【聖祭】ドゥジン信徒、狂乱す
眞石ユキヒロ
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シナリオID:1660
オープニング
●闇色の夢を見た
始まりは金色のキャンドルだった。蝶の模様が入った神秘的なそれに火を付けたのが、この悪夢の始まりだった。
「いらっしゃいませ、冒険者の皆様。夢の時間の始まりデスよ~」
足場とでも呼ぶべき場所には、水の上にオイルを流したようなまだらな虹色が広がっている。天井とでも呼ぶべき高い場所にも、同様に。
どこまでも明るい空間の中で、多種多様な亜人たちの中心にその女は立っていた。
「私は冒険者ギルド職員であり、敬虔なドゥジン信徒のライリー・ベルと申します」
辺境都市群のギルド職員が、なぜ亜人たちの中心に立っているのか。
「ところで皆様はドゥジン信徒でしょうか?」
冒険者たちの動揺を気にも留めず、ライリーは恍惚の笑みで尋ねた。
「違うようですね」
先ほどの質問からこの結論までコンマ一秒以下。冒険者たちの返答を待たずに、ライリーは勝手に結論づけた。
「では亜人たち、アレを始めましょう」
ライリーの言葉に、亜人たちが色めき立つ。
「さん、はいっ!」
ライリーが指揮棒を振るうように片腕を動かすと、男性型の亜人は「ヤラナイカ!」、女性型の亜人は「キマシタワ!」と叫び始めた。
冒険者たちは混乱の極みに達したが、ライリーは腕を下ろし、うっとりと目を細めて説明を開始した。
「皆さんが隣接しない限りは、この神聖なる言葉は何の効果も発揮しません! しかし、隣接した状態で三回ほど耳にしたら……どうなるでしょうかねぇ? にゅふふ!」
さすがは夢の中。人の話を聞かないわりに、妙なところで親切だ。亜人たちの聖なる合唱に負けじと、声を張って説明してくる。
「ちなみに亜人たちは一撃で倒れます! 倒れたら……どうなるでしょうかねぇ? ぐふふ~!」
上気した頬に両手を添えて、ライリーはさらに親切な説明を続けた。
「布教は亜人たちに任せて、私はここから動かずささやかな妄想に浸ります! 聞きたければお好きにどうぞ! では皆様、良きドゥジン信仰ライフを!」
冒険者たちに大きく手を振ってから、両手をだらりとおろしてライリーは俯いた。口元が動いているが、何を言っているかは冒険者たちには聞き取れなかった。
「ヤラナイカ!」
「キマシタワ!」
ただただ、亜人たちの聖なる合唱が響くだけで。
始まりは金色のキャンドルだった。蝶の模様が入った神秘的なそれに火を付けたのが、この悪夢の始まりだった。
「いらっしゃいませ、冒険者の皆様。夢の時間の始まりデスよ~」
足場とでも呼ぶべき場所には、水の上にオイルを流したようなまだらな虹色が広がっている。天井とでも呼ぶべき高い場所にも、同様に。
どこまでも明るい空間の中で、多種多様な亜人たちの中心にその女は立っていた。
「私は冒険者ギルド職員であり、敬虔なドゥジン信徒のライリー・ベルと申します」
辺境都市群のギルド職員が、なぜ亜人たちの中心に立っているのか。
「ところで皆様はドゥジン信徒でしょうか?」
冒険者たちの動揺を気にも留めず、ライリーは恍惚の笑みで尋ねた。
「違うようですね」
先ほどの質問からこの結論までコンマ一秒以下。冒険者たちの返答を待たずに、ライリーは勝手に結論づけた。
「では亜人たち、アレを始めましょう」
ライリーの言葉に、亜人たちが色めき立つ。
「さん、はいっ!」
ライリーが指揮棒を振るうように片腕を動かすと、男性型の亜人は「ヤラナイカ!」、女性型の亜人は「キマシタワ!」と叫び始めた。
冒険者たちは混乱の極みに達したが、ライリーは腕を下ろし、うっとりと目を細めて説明を開始した。
「皆さんが隣接しない限りは、この神聖なる言葉は何の効果も発揮しません! しかし、隣接した状態で三回ほど耳にしたら……どうなるでしょうかねぇ? にゅふふ!」
さすがは夢の中。人の話を聞かないわりに、妙なところで親切だ。亜人たちの聖なる合唱に負けじと、声を張って説明してくる。
「ちなみに亜人たちは一撃で倒れます! 倒れたら……どうなるでしょうかねぇ? ぐふふ~!」
上気した頬に両手を添えて、ライリーはさらに親切な説明を続けた。
「布教は亜人たちに任せて、私はここから動かずささやかな妄想に浸ります! 聞きたければお好きにどうぞ! では皆様、良きドゥジン信仰ライフを!」
冒険者たちに大きく手を振ってから、両手をだらりとおろしてライリーは俯いた。口元が動いているが、何を言っているかは冒険者たちには聞き取れなかった。
「ヤラナイカ!」
「キマシタワ!」
ただただ、亜人たちの聖なる合唱が響くだけで。
解説
●目標
夢を楽しみましょう!
みんなが楽しく過ごせればOKです!
●敵情報
・ライリー・ベル
洗の……布教には参加せず、何かをつぶやき続けます。彼女が亜人と隣接していないときに隣接すれば内容を聞けます。
話しかけてもまともな返答はありません。攻撃を食らわせることもできませんし、何らかの方法で倒してもドロップもないです。
夢の終了(20ラウンド経過)と共に魂の叫びを解放します。
・配下の亜人たち
男性型はコボルト、オーク、オーガ、トロル、ジャイアント、ヴァンパイア。
女性型はケンタウロス、マーメイド、スキュラ、ラミア、アルラウネ、アラクネ。
以上の種族がそれぞれ一体ずついます。
夢なのでどの個体もダメージを1以上与えれば倒せます。回避判定はないです。
倒すと「その種族を題材にしたドゥジンシ」を落とします。持ち帰れませんので、読みたい場合はその場でどうぞ!
読んでもらうこと自体も布教の一環であるため、読んでいる間は亜人たちは鳴き声を浴びせてきません。
男性型は「ヤラナイカ」、女性型は「キマシタワ」と鳴きます。
PCが隣接しない限り移動しません。PCが一度でも隣接すると追いかけて鳴き声を浴びせてきます。
隣接中に浴びせられた鳴き声でダメージは発生しませんが、攻撃として処理されます。
PCが隣接中に累積3回鳴き声を浴びせられると、このシナリオ限定のBS「妄想全開」になります。
「妄想全開」状態になると3ラウンド中、敬虔なドゥジン信徒となり、ドゥジン信徒としての言動しかとれなくなります。
その間に鳴き声を浴びても強度は累積しません。BS解除スキルは効きます。
プレイングに「妄想全開」状態での言動の指定がなかった場合は、喰らった回数が多い方の鳴き声だけを喋り続けます。
(例:「ヤラナイカ」2回、「キマシタワ」1回なら「ヤラナイカ」だけを言い続けます)
●NPC
・ライリー・ベル
辺境都市群の冒険者ギルド職員かつドゥジン信徒。
亜人や魔獣のハーレム以外のすべてのLを許容する。
リプレイ中は、PCが独り言を聞きに行かない限りは空気。最後にちょっとだけ本物が出るかもしれません。
●状況
夢の中です。見通しは非常に良いです。20ラウンド経過で強制的に夢が終わります。
亜人たちは横一列に並んでいて、真ん中にライリーがいます。
マスターより
冒険者の皆さん、メリーユールフェス! 眞石ユキヒロです。
OPにお目通しいただきありがとうございます!
