いつか辿り着く約束の日へ ―第5話―

広大野人

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シナリオID:1047

オープニング

●

 王国と帝国を隔てる山脈の一つに建てられた砦の中で、兵士達が撤収の準備に追われていた。
 一部の兵達は砦周辺の警戒に出ているが、今の所、異常はみられていないようだ。これなら撤収も速やかに終わるだろう。
「機嫌悪そうっすね、隊長」
 兵士であるコルサが王国騎士イェルド・ルリンにそう告げる。
 かったるそうな表情を浮かべて、騎士はポンっと書状を放り投げた。
「砦の有用性が分かってないのは黒紫這者(クリーパー)だけだと思ったが、王都にもいるとはな」
 イェルドが砦地下……正確には塔の地下階の調査を冒険者に依頼するという報告を出した後の事だ。
 調査が終わるまでは増援で送った兵士の引き上げが延期。調査完了後、速やかに砦から撤収せよとの命令が下ったのだ。
 とある冒険者の申し出がなければ、半数ほどは先に王都へと帰還していただろう。
 当然の事ながら彼は反論した。帝国側からの難民受け入れや対クリーパーの拠点として砦は有効だったからだ。
「表向き、別戦域への戦力移動……みたいっすけど、明らかに嫌がらせっすよね」
「中央の連中にとって一地方の危機感などあってないようなものだからな」
 王国内は激しい政争の中にある。イェルドの実家は貴族派と対立している。
 政争に興味がないイェルドであっても、他の連中はそんな目で彼を見ない。見るのは政争の材料になるか、敵になるかどうかだ。
「黒紫這者(クリーパー)の動きが静かなのが怖い所だが……まぁ、あれだけ倒せば少しは落ち着くだろうよ」
「それじゃ、調査には俺達も同行するんすか?」
「んなわけねぇだろ。足手まといになるだけだっつーの。ああいうのはプロに任せた方が良いんだよ」
「だって、もしかして、すげーお宝があるかもしれないっすよ!」
 力説するコルサの頭にイェルドは容赦なく拳を降ろす。
「馬鹿言え、王国騎士の依頼だぞ。見つかったものは王国の所有物だ」
「真面目過ぎっすよ」
 考えが足りない部下の発言にイェルドは呆れる。
 塔の下にどんな物があったとしても、関わるつもりは毛頭ない。
 彼にとっての興味は、黒紫這者(クリーパー)との戦いに向いているのだから。
「いいか、コルサ。仮にすげぇ宝物があったとする。間違いなく政争案件だ」
「確かに……これ以上巻き込まれるのは勘弁して欲しいっす」
「まぁ、うまく冒険者達がやってくれると俺は信じてるさ」
 王国騎士イェルドは窓の外へと視線を向けた。
 そろそろ、冒険者達が到着する頃だからだ。

