素描~フライングケープ
瀬川潮♭
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シナリオID:1204
オープニング
ここはエラトゥーン都市同盟の冒険者街。
「私もお願いします!」
年頃の娘が期待に満ちた目で似顔絵の絵師に頼み込んでいた。
娘、小ざっぱりとめかしこんでいる。
(可愛らしく描いて、というところだろう)
絵師は快諾。
「すこし左手の方を向いて。その方が魅力的ですよ」
「こ、こう?」
素直に従う娘。褒められて頬を染めている。
「はい。とても描きやすくなりました」
お世辞ではない。頬が上気して表情が和らいでいる。いい表情をして、絵を見て自覚し、日々の生活に潤いが出ればよい縁談も舞い込むだろう。
絵師の名前は、ロデ・ラーク。
どこからか流れてきた《授恵者》だ。背は高く、苦み走った表情の男。どこか暗い。
ロデ、木炭を荒い目地の紙に走らせる。はじめは軽く輪郭を取り、次第に強く。
「できた。どうぞ」
出来栄えを最終確認して手渡した。
「まあ、これが私? ありがとうございます!」
愁いを帯びた瞳に今にも愛をささやきそうな唇。目じりの特徴をとらえ、つぶれた鼻は表情のやさしさを強調するように。
(心までは描きこめないけどね)
そんな思いは口にはしない。あくまで仕事だ。
嬉しそうにデッサンを抱いて帰る娘を見送りながら、報酬をしまう。
これが男の日常。
いや、もう一つある。
「絵師さん」
そっと花売りの娘が寄ってきた。
「絵になりそうな依頼がありましたよ」
「了解。どんなのだった?」
ロデ、腰を上げ画材をしまった。
「森の中に空飛ぶケープが出て猟師さんを窒息させようとするんですって。狩場にいま魔物が出ると秋の最盛期に影響が出るから早めに退治してほしいみたい」
干し肉なんかは秋のお祭りに間に合わなくなるかも、と花売りの娘。
「それは大変。奇譚のいいモチーフになるし、酒代にもなる」
「うふふ。飲みすぎちゃだめですよ」
ロデ、花売りに情報代として菓子を手渡し冒険者ギルドへ。早速、依頼を受けた。
ほかに参加する者もいる。
「私もお願いします!」
年頃の娘が期待に満ちた目で似顔絵の絵師に頼み込んでいた。
娘、小ざっぱりとめかしこんでいる。
(可愛らしく描いて、というところだろう)
絵師は快諾。
「すこし左手の方を向いて。その方が魅力的ですよ」
「こ、こう?」
素直に従う娘。褒められて頬を染めている。
「はい。とても描きやすくなりました」
お世辞ではない。頬が上気して表情が和らいでいる。いい表情をして、絵を見て自覚し、日々の生活に潤いが出ればよい縁談も舞い込むだろう。
絵師の名前は、ロデ・ラーク。
どこからか流れてきた《授恵者》だ。背は高く、苦み走った表情の男。どこか暗い。
ロデ、木炭を荒い目地の紙に走らせる。はじめは軽く輪郭を取り、次第に強く。
「できた。どうぞ」
出来栄えを最終確認して手渡した。
「まあ、これが私? ありがとうございます!」
愁いを帯びた瞳に今にも愛をささやきそうな唇。目じりの特徴をとらえ、つぶれた鼻は表情のやさしさを強調するように。
(心までは描きこめないけどね)
そんな思いは口にはしない。あくまで仕事だ。
嬉しそうにデッサンを抱いて帰る娘を見送りながら、報酬をしまう。
これが男の日常。
いや、もう一つある。
「絵師さん」
そっと花売りの娘が寄ってきた。
「絵になりそうな依頼がありましたよ」
「了解。どんなのだった?」
ロデ、腰を上げ画材をしまった。
「森の中に空飛ぶケープが出て猟師さんを窒息させようとするんですって。狩場にいま魔物が出ると秋の最盛期に影響が出るから早めに退治してほしいみたい」
干し肉なんかは秋のお祭りに間に合わなくなるかも、と花売りの娘。
「それは大変。奇譚のいいモチーフになるし、酒代にもなる」
「うふふ。飲みすぎちゃだめですよ」
ロデ、花売りに情報代として菓子を手渡し冒険者ギルドへ。早速、依頼を受けた。
ほかに参加する者もいる。
解説
どこかの森で目撃された魔獣「空飛ぶケープ」を退治してください。
・空飛ぶケープ
文字通り、袖なしの外套といった外見で宙を舞い、動物を窒息死させる謎の生命体。
色は白いので遠くからも視認できる。
数体が集まる傾向がある。
このため、3匹程度と数回遭遇する可能性がある。
一度引き裂かれたくらいでは再生するため、3匹に襲われれば一般的な熊でも簡単に餌食になる。
※注意!
