雪百合の聖霊節

馬車猪

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シナリオID:1729

オープニング

 麗しいエルフ騎士が紋具を掲げる。
 柔らかな光が美しい髪に反射し、髪を揺らす爽やかな風は土地(エーテル)を浄化しているかのようだ。
 ここはエラトゥーン都市同盟所属都市ベールコート。
 雪百合騎士団に護られた、エルフ文化が濃い街であった。

●
「だるー」
 舞台裏に引っ込んだ瞬間、美麗な顔はそのままに礼服を緩めてソファーにだらしなく座り込むエルフが1人。
「エルディア!」
 眼鏡も礼服も隙無く着こなした騎士が咎めるが、態度は普段より少し柔らかい。
 正確に儀式を遂行するだけでなく来賓や観光客まで意識して振る舞うのは大変だと分かっているのだ。
「服に皺がつく。せめて上着は脱げ」
 紋具を受け取り安置用の箱に戻し、うとうとしているエルフ(エルディア)の服を脱がせて楽な装束に着替えさせる。
 もちろん、脱がした服は形を整えてきちんとハンガーにかけている。
「書記官っ?」
「お邪魔だったかしら」
 顔を赤くした新入団員とその先輩が少し気まずそうな顔で部屋の入り口からこちらを見ている。
 書記官(ガブリエラ)は、お前等何考えてるんだという目でじろりと見返した。
「午後の部はお前達も出てもらうぞ。分かっているな?」
 微かな緊張と冴え冴えとした気迫がある。
 まるで都市防衛戦に挑んでいるかのような真剣さだ。
「は、はい!」
 新入団員(ユリーシア)は緊張して自身の髪や服装を確認する。
「ええ。この日のために磨いてきたもの」
 先輩団員(イザベラ)の髪は艶やかで結い方も複雑かつ美麗。
 肌は傷一つないのはもちろん細心の注意と手間暇化粧品を投じて潤いと白さが保たれている。
 全ては百合茶というブランドを護るため。
 百合茶の美容効果を我が身で証明することで、産地であるベールコートの産業と雇用と名声を維持するのだ。
 雪百合騎士団のメンバーに見目麗しくナイスバディな美女が多いのには、真面目な理由もあるのである。
「この姿で戦闘任務はしたくないけどね」
 イザベラがくすりと笑う。
 ガブリエラは眉一つ動かさずに大真面目に同意する。
「念のため冒険者も招待している。万一の際は警備へ協力するという条件つきの足代(交通費)付きでな」
「純粋に楽しんでもらえるのが一番だけれど」
「わ、わたしもがんばります!」
 エルフもヒューマンもベテランも若手も、来年の豊作を祈る感謝祭(イベント)成功のため文字通りの全力だった。

●
「説明が遅れてすみません」
 冒険者ギルド職員が、ベールコートの喫茶店で真面目な顔をしている。
 なお、手元のケーキは2つめで百合茶は3杯目だ。
「皆さんには感謝祭に招待客として出席して頂きます」
 特別変わった行事ではない。
 雪百合騎士団が浄化や感謝の儀式(本当に浄化の効果があったり神や自然に感謝が伝わるのかは分からないが華やかではある)をするのを見物したり買い食いしたり祭りの雰囲気を楽しめばよい。
 出席者同士で祭りの気分を楽しんでもよいし、大変そうな団員に声をかけたり手伝ったり、自信があるなら新たな出し物を立ち上げてもよい。
「事件発生時に警備を担当するという契約もありますが、一番良いのは事件も事故も起きないことです」
 冒険者は成り立て(レベル1)でも強い。
 熟練者になると戦闘装備なしでも非授恵者の暴漢や悪漢の集団を簡単に圧倒可能だ。
「警備は怪しいひとがいたらじっと見る程度で十分だと思います。祭りを楽しんで、できれば祭りを盛り上げてあげてください」
 いつの間にか、ケーキが3つめになっていた。

