【CP】尊き不良在庫

馬車猪

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シナリオID:1239

オープニング

「協力しましょう」
 エルフの長老は穏やかに微笑み、難民の子等による手作り勲章への協力を約束した。

●森の中
 白蟻である。
 太い幹を短時間で食らってしまう魔獣(白アリ)が、リットを見てからは幹も枝も全て無視してリットを向かって来る。
「こっちくんな!」
 リットは利き手を動かせない。
 エルフから貰った木材(勲章の材料)を抱えていているし、木材を手放しても魔獣(白アリ)に狙わる気がすごくするからだ。
「だぁっ」
 もう一方の手で盾を振り回す。
 直進してきた魔獣とたまたまぶつかって、嫌な音をたてて盾が歪んだ。
「マジかよ」
 魔獣(白アリ)の噛む力が強すぎる。
 冒険者の装備と比べると安価で低性能とはいえ、一般兵士が持つなら十分な盾がただのゴミになってしまった。
「おいリット(ヒューマン)!」
 ここまで案内してくれたエルフがリットに呼びかける。
「事情は説明しただろう。そんなもの捨てて戦いに専念しろ!」
 矢を連射して魔獣を牽制する。
 授恵者(シューター)としての腕は並みかそれ以下だが、リット単独で戦うよりはるかに有利に……少なくともすぐに死ぬことはなくなる。
「んなこと言われてもっ、ガキ共は楽しみにしてるんだぞ!」
 人間はなんだかんだ言って(色々言うけれど結局は)権威好きが多いのだ。
 そのあたりで切って来た木より、エルフが用意してくれた由緒ある木の方が満足度が高い。
「だからと言って……魔獣の増援だっ!」
 2人は必死の表情で、冒険者が助けにくるのを待っていた。

●十数分前
「遠くね?」
 勲章の材料を受け取りに来た難民(リット)は、エルフに案内されて丸一日歩いていた。
「無料で渡せる物にはそれなりの事情があるのだ」
 真剣な表情をつくるエルフだが、目を少し逸らしていて説得力がない。
 リットは肩をすくめて歩き続ける。
 地面は草と落ち葉が邪魔で、何度も木の根につまずいて足先が痛くなる。
「なあ」
「あれだ」
 木と木の隙間から見える空が夕焼けの色になってようやく到着した。
 森の中に少しだけ開けた場所がある。
 小さな社は年月に晒されてぼろぼろなのに、無教養そのもののリットですら感じられるほどの存在感がある。
 リットは無意識に姿勢を正し、軽くではあるが頭を下げていた。
「うん?」
 が、頭を下げて視線がずれて、俗っぽいものが目に入る。
 伐採した木を乾かすための小屋だ。
「おい」
 ここって神聖な場所じゃなかったのかよと、雑草を剣で払いながら小屋に近づき中を見る。
 大事に保存しているという感じではない。
 伐採して加工したのに結局売れなかったような、寂しさと投げ遣りな雰囲気があった。
「これだ」
 エルフはリットの態度に気付かないふりをして、文化的価値も一応ある木材に手を触れる。
 投げ遣りな保存方法のせいか、乾いてはいるが綺麗な状態ではない。
「まあいいけどよ」
 リットは改めて木材を眺める。
 開拓のときに雑に切り倒し、煮炊きに使った木と同じ種類にも見える。
「キャンプの周囲に生えていた木と同じだ」
 エルフが説明してため息を吐く。
 祭礼の場に生えているから特別大事にする必要はあるのに、使い道がなく死蔵するしかない品だ。
 エルフの集落にとって、亜人や吸血鬼を打ち倒した冒険者に贈る勲章という名目は、不良在庫を処分する最高の名目だった。
「邪魔なら捨てればいいのに」
 リットは悪意なく失礼だ。
 壮年に見えて実年齢は3桁のエルフは、幼い子を見るような目をする。
「お前にもいずれ分かる。1度習慣になったものを改めるのは大変なのだ」
 ここはエルフの聖地ではなく、単に昔大イベント(魔獣相手の大勝利)があっただけの場所だ。
 放棄するには思い入れのある老人達が多すぎ、しかし頻繁に訪れ手入れするほどの価値はない。
 100年後には近くに住むエルフにすら忘れられるだろう場所だった。
「ここで一晩野営する。明日はこれを難民キャンプまで運ぶ。しっかり休んでおかないときついぞ」
 エルフは手際よくテントを組み立てて火をおこし、キャンプ経由で手に入るようになった干し魚を炙り始める。
 魔獣(白アリ)が徐々に忍び寄っているのに、エルフもリットも全く気付いていなかった。