すぐに駆け寄れない位置から遠距離攻撃をすると、地面に落ちて下生えに隠れて逃走するので失敗確率が上がります
・ロデ・ラーク
ヒューマンでシーフの男。36歳。高身長で目立つが陰をまとう印象。
実家で戦闘訓練を受けており腕は立つ。
・討伐後
ロデから「ちょい飲もう」と酒場に誘われる。酒でもジュースでもお茶でもいい。
挿絵付きの奇譚にしたいため、戦った所感を聞きつつ飲みたい様子。
ただし、彼は実際に奇譚に仕上げたことのない根性なし。
マスターより
ふらっと、瀬川です。
はじめましても人もお久しぶりの人もよろしくお願いします。
一反木綿だと和風になってしまうので西洋アレンジで。
戦闘と個性の演出をお楽しみください。
※絵描きPCに向くシナリオですが専門知識不要で《絵描き気分》を楽しみましょう(瀬川も絵描きではない)
よろしくお願いします。
リプレイ
●件の森にて
魔獣「フライングケープ」が出るという森は静かだった。
小鳥のさえずりもなければ下生えを歩く小動物の気配もない。
「猟師さんに被害が出たら大変だから、やっぱり放ってはおけないよね!」
港町風衣装をまとうララベル・サン・ディーベルが純粋な瞳で大きな声を張る。青いセーラー襟の前でぐ、と拳を固めている。
森は静かだ。
「あたしたちに期待されてるんだから、裏切るわけにはいかないよ!」
続けて猫耳軽装少女のアリエッタが元気いっぱいに同意。猫尻尾と三つ編みにした長い髪が背後で揺れる。瞳は好奇心でくりくり。女の子全開だ。
森は、静か。
そして小道を先行する二人の後続も、静か。
「にぎやかなのは囮になるって言ってたから、か」
二列目を歩く似顔絵師のロデ・ラークがそう感心する。
「いや、いつもあんな感じですよ」
同じく二列目を行く黒髪ポニテの凛とした少女、楓月・千弦が静かに言った。連れている狼「ハヤテ」も主人と同じく、静か。
「いつもって?」
「あの人の『ふしぎ亭』でも、いつも明るいですから」
確認したロデに千弦は微笑する。ロデ、「なるほど。人生、囮みたいな人か」とぽそり。聞こえたはずの千弦、微笑のみ。
「後ろはどう?」
ロデ、今度は最後尾を気にした。
「フライングケープ、早くお目にかかりたいものなのだ」
獣の白骨面を額当てにする女性、ストレガ・L・リベルガストラがぽそり。
「いつでも発見してくれていい」
同じく最後尾の大きなもふもふ尻尾の少女、コハクも臨戦態勢。無駄のない言葉のみで周囲への警戒を怠らない。
「了解。……しかし、見つからないね」
ロデのため息。
無理もない。
一行が森にはいってずいぶん歩いているが敵をいまだに発見できないのだ。
ここでストレガが切り出した。
「そもそも魔獣なのか?」
ロデと千弦、振り返った。
「もちろん霊体か魔法生物の可能性があるが、非生物の魔獣とは珍しいのだ」
「ひらひらしたケープですから難しいところですねぇ」
発言の真意を説明するストレガに、冷静に考える千弦。
「彼等は生物を倒してどうするのかにも興味ある」
ストレガ、どうやら生態にも興味がある様子。
「まあ、発見した猟師たちが『魔獣』と思ったんだろ? 分析できるわけもないし」
ロデがなだめた時だった。
「ララベル、見つけたみたい」
コハクが前衛の反応に気付いた。
歩き続けていたララベルとアリエッタが左手を向いて腰を落としているのだ。
後続四人が二人の視線を追うと……。
「いた。三枚がくるくる回っている」
「ケープのダンスですね」
コハクが目を細め、千弦が敵三体の動きに目を見張った。
「捕食中とかではないな」
「戯れているだけ、か?」
ストレガの観察にロデの判断。
とにかく、こちらが先に見つけた。
六人全員が頷きあい、手筈通りの動きに移った。
●遭遇戦
「行くよアリエッタ!」
ララベル、小道を外れて左の敵一団へと突っ込んだ!
