【鍛道】刃の示す先【求和】

崎田航輝

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シナリオID:1552

オープニング

 金槌の音と威勢のいい掛け声。
 溌剌とした空気に満ちるそこは、地下深くだとは思えぬような活気があった。
「ここが俺の工房だよ」
 そう冒険者達を案内する男は、立派な髭を蓄えたドワーフ。
 一見でベテランと判る風格の備えた彼は――ダックル・エンビエントという名の鍛冶職人であった。
 自身の居でもある工房に入ると、炉の熱気が漂ってきて……弟子達が作業をする音も断続的に響いてくる。
 そんな奥の様子を暫し、真っ直ぐに見つめてから――ダックルは冒険者達へ振り返る。
 ドワーフ王国、ネルコット鉱山区。
 この国の例に漏れず、鍛冶仕事の活発なその場所で……彼は改めて仕事の説明をした。
「依頼は、人探しだ。行方不明の弟子を、見つけてほしい」

●道
 ダックルは二十年前から、この工房で親方として仕事に携わってきた。
 多くの弟子を抱え、独立もさせており――今でも師事を願う若者が度々訪れる、いぶし銀の鍛冶師である。
「手前味噌ではあるが」
 ダックルは言うが、飾られている剣や槍を見ればその実力は判る。
 曰く、鍛冶には込める思いが大事なのだという。
「ただよく切れる剣を打ちゃいいってもんじゃねえ。どう使われるかまで考えて、丹精込めて完成させてこそ意味がある」
 その武器は現実に、誰かが使う事になる物。
 だから間違った使われ方をしないよう、売る人間の事までもを考えて――正しい武器を作り上げる。それがダックルの信念だった。
「心が真っ直ぐなら、槌だって歪み無く振るえる。結果として、いいもんが出来るのさ」
 だが、とダックルは表情を翳らせる。
「その考えと、そりが合わねえ弟子がいてな」

 その弟子はある時ダックルの元にやってきた、ソルスという若者だった。
「まだガキっぽい部分の残ってたやつでな。最初はこんなやつに剣が打てるのかと思ったよ」
 だが、ソルスは人並みはずれた才能を持っていたという。
「すぐに最低限の剣なら作れるようになった。それからは、実力だけなら兄弟子達もごぼう抜きさ」
 値がつくレベルの作品を仕上げるのにも、時間はかからなかった。
「才能だけなら、俺より上だった」
 だが――ソルスはダックルの轍(わだち)をそのまま歩もうとはしなかった。
「あいつは俺が言ったような“鋭いだけの剣”をよく作ろうとしていた。それが誰にどう売れようが、構わないって顔してた」
 実際、ダックルの許可を取らずに知人と作品のやりとりをしていた事もあったようだ。
「こいつを見ろ」
 ダックルが卓に置いたのは、ソルスが嘗て作ったという武器だ。
 短刀なのだが、刃が柄に収納できる構造になっている。握りには偏執的なまでの拘りがある事が判り――湾曲した刃には、鋭利に過ぎる程の返しがついていた。
「これは人を殺す為に計算して作られた短刀だ。返しは確実性を高める為じゃなく、苦痛を増させる為だけについてる」
 ソルスはそれを『実験作だ』と語ったという。
「本当にそれだけのつもりだったのかどうか、心の中までは覗けん。少なくともあいつは、こういう武器を顔色一つ変えず作れるやつだった」

「それでもソルスは、名工になれる素質を持ってた。だから俺が育ててやろうと思っていた」
 だが、ソルスにダックルの思いは届かなかった。
 売る人間と、使われ方を考えるダックルに対し……あらゆる要素で“高み”を目指したいというソルスは衝突し、最後まで意見が合う事はなかったという。
「俺はあいつを信じていた。だが……ソルスは失踪した」
 ダックルとしては、技術的に“教える事は教えた”と思った時期だった。
 それをソルスが判っていたのかどうかは不明だが――
「あいつは技術と才能を手に……今も姿を消している」
 どこか危うい部分を持っているとは、ダックルも判ってはいたという。
「俺は弟子の過去まで聞きゃしないが……今はそれを後悔しているよ」
 ソルスは何を考え、今、どこにいるのか。
「それを知りたい。そのために、あいつを見つけてくれ」

