素描~吸血鬼殺人事件
瀬川潮♭
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シナリオID:1456
オープニング
エラトゥーン都市同盟のどこかの街外れの、どこかの大きな館でのこと。
「あら?」
深夜、蝋燭を手に廊下を歩いていたメイドが居間の明かりに気付いた。
こんなところの明かりを消し忘れるはずがないと近寄ると、年配男性が一人手酌で酒をやっていた。
「こんばんは、お館さま」
「ああ、メイド長。君か」
メイド長の声にこの館の主人が振り向いた。
「こんな深夜に起き出されてどうされましたか?」
「寝付けない夜もあるものさ。幸い、明日は執務もない。こうして晩酌を楽しんでいるところさ」
グラスを掲げる主人。テーブルにはボトルと水差ししかない。
「なにかつまみになるものでも用意しましょうか」
「助かる。……静かな夜にくるみ割り人形の音を立てるのもはばかられてね」
主人の気遣いにメイド長がくす、と微笑した時だった!
――がたっ、ごろごろ……。
「なんだ、いまの音は!」
同じ一階の奥から響いた音に主人が立ちあがった。
「使用人の部屋からのようですが……」
メイド長が言ったその直後!
「ぐおおおおおぉおおおおぉぉ……」
獣のような野太い苦悶の声が静かな夜を震わせた!
「何事だ、一体!」
館の主人とメイド長が使用人部屋に駆け付けたところ、一人のメイドが夜着のまま部屋から出てきて、空中の何かをつかむように腕をばたつかせた後、廊下に倒れ込んだ。この騒ぎにほかのメイドも出てくる。もう、倒れたメイドはピクリとも動かない。
「死んでる……毒だな。首筋に二つ並んだ刺傷がある」
医師の心得もある主人は即座に倒れたメイドの脈や瞳孔を確認。もう手遅れと判断した。
「きゅ、吸血鬼でしょうか?」
ほかのメイドは震えながらも状況からそう口走る。
「このメイドの部屋の窓は?」
「カギをかけて閉まっています。部屋にはほかにだれかいる気配はありません」
主人の問いにメイド長が答える。外部からの侵入や逃走は考えにくい。
「吸血鬼は吸血鬼でも、毒を持つ吸血鬼は……どこかの山奥の鉱山での話、か」
主人は顎に手をやり考えて、思い当たった。
「もしかして彼女、昼間に物置の掃除か……整理をしていないか?」
「あ、はい。彼女はとてもまじめですので、それはもう隅々まで掃除をして整理整頓を……」
メイド仲間の証言に主人は確信した。
「確かあの鉱山でもらった鉱石の標本を鞄に詰めたままだったな……そこで『吸血鬼』と恐れられている闇鬼蜘蛛が付いてきていたか」
「な、なんでしょうか、それは」
不安がるメイドたち。
「餌として血を吸う時だけ実体化する蜘蛛だ。普段は黒い煙になって闇に身を隠している。その代わり、実体化するには時間がかかるし寝込みを襲うので、実被害にはつながりにくい」
君たち、寝る前には肩を叩いたり首筋をもんだりするだろ、と主人。どうやらそのしぐさで纏いついていた闇鬼蜘蛛の黒い霧を払えるらしい。
「つまり、比較的元気な人が襲われやすい、と?」
「そうだな。一番危ないのは子供だ」
「パパ……みんな、何があったの?」
そこへ二階から娘やご婦人たちが下りてきた。
「ちょっと悲しいことがあったのさ。明るいところへ行こう。そこですべて話す。そして今夜はみんなでそこで寝よう」
で、翌日。ところ変わって、冒険者街のどこかの商店の一角。
「あれ……今日は絵師さん、いないのかしら?」
花かごを持った花売りの娘が首をひねっていた。
「帽子屋さんのお店の内でお仕事かしら?」
で、店内を覗くと姿を探していた似顔絵師、ロデ・ラークの姿があった。帽子屋の主人と婦人、それと見たことのない男性が一緒だ。花売りの娘、耳をそばだててみる。
「そういうことでしたらウチのロデも詳しいし、頼りになる。なあ、ロデさん。お得意さんの力になってやってくれんか」
「……とりあえず、冒険者ギルドまで案内して依頼の仲介をしましょう」
ロデ、快諾はしないが雇われている店主の顔を立てる。
「そのあと、先ほど聞いた闇鬼蜘蛛の退治は適材を募る方がよいでしょう」
あくまで冒険者であり、ギルドを通すまでは勝手なことはしないという立場を保つ。
「まあまあ。ロデはここで似顔絵師として働いてるだけに、観察力は鋭い。ぜひ、力になってくれるでしょう」
「店主がそこまでいうなら、できるだけお受けして尽力する次第です」
店主も立てる。
このやり取りを盗み聞きした花売りの娘はクスクス笑う。
「ロデさん。そういう奇譚、好きなくせにね」
というわけで、街外れの名士の館にロデとともに赴き、一晩を過ごして闇鬼蜘蛛を退治する冒険者、求ム。
「あら?」
深夜、蝋燭を手に廊下を歩いていたメイドが居間の明かりに気付いた。
こんなところの明かりを消し忘れるはずがないと近寄ると、年配男性が一人手酌で酒をやっていた。
「こんばんは、お館さま」
「ああ、メイド長。君か」
メイド長の声にこの館の主人が振り向いた。
「こんな深夜に起き出されてどうされましたか?」
「寝付けない夜もあるものさ。幸い、明日は執務もない。こうして晩酌を楽しんでいるところさ」
グラスを掲げる主人。テーブルにはボトルと水差ししかない。
「なにかつまみになるものでも用意しましょうか」
「助かる。……静かな夜にくるみ割り人形の音を立てるのもはばかられてね」
主人の気遣いにメイド長がくす、と微笑した時だった!
