【聖祭】智者にメイド服を ―どうしてこうなった?―
菊華 伴
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シナリオID:1727
オープニング
エフレム。帝国を崩壊させた原因とされる男。かつてはレイウェスト・バルタスに寄り添い、陰日向にと心を砕いていた筈の存在だ。だが、彼はとあるきっかけが原因で行動に対する矛盾をレイウェストに突かれ、ついに袂を分かつこととなってしまった。
「……会ってみたかったな」
レビジュ・バトーはどこか遠い眼で夜空を見上げ、ポツリと呟いた。
元は『メドゥの指先』の構成員として幹部の命令に従い、レイウェストを殺す為に毒を作った身としては、その毒を解除するべく奮闘した従者と話してみたい気持ちがあった。それに、彼の行動を破綻させた切っ掛けが『メドゥの指先』が仕組んだ事件なのだから面白いとも思ってしまう。
(黒曜石の君から直接聞いてみたいけど、難しそうかなー)
暮れも押し迫るころ、レイウェストの体調が気がかりでそれとなく主治医に話を聞いたところ、毒の影響的な意味ではだいぶ薄れたと話を聞き安堵していた。その一方、聊か働きすぎかもしれないという点と、まだ本人からエフレムの話を聞くのは(謁見を賜れるか的な意味で)難しそうだと判断、なかなか聞けずにいた。
「まぁ、エフレムさんと何処かで会う事があれば捕まえていいか賢猪将軍とか上官に確認取ろう」
……と、好奇心が故に色々考え始めるレビジュだった。
その頃、レイウェスト・バルダスもまた偶然にもエフレムの事を考えていた。
(今頃、どうしているのだろう……)
あの時は、問わねばならないと考えた。だから行動に移した。その結果が、現状である。もし自分が暴かなければ、恐らくは今も傍で助言してくれていただろうか。
「私には、知りたいことがある。叶うならば、そなたの口から聞きたい」
どこに行ったのか解らぬ彼を思いながら、レイウェストは夜の帳が降りた窓の外を見つめ……暫し考察に耽った。
その後、就寝の時間となった2人はそれぞれ寝台へと潜る。
しかし、その枕元に置かれたキャンドルは……二人が知らないものだった。そして、その謎のキャンドルが不思議な夢を見せる事も……。
●駒と皇子は智者の夢を見るか?(但し謎ミッション付き)
その夜。レイウェストはヘンな夢を見た。目の前にはだだっ広い原っぱ。そして、目の前には……懐かしい姿。
「? レイウェストさん。あの人って……」
いつのまにかレビジュもいた。ロバの耳を動かし、不思議そうにリザードマンの男性を観察する。が、レイウェストはこくり、と頷き、
「エフレム!」
目の前に立つリザードマンに叫んだ。レビジュが「やっぱり!?」と声をあげるのを聞き流し、皇子はエフレムを茫然と見続ける。そして、一歩踏み出した。
「エフレム! 貴公は何のために戻られた……!?」
「なっ?! 殿下……それと……どなたかは知らぬが……」
複雑な感情のまま駆け寄ろうとしたレイウェストだったが、エフレムは明らかに狼狽えた。
「貴方がエフレムさん? 殿下の懐刀で帝国を壊した張本人?」
レビジュがレイウェストの前に立ち、不思議そうに問いかける。挙動不審な様子のリザードマンに対し若干警戒しているらしい。
エフレムと呼ばれたリザードマンは混乱しているようだった。彼はレイウェストとロバのハーフビーストらしき少年を見比べ……表情を引き締めた。
「御免!」
彼は懐から何かだし、それを叩きつけた。鈍い音を立てて割れた何かから煙がもくもくと立ち上り、二人は咽てしまう。その煙が晴れた時、一つ目を持った動く低木(?)がなぜかうじゃうじゃといて、その向こうにエフレムがいた。彼はめっちゃ走っていた。
よくみれば、その先には雪原。しかも妙に動いている雪の塊っぽいものが見えている気がする。
「エフレム! 何故このような……」
「僕が守るから、一緒に追いかけようよ!」
困惑するレイウェストに手を伸ばし、レビジュが声をかける。だが、そんな二人の目の前にこんな看板がにょきっと生えてきた。
【ミッション】
15ターン以内に逃げるエフレムを捕らえ、メイド服を着せよ!!
でなければ目覚めることはできない!!
