カエルとヒヨコの腕試し

七海真砂

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シナリオID:1005

オープニング

「腕試しがしたいから冒険者を貸してくれ、決闘しようぜ!!」
 その日、リブラネスタの酒場『踊る子熊亭』に飛び込んできた青年にアナンディーンが応対する事になったのは、新人教育担当兼、軍事関係のご意見番を務めているアナンディーンの立場が、青年の依頼と噛み合ったからだった。
「決闘」
「ああ。1対1のタイマン、真剣勝負だ! やりたがってるのは俺と7人の仲間の合計8人。だから8人の冒険者に来て貰いたい!」
 ふむ、とアナンディーンは顎をしゃくる。
 青年は自信満々な様子で、「たとえ冒険者相手でも勝ってみせる」とでも言いたげだが、その身のこなしは口ほど磨かれてはいないように、アナンディーンの目には見えた。
(井の中の蛙……という格言があるそうだが)
 小さな村の自警団であれば、そのような事もあるかもしれない、とアナンディーンは自警団の状況を察する。
(勿論、我々が依頼通りに全力で戦い、彼らを叩き潰す事も出来る……だが……)
「――わかった。私の方で冒険者を募り、そちらの村へ伺おう」

「とある自警団が、腕試しの相手を探している」
 青年が去って暫くの後、アナンディーンは考えを纏めると改めて、酒場にいた冒険者達に声を掛けた。
「相手は全部で8名、1対1の真剣勝負を希望している。だが彼らは授恵者ではない。普通に戦えば冒険者側が勝つのは明白だ。そこで――」
 アナンディーンは、こう告げた。
「冒険者の側は、スキルの使用を禁じる」
 周囲がざわついた。
 無理もない。冒険者の戦いにおいてスキルの行使は常に当たり前のこと、スキル無しの戦いを行った経験なんて、ほとんどの冒険者が無かったからだ。
 だからこそ、とアナンディーンは言う。
「冒険者の側も普段の鍛錬や地道な努力、本人が持つ才覚などが試される機会となるだろう。君たちにとっても得る物があるに違いない。……さて、行く者は?」

解説

 スキル使用不可の腕試しに行きませんか?  タイトルにはヒヨコってありますけど、初心者限定のシナリオではありません。ただ、小さな村の自警団が相手ですから、レベルの高い人は力量の差がついてしまうでしょう(真剣勝負したくても、そうならないと思います……という意味です)。  このルールを踏まえてプレイングをどうぞ。  皆さんの相手になる自警団の皆さんは、いずれもオープニングの青年みたいな感じの人達です。  アナンディーンは引率と審判役などをします。自警団とは戦いません。

マスターより

 こんにちは、七海真砂です。  アナンディーンと腕試しに行きませんか?  目的の村はリブラネスタから数日の所にあり、移動に時間が掛かったりするのですが、移動シーンは大体省略される予定です(プレイングにもよりますが)。  細かいことはアナンディーンがついてますから、皆さんのプレイングは腕試しに専念してOKです。  ご参加、お待ちしております。