解説

●目標  祭りを楽しむこと ●依頼の舞台  エラトゥーン都市同盟所都市ベールコート。  その中心街にある通りと広場と騎士団用控え室(建物)です。  瀟洒なレストランで食事をすることもできますし、なんとなくエルフ風の屋台で買い食いしながら騎士団を応援したり、儀式に参加させてもらったりも可能です。 ●感謝祭  伝統的な儀式でもありますが、街を盛り上げるという目的のためアレンジされています。 ●見物客  街の住民が7割以上。  近隣から観光客が2割。  外国からの観光客や怪しげなひとびとが合計して1割未満。 ●プレイングで指定があれば確定で登場するNPC ユリーシア  ウォーリアクラスに属する新人団員です。イザベラとは寮が同室で、よく寝癖やタイが曲がっているのを注意されています。 イザベラ  ユリーシアと姉妹のように仲がいい団員です。ウォーリアクラスで、日々コンビネーションアタックの開発をしています。委員長気質。 エルディア  エルフでシューターの授恵者。戦力的には申し分なく、また心優しい少女(実際は百歳以上)でもあるものの、がさつな言動が多く、ことあるごとに先輩騎士たちから注意されています。ペットのシマリスは親友です。 ガブリエラ  クソ真面目な眼鏡騎士。書記官でもあります。ヤンキー気質のエルディアとはたびたび口論していますが、ツンデレという噂もあります。非授恵者。

マスターより

 祭りを楽しんで下さい。

リプレイ

●
「冒険者として参加するのっ?」
 黙っていれば美麗なエルフ騎士が「やべぇ段取り組み直さなきゃ」という顔になる。
「はい。ディリーと……イズレンディルさんと予定をあわせることができたので」
 花鳥園経営者にして冒険者であるコルネリウス・アーラは、幸せな乙女の顔をしていた。

「早かったでしょうか?」
 半泣きで雪百合騎士団に戻る騎士と入れ替わりで、イズレンディル・パラリムが店を訪れる。
 普段から大森林とそこに住むエルフを守る者として隙の無い姿をしている彼は、今は街を歩き女性をエスコートするための服装をしている。
「いいえ」
 自分のために時間と労力をかけてくれたことが分かるので、コルネリウスは微かに上気しそっと寄り添う。
 コルネリウスも、この日のために気合いを入れていた。
 後を任された店員に見送られ、エルフの少女と大森林の守り手が儀式の場へゆっくりと向かう。
 途中で声をかけようとした女や男もいたが、2人の距離と自然に繋がれた手に気付いて離れて行く。
「森の外でこうしてエルフの文化に触れられるのは、嬉しいですね」
 無粋なものは目に入っても意識には残らず、普段より瑞瑞しく見えるものを楽しんでいる。
 他の国はもちろん、別の街に行っただけでエルフの要素は見当たらなくなるのだ。
 冒険者としても活躍しているコルネリウスは、心のどこかが回復していくのを感じていた。
「私にとっては新鮮な"エルフ風"です」
 エルフという種の本拠である大森林とは文化が異なり王国のそれに近い。
 けれどイズレンディルが悪く思うことはない。
 場所が変われば文化の形が異なるのは自然なことだ。大森林の内部でも、エルフ以外は気付かないかもしれないがかなり違うのだ。平地で木が少ない場所のエルフ文化と思えば非常に興味深く、なにより楽しい。
「よかった」
 コルネリウスはほっとした。
 するとこれまで気にならなかった香りにも気付くようになる。
 上質な小麦粉と砂糖をたっぷり使い、生地の中には大森林から輸入したドライフルーツを少し。
 エルフ要素は少ないが、屋台で作るお菓子としてはかなりの質だ。
 いつの間にかイズレンディルが支払いを済ませていた。
 かなり年上の店員(エルフ)が「いい男はしっかり捕まえておくんだよ」という顔で生クリームをサービスしたお菓子2つを渡してくれる。
「ディリー……ありがとうございます」
「いえ。私も甘いものが欲しくなったので」
 イズレンディルはお菓子よりもコルネリウスが喜ぶ顔を喜んでいる。
 嫉妬と羨望の視線が通りのあちこちから飛んでくるが幸せな2人に効きはしない。
 わぁ、とさざ波のように歓声が消えていく。
 一連の儀式を終えたエルフ騎士達が、休憩するため店に入るところだった。
「あ」
「お久しぶりです」
 同じ街で経営者と騎士をやっていると自然に顔馴染みにもなる。
 ベールコートの騎士達が、儀式のときの神秘性など微塵も感じさせない表情で話しかけ、イズレンディルに気付いて明るい表情になり、2人の表情と距離に気付いて落ち込んだ。
「儀式、ですか……!」
「はい。店長さんの衣装も用意してたのですが、どっかの馬鹿が連絡するのを忘れてて」
「……私にも出来るでしょうか? 打ち合わせも練習もできていないですし」
「店長さんは授恵者ですから大丈夫ですよ」
 顔と姿勢が良いのは前提である。
 コルネリウスはとても興味があるのでそわそわとして、しかし街の重要な行事であることを経営者として理解できるので思い切れない。
「ネリーも参加してみますか? 華やかな儀式のようですから、きっと似合いますよ」
 そんな場所でのネリーの姿も見てみたいと、彼女にだけ聞こえるように囁いた。
「はい!」
 けっ、という僻む声が複数のエルフ騎士から聞こえた気がした(音としては聞こえていません)。

