【獗烙】再び王都にて
広大野人
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シナリオID:1084
オープニング
冒険者達が証拠として押収した『神実の香り』。
詳しい分析は研究機関に託し、王国騎士エナハルトは表向き爽やかな表情を湛えながらも、内心、穏やかではなかった。
大規模農場は壊滅させた。他にも栽培している場所があるかもしれないが、禁制品を作るとどうなるか、バーゼンガイヅ伯爵の醜態ぶりを見れば、そのリスクの大きさがよく分かるだろう。
結局、伯爵が関わっていた証拠が出なかったものの、領地経営の無能さを露呈し、影響力が低下したのだ。
これは政争においてはかなりの失点だ。同じ陣営からも責められるはず……。
「表向き、解決したけれどスッキリしない」
「分かりますよ。明らかにタイミングを計られた形ですもんね」
エナハルトの心情に答えたのは受付男子のイシアだった。
禁制品である『神実の香り』の存在を明らかにし、早期に大規模農場を壊滅させて、この王国騎士が大きな手柄を立てたと噂が流れたのだ。
それ自体は悪くない話だが――そこから急な展開が待っていた。
一つは『神実の香り』の供給が突如ストップした事により裏社会での取引される価格が急上昇した事。
もう一つが『神実の香り』は痛み止めみたいな使われ方がされており、禁制品となった為、苦しむ人が出たという話が流れた事だ。
結果的に、エナハルトと承認を進めた一部の王党派が悪者にされているのだ。噂なぞ一時のものであるが、政争が絡むと厄介な流れになる。
「『正しい血統を持つ優秀な貴族のみが多くの市民を結果的に守る事ができる』……酷い題名ですが、迎合する者も多いのではないでしょうか」
手にした印刷物を読み上げながら、イシアは淡々と告げた。
情報の出だしは、木版印刷よりも冒険者ギルドからの情報網が最も早く正確だが、情報はあるだけではその意味をほとんど持たない。
例えば、どこどこで干ばつという情報があったとしても、それが市場にどう影響するかは、所謂、専門家の見立てがいるのだ。今回の事件についても、どこから降って沸いたか分からない『自称』専門家や、『とある筋』からの解説が、これまたどこぞの誰かが木版印刷したものとして出回っている。
その内容は特定の誰かを中傷するものではないが、概ね、貴族派よりの論調なのも解せない。
『神実の香り』が政争に巻き込まれたのか、あるいは最初から仕組まれていたものかもしれない……誰かが世論誘導の為に印刷物を使っているのだろう――黒幕は貴族派だろうか?
完全に後から取ってつけたように、バーゼンガイヅ伯爵が難病で苦しむ貧しい民の為にやむを得ず栽培していたなどと言い訳じみた噂も流れているからだ。
「真実が明らかになれば、その時、また変わってくるさ。まだ、慌てる時じゃない。それに、気になるのは価格の上昇の方。以前の数倍はある」
「それでも売られているという事は、やっぱり中毒性が高いのですね」
「裏社会で一体、何が起きているのか……『神実の香り』はどこから供給が続いているのか……もう一度、探りを入れる必要がある」
エナハルトはグッと拳を握った。
『神実の香り』は禁制品となったので、実力行使のある調査も可能なはずだ。
「ただ、僕は顔が知られている方だからね。調査の方はやっぱり、冒険者に任せようかよ思うんだ」
「それがいいですよ」
トントンと書類の束を整理しつつ受付男子は応えるのであった。
●
長く流れるような白髪を持つ老人紳士が見慣れない仕組みの物体を様々な角度から眺めていた。
それは専属の職人に造らせた『素人でも引簡単な操作で矢を放てる絡繰り』であった。精度のほどは悪く、改善の余地はまだまだある。特に一発撃っては使えないのでは役に立たない。
