【聖祭】愛はロックだ
革酎
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シナリオID:1713
オープニング
●We will, we will, love you.
ここロスガリアに於いて、ロックとは何かという定義は無い(と、思われる、多分)。
しかしジェイソン・ジュピターなる人物は、愛はロックだと主張してやまない。
彼が語る愛とは、そしてロックとは何か。
今宵、それを紐解いてみよう。
――
シルトラース帝国とリーンエス王国の国境山岳地帯に位置する、カルケルーア・ロモズ。
いわずと知れたロモズ歩兵団の本拠地だ。
そのカルケルーア・ロモズは現在、聖霊節シーズン真っ最中。東西南の各集落では、大人も子供も皆お祭り気分で、全体が華やいだ空気に包まれていた。
そんな楽しげなカルケルーア・ロモズについ先日、ジェイソン・ジュピターなる男が引っ越してきた。
このクソ寒い真冬の季節だというのに、マッチョな上半身には真っ白なタンクトップ一丁、そして下は綿のロングパンツに黒いブーツと、時期も周りの雰囲気も一切無視したオリジナリティ満載な格好で集落内を闊歩している。
黒い髪はオールバックでビシっとキメており、鼻下のちょび髭が何ともワイルドというかセクシーというか、ちょっと別の方向性でヤバめというか、兎に角色々際立った人物だ。
しかし外見とは裏腹に、その行動は実に真っ当だ。ジェイソンは畑を耕し、井戸を整備し、土木作業や建築技術でも一流の腕前を披露する仕事人であると同時に、授恵者でもあった。
見た目こそイカつい風貌だが、至って真面目で普通な常識人だった。
唯一、愛についての特異な思想の持主という点を除いては。
ある夜、ジェイソンは南集落の公会堂で開かれたお食事会で、こんなことをいい出した。
「レディースアンドジェントルメン、ガールズアンドボーイズ。俺に君達の愛を、お手伝いさせて欲しい」
曰く、ロックな恋愛相談を受け付けるといい出したのである。
大体ロックて何なんだよ、と集落民の全員が不思議そうに顔を見合わせた。
これに対し、ジェイソンは爽やかな笑みを浮かべて半ばシャウト気味に答える。
「イケてるってことさ! クールってことさ! 君達の愛がロックに育まれることを、俺は心から祈ってやまないんだぜ!」
何だかよく分からないが、ジェイソンはカルケルーア・ロモズ南集落の一角に、ロック・ザ・プリンセスなる無料恋愛相談所をオープンしたらしい。一応、カルケルーア・ロモズ総責任者のリーヴァー・シュランドル帝国子爵からは開所許可を貰っている。
だからノープロブレム。
「どんなことだって相談OKさ。デートコースにお困り? 楽しいデートプランが思いつかない? 愛しいあのひとへの告白はどうすれば良いんだろう? OK、何でもござれだ。俺が何から何までロックに解決してやるぜ」
通称プリンセス相談所(何ちゅう略し方だ)を訪れる愛の迷い子は、果たして現れるのだろうか。
尚、助手としてロモズ歩兵団員の卑華王が常駐している模様。
暇なのか、コイツは。
ここロスガリアに於いて、ロックとは何かという定義は無い(と、思われる、多分)。
しかしジェイソン・ジュピターなる人物は、愛はロックだと主張してやまない。
彼が語る愛とは、そしてロックとは何か。
今宵、それを紐解いてみよう。
――
シルトラース帝国とリーンエス王国の国境山岳地帯に位置する、カルケルーア・ロモズ。
いわずと知れたロモズ歩兵団の本拠地だ。
そのカルケルーア・ロモズは現在、聖霊節シーズン真っ最中。東西南の各集落では、大人も子供も皆お祭り気分で、全体が華やいだ空気に包まれていた。
そんな楽しげなカルケルーア・ロモズについ先日、ジェイソン・ジュピターなる男が引っ越してきた。
このクソ寒い真冬の季節だというのに、マッチョな上半身には真っ白なタンクトップ一丁、そして下は綿のロングパンツに黒いブーツと、時期も周りの雰囲気も一切無視したオリジナリティ満載な格好で集落内を闊歩している。
黒い髪はオールバックでビシっとキメており、鼻下のちょび髭が何ともワイルドというかセクシーというか、ちょっと別の方向性でヤバめというか、兎に角色々際立った人物だ。
しかし外見とは裏腹に、その行動は実に真っ当だ。ジェイソンは畑を耕し、井戸を整備し、土木作業や建築技術でも一流の腕前を披露する仕事人であると同時に、授恵者でもあった。