ミッション失敗の場合、参加者全員メイド服でエフレムにご奉仕だ!
「「え?」」
レイウェストとレビジュは、声を合わせて困惑した。
●この悪夢? は、大いなる世界の意志によって冒険者たちをも巻き込みました。
今、貴方がたは皇子と駒っ子と一緒に看板を見ている。気が付いたら、貴方がたもここで、あの看板を見ているのだ。もちろんざわめきが起こる。
それはそうだ。エフレムにメイド服を着せないと目が覚めることができないのだから。
「え……身長180cmぐらいあるよね……」
「たしか50代男性だった筈だぞあの人」
「むしろそれがいい!」
「ちょっ!? ここに阿呆がいるぞ!!」
冒険者達は顔を見合わせどうするか考える。だが、看板の隣にもう一枚にょきっとルール説明の看板が生えてくる。
〈ルール〉
・スキル使用は何でもあり!
・ただしペットは応援席で待っていてね!!
・HP0になると自動でメイド服着用になります
・エフレムを捕まえた時点で制限時間のカウンターストップ。
逃げられたら再びカウントが始まります。
・エフレムにメイド服を着せればゲームクリア。
そして、彼のために用意されたのが……メイド帽に、長袖、ロングスカートのクラシカルなデザインのメイド服である。
――制限時間は15ラウンド。
そして非情にもスタートの鐘は鳴り響く……!!
「……なんぞ、これ」
逃げながら、エフレム自身も困惑していた。
解説
マスターより
リプレイ
エフレムは思った。
――今年は、厄年かもしれない、と。
何故、メイド服なのか。何故、自分なのか。全く理由がわからない。
(とりあえず、今は、逃げ切るのみ……!)
一体何時ぶりだろうか、こんなに本気で走ったのは……。ふと、振り返れば冒険者達とレイウェスト・バルタス、レビジュ・バトーと名乗るロバの子が後から追いかけてくる。
「エフレム様はお守りしますっ」
自分に寄り添うように(?)走ってくる同種の乙女……スィーリーンと共に、今はあと数ラウンドを走りぬくだけ……の筈。
「忝い。生き残るぞ、スィーリーン!」
「はいっ!」
エフレムは、スィーリーンと共に雪原を駆ける。
だがしかし、なんという夢だ。
その傍ら。スィーリーンはエフレムと並走しつつ近づく冒険者達に微笑む。
「勝負は、まだこれからです」
そう言いながらも、彼女はこのおいかけっこが始まった時の事を思い出していた。
●メイド服は、クラシカルなタイプが御望みですか
「メイド服……」
「うん、メイド服だね」
「メイド服だな」
「メイド服ですねぇ」
エフレム用に準備されたというそれを広げ、レイウェストが、レビジュが、サイラスが、トーラがまじまじと見つめた。
「こちらにはメイド帽もあります」
そういっていつの間にか出てきた箱から恭しく(?)クラシカルなメイド帽を取り出したのはシェルリア・リトヴァール。彼女は紫色の瞳をきらっきらさせ、ぐっ、と拳を握り締めた。なんか妙に興奮している気がするが気のせいか?
「嫌がる『語らずの智者』に無理矢理メイド服を着せる……そっち方面の需要がありそうですね!」
これはドゥジン信徒として頑張らないとです! と意気込むがどっち方面の話かは聞かぬが花かもしれない。
「何か風の噂でレイウェスト様がドレス着るらしいって言うし、エフレムさんがメイド服着てても良いんじゃないかなっ!」
「ちょっと待て、どこからの情報だ?!」
ハーヴィがポン、と手を打って言うがレイウェストは困惑している! 因みにそれは│少し未来の話だ! 気にするな!
「僕も黒髪が綺麗なレイウェストさんを『黒曜石の君』て呼んだりはするけど……、さすがにそれは思いつかなかった」
レビジュが真顔で呟く。
(味方は、もしかして居ないのか……?)
(どうなんだろねぇ。冒険者達は皆味方だと思うけど)
よくわからない何かに慄くレイウェストに対し、レビジュが感想を漏らす。
「とにかく面白そうだねっ! 全力でエフレムさんを捕まえにいこうよ!」
「ともかく、早く追いかけようじゃないか」
エフィルミアとサイラスが集まった者達に呼びかける。とくにサイラスはこのような状況でも真面目に勝ち筋を狙っているようだ。寒さ対策として外套をしっかり着こむだけでも戦歴の猛者感が半端ない。
(捕まえたら剥いて着せるで良いんだろか?)