「如何程でしょうか」
壮年の男性――フォーゲン――が訊ねる。
老人紳士は手にしていた絡繰りを丁寧な動作でテーブルの上に戻した。
まだまだ使い物にならなくとも、職人が幾度も考えて造り出したものだ。乱雑に扱う理由はない。
「こちらの要求を満たすものではないな……だが、及第点ともいえる」
「早急に改善させます。そもそも間に合わないと役に立ちませんから」
「うむ。ところで『神実の香り』の方はどうだ?」
テーブルの上に置かれていた一枚の紙に手を伸ばす老人。
それは『神実の香り』についての論じられたものが印刷されていた。
木版印刷なので手間はかかる。時を急ごうとすれば作成するのに人手もかかる。端的に言うと、費用が掛かるのだ。
その費用を負担していたのは他でもない、この老人である。
「活字とは素晴らしいものだ。いずれ、情報を制するものが、世界を手にする事もあり得よう」
「仰る通りです」
フォーゲンは心の奥底からそう思い、頭を深く下げた。
色々な経緯を経て、この老人に仕える事になったが、歩んできた人生の中で、唯一の希望は、この老人に巡り合った事だけだ。
これまでの価値観を覆す、柔軟性。習慣に囚われない合理的な思考。そして、果たせようとする悲願……。
「現状、『神実の香り』については予定通りに経過しております。承允もその数を満たして、稼働には何の問題はありません」
「思った以上に禁制品の承認が早かったようだが?」
「冒険者の動きによるものです。例の王国騎士もこれまたなかなか優秀な男でして」
「我らの仲間には……」
その問いにフォーゲンは首を横に振った。
「……あの男を調べた結果、引き込めそうな過去を持っているようですが……王国騎士という時点で難しいです。冒険者も同じで……なんと言うべきでしょうか……あの中の一定数は、我らと相容れない存在がいる気がするのです」
「仕方あるまい。それはそういうものなのだ。だからこそ、利用するしかない」
「では、今後の予定もその方向で進めていきます」
再び深く頭を下げて退室するフォーゲン。
今はまだ下地造りの最中である。冒険者の方々にもご協力いただかなければならないのだ。その為に、フォーゲンもやるべき事は多々ある。
差し当って、まずは王都に出向く事……だろう。
●
禁制品となってから『神実の香り』に辿り着く事はより難しくなっていた。
大きく看板が出ている訳でもないので、それを求める人は必死になって裏社会に踏み込んでいく。
その結果、どうなるかは――容易に想像できよう。
「頼むぅ! 教えてくれぇ!」
「口だけじゃ話にならねぇって言っいるだろ!」
しがみついてくる輩を蹴り上げる強面の男。
相手は『神実の香り』の中毒者だ。どんなに値段を釣りあげようが、食いついてくる。まさにカモ。
男は中毒者の襟をグッと引っ張って告げる。
「こっちもな、リスク抱えてやってるんだよ!」
「わ、分かった……分かった!」
「だったら、さっさと必要な金を持って来い!」
ドンっと突き放すと中毒者は壁にぶつかると崩れるように落ちる。
そして、もぞもぞとした動きで床を這うようにして部屋から出ていった。
きっとあの輩はどうにかでも金を集めてくるだろう。それが、どんな方法だろうが、男には関係ない。
だが、これでも人の子だ。少しばかりの良心もある。
「……これじゃ、商売も立ち行かなくなる……偉い連中は一体、何を考えているんだ」
男は大きなため息をつくと、次の仕事へと向かうのであった。
解説
マスターより
リプレイ
バーネット・フォーサイスは王都内にある収容施設へと足を運んでいた。
『神実の香り』の中毒者を治療しているらしいが、治療法が確立されている訳でもなく、出来ている事は隔離して生存を確かめている程度だが。
