
いや。書いた後に思ったが、数字が被っていてもいい気がする。 ……忘れてくれ。