タスケテの残響
馬車猪
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シナリオID:1481
オープニング
血の気も水気も失せた肌とは対照的で、空気中のエーテルを吸うことで色が濃くなり続けている。
そんな刻印に安全性も信頼性もある訳がない。
質も偏りも滅茶苦茶で量だけはあるエーテルが体を蝕み、常人なら数時間ももたずに自殺するだろう痛みを与え続けている。
「……けて」
助けてとか、死にたいとか、もう自分自身が何を考えているかもよく分からない。
痛みから目を逸らすので精一杯だ。
「……けてよ」
涙として流すための水分も不足し、喉はからからで目も霞んでいる。
もう、生きているかどうかも自分自身では分からない。
数ヶ月ぶりに人の声が聞こえても、それが妄想か現実か区別などできなかった。
●調査依頼
ギルドで常時取り扱われる依頼のなかに、未確認物体または生物の調査がある。
脅威の度合いを調べるという依頼であるので事実上難易度不明。
なので目立った場所には貼り出されず、しかし冒険者の誰かが受注し消化されていく。
Alexandra・Hexe・Claudiaが興味をもった依頼もその1つであった。
「それでヴァイセントラフまで来たの?」
ほへー、と間抜け面で感心しているのはリットだ。
未だ奪還途中の帝国で、輸送業や案内人で稼ぐ在野授恵者である。
「ビッグオウムで空飛んで来たんだろ? すげー体力だよなぁ」
うんうんとうなずくリットに悪意はないようだが察しが悪い。
Alexandraは淡々と、改めて目撃情報を伝えるよう要請した。
「報告ってどの報告? あー、あれかぁ」
リットの顔に困った表情が浮かぶ。
「急いで向かうなら途中で話すよ」
砦の中では、いつも通りに忙しそうに兵士が行き来している。
Alexandraやリットを監視している様子はないとはいえ、冒険者や冒険者ギルドと利害が一致している人間でも組織でもない。
「俺、トラブルに巻きこまれて気絶したんだよ。気付いたときにはでっかい魔法の痕っぽいのがあった。それに」
聞き間違いかもしれねぇけど、聞こえたでっかい音はガキの泣き声に似てたかもしれねぇ、と苦虫を噛み潰した顔で言うリットであった。
●4日前
「なんだこの音」
帝国東部の調査から戻る途中だったリットが足を止めた。
人間の声だとしたら理性が擦り切れ過ぎていて、魔獣やクリーパーの吠え声にしては違和感がある。
「もう食料尽きそうなんだけどなぁ」
ここは危険地帯だ。
安全第一で立ち去っても犯罪にはならないが寝覚めが悪い。
リットは空に近い背負い袋の位置を直し、音が聞こえて来た方向へ向かった。
「なんだこりゃ」
遠くからは平地にしか見えない、しかし近くで見れば丘の影になった場所に石造りの建物が並んでいる。
畑もないし畑の跡もない。
砦かとも思ったが、建物群を守るための城壁も柵すらない。
「どこだここ」
汗臭い服の中から地図を取り出す。
砦の兵士から真っ当に譲り受けた地図だ。
帝都崩壊前の情報しか載っていないが非常に詳しい。
帝国が半ば崩壊した今だからリットの手にあるだけで、本来は機密情報だ。
「一応中を調査して砦とギルドに報告……やべっ」
慌てて振り返る。
昨日の晩に一戦交えた野犬が、前回の倍以上の数でこっそりじりじり迫ってきていた。
「こんな所じゃ殺しても肉にできねーじゃねーか、えぇっ!」
剣を抜いて威嚇する。
リットはそこそこ強い。
若い野犬は怯えて脚が止まり、しかし老練な野犬は数の差で圧倒できると判断して油断はしないが怯えもしない。
(チクショー! 寄り道せずに帰れば良かったなぶっ殺す!)