●数日前。冒険者ギルドにて
「形式は護衛依頼、実質は輸送依頼になります」
 職員が冒険者に説明している。
「輸送するのは乾燥が済んだ木材です」
 安価ではないが、輸送費用を考慮すれば近所で買った方が良いという水準の木材だ。
「使用目的は勲章作成。ヴィントや帝国難民キャンプでの決戦に参加された方向けの勲章になります」
 あの決戦には多くの冒険者が参加したので、自らの勲章のための依頼に参加することになる冒険者もいるかもしれない。
「木材が保管されているのは森の中です。数十年前に白蟻型魔獣が出没した地域らしいですが、最近の情報はほとんどありません」
 エルフ側が持て余していたから、冒険者への感謝と帝国との友好のため提供されることになった。
 無論、決して粗末な品でないし、ある程度とはいえ尊重される場所に生えていた木だった木材だ。
 冒険者と帝国を舐めているわけでは決してない。
「戦闘があるとすれば、蟻型の魔獣か猪のような害獣相手になると思われます。決戦や激戦を生き残った皆さんには簡単な仕事かもしれませんが……」
 決して油断せず無事に戻って下さいと、職員は深く頭を下げていた。

解説

●目標  リットと壮年エルフの生存 ●敵 ・白アリ魔獣  外見は白くした蟻を凶悪な感じに戯画化した感じ。  全長2~2.5メートル。全高1メートル。  前進と後退の速度が非常に速く、1度噛みつくと対象を砕くまで止まらない(かもしれない)強敵です。  噛みつかれても、冒険者なら腕力や攻撃で振りほどくことができます  なお、左右に動くのは苦手ですし、防御も抵抗も生命も平凡かそれ以下です。  数は多く、誘き寄せる作戦を行った場合は最大11体が襲って来ます。 ●戦場  ほとんど管理されていない森です。時刻は夕方。  小さな社と小屋の周辺は草が生えているだけですが、少し離れると木が密集して見通しが悪く移動にも手間がかかります。  白アリ魔獣に破壊された木も多く、曲がりくねった通路がいくつもできています。  冒険者であれば、直接出向くか目が良ければ通路に気付けます。 ●他 ・社  本人達にとっては強力な魔獣を撃退したことを記念し、数十年前につくられた小さな石製社です。  マジカルポケットに収納可能な大きさです。 ・木材  戦闘開始直後はリットが持っています。  マジカルポケットに収納可能な大きさです。 ・小屋  引き取り手のない木材が複数、中に転がっています。 ・リット  最近は出張続きでどこが住所か本人にも分からなくなっている在野授恵者。  冒険者のいうことは基本的に素直に聞きます。 ・エルフ  難民キャンプの近くにあるエルフ集落のエルフ。  見た目は壮年で言動もだいたい壮年。授恵者ですが強くはないです。  社や小屋やその中身を処分する権限を、長老から全面的に任されています。  説得力のある理由があるなら、解体や移設にも同意します。 ・害獣  猪とか熊とか野犬とか  冒険者なら単独で複数を蹴散らせます。