今回は夢にふさわしい(?)カオスな内容となっております。
皆さんにもこのカオスな夢を楽しんでいただけたら嬉しいです!
質問があれば冒頭に【質問】と書いて相談卓に投稿すればライリー(夢の方)が答えられる範囲で答えます。
リプレイ
●
辺境都市群ギルド内の一室に、リザードマンが乗っても大丈夫! なベッドが六つある。その中央にはキャンドル立てが置かれた小さなテーブルがある。
今回の依頼で使う黄金のキャンドルはライリー・ベルの枕元に置かれていたものだ。
「黄金キャンドルの情報は聞き及んでますわ。心の準備も出来ました……いざ!」
穏やかな雰囲気を纏ったヒューマンの女性、サシャ・テーリングは急いで靴を脱ぎ、ベッドに横たわった。
「さて、これを……」
東方風の衣装を纏うヒューマンの少女、東雲・更紗は枕の下に何かを入れてから、いそいそとベッドに潜り込んだ。
「お前さん、一体何を?」
更紗の同行者である屈強なヒューマンの男性、ブレイドはそわそわする更紗を横目に筋肉質の身体をベッドに預けた。
「ワタシの準備は整ったアルよ」
ホルスタインのハーフビースト、牛・奶はすでにベッドの上で目を閉じて……多分閉じているのだと思う。糸目ゆえ判別しづらいが、本人が準備は整ったと言ったのだからそうなのだろう。
「それにしても奇妙なキャンドルだよね」
ボロボロのマントを纏ったヒューマンの壮年、サロもすでに目を閉じ、火が灯るのを待っている。
「どんな夢が待ってるんだか」
赤い鱗を持つリザードマンの男性、サイラスもその巨躯をベッドに収めて瞼を下ろした。
ライリーがキャンドルに火を灯し、急いで部屋から出る。人を眠りへ誘うエーテルが溢れて部屋を満たしていく。冒険者たちは眠りに落ちる。
部屋を出た三徹のライリーも、キャンドルとは無関係に眠りに落ちた。
●
冒険者たちの意識が、夢の中で目覚めた。
奇妙な空間だ。足場には水の上にオイルを流したようなまだらな虹色が広がっている。天井にも同様に。
「何だこの空間はぁ!? 質の悪い安酒で酔いつぶれたときの光景に似てないこともないが……」
驚きを隠さず、ブレイドが叫んだ。空間はどこまでも広がっている。
「あちらこちらも虹色でなんとも不可思議な場所と思えば、あそこにいるのはライリーさんではないですか」
更紗は見知った顔を見つける。しかしそれは安心の材料にはならなかった。
「哎呀、この状況は一体何アルか」
奶が眉根を寄せる。いるのはライリー? だけじゃない。
コボルト、オーク、オーガ、トロル、ジャイアント、ヴァンパイアといった男性型の亜人。
ケンタウロス、マーメイド、スキュラ、ラミア、アルラウネ、アラクネといった女性型の亜人。
それらがライリー? の横に並んでいる。
「亜人嫌いでは?」
サイラスの突っ込みを一切聞かず、ライリー? は「お前らドゥジン信徒じゃないだろう(要約)」とか言い始めた。
「ドゥジン、聞いたことあるよ。確かこう色々本や絵を書いてる連中だろう?」
サロが記憶を辿り、大体あってるドゥジンの知識を口にする。
その直後に男性型の亜人が「ヤラナイカ」、女性型の亜人が「キマシタワ」の合唱をはじめた。
ライリー? は必死に声を張って説明している。最終的に「あとは妄想に浸る(要約)」とか言って黙り込んでしまった。
亜人たちはその場から動かず合唱を続けている。
「夢ってより悪夢の時間だな、これは」
現実を超えた現状を目の当たりにしたブレイドが額に手を当て、顔をしかめた。
「つまりここは夢、ということでよいのですね。それはそれは……枕の下にドゥジンシを入れて寝るようにした甲斐がありましたね」
対照的に更紗はこの世界を光の速さで受け入れた。ライリー? がいることもあり、ドゥジン的ななにかが起こると殆ど確信している。
「お前さん、ドゥジンシを枕の下に入れてた……だと!?」
「ええ、屈強な殿方同士の絡みがめいんのものを少々……」
「腐ってやがる。(こんな有害図書に触れるのは)早すぎたんだ……」
更紗の今後を思い、ブレイドは手に力を込めてバンダナを歪めてしまった。
●
一方、ドゥジンの知識が薄い者たちは混乱していた。
「ヤラナイカはつまり殺らないかって意味だろう? キマシタワとはいったい……」
言葉を句切って、サロは考える。「気、増したわ」とかだったら、誰かへの殺意があるとみてよいかもしれない。男性型の亜人たちはあんなにヤル気満々なのだし。
奶も状況を理解できていない。とはいえ置いてけぼりにならないように、状況の整理を開始した。
「ライリーさんと周りにいる亜人さんはドゥジンとやらの信徒との事アル」
冒険者ギルドの中で「信徒が狂乱している」という話を聞いていた奶は、風聞と現状の乖離に疑問を抱きながらも整理を続けた。
「何かを三回ほど聞いちゃったらなんかなるとも言っていた気がするアルね、後は忘れちゃったアル」
整理したのに状況をほとんど把握できなかったが、なんとかなるだろうと一旦考えることをやめる。
「とりあえず亜人さんを倒せば終わりそうアル」
貰い物の錫杖を掲げ、奶がメテオライト2を放った。コボルト、オーク、ヴァンパイアに光の雨が降り注ぎ、三体は陽炎のように揺らめいて消失した。
それぞれの種族が表紙になった戦利品を落としてから。
「教本ではありませんか!?」
その光景を目の当たりにしたサシャは、一瞬にしてすべてを理解した。
倒した亜人はその種族を題材にした教本をドロップする。
そして同じように理解した更紗が口を開く。
「さてさて、様々な亜人(の本)が選り取り見取りですね。私はオーガやジャイアントなどガッチリしたのが気になりますけど、ブレイドさんはどのような趣向がお好みなのですか?」
頬を染めて目を細めて、恋する乙女のような表情で趣向を訪ねる同行者に、ブレイドはバンダナを直しながら答える。
「こんなヤバイ台詞を吐く連中に好みもへったくれもないと思うんだが……。いちおう半分くらいは人間のケンタウロスなりマーメイドでも仕留めてみるか。そうヒドイ絵面にはならんだろうしな」
●
(読むのはどのような内容でも好ましく受け入れますが、自分が関わるとなると男型に近寄ってほしくはありません)
「私……もしかして百合でしょうか?」
そんなことを呟きながら、サシャは宿り木の杖を両手で硬く握り、アルラウネに狙いを定め、駆けだした。一気に接近し、杖を大きく振りかぶる。
攻撃の直前に多方向から「キマシタワ」を浴びたが、アルラウネを仕留めることはできた。だが彼女は本を拾わない。それどころかオーガを狙いに行く更紗に向かっていく。アラクネ、ラミア、スキュラもそれに続いた。
「倒すのにも技と萌が必要と思いますの」
サシャは小首をかしげて微笑みながら、更紗の隣に立った。
「もっと脇を締めて、オーガをまっすぐに見据え「決して容赦はいたしません」と言ってみると、かわいらしさの中に凜々しさが生まれると思います」
言った通りのポーズをしたあとに、サシャは更紗の後ろに回り、ポーズの指導を開始した。
「なんだあれ」