見た目こそイカつい風貌だが、至って真面目で普通な常識人だった。
唯一、愛についての特異な思想の持主という点を除いては。
ある夜、ジェイソンは南集落の公会堂で開かれたお食事会で、こんなことをいい出した。
「レディースアンドジェントルメン、ガールズアンドボーイズ。俺に君達の愛を、お手伝いさせて欲しい」
曰く、ロックな恋愛相談を受け付けるといい出したのである。
大体ロックて何なんだよ、と集落民の全員が不思議そうに顔を見合わせた。
これに対し、ジェイソンは爽やかな笑みを浮かべて半ばシャウト気味に答える。
「イケてるってことさ! クールってことさ! 君達の愛がロックに育まれることを、俺は心から祈ってやまないんだぜ!」
何だかよく分からないが、ジェイソンはカルケルーア・ロモズ南集落の一角に、ロック・ザ・プリンセスなる無料恋愛相談所をオープンしたらしい。一応、カルケルーア・ロモズ総責任者のリーヴァー・シュランドル帝国子爵からは開所許可を貰っている。
だからノープロブレム。
「どんなことだって相談OKさ。デートコースにお困り? 楽しいデートプランが思いつかない? 愛しいあのひとへの告白はどうすれば良いんだろう? OK、何でもござれだ。俺が何から何までロックに解決してやるぜ」
通称プリンセス相談所(何ちゅう略し方だ)を訪れる愛の迷い子は、果たして現れるのだろうか。
尚、助手としてロモズ歩兵団員の卑華王が常駐している模様。
暇なのか、コイツは。
解説
状況:
愛について、何かお困りのことがあれば是非、ジェイソン・ジュピターにお任せを。
特に困りごとが無いなら、ジェイソンのお手伝いで愛に困ったひとびとをお助けするのも良いでしょう。
ロックなラブを満喫しましょう。
NPC:
ジェイソン・ジュピター、リーヴァー・シュランドル帝国子爵、卑華王(つぶらな瞳と赤いほっぺ、頭部付近から天に向かって突き出るふたつの三角形の耳、尾てい骨からは稲妻のようにギザギザと波打った尾が生えているマッチョなハーフビースト)辺りが主なNPCですが、場合によってはロモズ歩兵団の他の団員が現れるかも知れません。
マスターより
皆様、こんにちは。
ロックな愛をご満喫下さい。
リプレイ
●とってもGAGAなマインド
しんしんと雪が降り積もるカルケルーア・ロモズ。
心が洗われる様な純白の銀世界の中にあって、南集落の一角に陣取る、丸太組み大邸宅の圧倒的存在感は少しばかり異様だった。
ジェイソン・ジュピターはこの邸宅をロック・ザ・プリンセスと呼称し、無料恋愛相談所として応接室や幾つかの個室を開放した。
通称プリンセス相談所(と呼ぶにはあまりにいかつい外観の邸宅だが)は、開設初日からそこそこの人出で賑わう様になっていた。
カウンセリングルームに充てられた応接室に、リディリディ・トゥラ・イェレミースの姿があった。
暖炉でよく暖められた室内には大きなソファーと応接卓が程良い位置関係で並んでいる。
黒いオールバック、黒い口髭、真っ白なタンクトップに綿のロングパンツという季節感ガン無視のジェイソンに対し、リディリディは清楚なワンピース姿でソファーに腰を下ろしていた。
しばしの歓談の後、ジェイソンは左右に首を巡らせ、助手達にリディリディの平素の振る舞いや言動について問いかけた。
左側には黄色い肌、赤いほっぺ、つぶらな瞳のマッチョマン卑華王。
そして右側には何故かラフな音楽家然とした格好のコルネリウス・アーラ。卑華王が自慢の筋肉剥き出しで半裸なのはいつものことだが、コルネリウスはジェイソンのお手伝いとして自ら志願したところ、彼の指示で今の様な服装に身を包み、この場に同席することになった。
リディリディは、妙だ、と内心で訝しがる。こんな筈ではない。
「あの……先程、いいました、よね? 今回ご相談させて頂くことは他言無用にお願いします、と……特に、他のロモズ歩兵団員には絶対、バラさないで下さいね、と」
「君の気持も分からないでもないが、生憎俺自身が重兵20番隊に新しく赴任したばかりの隊長なんでな。その申し入れは最初から不可能だ。諦めてくれたまえ」
驚くべきひと言が返ってきた。が、それ以前に、秘密だ何だといいながら堂々とプリンセス相談所に足を運んだ時点で、リディリディが恋愛相談を抱えているらしい事情は近隣住民にしっかりバレしまっている。
何とも面妖奇怪な言行不一致だ。ジェイソンはリディリディが天然なのか、或いは『押すなよ! 絶対押すなよ!』の精神の持ち主なのかを測りかねた。そこで助手達にリディリディの平素の振る舞い及び言動を尋ねた、という訳だ。