マスターより

 手作り勲章関連依頼です。

リプレイ

●
「勲章作りの材料を分けてもらえるのは、嬉しいですね」
 戦士として優れた体格であると同時に、ハルハン・ツァガーンナルは真っ直ぐな若者であり少女らしくもあった。
「その通りだ。だから余計な気を遣ってしまった」
 アルベルト=V=シュタールシュヴェーアトはエーテルを加速(チャージング)に使い、大慌てしている義弟とエルフの元へ向かう。
 エルフの里の長代理と難民キャンプからの使者とで儀式的なやりとりをさせるつもりがこの有様(魔獣襲撃)だ。
 ある程度予想はしていたとはいえ衝撃は大きい。
「啓示によれば『こいついつも襲われてんな』との事ですが、つまり襲撃を受ける暗示が出ていた訳です。何体が出てくるかはわかりませんし、油断せず行きましょう」
 フリーダ=ブロムヴィストが鋭角で進路を変更した。
 十分に堅い木を脆い砂山か何かのように崩して現れたシロアリ魔獣を、白金のラウンドシールドで横からはたいて狙いを逸らし、白金のパラッシュで深々突き刺しダメージを与える。
「後ろにもう1体」
 約1メートルの透視能力は、無数の障害物がある森林内戦闘では非常に役に立つ。
 フリーダは強固な防具と巧みな防御技術を100パーセント発揮して、森林戦闘特化型の魔獣2体を食い止めるだけでなく徐々に追い詰めていく。
「シーフの早駆け一番は他の誰でもない、このクリエーナ様よ!!」
 クリエーナ・バーリフェルトはフリーダの援護を徹底的に活用する。
 垂直に伸びる木々を壁歩きで足場に変え、元々速い足(移動4)を疾風足でさらに加速させる。
「ねーちゃん?」
「何者!?」
 揃ってクリエーナを見てシロアリ魔獣に襲われそうになる馬鹿2人(ヒューマン&エルフ)は、年齢は違っても中身は似ているのかもしれない。
「ようリット! それにエルフの旦那! 気を抜いていい場面じゃないぞ?」
 不敵に笑って偉そうに指示を出す。
「冒険者は7人だ。勝てる。落ち着けよ?」
 自身の背丈より長い槍を精密に操作する。
 木や草に当たれば速度が落ち狙いも外れるはずなのに、クリエーナは巧みに槍を巧みに操り穂先を常に魔獣の口(急所)に浴びせて意識(ヘイト)を自らに集中させる。
(増援が2体とは、アリのくせにやる)
 片手間(サブアクション)で使える捜波・改は、森林特化とはいえただの魔獣でしかないシロアリ達を見逃さない。
 クリエーナは回避集中(回避2割増)と精神集中(反応強化2)で、無傷のまま2人が退避するまでの時間を稼いだ。
「リット君!」
「ねーちゃん!」
 目を見るまでもなく、言葉の響きと気配だけで意思疎通可能なほど付き合いが濃い。
 シルク・メイプルリーフが大きく開いた胸元にリットが抱えてきた木材を投擲。
 ぎょっとする壮年エルフが止める前に、木材はシルクの異空間に消えリットは横薙ぎに剣を振り回す。
 同じくらいに固く強靱な物が打ち合う音が強く響き、飛び散った火花がリットと魔獣の顔を照らし出した。
「側面!」
「おう!」
 リットが弧を描いて魔獣の右側に移動するのと同時にシルクが前進。
 特にスキルは使っていないが、閉所で複数方向から攻められると前進も退却も非常に困難になる。
 魔獣が動けなくなる。
 壮年エルフは呆然としたまま、シルクの意図通り安全な場所まで後退に成功した。
「リット殿盾は」
 数十メートル後方で矢をつがえたドローミが問うと、落とした、とやけくそ気味の言葉が返ってくる。
「アルベルト殿のようにはいきませんか。あなたはエルフ殿の撤退援護を」
 薄塩水入り革袋を担いだゴリラが、静かにうなずき壮年エルフと合流する進路をとる。
「白アリってゴキブリですよね」
 弓の活躍が始まった。
 木々が密集していても日が落ちかけていても、鍛えた授恵者の五感と射撃技術があれば十分当てることは可能だ。
 まず攪乱用のエーテルを矢にまとわせる。
 冒険者と直接戦闘中の個体から射線が通っていたものを選んで射撃。
 頑丈で生命力あふれる魔獣は倒れはしないが攻撃の狙い(命中)が目に見えて低下する。
「次」
 範囲攻撃(炸光矢2)に切り替える。
 木々に価値はないと聞かされているので遠慮はなしだ。
 光の破片による爆発を何度も繰り返して、効率よくシロアリ魔獣とついでに邪魔だった木々や草を痛めつける。
「えぇ……ずいぶん手慣れて……」
「エルフ殿、ここはまだ戦場です」
 ドローミが森を壊しても特になんとも思っていないことに気付き、経験は豊富でも経験の種類の少ないエルフが恐怖に近い感情を抱いていた。