意味不明の事態に固まるブレイドの代わりに、サイラスが率直な感想を口にする。
鳴き声を三回浴びると何かあるとは説明された。だがサイラスの目をもってしても、何が起こったのかは推察できなかった。
よって、目に映ったままを理解する。あの亜人たちにこちらへの敵意はない。依頼で殺せと言われたわけでもない。素材も落とさない。
倒す理由があるなら、それは本だ。
(トロルとかジャイアントとかの体格差とか習性とかどう表現するのかとか、医療知識とか、ダンジョンとか作りたかった頃の関係で気になるよね)
サイラスは竜花琴に矢をつがえた。つがえるだけで撃ちはしない。サシャに起こったことも理解できていないし、まだ少し様子を見ることにする。
●
「殺らないか」と言われたことだし、殺った方がいいのかもしれない。サシャの様子を見たサロはそう考えた。
ダマスカス鋼の弓を構え、素速くトロルを射貫いた。トロルが消え、本が現れる。
「あれ、読んだ方がいいのかな?」
ドロップしたドゥジンシの周りにはオーガとジャイアントがいる。鳴き声を浴びたサシャに何が起こったのかわからないうちは近寄らない方がいいと判断して、その場にとどまる。
さて、そのサシャの周りにはサシャの指導を受けている更紗と、サシャにべったりのアラクネ、ラミア、スキュラがいる。
「キマシタワ」
今のは亜人たちの声ではない、サシャについてきた亜人たちの鳴き声を浴びせられた更紗の声だ。
しかし亜人たちは更紗に悪さをする様子もない。ならば手薄になっているケンタウロスあたりを狙う方がいいのではないか。ブレイドはダマスカス鋼の剣を手にし、床? を蹴った。
鳴き声を浴びたがケンタウロスを仕留めることには成功した。本がドロップする。しかし読んでいる暇はない。隣にはマーメイドがいる。
そして背後にはサシャと更紗と、アラクネ、ラミア、スキュラがいた。
「ブレイド様、次の攻撃は急所をしっかりと見据えて、視線自体で敵を倒すような……こんな感じで」
さすがに相手が男性なので、ポーズを取るだけで直接触れての指導はしない。それでもブレイドの足を止めるには充分だった。
困惑するブレイドに、更紗と亜人たちの「キマシタワ」が襲いかかった。
更紗の「キマシタワ」には洗脳もとい布教の効果はないが、ブレイドには亜人たちのモノと同じ効果のある言葉に思えた。
「男は度胸! なんでも試してみるのさ!」
ブレイドは座り込み、ケンタウロスの本の表紙を開いた。
●
「雲行きが怪しくなってきた……ねっ!」
サロはサシャについて回るラミアを射止める。
「おれもそろそろはじめるぜー!」
竜花琴につがえたままの矢をギリギリまで引き絞り、サイラスはジャイアントを射殺した。さて、どのタイミングで読みに行けばいいやらと考えながらサイラスは次の矢を取り出す。
奶はなぜこんなことになっているのかを確かめるため、ライリー? に近づき、話しかけた。
「一体何が起こっているアルか?」
真っ当な問いに対して、ライリー? は斜め上の独り言を返した。
「亜人にも夜のマナズィールみたいな習慣ってあるのかな? 種族としての振る舞いを二人きりで手取り足取り腰取り……」
「夜のマナズィール? 何の話アルか?」
わかる人が聞けばセクハラだが、幸い奶にそっち系の知識がなかったため、意味不明の言葉として扱われるだけだった。
「「ハーレムの中での振る舞いってモノを貴女にたたき込んであげる」か。これが女と女の世界……」
女同士の諍いや友情、それを超える特別な感情。
それらを眺めているうちに、ブレイドの中に「これはいいものだ」という感情が芽生えはじめた。
●
サロはサシャと更紗について回る亜人を仕留めるべく狙いを定めていた。
過去形である。狙いの中心にサシャが入り込んできたのだ。
「敵の心も射貫くつもりで、どこか余裕も感じさせる笑みなど浮かべてみては!」
弓を引くポーズをしながら、優しくも哀愁漂う笑みを浮かべて。
サシャが来れば当然のようにスキュラとアラクネもついてくる。更紗もやってきた。マーメイドまでこちらに向かってきた。
「キマシタワ」
亜人たちの発する言葉を聞いた瞬間、サロは自分が倒したラミアの本に走り寄り、それを拾い上げた。
「どんなカップル本が出てきたとしてもオールOKだ。ドゥジンの名のもとすべてを愛そう」
一瞬にして強烈なドゥジン信徒と化した。その光景に、サイラスの頭の中にうっすら存在していた仮説が力を持つ。
「鳴き声を三回浴びると強制的にドゥジン的な言動をとらされるとか」
大当たりである。
「百合って言えばシグ×アカネとかも鉄板じゃない? 絶対可愛いと思うんだよ姫はじめしてくれないかなリアル姫だけに」
サロは指と尻尾を絡ませ合うラミアたちの愛情表現を眺めながら、著名人の名前を口にして具体的なことまで言い始めた。
サイラスとしては複雑な気持ちだが、サロも大変な目に遭っているということで聞かなかったことにしておく。
さて、自分はあの集団から逃げ回りつつオーガでも仕留めておくか。そんな風に考えていた。甘かった。
「わ、私は今までなんということを……。好みを押しつけてしまい申し訳ございません……好みは人それぞれ違うものですのにね」
このタイミングでサシャが正気に戻った。今までの行動を斜め上に反省したが、更紗もブレイドもサロもそれぞれに忙しく、誰も聞いてはいなかった。
「そうでした、アルラウネの教本を読みに行かなくては。それでは失礼します」
更紗とスキュラとアラクネとマーメイドが、サイラスに「キマシタワ」を浴びせようとした。
サイラスは逃げた。マーメイドからは逃れられた。けれど逃げた先にはオーガが……。
「ヤラナイカ」
ついにサイラスもドゥジン信徒と化した。
「せっかくだしお前の生態系とか、色々教えてくんない?」
サイラスは自分を狂わせたオーガのうなじに手をかけ、ゆっくりと顔を近づけた。
●
「ワタシにもわかるように状況を説明してほしいアル」
奶がライリー? を問い詰めている間も、ブレイドはケンタウロスの本を読んでいた。
「「これはハーレムの中での馴れ合いみたいなもの。こんなのは本当の愛ではないの!」か、……亜人のハーレムにも色々あるんだな」
濃厚な愛憎劇を読み終えたブレイドの瞳はどこか遠くを見つめていた。
一方、ラミアの濃厚接触本を読み終えたサロは、ジャイアントの本を開いた。
「征竜×ヒルルクの異種族もいいよね。バレたら脳天かち割られそうだが、このCPは流行るよ間違いない。征竜×レイウェストと共に一世を風靡してくれ」
別人が取り憑いたかのようなテンションの早口を繰り出しながら次々とページをめくっていく。
ほぼ全員が「妄想全開」になっている中、奶だけが正気を保っていた。
だが奶の背後に更紗とスキュラとアラクネが迫っていた。
「キマシタワ」
その言葉を発した直後に、更紗も正気を取り戻した。
「私、さっきまで「キマシタワ」しか喋っていませんでしたよね……?」
誰も何も返答しない。他はドゥジンシを読んでいるかオーガに迫っているかライリーに詳細を聞こうと頑張っているからだ。
ん? オーガに迫っている?