まあ、そういうルールですがお望みならば何かご奉仕でもさせましょうか? と大いなる世界の意志はサイラスに問いたい。
(え? 今誰か俺に何か話しかけたか?!)
サイラスは脳内に聞こえた声にちょっとびっくりして辺りを見渡すも、その場にいる面々しかいない。
「早くしないとエフレムはもっと遠くに行ってしまう。な? トーラもそう思うだろう?」
とサイラスが話を振っていたが、その先には
(エフレムさんを取り逃がしたら、レイウェストさまのメイド服姿を観賞できるのでは……? それにドレス姿も似合うかもしれない……。あーでもでもレイウェスト様が誰かに傅く姿は見たくない……っ! メイド服姿はちょっと見たい気もするけど~~!!)
ものすごくもだもだしているトーラの姿があった。何かが鬩ぎ合った結果、彼女は決断した。
「(メイド姿はともかく)人に傅くレイウェストさまは見たくありませんっ! エフレムさんを捕まえに行きましょう!!」
「「アッ、ハイ」」
なんか、気魄に負けた面々は思わずそう返事した。トーラはそんな面々を尻目に先手必勝とばかりに突っ走る。だが!
「仲間である皆様を裏切るのは心苦しくはありますが……足止めさせていただきますっ!」
今まで様子を見ているようだったスィーリーンの申し訳なさそうな声が響き、トーラとレイウェスト達を阻むように稲妻のような光が無数に荒れ狂う空間を出現させた。俊敏なトーラは抜け出したが他のメンバーは暫くの間体に稲光のような物が纏わりついて妨害する。
「エフレム様、今の内にお逃げ下さい!」
スィーリーンが叫び、視線の先のエフレムはサムズアップして突っ走る。トーラはその横すらも通り抜け走っていく。スィーリーンはトーラの速さに舌を巻きつつもエフレムを守るべく追いかけて行った。
(エフレム様のお力になりたいですし、私はメイド服着てもダメージ無いですし。むしろエフレム様にご奉仕させて頂けるのはご褒美です!!)
そうだね、君はエフレムに憧れているからね……! あと〈アーケインテンペスト〉よりも強力(?)な〈スタティックフィールド〉を開幕で撃つより優しい気がする。
(思わぬ助力を得られるとは)
エフレムも予想外の助っ人に内心驚いてはいたが、これ幸いにと速度をちょっと緩めた。体力温存はしておきたいようだ。
(こういう時にコレは便利ですね)
〈ハイディング〉を使用していたエフィルミアもまた〈アーケインテンペスト〉を回避していた。ここでシーフ2人娘というすばしっこいコンビが抜け出したことになる(なお、スィーリーンはトーラが抜け出た事以外気付いていない)。
彼女はわくわくと緑の瞳を輝かせたまま、エフレムの背中を追いかける。
その少し後ろにはトーラ。彼女もまた風を切るように走っていた。
(迷いました! 迷いましたとも! でも、やっぱりレイウェスト様には~~~っ!)
乙女の忠誠というか、なんというか……。トーラはとにかく燃えているようだった。その勢いで雪が解けてもいいのではないか? というぐらいに。
残された面々は、シーフ2人が突っ走っていくのを追いかけるも〈アーケインテンペスト〉の効果をありありと感じていた。
「あとちょっとで抜け出せたんだけどなー」
レビジュが不満そうに呟きながら前方を見る。パタパタ動く尻尾の様子から、遠くに見えるエフレムの頭に雪玉を喰らわせたい気分のようだ。そんな彼をたしなめつつもサイラスがため息を吐く。
「してやられたな……。だが、俺がメイド服着るよりかはエフレムの方がまだ(ビジュアル的に)マシな気がするから追いかけるぞ」
彼は追いかけながら僅かに表情を険しくする。出鼻を挫かれたが、まだ制限時間に余裕がある。まだ追いつけない距離ではない、と彼は踏んでいる。というよりヒラヒラのメイド服はさすがに(自分に似合わない気もするし)恥ずかしい。
その傍ら、ハーヴィは前方で見蠢くものを発見していた。
「あの先に低木っぽいのが動いてるようだね。武器を用意した方が良いかも?」
その言葉にレイウェストが辺りをきょろきょろしていたが、いつの間にかちょうどいい剣を持っていた。ご都合主義ここに極まれり。
「援護は任せてくださいねっ!〈堅甲〉もありますっ!」
追いかけたり攻撃したりすることが苦手なシェルリアは、ヒーラーとしての役目を全うすることで援護してくれるようだ。これは確かに心強い。
「皆、なんとしても追いつこう」
レイウェストが励ますようにそういい、全員が頷いた。気持ちのよい目覚めの為に。そして、己の尊厳(やらおもしろさやら)の為に!!