――がたっ、ごろごろ……。
「なんだ、いまの音は!」
同じ一階の奥から響いた音に主人が立ちあがった。
「使用人の部屋からのようですが……」
メイド長が言ったその直後!
「ぐおおおおおぉおおおおぉぉ……」
獣のような野太い苦悶の声が静かな夜を震わせた!
「何事だ、一体!」
館の主人とメイド長が使用人部屋に駆け付けたところ、一人のメイドが夜着のまま部屋から出てきて、空中の何かをつかむように腕をばたつかせた後、廊下に倒れ込んだ。この騒ぎにほかのメイドも出てくる。もう、倒れたメイドはピクリとも動かない。
「死んでる……毒だな。首筋に二つ並んだ刺傷がある」
医師の心得もある主人は即座に倒れたメイドの脈や瞳孔を確認。もう手遅れと判断した。
「きゅ、吸血鬼でしょうか?」
ほかのメイドは震えながらも状況からそう口走る。
「このメイドの部屋の窓は?」
「カギをかけて閉まっています。部屋にはほかにだれかいる気配はありません」
主人の問いにメイド長が答える。外部からの侵入や逃走は考えにくい。
「吸血鬼は吸血鬼でも、毒を持つ吸血鬼は……どこかの山奥の鉱山での話、か」
主人は顎に手をやり考えて、思い当たった。
「もしかして彼女、昼間に物置の掃除か……整理をしていないか?」
「あ、はい。彼女はとてもまじめですので、それはもう隅々まで掃除をして整理整頓を……」
メイド仲間の証言に主人は確信した。
「確かあの鉱山でもらった鉱石の標本を鞄に詰めたままだったな……そこで『吸血鬼』と恐れられている闇鬼蜘蛛が付いてきていたか」
「な、なんでしょうか、それは」
不安がるメイドたち。
「餌として血を吸う時だけ実体化する蜘蛛だ。普段は黒い煙になって闇に身を隠している。その代わり、実体化するには時間がかかるし寝込みを襲うので、実被害にはつながりにくい」
君たち、寝る前には肩を叩いたり首筋をもんだりするだろ、と主人。どうやらそのしぐさで纏いついていた闇鬼蜘蛛の黒い霧を払えるらしい。
「つまり、比較的元気な人が襲われやすい、と?」
「そうだな。一番危ないのは子供だ」
「パパ……みんな、何があったの?」
そこへ二階から娘やご婦人たちが下りてきた。
「ちょっと悲しいことがあったのさ。明るいところへ行こう。そこですべて話す。そして今夜はみんなでそこで寝よう」
で、翌日。ところ変わって、冒険者街のどこかの商店の一角。
「あれ……今日は絵師さん、いないのかしら?」
花かごを持った花売りの娘が首をひねっていた。
「帽子屋さんのお店の内でお仕事かしら?」
で、店内を覗くと姿を探していた似顔絵師、ロデ・ラークの姿があった。帽子屋の主人と婦人、それと見たことのない男性が一緒だ。花売りの娘、耳をそばだててみる。
「そういうことでしたらウチのロデも詳しいし、頼りになる。なあ、ロデさん。お得意さんの力になってやってくれんか」
「……とりあえず、冒険者ギルドまで案内して依頼の仲介をしましょう」
ロデ、快諾はしないが雇われている店主の顔を立てる。
「そのあと、先ほど聞いた闇鬼蜘蛛の退治は適材を募る方がよいでしょう」
あくまで冒険者であり、ギルドを通すまでは勝手なことはしないという立場を保つ。
「まあまあ。ロデはここで似顔絵師として働いてるだけに、観察力は鋭い。ぜひ、力になってくれるでしょう」
「店主がそこまでいうなら、できるだけお受けして尽力する次第です」
店主も立てる。
このやり取りを盗み聞きした花売りの娘はクスクス笑う。
「ロデさん。そういう奇譚、好きなくせにね」
というわけで、街外れの名士の館にロデとともに赴き、一晩を過ごして闇鬼蜘蛛を退治する冒険者、求ム。
解説
闇鬼蜘蛛の被害のあった館で一晩を過ごし、闇鬼蜘蛛を退治してください。
◆闇鬼蜘蛛
・通常時は黒い煙のような気体となり闇や暗がりに潜む。強い風で四散する(再集結すれば復活する)
・人や動物から餌を摂る(首筋から吸血する)ときのみ実体化する。
・吸血する前触れは、首筋に黒い煙がまとわりついていることが観察される(夜に活動するので目視しにくい面もある)
・このとき、首筋を払ったり揉むなど押し込むと四散し被害を免れることができる
・実体化させる好機でもあり、手のひらでしばらく覆うと実体化する(実体化したらすぐに払うこと)
・実体化すれば物理攻撃も魔法攻撃も通る(気体時は四散するだけ)
・ただし、首筋にいるままでは吸血の危険があるので注意
・闇鬼蜘蛛は潜むタイプなのでほかに攻撃手段はない
・スキルにより圧倒的に感知しやすくなるが、隠密タイプなので過信は禁物(ぼんやりしている、一体とは限らないなど)
◆屋敷
・二階建てで地下一階の3フロア