「難しいですね。どちらも、リディリディさんの十八番ですし」
「ヴィッハ」
コルネリウスも卑華王も、即答しかねる難事。リディリディ、罪な女である。
だが、最早これ以上は不毛だ。リディリディは気持ちを切り替え、何故自分には恋人が居ないのか、年頃の娘なのだから彼氏が居ても良いんじゃないかと呪詛か怨嗟かよく分からない台詞を並べ始めた。
特段選り好みもしないが、強いて挙げるなら時間的な価値観が共有し易いエルフが希望で、顔もある程度(とかいいながら後で示した条件は超イケメンだったという事実はここでは措く)整っていて、冒険者ではなく、料理上手で、しかも下戸ではない方が良いとの由。
ここでコルネリウスと卑華王は考える。選り好み、とは何か。まるで深淵なる闇を覗いた気分だったが、ジェイソンは尤もらしい顔で頷いている。本当にちゃんと分かっているのだろうか。
「私に何故恋人というものが居ないのでしょうか? 理由が知りたいのです」
幽界樹のてっぺんよりも高いそのハードルでは、彼氏なんて普通出来ませんよ――コルネリウスは危うく喉まで出かかったひと言を必死の形相で呑み込んだ。
ここでジェイソンがパチンと指を鳴らす。すると卑華王は、妙な物を取り出した。干し肉だけで組み上げた一着のワンピースだった。
「肉欲を極めるんだ。そうすれば次なるステップ……恋愛への道が開けるってモンだ」
ごく自然に考えればおかしな話だが、普通肉欲といえば性的な肉体欲を意味する筈だ。しかしここでは肉食への欲望を意味するということを、この場の誰もが瞬時に理解した。
「今日からリディー・GAGAと名乗ることをお勧めするぜ。究極の肉欲を追求し自分を磨くんだ」
そうすれば男なんて自然に寄ってくるもんさ――ほとんど暴論に近しい台詞をジェイソンはしれっといい放った。
常人ならあり得ない。信じない。だがリディリディは素直に信じてしまった。恐らくこの時、リディリディの意識の中からは恋人とか彼氏とか恋愛とかは一切霧散し、目の前の干し肉が美味そうだという肉欲マインドに支配されていたに違いない。
●鷲掴み理論
変な方向に誘導されたリディリディが心配になって、コルネリウスは干し肉ワンピース姿の彼女をロモズ歩兵団の宿舎まで送ってゆくことにした。
その間、新たな来客が現れる。次に姿を見せたのはネーヴェ・グラヌローザだった。
「あの、恋愛相談を受けていると伺いました。聞いて、頂けますか?」
ソファーに腰かけるなり、ネーヴェは大切なひとが居ると打ち明けた。
ネーヴェの想い人は徹底した合理主義者で、最善手だと判断すれば手段を選ばぬ決断力の持ち主。ある局面では非情に映るかも知れないが、ネーヴェ自身は必要な視点だと割り切り、同時に尊敬もしている。
問題は、女癖だった。仕事や任務で色街に出入りすることが決して少なくない人物なのだという。
「他の女性と至近距離で会話なさったり触れたりされるのは、その……嫌、なんです」
嫉妬だということは分かっている。
だが原因はもっと根本的な部分に根差している、とネーヴェは自己分析してみた。己に自信が無く、彼女の想い人にとってネーヴェは居ない方が良いのでは、とも思う。
「ですから、お伺いしたいのです。どうしたら、女としての自信が具わるでしょうか?」
更にそこから転じて、男性目線からの魅力的な女性像とは、如何なるものか。
ネーヴェの悩みは切実だった。
「ある種の男は胃袋か肝臓を鷲掴みにすれば良い。俺の周りにもそういう輩は大勢居るもんだ」
例えば酒好きの男なら、他の女性では供せない美味い酒をいつでも出せるスペシャリストになれば、大体最後には帰ってくる、ということらしい。矢張りこの女でなければ駄目だ、と思わせれば勝ちだ。
ネーヴェの想い人は、結構な酒好きなんじゃないのかとジェイソンは探る様に訊いた。
確かに、そうかも知れない。
と、ここでジェイソンはもうひとりの来客を招き入れた。彼女の名は、月。事前に提出して貰った身上書によれば、月は何故か女だらけの村出身で、背に腹は代えられず村外に婿を探しに出た、ということらしい。
「いやぁ、どうもどうも……あれ? ここって合同相談会の形式?」
卑華王に案内されて入室してきた月は、不思議そうにネーヴェとジェイソンを見比べる。が、卑華王を見る眼差しは少しばかり色合いが違った。
「ふむふむ……やっぱ卑華王さんは、中々パンチの効いたルックスだねー。あははは」