多少勝ち目が薄かろうが諦める訳がない。
両者とも威嚇が通じぬと悟り、殺意だけが濃くなっていく。
「えっ」
リットと老犬だけがそれに気付いた。
異様に濃いエーテルがリットでも犬でもない場所に集まり、非常に暴力的な力に変わって犬に……少しリットを巻きこむ形で押し寄せる。
老犬が飛び退く。初動が遅れたリットが気合いを入れて耐える準備をする。
だが無意味だ。
圧倒的な魔力が薄い魔法防御を突破しリットの体を蹂躙。破壊がかすめただけの老犬も余波で全身ばらばらになる。
急速に薄れていく視界に、リットより小さな女の子が映っていた気がした。
●今
「気付いたときには誰もいなかったよ」
ヒールを覚えていなかったら死んでいたと平然と語りながら、リットはAlexandra達を案内する。
「いつのかわからんねーけど足跡っぽいのがあったから水と食料置いといたぜ。時間稼ぎにもなるかもってな」
その後、傷だらけの体を酷使し、運良く敵に遭遇せず行き倒れ寸前で砦まで辿り着いた。
そして冒険者と共に再訪する。
「野犬にでも食われたかもしれねーけど、まあ」
食料も水も消えていた。
誰かが助かってりゃいいなと、帝国が崩れてから今まで多くの死を見て来たリットは本音で言う。
石造りの建物は、物理的な鍵だけでなく紋具によっても封じられていた。
「えっ、開くの?」
だがAlexandraにとっては心当たりがある開閉装置だ。
素早く中を調べ、重要な資料は全て持ち出された研究室を確認して、最後にそれを目にすることになる。
痩せこけたエルフの女の子がうずくまっている。
足下には小さく齧った跡のある干し肉と半分ほどになった水袋が転がっている。
呼吸が止まって、3日は経過していた。
「クソッ」
リットが舌打ちする。人の死に慣れてはいても人の死は心底嫌いなのだ。
Alexandraは何も言わずに遺体を確かめる。
痛みのせいで眉間にはしわが刻まれ、噛みしめすぎた奥歯はとうに壊れ、そして肌に刻まれたものは同じではないが同系統だ。
(エーテルが多すぎますね)
Alexandraが後退を命じる。
亡骸に毛布をかけようとしていたリットが抗議しようとして、直後に発生した叫びの直撃を浴び倒れた。
行き場を失ったエーテルが、遺体に刻まれた痛みと印に沿って遺体を動かす。
空間爆砕に酷似した波紋が無数の衝撃派を室内に生じさせ、頑丈な建物を内側から吹き飛ばす。
「いっ……てぇっ」
ぼろぼろのリットが瓦礫の中から身を起こす。
少女の死体の頭上に、非常に大きな波紋がうまれようとしていた。
解説
マスターより
リプレイ
小さな砦じみた建物が内側から爆散した。
残ったのは大穴と瓦礫の小山だ。
「リットくん生きてます?」
確認ですらなく単なる呼びかけだ。
シルク・メイプルリーフは壊れた木材の小山から少年を引っ張り出し治癒術を使いながら状態を確認する。
「ぁ……痛みで訳わかんねぇよねーちゃん」
思慕と微かな甘えの籠もった声だがシルクは態度を変えない。
「指も耳も鼻もとれてませんよ」
そしてリットを脇に抱えて猛加速。
単体が行える魔法攻撃としては特別に広い、直径約25メートルの範囲が至近で炸裂。本当にぎりぎりで逃れていた。
衝撃波をやり過ごしたシグルド・オルセンが、リットを抱えた分動きが鈍ったシルクを護衛する。
「リットはとりあえず回復されておけ。回復しても血の臭いはそうそう取れんだろうが」
遠くから小さな気配が近づいて来る。
ギルドでリットが話していた野犬達だろう。
シグルドが振り返る。
リットを瀕死に追い込んだ、かつては少女だったものが虚ろな目でこちらを見ていた。
歩く速度は常人と比べても遅く、戦闘を回避しようと思えば確実に回避可能だ。
「死してなお動かされる少女か。憐れだな」
苦々しい思いを心に押し込めて飄々とした態度を保つ
命を救ってやりたいが既に手段はないのは明らかだ。