●依頼
 捜索を冒険者に依頼するのにも、理由があるのだとダックルは言った。
「俺も一応、自分で探しはしたんだが――」
 するとウィップ廃坑の付近で目撃情報があったと判ったと言った。
 ウィップ廃坑、というのは数年前に使われなくなった鉱山の地下だ。今では採掘もされず、人は寄り付かないという。
 ただ、無人という訳でもないらしい。
「たちの悪い輩や、荒くれのたまり場になってるようだ。真偽はわからんが、噂じゃ非合法なもんの取引にも使われてるらしい」
 そこでソルスは、何をしていたのか。
「そこまでの道も中々険しくてな。俺じゃ、たどり着く事すら難しい」
 だからと、ダックルは真っ直ぐに冒険者を見た。
「あんた達に任せたい。ウィップ廃坑で、ソルスの手掛かりを追ってくれ」
 気をつけろよ、と、言葉も添えて。

 ぱらぱらと、土が坂道を転がってゆく。
 冒険者達がその廃坑の入り口を訪れると――緩い地盤の道が、地下に長く伸びている事が判った。
 崩落の危険もあって、使われなくなった坑道でもあるのだろう。
 それでも、既に内部に人の気配が多くある事が感じられる。
 危険な場所であっても構わず、公的な目から隠れて何かをやりたいという性質の人間達なのだろう。
 見た目にはただの地下道だが……歩むほどに不思議と、不穏な気配を感じないではいられない。
 冒険者達はそれでも頷き合い――そこへ足を踏み入れた。

解説

●目的  行方不明の鍛冶師、ソルスの情報を手に入れる。 ●現場  ウィップ廃坑。  かなり以前に使われなくなった坑道で、現在は非合法な事柄に関わる者が行き来する場所になっていると推測される。  地下に伸びている広い坑道。  『三』の字のように、平行な大通りが東西方向に三本通っており、西の地上から繋がっている。地上側の出口は別々だが、距離は離れていない。  一定距離ごとに南北の細道も存在し、通りやすくはないが大通りから別の大通りへ移動する事も出来る。  各大通りには“溜まり場”が三つずつ存在し、ドワーフだけでなく他人種も含めて人が集まり、何らかの取引が行われている。  一つの溜まり場には主が一人いて、それ以外は客。  東側は長く地下へ続いている。  東に行くほど人は少なくなり、ある距離を境に無人になる。  東の奥に何があるかは判っていない。 ●取れる行動について  聞き込みや盗み聞きなど、情報収集の方法は自由。  ただし廃坑を行き来する人間は何らかの非合法な行いをしている可能性が高く、こちらに敵意を持つ可能性が高い。  また条件によって規模の小さくない戦いが起こる可能性がある。 ●敵  場合によって、場の人間の一部、または全員と戦う可能性がある。 ・『主』×9  各溜まり場で何らかの取引を行っている。  近接単体攻撃と、手斧を投げる単体射撃(射程6hex)を行う。  剣や太刀、槍や暗器など、それぞれに強力な武器を装備しており、総じて攻撃力が高い。 ・『客』×45  それぞれの溜まり場に集まっている。  一箇所につき5人前後がいる。  ナイフや格闘による近接単体攻撃を行う。多くが荒くれ者であり、常人よりは強いが高い戦闘力を持っている訳ではない。

マスターより

連作【鍛道】の第一話となります。 他の【求和】タグのシナリオと、内容が関連してゆく可能性があります。 【求和】に関わる連作としては最後のものとなります。 行方不明の鍛冶師を追って調査します。 リプレイはおおよそ坑道に入る前後からスタートする事になるかと思います。 坑道に入る段階では、中にいる人間は誰もこちらに気づいていません。岩場や地面の凹凸などもあるので、姿を隠しつつ移動する事も不可能ではないでしょう。ただし、客が大通りを行き来したりするので長く隠密する事は難しいかも知れません。 目的は情報収集ですが、戦闘が起こる可能性も高いので準備は整えてゆくと良さそうです。 坑道や敵の被害状況は成功条件と関連はありません。 皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。