・1階…玄関広間、応接室、食堂、台所、浴室・手洗い、休憩広間、使用人室、収納など
・2階…執務室、書庫、休憩室、家族個室、客室、収納、応接室など
・地下…遊戯室、ワイン蔵、物置、鍵のかかった秘密部屋など
◆作戦
・雨。風もないので窓を開けても闇鬼蜘蛛を逃がすことはできない
・夜に1階休憩広間に集合。怪しい場所を巡回し闇鬼蜘蛛を取りつかせ、休憩広間に戻り取りついていればそこで退治
・一人に一匹しか取りつかないので、時間をずらして巡回するのがベター。
・すでにいろんな場所に散っている。漫然と巡回するだけでは取りつかれないことがある
◆ロデ・ラーク
・同行するが、作戦実行時は休憩広間の留守番役
◆その他
・館には午後に到着。一応、闇鬼蜘蛛に警戒されないよう、家族や使用人の振りをしつつ夜を待つ
・館の鍵は渡されるが、地下の秘密部屋だけは鍵を渡されていない(フレーバー)
・当日は常識の範囲内で館で過ごすことができる。書庫で読書や遊戯室でビリヤードなどできる(フレーバー)
・館の中の飲食物は常識の範囲内で飲食可能
・夕食は誰か作ってね♪
マスターより
ふらっと、瀬川です。
子供のころはOPのような怪しい小説にドキワクしたものです。
というわけで、
※富裕層の館で一晩好きに過ごす依頼
です。あいにくの雨ですが。
失敗ルートは、盗みや秘蔵のワインを飲む、開くはずのない場所が開いたままになっている、など。
難易度の通り成功しやすいですが、闇鬼蜘蛛のいそうな場所を想定することで成功度が上がります。
館で日常消費されているワインや食料は飲食可能ですのでご自由に(この範囲は歓待の意味で喜ばれる)。
ワインを飲みつつビリヤードしたりコーヒーを飲みつつ執務するふりをしたり、メイドとしてハウスキープするなど楽しんでください。
では、よろしくお願いします。
リプレイ
●1
ぎぃぃ、と開いた扉。玄関広間に人はなく、雨模様の外と同じく薄暗かった。
「うわあ、大きい屋敷だね」
中に入ったララベル・サン・ディーベルが天井を見上げる。二階は吹き抜けで空間が広い。そばに寄り添う恋人のアリエッタが左右をきょろきょろ。
同じく左右に目を配っているのはアシュリー・ロックハート。
「あたりまえだけど、人の気配はないねー」
やや大きな声なのは反応を確かめる意味もあるか。あいにく屋敷のどこからも――薄暗い廊下の奥からも、左右の階段から上がることのできる二階の手すりの向こうからも声への反応はなかった。
「ここで一晩過ごして闇鬼蜘蛛退治ですね。知恵比べと追い詰め、になるでしょうか?」
楓月・千弦はその手法に思いを巡らせるように人差し指を自らの頬に添えた。
「雨は勘弁してもらいたかったけど、降ってれば外にも逃げそうにないし追い詰め日和ではあるね」
ロデ・ラークがやれやれ、と手荷物を下ろす。
この5人が闇鬼蜘蛛の潜む屋敷で一晩を過ごすことになる。
「で、囮として屋敷での日常生活を再現してくれって言われたんだけど……」
ロデが皆に話を振る。
「あった。こっちこっち、こっちだよー」
早速、一階の奥へと進んだアシュリーが皆を手招きする。
「一体何でしょうか?」
千弦がその部屋を覗き込むと……。
「まあ……ララたちはちょっと待っててくださいね」
それだけ言って部屋の扉を閉めた。
しばらく中でごそごそやっていたが、やがて出てきた。
「じゃ~ん♪ どお、どお?」
アシュリーがスカートを広げてポーズを取る。
「やはり、屋敷内を回っていろいろしつつ探索するのでこの恰好でしょう」
千弦はエプロンのしわを伸ばしつつ着こなしを確認。
二人ともメイド服姿だ。
「わあっ。似合ってるよ、千弦」
「うん、似合ってるね。この屋敷での日常生活も再現できる」
ララベルとロデがにこやかに応じる。
「こういう服着る機会は有りませんからね、生地も悪くないですし」
「着てみたかったんだぁ、うれしいなぁ」
千弦とアシュリー、ともにポニーテールを揺らしながらきゃいきゃい。
「へー、生地がいいんだ。着心地よさそうだね」
とララベルが話に付き合ったのが運の尽き!
「全員、いっそメイド服にしますか?」
千弦の悪戯っぽい視線。なおこの時、スカートをまくり白い太腿にホルスターを装着。短剣をここに隠した。
「それ、いいね。早速着替えよう!」
アシュリーもノリノリでややスカート丈の短いメイド服を……。
「って、僕は着ない、着ないからぁぁぁ」
「ほら、ロデも」
赤くなって抵抗するララベル。千弦はロデにも勧める。
「いや、俺が着ても可愛くないから」
ロデの言い訳。あっさり引き下がる千弦。
ただし、くるっと向きを変えた!