「任せて! 囮役は完璧だよ!」
アリエッタも弾かれたように動き出して追う。
下生えがあろうが速い。ララベルは両手の剣でばっさばっさと道を作りアリエッタは身軽に跳ねながら進む。
「右回りの雁行陣形で突っ込む。左の退路を断つように」
続いて後衛からコハクが快足を飛ばして移動。前衛二人を追うように動くことで左手側をがら空きにした。敵が逃走する場合の想定ルートを確定させることで戦場の流れを支配するつもりだ。
残る三人。
「ハヤテ、念のために左を調べて」
千弦からの指示でペットの狼がわふ、と呼吸し下生えを超えるジャンプ。そのまま道なき道を進み敵の想定退路にぐるっと回り込む。
これで準備は万全。
「撃ってもいいな。……どこかに隠れていてもこれで一網打尽なのだ」
初手はストレガ。激しい氷嵐が静かな森にごおぅ、と吹き荒れる。前衛と敵が接敵する前に範囲攻撃で一掃するつもりだ。
威力も十分。
一発で三枚すべてのケープが落ちた。
しかし、事前情報ではここから再生して再び襲い掛かるか、それとも地面を逃走するかに分かれる。
このままでは逃走の可能性もあるが……。
「……謎の浮遊物体、僕達が相手だっ!」
ララベルが突っ込む!
落ちて下生えに見えなくなったケープだが、すぐに再生して応戦。体を広げて体勢十分。ララベルに襲い掛かる!
「させないよ……喰らえ、疾風三連突!!」
巻き込もうとする相手に逆らわず見切り、両手に持った二振りの細剣でトリプルファング。
胸の黄色いセーラーリボンが激しく揺れた。腕だけではない全身を使った素早い連撃!
――ばさ、ばさっ、ばさっ!
相手の反撃を食らう前に滅多斬り。オーバーキルでケープは跡形もなく消滅した。
「まず一枚!」
攻撃完了。身を低くし切り裂いた余韻に浸るララベル。
敵はまだいるが完全に動きを止めた。
それが、戦線離脱を図ろうとした別の一枚の動きを止めた。
そして新たな人影。
「逃さない!」
アリエッタだ。
三つ編みの髪と猫尻尾が跳ねる!
ララベルの右を回り込み短剣で斬りかかった。
大きく力強く、左袈裟にバッサリ!
しかし、一撃で中心を裂くもすぐには行動を止めない敵。左右の布で包みこもうとするが……。
「あたしの動きは疾風!」
2本目の短剣を抜き両手のどちらからでも攻撃できる状態に。
さらに認識を妨げるエーテルを展開!
「誰にも止められないよ!」
死角から必殺の暗殺剣で切り込む。その攻撃の流れでもう一方の短剣でも斬りかかろうとするが、すでに敵は消滅していた。
アリエッタは敵の奥への逃走を阻止するため大きく右に膨らんで接敵していたが、その心配がないほど圧倒的な攻撃だった。
この時、最後の一枚は……。
「黒刀【雷帝】!」
二列目から追走していたコハクが届いた。刃先が赤く峰が黒い、やや長めの刃を構えている。
そのまま敵と交錯!
突っ込んだ勢いそのままに横一直線にケープをバッサリ。再生は間に合ってないが泣き別れした上下二枚はまだ動く。コハクに絡みつこうとする。
しかし!
「黒刀……【炎帝】!」
もっふり振るった尻尾はバランスを取るため。続けて副装備の刀を抜き放ち上の半分、雷帝の方で下の半分を切り払った。
ざっ、と着地した時には敵はバラバラ。
息絶えたか静かに消滅した。
改めて立ち上がると同じく身をただしたララベルと視線が合った。そしてアリエッタもこっちを見ている。
うん、と無言で頷きあう。
討伐完了だ。
●真相
いや、まだ終わってなかった。
「ハヤテ?」
偵察に出したペットに異変に千弦が気付いた。
確認すると三枚が回っていた下の地面にスライムらしき白い塊があったのだ。
それだけではない。
「新手なのだ」
ストレガ、そのスライムから新たなケープが一枚浮き上がったのを確認した。
新たな事実に骨面の額当てをぐっと下げ瞳を光らせる。
「驚きの新事実もあったのだ」
「ハヤテ、下がって! 近くに撃ち落としますから、皆さんお願いしますね」
相棒を心配し素早く鋼の短弓を引き絞り矢を放つ。
伸びた射線は見事にケープの中心を射抜いた。
この隙にコハク、アリエッタ、ララベルが殺到し落ちたケープと地面にいた白いスライムにとどめを刺した。
その後も探索は続く。
「倒したケープを束ねて持ち帰ろうとしてロープを持参したのだが……」
ストレガがとても残念そうに右手に持ったロープを眺めている。
「ケープの正体がスライムの一部だったとは驚きだね」