 杯から溢れる光が純白のドレスを若草の色に染める。
 持ち主のエーテルを吸う半ば呪いの紋具も、相応しい者の手にあれば祝福(悪影響はない)を与えることができるのだ。
 付き従うように同行するエルフ騎士よりも多くの注目と声援が集まってしまい、外見は落ち着いているコルネリウスも精神的に限界だった。
(ディリー)
 優しく瞳がじっとみつめてくれる。
 目立ってしまうのを承知の上で手を振ってくれるのも嬉しい。
 彼女は緊張と幸せでふわふわした気持ちで、客観的に見て完璧に儀式を遂行して騎士団の詰め所に入った。
「どうでしたか……?」
 汗を拭かれながらたずねると、イズレンディルは優しくそして力強く微笑む。
 それだけで何を言いたいか分かったけれども、続く言葉も楽しみに待つ。
「とても素敵でしたよ。まるで沢山の花に囲まれているような華やかさでお綺麗でした。……お疲れ様でした」
 大勢の騎士がいるのに、2人だけに明るい光が集まっているように見えた。

●
「皆さん、今日はいつも以上にお美しいですね。儀式、楽しみにしておりますので」
 略礼装を着こなすキーゼが挨拶すると、美貌のエルフ騎士達が「この人よりにもよってこのタイミングで言いやがった」という顔になった。
「お互い、何事も無いよう祈っています」
 騎士達は仕事相手。
 隣にいる女性は心の中で重要な位置をしめる大事な存在。
 ずっと見ていたかのようにネーヴェ・グラヌローザを守り、誘導し、人の流れの中へ一緒に入っていく。
 けっ、という僻む声が複数のエルフ騎士から聞こえた気がした(極一部は実際に声に出ていた)。
「折角のお祭りですし、お洒落して参りましたの。似合うでしょうか?」
 ネーヴェは少しすねたふりをする。
 距離を離す気はないけれど、一番大事に思われているのはキーゼの行動で分かってはいるけれど、それでも一言言いたくなる。
「とても」
 キーゼの表情は真摯で、瞳には称賛がある。
 人前でなければ両手で優しく(ぽかぽか)叩いて抗議したかもしれないと思うネーヴェは、本人が気付かないうちに白い肌を淡い桜色に染めていた。
「皆様、華やかな儀式に相応しい、美しい方々ばかりですのね」
 日常業務では残念な面もある騎士達も、街のブランド維持という重要任務では気合いが入り美貌も輝く。
 ネーヴェは素材も美しさも負けてはいないが、儀式(イベント)用に整えきった美貌と比べると気後れしてしまう。
「あの化粧と服装はよく考えられたものですね。ネーヴェにはしてもらいたくないですが」
 一番の美人は君だ。
 君を独占したい(多くの目に触れさせたくない)。
 祭りの陽気に影響されたのか、キーゼとしては非常に率直に好意を表現している。
 んんっ、とネーヴェは咳き込みかけた。
 いきなりのデレ(すきすき)は反則だと思う。
「一緒に交じって雪百合茶の効能アピール、出来るでしょうね。美容効果の説得力は確実に持たせられるでしょう」
 戦術を評価するように言われても嬉しさは2割減だ(でも嬉しい)。
「いえ、私は……」
 ネーヴェが言い終える間にキーゼが自然な態度で向き直る。
 少しだけ前のめりになったネーヴェを優しく抱き留めて自身の体で周囲から隠しつつ、軽くふれ合うキスをする。
 中身も実績もない男がするなら薄っぺらに感じられたかもしれないが、戦場でも宮廷でも危険な場所に立つ彼がすると説得力があるし少々どころでなく刺激が強すぎる。
「……儀式に集中、しましょうか」
「ええ」
 キーゼが何事もなかったのような態度なので、ネーヴェはキーゼの顔を手で押し儀式の方へ向かせる。
 赤い顔を見られていないかとか、手のひらまで熱くなっているのに気付かれていないかとか、混乱しながら考えていた。