「屈強な殿方とガッチリした亜人があんなに近寄って……」
更紗は一人と一体をもっと近くで見るために、奶の後ろから走り去った。
直後にスキュラとアラクネは「キマシタワ」を合唱した。
「!? ドゥジンシを読むアル!」
奶が一八〇度の見事な方向転換をキメる。
「なら、これでも読んでみたらどうだ。なかなかよかったぞ」
立ち上がったブレイドが、ケンタウロスの百合本を良いモノとして渡した。百パーセント善意だ。
ここで大切なことを説明する必要がある。
奶は育ちの都合上、半身が人でもケンタウロスは馬として見てしまう。更に言うと奶は牧場育ちで、牧場では馬が飼われていることも多い。
あとは……わかってほしい。
「これはどういうことアル! ドゥジン信徒は邪教徒アルか!?」
眉間には皺が寄っているし、錫杖を握る手には不必要なまでに力がこもっている。
奶は激怒した。倒さねばならない、こんなものを布教する邪教徒どもは。
そんな修羅場の遠くで、別の修羅場も展開されている。
「なぁ、もっとよく見せてくれよ。色々理解してリアリティを出したいんだ」
サイラスがオーガにキスしそうなほど顔を近づけている。その横では更紗が栗色の瞳を爛々と輝かせていた。
●
「邪教徒を殲滅するアル!」
スキュラとアラクネにメテオライト2が降り注いだ。
その瞬間、光の中にいたブレイドが正気を取り戻した。
「……アレ? 自分こんなキャラだったっけ……」
呟くような言葉も光の雨にかき消された。まあ夢だしいいか。
サロはコボルトの本を読みながら、更にテンションを上げている。
「あ、ヤコブ×蟻人でもいいよ! 絶対可愛いと思うんだよね」
小さな身体のコボルトたちが鉱石を採取しながら友情を深める健全な本だというのに。
「健気にも数千体の1体ずつ手作りで作り続けるヤコブにそっと蟻の三つを差し入れたりするのがきっかけで育まれる青春物とかいいよね」
ドゥジン信徒としてのポテンシャルが異常に高い。どこから出るのだろう、この具体的かつ多様性に富んだ妄想たちは。
そして純然たるドゥジン信徒のサシャは漸くお目当ての本にありついた。
「これは少年兵と熟練兵がアルラウネの蔓に捕らわれ、毒で翻弄される教本……!」
自由を奪われ、苦しめられる少年兵と熟練兵。二人の苦しむ表情はまさしくサシャが望んでいたモノ。
「つ、ついに二人が一線を超え……! こ、これは戦いで息切れしただけで興奮してる訳では無いですわ!」
瞳をギラつかせ、荒い息を吐く。一線を越えるシーンは文字で描写できないが、サシャがここまで興奮するということは相当なモノなのだろう。
サイラスはオーガに迫り続ける。壁がないためじりじりと後退されるのが更紗にとってももどかしい。
「おれじゃ、ダメかよ?」
ため息交じりに放たれたサイラスの言葉に、オーガはわずかな動揺を見せた。
「ヤ、ヤラナ……」
その瞬間に奶が錫杖でオーガに殴りかかった。オーガだったモノは消え、本だけが残った。サイラスは放心した。聞きたかった言葉はもう二度と聞けない。更紗も肩を落とした。
すべての亜人を殲滅した奶はライリー? に詰め寄り、吠えた。
「ライリーさん! あの邪教徒たちは一体何アルか!?」
「一対一が主流の亜人ってジャイアントあたりかな?」
もちろんライリーは真っ当な答えなど返さない。
●
ブレイドは更紗に誘われ、一緒にオーガの本を読んだ。
紙面には激しい殺し愛が描かれている。刃を交える度に、血を流す度に愛は深まっていく。
「突然、ぺーじが真っ黒になってしまいました……」
「自分には色々見えているんだが。おそらく年齢制限ってヤツだろうな」
サロも正気を取り戻した。けれど頭に沸いた不思議な言葉はまだこびりついたままだ。
「夜のマナズィールとはいったい……」
サシャは速やかにアラクネの本を読む。特殊な趣向に目覚めたアラクネが舞台装置として活躍している。
「少年兵と熟練兵がアラクネの糸で操られるまま一線を……!」
荒い息は当分収まりそうにない。
サイラスも正気を取り戻した。
「……生きてる亜人をあんな近くでじっくり観察できる機会なんてそうそうないよな」
己の言動は振り返らない。本の全制覇に向かおう。
まずはトロルだ。解説書とでも呼ぶべき内容で、住処や身体機能についても詳細に描写されている。
「どんだけ傷つけられても再生とかエグいなー」
ちなみに繁殖形態についてはほとんどわかっていないらしい。
●
獲物が被った更紗、サイラスはジャイアントの本を二人で読む。
とあるジャイアントが他種族の亜人に恋をするが、相手は寿命で亡くなり自分は生き残ってしまうという話だ。
「長命種故の悲恋……儚い愛ですね……」
「種族ごとの食料の違いの描写に気合いが入ってんな」
サロは頭に沸いた言葉について考えながら、なんとなくオークの本に手を伸ばしてしまった。オークたちが女騎士を……する王道の本だ。
「モブって何? 幽界樹×エフレム、月蟲×アシムベートとはいったい……」
奶も正気を取り戻した。気持ちは落ち着いたけれど、行動はほとんど変わらない。
「ライリーさん、亜人さんたちは倒したけれど、あとはどうすればいいアルか?」
「コボルト×ジャイアントみたいな無茶振り、わりと好きなんだけど」
ライリー? の独り言に付き合うというか、付き合わされるというか。
サシャは男に直接触れずにすんだことに安堵しながら、ヴァンパイアの本に手を伸ばした。
「好きになった人間の生殺与奪の権を握り、眷属にするなんて……!」
息が整う気配は一切無い。
サイラスがスキュラの本に手を伸ばす。下半身の動物同士のまぐわいと、上半身の清らかな百合。
「下半身の動物は一個の生命体みたいに繋がってるって感じなんだなー」
意味深にも聞こえる。
更紗とブレイドはマーメイドの本にとりかかる。
「はーれむ同士の縄張り争い……競い合う中で芽生える愛、ですか……」
「同じ女同士でも、ケンタウロスたちとは大違いだな」
●
「造形の参考になりそうなところが結構あってよかったぜ」
「お腹いっぱい、といった気分ですわ!」
サイラス、サシャが満足したところで、天と地の虹色がぐにゃりと歪んだ。
俯いて独り言を続けていたライリー? が冒険者たちを見渡し、叫ぶ。
「皆様ぁ! ここで抱いた欲望を手放さないようお願いします! サラダバー!」
奶が首をかしげた瞬間、全員の意識が夢から抜け出した。
●