ララベルがその言葉を継いだ。
「そもそもケープではなかった」
ばばん、とコハクが事実を一言でまとめる。
「でも、あれなら素早くないスライムでも狩りができるよねー」
アリエッタが感心する。
「その点は興味深いのだ。しかし、あれはケープ一つで一つの生命体とするべきなのか、それともケープを出す枚数が決まっていてそれを含めて一つの生命体とするのか?」
「うーん、スライムだから集まって一つになることも分離してそれぞれ活動することもありそうですし……」
ストレガと千弦が新たな疑問に首をひねる。
「ちょっと、警戒緩んでない?」
ロデ、熱を帯びる議論に待ったをかける。
これに千弦がにっこり。
「ハヤテを偵察にやってますし、目視はもちろんエーテル探査もしてますので安心してください」
「そうそう。音は意味ないかもだけど、探知用のエーテル波動は走らせてるからね」
千弦に続きララベルもしっかりしていることをアピール。
「あ。ひらっとした薄いの……あれもかしら?」
千弦が超視覚でかなり遠方の異変を発見した。
なんと空飛ぶケープ、木の枝にかかっていた。飛行物だけに絞っていると見逃すところだった。
「干した洗濯物みたい」
アリエッタも確認。
とにかく、前回同様に前衛と後衛の連携で叩いた。
ここまでは先手を取ったが、不覚にも敵に先手を取られることもあった!
三度目の遭遇は不運というしかない。
「うわっ!」
ロデたちの頭上からケープが丸まって落ちてきた。
――ざざっ!
前衛のララベルとアリエッタ、そして後衛のコハクが素早く反応し距離を取る。いきなり纏いつかれて窒息攻撃を受けるわけにはいかない。
問題は中衛の千弦とロデだが……。
「これで時間が稼げるのだ」
後衛のストレガが残ってスタティックフィールドを展開。背が高く一番に狙われたロデを援護する。
「助かった!」
ロデ、ナイフで切りつけながらしりもちをつき転がって離脱。
一方、同じく狙われた千弦は弓を持っている。いきなりの密接戦闘だ!
「ハヤテ、お願い!」
素早く短刀を抜き切り付けると身をひねって戦線離脱。その空いた空間に……。
――ウォン!
全身のばねを聞かせハヤテが跳躍。主を守るべく追撃で食らいついた!
その後、再突撃した仲間全員ですべてのケープを倒した。
「あとは上ですね」
「樹上のスライムもなかなか珍しいのだ」
上を見た千弦とストレガ。樹上に遠距離攻撃を乱射するうち、たまらず落ちてきた白いスライムを残りのメンバーで叩きのめした。
●宴の仲間
こうして討伐行は終了。村に戻ると村長らが歓迎し手料理でもてなした。
「いやぁ、ちょうどいいなぁ」
うきうきとお世話になるロデ。仕方ない、と残りのメンバー。
いや。
コハクだけは乗り気だ。無言ながらふんす、と鼻息が荒い。
そしてジビエやバゲット、ドリアにサラダと目の前に料理各種を山盛りにしてもらい、食らう・食らう・食らう!
「ハヤテ、お疲れ様でした」
紅茶を優雅に飲んでいた千弦は、足元に待機するペットにイノシシ肉を差し出す。ハヤテ、「よし」が出たものと理解し早速食らつきコハクのように夢中になる。というか、コハクが野生に帰っているというべきか。
「アリエッタが倒したケープは絵になるような動きをしてたかい?」
ロデは酒を飲みつつ奇譚制作のための情報収集をしている。
「うん。表情のある動きだったよ。あたしに気付いたらこう、身をひねるような動きをしたし」
アリエッタ、明るく身をひねって見せる。
「ララベルなんかとっても早いから、ケープもびっくりしたようだったし。ね、そうだよね?」
笑顔で仲間に話を振る。
「そうだね……そういえば絵を描いてるんだよね?」
ララベルはロデの仕事に興味津々。瞳をキラキラさせている。好奇心全開だ。
「ま、ね。いまは持ってきてないけど」
「似顔絵だっけ? あたしたちも描いてよ」
アリエッタも乗ってきた。
テーブルから身を乗り出す。大きな緑の瞳が猫のようにくるくる動く。好奇心全開。
「いやいや、いまは無理だって」
「えー、残念ー。ララベルと交換しようと思ったのに―」
顎を少し上げてむー、と不満げにするがすぐに次の話題に移る。ロデとしては二人からのキラキラくるくる攻撃にたじたじとなっていたので内心、ほっ。でもそれは一瞬で二人の冒険の話になり再びにぎやかになる。
そんな盛り上がりの中、一人思考を巡らせる者もいる。
「ケープではなく布切れ……布切れではなくスライム」