体の端から崩れてきていて自壊するのは確実。しかし壊れるまでに人里に到着する可能性はある。
「さっさと終わらせて、弔い、解放してやろう。せめて魂が報われることを祈ってな」
シグルドは言葉と気配にエーテルをのせる。
手応えはなかった。
しかし死体に残った記憶の残滓にエーテルが流れ込む。シグルドを脅威と判断して術の形でエーテルが噴き出す。
シグルドは戦闘を避けない。
衝撃波の射程ぎりぎりに留まり、味方がいる位置から長射程超広範囲魔法攻撃を引き離す。
体の姿勢もダマスカス鋼の全身鎧の向きも完全に防御用に制御したのに衝撃が中まで通る。
高い魔法防御と生命力を兼ね備えたシグルドでもこれほどの被害だ。リットが死なずに済んだのはただの幸運だろう。
「これが、クラウディアさんが以前仰っていた……」
リサ・ベイカーは淡い光に包まれている。
バフの効果は相変わらず強力だが、回避が上昇してもあの一撃を躱せるとは思えないし、命中が正確になっても不器用に歩く人形への攻撃成功率は変わらない。
しかしハヤト=ガラン=ヴォルファングのような頭抜けた回避型戦士が効果を受けると別の展開になる。
「どんな事情があろうがなぁ!」
無色の攻撃を回避し圧倒的加速で距離を0にする。
乾いた汗と微かな腐臭を感じながら、ハヤトは真っ直ぐに少女の遺体を見据えて拳を振り下ろす。
(エーテル過多の肉か)
拳を引き戻す勢いを活かして逆手の忍刀で斬りつける。
微かな打撲痕に当てたが予想通りほとんど斬れない。
防御が厚いわけではなく生命が多すぎるのだ。
「俺を狙わせる!」
一撃離脱で距離をとる。
回避や防御目的ではなく、超広範囲攻撃を自分だけに集中させるためだ。
空間に満ちる波紋は見えず、けれどハヤトの五感と戦闘経験がだいたいここに来ると教えてくれる。
「正気のときなら当たってたぜ」
鼻先がちょんと地面に当たるほど身を沈め、飛ぶように加速し上からの衝撃を躱していた。
「どう見ても死体を操る幽霊……とかでは無さそうですね。ただ事ではないというのは確かです」
フリーダ=ブロムヴィストは真面目な顔で装備の位置を微調整。
すると全く理由は分からないが通常でも強力なフリーダの守りが強靱さを増す。
「要はマッドサイエンティスト的な奴が作ったあれ、と?」
無意識の分析結果か別次元からの電波だか分からないものがいつも通り届く。
後衛のAlexandra・Hexe・Claudiaの呼吸がほんのわずかに乱れる。
「このまま放置する訳にもいけません。いきます!」
フリーダは、同行者の心の傷に触れてしまったことに気付き、行動で謝意を示すことにした。
(いけませんね躱せません)
回避は間に合わないしどこが最も衝撃波が密なのかさっぱり分からない。
軽々駆けてはいても装備は重量級なフリーダの体がわずかに浮いてしまい、地面の表面はもちろん岩盤まで削ってしまいそうな波が全身をもみくちゃにする。
だがフリーダは耐える。
「啓示でも『だから魔防を固める必要があったんですね』とありますし、防御スキル込ならそれなりに時間は稼げると思ったんですけどね」
辛くても耐える。
一瞬白銀のブーツが触れた瞬間地面を蹴って、自らを人形へ向かって加速させる。
「なんて威力なの」
リサがぎりぎりまで前進する。
フリーダへの衝撃波に巻き込まれる位置だがリサは無傷なのでまだ許容範囲だ。
リサと同時に攻撃するなら他の前衛や後衛には衝撃波が届かなくなる。
「無理はしないで!」
もともと強力なヒール3とサイドヒール改もリサが使うと非常に強力な癒やしになる。
既に2度の直撃を浴びていたフリーダがほぼ万全な状態になった。
だがリサの被害は小さくはない。
奥歯を噛んで耐えても悲鳴が漏れた。
胸甲や盾に纏わせたエーテルの効果があるのにこれだ。
直撃ならどうなったかを考えると冷や汗が流れそうになる。
「死に対する冒涜たる行いは許すわけには行きませんね。早急に神の元に還して差し上げなければ」
シルクが反対側から突撃する。