(でも、ドゥジン的に皇子とエフレムさん、どっちがメイド服を着ても美味しいかもしれない)
ふと真顔で考えてしまったシェルリアが、ちょっとこけかけた。
●第一ゾーン、低木クリーパー(?)
「エフレム様、こちらは?」
スィーリーンは、エフレムの後ろ姿にそっと問う。『こちら』というのは一つ目の低木型クリーパーである。わさわさ動くそれは、何故か攻撃してこなかった。
「拙が呼び出した物だ」
「やはり……」
エフレムがしれっとそういい、スィーリーンは納得する。
因みにエフレムにも攻撃していないが、その理由は謎に包まれている。今は追及している暇はない。
「拙は逃走に集中いたす。背中を任せてもよろしいか?」
尊敬するエフレムにそう言われ、スィーリーンのやる気メーターはぐぐっとMaxまで上昇した!
「かしこまりました、エフレム様!」
キラキラした橙の瞳で、スィーリーンは了承した。そりゃ嬉しいよね、憧れの人を守れるのだから。
「これ、気持ち悪いですね……」
低木クリーパーゾーンに差し掛かったトーラは、とにかく振り切ろうと突っ走っていた。思いのほか低木クリーパーが気持ち悪かったらしい。ぎょろっとした目と蠢く根が気持ち悪さに拍車をかけたのかもしれない。
(確かにこれは気持ち悪いよね)
未だ〈ハイディング〉の効果が切れていないエフィルミアもまた、トーラの呟きに大きく頷いた。よく見れば近づいてくる際に立てるかさかさという音も確かにちょっと怖いかもしれない。
だがクリーパーたちはトーラの行く手を阻もうと可愛い動きを見せ始めた! 『行動阻害』付与効果のあるダンスだ!!
「まっ、負けませんよっ!」
だが、トーラには効かなかったようだ。彼女は半泣きのままそのスペースを抜けようと奮戦している!
(全てはレイウェストさまの為なんですっ!!)
そのためにはこの気持ち悪い物を越えねばならない! トーラは疾風のように駆け抜けていく!
一方のエフィルミアも〈ハイディング〉続行で軽やかに駆け抜ける! まさに風のように!!
(もうすぐ届きますかね?)
と考えたエフェルミアだが、その先で真っ白い何かが動いたような気がした。背中を嫌な汗が流れていく。
(今の、何でしょう?)
それがいる場所までまだ距離はあるが……嫌な予感がするエフィルミアだった。
その後方にいる面々は出遅れてしまっていたが、巻き返しを狙っていた。
「稲光っぽい物が発生している辺りから移動する時ってさ、移動力の消費が通常より増加しているだよね……。やっぱキャスター甘くみちゃ痛い目みるねー」
「なんか、それは言ってはいけない気がします」
真顔になっているレビジュに、シェルリアが突っ込む。
「悪い子だった時から実感していたけど改めて思ったんだ」
「実感籠ってるな……」
サイラスがレビジュの何気ない一言に苦笑していると、彼らにも徐々に低木型クリーパーが押し寄せる。
「でも、味方にするととっても心強いよ! まぁ、見てて!」
ハーヴィは宿り木の短杖を構えると、空間に不可視の波紋を走らせる。次の瞬間、派手な音を立てて巻き起こる衝撃波。低木型クリーパーが虚空に跳ね上がり、涙目で墜落していく!!