●

 ~~年代不明の頃~~

 噴火口なのか、谷だったのか分からないが、そこに頑丈な土台を組んだ。
 石材は周囲にいくらでもある……とりすぎて山の斜面が急になってしまったが……。
「罠はこんな感じか」
 職人の一人が罠が作動するか確認しながら仕組みを作っていた。
 複雑な物ではない。封じてしまえば二度と入れないのだ。メンテナンスができない以上、罠は単純な構造に限られる。
「もっとも……罠に頼るような状態では意味がないだろうが」
 溢れ出るエーテルを空高くに舞い上げて散らす。
 それが出来なくなる――つまり、塔が何らかの事情で正常に作動しなくなる事態になれば、その時点で、御終いと言っても良い。
 いつか、クリーパーに見つかり……喰われてしまうだろう。
「そんな最期にはさせない……お前達が夢見た『約束の日』に辿り着かせる……必ずだ」
 職人は力強く拳を握った。
 そう思えば、この罠造りも意味があるものだと思える。
 罠のおかげで紙一重の結果になる場合もあるのだから。
「『崩落』、『無数の棘』、『圧壊』……ふむ。毒矢は油、酸は効果が無くなる可能性がある以上……矢ではなく『槍』が飛び出す仕組みがいいか。通路はそこそこの幅で……回廊させるようにし……寝室に繋ぐ経路は隠し扉……」
 ブツブツと呟きながら通路を歩く。
 寝室がある地下階は巨大なホールのようになっていた。何本もの太い柱が山と塔を貫いているのが手に取るように分かる。
 不用心に歩けばここも罠だらけだ。特に薄い石材を用いた落とし穴は登ってこれないように反しになるように仕組んだ。
 簡単には見分けがつかない。棒で突いたとしてもその程度では割れないようにしてある。体重を乗せなければ割れないのだ。
「見分けるには……」
 視線を向けた先、寝室がぼんやりと光っていた。
 もし『約束の日』に至った時、塔が正常に機能しているのであれば、その時は、罠が見破れるように細工をしてある。
 しかし……何者かの侵入を許した際には、きっと、これが最後と砦となるのだ。
「さて、もうひと頑張りするか」
 恩人である、かの存在に想いを馳せながら、職人は工具を握り締めるのであった。

●

 寝室の中央に造られた台座……その硝子越しの中に、安置されていた。
 かつては陽の光が部屋をぼんやりと照らしていたが、今は光が届かない真っ暗な闇の中で、ただ、一振りの剣が心臓の鼓動のようなリズムで淡い光の波を放っている。
 剣の柄を握っている人物は、血の気がなく真っ白な肌をしていた。
 整い過ぎた顔立ちは中性的で女性とも男性とも見てとれる。子供と言われれば子供のようで、大人と言われれば大人のようで――揺り起こせば今にも起きそうなそんな雰囲気を発している。

 しかし、残念な事に、この者は、自分が生きた記憶も、呼ばれていた名も忘れているだろう。
 ただ『約束』は魂に刻まれている。もし、目覚める事があった時、きっとこの者は――授恵者(レシーバー)に微笑んでくれる。辿り着く『約束』のために。

解説

(嬉しそうにリボンカチューシャの位置を直しつつ……) 冒険者の皆様、こんにちわ。受付嬢のアーネリーです。 今回の依頼の詳細について、私から説明致しますね。 (……うっかり、6名依頼を5名依頼と勘違いしたまま、気が付いていない) この度も王国騎士イェルド・ルリン様からのご依頼となります。 依頼内容は『塔の地下階への探索』です。地下階内部の構造は不明となりますので、遺跡調査に準じる形でのご依頼とご理解下さい。 罠などがある可能性も高いです。 今回の依頼で出来れば地下階のおおまかな把握まで行って欲しいというのが依頼主から希望です。 というのも、調査後、砦からの速やかな撤収が決まっているそうですので。 再調査が必要となっても暫くは砦に戻れるようには、ならないようです。 なお、今回、宝物などが万が一にも発見されても、その権利は王国にあるとお考え下さい。 何を持って宝物とするかは……私には判断ができませんが……。 (少し自信なさそうに言葉が弱くなる) ……でも、その辺りは皆様の感覚でいいかと思っていますので! それでは、依頼の詳細は以上になります。 皆様の冒険が大成功しますように!(パンッと手を叩いた) =====追記===== ・ダンジョンアタックとなりますが、地下階の探索先並びに罠の発見や解除などは一般判定を用いて処理します。 ・その為、プレイングで有効と判断された行動があれば、判定時に有利となります。逆に探索行動において不利となるプレイング、不足している行動があれば、一般判定で不利となります。 ・罠は『単体のみ』『前衛のみ』『複数』『全員』など効果が様々です。 ・一定数、罠を受け続けてダメージが積み重なった結果、その者の探索は困難として離脱する事になります。全員が離脱となった場合、依頼は失敗となります。 ・前回の第4話のリプレイ内で得られた情報は、報告書として依頼参加者が確認している事として扱う事もできるとします。 ・オープニングラストのシーンは地下階の最深部で皆様が行き着く『寝室』となります。当然の事ですがPL情報になります……ロールプレイの材料として参考にして下さい。 ・なお、今回の達成度の中に【『寝室』で眠る人物との関わり】も含めさせていただきます。