●
 ダマスカス鋼の大太刀が、シロアリ魔獣の脚を複数切り飛ばす。
 巨体を動かす熱量を秘めた体液が飛び散って、アルベルトが片手で軽々構えた盾の表面を汚した。
「リット、苦しいだろうがここは凌ぎ切ってくれ!」
 あちこちから響く戦闘音より大きな声で呼びかける。
「ぬいぁ(にいちゃ)ーっ!!」
 リットはシルクに援護されていてもかなり苦戦中だ。
「シロアリ魔獣を早く全滅させないとリット君が危ないな……速攻で行くぜ(まずは数を減らす)!」
 前方に対する防御は維持したまま構えを変える。
 ただ速く、しかし力は維持して、その上で斜め横に対し最も威力が出る一撃を実現するための構えだ。
 全く無傷だったシロアリの装甲が正常に機能することを許されず、アルベルトの剛力をまともにくらう。
(魔獣の割に固いな)
 アルベルトの感想はあっさりしたものだが実際に行われた破壊は壮絶だ。
 切断された装甲が衝撃に耐えきれずに自壊。
 魔獣の神経と筋肉を巻き込んでずたずたにして、均整のとれた武器(五体)を無残な残骸に変えて森の地面にぶちまける。
「ここは任せろ!」
 長距離の移動では速度に不安がありはするが、直接的な攻防には圧倒的に強いのがアルベルトの特長だ。
 徐々に後退するリット達に代わって、強固な殿を担当するようになった。
「なんだ、これは」
 壮年のエルフがよろめいた。
 良い香りというには強すぎて、悪臭と評するには豊かすぎるかおりが鼻の奥に残って消えない。
「まったくリット殿は厄介ごとの星の下に生まれたようなもんじゃのう。巻き込まれたおぬしも大変じゃな」
 幼い見た目なのに相変わらず堂々とした態度のク・サーヤ・クッセーワが、自分自身とそのにおいを囮にする。
(何者? まるで数十年前にようやく嫁にいった姉さんのような)
「なんじゃその目は。熱烈に見ても愛想くらいしか返せぬぞ」
 サーヤはふふんと得意気に笑い、小刻みな加減速と位置変更を開始する。
 大きく回り込んで来た……冒険者を回避し森の破壊(侵攻路確保)に専念できたためシロアリ魔獣2体が予想よりずっと早く追い付いてきていた。
「若いのはほんに世話の焼ける。とまあ、そこがまたかわいらしいのじゃがのう」
 ドローミのペットであるゴリラが拾った石を投擲。
 サーヤと比較すると体積で1桁は大きなペットは非常に目立ち、魔獣の注意がサーヤから逸れる。
 魔獣はにおいを追えばサーヤの位置はいつでも分かると思ってしまい、木の陰に入ったサーヤを見失った。
(恨みはないが、この地のエルフのためにもおぬしらを増やす訳にはいかんでな)
 自身のにおいに紛れて小さな針を滑らせ魔獣へ接近。
 絶妙な角度と力加減、何よりよく練られたエーテルが、強靱な装甲の性能を半減させ小さな武器の威力が1.7倍以上に強化される。
 生存に不可欠な神経を傷つけられたシロアリが、全身を震わせながらサーヤを追おうとして木にぶつかり激しく揺らした。
「何をしておる。ぬしの戦いはまず生き残ることじゃろうが!」
「っ、すまない」
 走り去るエルフを見送る余裕はない。
 サーヤは回避重視の構えをとり高速(移動5)で位置変更。
 タナトスバイトで脅威を与え、特徴のありすぎるにおいで攪乱しつつ時間を稼いでいた。
「こっちです!」
 ハルハンが、全長1メートルもある鋼の斧を団扇か何かのように振るって長老代理(壮年エルフ)を誘導する。
 そこは森にときどきある広場のような場所で、敵の奇襲を受けにくい。
 ドローミが火をおこして野生動物を威嚇して、ゴリラ(ペット)が油断なく背後を警戒して安全を確保していた。
「ひ(1)のふ《2》の……み(3体)!?」
 ふさふさの熊耳が緊張する。
 追撃してくる敵の数が予想外に多い。
 強者(冒険者)を避けて栄養たくさん(エーテル豊富)なエルフを狙っているのかもしれないし、ひょっとしたら昔にエルフを食らって味を覚えてしまったのかもしれない。
「大丈夫です! 集団は怖いですが、ボクは鎧も盾もあります」
 ハルハンは限界まで鍛え抜いている訳でもないし防御特化でもない。
「これが何のためにあるのか。それは、守るためです!」
 だが覚悟はある。
 ほぼ1列で突進してくるシロアリを迎え撃つ。
 衝撃はダマスカス鋼の全身鎧と強靱かつしなやかな体があっても強い痛みがあるほど強く、しかしハルハンの豊富な生命力は1度や2度の攻撃では消えはしない。
(後ろは広場で横に移動されたら追えない。ならっ)
 最後尾のシロアリ魔獣に殺気とエーテルを叩き込む。
 そして、大きな斧をさらに大きなエーテルで覆った上で不可視のエーテルを展開。3体の魔獣の狙いをハルハン1人に集中させた。
「無茶とまでは言いませんが危ないことをしますね。援護します」
 ドローミが援護(堅甲2)をしてもともと強固なハルハンの物理防御力を強化する。
「まだまだぁっ!!」
 ハルハンは両足で踏ん張り全身で重さを受け流す。
 だが多勢に無勢だ。
 殺界を続けて使うか負傷を覚悟するかの状況に追い込まれそうになった。
 残照に照らされた白金の戦士が駆ける。
 赤に染まった直ぐな刀身は美しくはあるが、数メートルにまで膨れあがった光塊が目立ち過ぎている。
「高度の柔軟性が必要という場面ですね」
 フリーダはシーザーロアもカバリングも使わず、ただ振り下ろす。
 殿やリットを突破する際に傷ついた魔獣達に、一般的な基準では十分に強力な闘気槌(範囲攻撃)が打ち下ろされる。
「見事な判断です」
 殺界が維持されていることに気付いて称賛を口にする。
 ハルハンに深手を負わされたシロアリが、脚を壊され地面に叩き付けられて体液を流して痙攣する。
「私も頑張りますよ」
 いつも通りに冷静ではあるがやる気は増している。
 闘気槌を2度、3度と叩き付け、ぼろぼろになった魔獣が逃げようとするとエーテルで加速して刺突で仕留めた。
「無事か?」
「ええい木も残骸も邪魔じゃ!」
 冒険者が追い付いてくる。
 複数を相手するなら手こずる魔獣も、複数で攻めるなら楽な相手だ。
 それでもハルハンは最後まで冷静さを保ち、大振りには決してならずに着実にシロアリを仕留めたのだった。