「ヴィィィィハァァァァァ」
卑華王が何故か陰鬱とした地獄兄貴の如き眼光を煌めかせるが、月はまるで気にもせず、ジェイソンに勧められるままにソファーへと腰を下ろした。仕草のひとつひとつが妙にエロチックだ。
ひと息入れたところでジェイソンが悩みは何かと訊いた。月は、出会いの無さが悩みだと答えた。
既に想い人と出会っているネーヴェなどは、月から見れば贅沢の部類に入るのかも知れない。とはいえ、長命種の為に時間感覚が少々狂っており、然程に焦っていない様にも見える。
「何か冒険者って女の子が多い気がするんだけど、どの辺行ったら男の子居るの?」
「俺も前から謎だった。やたら女子が多いのは何なんだろうな」
それは兎も角、とジェイソンは無理矢理話題を変えた。彼は月の料理技術について問いかけた。
「おばあちゃんはいっていた……何かねー、メシマズは恋愛に不利なんだってー。あははは」
別に祖母の知恵でも何でもなく、普通に男が寄り付かんだろう、とはジェイソンの弁。ちなみに月の場合は雑なタイプのメシマズらしい。火加減、仕込み、味付けが全てが適当なのだという。
ここでネーヴェは月が招き入れられた理由を漸く理解した。ジェイソンが指摘する、胃袋もしくは肝臓を掴む技量の無いふたりが、この場に揃ったことになる訳だ。
「しかしな、酒も料理も結局は一緒に居る為の切欠、方便に過ぎないってもんさ」
要は相手の好きなものを供することで一緒に過ごす時間を増やせ、というのがジェイソン理論らしい。同じ席で酒や料理を楽しみ、その空気感を心地良いと思わせることが重要だとジェイソンは力説する。
他の物でも構わない。兎に角相手の好みの何かを自在に供することで、自身の手元に釘付けにする技を身に付けるべし。
「成程……例えばジェイソンさんなら何がお好みなのですか?」
「俺は音楽だ。それも最高にロックなやつだ」
●愛を語る
シャロン・ラ・モリエールが卑華王に案内されてカウンセリングルームに姿を見せると、月が壁際の木椅子から手を振った。まさかこんなところで顔を合わせることになろうとは、シャロンも流石に予想外だった。
尚、ネーヴェは引き返してきたコルネリウスと一緒になって、地下の酒蔵へと降りている。
もっといえば、このプリンセス相談所地下にはワインセラーやウィスキー醸造所なども併設されており、恋愛相談よりも居酒屋を開いた方が儲かるんじゃないかとさえ思わせる程の謎っぷりだった。
シャロンの到着が遅れたのは、カルケルーア・ロモズ内を散策していたからだ。ロモズ歩兵団の本拠地ということでどんなものかと色々見て廻っていたのだが、別段観光地という訳でもない為、これはという様な物珍しいものは何も無かった。
強いていえば、途中でロモズ歩兵団長リーヴァー・シュランドル帝国子爵とばったり顔を合わせ、軽く自己紹介するに至ったという程度であった。
「私にはこんにゃくしゃがいるのですが……」
シャロンのいう婚約者とはどの様な存在なのか。表現も微妙なら、定義もいささか怪しかった。
どうやらドゥジンシとか恋愛小説がソースらしく、現実よりも幾分ドリーミーな味わいの様だ。
「彼は優しくていつも私に気を遣ってくれるんですけど、つい甘え過ぎてしまって、良いのかなぁって……」
いいながらシャロンは、黒い毛糸で編んだセーターを取り出した。
「聖霊節の贈り物にこのセーターを編んでいるのですが、これは私が編み物が得意だからであって、彼が欲しがっているからではないのです。独りよがりだったら悲しいなと思って……誘えば乗ってくれたり、いろいろ合わせてくれるけど、あちらの好きなことやしたいことが出来ているのかが分からなくて……」
シャロンとしては、これが似合うと思っている。だが矢張り不安で仕方が無い。
彼の好みを聞き出すことが出来ていないのが一番の原因だということは、分かっているのだが。
「男のひとってどういうのが好きなのでしょうか……あ! でも、ひとつだけ知ってます! 彼は大きな胸が好きなのです!」
ここでジェイソンは愕然たる表情を見せて立ち上がった。
「何と……巨乳好きのこんにゃくだと! こんにゃく型クリーパーもここまで進化したか!」
完全に、勘違いしていた。
流石にこれは拙いということで、月も加わってこんにゃくしゃの定義について説明の場が設けられたが、結局最後まで話が噛み合わず、この日シャロンの為に充てられていた相談の持ち時間は尽きてしまった。