マスターより

 おはようございます。当依頼にて12作目となった広大野人です。  シナリオ名にはタグを付けませんでしたが、個人的に付けるとしたら【神双】となります。  連作ではありますが、毎回決まった人しか依頼に入れないという形ではありません(追い駆けて頂けるのであれば幸いですが)。  塔の中にある存在……オープニングでちょっとネタバレしちゃってますが、いよいよ登場です。  もっとも、出逢えるかどうかはダンジョンアタックに成功しなければなりません。  一般判定で行いますので、スキルは当然の事、装備や持ち込む道具類の準備は必須です。罠への対処方法も大事でしょうし、パーティー内の役割分担も必要でしょう。  出発したら、後はダイス次第といった所でしょうか。某海戦ゲームのような感覚でリプレイをお待ちいただく事になります。  もちろん、ダイス判定よりも先にプレイング内容によって判定を発生させないという行動も可能なものも用意しました。  前依頼で得た情報を活かして、ぜひとも、臨んでいただければと思います! 難易度もMAX設定です!!

リプレイ

●

 冒険者達は地下階に繋がる鍵穴の無い扉……の前ではなく、塔の上部へと登っていた。
 今回、依頼の目的は地下階を調べる事である。それでも登らないといけない理由があるからだ。
「これが、その台座か?」
 腰の吊るしたランタンの具合を手で触りながら確かめつつ、セリオス・オーガストは台座を念入りに確認しているアルマ・ヴァレンタインとロイ・アウレアに尋ねる。
「ここに半透明の鉱物があるみたいなんだよね」
「恐らく、光が差し込まれていたはず」
 前回の調査で、半透明の鉱物が天窓の役割を果たしていたのではないかを踏んでいた。
 そして、その推測は台座を外した時、確かなものとなった。台座を外すと十分な大きさの半透明の鉱物が埋め込まれていたのだ。
「微かに……エーテルの流れを感じるだろうか?」
 姿勢を落として鉱石の奥をジッと見つめてロイは疑問を口にした。
 わざわざ光を差し込ませていたのだ。奥に何かあるのかもしれない。
「うーん。どうかな? とりあえず、元々なかったものは退かしておいたほうが調査に役立つかもだしね」
 アルマがニコっと笑った。出来れば、地下階が明るくなれば良いが、そこまでは期待し過ぎか。
「次は鍵穴の無い扉か。地下階に行くまでにやるべき事が多いな」
 外した台座が崩れないか確認したセリオスは告げ、冒険者達は登ってきた階段を降りだす。
 遠くに見える山裾の森は、まるで嵐の前の静けさのように静寂に佇んでいるようにも見えた。
「……色々下調べしたんだから、そりゃ次はそこに潜る番だわな」
 これまでの出来事を振り返りながらバーネット・フォーサイスは前を歩くエミリア・シバに話し掛ける。
「光芒の神の剣、英雄、墓所……さぁて、鬼が出るか蛇が出るか、ね」
「これだけ意味深に残しておいて、何も無いって事は流石に無いだろう」
 だからこそ、なにがあるか分からない。
「童話はどこまで事実を基にしてるのかしら?」
 吹き抜けた風に髪を抑え、エミリアは小さく呟いた。
 その答えは、きっとこれから先、地下階の奥深くに行けば分かるだろう。