難を逃れた一匹がレイウェストを襲うが、そこはシェルリアがカバー。そして、サイラスもまた武器を構える。
「こっちも行くぞ!」
突進するような勢いで走るサイラスはその勢いのまま襲い掛かってきたクリーパーを『エクセキューション』でぶった切る。当たり所がよかったのか、一刀両断してしまっていた。
「僕もかっこいいトコみせないとね!」
ボロボロになりながらも襲い掛かるクリーパーにナイフを振るい、レビジュもまた一匹仕留めていく。
「これ、結構広範囲を巻き込めるんだけど……思ったより広がっちゃったのかな……?」
まだぴんぴんしているように見えるクリーパー数匹が前方から来るのを見てハーヴィがちょっと首を傾げる。だが、レイウェストは首を振った。
「よく見て欲しい。どのクリーパーも傷ついている。元気に見えるのは見せかけだけかもしれない」
と、すれ違いざまにクリーパーを切り伏せながら感じた事を言う。
「ちゃっちゃと片付けてエフレムを捕まえようか!」
サイラスが再び愛刀でクリーパーを切りながら、仲間たちを叱咤激励! その声に応じたのか、ハーヴィが再び宿り木の短杖を構えると、自分の周りに出現させた大量の小さな光弾を低木クリーパーたちに浴びせていく。
クリーパーの攻撃力は弱い物の、重なるとそれも侮れない。うち漏らした数体が、死角から冒険者達を攻撃する。シェルリアはある程度傷を負った者が複数いる事を認めると仲間へと治癒のエーテルを広げた。
(〈サークルプロテクション〉はちょっとだけしか効果を発揮しません。使いどころですかね)
使うならば、この敵より強敵と遭遇した時でしょうか、とシェルリアのヒーラーとしての勘が囁く。
ともかく、低木クリーパーゾーンを必死で抜けようと奮闘するレイウェスト達。それよりも先では……エフレムも予想外の展開が待っていた。
●第二ゾーン、雪玉と、雪スライム
低木クリーパーが蠢いている場所を抜けると、より雪が深くなった。どこからともなく雪玉が降ってきて、通る者を容赦なく攻撃する。
当たった所で痛みはないし、ダメージもほぼ無いに等しい。だが、冷たいのだ。そして、ここにきて智者の表情が曇った。
「エフレム様、ちょっと雪深くなりましたね」
「予想外である」
エフレムとスィーリーンの2人は、ちょっとだけ速度が落ちていた。気温がより下がった気がしていたのだが、雪に擬態したスライムが何故か二人にも引っ付いていたのである。
「これも、エフレム様が召還したのですか?」
スィーリーンがスライムを引っぺがしながら問いかけるが、エフレムは黙ったままである。
「エフレム様?」
「……予想外の寒さである……」
エフレムは、くしゃみを一つすると外套をきっちり着込んだ。
(予想外の雪の深さである……。だが、走らねば)
彼は、スィーリーンに「足元に気をつけよ」と短く注意した。
(それにしても)
スィーリーンが振り返ると、トーラとエフィルミアの姿が見えなくなっている。どうやら、この2人も雪に苦戦しているのだろう。それとも、雪のようなスライムに?
「このままいけば、エフレム様の勝利でしょうか?」
彼女は首を振ると、油断してはいけない、と思い直し足を進める。だが、寒さで体が震え、速度が落ちる。それはスィーリーンも同じ。
「「寒い」」
二人は身を寄せ合いながらどうにか乗り切るのだった。因みにスィーリーンの頬が少しばかり赤かったかもしれないが前方しか見ていなかったエフレムは気付いていない。
(※注意:すべてのリザードマンが雪に弱いわけではありません、恐らく)
「「きゃあああああ?!」」
そのトーラとエフィルミアは、揃いも揃って200cm級の雪スライムに引っ付かれていた。
「〈温度耐性〉はあっても重さまでは効果がないよ~!!」
「こここのままじゃここ凍えてしまいます~~!」
勿論〈ハイディング〉も解除され内心アタフタなエフィルミアと小柄故に既に包み込まれかけているトーラ! これはまさに大ピンチだ!