リプレイ

●潜入
 急峻な山道に、切り立った断崖。
 打ち棄てられた自然地帯の先に――ウィップ廃坑への入り口はあった。
「この奥みたいだね」
 ヴィナスは地下への道を遠目に見やりつつ、口を開く。
 今、人影は見えない。だが確かに、内部には雑多な人の気配がある事も窺えていた。
「こんな所で……何をやってたんだろうね」
 ミーミル・ロッポラが呟くのは無論、探し人――ソルスの事。
 ハヤト=ガラン=ヴォルファングはダックルから借り受けていた短刀を手に取っている。
「腕は良いのに性格に難ありの鍛冶師、か」
「実際、こいつは打った奴の性根がよく出てるじゃねえか」
 アーテミシアもそれに横目をやっていた。
 人を殺すために作られた刃。
 それは確かに、師と同じ志の成果には見えなかった。
「……やっぱ槌は嘘つかねえわ。ブン殴ってでも止めりゃ良かったのにな」
「ダックルさんは面倒見がいいんだろうな」
 海神・江流はそう言葉を零す。
 ソルスについての話とこの剣を鑑みれば……若さ故の逸りで片付けるには、疑問符がつくのが事実だから。
 アーテミシアは「かもな」とだけ返した。
(オヤジだったら……半殺しにはしてたかもなあ)
 自身と重ねて、そんなふうに思いながら。
「……ま、とにかく糸口くらいは掴む必要があるな」
「ひとまず行くか!」
 ハヤトは言って坑道へ歩む。事情は抜きにしても、質の良い武器には興味がある所だった。
 地下道を進むと、響いてくるのは人々の話し声だ。活気のある賑わいというよりは――抜け目のない男達の遣り取りという印象。
「市井の人間、って感じじゃねーな」
「都合がいいじゃないか」
 と、ハヤトの言葉に応えてみせるのはカズマ クレセントブラッド。
 そこにいるのは荒くれか、無法者か。
 故にこそ、何らかの情報は持っているだろう。
「迷子を捜すには、道を知ってる親切なおにーさんに声をかけろってのが基本だからな!」
 それに皆も頷き――三手に分かれて行動を始めた。

 そこはまるで荒れた裏通りだった。
 岩陰や壁の凹凸を目印にするように男達が屯(たむろ)し……何らかの取引を行っている。そこには総じて、後ろ暗い空気があった。
 ハヤトはその中の、北側の通路を練り歩き始めている。
 身につけた装備を敢えて隠しもしていないのは、傭兵団の団長として振る舞う為。
 ミーミルはその一員として同道し、アーテミシアも覆面で顔を隠した上で――周囲に視線を走らせていた。
(殆どは、ただの輩か)
 行き来する男達は、ハヤトの成りを見てそれとなく避けてゆく。大抵はろくな装備もなく、ナイフを差している程度だった。
(この中で、何か知ってんなら――)
 アーテミシアが目を留めるのは、溜まり場の“主”。取引を先導しているらしい男だ。
 そこでは違法らしい植物を売買しているだけに見えたが……男が手元に置いている槍は、間違いなく他所では見ない質の武器だ。
 アーテミシアが視線を送ると、ハヤトは頷いてそこへ歩み寄る。
 主の男は、ハヤトを見て訝しむように口を開いた。
「見ない顔だな。戦士か、傭兵か」
「まあな」
 ハヤトは応えつつ、槍に目をやる。
「ここに来りゃなかなかの業物が手に入るって聞いたもんでよ。確かにあんた、いい武器を持ってるみてえだな」
「……」
 男は少しだけ、警戒を見せる。
 ミーミルはその様子を注視しつつ、周囲の人の動きにも聴覚を研ぎ澄ませながら――剣呑な自体にならぬように言葉を添えた。
「ボク達は武器の“仕入れ”に来たんだ。それ、すごく良い物みたいだけど……誰が作ったものなの?」
「……。まあ、こいつは確かに最高の槍さ」
 男は返しつつ、それでも注意深く言う。
「だが、現れたばかりの奴に話せはしねえ。生半可に手を出していいもんじゃねえからな」
「それは判るよ。でもボク達……こういう武器がほしいんだ」
 と、そこで見せたのはソルスの短刀だ。
 男は少し黙る。
「それは……どこで手に入れた?」
「とあるツテでな」
 この武器もあってここを見つけられたのさ、とハヤトは続ける。
「こういう物を多く仕入れられるなら、こっちとしちゃ嬉しい。武器の鋭さで、生き死にが決まる仕事をしてるんでな。金も出せる」
 そして情報代とばかり、彼にある程度の額を握らせた。
 彼がこちらを“自分側”だと判断したらしいのを見て、押し切れると思ったためだ。事実、彼は少し迷ってから金を懐に収め――
「一番奥の奴に話を聞きな。“ソルスの武器が欲しい”と伝えればいい」
 ハヤト達は一度顔を見合わせてから……礼を言って歩み出す。
 アーテミシアは男から離れた所で呟いた。
「……この通路にいる溜まり場の主は、全員仲間か」
 見た目には皆が別の取引をしていたようだが……確かに、アーテミシアがチェックした限りでは彼らはそれぞれに同様の質の武器を携えていた。
 別々にソルスから手に入れていたのだろうとも思っていたが――
「思ったより、ソルスはここに深く関わってたのかも知れないね」
 ミーミルの言葉に二人は頷いて……それから、件の男に話を聞きに向かった。