 塔を降りてきてそのまま地下階へと続く扉の前に到着した一行。
 早速、アルマが扉周囲の壁石に手を掛ける。
「鍵穴のない扉の開け方を教えてくれたグダドワさんに土産話ができるように頑張らないとー」
 慎重に手探りして壁石の一つを剥がすように力を込める――。
 ガゴっと不気味な音を立てて、四角いレンガのように壁石が一つ、外れた。
「安全に外せそうか」
 壁石を受け取ったセリオスの台詞にアルマは力強く頷いた。
 一つ外れれば面白いように他の壁石も次々に外れる。
「これは大掛かりな罠だ……そのドワーフの爺さんには感謝だな」
「せっかくだから『蒸留酒』の差し入れでも持ってこうかな? そのままスゥーっとならないといいけど……」
「ドワーフだし、大丈夫だろう」
 特に根拠がある訳ではないが、そう答えるセリオス。
 やがて、全ての壁石が外れると扉の全容が明らかになった。
 扉自体にも罠がないかロイが調べる。
「これは……扉もとても良くできている……罠はないはずだ」
「いよいよ、地下階か」
 調査が長時間かかる事も予測して、保存食や油など多く詰め込んだ袋を背負い、バーネットが言った。
「もし、ここが墓所なら盗掘を警戒して罠とかありそうだし慎重に、ね」
 エミリアの台詞に全員が頷くのであった。

●

 照らしても飲み込まれてしまう闇の中、冒険者達はバラバラにならないように気をつけながら通路を進んでいた。
 物語に出てきそうな遺跡の守護者らしき存在は出て来ないが、その代わりというべきか、大量の罠が冒険者達を歓迎している。
「また罠があるようだ。若干、歪みがある」
 バーネットが警戒を告げる。
 視界の先、折れ曲がっている通路の所で、隠し槍が飛び出す仕組みになっている事を見抜いたのだ。
 だからと言ってすぐに解除には向かわない。
「やっぱり、二重罠のようね。槍罠を解除したら天井が崩れる仕組みだわ」
「また、これか……この手の類の罠は、骨が折れるぞ」
 天井の一角を指差したエミリアにセリオスが応える。
 腰ひもを今一度確認し、彼は慎重に一歩ずつ踏み出した。
 単体罠なら大して怖くはないが、解除したのをトリガーとして作動する罠は厄介だった。
 最初、この手の罠が発動し、危うく大怪我しかけた。二重罠を想定していた事と、命綱を引っ張る機転やアルマの回復魔法で大事には至らなかったが、それでも無傷という訳にはいかない。
「入口から遠ざかるほど殺意の高い罠が多くなって来ている印象だ」
「確かに……最初の方は、発動してもたいした事がなかったな」
 ロイとバーネットがそんな会話をしている最中だった。
 二重罠の天井が崩れないように罠の外れ具を固定させていたセリオスの足場が突然、崩れ落ちたのだ。
 これは、今までなかった三重罠――いや、更に壁から槍罠が勝手に作動したので、複数構造の罠だ。落ちる前に槍でダメージを受けたら受け身が出来ず無防備のまま落下してしまう。
「セリオスさんっ!」
 アルマの声が響く中、仲間が引っ張った命綱の方が一瞬早かった。
 しかし、腰に括り付けていたランタンの紐が槍罠で切れて音を立てて落下していく。
「大丈夫?」
 心配そうに駆け寄ったエミリアにセリオスは片手を挙げて応えた。
 罠の解除は9割方、成功しているが、やはり、難しい時がある。その時は今回のように罠が発動する。運が良ければ怪我をしないが、悪いと手痛いダメージを受ける。
「問題はないが、こっちの通路は進めなくなったぞ」
「別の道から進むしかないか……」
 ロイは紙に調査してきた内容を記していく。
「まるで、迷宮のようだな……」
 地下階は複雑な怪奇な模様を描きつつあった。
 比較的大きな通路から幾本にも別の通路が伸びているのだ。
 ちなみに大きな通路だと『落とし穴』や『無数の棘』が罠のメインで、狭い通路だと天井が崩れる『崩落』や両側の壁が塞ぐ『圧壊』の罠が多い傾向にある。
 授恵者(レシーバー)であれば即死はないだろうが、ダメージが積み重なれば撤退するしかない。
「まだ回復魔法の回数は余裕があるんだよ」
 アルマは一行にそう伝えた。幾度かダメージを受ける事を想定して回復魔法を用意してきたが、大きな意味があったようだ。