「可愛いなら大丈夫ということでしたら、ララは大丈夫ですね」
千弦、ララベルに矛先を向けた。
「ちょっと千弦、待って! ほっ、ほらメイドさん達だけだと不自然だし、僕はお館様の代わりでもするよ!」
「えー、せっかくここまで着替えてるのにー」
すでにララベルは陽気なアシュリーの手でメイドさんのカチューシャを頭部にセットされていたり。わたわたしつつもしっかりメイド服を受け取って生地の手触りだけはこっそり確認していた……というより無意識のうちに撫でていたというところ。素直である。
「じゃ、その役回りで早速館を確認しようか」
ロデはちゃっかり執事服を確保していた。
●2
さて、執事服に着替えたロデ。
「暖炉……は使われた時のことを考えたら潜伏場所には向かない、か」
同じ休憩広間には千弦もいる。
「念のためここに弓を置いて、と……」
事前の準備をしつつ、メイドとしての行動も忘れない。
「掃除、行き届いていますね。軽くはたきをかけて回るだけで大丈夫そう」
というわけで二階へ。
ロデも別の場所へ。
こちら、アシュリー。
「鉱山の標本石にとりついてきたってことだから、暗くてヒンヤリしてるところにいるかも……」
標本石のあった地下倉庫へ。
そこにはすでにララベルがいた。
「アシュリーもここが気になったんだ?」
「もう一度戻って来てるかもしれないしね」
二人で手にした蝋燭を巡らせる。
箱詰めなどで様々なものがある。
「双波で館の構造と敵を感知してるけど……これだけ広いと大変だよ」
ララベル、まだ発見には至っていないようだ。
「人を襲う気なら全く人けのないところにはいないかもしれないね」
アシュリーは闇鬼蜘蛛の立場になって指摘する。
「実は一階の使用人室、僕たちが着替えしたのとは別の部屋の暗がりにいたんだよね」
ララベル、こっそりと教える。
「ただ、煙みたいになって目に見えないから、退治は実体化させて確認できる方がいいかな、って思うんだ」
場所を記憶して夜を待つ作戦だ。
「それじゃどんどん次を探さないとね」
アシュリー、先を促す。
館を一通り確認すると、それぞれの役柄の日常生活をした。
そして夕食時。
「あれっ? このサンドイッチ、千弦が用意したの?」
ララベルが確認する。
「いいえ」
「私が作ったよー!」
首を振る千弦に、元気いっぱいに手を上げるアシュリー。
なぜそんな会話になっているのかというと……。
「サンドイッチの切り口……なんというか……」
「最後までスパッと切れなかったからえいや、って手でちぎったんだよね。その方がパンに味が染み込みやすいかもだし」
ロデの指摘に悪びれもしないアシュリー。
ちなみに、サンドイッチはフルーツサンドだ。
「家族に作ってあげたら喜んでくれた、私の自慢の料理だからね!」
「まあ、見た目より味ということ……う!」
食べた千弦、口元を覆った。やや涙目。
「家族に作ったのはまるごとゴーヤロールで、机をばんばん叩いて喜んでくれたよ。今回はゴーヤじゃないけど、隠し味の……」
「フルーツサンドに辛子は合わないような……ぶっ! これはひど……」
「うっ! これは合わない以前に入れすぎぃぃ……」
ロデとララベルも涙目に。
「あれ? 失敗しちゃった? 私、絵画は得意なんだけどね~」
てへへ、と頭をかくアシュリー。
もちろん夕食はそれだけではない。
「うん、この豆の鶏肉煮込み、美味しいよ」
ララベルは幸せそうな笑顔。
「ありあわせのもので急ごしらえしたけど……食材がいいからうまくいきましたね」
どうやらこれは千弦が調理した模様。
ほかにオードブルもある。
「これは千弦とアシュリーが作ったんだっけ? うん。こっちはどれも美味しいね」
ロデ、誉める。アシュリーも面目躍如である。
「ありがとう、ロデ。……それはそうと、お館様の仕事はどう?」
アシュリー、話を変えてララベルを見た。
「え? ええと……書斎でちゃんと……」
ララベル、なぜかしどろもどろ。
「紅茶を入れてほしいとか、メイドさんや執事に構ってもらってばかりでしたね。おかげで私も危うく書斎机の端に服をひっかけそうになりました」
「そ、そんなことはないから……わ、わざとじゃないし……」
千弦に言われてララベル、わたわた。
「確かスカートの中にはナイフがあったような……」
めくれてナイフが不運にも飛び出すとかありえたな、とロデ。
「そ、それより食後はビリヤードをしよう。せっかくだから勝負しない?」
「いいねいいね。食後に運動しよう!」
ララベルの提案。乗り気のアシュリー。
で、地下の遊戯室へ。
「じゃ、僕からだね。いくよっ!」
早速キューを構えるララベルだが……。
「ララ、ちょっと……スカートが……」
構えたキューの反対側が千弦のスカートに掛かり高々とめくっていたり。ただ、メイド服はロングスカートである方面で高い防御力を備えている。千弦が手で押さえなくてもある程度の高さ以上はさらされない。なんと実用的なことか。
「やっぱりメイド服、いいなぁ」
「アシュリー、見えないからといって高々とめくらないように」
素足を見せて自分のスカートを両手で掲げて確認するアシュリー。ロデはワインを飲みつつ冷静に突っ込みを入れるのだった。
●3
そして、深夜。
静寂に包まれた館は暗く、ぽつぽつと並ぶ蝋燭が廊下を照らすだけだった。
いや、メイドの持つランタンの明かりがある。