しかしここにきて救世主登場。200cm級スライムに衝撃が走る。三連撃をレビジュがきめ、その上エーテルを収束させたビームが当たったのである。
「おっ、的がでかけりゃ当たるわな」
サイラスの背中辺りに翼のようなエーテルが散った気がするが、ブレスが横に広がり過ぎて威力減衰する事を抑えるためだ。
「大丈夫か、二人とも」
「今治療しますね! いきますよっ!」
レイウェストが小さなスライムを払いながら声をかけ、シェルリアが集まった面々へと治癒のエーテルを巡らせる。
「雪玉自体は痛くないけど、寒いのは確かに辛いよね」
〈ペインキル〉を使うまでもなかったかな? と苦笑しながらハーヴィが身構える。彼(?)は呼吸を整えると詠唱し宿り木の短杖の先から奔流を発動させる。これでスライムを苛み、道を作る作戦だ。
エーテルによって雪が抉れ、小型スライムは軒並み雪の中へ逃げる。ハーヴィを絶対強者と認識したようだ。
「「す、すごい……」」
思わず息をのむ冒険者達とレイウェスト。因みにスライムたちは200cm級を吹っ飛ばしたサイラスも恐れて引っ付こうとしなかった事を付け加えておく。
「道が出来たよ。さぁ、行こう!」
ハーヴィは笑顔で走りだし、レイウェストたちもそれに続く。その中でもサイラスはため息交じりに前方を見た。
「俺ぁ、冬眠するのはゴメンだから突っ切らせてもらうぜ!!」
彼は呼吸を整えると、一時的に炎で出来た翼のような物を背中に構築する。そして、そこから周辺のエーテルを集め、一気に放出! 風を斬りすてるが如く突っ走っていく!!
「ふふっ、彼もなかなかだねっ!」
「そんなことを言っている場合じゃありませんっ! わたし達も行きましょう!」
ハーヴィは、エーテルの残光を見送りながら楽し気に微笑む。トーラはちょっと焦りながら見送る面々を急かす。
「そーだねっ! GOGO!」
エフィルミアもニコリと頷き、軽やかな足捌きでその道を行く。ハーヴィがその後に続き、レビジュとトーラはあっけにとられるレイウェストの手を取りともに走る。その後ろを守護するようにシェルリアが最後尾を行く。いつの間にか雪玉が降ってきていない事と、スライム達が恐る恐る道の中へ入ってこようとしている事に気付き、
(これは一応急いだほうが良さそうですね)
仲間たちに声をかけるのだった。
ここまでで、9ラウンド経過している。残り6ラウンドですべてが決まる。
果たして、勝者はエフレムとスィーリーンか、レイウェスト達か……。
●第三ゾーン、逃げまくるエフレム
雪が止み、エフレムとスィーリーンはスライムを払って突っ走る。後は平原だけが広がっている地帯だ。残り数ラウンド逃げ続けるだけで良い。
だが振り返ると、速度が落ちている間にサイラスが勢いよく迫っている。そういえばエーテルの奔流により雪が抉れたのを見た気がするが……。
いつの間にかできた道を、エフィルミアが軽やかに駆けていく。桃色の髪を風に揺らし進む様は、春の訪れの先駆けを思わせる。
その後に続くのは2人のシーフに手を引かれ駆けるレイウェスト。彼は途中から手を放してもらい、3人並んでかけていく。ハーヴィとシェルリアもまた確実に迫っており、スィーリーンは僅かに息をのんだ。
そして、冒頭の場面に繋がるのである。
* * * * *
徐々に冒険者達とレイウェストが近づいてくるのを目視したスィーリーンは、宿り木の長杖を冒険者達へ向ける。
「皆様には申し訳ありませんが」
彼女の周りに大量の小さな光弾を出現し、
「エフレム様に斯様な辱めを与える訳にはいきません!」
流星の如く冒険者達へと襲い掛かってきた!! サイラスは「くっ! 撃ってきたか!!」と漏らしながら得物で身を守り、エフィルミアは光弾が身体を掠めるのを気にせずエフレムへと向かっていく。レイウェストとトーラの前にレビジュが立ち塞がって庇うが、光弾の所為で自慢のロバ耳が少々焦げたような気がした。
「これはピンチでしょうか?」
シェルリアが比較的ダメージを負ったレビジュへ治癒のエーテルを飛ばしながら様子を見る。
(〈ヒーリングオーラ〉は後2回使えますが……。場合によっては〈サークルプロテクション〉でしょうか?)