ストレガである。
「スライムなら消滅するのも仕方ないと言えるのだが……お持ち帰りしたかったのだ」
肉を食べて酒を飲む。
「布を持ち帰れば研究したあと、好事家の服飾家が買い取ってくれて……」
「コハクはどんな手ごたえだった?」
ストレガの独り言にロデの言葉が被った。
「ずばーっと切ってぱーっとなくなった」
コハク、もぐもぐしながら手を広げる。すぐにその手はイノシシ肉に伸び……おっと、けぷっと小さくげっぷ。にこー、とご満悦な笑みが漏れる。
この擬音多めの口調がストレガの言葉にも移った。
「そう、服飾家が針子に任せてずぱーっと切ってぱーっとケープに仕立ててくれる。ケープが飛ぶなら絨毯も飛ぶ」
「あ、いいね。絨毯も飛ぶなら寝具も飛ぶ?」
ストレガ、すでにかなり食ってかなり飲んでる。やはり飲んでるロデもいい感じに出来上がっている。
「そう。布団も吹っ飛ぶ」
ストレガもいい感じに出来上がっていたり。
「あらあら」
紅茶のみの千弦、この様子に微笑。
「でも、村の人もこれで一安心。一見強く無さそうに見えるのが、一番怖いかしらね」
確かに、この中で周囲の状況を一番把握しているのは千弦。いまだけは酒の席での失態や恥ずかしい様子は全部お見通しという怖い存在だ。
そんな主人の足元で、肉をたらふく食べて満足したハヤテは前肢に顎をのせて目を伏せるのだった。
村人は冒険者たちの食べっぷりに満足。
これで安心して森に入ることができる、と感謝した。
魔獣「フライングケープ」が出るという森は静かだった。
小鳥のさえずりもなければ下生えを歩く小動物の気配もない。
「猟師さんに被害が出たら大変だから、やっぱり放ってはおけないよね!」
港町風衣装をまとうララベル・サン・ディーベルが純粋な瞳で大きな声を張る。青いセーラー襟の前でぐ、と拳を固めている。
森は静かだ。
「あたしたちに期待されてるんだから、裏切るわけにはいかないよ!」
続けて猫耳軽装少女のアリエッタが元気いっぱいに同意。猫尻尾と三つ編みにした長い髪が背後で揺れる。瞳は好奇心でくりくり。女の子全開だ。
森は、静か。
そして小道を先行する二人の後続も、静か。
「にぎやかなのは囮になるって言ってたから、か」
二列目を歩く似顔絵師のロデ・ラークがそう感心する。
「いや、いつもあんな感じですよ」
同じく二列目を行く黒髪ポニテの凛とした少女、楓月・千弦が静かに言った。連れている狼「ハヤテ」も主人と同じく、静か。
「いつもって?」
「あの人の『ふしぎ亭』でも、いつも明るいですから」
確認したロデに千弦は微笑する。ロデ、「なるほど。人生、囮みたいな人か」とぽそり。聞こえたはずの千弦、微笑のみ。
「後ろはどう?」
ロデ、今度は最後尾を気にした。
「フライングケープ、早くお目にかかりたいものなのだ」
獣の白骨面を額当てにする女性、ストレガ・L・リベルガストラがぽそり。
「いつでも発見してくれていい」
同じく最後尾の大きなもふもふ尻尾の少女、コハクも臨戦態勢。無駄のない言葉のみで周囲への警戒を怠らない。
「了解。……しかし、見つからないね」
ロデのため息。
無理もない。
一行が森にはいってずいぶん歩いているが敵をいまだに発見できないのだ。
ここでストレガが切り出した。
「そもそも魔獣なのか?」
ロデと千弦、振り返った。
「もちろん霊体か魔法生物の可能性があるが、非生物の魔獣とは珍しいのだ」
「ひらひらしたケープですから難しいところですねぇ」
発言の真意を説明するストレガに、冷静に考える千弦。
「彼等は生物を倒してどうするのかにも興味ある」
ストレガ、どうやら生態にも興味がある様子。
「まあ、発見した猟師たちが『魔獣』と思ったんだろ? 分析できるわけもないし」
ロデがなだめた時だった。
「ララベル、見つけたみたい」
コハクが前衛の反応に気付いた。
歩き続けていたララベルとアリエッタが左手を向いて腰を落としているのだ。
後続四人が二人の視線を追うと……。
「いた。三枚がくるくる回っている」
「ケープのダンスですね」
コハクが目を細め、千弦が敵三体の動きに目を見張った。
「捕食中とかではないな」
「戯れているだけ、か?」
ストレガの観察にロデの判断。
とにかく、こちらが先に見つけた。
六人全員が頷きあい、手筈通りの動きに移った。
●遭遇戦
「行くよアリエッタ!」
ララベル、小道を外れて左の敵一団へと突っ込んだ!