 中央の通路を進むのはヴィナスと江流。
 こちらも剣呑な空気の中、物怖じせず歩む。護衛役としてララベル・サン・ディーベルも伴って、溜まり場に目を向けていた。
「見た感じでは、直接武器の取引はされていないけど――」
 ララベルの呟きに二人は頷く。
 それでも、溜まり場の主が武器を携えているのにも三人は気付いていた。既製品とは明らかに異なるその作風はおそらく、ソルスのもの。
 故に迷わず、ヴィナスは主の一人に話しかけた。
「――良い武器を探しているんだけど」
「……あんたは?」
 主の男は僅かに黙した後、値踏みするように言う。
 ヴィナスは傭兵団だと名乗った。
「仕入先を探して、ここに行き着いてね」
「……、この国なら、武器はどこでも手に入るぜ」
「でも、良いものは少ない」
 すかすような相手の言葉に、ヴィナスも返す。
 江流も言葉を重ねた。
「勿論、こっちもそれなりの武器は手にしてきてる。ただ、仕事によっちゃあそれに特化したものが必要にもなるからな」
「復讐の代行の時は、殺してくれと懇願する苦しみを与える獲物が必要だし――逆に斬り刻まれたことに気づかない獲物が必要な局面もある」
 ヴィナスが続けると、男は表情を変え、「へえ」と小さく零した。
 おそらくは、こちらを同類か何かと判断してくれたのだろう。
 江流はそのタイミングで言葉を続ける。
「欲しいのは、ちょいと扱いの難しいキレる武器。そういうのが作れる奴を探してる」
「……“表”の鍛冶屋じゃ駄目なのか?」
「新しい職人が良くてね。実績ある職人、実績ある武器は確かに信頼感はあるが……目新しさってのも重要だ。それに――過去の情報から足がつきづらいってのも大きい」
「確かにな」
 男は話す価値ありと見てだろう、頷いてから言った。
「……職人は居る。話も通せる。ただ、そいつは誰にでも売るような安い鍛冶師じゃないぜ」
「金なら、用意出来る。オーダーが可能なら、直接伝えさせてもらいたいな」
 江流が言うと、ヴィナスも声を継ぐ。
「又聞きで求めるものと違った武器になっても困るからね。確実に仕事ができる獲物が欲しい」
「……言いたい事は判る」
 男は応えつつ、そこだけは首を振った。
「だが初見の奴に顔を見せる程、彼は警戒心が浅くない。出来るのはオーダーだけだ」
 ヴィナスと江流は一度だけ見合ってから、頷きを返す。
「それでいい」
「ついてこい」
 男が言って歩み出す。
 周囲を警戒していたララベルもそこに続き――通路の奥へ進んだ。