●
 日が落ちれば夏でも冷える。
 冒険者とエルフとリットは、交代で警戒しながら火に当たっていた。
「来ませんね」
 ドローミは良い加減になった干し肉を火から離す。
 シロアリ魔獣の増援も害獣も襲って来ない。
「全部倒したんじゃねーか?」
 干し肉を受け取ったリットが舌を熱くしながらそんなことを言う。
「魔獣は繁殖するのですよ。既に卵が産み落とされているかもしれません」
「そんなことまで考えなきゃなんねーのか。冒険者って難しい仕事だよな……」
 リットは感心してうんうんうなずいている。
「可能であれば小屋の中の木材も運んでしまいましょう。白蟻に食べられてしまうよりは良いでしょう?」
 フリーダは火のついた枝を1本借りて灯りにし、体力を活かして乾いた木材をいくつも運んで来た。
「マジカルポケットの使い手が複数いるのか!」
 習得の困難さを知るエルフが驚愕している。
「木材や社は、一緒に運んでしまったほうが良いと思います。聖域ほどではなくても、思い出の場所。手入れされていない社は、朽ちるのも早いですから」
 かなりの大きさの木材を収納したハルハンが、せめて、社を手入れしやすい場所に移したらと提案した。
「それは」
 感情的にはうなずきたいのにエルフの立場が許さない。
「戦勝記念の地にクリーパーが湧くとは因果なものよのう。されど戦勝も記念も、政治も何もかもが腐敗と無縁でいられぬというのなら致し方なし」
 エルフはサーヤの言葉に反論するが形だけの反論だ。
 腐敗の部分も本心からは否定できなかった。
「社は過去の勝利の証しか……」
 闇の中にある社の方向に目を向けて、クリエーナが考え込む表情になる。
「白蟻どもがどっから来たか分からんゆえ、近場に巣でもあるかもしらん、この辺は近寄れなくなるだろうな。石製だから壊れはしないだろうが」
 撤去した方がマシな扱いをされるかもなと、そうなる確率の高い未来を口にする。
(積み上げたモノ、功績の重さは俺にも良く分かるぜ。なんせ俺は今積み上げてる真っ最中なんだからよ)
 帝国崩壊と再建という巨大イベントの中で足跡を刻んできたクリエーナだ。頭だけでなく心でも理解し共感できる。
「勲章を、誇りを捨てるのは良くないよなぁエルフの旦那! それが老体の昔話でもさぁ! いずれ朽ちるモノだろうと! 忘れられる物だろうと! 今ここで奪われるのは話が違うだろうよ!!」
「そうなんだよなぁ」
 壮年エルフが肩を落として同意する。
 集落という狭い社会で生きていた老エルフ達にとって、あのちっぽけな社はヴィント(人類領域)奪還戦での勲功に匹敵するものだ。
 無慈悲に否定するのは非常に心苦しい。
「ここに置いておいてはおそらくすべて破壊されてしまうでしょう、新たな場所にて祀り直してみてはいかがですか?」
 同じエルフであるシルクが口を挟む。
 冒険者としても聖職者(シスター)としても活躍してきた彼女の言葉には説得力がある。
 ただ、リットの肩に後ろから顎を乗せてのんびりしているのは、擦れた人間ならともかく健全な青少年には目に毒だ。
「義弟(リット)をいじめないでやってくれ。我慢も辛いぞ?」
 アルベルトが礼儀正しく要請する。
 豊かな胸は鎧で感触がなくても、暖かな体温と微かな体臭がリットの男を強く刺激している。
 しかもしっとりとしてもちもちした頬の感触がリットの頬に頻繁に触れて、普段は隠れているエルフ耳がリットの耳に触れることすらある。
 冒険者複数の目がなければ、シルクに鎮圧されるのが確実でも暴発しかねない状況だった。
「まだ15ですよね?」
「まだじゃなくてもう15だぜ!」
 エルフとヒューマンの時間感覚は、かなり違うのだった。