「外の雨音が聞こえるだけだねー」
アシュリーである。
いま、二階の部屋の扉を開ける。
ぎぃぃ、と開く音が響く。
「一階のみんなのところにも聞こえそうだね」
ロデたちは一階の休憩広間で待機。アシュリーが一番手で巡回に出ていた。
すい、と手にした蝋燭をかざし部屋を確認する。
収納部屋である。
「暗がりが好きならヒンヤリしたものの近くも好きなのかな?」
バケツとかも確認。異常なし。
次は子供部屋に向かう。
「子供に憑りつきやすい、ってことだしね……お嬢様、お邪魔しま~す」
こんこんノックをしてから、入る。
「避難してなければクッキーとお茶でお話でもしたかったんだけどなー」
アシュリーの地元は百合茶が特産。自慢の味を楽しんでもらいたかったのに、と扉を閉める。異常なし。
そしてワイン倉庫。
「怪しいよね……ゆっくり歩いて、と」
なおアシュリー。飽きっぽいところがある。根気のいる作業は苦手だが……。
「そうそう。ロデの好きそうなワインはあるかな~」
興味を持てばしっかりこなすことができるようだ。
「……さすが。立派に飾られる絵画は魅力があるぁ」
応接の壁に掛けられた絵画まで堪能したり。
で、皆の待つ休憩広間に戻る。
「どうかな?」
アシュリー、ワクワクしながら自分の首筋を仲間にさらす。
「いませんね」
調べた千弦が残念そうに言う。
「えー。せっかくクルミの殻をも割っちゃう私の握力で握りつぶそうと思ったのに―」
「割るんじゃなくぐちゃぐちゃに砕きそうだな……」
ぶーたれるアシュリーに汗たら~のロデ。
「あ、そうそう。ロデにはお土産があるよ~」
とはいえほかの成果を持ち帰っていたのですぐに機嫌は直る。
「じゃ、次は僕だね」
今度はララベルが立つ。
「見えない毒蜘蛛が潜む館か……」
蝋燭を手にしたララベルが足元に気を付けながら階段を上がる。
「執務室はにぎやかにしてたからいるはずはないよね」
ぎいばたん、とここはすぐに確認終了。
「使用人部屋で被害者が出たと言う事は、広い部屋より狭い部屋に潜んでたりするのかな?」
今度は書庫に。
書架をくまなく歩いて往復してみる。蝋燭をかざしても陰になる部分は多い。ふわあぁ、と闇が漂ってきて纏いついてきたらいやだな、とか感じる。
だから、手鏡を取り出し自分の首筋を確認する。
ほっ、と安堵。
特に闇に取りつかれてはいない。
で、気付く。
「べ……別にいつも持ち歩いてるわけじゃないんだからね」
誰に突っ込まれたわけでもないのだが、思わず口をついてしまうあたりはメイド服を着せられそうになったからか。
ともかく、探索続行。次は一階だ。
「あれ?」
ララベルが首をひねったのは、使用人室。
「事前確認だとここにいたのに……」
おかしいな、と部屋を出て隣の扉を開く!
「あ……ここにいる!」
相手は闇と同化してるも同然なので、双波を駆使しつつ棚の隙間を確認したり四つ這いになって脱衣籠の下を調べたり……。
「……脱衣籠?」
はっ、と持っていた物に気付く!
改めて周りを見てようやく理解した。
そこは浴室つながりの更衣室だったのだ!
「こ……更衣室あさりしてるわけじゃないから!」
慌てて言い訳しつつ退室。
で、双波で改めて取りつかれていることに気付く。
手鏡で確認したところ、肩に闇が纏っているのも確認した。
休憩広間に戻るとロデが腰を浮かせた。
「どうだった?」
「ちょっと待ってね」
ララベル、そういうと自分の肩に手をかぶせた。掌に蜘蛛の手触り。
ばっ、と払いのけると床に黒い手の平大の蜘蛛が転がった。
瞬間、ダマスカス鋼の細剣がひらめく!
「喰らえ、烈風三連突き!」
手首を返した姿勢から一気に突くと、鬼闇蜘蛛は体液を流して動かなくなった。
今度は、千弦。
「夕刻から動いた様子はありませんね」
玄関広間に飾ってある全身鎧を確認して言う。はたきをかけて掃除をしたときから変化があれば気付く。
「実体化せずにもぐりこんだのであれば動きませんが」
鎧の内部は孤高者の捜波で探る。特に異常はない。
そして二階に。
「普段より暗めな場所は要注意です」
ララベルと同じく、書庫を確認した。
暗視も駆使して注意。書架のほかに棚の隅も……。
「あら?」
不自然に隠された一冊の本を見つけた。
「……まあ」
開いて目を走らせた瞬間、真っ赤になる。
どうやら見てはいけない本だったようで。巡回に戻る。
「こうやって探しているようで、こちらが追い詰められている感覚です」
すぐに成果を実感できない操作に気持ちが揺らぐ。
ん、いけない、と顔を振る千弦。
「どれだけいるかもわからないし、何度も場所や時間を変えて根気よく、ですね」
気持ちを切り替え、地下へ。
「ここは……大丈夫そうですね」
秘密部屋も孤高者の捜波で確認するが、問題ない。
で、戻る。
「千弦、後ろ!」
広間に入るなり、ララベルが声を荒げた。自分を左肩を指差している。
「はっ?!」
千弦、反射的に肩を払う。
その手に、ざわりとした感覚。
払う動きに合わせ身を捻ったその視界に、大きな黒い蜘蛛。宙を舞いながら、黒い霧に消えようとしていた。
実体化が終わってなかったのだ!
「いけない!」
クールに言い放つと左手で自らのスカートの裾をまくり上げる。あらわになる白い太もも。上の方に黒いホルスター。ばっ、と右手が伸びると鋼の短剣を抜き放った!
「一撃で!」
余裕はない、との自覚。
――とすっ!