 カズマは南側の通路を歩んでいる。
 くぐもったざわめきは、治安の悪い街を彷彿させるが……カズマはその中でも冷静に人通りを観察し――中でも逸れ者の一人に目をつけていた。
 その男にちらりと見せるのは、持参した武器。細剣にヤスリのように小さなニードルを張り巡らせた危険なものだ。
 それに何も反応を示されなければ次に行くつもりだったが……彼は目を向けた。
「見ない武器を持っているな」
「……ああ。ちょいと鍛冶をな。ここらにも良い武器があると聞いた」
 カズマが言うと、男は心当たりがあるように奥を見る。
「あの男に話を聞いてみればいい。裏に腕のある鍛冶師がいるらしい。ただ……簡単には売ってくれないぜ」
「助かるよ」
 カズマは彼に軽く謝礼を握らせ、その溜まり場の主へ近づいた。
 目を向けて来た彼に、カズマは声をかける。
「武器を扱ってるとか?」
「……」
 その主は少々黙してから、口を開いた。
「誰にでも売りはしないぜ」
「違うよ。逆で――武器を見てほしいんだ」
 言って、カズマは剣を見せる。先のものとは違い、細剣に釣針状の返しのある楔をつけたもので……敢えて粗雑な造り。
 主は首を振る。
「良い仕事とは言えないな」
「じゃあ、これは?」
 と、カズマはそこで先の剣を出す。筋のいい者には判る、殺傷能力を高めた作りのものだ。
 主は驚きもあったろう、それに興味を示す。
「……裏の仕事も受ける鍛冶師か。悪くない剣だ」
「交渉次第じゃ、譲ってもいい」
「金か?」
「いや、鍛冶師について知りたい」
 カズマの言葉と、目の前の武器を天秤にかけたように……彼は暫し迷ってから、「来な」と人のいない方へ案内した。

●闇の奥
 ハヤトとミーミル、アーテミシアは男の後に続いて奥へ歩む。
 ソルスの武器を求めた結果、通路の先へ案内されたのだ。
 それは廃坑の東。灯りも少なく、視界も不明瞭な中――見えてくるのは枝分かれした道。その一本の先に部屋のような空間があった。
「ここにその、ソルスがいんのか?」
「ソルスはいない。注文を受けるだけだ」
 ハヤトの問に男が応えると……アーテミシアは目を向ける。
「だが、武器を打つのはその鍛冶師なんだろ」
「彼は忙しい。それに、用心深い。簡単には会えない」
 男は淡々と言う。
 その口ぶりに、アーテミシアは瞳を細めていた。
(通路でやってる事もカモフラージュみたいなもんか)
 この男や、最初に話を聞いた溜まり場の主も、表向きには別の物品の取引をしていた。
 それはこの廃坑の中でも、一見して鍛冶を扱っていると思われぬようにする為だろう。それもソルスの思惑だとするなら、確かに用心深い。
 入った部屋も、特にソルスの存在が類推出来るものはなく。男の言うとおり、作る武器についての聞き取りが始まるだけだ。
 が――その間、周囲に注意を払っていたミーミルが、違和感に気付いていた。
(この音……)
 研ぎ澄ませた聴覚で捉えたのは、外の通路の、更に先の方からの反響。
 硬質な金属音だ。
 或いは、槌で武器を作っているような――そんな音。それも一つではなく複数、似た音があった。
 ミーミルの視線に気付いたハヤトは、微かにだけ頷いて、武器の発注を滞りなく進めていく。
 そうして男の気が逸れている間に、ミーミルは一層意識を集中し……外に何があるのか、何が行われているのかを把握する事に努めた。
 そうして話が済むと、元の西の通路へ案内される。
 アーテミシアは男へ聞いた。
「受け渡しは?」
「またここを訪ねろ」
 それ以上の事は話さない、そんな口ぶりだった。
 三人はひとまず了承し、坑道の外へ出ていく。
 ハヤトは軽く息をついた。
「会う事は出来なかったか」
「だが、それなりに多くの事は判った」
 アーテミシアはそんなふうに言って、通路を見下ろしていた。

 ヴィナスと江流、ララベルも東へ通されていた。
(……何だか、物々しいね)
 見た目には、静かな空間にしか思われない。ただララベルも、そこに何らかの不穏な気配を感じないではいられなかった。
 ヴィナスにしてもそれは同じ。
 案内した男へ、求める武器について事細かに述べながら……新たな情報を得られないかと頭を働かせている。
 ヴィナスと軽く視線を交わす江流も、同じ狙い。
 故に少々思考を巡らせてから、口を開いた。
「武器はそれなりの本数が欲しいんだけど……時間はかかるかい?」
「質を求めるならな」
 男の返答は、別の選択肢もあるというような言い方だ。
 それを引き出すように、ヴィナスは言う。
「短時間で多くを用意する事も出来ると?」
「多少、質は下がるが。……彼は、かなりの大口にも対応が出来る」
 ヴィナスは成程、と心に呟く。
 それは違和感でもあり、どこかで予想していた事でもあった。
「大口といっても、一人で作れる量には限度がありそうだけれど」
「だから、質は下がると言っている」
「……鍛冶師は一人じゃない、という事かい」
 江流の言葉に、男は明言を返さない。
 ただ――
「これ以上は、初見の相手には言えないな」
 彼はそう言って、オーダーする武器についての話だけをするよう促す。それが、何より答えを表しているようでもあった。