 翌朝。
 情け無い顔をするリットを慰めながら、壮年のエルフは冒険者に社の輸送を依頼した。
「今回の戦いも反映させることでジジイ……失礼、長老連中を納得させるつもりだ」
「へー。俺の名前も随分長く残りそうだな?」
 クリエーナの言葉は本音と冗談が半分ずつだ。
「いや……そう、だな。そうなるだろう」
 異空間に収納される予定の社に掘られた名前とリットを交互に見て、数十年後には長老になるはずのエルフが深くうなずいていた。

マスターコメント

 エルフの里に戻るまでにシロアリ魔獣の卵を見つけることはできませんでした。  しかし魔獣の卵について指摘された地元エルフ達が強い危機感を持ち、長期間の調査を行い卵と小さな魔獣を発見して処理したそうです。  社は、8人の名前を増やした上でエルフ集落の隅っこに移設されました。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準7 / 4〜8人

2021年08月18日 03時08分00秒 公開

成功

相談掲示板

  1. No.1

    シスターシルクです。 とりあえずリットくんの援護と木材の受け取りですかね。 敵の数がわかりませんが殲滅というよりは撤退戦でしょうかねコレは?

  2. フリーダ=ブロムヴィスト

    ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 初動見る限りでは襲われているみたいですし、リット様達の援護と敵の排除が急務でしょうか。 木材をリット様達が運ぶのを援護しつつ、安全圏まで運ぶ形がよろしいかと。

  3. ク・サーヤ・クッセーワ

    シーフのサーヤじゃよ。 よろしく。 手間のかかるやつじゃのう、リット殿は。 まあ、そこがかわいいんじゃがの。 撤退戦というても追いまくられるのはこのみではないから規定数は殲滅するのじゃよな?

  4. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 義弟のリット君を襲撃している白アリ魔獣は殲滅してやるぜ!!

  5. リット

    ねーちゃんににーちゃん! 今回もよろしくなっ!