衝撃波を生み出した直後の人形は無防備だ。
「これは!」
見事に決まったのにトンファーは骨1本すら折れなかった。
敵の絶大な生命に驚きはしても怯えはせず、シルクは全力で加速し再び距離をとる。
躱すためでも逃げるためでもなく、被害を受ける人数を減らすために。
「どうしたお嬢さん。いい男はここにいるぜ?」
生前なら真っ赤になって照れていただろう言葉をかけつつシグルドが槍を使う。
人形視点では点のように細い衝撃波が小柄な体をゆらして衝撃波の発動を邪魔する。
狙いが甘くなっても容赦はなく、シグルドとシルクを痛めつけた。
「満足するまで相手をしてやるよ!」
シグルドが静で冷ならハヤトが動で熱だ。
温まった体は最高速を維持可能だが意図して緩急をつける。
武装で強化された手足と刃が人形の体を少しずつ削る。
多少の知識はあっても戦士ではない少女の知恵と経験では、膨大なエーテルの後押しがあっても対応不可能であった。
●
重なり合う衝撃波は空間そのものが揺れているようで、高位冒険者の膨大な生命力や特化した能力でなんとか防いでいる状況だった。
「冒険者には避けられぬこと、そして振り切らねばならないことなのでしょうが、掛け違えたボタンの……もしもを考えずにはいられませんわね」
フローラリア・ネムス・ラミナは自身のむねの空気を重く感じた。
実験材料として扱われ、人形としてここに在る彼女があまりにも哀れだ。
だが目を逸らしはしない。
「こうなってしまっては向き合う事が務めなのだと、分かってはいても」
無意識に手加減しそうになる己を内心で叱咤する。
自らの華奢な体から生命エネルギーを汲み上げ魔力に転化する。
受け取るのは契約済みの大樹型クリーパー『森域拓く誘掖樹』だ。
引き替えに根の一本をフローラリアへ貸し与える。
杖で指示された方向へ60メートル伸ばしても勢いも存在の密度も衰えず、生前の時点で水気を失った元エルフ少女を強く打ち据えた。
フローラリアは口に手のひらを当てて耐える。
数度の術行使で危険なほど消耗してしまい、今狙われると非常に危険だった。
「いてーっ」
エルフの声ではなく地元民の悲鳴である。
フローラリアは咄嗟に術を切り替える。
射程はやや劣るが効果範囲は横に広い、木漏れ日を思わせる光の中に大きな破壊力を秘めた術を野犬とそして人形に当てる。
数が半減した野犬は牙も通用しない人形に混乱している。
人形は退避を始めたフローラリアをぎりぎり巻き込む形で空間をゆらした。
光の膜で魔法攻撃を防ぎはしたが、フローラリアはもう気絶寸前だ。
「命尽きてなお酷使され、誰に知られることも無く朽ちるなどあまりに無体……わたくしの微力が今は亡き彼女と……クラウディアさんの、助けになればよいのですが」
フローラリアの消耗は激しく、しかし深刻な内臓の傷も急速に癒える。
リサの治癒能力は非常に強力だ。頑丈さでは典型的後衛であるフローラリアを完全回復するのにわずかな時間しかかからない。
「武運を。がんばってください」
リサだって被害者をこのままにしたいとは思わない。
フローラリアを送り出した後、ヒールが尽きるまで前衛に対する支援を継続した。
「作戦は続行する。速攻だ」
Alexandraは厳しい表情のままエーテルの流れをせき止める。
大地と大気に還るはずのエーテルがAlexandraの中で渦巻く。
それは人形によく似てはいるが決定的に違う。
Alexandraの意思に従い流れ、形をとり、無駄のない術として外界に現れるのだ。
「少人数相手に空間爆砕級の魔力放出は不要」
膨大なエーテルがもたらす痛みに耐え、エーテルという大きな力をたった1つの光球に変えて直進させる。
肩に当たったそれは骨に当たって上体をゆらし、Alexandra個人に対する反撃を誘発した。
「来ると分かっていればどんな攻撃にも対処はできる」
魔法特化と見切って輝く光を盾にする。