 その後、罠を解除しながらの探索は思った以上に時間が経過していた。
 あまり時間がかかるようであれば後日再挑戦できればいいが……依頼主からはそこまで時間的猶予が無いと告げられている。
「多くの罠発動が地下の崩壊と考えると強引には突破できないか」
 ロイは書き込まれた地図を改めて確認する。
 解除した罠の数は50を越えている。発動した罠はその一割程度だが、今の所、地下階の構造に異変はおきていない。
「やはり、奥に行く程、罠の解除が難しくなっているな」
「例えば、槍や棘の罠であれば、敢えて発動させるのも手よね」
 疲労がたまりつつあるセリオスにエミリアが提案する。
 罠の解除は特に集中力を用いる。単発や数個程度の罠であれば気にもしなかったが、長時間の探索だと、厄介な事だ。
 地下の崩壊に影響がないような罠なら、わざと発動させるのも場面によっては有効だろうか。
 ここまでは事前の準備や役割分担、想定していた罠に対する対策によって無事に乗り越えてきたが、ある意味、正念場とも言える。
「俺はまだ大丈夫だ。罠の発見は引き続き頼んだ」
 セリオスは力強く仲間達に伝えた。
 確かに集中力は低下している。だが、一人で全てをやっている訳ではないのだ。
 罠の発見、解除に失敗した時のフォロー、調査のマッピング……全員がそれぞれにできる事を、課せられた役割を果たしてここまで来た。その流れを止める訳にはいかない。
「よし。奥の手を出すぞ」
 そう宣言したのはバーネットだった。
 彼は意識を集中する――次の瞬間、身体が壁に寄り掛かるように崩れ、咄嗟にエミリアが支えた。
(一旦身軽になって探った方が良さそうだからな)
 幽体離脱の能力だ。体の方は託したと心の中で告げ、バーネットは先の壁を抜ける。
 暗闇ばかりの中、ぼんやりと光っている空間に出た。
(光……? そうか、天窓から差し込んで……)
 辺りを確認し、ここに繋がる入口を探すと、幾つかの扉が目についた。そのうちに一つに飛び込む。
 そこは、見知った場所であった。だが、見落としてしまうのも仕方ない。なぜなら、そこは多重罠の落とし穴の底だったからだ。落とした光源が寂しそうにあたりを照らしている。なかなかどうして酷い仕組みだ。
 今回、偶然にも見つける事ができたが、もし、罠に掛かって光源を落とさなかったら、あるいは、幽体離脱を使うタイミングや向かう場所が違えば、先程の空間に繋がる隠し扉を見つけるまで、まだまだ時間が掛かったはずだ。