(供給元の一つを絶てたと思ったら、次はプロパガンダで仕掛けて来たか。こっちもそれに対処せにゃならんのだろうが……)
収容施設の職員に案内されつつ、バーネットは心の中で呟く。
ここに来る間にも、貴族派論調の印刷物を目にした。
用意周到、いや、最初から仕組まれている可能性が高い。
(今は出来る事をやるしかないな)
そう気を取り直す。苦しんでいる人は現に目の前にいるのだ。
案内された隔離室を覗くと、簡易寝台に若い男性がボーとした様子で座っていた。ブツブツと何か小言を発し続けている。
「声を掛けても反応はあまりなくて……そうかと思えば、突然、狂ったように暴れだすので……」
職員の説明にバーネットは頷くと軽い足取りで隔離室に入る。
若い男性は注意を向けてくる事はなかった。定まらない視線が宙を舞っている。
「ちょっと、失礼するぞ」
バーネットは軽く男性の肩に触れて、エンパシーを発動させた。
真っ先に流れ込んできたのは圧倒的な『陶酔要求』だった。それに抗うように『焦燥感』が現れ、その二つが交互に波のように押し寄せる。
その正体が何かまで把握する前にバーネットはエンパシーを切った。
中毒が伝染する……訳ではないが、それほどまでに強烈だったからだ。
「いかがでしょうか?」
「……もう少し、環境の手に入れた方がいいぞ。眩しすぎる光量や外部からの騒音を調整して、それに十分な食事と水分。後、着替えだな」
職員に問われたバーネットはそう答えた。
『神実の香り』の影響が身体から完全に抜けるまでは本人も辛いだろうが……。
その時、若い男性の注意がバーネットに向いた。今、気が付いたのか怯えた目を向けて来る。
「お、お、俺を、俺を、『承允』、しに、きたのか?」
その言葉をバーネットは記憶にしっかりと残す。
きっと、重要な意味があると感じたからだ。
「『承允』とはなんだ?」
「た、頼む、俺を――俺を『承允』、してくれ。つ、連れてってくれ、新天地へ!」
縋ってくる若い男性の視線は、バーネットに向いているが、まるで違う人を見ているようであった。
すぐさま職員が間に入って男性を簡易寝台へと戻す。その様子を見守りながら、バーネットの頭の中にある推測が流れた。
(街中に流通した量から想定される中毒患者の数と、実際に保護された数に大きな違いがあったら……行先不明の消えた住民……新天地……)
突拍子もない想像でしかないが、宿に戻ったら仲間達に情報を共有しようと思うのであった。
●
中毒者の特徴の情報を確認し、ルベア・ベルニはスラム街にやって来ていた。
すれ違う人々、視界に入る者、建物の影から向けられる奇異に、ルベアは気にした様子を感じさせないように注意を放つ。
(王国騎士直々の依頼なんてね……)
これまで『神実の香り』を追っていた依頼は、つまり、王国騎士が絡んでいたという訳だ。
中には際どい依頼もあったから依頼人の正体を伏せなければならない事情もあるのは分かる。
(それに……まさか、フォーゲンが黒幕ってことはなさそうだし、早く大本を見つけたいわね)
風で飛ばされていく例の印刷物が目についた。世論誘導を目論んでいる時点でロクな事を考えていないだろう。
先手を打って陰謀を仕掛けてくる黒幕に対して、受け身を続けるという訳にもいかない。
調査が一段落したら、ルベアはイシア同席の上、王国騎士であるエナハルトと会う約束になっている。
情報戦ならば、信頼度が大きい冒険者ギルドを使って対抗するのが得策だと考えたからだ。
(その前にエリザさんのフォローにも入らないと)
やるべき事が多いが、いずれも大事な事だ。
ルベアは一度目を閉じ、気持ちを入れ替えるよう一呼吸置いてから、パチっと瞼を開く。
遠くの路地の先、衛兵が数人走っていたのが見えた。
その姿に見覚えがあった。以前、街の治安を詰所で聞いた時の衛兵だったからだ。