彼女の視線の先、サイラスとエフィルミアがエフレムとスィーリーンに迫っている。
「スィーリーン、退いてくれ! エフレム捕まえられん!」
「キャスターの移動力にシーフが負けるわけにいきません!!」
二人の気魄に負けまいと、スィーリーンは再び〈アーケインテンペスト〉を放とうと考える。だが、レイウェスト側にもキャスターはいるのだ。
「邪魔させてもらうよ」
ハーヴィが〈アーケインテンペスト〉を放つ。スィーリーンより早く放たれたそれは、エフレム共々稲光のような空間の中に入れられてしまう。
「スィーリーンさん!!」
疾風の如く駆け寄るトーラが、スィーリーンへとにこやかに声をかける。
「なんでしょう、トーラさん」
「ねぇ、エフレムさんのメイド服姿を見たくないですか?」
にっこり笑顔で誘惑的な発言だ! だが、スィーリーンは同じような笑顔で返す。
「うふふ、どちらに転んでも私には損になりません♪ 負けた場合それはそれでエフレム様のメイド服姿というレアな光景が見られますし」
「あ、あの、スィーリーン殿?」
エフレムもその発言には面食らった! 予想外だった! スィーリーン、まさかの「どっちの結果でも美味しい」発言!! 思わず困惑したエフレムに隙が出来た瞬間だった。
「エフレム! ここは潔く捕まりメイド服を纏うのだ!」
レイウェストが投降を投げかけるが、エフレムは首を振る。
「殿下のお言葉でも、聞けませぬ!」
「え? 『頼まれると断れないのがチャームポイント』じゃないのか?」
「それはそれ! これはこれ!!」
追いついたサイラスが思わず問いかけながらお着替えに取り掛かるが、エフレムは必死の抵抗!! スィーリーンがサイラスに再び〈魔糸〉を放とうとするが、そこにトーラが入り込む。
「ごめんなさい! すぐに終わりますから!」
「それでも、ギリギリまで粘らせていただきます」
トーラはスィーリーンの前に立ってとうせんぼ。スィーリーンは邪魔されながらも〈魔糸〉を放つが、狙いが外れてレビジュに当たる。
「もう覚悟決めなよ」
「メイド服を着てみてください! 新しい扉が開くかもしれませんよ?」
レビジュがシェルリアと共に退路を断つ。新しい扉って何の事がは解らないが、とりあえずエフレムは必死に「否! 断じて否!!」と抵抗する。因みにサイラスとハーヴィが必死になってエフレムにメイド服を着せようとしている状態である。
(ここで〈メテオライト〉を使用したらエフレム様も巻き込んでしまいます……!)
でも最後までエフレムの勝利を諦めたくないスィーリーンが長杖を上げるが、トーラが
「全員メイド服とかになったら、どうなるんでしょうかね。例えばエフレムさんを捕まえたのと同時にタイムアップとか」
と告げてきて手が止まる。そう、エフレムを着替えさせている間は、エフレムが逃げるか、着替えが終わるまでタイマーが止まるのだ。
――そうなったら、全員メイド服?
(それはそれでちょっと楽しいかもしれない)(私も貴方も損しませんよ)
スィーリーンとトーラは、なんか通じ合った気がした。
「とりあえずまずこれから被らせてみるか?」
「外套剥いでその上にメイド服着せるか?」
「せめて上は下着だけにしないと入らないかもしれないよ」
レイウェスト、サイラス、ハーヴィがあれこれ言いながら暴れるエフレムに纏わりついてお着替えしていく。
「うーん、妨害はなさそう? トーラさんナイスです!」
そのお着替えを手伝いながらエフィルミアがサムズアップ。そして、よく見るとタイマーは『14ラウンド』で止まっている事に彼女は気付いた。
(このままでは……メイド服を纏う事になる!)
エフレムは、必死に抵抗する。だが、サイラスに抑え込まれ素早いエフェルミアに牽制され、うまくいかない。頼みの綱のスィーリーンもトーラに懐柔(?)されてしまった。
「すっ、救いは……無いのか……」
気付いたとき、エフレムはメイド服を着せられていた。後は、メイド帽だけである。スカートの下はロングパンツをはいている為スース―しないが、それでも何か尊厳とかが崩れ落ちそうな気がした。
「!? え、エフレム様……」
スィーリーンは、頬を赤くしながらエフレムに見惚れている!!
「レイウェストさん、被せちゃえ」
「そうだね。止め(?)刺しちゃっていいんじゃない?」
「クラシックなメイド帽を被らせたら似合うかもしれませんよ」
レビジュとハーヴィ、エフェルミアの言葉に頷き、レイウェストは座り込むエフレムの頭にメイド帽を被せた。
――エフレム、敗北。
(に、似合わな……ん? 微妙になんかあってんなこれ)
サイラスは何となくそんなことを思った。案外細身だったのもあり、エフレムになんか合っている気がした。しかし相手は年上の男性だ!!