●

 ぼんやりと光っている空間は、中央に小さな部屋があり、そこから光が放たれていた。
 ロイが描いていた地図からもおおよそ、塔の下に位置すると思われ、間違いなく、天窓から差し込んでいる光であろう。
「エーテル溜まりって程ではないが、エーテルが濃いようだ」
 地図を仕舞って、周囲を見渡す。
 中央の部屋から広がっている光が床の僅かな段差をひっかけて、微かな影を造っていた。
「……影の所の下は落とし穴のようね」
 罠の数に驚きながらもエミリアは告げる。
「見えている罠というのも怪しいが……理由があるのだろうか」
「罠を仕掛けた人物が無事に戻る為の仕組みがあってもおかしくないと思うわ」
 ロイとエミリアの二人は会話を交わしながら、罠の間を通る。
 多重罠にもなっていないようだ。
 やや先行して前を進むセリオスが振り返る事なく言った。
「罠は侵入者に対して造られるはずだ。その侵入者が塔を破壊する存在と予見していれば……」
「とすると、俺達は歓迎されているって事か?」
 両肩を竦めるバーネット。
 ここまでの道のりは酷かった。この場に踏み入る事が許されるのなら、もっと前から、許してくれると苦労しなくて済んだのに。
「中に何があるのかな?」
 ひょいひょいと落とし穴を避けながらアルマが部屋の窓を覗いた。
 何もない質素な部屋の中央に人がすっぽりと入れる大きさの台座が横たわっているだけだ。
「まるで墓石だな。ざっと見る限り、罠はなさそうだし、入るか」
 セリオスに続いて全員が部屋の中に入った。
 厳かな台座は中が見えるように硝子板が張られている。

 ――――。

 中を覗き込んだ全員の息遣いが驚きで一瞬、止まった。
 台座の中に七色に輝く刀身の剣を持つ、人物が眠っていたからだ。
 整い過ぎた顔は女性とも男性とも見えるし、微妙な年齢なのか大人のようにも子供のようにも見える。それ以上に――
「『光芒と英雄』でみた剣士さんみたいだねー……まるで生きているみたい」
 すぐに起きそうなほど、躍動感があった。
 エミリアが持ち込んだワインを台座の上に丁寧に置いた。
 ここは墓標なのだ。なぜ、自分達がここに来たのか、盗掘とは違う事を告げておきたいと思ったからだ。
「童話通りなら、かつて人類のために戦ってくれた英雄の寝所に踏み込んでしまったわけだしね」
 言い訳ではないが、そう前置きしてからエミリアは眠っている人物に話す。
 自分達はクリーパーが集まる原因を調査しに来た事。この塔の事を調べ、罠を抜けて辿り着いた事を。
「これだけの規模の墓地……仕掛けの多さと精密さ。この眠っている人は、皆に慕われた重要人物なのだろう」
「童話は真実だったという訳だ」
 ロイとセリオスが慎重に硝子板を外した。
 ずっしりしていて重みを感じる。これもただの硝子板ではなさそうだが、持って帰られる大きさでもないので、ここに置いていくしかないだろう。
「問題はこの人物をどうするかだけど……腐敗しないのか?」
 じっくりと観察するバーネットの台詞はもっともだ。
 塔はかなり昔から存在している。普通、腐敗して既に跡形も残っていないはずだ。そこは誰もが不思議に感じていたようで、ロイが訊ねた。
「アルマ、この環境の中で、亡骸は腐敗しないのか?」
 エーテルを注いだら案外起きたりしないかと心の中で呟く。その場合、ギルドへの報告はどうしたらいいのだろうか……ふと、自分達を送り出した受付嬢の表裏の無い笑顔を思い出した。
「ボクも分からないけど……」
 確かめるように困惑した様子でアルマは眠っている人物の頬を優しく触れる。
 ただそれだけだ。回復魔法を使った訳ではない。それなのに、だ。