威力を込めた突きが見事に闇鬼蜘蛛の胴を捉えた。
果たして、蜘蛛は霧散することなく実体のまま死体となった。
ぎりぎり逃げられずに済んだ。
「弓は、良かったか?」
隠しておいた千弦の弓を渡そうとしていたロデが声をかける。
「一応人様のお屋敷ですからね」
その後。
「子供が被害に遭いやすい、って話だったけど……」
アシュリーが休憩広間で体を入れ替えながら大剣を横振りで一閃する。
「ホントにそうだったね」
二度目の巡回ではララベルから「夕方にはいた」という情報を手掛かりに巡回したため取りつかれた様子。いま払って空中に浮いていた蜘蛛を両断した。
退治は順調。
夜明けが迫るころには巡回してもまったく異常は見られなくなっていた。
「いやぁ、ありがとう」
館の主人が家族や使用人を連れて戻り、館の鍵束を引き渡した。
「蜘蛛のほかに気になることはないかね?」
主人の何気ない問いにララベルが反応した。
「ビリヤードのキューはもうちょっと短いほうがいい……かな?」
アシュリーとロデが笑った。
千弦は赤くなっているが。
ぎぃぃ、と開いた扉。玄関広間に人はなく、雨模様の外と同じく薄暗かった。
「うわあ、大きい屋敷だね」
中に入ったララベル・サン・ディーベルが天井を見上げる。二階は吹き抜けで空間が広い。そばに寄り添う恋人のアリエッタが左右をきょろきょろ。
同じく左右に目を配っているのはアシュリー・ロックハート。
「あたりまえだけど、人の気配はないねー」
やや大きな声なのは反応を確かめる意味もあるか。あいにく屋敷のどこからも――薄暗い廊下の奥からも、左右の階段から上がることのできる二階の手すりの向こうからも声への反応はなかった。
「ここで一晩過ごして闇鬼蜘蛛退治ですね。知恵比べと追い詰め、になるでしょうか?」
楓月・千弦はその手法に思いを巡らせるように人差し指を自らの頬に添えた。
「雨は勘弁してもらいたかったけど、降ってれば外にも逃げそうにないし追い詰め日和ではあるね」
ロデ・ラークがやれやれ、と手荷物を下ろす。
この5人が闇鬼蜘蛛の潜む屋敷で一晩を過ごすことになる。
「で、囮として屋敷での日常生活を再現してくれって言われたんだけど……」
ロデが皆に話を振る。
「あった。こっちこっち、こっちだよー」
早速、一階の奥へと進んだアシュリーが皆を手招きする。
「一体何でしょうか?」
千弦がその部屋を覗き込むと……。
「まあ……ララたちはちょっと待っててくださいね」
それだけ言って部屋の扉を閉めた。
しばらく中でごそごそやっていたが、やがて出てきた。
「じゃ~ん♪ どお、どお?」
アシュリーがスカートを広げてポーズを取る。
「やはり、屋敷内を回っていろいろしつつ探索するのでこの恰好でしょう」
千弦はエプロンのしわを伸ばしつつ着こなしを確認。
二人ともメイド服姿だ。
「わあっ。似合ってるよ、千弦」
「うん、似合ってるね。この屋敷での日常生活も再現できる」
ララベルとロデがにこやかに応じる。
「こういう服着る機会は有りませんからね、生地も悪くないですし」
「着てみたかったんだぁ、うれしいなぁ」
千弦とアシュリー、ともにポニーテールを揺らしながらきゃいきゃい。
「へー、生地がいいんだ。着心地よさそうだね」
とララベルが話に付き合ったのが運の尽き!
「全員、いっそメイド服にしますか?」
千弦の悪戯っぽい視線。なおこの時、スカートをまくり白い太腿にホルスターを装着。短剣をここに隠した。
「それ、いいね。早速着替えよう!」
アシュリーもノリノリでややスカート丈の短いメイド服を……。
「って、僕は着ない、着ないからぁぁぁ」
「ほら、ロデも」
赤くなって抵抗するララベル。千弦はロデにも勧める。
「いや、俺が着ても可愛くないから」
ロデの言い訳。あっさり引き下がる千弦。
ただし、くるっと向きを変えた!
「可愛いなら大丈夫ということでしたら、ララは大丈夫ですね」
千弦、ララベルに矛先を向けた。
「ちょっと千弦、待って! ほっ、ほらメイドさん達だけだと不自然だし、僕はお館様の代わりでもするよ!」
「えー、せっかくここまで着替えてるのにー」
すでにララベルは陽気なアシュリーの手でメイドさんのカチューシャを頭部にセットされていたり。わたわたしつつもしっかりメイド服を受け取って生地の手触りだけはこっそり確認していた……というより無意識のうちに撫でていたというところ。素直である。
「じゃ、その役回りで早速館を確認しようか」
ロデはちゃっかり執事服を確保していた。
●2
さて、執事服に着替えたロデ。
「暖炉……は使われた時のことを考えたら潜伏場所には向かない、か」
同じ休憩広間には千弦もいる。
「念のためここに弓を置いて、と……」
事前の準備をしつつ、メイドとしての行動も忘れない。
「掃除、行き届いていますね。軽くはたきをかけて回るだけで大丈夫そう」
というわけで二階へ。
ロデも別の場所へ。
こちら、アシュリー。
「鉱山の標本石にとりついてきたってことだから、暗くてヒンヤリしてるところにいるかも……」
標本石のあった地下倉庫へ。
そこにはすでにララベルがいた。
「アシュリーもここが気になったんだ?」
「もう一度戻って来てるかもしれないしね」
二人で手にした蝋燭を巡らせる。
箱詰めなどで様々なものがある。
「双波で館の構造と敵を感知してるけど……これだけ広いと大変だよ」
ララベル、まだ発見には至っていないようだ。
「人を襲う気なら全く人けのないところにはいないかもしれないね」
アシュリーは闇鬼蜘蛛の立場になって指摘する。
「実は一階の使用人室、僕たちが着替えしたのとは別の部屋の暗がりにいたんだよね」
ララベル、こっそりと教える。
「ただ、煙みたいになって目に見えないから、退治は実体化させて確認できる方がいいかな、って思うんだ」
場所を記憶して夜を待つ作戦だ。
「それじゃどんどん次を探さないとね」
アシュリー、先を促す。
館を一通り確認すると、それぞれの役柄の日常生活をした。