そして目を覚ます。サイラスは夢の中での言動や、亜人やドゥジンシの内容を急いでメモした。
「押し付けて申し訳ございません……好みは人其々違うものですのにね」
サシャは更紗、ブレイド、サロに自分の好みを押しつけたことを謝罪した。三人ともそれほど気にしておらず、特にとがめられることもなかった。
部屋の前で爆睡し、先輩に叱られしおしおのライリーが部屋に入ってくる。
「あんたが亜人を従えてる夢を見たぜ」
サイラスが手短に報告する。ライリーが半目になった。
「夢の中で迄、布教されるとはライリー様は信徒の鏡ですわ」
まだ目がぎらついているサシャが賛辞を送る。ライリーの顔がにやける。ちょろい。
「信徒が狂乱しているというのはなんだったアルか」
それはライリー自身のことだ。けれど話をややこしくしたくないので黙っておく。
「それにしてもすごい夢だったよね。ドゥジンに触れたいような、そうでもないような……」
サロが疲れた表情のまま身体を起こした。
「私は今すぐにでも触れたいです! せっかくですから全員でドゥジン礼拝に……」
爛々と輝く瞳で更紗が提案する。
「自分は遠慮しておく……」
サシャとライリー以外はブレイドの意見に賛成、といった感じだった。
辺境都市群ギルド内の一室に、リザードマンが乗っても大丈夫! なベッドが六つある。その中央にはキャンドル立てが置かれた小さなテーブルがある。
今回の依頼で使う黄金のキャンドルはライリー・ベルの枕元に置かれていたものだ。
「黄金キャンドルの情報は聞き及んでますわ。心の準備も出来ました……いざ!」
穏やかな雰囲気を纏ったヒューマンの女性、サシャ・テーリングは急いで靴を脱ぎ、ベッドに横たわった。
「さて、これを……」
東方風の衣装を纏うヒューマンの少女、東雲・更紗は枕の下に何かを入れてから、いそいそとベッドに潜り込んだ。
「お前さん、一体何を?」
更紗の同行者である屈強なヒューマンの男性、ブレイドはそわそわする更紗を横目に筋肉質の身体をベッドに預けた。
「ワタシの準備は整ったアルよ」
ホルスタインのハーフビースト、牛・奶はすでにベッドの上で目を閉じて……多分閉じているのだと思う。糸目ゆえ判別しづらいが、本人が準備は整ったと言ったのだからそうなのだろう。
「それにしても奇妙なキャンドルだよね」
ボロボロのマントを纏ったヒューマンの壮年、サロもすでに目を閉じ、火が灯るのを待っている。
「どんな夢が待ってるんだか」
赤い鱗を持つリザードマンの男性、サイラスもその巨躯をベッドに収めて瞼を下ろした。
ライリーがキャンドルに火を灯し、急いで部屋から出る。人を眠りへ誘うエーテルが溢れて部屋を満たしていく。冒険者たちは眠りに落ちる。
部屋を出た三徹のライリーも、キャンドルとは無関係に眠りに落ちた。
●
冒険者たちの意識が、夢の中で目覚めた。
奇妙な空間だ。足場には水の上にオイルを流したようなまだらな虹色が広がっている。天井にも同様に。
「何だこの空間はぁ!? 質の悪い安酒で酔いつぶれたときの光景に似てないこともないが……」
驚きを隠さず、ブレイドが叫んだ。空間はどこまでも広がっている。
「あちらこちらも虹色でなんとも不可思議な場所と思えば、あそこにいるのはライリーさんではないですか」
更紗は見知った顔を見つける。しかしそれは安心の材料にはならなかった。
「哎呀、この状況は一体何アルか」
奶が眉根を寄せる。いるのはライリー? だけじゃない。
コボルト、オーク、オーガ、トロル、ジャイアント、ヴァンパイアといった男性型の亜人。
ケンタウロス、マーメイド、スキュラ、ラミア、アルラウネ、アラクネといった女性型の亜人。
それらがライリー? の横に並んでいる。
「亜人嫌いでは?」
サイラスの突っ込みを一切聞かず、ライリー? は「お前らドゥジン信徒じゃないだろう(要約)」とか言い始めた。
「ドゥジン、聞いたことあるよ。確かこう色々本や絵を書いてる連中だろう?」
サロが記憶を辿り、大体あってるドゥジンの知識を口にする。
その直後に男性型の亜人が「ヤラナイカ」、女性型の亜人が「キマシタワ」の合唱をはじめた。
ライリー? は必死に声を張って説明している。最終的に「あとは妄想に浸る(要約)」とか言って黙り込んでしまった。
亜人たちはその場から動かず合唱を続けている。
「夢ってより悪夢の時間だな、これは」
現実を超えた現状を目の当たりにしたブレイドが額に手を当て、顔をしかめた。
「つまりここは夢、ということでよいのですね。それはそれは……枕の下にドゥジンシを入れて寝るようにした甲斐がありましたね」
対照的に更紗はこの世界を光の速さで受け入れた。ライリー? がいることもあり、ドゥジン的ななにかが起こると殆ど確信している。
「お前さん、ドゥジンシを枕の下に入れてた……だと!?」
「ええ、屈強な殿方同士の絡みがめいんのものを少々……」
「腐ってやがる。(こんな有害図書に触れるのは)早すぎたんだ……」
更紗の今後を思い、ブレイドは手に力を込めてバンダナを歪めてしまった。
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一方、ドゥジンの知識が薄い者たちは混乱していた。
「ヤラナイカはつまり殺らないかって意味だろう? キマシタワとはいったい……」
言葉を句切って、サロは考える。「気、増したわ」とかだったら、誰かへの殺意があるとみてよいかもしれない。男性型の亜人たちはあんなにヤル気満々なのだし。
奶も状況を理解できていない。とはいえ置いてけぼりにならないように、状況の整理を開始した。
「ライリーさんと周りにいる亜人さんはドゥジンとやらの信徒との事アル」
冒険者ギルドの中で「信徒が狂乱している」という話を聞いていた奶は、風聞と現状の乖離に疑問を抱きながらも整理を続けた。
「何かを三回ほど聞いちゃったらなんかなるとも言っていた気がするアルね、後は忘れちゃったアル」
整理したのに状況をほとんど把握できなかったが、なんとかなるだろうと一旦考えることをやめる。
「とりあえず亜人さんを倒せば終わりそうアル」
貰い物の錫杖を掲げ、奶がメテオライト2を放った。コボルト、オーク、ヴァンパイアに光の雨が降り注ぎ、三体は陽炎のように揺らめいて消失した。
それぞれの種族が表紙になった戦利品を落としてから。
「教本ではありませんか!?」