「「「ッ!」」」
 
 二度目の驚きで全員が固まった。
 眠っていたと思っていた人物の目が開いた。黄金のように輝く双眸が、グルっと冒険者達を見渡す。
「お、お姉さん達はね……」
「大丈夫。さっき、聞いたから」
 慌てて説明しようとしたエミリアの台詞を遮って、さっきまで寝ていた人物が応えた。
 その声も、姿と相まって男性なのか女性なのか分かりにくい。どっちとも取れる。
 大事そうに剣を抱えると、何事もなかったかのように、上半身を起こした。瞳と同じように黄金色の長い髪がふんわりと揺れた。
 改めて、冒険者一人ひとりを確認するように見つめてから、敵意がない事を示すように微笑む。
「初めまして、授恵者(レシーバー)の皆さん。私(ボク)は自分が分からないけれど、きっと、皆さんの味方、だと思います」
 先程まで眠りについていたとは思えないほど、滑らかな動きで剣士は立ち上がると、何事もなかったかのように台座から降りる。
 身体の具合を確かめるように軽くストレッチしていたが、唐突にその動きが止まった。
 そして、冒険者達に振り返る。
「……どうしたらいいのでしょうか?」
「質問の意味がよく分からないが……」
 些か拍子抜けしつつもセリオスは応える。
「私(ボク)、何も思い出せなくて…………なんでだろう? 大事な事、忘れている気がします」
「名前も出てこないの?」
 エミリアの質問にコクリと頷く。
 名前も自分の存在も何もかも思い出せない様子にアルマが首を傾げた。
「外に出れば何か思い出せるのかな?」
「それはあるかもな。一応、墓標……なら、この地に関係する者なのだろう?」
 死んでいたら墓標ではないのだが、バーネットはそう告げた。
 記憶に障害があっても切欠があれば思い出せる場合もあるはずだ。
「しかし、これは本当に報告に困る事だ、な」
 ロイは考えるように顎下に手をあてる。あのうっかりな受付嬢がどんな顔をするのか……。
 それに依頼主は砦で冒険者達の帰還を待っているのだ。出入口も一か所しかない。
「おねえさん個人としては、イェルドちゃんにはともかく、公式報告は英雄の墓所って事にしたいわねぇ」
「……よく分からないけれど、それで私(ボク)も良いと思います」
 自分の事だと言うのに、他人事のようにニッコリと笑った剣士が持つ剣が、ひと際大きく輝いたように――見えたのであった。

マスターコメント

 お疲れ様でした&ご依頼にご参加いただき、ありがとうございました。  高難易度の為、がっちりと判定が厳しくなるように設定してあったのですが……実に、お見事でした。  事前の用意、役割分担など探索に必要なものはおおむね準備されており、また、前回依頼から得た情報もちゃんと活かされていました。墓所で眠る剣士との関わりも適切な行動があり、全員がいたからこそのシナリオ結果だと思います。  さて、【神双】のストーリーはこれで半分ほど経過しました。ここから先、どのように展開していくかは――今後の依頼を楽しみにしていただければと思います。  それでは、改めて、依頼へのご参加、ありがとうございました。また機会があれば冒険者の方々のご参加の程、お待ちしております。
ショートシナリオ

ショートシナリオ非常に難しい 報酬:多い5 / 4〜5人

2021年06月28日 02時06分44秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ロイ・アウレア

    シューターのロイ・アウレアです。よろしくお願いします。 お宝!ダンジョン!冒険!とワクワクするよ。 汎用を上手く手分け出来たら助かるので、持つ予定のを教えて頂けませんか? オレが持ってるので、全体向けに役立てそうなのは 透視、位置感覚、看破、超聴覚、医療・薬学(『寝室』で眠る人物用) 枠が空いてたら、バランス感覚(個人向け) 罠解除も欲しいが持ってないので、誰も持ってない場合は取得しますね。 後、照明の支度も…した方が良いよね? 暗視を持てば早いが、汎用枠を開けたいから ランタンとエンライトの使い分けをしようかなぁ…とまだここは考え中です。

  2. セリオス・オーガスト

    ・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む まあ暗視があれば便利だが今回はほかにも必要なのが多そうだからランタンとかのほうがよさそうだな とりあえず俺が持ってるので今回使えそうなのは 看破、超聴覚、位置感覚、罠解除といったところか 罠があるようだから罠解除は持っていきたいところだな

  3. アルマ・ヴァレンタイン

    ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー。 いちおう前回のりぷれいがこちらー https://alpaca-connect.com/world/world0/scenario/955 手持ちの汎用だとー 看破、超聴覚、位置感覚、罠解除、ダンジョン知識がLv1(2にはできるよ) 医療・薬学がLv5だよ 罠ダメージのリカバリーになるか分からないけど 治療強化を乗せたヒールを準備していくね 寝室の人用にリヴァーオブヴァイタルも持っていこうかなと