そして夕食時。
「あれっ? このサンドイッチ、千弦が用意したの?」
ララベルが確認する。
「いいえ」
「私が作ったよー!」
首を振る千弦に、元気いっぱいに手を上げるアシュリー。
なぜそんな会話になっているのかというと……。
「サンドイッチの切り口……なんというか……」
「最後までスパッと切れなかったからえいや、って手でちぎったんだよね。その方がパンに味が染み込みやすいかもだし」
ロデの指摘に悪びれもしないアシュリー。
ちなみに、サンドイッチはフルーツサンドだ。
「家族に作ってあげたら喜んでくれた、私の自慢の料理だからね!」
「まあ、見た目より味ということ……う!」
食べた千弦、口元を覆った。やや涙目。
「家族に作ったのはまるごとゴーヤロールで、机をばんばん叩いて喜んでくれたよ。今回はゴーヤじゃないけど、隠し味の……」
「フルーツサンドに辛子は合わないような……ぶっ! これはひど……」
「うっ! これは合わない以前に入れすぎぃぃ……」
ロデとララベルも涙目に。
「あれ? 失敗しちゃった? 私、絵画は得意なんだけどね~」
てへへ、と頭をかくアシュリー。
もちろん夕食はそれだけではない。
「うん、この豆の鶏肉煮込み、美味しいよ」
ララベルは幸せそうな笑顔。
「ありあわせのもので急ごしらえしたけど……食材がいいからうまくいきましたね」
どうやらこれは千弦が調理した模様。
ほかにオードブルもある。
「これは千弦とアシュリーが作ったんだっけ? うん。こっちはどれも美味しいね」
ロデ、誉める。アシュリーも面目躍如である。
「ありがとう、ロデ。……それはそうと、お館様の仕事はどう?」
アシュリー、話を変えてララベルを見た。
「え? ええと……書斎でちゃんと……」
ララベル、なぜかしどろもどろ。
「紅茶を入れてほしいとか、メイドさんや執事に構ってもらってばかりでしたね。おかげで私も危うく書斎机の端に服をひっかけそうになりました」
「そ、そんなことはないから……わ、わざとじゃないし……」
千弦に言われてララベル、わたわた。
「確かスカートの中にはナイフがあったような……」
めくれてナイフが不運にも飛び出すとかありえたな、とロデ。
「そ、それより食後はビリヤードをしよう。せっかくだから勝負しない?」
「いいねいいね。食後に運動しよう!」
ララベルの提案。乗り気のアシュリー。
で、地下の遊戯室へ。
「じゃ、僕からだね。いくよっ!」
早速キューを構えるララベルだが……。
「ララ、ちょっと……スカートが……」
構えたキューの反対側が千弦のスカートに掛かり高々とめくっていたり。ただ、メイド服はロングスカートである方面で高い防御力を備えている。千弦が手で押さえなくてもある程度の高さ以上はさらされない。なんと実用的なことか。
「やっぱりメイド服、いいなぁ」
「アシュリー、見えないからといって高々とめくらないように」
素足を見せて自分のスカートを両手で掲げて確認するアシュリー。ロデはワインを飲みつつ冷静に突っ込みを入れるのだった。
●3
そして、深夜。
静寂に包まれた館は暗く、ぽつぽつと並ぶ蝋燭が廊下を照らすだけだった。
いや、メイドの持つランタンの明かりがある。
「外の雨音が聞こえるだけだねー」
アシュリーである。
いま、二階の部屋の扉を開ける。
ぎぃぃ、と開く音が響く。
「一階のみんなのところにも聞こえそうだね」
ロデたちは一階の休憩広間で待機。アシュリーが一番手で巡回に出ていた。
すい、と手にした蝋燭をかざし部屋を確認する。
収納部屋である。
「暗がりが好きならヒンヤリしたものの近くも好きなのかな?」
バケツとかも確認。異常なし。
次は子供部屋に向かう。
「子供に憑りつきやすい、ってことだしね……お嬢様、お邪魔しま~す」
こんこんノックをしてから、入る。
「避難してなければクッキーとお茶でお話でもしたかったんだけどなー」
アシュリーの地元は百合茶が特産。自慢の味を楽しんでもらいたかったのに、と扉を閉める。異常なし。
そしてワイン倉庫。
「怪しいよね……ゆっくり歩いて、と」
なおアシュリー。飽きっぽいところがある。根気のいる作業は苦手だが……。
「そうそう。ロデの好きそうなワインはあるかな~」
興味を持てばしっかりこなすことができるようだ。
「……さすが。立派に飾られる絵画は魅力があるぁ」
応接の壁に掛けられた絵画まで堪能したり。
で、皆の待つ休憩広間に戻る。
「どうかな?」
アシュリー、ワクワクしながら自分の首筋を仲間にさらす。
「いませんね」
調べた千弦が残念そうに言う。
「えー。せっかくクルミの殻をも割っちゃう私の握力で握りつぶそうと思ったのに―」
「割るんじゃなくぐちゃぐちゃに砕きそうだな……」
ぶーたれるアシュリーに汗たら~のロデ。
「あ、そうそう。ロデにはお土産があるよ~」
とはいえほかの成果を持ち帰っていたのですぐに機嫌は直る。
「じゃ、次は僕だね」
今度はララベルが立つ。
「見えない毒蜘蛛が潜む館か……」
蝋燭を手にしたララベルが足元に気を付けながら階段を上がる。
「執務室はにぎやかにしてたからいるはずはないよね」
ぎいばたん、とここはすぐに確認終了。
「使用人部屋で被害者が出たと言う事は、広い部屋より狭い部屋に潜んでたりするのかな?」
今度は書庫に。
書架をくまなく歩いて往復してみる。蝋燭をかざしても陰になる部分は多い。ふわあぁ、と闇が漂ってきて纏いついてきたらいやだな、とか感じる。
だから、手鏡を取り出し自分の首筋を確認する。
ほっ、と安堵。
特に闇に取りつかれてはいない。
で、気付く。
「べ……別にいつも持ち歩いてるわけじゃないんだからね」
誰に突っ込まれたわけでもないのだが、思わず口をついてしまうあたりはメイド服を着せられそうになったからか。
ともかく、探索続行。次は一階だ。
「あれ?」
ララベルが首をひねったのは、使用人室。
「事前確認だとここにいたのに……」
おかしいな、と部屋を出て隣の扉を開く!