とはいえ、スラム街で気さくに話しかけるような愚かな事はしない。衛兵を尾行するような動きで路地から様子を覗う。
「……逃がしたか……ったく、禁制品の取引現場を押さえたと思ったのによ」
「これはもう警戒されているな……」
衛兵達の会話が微かに聞こえてくる。どうやら、目的は一緒だったようだ。
気が付かれないように路地の奥に消えようとしたその矢先、小さな扉が僅かに開いており、男が手招きしていた。
招かれるまま、滑らか動きで小さい扉に入るとそこは物置のようだった。
「まったく、お互い難儀するな。あんたがルコールか? 探したぜ」
ルベアを招いた男は、恐らく衛兵から逃げていた人物なのだろう。肩で激しく呼吸していた。
衛兵を尾行していたのを見て、別の誰かと『勘違い』しているようだ。
「……」
不用意な発言をすると勘付かれる可能性があるので、ルベアは威圧的な視線を向けて応える。
男は両肩を竦めた。衛兵から逃げ出す事になったのは自分の責任だという後ろめたい気持ちがあるからだ。
「……すまねぇ。だが、金はある。売ってくれ『神実の香り』を」
そんな台詞に、ルベアは態度を変える事なく、ゆっくりと男に近づく。
人の縁とはつくづく不思議なものだし、出会いは偶然と運命に翻弄される。男にとってルベアとの出会いは不幸だが、ルベアからすれば、まさに飛んで火にいる夏の虫といった所であろう。
自分がとんでもない『勘違い』をしていたと男が気づいたのは、自身の身体を冒険者によって捕らわれた後の事だった。
●
ルベアから売人の情報を伝えられたシャトン・アルジェントは、ペットであるアーノルドから感じとった情報に意識を集中させていた。
(末端の売人を締め上げても大した情報持ってないし、トカゲの尻尾切りされるだけだから、出来るだけ上位の人間を特定したいわ)
心の中で呟くと、追跡を開始する。
エーテルリンクは維持する為の距離制限が決まっているので、必要であればシャトン自身が移動しなければならない。
その為、距離を把握しながらの売人追跡は難儀した所ではあるが、気をつけていた事もあり、途中でリンクが切れる事は無かった。
(生産工房も出来れば特定したいけど、そこまで遡れればラッキーってトコね)
今の所、追跡は順調だ。アーノルドは物陰や壁などを自然に伝って、目標を追い駆け続けている。
ルコールという名の女性売人は、取引失敗の結果を報告しに行くようだった。
幾つもの路地を駆け抜け、スラム街から抜けると混雑する市場へと入っていく。
消費者に繋げる売人は末端ではないかとシャトンは予想していた訳だが、その予想は的中していた。
この売人を捕まえた所で、得られるものは少ない。末端要員は問題が発生した際にすぐに切り捨てる事ができるのだから。それ故に、必要以上の情報を末端の売人は持ち合わせていない。
(けれど、それでは商売にならないはずよね)
現物を取り扱う以上、どこかで接点があるはず。
それを見越したシャトンの読み勝ちとなった。
アーノルドが、売人に禁制品を渡す元締めらしき男に辿り着いたからだ。
「向こうが先に衛兵に見つかって!」
「ッチ! すぐに次の客を取って来い!」
報告を受けた男は禁制品を乱暴に受け取ると売人を蹴って追い返した。
悲鳴をあげて立ち去る売人を無視し、アーノルドは物陰からジッと男を見つめる。
「……あれは使えないな。あれも『承允』させるか……」
そんな言葉を発すると苛立ちを隠せない様子で落ち着きなくウロウロとする。
恐らく、この男も上位の人間ではないだろう。何かに追われているようなそんな雰囲気だ。
「組織の期待に応えられないようじゃな。俺も危ないか……」
聞いた事のない名前がアーノルドを通じてシャトンの意識の中に入ってきた。