しかしこのまま終わらせるのは気の毒だということで、ジェイソンは自分なりのヒントを口にした。
「基本的に男は、欲しいものは自分で手に入れるもんさ。だから逆に与えられるものには、結構無頓着な奴が多い。つまり、贈り物は何だって嬉しいと感じる筈だ。それが好きな相手からならな」
だが結局こんにゃくの誤解は、最後まで解かれることはなかった。
酒蔵から上がってきたネーヴェはシャロンを気の毒に思った様で、月と一緒にキッチンへと向かった。ジェイソンのキッチンは作り置きの美味い料理が多めに貯蔵されており、相談客は自由に飲み食いして良いとのことであった。
卑華王はこの日来訪した相談客の資料を纏める為に別室へと引き退がり、カウンセリングルームにはジェイソンとコルネリウスのふたりだけとなった。
と、ここでコルネリウスは漸く自分の為の時間を得たとして、ジェイソンに相談があると呼びかけた。
「実はその……吸引愛が止まらないことが悩みといえば悩みでして……」
なるべく周囲には知られたくない。いずれバレる日が来るかも知れないが、矢張り気恥ずかしい。もしこの趣味が大々的に知れ渡ったら、どうすれば良いのだろうか。
「愛ある行動は、自信を持って良いのでしょうか……?」
「寧ろ自信を持って愛を示さなければ、全ての吸引趣味同志への冒涜になると思うべきだな」
堂々と胸を張り、吸いフェチもまた自分の一部だと主張するが良い、とジェイソンは告げた。少なくとも彼が知る限りでは、重兵3番隊員はコルネリウスの趣味に異を唱えたり、ドン引きする様な輩はひとりも居ないという認識だった。
逆にコルネリウスは驚いた。ジェイソンがそんなことまで知っていたとは。
「俺はかつて青薔薇に所属していた男だ。諜報力はそこらのシーフなんぞよりも格段に上だぞ」
尤も彼は芸術家然とした青薔薇の雰囲気が嫌で組織を飛び出し、ロモズ歩兵団に籍を変えたという経緯があるらしいのだが。
「気にすることはない。愛猫、愛馬、小鳥、花、そして彼氏……存分に吸うが良いさ。大体、俺が今まで出会ってきた女は多かれ少なかれ、大体皆吸いフェチだった」
物凄い暴論が飛び出してきた。が、ジェイソンの知るところ、団長たるリーヴァーにも相当な吸いフェチ趣味があるらしいとのこと。これには流石にコルネリウスも目を見張った。
「だから堂々とすれば良い、壁ドン少女」
「いえ、壁エルフです」
その後キッチンではネーヴェ、月、シャロン、コルネリウス、卑華王、ジェイソンが集まって肉料理と旨い酒での小さな宴会が催された。リディリディを呼ばなかったのは全部喰い尽くされる恐れがあるというジェイソンの危機管理から下された決断であった。
「驚きました……こちらで所蔵されているお酒はどれも美味しい逸品ばかりなのですね」
「さっきは恋愛相談だから酒云々で話をまとめたが、俺が君に対して本当にお勧めしたいのは」
近海マグロ漁で一発当てる道だという。ネーヴェにはその資質があるとジェイソンは力一杯シャウトした。
漁師愛がとてもお似合いだ、と。
しんしんと雪が降り積もるカルケルーア・ロモズ。
心が洗われる様な純白の銀世界の中にあって、南集落の一角に陣取る、丸太組み大邸宅の圧倒的存在感は少しばかり異様だった。
ジェイソン・ジュピターはこの邸宅をロック・ザ・プリンセスと呼称し、無料恋愛相談所として応接室や幾つかの個室を開放した。
通称プリンセス相談所(と呼ぶにはあまりにいかつい外観の邸宅だが)は、開設初日からそこそこの人出で賑わう様になっていた。
カウンセリングルームに充てられた応接室に、リディリディ・トゥラ・イェレミースの姿があった。
暖炉でよく暖められた室内には大きなソファーと応接卓が程良い位置関係で並んでいる。
黒いオールバック、黒い口髭、真っ白なタンクトップに綿のロングパンツという季節感ガン無視のジェイソンに対し、リディリディは清楚なワンピース姿でソファーに腰を下ろしていた。
しばしの歓談の後、ジェイソンは左右に首を巡らせ、助手達にリディリディの平素の振る舞いや言動について問いかけた。
左側には黄色い肌、赤いほっぺ、つぶらな瞳のマッチョマン卑華王。
そして右側には何故かラフな音楽家然とした格好のコルネリウス・アーラ。卑華王が自慢の筋肉剥き出しで半裸なのはいつものことだが、コルネリウスはジェイソンのお手伝いとして自ら志願したところ、彼の指示で今の様な服装に身を包み、この場に同席することになった。