「あ……ここにいる!」
相手は闇と同化してるも同然なので、双波を駆使しつつ棚の隙間を確認したり四つ這いになって脱衣籠の下を調べたり……。
「……脱衣籠?」
はっ、と持っていた物に気付く!
改めて周りを見てようやく理解した。
そこは浴室つながりの更衣室だったのだ!
「こ……更衣室あさりしてるわけじゃないから!」
慌てて言い訳しつつ退室。
で、双波で改めて取りつかれていることに気付く。
手鏡で確認したところ、肩に闇が纏っているのも確認した。
休憩広間に戻るとロデが腰を浮かせた。
「どうだった?」
「ちょっと待ってね」
ララベル、そういうと自分の肩に手をかぶせた。掌に蜘蛛の手触り。
ばっ、と払いのけると床に黒い手の平大の蜘蛛が転がった。
瞬間、ダマスカス鋼の細剣がひらめく!
「喰らえ、烈風三連突き!」
手首を返した姿勢から一気に突くと、鬼闇蜘蛛は体液を流して動かなくなった。
今度は、千弦。
「夕刻から動いた様子はありませんね」
玄関広間に飾ってある全身鎧を確認して言う。はたきをかけて掃除をしたときから変化があれば気付く。
「実体化せずにもぐりこんだのであれば動きませんが」
鎧の内部は孤高者の捜波で探る。特に異常はない。
そして二階に。
「普段より暗めな場所は要注意です」
ララベルと同じく、書庫を確認した。
暗視も駆使して注意。書架のほかに棚の隅も……。
「あら?」
不自然に隠された一冊の本を見つけた。
「……まあ」
開いて目を走らせた瞬間、真っ赤になる。
どうやら見てはいけない本だったようで。巡回に戻る。
「こうやって探しているようで、こちらが追い詰められている感覚です」
すぐに成果を実感できない操作に気持ちが揺らぐ。
ん、いけない、と顔を振る千弦。
「どれだけいるかもわからないし、何度も場所や時間を変えて根気よく、ですね」
気持ちを切り替え、地下へ。
「ここは……大丈夫そうですね」
秘密部屋も孤高者の捜波で確認するが、問題ない。
で、戻る。
「千弦、後ろ!」
広間に入るなり、ララベルが声を荒げた。自分を左肩を指差している。
「はっ?!」
千弦、反射的に肩を払う。
その手に、ざわりとした感覚。
払う動きに合わせ身を捻ったその視界に、大きな黒い蜘蛛。宙を舞いながら、黒い霧に消えようとしていた。
実体化が終わってなかったのだ!
「いけない!」
クールに言い放つと左手で自らのスカートの裾をまくり上げる。あらわになる白い太もも。上の方に黒いホルスター。ばっ、と右手が伸びると鋼の短剣を抜き放った!
「一撃で!」
余裕はない、との自覚。
――とすっ!
威力を込めた突きが見事に闇鬼蜘蛛の胴を捉えた。
果たして、蜘蛛は霧散することなく実体のまま死体となった。
ぎりぎり逃げられずに済んだ。
「弓は、良かったか?」
隠しておいた千弦の弓を渡そうとしていたロデが声をかける。
「一応人様のお屋敷ですからね」
その後。
「子供が被害に遭いやすい、って話だったけど……」
アシュリーが休憩広間で体を入れ替えながら大剣を横振りで一閃する。
「ホントにそうだったね」
二度目の巡回ではララベルから「夕方にはいた」という情報を手掛かりに巡回したため取りつかれた様子。いま払って空中に浮いていた蜘蛛を両断した。
退治は順調。
夜明けが迫るころには巡回してもまったく異常は見られなくなっていた。
「いやぁ、ありがとう」
館の主人が家族や使用人を連れて戻り、館の鍵束を引き渡した。
「蜘蛛のほかに気になることはないかね?」
主人の何気ない問いにララベルが反応した。
「ビリヤードのキューはもうちょっと短いほうがいい……かな?」
アシュリーとロデが笑った。
千弦は赤くなっているが。
マスターコメント
お疲れ様でした。大成功です。
スキルを駆使してもよし、何かしらの根拠から重点的に探してもよし、な依頼でした。書かれたプレイングから連動する行動と思わぬトラブルなどお楽しみください。個性あふれるプレイングに感謝いたします。
ショートシナリオ易しい 報酬:標準4 / 4〜6人
2021年10月13日 08時02分36秒 公開
大成功
相談掲示板
あ、成立しましたね。 シューターの楓月・千弦です。 そうですね、回ってみるのにもメイドやってみましょうか。
僕はシーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、宜しくね! 楽しく過ごしつつ、調べて回れたら。
はじめまして、ウォーリアのアシュリーだよ。 よろしくね! 私もメイドやりつつ調べてまわるねー。
今回、ペットの同行はしない方向で行きます。 ペットを使うのも手ですけど、屋敷内ですし。 入れる範囲で回ってみる感じが、良いでしょうね。 あと、各自、他の方の肩、項、首筋に気を掛けておく感じでしょうか。 自分のは見えませんし。
了解ー♪ 屋敷を見回って休憩室に戻ってきたらみんなでじっとにらめっこだね。 頑張るよー。