「そっちでも、武器の交渉が出来たのか」
 地上、山岳のひとけのない一角。
 そこで合流した江流達と情報を共有しながら――ハヤトは言った。
 江流が頷くと、アーテミシアは成程と頷く。そこから判るのは即ち、ソルスが武器を造り、売っていた事と――
「窓口を複数用意してたって事か。ソルスは、ここで本格的に商売をやってたんだ」
「かなりの数のオーダーも受けているようだったからね」
 ヴィナスの言葉に、江流も目を向ける。
「組織単位での発注も受けてる……そんな感じだった。少なくとも、ソルスは複数の鍛冶師と協力してやってると思う」
「うん。音も、沢山聞こえたし」
 そう言うのはミーミル。
 坑道の東で捉えたのは、確かに鍛冶師が槌を打っている音だった。
 窓口役の男は「ソルスはいない」と言っていたが――ソルスでなくとも、あの場で複数の鍛冶師が働いていたのは事実だろう。
 と――そこでカズマも坑道を出て、合流してきた。
 皆の話に頷きを返してから、話す。
「それは間違いないと思う。こっちでもソルスの情報を手に入れたんだけど――いわゆる“裏ルート”での武器制作を請け負っていたらしい」
 客はドワーフ王国だけでなく、国外にも及ぶと言った。
「細部までは聞き出せなかった。けど、信頼できる客なら国外にも届けるらしい」
「それで大口にも対応、か」
 アーテミシアは息を吐く。
「なら、輸送ルートも持ってる立派な組織じゃねえか。無法者を客にした――武器制作と輸出のシンジケートだ」
「……ああ」
 カズマも小さく応える。
 ソルスが中心に居るなら、武器は総じて危険なものだろう。それが犯罪組織や、無法者の集団に渡っているとしたら。
「無視出来ねー問題だな」
 ハヤトの言葉に、皆は頷いた。
 無論、ダックルにもこの事実は知らせる必要があるだろう。
「……彼は悲しむかも知れないけれど。それでも、伝えないとね」
 ヴィナスは言って、歩み出す。
 あの地下にあった薄暗い闇。
 その全てを暴く為に――皆もひとまず山岳を縫って、帰路へと向かう事にした。

マスターコメント

お疲れさまでした。 交渉が上手く運んだ為に、戦闘を起こさず情報を収集する事が出来ました。求める事柄についても多くを知る事が出来た為、作戦としては理想的な結果となりました。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準7 / 4〜8人

2021年11月18日 21時39分16秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. アーテミシア

    ウォリアーのアーテミシアだ。 一応最低限集まってるな…そろそろ始めるか?

  2. ミーミル・ロッポラ

    そうだね、そろそろ始めなきゃね。 あ、ボクはウォーリアのミーミルだよ! 今回はよろしくね。 えっと、今回はソルスっていうひとの捜索依頼だよね。 といっても、だいたいの目星は付いているみたいだよ。 ウィップ廃坑に乗り込むところからスタートみたい。 たまり場が3つあるみたいだし、少なくとも3手には分かれたいけど・・・。 ちょっと人数が少ないのが問題だよね。

  3. ヴィナス

    賛成。 …では。 俺はシーフのヴィナス。よろしくね。 戦闘の可能性についても触れられているし、戦闘を考えると、今の人数だと三手はちょっと厳しいかなって思ってる。 この後の人数次第かな。 盗み聞き・聞き込み(客の振りとか?)以外だと何があるんだろ。 説得、交渉、物理……?