衝撃は貫通するし光盾の発動に生命の一部を消費する。だが直接被弾した場合の被害と比べると2割未満のダメージにしかならない。
「無理はするなアレク」
Alexandraの至近にコハクが着地した。
クールな本人とは違って狐尻尾はふわふわでもふもふでしかも艶がある。
複数のそれに触れるかどうかの距離で半ば包まれたAlexandraが、ほんの少しではあるが呼吸が柔らかくなった。
(まだ表情が硬い)
初めて会った頃のような顰めっ面だ。
コハクはAlexandraに構いたくなる気持ちを頑張って我慢して、少しでも彼女の憂いを晴らそうと新たな動きに出る。
(あの術を躱すも防ぐも私には難しい。けど)
前衛陣は頑丈でしかも派手に戦っている。彼等と戦いながら他の相手にも注意を向けるのは困難だ。
フローラリアやAlexandraに術で反撃できただけでも、人形にしては上出来すぎた。
(隙だらけだよ)
今のコハクの装備は特に隠密に向いている訳ではない。
だが戦闘経験が乏しい少女の脳をエーテルで無理矢理動かしているだけの人形では、コハクの動きを追いきれない。
冒険者の反撃に処理能力を割くしかなく、槍の間合いまで迫られてようやくコハクの接近に気付く。
コハクが繰り出した細身の槍は、込められた大量のエーテルにより赤と白と素材が内側から光っているようにも感じられた。
(そろそろ……とは思うが)
術の発動より呼吸1つ分早く刺突を繰り出す。
皮膚は破ったが肉にはあまり刺さらず、しかし以前の攻撃のときより明らかに深手だ。
術の発動は遅れ、それで生じたわずかな時間を活かしてコハクはAlexandraの位置まで後退した。
「後2回?」
「いや……」
Alexandraの声の響きが硬い。
「彼女を衝き動かしているのは刻印……アマルガムだ。効果はおおむね、無差別かつ限度のないエーテルの吸収と放出。つまり倒しても暴走して自爆する可能性がある」
自らの術の光に照らされながら言うAlexandraは、妖しく美しくそして不吉に見えた。
「リーット!」
「分かってるよにーちゃん!」
シグルドは野犬への対処を地元民に完全に任せて挑発する。
いくら抵抗が高いといっても特級ではない。
引っかかった人形が、その持ち味を活かせない形でシグルドに引き寄せられる。
「そういうことは早く言え! まあ少しは覚悟してたがな!」
ハヤトが無防備な背中に拳と刃を突き立て、ついでに足先を引っかけ細い首へ深刻なダメージを与える。
彼の回避と後退にあわせて頑丈なフリーダが囮になりつつ白銀の剣で突き刺す流れは芸術的ですらある。
そこまでしても倒せない。
エーテルが詰まった器は内側からひび割れ、エーテルの扱いに長けた冒険者には今にも割れて爆発しそうに見えた。
Alexandraが引き起こした氷嵐が人形を巻き込み肌を傷つける。
戦闘開始直後と比べるとエーテル量が半減したせいか、傷の範囲も深さも最初よりずっと深刻だ。
コハクが側面から攻める。
槍が脇を突き破り、加工された臓器を傷つける。
じわりとエーテルの濃度が上がった後、少女は唐突に動きが止まり、静かに崩れ落ちていった。
●
「ねえリットさんどうして犬が逃げるのかなっ」
尻尾を丸めて逃げ出す野犬を追いながらリサは不思議そうに問うた。
「そりゃねーちゃんの方が強そうだからだろ、ってこいつっ」
リットは犬に甘く見られて強く噛みつかれていた。
祭刀を血で汚すまでもない。
リサが魔力をまとわせてつつくだけで、魔獣ですらない犬は必要以上の痛みを感じることもなく死んでいった。
そして数分後。
「それにしても一体ここは何を目的とした研究施設だったのでしょうか? 少なくとも後ろめたい研究には違いないでしょうが」
フリーダはずいぶんすっきりしてしまった建物群の跡地を見ている。
「遺品も見つからないだろうしな」
伝手を使って調べてみるかと思うシグルドだが、調べるだけでも危険とも感じるので判断に迷っていた。