その光景を目の当たりにしたサシャは、一瞬にしてすべてを理解した。
倒した亜人はその種族を題材にした教本をドロップする。
そして同じように理解した更紗が口を開く。
「さてさて、様々な亜人(の本)が選り取り見取りですね。私はオーガやジャイアントなどガッチリしたのが気になりますけど、ブレイドさんはどのような趣向がお好みなのですか?」
頬を染めて目を細めて、恋する乙女のような表情で趣向を訪ねる同行者に、ブレイドはバンダナを直しながら答える。
「こんなヤバイ台詞を吐く連中に好みもへったくれもないと思うんだが……。いちおう半分くらいは人間のケンタウロスなりマーメイドでも仕留めてみるか。そうヒドイ絵面にはならんだろうしな」
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(読むのはどのような内容でも好ましく受け入れますが、自分が関わるとなると男型に近寄ってほしくはありません)
「私……もしかして百合でしょうか?」
そんなことを呟きながら、サシャは宿り木の杖を両手で硬く握り、アルラウネに狙いを定め、駆けだした。一気に接近し、杖を大きく振りかぶる。
攻撃の直前に多方向から「キマシタワ」を浴びたが、アルラウネを仕留めることはできた。だが彼女は本を拾わない。それどころかオーガを狙いに行く更紗に向かっていく。アラクネ、ラミア、スキュラもそれに続いた。
「倒すのにも技と萌が必要と思いますの」
サシャは小首をかしげて微笑みながら、更紗の隣に立った。
「もっと脇を締めて、オーガをまっすぐに見据え「決して容赦はいたしません」と言ってみると、かわいらしさの中に凜々しさが生まれると思います」
言った通りのポーズをしたあとに、サシャは更紗の後ろに回り、ポーズの指導を開始した。
「なんだあれ」
意味不明の事態に固まるブレイドの代わりに、サイラスが率直な感想を口にする。
鳴き声を三回浴びると何かあるとは説明された。だがサイラスの目をもってしても、何が起こったのかは推察できなかった。
よって、目に映ったままを理解する。あの亜人たちにこちらへの敵意はない。依頼で殺せと言われたわけでもない。素材も落とさない。
倒す理由があるなら、それは本だ。
(トロルとかジャイアントとかの体格差とか習性とかどう表現するのかとか、医療知識とか、ダンジョンとか作りたかった頃の関係で気になるよね)
サイラスは竜花琴に矢をつがえた。つがえるだけで撃ちはしない。サシャに起こったことも理解できていないし、まだ少し様子を見ることにする。
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「殺らないか」と言われたことだし、殺った方がいいのかもしれない。サシャの様子を見たサロはそう考えた。
ダマスカス鋼の弓を構え、素速くトロルを射貫いた。トロルが消え、本が現れる。
「あれ、読んだ方がいいのかな?」
ドロップしたドゥジンシの周りにはオーガとジャイアントがいる。鳴き声を浴びたサシャに何が起こったのかわからないうちは近寄らない方がいいと判断して、その場にとどまる。
さて、そのサシャの周りにはサシャの指導を受けている更紗と、サシャにべったりのアラクネ、ラミア、スキュラがいる。
「キマシタワ」
今のは亜人たちの声ではない、サシャについてきた亜人たちの鳴き声を浴びせられた更紗の声だ。
しかし亜人たちは更紗に悪さをする様子もない。ならば手薄になっているケンタウロスあたりを狙う方がいいのではないか。ブレイドはダマスカス鋼の剣を手にし、床? を蹴った。
鳴き声を浴びたがケンタウロスを仕留めることには成功した。本がドロップする。しかし読んでいる暇はない。隣にはマーメイドがいる。
そして背後にはサシャと更紗と、アラクネ、ラミア、スキュラがいた。
「ブレイド様、次の攻撃は急所をしっかりと見据えて、視線自体で敵を倒すような……こんな感じで」
さすがに相手が男性なので、ポーズを取るだけで直接触れての指導はしない。それでもブレイドの足を止めるには充分だった。
困惑するブレイドに、更紗と亜人たちの「キマシタワ」が襲いかかった。
更紗の「キマシタワ」には洗脳もとい布教の効果はないが、ブレイドには亜人たちのモノと同じ効果のある言葉に思えた。
「男は度胸! なんでも試してみるのさ!」
ブレイドは座り込み、ケンタウロスの本の表紙を開いた。
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「雲行きが怪しくなってきた……ねっ!」
サロはサシャについて回るラミアを射止める。
「おれもそろそろはじめるぜー!」
竜花琴につがえたままの矢をギリギリまで引き絞り、サイラスはジャイアントを射殺した。さて、どのタイミングで読みに行けばいいやらと考えながらサイラスは次の矢を取り出す。
奶はなぜこんなことになっているのかを確かめるため、ライリー? に近づき、話しかけた。
「一体何が起こっているアルか?」
真っ当な問いに対して、ライリー? は斜め上の独り言を返した。
「亜人にも夜のマナズィールみたいな習慣ってあるのかな? 種族としての振る舞いを二人きりで手取り足取り腰取り……」
「夜のマナズィール? 何の話アルか?」
わかる人が聞けばセクハラだが、幸い奶にそっち系の知識がなかったため、意味不明の言葉として扱われるだけだった。
「「ハーレムの中での振る舞いってモノを貴女にたたき込んであげる」か。これが女と女の世界……」
女同士の諍いや友情、それを超える特別な感情。
それらを眺めているうちに、ブレイドの中に「これはいいものだ」という感情が芽生えはじめた。
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サロはサシャと更紗について回る亜人を仕留めるべく狙いを定めていた。
過去形である。狙いの中心にサシャが入り込んできたのだ。
「敵の心も射貫くつもりで、どこか余裕も感じさせる笑みなど浮かべてみては!」
弓を引くポーズをしながら、優しくも哀愁漂う笑みを浮かべて。
サシャが来れば当然のようにスキュラとアラクネもついてくる。更紗もやってきた。マーメイドまでこちらに向かってきた。
「キマシタワ」
亜人たちの発する言葉を聞いた瞬間、サロは自分が倒したラミアの本に走り寄り、それを拾い上げた。