リディリディは、妙だ、と内心で訝しがる。こんな筈ではない。
「あの……先程、いいました、よね? 今回ご相談させて頂くことは他言無用にお願いします、と……特に、他のロモズ歩兵団員には絶対、バラさないで下さいね、と」
「君の気持も分からないでもないが、生憎俺自身が重兵20番隊に新しく赴任したばかりの隊長なんでな。その申し入れは最初から不可能だ。諦めてくれたまえ」
驚くべきひと言が返ってきた。が、それ以前に、秘密だ何だといいながら堂々とプリンセス相談所に足を運んだ時点で、リディリディが恋愛相談を抱えているらしい事情は近隣住民にしっかりバレしまっている。
何とも面妖奇怪な言行不一致だ。ジェイソンはリディリディが天然なのか、或いは『押すなよ! 絶対押すなよ!』の精神の持ち主なのかを測りかねた。そこで助手達にリディリディの平素の振る舞い及び言動を尋ねた、という訳だ。
「難しいですね。どちらも、リディリディさんの十八番ですし」
「ヴィッハ」
コルネリウスも卑華王も、即答しかねる難事。リディリディ、罪な女である。
だが、最早これ以上は不毛だ。リディリディは気持ちを切り替え、何故自分には恋人が居ないのか、年頃の娘なのだから彼氏が居ても良いんじゃないかと呪詛か怨嗟かよく分からない台詞を並べ始めた。
特段選り好みもしないが、強いて挙げるなら時間的な価値観が共有し易いエルフが希望で、顔もある程度(とかいいながら後で示した条件は超イケメンだったという事実はここでは措く)整っていて、冒険者ではなく、料理上手で、しかも下戸ではない方が良いとの由。
ここでコルネリウスと卑華王は考える。選り好み、とは何か。まるで深淵なる闇を覗いた気分だったが、ジェイソンは尤もらしい顔で頷いている。本当にちゃんと分かっているのだろうか。
「私に何故恋人というものが居ないのでしょうか? 理由が知りたいのです」
幽界樹のてっぺんよりも高いそのハードルでは、彼氏なんて普通出来ませんよ――コルネリウスは危うく喉まで出かかったひと言を必死の形相で呑み込んだ。
ここでジェイソンがパチンと指を鳴らす。すると卑華王は、妙な物を取り出した。干し肉だけで組み上げた一着のワンピースだった。
「肉欲を極めるんだ。そうすれば次なるステップ……恋愛への道が開けるってモンだ」
ごく自然に考えればおかしな話だが、普通肉欲といえば性的な肉体欲を意味する筈だ。しかしここでは肉食への欲望を意味するということを、この場の誰もが瞬時に理解した。
「今日からリディー・GAGAと名乗ることをお勧めするぜ。究極の肉欲を追求し自分を磨くんだ」
そうすれば男なんて自然に寄ってくるもんさ――ほとんど暴論に近しい台詞をジェイソンはしれっといい放った。
常人ならあり得ない。信じない。だがリディリディは素直に信じてしまった。恐らくこの時、リディリディの意識の中からは恋人とか彼氏とか恋愛とかは一切霧散し、目の前の干し肉が美味そうだという肉欲マインドに支配されていたに違いない。
●鷲掴み理論
変な方向に誘導されたリディリディが心配になって、コルネリウスは干し肉ワンピース姿の彼女をロモズ歩兵団の宿舎まで送ってゆくことにした。
その間、新たな来客が現れる。次に姿を見せたのはネーヴェ・グラヌローザだった。
「あの、恋愛相談を受けていると伺いました。聞いて、頂けますか?」
ソファーに腰かけるなり、ネーヴェは大切なひとが居ると打ち明けた。
ネーヴェの想い人は徹底した合理主義者で、最善手だと判断すれば手段を選ばぬ決断力の持ち主。ある局面では非情に映るかも知れないが、ネーヴェ自身は必要な視点だと割り切り、同時に尊敬もしている。
問題は、女癖だった。仕事や任務で色街に出入りすることが決して少なくない人物なのだという。
「他の女性と至近距離で会話なさったり触れたりされるのは、その……嫌、なんです」
嫉妬だということは分かっている。
だが原因はもっと根本的な部分に根差している、とネーヴェは自己分析してみた。己に自信が無く、彼女の想い人にとってネーヴェは居ない方が良いのでは、とも思う。
「ですから、お伺いしたいのです。どうしたら、女としての自信が具わるでしょうか?」
更にそこから転じて、男性目線からの魅力的な女性像とは、如何なるものか。
ネーヴェの悩みは切実だった。
「ある種の男は胃袋か肝臓を鷲掴みにすれば良い。俺の周りにもそういう輩は大勢居るもんだ」