「ねーちゃん何してんの?」
「え? いやこう見えてもシスターですよ?」
シルクは柔らかな布で遺体を拭いている。
精神的に過酷な作業なはずだが、真摯な表情で丁寧に綺麗にしていく。
「クラウディアさん、もう少しこのあたりを調べますか?」
リサの背後では、上下関係を叩き込まれた元野犬達が瓦礫の山を掘り起こすようにして調査中だ。
リーダーだった個体は腹を見せて全力で媚びを売っている。
「エーテルが不安定な感じもしますし、野犬がまた来るかもなので、出直したほうがいいかもしれませんけど」
元野犬達が不安そうに視線を交わす。
リットが『ねーちゃんが要らないって言っても俺について来りゃ寝床と仕事をやるよ』と慰めている。
「調査するなら、手伝いますよ?」
土葬でも火葬でも手間も時間もかかるのだ。
リサは遺体とAlexandraを、心配そうにみつめていた。
「必要ない」
Alexandraは遺体を抱え上げる。
とうに冷え切っているのに、紋様だけは生きているときと同じだ。
(私の刻印もルーツは同一。彼女が吸収させられたエーテルを横取りする形で私が取り込めば)
Alexandraは気付いた上で手を加えず、自身のエーテルを業火の形にして外界に出現させる。
遺体に留まっていたエーテルが再び動き出す。
人を殺すには十分すぎる炎に新たなエーテルが注がれ、ただ1つのものを焼くための炎へ変わっていく。
皮も肉も骨までわずかな灰だけを残して炎と一体になり、消えた。
乾いた風が吹いても、熱が残っている気がした。
マスターコメント
ショートシナリオR普通 報酬:標準8 / 4〜8人
2021年11月02日 21時25分38秒 公開
相談掲示板
キャスター、クラウディア… いえ。この場では、アレクサンドラ・ヘクスと。 お集まりいただき感謝いたします。 依頼目標である人型モンスター…一先ずの識別として"アマルガム"と呼称しますが。 恐らく防御能力…特に自発的防御スキル(エーテルバリアなど)は皆無であるものと。 反面、攻撃能力に関わるものは全て行使可能と想定してください。 というのも、過去に研究者が追求したのは後者のみでしたし、被験者に能力を選び習得する思考・精神力は皆無でしたから。 次いで制動も難しいでしょう。 アマルガムの刻印は、その性質として被験者の能力を無視した吸収と出力を備える。 単に被験者の行動を阻害しても、勝手に発動するような外法ですので。 よって、対処は最短・最大火力による短期撃破が望ましいものと考えます。 また、撃破後の再起動ないし暴走を防ぐため、速やかに火葬します。 私からの情報共有は以上です。 …見たところ私のそれと類似していながら同一ではないようなので、どれだけ差異があるかはわかりませんが…。
ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 OP文を見る限りでは相手のメイン攻撃は魔法属性の射撃範囲攻撃の様ですし、 下手に密集すると一網打尽になりかねませんね。 それと並行して野犬の群れも襲撃してくる形になるでしょうから、 アマルガム対応と野犬対応に別れて行動する形が良いでしょうか? あるいはアレクサンドラ様の言う様に野犬が接近してくる前に最大火力でアマルガムを撃破、 返す刀で野犬を撃破する形も良いかとは思います。 その場合は前述の範囲攻撃をどう対処するかを考えねばならないかと。
ヒーラーのリサです、よろしくお願いしますね。
キャスターのフローラリアですの。どうぞよろしくお願いいたしますわ なんとも……様々な意味で、やり辛い相手ですわね…… 放つ度に生命を削るとはいえ、それによって尽き果てるまでこちらが耐えるのは厳しそうですし、確かに相手取るなら如何に先手を討つのかが肝要になりそうですわね しかし野犬……リットさんの血に惹かれているのならそれを用いて彼女と野犬達を対面させることは難しいでしょうか?