  4. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ゴブリンのシーフ、ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 今の人数だと確かに三手に別れてってのは危険度が高そうだな。 情報収集ってなると聞き込みが一番だろーが、何せアウトローな連中相手となると一筋縄じゃいかなそうだな。 客を装って聞き込みってのが妥当だろうが得意な面子はいるか? 俺は《交渉》ならそれなりに出来るから傭兵団の武器を仕入れにって体で聞き込みに回れなくもねぇかとは考えてるが… 忍び込んでの盗み聞きも得意だしどっちでもイケるぜ!

  5. ヴィナス

    >客を装って〜 商業知識はそこそこあるし強化は無理だけど演技は取れるから、ハヤトが傭兵団の武器の仕入れで聞き込むなら、随行して傭兵団内の商人=情報源としていけるかなぁ。

  6. アーテミシア

    オレは交渉とかそーゆー類のもンは何もねえなあ。 誰かの護衛みたいな感じでくっついて行くか?

  7. ミーミル・ロッポラ

    ボクも交渉みたいなことはできそうにないなぁ・・・。 シーフみたいに専門的なことはできないけど、体が小さいし目立たないようにすれば盗み聞きが出来るかなって思ってるんだ。 盗み聞きしている最中にタイミングよくソルスの事が聞けるとは限らないんだけど・・・。

  8. ララベル・サン・ディーベル

    僕はシーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、よろしくね! 僕も交渉はあんまり得意じゃないから、双波で地形や人の位置を探りつつ、隠れて潜り込めるとこまで潜り込んで、盗み聞きしたり調べてみようかな。

  9. アーテミシア

    この分だと精々2分割ってトコだな 現状マトモな収拾プランがあるのがハヤトだけか…いっそ分けるの止めるか? 6人いりゃ大抵のことは片付くだろ。ウォリアーとシーフしかいねえってのも傭兵団って意味じゃ統一性あるしな

  10. ヴィナス

    明日で前日になるしね。 2分割か分割しないかのどちらかで考えた方がいいと思う。 今出てる案をまとめると、 分割する場合 (人数的に)2分割まで。 聞き込み(ある意味陽動も兼ねる)で注意がそちらに向いている間に盗み聞き組が別の場所で情報を拾う(=情報収集の範囲は広がる) 分割しない場合 全員一団(=人数が少なくなるリスクはない) 交渉メインにしつつ、荒事になったら対処。 こんな感じかな。 どちらにも片方にはないメリットがあると思うけど、どうしようか。

  11. 海神 江流

    ヴィナスさんに呼ばれたので手伝いに来ましたよと。 シーフの海神江流だよ。 話術と交渉ならLv5で持ってるから、聞き込みをしてみようか。 例えば、ヴィナスさんと一緒に回って、商業知識で補強してもらいながら、話術、交渉両方つけておけば、ボロ出して勘ぐられるリスクも相当減らせると思う。 その代わり、荒事になった時にあったら便利そうな戦術眼や暗視が用意できなくなる感じだね。 分割するしないについてはちょっと悩ましい感じだけど、そもそも話術交渉をする人としない人で二分されちまってる気がするんで、そのうえで更に二分して大丈夫かどうか。ってあたりが気にかかるかな。 分割するなら両組で連絡取れるようにテレパスとかあったら都合いいのかもだね。

  12. ミーミル・ロッポラ

    ちょっと考え違いがあったから訂正。 そう言われると3手に分かれるメリットはあんまりないのかな。 アーテミシアの言う通り、この人数とこのクラスだったら不自然じゃないと思う。 さっきも言った通りボクは本職と違うことだし、「武器の仕入れ」に付いていくよ。 それと「主」は「強力な武器を装備しており」ってことだから、ソルスから取引で手に入れた武器を使っている可能性も高いよね。 だから「主」達からの情報が手掛かりになるとは思うし、できればそっちから情報を聞きたいね。

  13. アーテミシア

    とりあえずオレはハヤトにくっついて行くか。 露天で武器やら扱ってるならそっちを見てみようかね。

  14. カズマ クレセントブラッド

    やべぇすげー遅くなった カズマだよろしくな!! 一応交渉みて―なことはしたいが…ちょい余裕がないからもしかしたら護衛に動くかもしれねー まけどやれるだけはやってみるぜ!

  15. カズマ クレセントブラッド

    連投で失礼、いい案がまとまったから俺も交渉方針で動くぜ 同じ穴の狢、汚い武器を扱うやつを探すには汚い武器で釣るって動きで動くことにしたぜ!(サムズアップ

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0