リプレイ

 リブラネスタを出発してしばらく。冒険者達は目的の村へ辿り着いていた。早速、自警団の本部へ向かうと、腕試しの依頼に来ていた青年――自警団のリーダーが出迎える。
「こちらの人数は4名なのだが大丈夫だろうか?」
「4人だけか……じゃあ選ぶからちょっと待ってくれ」
 自警団側も4名を選抜する形を取ることにしたらしい。彼らは暫く相談すると、やがて対戦相手に決まった4名が前に出る。どうやら見た感じ、自警団は短剣を使う者と長剣を使う者がいるらしい。
「では早速始めて構わないだろうか?」
「勿論だ」
 練習場のスペースがあるから、そこでやろうという自警団側の提案に頷き、冒険者達が移動すれば……。
「そっちの人達が冒険者さんかい?」
「おおっ、わざわざ遠い所をようこそ」
 どうやら、既に噂が流れていたのか、冒険者と自警団の模擬戦を見物しようといくらかの村人が集まっている。エリザ・A・ミシャールの夫も、その中に混ざっているようだ。
 冒険者側は事前に、厳選な抽選(アナンディーンが用意したくじ引き)によって出場順を決めてある。一番手がストレガ・L・リベルガストラ、二番手がテテリカ、そしてサリア・ウェントスにエリザという順番だ。自警団側の一番手が進み出てくるのを見ると、ストレガも前に出た。
(授恵者たる者、腹案は持っておいて当然なのだ)
 今回は試合という形だが、実戦では更にもっと様々な状況が考えられる。授恵者がある日突然神の祝福を授かるのならば、それが突然失われてしまう事だってあるかもしれない……。そこまで考えているストレガにとって、これは丁度いい機会でもある。
「はじめ!」
 双方の準備が整ったのを見てアナンディーンが合図を出すと、ストレガは相手の移動の仕方を探るように目を細めた。移動の仕方、距離の詰め方、そこから導かれるおおよその間合い……。
 剣を振りかぶった対戦相手の一撃を、回避に専念していたストレガは軽やかに避けつつ、それらを大まかに把握すると相手の背後を取るように動く。対戦相手もすぐさま反応して動くが、ストレガの方が一手早い。
「ぐっ」
 ストレガは対戦相手の背中に魔導書の一撃を叩き込んだ。相手も踏ん張って体勢を立て直すと、剣を水平に構えて反撃に出る。今度の一撃は、避けきれない。ストレガも態勢を整えながら姿勢を低く取ると、
「ぬっ!?」
 狙いを定めた先は相手の股間だ。ためらわずに急所を狙うストレガに、対戦相手は慌ててそれを避けながら舌打ちをひとつ。
 非難するような視線が、その顔には浮かんでいるが、
「実戦なら卑怯でもなんでもないのだ。相手の急所や隙を突くのは……当然なのだ!」
 ストレガの主張は、ある種当然のものである。正々堂々戦おう……なんてことは、生死を賭けた戦いでは言ってられない。ストレガは体勢を大きく崩した相手へ更に追い打ちをかけるように足払いを繰り出していく。相手の方も、それは理解できるのだろう。だから舌打ちの音がしたくらいで、文句の言葉が出ることは無い。
「くっ……」
 転倒まではしないように、対戦相手は踏ん張って耐えているが、一度崩れた体勢をなかなか戻しきれない。様々な形で攻撃を繰り出してくるストレガに「次はどんな手で来るのだろうか」と思考しなければならないことも、負担になっているのだろう。その顔には、やや焦りが見える。
(奇策ばかりと思ったら大間違いなのだ)
 だからこそ正攻法が効く。ストレガは真正面から勢いよく殴りかかった。相手からの反撃を食らうが構わず攻撃を重ね、対戦相手を押し倒すと馬乗りになる。
 ガッ! と、その勢いのまま相手の顔面を強打した。
「……降参するなら今のうちなのだ」
「ぐ……ッ!」
 続けるというなら、当然容赦はしない。そのつもりで次の一撃を構えるストレガに、対戦相手は「参った」と言葉を上げる。
「そこまで。冒険者側の勝利」
 降参の意が示されたことで、即座にアナンディーンが宣言し、最初の戦いはストレガの勝利で終わった。

「お前、ちゃんとここで待つんだぞ」
 テテリカは相棒のイノシシ・ツチグリに待機するよう言い聞かせ、対戦の場に立った。エーテルリンクは事前に解除しており、言葉は通じないはずだが、ツチグリは主の意を汲んでか、仲間の側でじっとテテリカの背を見つめている。
「では第2試合……はじめ!」
 テテリカは対戦相手との間合いを取……ろうとして、自分がいま握っているのはナイフだということを思い出す。
(いつもの癖が出てしまっている……これでは、いけないな)
 ナイフ自体の使い方は心得ているが、武器として用いた経験は多くない。それ故に身に沁みついた動きが咄嗟に出てしまったのだろうが、小さくかぶりを振って、テテリカは一歩踏み出す。
(思い出せ、ツチグリ達はどう戦っていた?)
 イノシシは接近戦を得意とする獣……不慣れな身であれば、その戦い方を師として己の身の振る舞いを考えれば良い。テテリカは真っ直ぐに間合いを詰めると、下から上へ、刃先を振り上げるようにして剣戟を繰り出す。
「はああっ!」
「たあああっ!」
 後ろに飛び退いて負傷を浅いものに抑えつつ、対戦相手もまた剣を振るう。テテリカは敢えてそれを受けると、攻撃を繰り出し終わった相手の一瞬の隙を突いて再びナイフを振るった。
(相手の間合いはわかった。なら……)
 軽く飛び退いて間合いを保とうとするテテリカの方へ、対戦相手が距離を詰めてくる。テテリカは新たな一撃を左腕で受けると、そのまま身構えた――相手に、攻撃の軌道が見え辛くなるように計算しながら。
「!」
 肉を切らせて骨を断つとは、このような事を言うのかもしれない。そこから繰り出されたテテリカの一撃は、一瞬の不意を突いて対戦相手の急所を裂く。クリティカルなその攻撃に、相手はくぐもった悲鳴をあげながら傷を押さえた。
「そこまで」
 これ以上は危険だと判断したアナンディーンから制止が入る。対戦は、テテリカの勝利だ。
「ふぅ……ありがとうございました」
 息をつき、相手と向き合って礼をしたテテリカは、傷口を押さえながらツチグリの元へ戻る。ツチグリの視線は相も変わらず、ずっと試合の場へ向けられていた。
(少しでも俺に見どころがあると思ってくれたのなら、鼻でそっと触れてくれないだろうか……)
 そう、思いながら手を差し伸べたテテリカを見上げた相棒は、その手に鼻で触……れたと思ったのは一瞬のこと。そのまま、ぐいっと押し返してくる。
「わっとと」
 そんなに乱暴にするなとテテリカは苦笑いする。さて、少しは認めて貰えたのだろうか?