「任せて! 囮役は完璧だよ!」
アリエッタも弾かれたように動き出して追う。
下生えがあろうが速い。ララベルは両手の剣でばっさばっさと道を作りアリエッタは身軽に跳ねながら進む。
「右回りの雁行陣形で突っ込む。左の退路を断つように」
続いて後衛からコハクが快足を飛ばして移動。前衛二人を追うように動くことで左手側をがら空きにした。敵が逃走する場合の想定ルートを確定させることで戦場の流れを支配するつもりだ。
残る三人。
「ハヤテ、念のために左を調べて」
千弦からの指示でペットの狼がわふ、と呼吸し下生えを超えるジャンプ。そのまま道なき道を進み敵の想定退路にぐるっと回り込む。
これで準備は万全。
「撃ってもいいな。……どこかに隠れていてもこれで一網打尽なのだ」
初手はストレガ。激しい氷嵐が静かな森にごおぅ、と吹き荒れる。前衛と敵が接敵する前に範囲攻撃で一掃するつもりだ。
威力も十分。
一発で三枚すべてのケープが落ちた。
しかし、事前情報ではここから再生して再び襲い掛かるか、それとも地面を逃走するかに分かれる。
このままでは逃走の可能性もあるが……。
「……謎の浮遊物体、僕達が相手だっ!」
ララベルが突っ込む!
落ちて下生えに見えなくなったケープだが、すぐに再生して応戦。体を広げて体勢十分。ララベルに襲い掛かる!
「させないよ……喰らえ、疾風三連突!!」
巻き込もうとする相手に逆らわず見切り、両手に持った二振りの細剣でトリプルファング。
胸の黄色いセーラーリボンが激しく揺れた。腕だけではない全身を使った素早い連撃!
――ばさ、ばさっ、ばさっ!
相手の反撃を食らう前に滅多斬り。オーバーキルでケープは跡形もなく消滅した。
「まず一枚!」
攻撃完了。身を低くし切り裂いた余韻に浸るララベル。
敵はまだいるが完全に動きを止めた。
それが、戦線離脱を図ろうとした別の一枚の動きを止めた。
そして新たな人影。
「逃さない!」
アリエッタだ。
三つ編みの髪と猫尻尾が跳ねる!
ララベルの右を回り込み短剣で斬りかかった。
大きく力強く、左袈裟にバッサリ!
しかし、一撃で中心を裂くもすぐには行動を止めない敵。左右の布で包みこもうとするが……。
「あたしの動きは疾風!」
2本目の短剣を抜き両手のどちらからでも攻撃できる状態に。
さらに認識を妨げるエーテルを展開!
「誰にも止められないよ!」
死角から必殺の暗殺剣で切り込む。その攻撃の流れでもう一方の短剣でも斬りかかろうとするが、すでに敵は消滅していた。
アリエッタは敵の奥への逃走を阻止するため大きく右に膨らんで接敵していたが、その心配がないほど圧倒的な攻撃だった。
この時、最後の一枚は……。
「黒刀【雷帝】!」
二列目から追走していたコハクが届いた。刃先が赤く峰が黒い、やや長めの刃を構えている。
そのまま敵と交錯!
突っ込んだ勢いそのままに横一直線にケープをバッサリ。再生は間に合ってないが泣き別れした上下二枚はまだ動く。コハクに絡みつこうとする。
しかし!