例えば酒好きの男なら、他の女性では供せない美味い酒をいつでも出せるスペシャリストになれば、大体最後には帰ってくる、ということらしい。矢張りこの女でなければ駄目だ、と思わせれば勝ちだ。
ネーヴェの想い人は、結構な酒好きなんじゃないのかとジェイソンは探る様に訊いた。
確かに、そうかも知れない。
と、ここでジェイソンはもうひとりの来客を招き入れた。彼女の名は、月。事前に提出して貰った身上書によれば、月は何故か女だらけの村出身で、背に腹は代えられず村外に婿を探しに出た、ということらしい。
「いやぁ、どうもどうも……あれ? ここって合同相談会の形式?」
卑華王に案内されて入室してきた月は、不思議そうにネーヴェとジェイソンを見比べる。が、卑華王を見る眼差しは少しばかり色合いが違った。
「ふむふむ……やっぱ卑華王さんは、中々パンチの効いたルックスだねー。あははは」
「ヴィィィィハァァァァァ」
卑華王が何故か陰鬱とした地獄兄貴の如き眼光を煌めかせるが、月はまるで気にもせず、ジェイソンに勧められるままにソファーへと腰を下ろした。仕草のひとつひとつが妙にエロチックだ。
ひと息入れたところでジェイソンが悩みは何かと訊いた。月は、出会いの無さが悩みだと答えた。
既に想い人と出会っているネーヴェなどは、月から見れば贅沢の部類に入るのかも知れない。とはいえ、長命種の為に時間感覚が少々狂っており、然程に焦っていない様にも見える。
「何か冒険者って女の子が多い気がするんだけど、どの辺行ったら男の子居るの?」
「俺も前から謎だった。やたら女子が多いのは何なんだろうな」
それは兎も角、とジェイソンは無理矢理話題を変えた。彼は月の料理技術について問いかけた。
「おばあちゃんはいっていた……何かねー、メシマズは恋愛に不利なんだってー。あははは」
別に祖母の知恵でも何でもなく、普通に男が寄り付かんだろう、とはジェイソンの弁。ちなみに月の場合は雑なタイプのメシマズらしい。火加減、仕込み、味付けが全てが適当なのだという。
ここでネーヴェは月が招き入れられた理由を漸く理解した。ジェイソンが指摘する、胃袋もしくは肝臓を掴む技量の無いふたりが、この場に揃ったことになる訳だ。
「しかしな、酒も料理も結局は一緒に居る為の切欠、方便に過ぎないってもんさ」
要は相手の好きなものを供することで一緒に過ごす時間を増やせ、というのがジェイソン理論らしい。同じ席で酒や料理を楽しみ、その空気感を心地良いと思わせることが重要だとジェイソンは力説する。
他の物でも構わない。兎に角相手の好みの何かを自在に供することで、自身の手元に釘付けにする技を身に付けるべし。
「成程……例えばジェイソンさんなら何がお好みなのですか?」
「俺は音楽だ。それも最高にロックなやつだ」
●愛を語る
シャロン・ラ・モリエールが卑華王に案内されてカウンセリングルームに姿を見せると、月が壁際の木椅子から手を振った。まさかこんなところで顔を合わせることになろうとは、シャロンも流石に予想外だった。
尚、ネーヴェは引き返してきたコルネリウスと一緒になって、地下の酒蔵へと降りている。
もっといえば、このプリンセス相談所地下にはワインセラーやウィスキー醸造所なども併設されており、恋愛相談よりも居酒屋を開いた方が儲かるんじゃないかとさえ思わせる程の謎っぷりだった。
シャロンの到着が遅れたのは、カルケルーア・ロモズ内を散策していたからだ。ロモズ歩兵団の本拠地ということでどんなものかと色々見て廻っていたのだが、別段観光地という訳でもない為、これはという様な物珍しいものは何も無かった。
強いていえば、途中でロモズ歩兵団長リーヴァー・シュランドル帝国子爵とばったり顔を合わせ、軽く自己紹介するに至ったという程度であった。
「私にはこんにゃくしゃがいるのですが……」
シャロンのいう婚約者とはどの様な存在なのか。表現も微妙なら、定義もいささか怪しかった。
どうやらドゥジンシとか恋愛小説がソースらしく、現実よりも幾分ドリーミーな味わいの様だ。
「彼は優しくていつも私に気を遣ってくれるんですけど、つい甘え過ぎてしまって、良いのかなぁって……」
いいながらシャロンは、黒い毛糸で編んだセーターを取り出した。
「聖霊節の贈り物にこのセーターを編んでいるのですが、これは私が編み物が得意だからであって、彼が欲しがっているからではないのです。独りよがりだったら悲しいなと思って……誘えば乗ってくれたり、いろいろ合わせてくれるけど、あちらの好きなことやしたいことが出来ているのかが分からなくて……」