「手、繋ぎませんか?」
 この(触れあう)距離では今更だが、仲直りの切っ掛けにはなる。
 2人は寄り添って、儀式が終わったばかりでうわつく人の流れにのる。
「やっぱりお祭りは賑やかですわね。通りを歩いているだけでも楽しくなります。あれはお土産物の屋台でしょうか」
 屋台というには立派すぎるが、この街の繁栄と客層を考えれば不自然ではない。
「こういう時期のこういう場でしか買えないもの、というものもありますからね……。折角ですから、ご友人のお土産なども見繕ってみては?」
 キーゼは商品はもちろん従業員の言動や気配まで徹底的に確認してから初めて勧めた。
「……そうですわね、折角ですし。これなんて刺繍が愛らしくて素敵ですわ」
 袋の刺繍は貴族や豪商のご婦人が趣味で作ったらしく豪華でもある。
 百合茶の茶葉の質を保証する、今日発行されたばかりの書類も屋台に張り出されている。
「そういえば、以前お土産で頼まれていた茶葉……前回来た際買った後、ずっと宿に置きっぱなしですね……今思い出しましたが。保存がきくものですので、多分大丈夫でしょう」
 キーゼは空気を読まないのか読んだ上でこうしているのか、分かりづらいときがある。
「まぁ、今それを仰いますの?」
 呆れまじりに柔らかく避難する。
「……買って来るのを忘れたのだと思っておりましたわ。そういう訳では無くて良かったです。でも、今度は忘れずに持って来て下さいね」
 しっかり釘を刺す。
「そして、一緒に飲みましょう?」
 お金を受け取った若い従業員が、表情の維持に苦労していた。

●
「コルネさん、今日は本当に素晴らしかったです」
 ネーヴェの心からの称賛を、コルネリウスが喜びと共に受け入れる。
「お二人のデートは初めて拝見しました。落ち着いていながらも暖かい雰囲気で、素敵な空気感ですね」
 キーゼは曖昧にうなずき、ネーヴェは最初の方を目撃されなくてよかったと考えながら微笑んでいる。
「都市の華やかさがぎゅっと詰まったような、見ていて飽きない儀式でしたね」
「興味深い内容でした」
 この場にいる男性観光客とは違い、美人エルフ騎士の色香に惑わされない2人である。
「今日はお祭り、楽しみましょうね」
「お互いに素敵な時間が過ごせますように」
 ネーヴェとコルネリウスは、別れの挨拶を交わしていた。

 数時間後。
 夕暮れ時の通りが見下ろせるレストランで、仕事を終えたキーゼ達が食事をとっていた。
「仕事でこうして遠方にきて、その土地土地のものを味わえるのは、冒険者様様ですね?」
 この街に長く居着いているエルフ騎士の紹介なので、少々値は張るが味は良く雰囲気が実によい。
「ええ、これも冒険者稼業の楽しみの一つだと思いますわ」
 ネーヴェは一見いつも通りの態度だが、キーゼには上機嫌であることが分かる。
(そういえば、お茶割りのカクテルなどはあるのだろうか)
 つい、知的好奇心が刺激されてしまった。
「1杯ぐらいどうです? 流石に酔わないでしょう?」
「軽めなら恐らく大丈夫でしょうか」
 この人はこういうところが、と内心思いはするが可愛くも感じる。
「でしたらキーゼさんも飲むでしょう? 乾杯致しましょうか」
 心得たウェイターが素早く準備を整えてくれた。
 薫りは爽やかで、触れあうグラスが澄んだ音を響かせていた。

マスターコメント

 幸せな2組に乾杯。
ショートシナリオR

ショートシナリオR易しい 報酬:少ない4 / 4〜8人

2021年12月22日 11時53分05秒 公開

成功

相談掲示板

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0