「どんなカップル本が出てきたとしてもオールOKだ。ドゥジンの名のもとすべてを愛そう」
一瞬にして強烈なドゥジン信徒と化した。その光景に、サイラスの頭の中にうっすら存在していた仮説が力を持つ。
「鳴き声を三回浴びると強制的にドゥジン的な言動をとらされるとか」
大当たりである。
「百合って言えばシグ×アカネとかも鉄板じゃない? 絶対可愛いと思うんだよ姫はじめしてくれないかなリアル姫だけに」
サロは指と尻尾を絡ませ合うラミアたちの愛情表現を眺めながら、著名人の名前を口にして具体的なことまで言い始めた。
サイラスとしては複雑な気持ちだが、サロも大変な目に遭っているということで聞かなかったことにしておく。
さて、自分はあの集団から逃げ回りつつオーガでも仕留めておくか。そんな風に考えていた。甘かった。
「わ、私は今までなんということを……。好みを押しつけてしまい申し訳ございません……好みは人それぞれ違うものですのにね」
このタイミングでサシャが正気に戻った。今までの行動を斜め上に反省したが、更紗もブレイドもサロもそれぞれに忙しく、誰も聞いてはいなかった。
「そうでした、アルラウネの教本を読みに行かなくては。それでは失礼します」
更紗とスキュラとアラクネとマーメイドが、サイラスに「キマシタワ」を浴びせようとした。
サイラスは逃げた。マーメイドからは逃れられた。けれど逃げた先にはオーガが……。
「ヤラナイカ」
ついにサイラスもドゥジン信徒と化した。
「せっかくだしお前の生態系とか、色々教えてくんない?」
サイラスは自分を狂わせたオーガのうなじに手をかけ、ゆっくりと顔を近づけた。
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「ワタシにもわかるように状況を説明してほしいアル」
奶がライリー? を問い詰めている間も、ブレイドはケンタウロスの本を読んでいた。
「「これはハーレムの中での馴れ合いみたいなもの。こんなのは本当の愛ではないの!」か、……亜人のハーレムにも色々あるんだな」
濃厚な愛憎劇を読み終えたブレイドの瞳はどこか遠くを見つめていた。
一方、ラミアの濃厚接触本を読み終えたサロは、ジャイアントの本を開いた。
「征竜×ヒルルクの異種族もいいよね。バレたら脳天かち割られそうだが、このCPは流行るよ間違いない。征竜×レイウェストと共に一世を風靡してくれ」
別人が取り憑いたかのようなテンションの早口を繰り出しながら次々とページをめくっていく。
ほぼ全員が「妄想全開」になっている中、奶だけが正気を保っていた。
だが奶の背後に更紗とスキュラとアラクネが迫っていた。
「キマシタワ」
その言葉を発した直後に、更紗も正気を取り戻した。
「私、さっきまで「キマシタワ」しか喋っていませんでしたよね……?」
誰も何も返答しない。他はドゥジンシを読んでいるかオーガに迫っているかライリーに詳細を聞こうと頑張っているからだ。
ん? オーガに迫っている?
「屈強な殿方とガッチリした亜人があんなに近寄って……」
更紗は一人と一体をもっと近くで見るために、奶の後ろから走り去った。
直後にスキュラとアラクネは「キマシタワ」を合唱した。
「!? ドゥジンシを読むアル!」
奶が一八〇度の見事な方向転換をキメる。
「なら、これでも読んでみたらどうだ。なかなかよかったぞ」
立ち上がったブレイドが、ケンタウロスの百合本を良いモノとして渡した。百パーセント善意だ。
ここで大切なことを説明する必要がある。
奶は育ちの都合上、半身が人でもケンタウロスは馬として見てしまう。更に言うと奶は牧場育ちで、牧場では馬が飼われていることも多い。
あとは……わかってほしい。
「これはどういうことアル! ドゥジン信徒は邪教徒アルか!?」
眉間には皺が寄っているし、錫杖を握る手には不必要なまでに力がこもっている。
奶は激怒した。倒さねばならない、こんなものを布教する邪教徒どもは。
そんな修羅場の遠くで、別の修羅場も展開されている。
「なぁ、もっとよく見せてくれよ。色々理解してリアリティを出したいんだ」
サイラスがオーガにキスしそうなほど顔を近づけている。その横では更紗が栗色の瞳を爛々と輝かせていた。
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「邪教徒を殲滅するアル!」
スキュラとアラクネにメテオライト2が降り注いだ。
その瞬間、光の中にいたブレイドが正気を取り戻した。
「……アレ? 自分こんなキャラだったっけ……」
呟くような言葉も光の雨にかき消された。まあ夢だしいいか。
サロはコボルトの本を読みながら、更にテンションを上げている。
「あ、ヤコブ×蟻人でもいいよ! 絶対可愛いと思うんだよね」
小さな身体のコボルトたちが鉱石を採取しながら友情を深める健全な本だというのに。
「健気にも数千体の1体ずつ手作りで作り続けるヤコブにそっと蟻の三つを差し入れたりするのがきっかけで育まれる青春物とかいいよね」
ドゥジン信徒としてのポテンシャルが異常に高い。どこから出るのだろう、この具体的かつ多様性に富んだ妄想たちは。
そして純然たるドゥジン信徒のサシャは漸くお目当ての本にありついた。
「これは少年兵と熟練兵がアルラウネの蔓に捕らわれ、毒で翻弄される教本……!」
自由を奪われ、苦しめられる少年兵と熟練兵。二人の苦しむ表情はまさしくサシャが望んでいたモノ。
「つ、ついに二人が一線を超え……! こ、これは戦いで息切れしただけで興奮してる訳では無いですわ!」
瞳をギラつかせ、荒い息を吐く。一線を越えるシーンは文字で描写できないが、サシャがここまで興奮するということは相当なモノなのだろう。
サイラスはオーガに迫り続ける。壁がないためじりじりと後退されるのが更紗にとってももどかしい。
「おれじゃ、ダメかよ?」
ため息交じりに放たれたサイラスの言葉に、オーガはわずかな動揺を見せた。
「ヤ、ヤラナ……」
その瞬間に奶が錫杖でオーガに殴りかかった。オーガだったモノは消え、本だけが残った。サイラスは放心した。聞きたかった言葉はもう二度と聞けない。更紗も肩を落とした。
すべての亜人を殲滅した奶はライリー? に詰め寄り、吠えた。
「ライリーさん! あの邪教徒たちは一体何アルか!?」
「一対一が主流の亜人ってジャイアントあたりかな?」