シャロンとしては、これが似合うと思っている。だが矢張り不安で仕方が無い。
彼の好みを聞き出すことが出来ていないのが一番の原因だということは、分かっているのだが。
「男のひとってどういうのが好きなのでしょうか……あ! でも、ひとつだけ知ってます! 彼は大きな胸が好きなのです!」
ここでジェイソンは愕然たる表情を見せて立ち上がった。
「何と……巨乳好きのこんにゃくだと! こんにゃく型クリーパーもここまで進化したか!」
完全に、勘違いしていた。
流石にこれは拙いということで、月も加わってこんにゃくしゃの定義について説明の場が設けられたが、結局最後まで話が噛み合わず、この日シャロンの為に充てられていた相談の持ち時間は尽きてしまった。
しかしこのまま終わらせるのは気の毒だということで、ジェイソンは自分なりのヒントを口にした。
「基本的に男は、欲しいものは自分で手に入れるもんさ。だから逆に与えられるものには、結構無頓着な奴が多い。つまり、贈り物は何だって嬉しいと感じる筈だ。それが好きな相手からならな」
だが結局こんにゃくの誤解は、最後まで解かれることはなかった。
酒蔵から上がってきたネーヴェはシャロンを気の毒に思った様で、月と一緒にキッチンへと向かった。ジェイソンのキッチンは作り置きの美味い料理が多めに貯蔵されており、相談客は自由に飲み食いして良いとのことであった。
卑華王はこの日来訪した相談客の資料を纏める為に別室へと引き退がり、カウンセリングルームにはジェイソンとコルネリウスのふたりだけとなった。
と、ここでコルネリウスは漸く自分の為の時間を得たとして、ジェイソンに相談があると呼びかけた。
「実はその……吸引愛が止まらないことが悩みといえば悩みでして……」
なるべく周囲には知られたくない。いずれバレる日が来るかも知れないが、矢張り気恥ずかしい。もしこの趣味が大々的に知れ渡ったら、どうすれば良いのだろうか。
「愛ある行動は、自信を持って良いのでしょうか……?」
「寧ろ自信を持って愛を示さなければ、全ての吸引趣味同志への冒涜になると思うべきだな」
堂々と胸を張り、吸いフェチもまた自分の一部だと主張するが良い、とジェイソンは告げた。少なくとも彼が知る限りでは、重兵3番隊員はコルネリウスの趣味に異を唱えたり、ドン引きする様な輩はひとりも居ないという認識だった。
逆にコルネリウスは驚いた。ジェイソンがそんなことまで知っていたとは。
「俺はかつて青薔薇に所属していた男だ。諜報力はそこらのシーフなんぞよりも格段に上だぞ」
尤も彼は芸術家然とした青薔薇の雰囲気が嫌で組織を飛び出し、ロモズ歩兵団に籍を変えたという経緯があるらしいのだが。
「気にすることはない。愛猫、愛馬、小鳥、花、そして彼氏……存分に吸うが良いさ。大体、俺が今まで出会ってきた女は多かれ少なかれ、大体皆吸いフェチだった」
物凄い暴論が飛び出してきた。が、ジェイソンの知るところ、団長たるリーヴァーにも相当な吸いフェチ趣味があるらしいとのこと。これには流石にコルネリウスも目を見張った。
「だから堂々とすれば良い、壁ドン少女」
「いえ、壁エルフです」
その後キッチンではネーヴェ、月、シャロン、コルネリウス、卑華王、ジェイソンが集まって肉料理と旨い酒での小さな宴会が催された。リディリディを呼ばなかったのは全部喰い尽くされる恐れがあるというジェイソンの危機管理から下された決断であった。
「驚きました……こちらで所蔵されているお酒はどれも美味しい逸品ばかりなのですね」
「さっきは恋愛相談だから酒云々で話をまとめたが、俺が君に対して本当にお勧めしたいのは」
近海マグロ漁で一発当てる道だという。ネーヴェにはその資質があるとジェイソンは力一杯シャウトした。
漁師愛がとてもお似合いだ、と。
マスターコメント
ご参加ありがとうございました。
思ったほどコメディにもならず、然程カオスにもなりませんでした。
それでも迷える愛の子羊に何らかの指針を示すことが出来たならば幸いです。
ショートシナリオ易しい 報酬:少ない5 / 4〜8人
2021年12月16日 12時25分09秒 公開
大成功
参加者
コルネリウス・アーラ
- イェレミース トゥラ リディリディ
シャロン・ラ・モリエール
ネーヴェ・グラヌローザ
月
相談掲示板
遅ればせながら、シャロンです! よろしくお願いします! シビアな状況ですが、悩み相談する予定です。