  4. バーネット・フォーサイス

    キャスターのバーネット・フォーサイスだ。 まぁ、よろしく頼むわ。 >方針 今回は遺跡探索がメインだから、感知、探索、ギミック解除に使えそうなものを揃えて、 役割分担しながら進むのが良さそうだな。 >スキル 手持ちで今回使えそうなものとしては、ギミック対策に看破と罠解除、 遺跡のマッピングに位置感覚と記憶力、後は先行偵察様に幽体離脱とかだな。

  5. ロイ・アウレア

    ああ、今だと『Lv』もあったね! それなら【位置感覚】【記憶力】がそれぞれLv4で ここまで見た中で被ってないのは【透視】なので、この3つの中から選ぼうかな。 持込む道具も手分けた方が良いよね? 一応、ダンジョン野営セットと迷宮産お肉セットが有るが、今回はダンジョンアタックと言っても長期じゃないだろうから調理・寝具系は不要かな? 思いつくのは、シーフズツール、ロープ、照明系、小型ハンマー、筆記用具…位。他には何があるだろう。

  6. エミリア・シバ

    シーフのエミリアよ、よろしくね 超聴覚、超嗅覚、暗視、透視、看破 汎用だと役立つかしらっていうのは上記かしらねぇ、レベルはちょっと個人の色付け用スキル優先しちゃったから、レベルあるのもレベル1だけど。 特性で探波は絶対持っていく予定ね。

  7. ロイ・アウレア

    ではLv4の【位置感覚】【記憶力】の2点を持ちます。 Lv5持ちの人が居たら、Lv不要なのとか、別のにしますので教えて下さいねー。 (個人の色付けは大切ですから、是非に納得できるのを上げて下さい。)

  8. アルマ・ヴァレンタイン

    朗報?というか汎用のLv表記がだいぶマイルドになって1でも実用てきな感じにー (前のはLv1とか2とかあんまりな表現だったしー…) 必要そうな汎用は手分けすれば網羅できそうな感じ? 罠へのチェック回数を増やす意味で看破2は持ってく予定なんだけど もう1枠に医療・薬学か残留思念感応をもっていきたさがちょっとあるかも

  9. バーネット・フォーサイス

    大分間が空いちまってすまんな >分担 まぁ、5人も居れば必要そうなスキルとか装備は一通り揃いそうだな。 とりあえず俺は幽体離脱と看破あたりを持ち込む予定だ。 あとは、ランタンとか持ち込むから大丈夫だとは思うが、念のためエンライトも用意する。 道具はランタンと小型ハンマーあたりだな。

  10. ロイ・アウレア

    探波は便利ですよね、被るが自分も探波を持って別方向の壁を探ろうと思います。 それとエーテルリンクで栗鼠に狭い場に入り見て貰うね。 エンライトも被るが、10分って縛りがあるので予備に持つのと 後は壁を壊す必要性がある場合に備え、攻撃スキルを幾つか… 道具はシーフズツール、ロープ、D野営セット(色々と入ってる)の3点にしよう。 >汎用のLv表記 実用性が増したのは有り難いね。これで無理に上げなくても良くなる。 さらに上げてレベルも上がると「オレ天才?!」に成れるかな。何となく楽しい…( (勘違いし、消して……ついでなので直しました。)

  11. アルマ・ヴァレンタイン

    気付けば朝に出発になったねー スキルはたぶんみんないい感じに割り振ってると思う(ことにして) 前回の調査で気になった点とかを入れてぷれいんぐ出してきたよー >汎用のれべるー 楽しみだよねー10まで上げるのにどれだけOrb要るのかいまから心配だけど…

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0