『神実の香り』の生産や売買まで組織的な動きはしているから、その名称なのかもしれない。
「報告兼ねて本部に行くか……次のファナータ行きの馬車は……」
落ち着かない様子で馬車の時刻表を探す男。
その男の顔をしっかりと確認した相棒からの感覚を、シャトンは手元の紙に描いていく。
組織とその本部があると思われる行先。後は、この男を追いかければ、きっと、辿り着けるはず。
「絵があんまり上手くないかもしれないけど、こういう顔のヒトが今回調べられた中では一番の上位者ね」
依頼への十分な成果を得られたという確証と共に、筆が紙の上を駆けるのであった。
●
禁制品取引の隠れ蓑として存在していた『裏路地の硬貨亭』は取り潰しとなっていた。
『神実の香り』の流通を囲い込むように王国騎士に助言してから、店に足を運んだエリザ・A・ミシャールは鍵の掛かっていない入口に違和感を覚える。
「待っていたよ。質問の答えを聞かせてくれるのだろう」
店の中からフォーゲンの声が届き、エリザは油断なく店内に入る。
薄暗い中、綺麗な身形をした壮年の男性が、柱のように姿勢よく立っていた。
「待っていたという割には、寂れた店で扱いが足りないようだね」
「この方がレディを怖がらせないと思ったからだ。また、意識を飛ばされたくないだろう」
警戒されているという自負はあるようだ。
距離を保ったままのエリザに向かって、フォーゲンはあの時の質問を繰り返した。
「君に欠けているものはなんだ?」
「『興味』かね。飽いてるのさ、長い生にね」
それは嘘でも真実でもない。
質問に答える事自体に意味がある。相手が何を求めているのか、その判断材料になるからだ。
「そうか……残念だ。どうやら、君は我々とは相容れない」
「だとしたらどうするんだい? 消すのか?」
「ザンツの事を指しているのであれば違うと断言しよう。君とは相容れないが、敵ではない……いや、むしろ、君が『神実の香り』を追い駆けているのなら、良き理解者に成り得ると私は思っている」
証拠は出て来ないが、状況的にフォーゲンが重要な役回りを担っているのは間違いないはずだ。
思えば、ザンツ探索は、冒険者に託されたエリアだったにも関わらず、フォーゲンは姿を現した。
この店が取り押さえられた際、この男は捕まるどころか、手配書も回っていないし、先の大規模栽培場からも物的な証拠が残っていない。
独自のコネクションを持っているとしか思えないのだ。
「組織の、かい?」
それは仲間達が調べて辿り着いた情報。
ここで反応を試すにはもってこいのタイミングだった。
「……これは驚いた。そこまで既に調べていたとは」
「詳しい事は知らないぞ。名前だけだ」
そこは正直に告げた。虚勢を張ってもこの男には通じないと判断したからだ。
「いやいや、それでも素晴らしい。我々を知るのはごく一部だから、その端でも掴めたのならたいしたものだ」
「例の印刷物の出所も、組織が絡んでいるのだろう。扇動が目的か?」
「扇動とは人聞きが悪い。我々は彼らの想いを手助けしているだけだ」
「どう違うというのだ?」
しかし、その問いにフォーゲンは答える事は無かった。
話は終わったとばかりに一方的に頭を下げると「いずれ」と発して、店の奥、闇の中へと消え去っていったからだ。
その身のこなしは只者ではない。手練れの冒険者といえども容易には追いつけないだろう。
じっと見送ったエリザに思い出したように暗闇からフォーゲンの声が響いた。
「そう……私は質問には、こう答えたよ……『未来』と、ね……」
その言葉は、どことなく哀しみを帯びているようでもあった。
●
時折、仲間達と情報共有しつつ、夜を通して歓楽街を回り続けていたエミリア・シバが、最後に辿り着いたのは富裕層向けのバーだった。
既に夜明けが近くなってきており、空が少しずつ明るくなっているような気がする。