「黒刀……【炎帝】!」
もっふり振るった尻尾はバランスを取るため。続けて副装備の刀を抜き放ち上の半分、雷帝の方で下の半分を切り払った。
ざっ、と着地した時には敵はバラバラ。
息絶えたか静かに消滅した。
改めて立ち上がると同じく身をただしたララベルと視線が合った。そしてアリエッタもこっちを見ている。
うん、と無言で頷きあう。
討伐完了だ。
●真相
いや、まだ終わってなかった。
「ハヤテ?」
偵察に出したペットに異変に千弦が気付いた。
確認すると三枚が回っていた下の地面にスライムらしき白い塊があったのだ。
それだけではない。
「新手なのだ」
ストレガ、そのスライムから新たなケープが一枚浮き上がったのを確認した。
新たな事実に骨面の額当てをぐっと下げ瞳を光らせる。
「驚きの新事実もあったのだ」
「ハヤテ、下がって! 近くに撃ち落としますから、皆さんお願いしますね」
相棒を心配し素早く鋼の短弓を引き絞り矢を放つ。
伸びた射線は見事にケープの中心を射抜いた。
この隙にコハク、アリエッタ、ララベルが殺到し落ちたケープと地面にいた白いスライムにとどめを刺した。
その後も探索は続く。
「倒したケープを束ねて持ち帰ろうとしてロープを持参したのだが……」
ストレガがとても残念そうに右手に持ったロープを眺めている。
「ケープの正体がスライムの一部だったとは驚きだね」
ララベルがその言葉を継いだ。
「そもそもケープではなかった」
ばばん、とコハクが事実を一言でまとめる。
「でも、あれなら素早くないスライムでも狩りができるよねー」
アリエッタが感心する。
「その点は興味深いのだ。しかし、あれはケープ一つで一つの生命体とするべきなのか、それともケープを出す枚数が決まっていてそれを含めて一つの生命体とするのか?」
「うーん、スライムだから集まって一つになることも分離してそれぞれ活動することもありそうですし……」
ストレガと千弦が新たな疑問に首をひねる。
「ちょっと、警戒緩んでない?」
ロデ、熱を帯びる議論に待ったをかける。
これに千弦がにっこり。
「ハヤテを偵察にやってますし、目視はもちろんエーテル探査もしてますので安心してください」
「そうそう。音は意味ないかもだけど、探知用のエーテル波動は走らせてるからね」
千弦に続きララベルもしっかりしていることをアピール。
「あ。ひらっとした薄いの……あれもかしら?」
千弦が超視覚でかなり遠方の異変を発見した。
なんと空飛ぶケープ、木の枝にかかっていた。飛行物だけに絞っていると見逃すところだった。
「干した洗濯物みたい」
アリエッタも確認。
とにかく、前回同様に前衛と後衛の連携で叩いた。
ここまでは先手を取ったが、不覚にも敵に先手を取られることもあった!
三度目の遭遇は不運というしかない。
「うわっ!」
ロデたちの頭上からケープが丸まって落ちてきた。
――ざざっ!
前衛のララベルとアリエッタ、そして後衛のコハクが素早く反応し距離を取る。いきなり纏いつかれて窒息攻撃を受けるわけにはいかない。
問題は中衛の千弦とロデだが……。
「これで時間が稼げるのだ」
後衛のストレガが残ってスタティックフィールドを展開。背が高く一番に狙われたロデを援護する。
「助かった!」
ロデ、ナイフで切りつけながらしりもちをつき転がって離脱。
一方、同じく狙われた千弦は弓を持っている。いきなりの密接戦闘だ!
「ハヤテ、お願い!」
素早く短刀を抜き切り付けると身をひねって戦線離脱。その空いた空間に……。
――ウォン!
全身のばねを聞かせハヤテが跳躍。主を守るべく追撃で食らいついた!
その後、再突撃した仲間全員ですべてのケープを倒した。
「あとは上ですね」
「樹上のスライムもなかなか珍しいのだ」
上を見た千弦とストレガ。樹上に遠距離攻撃を乱射するうち、たまらず落ちてきた白いスライムを残りのメンバーで叩きのめした。
●宴の仲間
こうして討伐行は終了。村に戻ると村長らが歓迎し手料理でもてなした。
「いやぁ、ちょうどいいなぁ」
うきうきとお世話になるロデ。仕方ない、と残りのメンバー。
いや。
コハクだけは乗り気だ。無言ながらふんす、と鼻息が荒い。
そしてジビエやバゲット、ドリアにサラダと目の前に料理各種を山盛りにしてもらい、食らう・食らう・食らう!