「クラシカルなメイド服でよかった……。品があります」
「ええ、似合いますね(レイウェスト様にも似合いそうですね)」
スィーリーンとトーラは頷き合う。その傍らでハーヴィがうんうん、と頷いていた。シェルリアは「あぁ、ドゥジンシのネタにいいかもしれません……」と何故かメモし始めている。そして、レイウェストは「すまない」と生暖かい目をしていた。
「どうやら、私達の勝利のようですねっ!」
エフェルミアの発言が、エフレムの脳天に突き刺さる。
「拙は……もうすぐ60歳になるのだが……」
がっくりと項垂れたエフレムは、金色の瞳にうっすらと涙を浮かべていたという……。
(やっぱり、今年は厄年かもしれない)
エフレムは、レイウェストの成長と冒険者達の執念をありありと感じながら、大きなため息を吐いた。
●悪夢からの目覚め
「……なんぞこれ」
サイラスは目覚めるや否やとりあえず水を一杯口にした。
エフレムのメイド服姿が何故か頭から離れない。
「とりあえず、レイウェスト様が誰かに傅くようなことにはなりませんでした!!」
よかった、と安堵の息を漏らすトーラ。
「シーフの速さがあってこそ、ですよね」
エフェルミアは、ちょっとすっきりしたような顔でベッドから起き上がる。
「エフレム様……何を纏ってもお似合いかもしれません」
スィーリーンは小さく微笑んで二度寝を決め込むことにした。こんどは自分がメイド服で彼にご奉仕する夢が見たい、と思いながら。
「なかなか楽しかった」
ハーヴィは愛用の短杖を磨きながら夢を思い出す。敵などを乗り越え進む快感は、なかなか楽しかった。
「ドゥジン的なネタにはいいですね……。ちょっと書いてみましょうか」
と、書くものを探していたシェルリアは、「早まるな!」と脳内で誰かが囁いた気がした。
「エフレムさん、しんどそうだったなぁ。やっぱり、メイド服は嫌だったかな」
レビジュがベッドに腰掛けて、夢の事を思いだす。
「……エフレム、すまない。これも目覚める為だったのだ」
でも何故メイド服を着せないと目覚められなかったんだろう、と首を傾げるレイウェスト。彼はどこか遠い目で「思い出すとつい笑ってしまう」と笑いをこらえながら呟いた。
――不思議な夢を見せる謎のキャンドル。
次は、これを読んでいる貴方の枕元にそれが置かれるかもしれない。
(終)
マスターコメント
イベントシナリオ普通 報酬:標準6 / 5〜25人
2022年01月22日 20時56分12秒 公開
相談掲示板
シーフのエフィルミアです!よろしくお願いします! 全力でエフレムさんにメイド服を着せましょうっ。
No.2
サイラスだ、よろしくなー まあとりあえずアクションは移動優先、汎用は戦闘後優先、特性は火力優先、装備は防寒意識でやろうかと。
スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 心苦しくはありますが、私はエフレム様の逃亡を手助けいたします。 エフレム様のお力になりたいですし、 私はメイド服着てもダメージ無いですし。むしろご奉仕させていただきたく。
スィーリーンさんはエフレムさん側ですね!了解です! 容赦はしませんので、覚悟しといてくださいねっ。 サイラスさんは一緒に頑張りましょう! 私は回避力と移動力をフルに使って追い詰めちゃいますよー!
出発確定ですね。 よろしくお願いします! わたしは…(レイウェストさまのメイド服姿を見たいような不敬かなという気持ちで揺れ動いてる)
あ。5人が最低人数でした。 あと一人来て貰えるといいですね…!
あと一人っ! あと一人っ! よろしくおねがいしまーすっ(懇願) 夢の報告書(プレイング)の締め切りは明日(8日)の12:00だよ。まっしろで出さないように気をつけてねっ!!
今度こそ出発確定ですねっ! シェルリア・リトヴァールといいます! よろしくお願いします! 追っかけるのはあまり得意ではないですけど頑張ります!
あっ、ヒールとかサークルプロテクションとかでの援護も考えてますっ。
成立ですね。 よろしくお願いします!
キャスターのハーヴィだよ。ギリギリの参加だけどよろしくね! 何か風の噂でレイウェスト様がドレス着るらしいって言うし、エフレムさんがメイド服着てても良いんじゃないかなって! 頑張って着せるよーやるよー! とりまクリーパーはまとめて燃やして、エフレムさんはアーケインで足止めしよっかな。