「お仕事お疲れ様です」
そう言って、エミリアが座っている席の隣に、私服姿のエナハルトが座る。冒険者達が共有していた情報もある程度、イシアから既に報告を受けているようだ。
今回、得られた情報は多かった。エミリアも情報を調べ、ファナータという所が、ある貴族領の都市名である所まで辿り着いていた。
「いいのかしら? 王国騎士さんがこんな時間に。まるで、逢引きよ」
「その点はご心配なく。独り身の立場ですし、この店は常連なので」
爽やかな笑顔を魅せるエナハルトの瞳に僅かな寂しさが映る。
ここは富裕層向けの店だ。当然の事ながら、彼のような人物が出入りする可能性だってある。
「冒険者の方々から得られた情報を裏取りし、改めて、依頼を出す予定です。次はファナータでの現地調査ですね」
調査中に栽培農場を発見すれば潰す事も依頼内容に入ってくるだろう。
「それにしても価格の高騰ねぇ。高く売り抜いて損を減らすつもりかしら?」
「恐らくは……」
一度周知された物が、突然手に入りにくくなれば価格は高騰する。
大規模農場が焼き払われる事を、最初から想定していたのだろう。情報の出し方からも、あからさま過ぎるのだ。
「情報操作に掛かる費用と売り上げって釣り合うものなの?」
「規模にもよりますが、まず黒字だと思います。けれど、狙いがそれではない事は……エミリアさんが考えている通りです」
「ただ稼ぎたいだけなら、別の手段が沢山あるわよね」
微笑を浮かべて、エミリアは手元に差し出されたグラスに口を付ける。
一連の取り締まりで、王族や一部の貴族は中毒者に対する収容施設の手配に費用を掛けているし、禁制品を手にいれようと罪を犯した者もいる。
中毒者の保護も進んでいるが、全員ではなく、一部は行方が知れない……それらは『承允』という名の拉致に遭っていると思われるのだ。
「……狙いは王都の疲弊? でも、国王派を狙ったザンツをフォーゲンは追っていた」
「国王派……所謂、王党派に害したザンツを、貴族派寄りの者が追っていたとしたら矛盾しますね」
「実は共倒れでも狙ってると?」
その台詞にエナハルトのグラスを持つ手が止まった。エミリアの言葉で何か辿り着いた……そんな様子が伺える。
可能性としては限りなく低い。しかし、王国騎士としてそれを見過ごす事はできないのだ。
組織の存在とフォーゲンがエリザと交わした言葉。
表出していない、何かがまだ隠されているとしたら……。
「『未来』を欠けた者……フォーゲンか」
「……復讐。己の大切なものを欠けさせた存在への……考え過ぎ、よね」
その存在が国そのものであれば、王党派や貴族派、どちらにも汲みしない理由にもなる。
「十分に調べるに値する人物です。きっと、組織とフォーゲンなる人物の目的は一致しているはず」
力強く言ったエナハルトの台詞に、エミリアは頷くのであった。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準5 / 4〜5人
2021年07月08日 18時37分43秒 公開
相談掲示板
あたしはシャトン・アルジェント。 よろしくお願いするわね。 あたしの場合、調査は基本的にエーテルリンクしてネズミ(栗鼠相当)or猫(大鼬相当)を使っての情報収集になりそうね。 どういう風に調査するかはまだ未定ね。薄暗い場所なら鼠、人が多い場所に行く場合は猫って感じにしようと思ってるわ。
バーネット・フォーサイスだ。 まぁ、よろしく頼むわ。 とりあえず、調査と中毒者への対処とに分かれる感じだが…… 俺は前の調査の時に派手に動いて面とかも割れてるだろうし、 今回は中毒者支援の方に回るとするかね。 とはいえ行動的にまだ未定だから、こっちの希望者が多いなら調査の方にも回るつもりだ。