もちろんライリーは真っ当な答えなど返さない。
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ブレイドは更紗に誘われ、一緒にオーガの本を読んだ。
紙面には激しい殺し愛が描かれている。刃を交える度に、血を流す度に愛は深まっていく。
「突然、ぺーじが真っ黒になってしまいました……」
「自分には色々見えているんだが。おそらく年齢制限ってヤツだろうな」
サロも正気を取り戻した。けれど頭に沸いた不思議な言葉はまだこびりついたままだ。
「夜のマナズィールとはいったい……」
サシャは速やかにアラクネの本を読む。特殊な趣向に目覚めたアラクネが舞台装置として活躍している。
「少年兵と熟練兵がアラクネの糸で操られるまま一線を……!」
荒い息は当分収まりそうにない。
サイラスも正気を取り戻した。
「……生きてる亜人をあんな近くでじっくり観察できる機会なんてそうそうないよな」
己の言動は振り返らない。本の全制覇に向かおう。
まずはトロルだ。解説書とでも呼ぶべき内容で、住処や身体機能についても詳細に描写されている。
「どんだけ傷つけられても再生とかエグいなー」
ちなみに繁殖形態についてはほとんどわかっていないらしい。
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獲物が被った更紗、サイラスはジャイアントの本を二人で読む。
とあるジャイアントが他種族の亜人に恋をするが、相手は寿命で亡くなり自分は生き残ってしまうという話だ。
「長命種故の悲恋……儚い愛ですね……」
「種族ごとの食料の違いの描写に気合いが入ってんな」
サロは頭に沸いた言葉について考えながら、なんとなくオークの本に手を伸ばしてしまった。オークたちが女騎士を……する王道の本だ。
「モブって何? 幽界樹×エフレム、月蟲×アシムベートとはいったい……」
奶も正気を取り戻した。気持ちは落ち着いたけれど、行動はほとんど変わらない。
「ライリーさん、亜人さんたちは倒したけれど、あとはどうすればいいアルか?」
「コボルト×ジャイアントみたいな無茶振り、わりと好きなんだけど」
ライリー? の独り言に付き合うというか、付き合わされるというか。
サシャは男に直接触れずにすんだことに安堵しながら、ヴァンパイアの本に手を伸ばした。
「好きになった人間の生殺与奪の権を握り、眷属にするなんて……!」
息が整う気配は一切無い。
サイラスがスキュラの本に手を伸ばす。下半身の動物同士のまぐわいと、上半身の清らかな百合。
「下半身の動物は一個の生命体みたいに繋がってるって感じなんだなー」
意味深にも聞こえる。
更紗とブレイドはマーメイドの本にとりかかる。
「はーれむ同士の縄張り争い……競い合う中で芽生える愛、ですか……」
「同じ女同士でも、ケンタウロスたちとは大違いだな」
●
「造形の参考になりそうなところが結構あってよかったぜ」
「お腹いっぱい、といった気分ですわ!」
サイラス、サシャが満足したところで、天と地の虹色がぐにゃりと歪んだ。
俯いて独り言を続けていたライリー? が冒険者たちを見渡し、叫ぶ。
「皆様ぁ! ここで抱いた欲望を手放さないようお願いします! サラダバー!」
奶が首をかしげた瞬間、全員の意識が夢から抜け出した。
●
そして目を覚ます。サイラスは夢の中での言動や、亜人やドゥジンシの内容を急いでメモした。
「押し付けて申し訳ございません……好みは人其々違うものですのにね」
サシャは更紗、ブレイド、サロに自分の好みを押しつけたことを謝罪した。三人ともそれほど気にしておらず、特にとがめられることもなかった。
部屋の前で爆睡し、先輩に叱られしおしおのライリーが部屋に入ってくる。
「あんたが亜人を従えてる夢を見たぜ」
サイラスが手短に報告する。ライリーが半目になった。
「夢の中で迄、布教されるとはライリー様は信徒の鏡ですわ」
まだ目がぎらついているサシャが賛辞を送る。ライリーの顔がにやける。ちょろい。
「信徒が狂乱しているというのはなんだったアルか」
それはライリー自身のことだ。けれど話をややこしくしたくないので黙っておく。
「それにしてもすごい夢だったよね。ドゥジンに触れたいような、そうでもないような……」
サロが疲れた表情のまま身体を起こした。
「私は今すぐにでも触れたいです! せっかくですから全員でドゥジン礼拝に……」
爛々と輝く瞳で更紗が提案する。
「自分は遠慮しておく……」
サシャとライリー以外はブレイドの意見に賛成、といった感じだった。
マスターコメント
冒険者の皆様、ご参加いただきありがとうございました!
眞石ユキヒロです。初のミドルシナリオということで字数余裕だと思っていたら千文字オーバーしてくれました。
皆様のプレイングが素晴らしかったからですね! 実際目にしたときにめちゃめちゃ笑いました。ありがとうございます。
今回のMVPは妄想全開を配って回ってくれたサシャさんと、速やかに亜人を殲滅してくれた奶さんです! 理由が相反している!
称号は全員に贈らせていただきます。お気に召したらご使用いただけると嬉しいです。
それでは、またご縁がありましたらお会いしましょう! 眞石ユキヒロでした!
ミドルシナリオ易しい 報酬:標準6 / 6〜10人
2022年01月11日 11時39分08秒 公開
大成功
相談掲示板
おっと、気づけば俺以外にも人が。 初めまして、サロだよ。ゆらりゆらり男心がピンチで楽しそうな場所だね。 成立するかわからないけど愉快な夢になるといいな。よろしく。
No.2
サイラスだ,よろしくなー とりま自由にやるわ
東雲更紗と申します、よろしくお願いしますね。 今回はいろいろなドゥジンシが読める夢とのことで楽しみにしております。
牛奶アル。皆さんよろしくアル。これで依頼成立アルね。 信徒が狂乱との事で駆けつけてみたアル。 ところでドゥジンって何アルか?
サシャと申します。皆さまお見知りおき下さいませ。 成立ですわねー。ありがたくその場で倒して拝読させて頂きますわ。 >ドゥジンって何アルか? ごく普通の、宗教の一つで……教本の内容に掛け算の多いのが特徴ですわ。 ふふ、牛奶さまも是非に楽しみましょうね。
ブレイドだ、出発予定を一日間違えて冷や汗をかいたが… なんとか白紙は避けたので現地でよろしく頼む