「ハヤテ、お疲れ様でした」
紅茶を優雅に飲んでいた千弦は、足元に待機するペットにイノシシ肉を差し出す。ハヤテ、「よし」が出たものと理解し早速食らつきコハクのように夢中になる。というか、コハクが野生に帰っているというべきか。
「アリエッタが倒したケープは絵になるような動きをしてたかい?」
ロデは酒を飲みつつ奇譚制作のための情報収集をしている。
「うん。表情のある動きだったよ。あたしに気付いたらこう、身をひねるような動きをしたし」
アリエッタ、明るく身をひねって見せる。
「ララベルなんかとっても早いから、ケープもびっくりしたようだったし。ね、そうだよね?」
笑顔で仲間に話を振る。
「そうだね……そういえば絵を描いてるんだよね?」
ララベルはロデの仕事に興味津々。瞳をキラキラさせている。好奇心全開だ。
「ま、ね。いまは持ってきてないけど」
「似顔絵だっけ? あたしたちも描いてよ」
アリエッタも乗ってきた。
テーブルから身を乗り出す。大きな緑の瞳が猫のようにくるくる動く。好奇心全開。
「いやいや、いまは無理だって」
「えー、残念ー。ララベルと交換しようと思ったのに―」
顎を少し上げてむー、と不満げにするがすぐに次の話題に移る。ロデとしては二人からのキラキラくるくる攻撃にたじたじとなっていたので内心、ほっ。でもそれは一瞬で二人の冒険の話になり再びにぎやかになる。
そんな盛り上がりの中、一人思考を巡らせる者もいる。
「ケープではなく布切れ……布切れではなくスライム」
ストレガである。
「スライムなら消滅するのも仕方ないと言えるのだが……お持ち帰りしたかったのだ」
肉を食べて酒を飲む。
「布を持ち帰れば研究したあと、好事家の服飾家が買い取ってくれて……」
「コハクはどんな手ごたえだった?」
ストレガの独り言にロデの言葉が被った。
「ずばーっと切ってぱーっとなくなった」
コハク、もぐもぐしながら手を広げる。すぐにその手はイノシシ肉に伸び……おっと、けぷっと小さくげっぷ。にこー、とご満悦な笑みが漏れる。
この擬音多めの口調がストレガの言葉にも移った。
「そう、服飾家が針子に任せてずぱーっと切ってぱーっとケープに仕立ててくれる。ケープが飛ぶなら絨毯も飛ぶ」
「あ、いいね。絨毯も飛ぶなら寝具も飛ぶ?」
ストレガ、すでにかなり食ってかなり飲んでる。やはり飲んでるロデもいい感じに出来上がっている。
「そう。布団も吹っ飛ぶ」
ストレガもいい感じに出来上がっていたり。
「あらあら」
紅茶のみの千弦、この様子に微笑。
「でも、村の人もこれで一安心。一見強く無さそうに見えるのが、一番怖いかしらね」
確かに、この中で周囲の状況を一番把握しているのは千弦。いまだけは酒の席での失態や恥ずかしい様子は全部お見通しという怖い存在だ。
そんな主人の足元で、肉をたらふく食べて満足したハヤテは前肢に顎をのせて目を伏せるのだった。
村人は冒険者たちの食べっぷりに満足。
これで安心して森に入ることができる、と感謝した。
マスターコメント
参加者のみなさま、お疲れ様でした。
シンプルな索敵からの討伐戦ですが、一度だけ森林ならではの奇襲を用意していました。
それまで余裕のある遭遇戦を展開していたので対応手段もここぞの時に使えるだけの用意をしていただけにピンチは一瞬だけでした。
戦闘後にロデのお話に付き合っていただきありがとうございます。似顔絵などのシナリオはまた後日、ということでご了承くださいませ。
それではご参加、ありがとうございました。
ショートシナリオ普通 報酬:標準5 / 4〜6人
2021年08月09日 11時56分53秒 公開
大成功
相談掲示板
僕は、シーフのララベル・サン・ディーベル。 皆、よろしくね!!
シューターの楓月・千弦です。 よろしくお願いしますね。
キャスター、ストレガなのだ。よろしくなのだ。 寄らないと逃げるのは厄介なのだ。 スタティックとフリーズボルトで止めてからメテオライトぶちこむのだ。
下手に撃ち落とすと、逃げられますか。 近接の方々のとこへ落ちる様に、撃ち落とすと対応が楽になるかしら。 この空飛ぶケープ、燃えやすいのかしら。
そうだね、近接の人のとこへ落として貰うのもいいし、近接の人が囮になって降りてくるまで引きつけて、それから畳みかける手もありかも?(近寄らないと、窒息させられないのかなと思って) 下草に隠れても位置が分かる様に、僕は捜波を使ってマークして、逃がしにくくしてみようかと。
一反木綿を引きちぎりにきたシーフコハク、どうぞよろしくね。 ウォーリアでもいればヘイト向けで良かったんだけど無い物ねだりしてもしょうがない。 今ある手札でならキャスターとシューターという遠距離組が居てくれてるのは助かるし、コハクとララがシーフだから最悪落ちたのが離れてても移動力のゴリ押しで間に合いそうな気もするね。 魔法で凍れば砕けば良いだけだし。 一応コハクはララが索敵にも回ってくれることも含めて完全戦闘装備でいくよ