シーフのルベアよ、宜しく。 私はこないだの調査ではあまり直接目立つようには動いてないから、調査の方に回れそう。 スラムあたりに行けば中毒者の一人や二人出くわすだろうし、 中毒者がやばめのことを行っているようなら、売人の居場所を聞き出すついでに止めようかなって。 下手に刺激せずに済んで売人に辿り着けるなら、それに越したことはないけど。
遅くなって済まない。もうこの依頼の顔も見慣れてきたね。 人数の都合で入れなかったヤツもいるようだけど、彼らの分も頑張るとしよう。 バーネットに同じく、陽動だなんだで派手に暴れたし、アタシはフォーゲンに顔が割れてる。 人数割り次第だが、中毒者支援を中心に考えてるよ。 PL情報混みでの推察だが、どうやら王国の基盤を揺るがそうとするテロを企てていそうだね。 資金を集め、扱いの手ごろな武器を作り、政情不安を煽って市民を暴徒化させる。 これに対してしっかりと先手を打って予防策を講じつつ、根本の原因を潰していく必要がありそうだ。 アタシらの行動計画としては、仮説を明確にし、裏付けの情報をどう取得するかを計画し、実行の成功率を上げるための方法をどう準備するかが重要になりそうだ。フォーゲンの奴らの企て、とめてやろうじゃないか。
ごめんなさい、挨拶した気になってたわ。 シーフのエミリアよ、よろしくね。 今回も調査の方で、とは思ったのだけれ、前の調査の時おねえさんあれお店バックレた感じになってるとしたら顔覚えられちゃってるかしらねぇ? 大丈夫そうなら、またそういった方向から攻めてみようとは思うのだけれど…… あとは、出ている噂を色々集めたりしてみたいっていうのはあるわねぇ。
>エミリアさん 前回のお店とは違う店なら大丈夫なんじゃないかしら? あたしは他の人の調査で売人らしい人を見つけた場合、その後を鼠or猫に付けさせて仕入れルートを確認したいわね。 売人に商品を卸した人がいればその後をつけさせていけば、ある程度は大元に近づけるでしょうし、末端の売人だとトカゲの尻尾切りされるから出来るだけ上位の人までたどり着きたいわね。
>シバ あれぐらいであれば、同じ店と使うとかじゃなければ多分大丈夫だとは思う。 >情報共有 そういや、今回も各自判明した事の情報共有はやっていく感じか? 特に問題無ければ、前と同じ様に宿とかの活動拠点で情報の受け渡しをする様に記載しておく。 >助言 俺の方からは、中毒者を入院等で隔離して神実の香りを摂取できない様にする事と、 辛い現状からの逃避等、神実の香りに手を出す理由や動機が有ったのなら、 カウンセリング等で精神面でも立ち直れる様に支援する、とかそんな感じでやるつもりだ。
だれか、テレパスを持っていないかい? よく考えたらアタシはフォーゲンに会いに行く理由やツテがあるんだった(【獗烙】神実の香り) 怪しまれない範囲で、直接奴から話を聞いてみようかと思う……けど、まあ前回も薬盛られて前後不覚になってるからね。テレパスでリアルタイムに状況や会話の内容を伝えようと思うんだ。 余裕がなさそうならフォーゲンには接触しないプレイングも準備してある。 どちらでも構わないよ。
>テレパス 私持ってく。 スキル自体の射程もあるから、エリザさんがフォーゲンと接触する近辺に居た方が良さそうね。 >情報共有 前回と同じ手段で問題ないと思うわ。
ありがたい。 ではルベア宛に事前連絡とテレパス通話を繋ぐように指定しておくよ
シャトンちゃん、バーネットちゃん二人ともありがとう。 それだったらまた歓楽街系で情報を集めてみようかしら? 今回は後ろ盾もあるみたいだから前回よりは多少奥まで行ってみましょうかね >情報の共有 前回と同じで大丈夫だと思うわ。バーネットちゃんが記載してくれるのならお願いしたいわ。