  6. No.6

    私はとりあえずリット君から木材を受け取ってマジカルポケットに入れておきますね。コレでリット君が自由に動けるはず。 そのまま援護しつつ退散出来れば退散しようかと思います

  7. フリーダ=ブロムヴィスト

    >方針 それでは私は追いすがってくる敵を抑える殿役として行動しようと思います。 範囲攻撃を駆使して接近を妨害しつつ下がっていけばなんとかなるかと。

  8. ドローミ

    遅れました、ドローミです。 宜しくお願いしますね。 今回11匹迄狩れると空から声がしますが、撤退のみに留めますか? また、社も持ち帰るとリット君は喜びそうな? >シルク殿 ゴリラ連れて行きますので、携行中の木材は確保できると思います。 検討ください。

  9. No.9

    社の回収や移設についてはエルフのおじさまの許可が必要ですね。 おびき寄せられるのが11体までと言う意味では( 限界まで狩るのも周辺の安全のためには良いかもしれませんね

  10. No.10

    もし殲滅できるなら小屋の木材ももらっていってしまいましょう

  11. ハルハン・ツァガーンナル

    ウォーリア、ハルハン・ツァガーンナルです! よろしくおねがいします! >方針 無事に木材を届けるために、倒せるものは倒したほうが安心そうですね ボクも、倒せるものは倒していく殲滅へ賛成です まっすぐ進むのだけが速いようなので、殺界を使えば、ある程度の足止めはできそうです。

  12. クリエーナ・バーリフェルト

    オイッス、見知った顔も多いな? シーフのクリエーナさんだっぞい! ふむふむ、詳しく言及されてないが、大勝利を収めたっていうのは白アリ相手かな。 とすると、数十年前に倒したのにまた出てきた……って事だからどっかに巣かなんかあるのかねぇ。 そんで、社近くまで来たって事は……小屋の中身と社は回収しないとダメになるって事なんだろうな。 白アリが出た今、もうだれも来れんだろうしなぁ。

  13. クリエーナ・バーリフェルト

    ま、とりあえず俺は斥候として動くよ。 陽動すると11体って話だが……もっといると見た! 《壁歩き》で倒木とか多少無視して動き回れっからよ!

  14. ドローミ

    【質問】 Q1 リット殿相変わらずピンチですが、お元気そう何より。 小型の社は、キャンプに持って帰ってもエルフは文句言いませんか? >クリエーナ殿 水泳の授業がある日は水着の上に服を着て、熱中症になるタイプのクリエーナ殿お久しぶりです。 別依頼の黒蟻退治では、卵を探して焼くというプランが実行されていました。 余裕があったらスキルで探してもらう事は出来ますか?

  15. リット

    A1 キャンプ行きはさすがに無理じゃねーかなー。

  16. ハルハン・ツァガーンナル

    そうですね。社も手入れされていないようですし、エルフの集落へ移設できれば、と思います 小屋の中の木材も、このままだと食べられてしまいそうですし、輸送できそうなら、運んでしまったほうが良いでしょうか? クリエーナの言う通り、過去に出たのも白アリ魔獣みたいですね 冒険者ギルドでも言われていますし、また増えてしまった。ということでしょうか >白アリ魔獣 横への移動が苦手で、現地に曲がりくねった通路。 利用するなら、おびき寄せて、左右から挟み撃ちにするのが、対応しやすそうに思います

  17. No.17

    誰かが受け止めて他の誰かが側面攻撃で各個撃破でも良さげですね

  18. ドローミ

    >リット殿 回答ありがとうございます。 ハルハン殿の提案が妥当なのでしょうね。 どうぞ今回は宜しくお願いします。 >シルク殿 今回も宜しくお願いします。 回復系どの程度用意されますか? 『治療強化』持たなくてよければ、リット君用に『堅甲2』持ちたいです。

  19. ハルハン・ツァガーンナル

    >方針 フリーダが殿を務めるようなので、ボクもそれに合わせて! 数が多いので、シーザーロアと、足止めと反撃ができる殺界を持ち込もうと思います 木材は、きっちり送り届けたいですね。 ボクも、この機会にマジカルポケット、覚えていこうと思います

  20. ドローミ

    リット君の木材はゴリラに受け取らせます。 皆さんその他の木材、社お願いしたいです。

  21. ハルハン・ツァガーンナル

    >リット君の木材 シルクが、マジカルポケットに入れておく。という発言があったので、そちらのほうがいいと思います 白アリ魔獣の動きを見ると、リット君の木材を狙っている雰囲気もあるので、ゴリラに持たせると、そちらが狙われるかもしれないと思うので

  22. No.22

    ヒーリングオーラとサイドヒール改を除いて24回分ですね>ヒールの貯蔵は十分か

  23. No.23

    回復量としては1回約150ぐらいです

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0