ウォーリア、シグルド・オルセンだ。よろしく頼む。 空間爆砕は近付いて同じヘクス内ならどうだろうな。まぁあんまり長距離の攻撃はできないから俺は近付いて引き付けるつもりだが。 リットはとりあえずヒールかけるとして、野犬はその都度対応していくしかないか。
ウォーリアのリットだ。よろしく。 今回は本当に、なぁ……。 俺が分かることなら回答するけど、戦闘開始寸前までに分かることしか回答できねーし、俺が気付けることしか回答もできねーから多分あんまり役に立たないと思う。
…単純に戦闘のみで考えるなら、実のところリットさんだけ救出して離脱が正解なんです。 アマルガムは…あの状態なら放置しても5分前後で自壊するでしょう。 野犬だけなら60いたところで殲滅もききますし。 ―ただ、我儘としてそれはしたくない。 手がかりの取り残しがあるなら拾いたいですし…なにより。 最期まであの人でなし共の悪意に蹂躙させるざまでは、私が私を許せない。
なるほど……戦闘行動をしない限りは暫しの間立ち尽くしたままだと思っておりましたので、先に彼女の空間爆砕によって野犬を追い払った後に打倒及び回収……と考えましたが、自壊の刻限があるならば確かに困難そうですの どちらの相手にも注意はするつもりですが、この場合わたくしは闖入してきた野犬への対処に注力したほうがよろしいでしょうか……?
No.9
シスターシルクです こうなってしまっては速やかに神の元に返してあげるべきでしょうね。 野犬については少しの間リット君と遊んでいてもらいましょうか
シーフコハクよ、よろしく。 取り敢えず対象が自壊する前の原形をとどめている間に倒して…というのが良いのかしらね、話の流れ的には。 人手はあるし二班に分かれる? その場合私は単体特化だから女の子の方に回るわよ
空間爆砕のような攻撃がメインとなると、固まらずに左右から攻撃とかがいいでしょうかね。 野犬は警戒しつつ、まずはアマルガムへの全力攻撃 野犬がきたら、そっちへの対処に数名割く感じかな?
リットさん、四日前の戦闘ですが…現場にいた野犬に生き残りはいたか、思い出せますか? それと…こちらはリットさんが波紋に打たれた時点が戦闘扱いであればスルーしてください。 現在の貴方の体調を共有していただければと。 私個人の意思は、コハクさんが示した通りです。 皆さんの同意が得られれば とはなりますが… …何れにしても、今回は相手がキャスタークラス。 誰が受けに回っても相応の被害は避けられない…か。 ―今回の戦闘、私がアマルガムに対し受けを担当することを考えています。 私の能力なら、瞬間的には最小の消耗で対処できる。治癒術士の負担軽減にもなるでしょう。 都合、ヘイトの確保が攻撃性能と順番のみになりますが…
それでは私はアマルガム対応に回る事にします。 ヘイト確保に最適なシーザーロアも相手の抵抗値でレジストされそうですので、 リスクはありますが真正面から接近して相手の攻撃を誘う事にします。 付け焼き刃気味ではありますが、ある程度魔防を固めておきましたので、 数発位なら何とかなるかと思います。
それではわたくしは最初の一斉攻撃への参加以降、野犬が来た場合はそちらへの対応を重視する方向でいきますわね 彼女の空間爆砕に似た攻撃への対策は……アイアンウォールに身を隠すのは効果はあるでしょうか……?
鉄壁は恐らく効果ありかと。 類似スキルの空間爆砕は爆発属性ですから、爆心地から隠れられる形で配置すれば凌げるはずです。 …アマルガムの能力が一撃でもろとも破壊するレベルでないことを願うばかりです。 ふむ、フリーダさんが対アマルガムの受けに。わかりました。 交代可能ですから、負荷を見て後退も選択肢に。 戦士の体力を完全に補うには、いささか治癒術の負担が大きいですので。
ん、そういや最初にアマルガムだっけ?少女の対応のつもりで言っていたが、わかりにくかったかな。 シザーロアで引き付けられるかどうかはやってみなければわからんだろうから、とりあえずやってみるだけやってみるつもりだ。空間爆砕も上手く利用できれば野犬を巻き込めるかとか思ってはいるが。 状況次第でアマルガムと野犬対応を切り替えていこうかね。
おーっす!遅くなっちまってすまねぇ!! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! んじゃ、俺も先にヤバそうなアマルガムだかを倒しに動くぜ! その後に野犬共の相手だな!!
わたしは、アマルガム側の支援をメインに、状況に応じてですかね。 回復多めに持っていく感じで動きますね。