(いい訓練になりそう、かな)
 普段は二刀流のサリアは、やや慣れない感覚に少しだけ戸惑いながらも、一本だけ握った短剣を構えた。
(ちょっと勝手は違うけど……気にせずいつも通りマイペースに戦わせて貰おっと)
 向こうは増長しているという話もあったが、先の2試合が冒険者側の連勝となった事もあってか、サリアの対戦相手は真摯な顔つきでサリアと向き合っている。負けられない……そんな決意も伝わってくるが、相手のペースに飲まれてはいけない。
「では、次の試合、開始!」
 試合が始まるとすぐ、互いに武器を繰り出す。甲高い音が鳴り、刃先と刃先がぶつかり合う。
 サリアとしては相手の攻撃は出来るだけ回避を、と考えていたが、相手もそれを易々と許してはくれない。撃ち合った刃はそれぞれの体を切り裂き、あるいは強打し、互いの体に傷が積み重なっていく。
「はっ!」
 持ち前の身軽さを生かして体勢を立て直しながら、サリアは短剣を繰り出す。
 素早く詰め寄ったサリアの一撃に、苦し気に息を漏らした対戦相手だったが、すぐ間合いを詰めて反撃に出ると、今度は頭上から叩き斬るようにサリアを襲う。回避を試みるが、避けきれない。
「まだまだ……ここからよ」
 握り直した短剣を再び構えるサリア。戦況は五分五分、まさに一進一退の手に汗握る白熱の試合が繰り広げられ、サリアも対戦相手もどんどん傷が深まっていく。
 そして、状況を大きく変えたのは、サリアの動きに慣れてきた対戦相手が繰り出した一撃だった。
「っ」
「逃がさん!」
 素早く詰め寄るサリアと、そこへ繰り出された強力な一撃。交差した刃は一瞬の後、サリアを大きく引き裂いた。
 それでも降参はせずに戦い続けるサリア。対戦相手の急所を狙おうとするが、それよりも一瞬早く、対戦相手の振り下ろした剣が迫る。まずい、と思った時には既に手遅れで――。
「そこまで!」
 アナンディーンの制止が入る。ジャッジは自警団側の勝利、だ。
「負けた……」
 残念そうに息を吐きだすサリアだったが、すぐに右手を出す。
「対戦、ありがとう。これからもお互い精進して頑張りましょう」
「こちらこそ。どちらが勝ってもおかしくはなかった。今後もお互いに頑張ろうぜ」
 対戦相手と励まし合って別れる。勝者となった彼が仲間達の元に戻ると、わっと盛大に歓声が上がった。
(とは言ったものの、私の戦い方はどうしても命を奪う戦い方に寄りがちだし、正直、彼らの生き方が眩しく見えるわね……)
 そんな彼らの様子を振り返って、サリアは少しだけ目を細めると、すぐに身を翻した。

 最後に対戦の場に上がったエリザは初心者用の弓を構えた。
 武器の質は、相手の方が上だ。エリザはそのまま相手をよく観察し、一気に距離を詰めて来ようとする対戦相手との間合いを維持しながら戦おうと試みる。
 しかし、エリザが距離を保った戦いを狙うのと同じように、相手は相手で接近戦に持ち込みたい状況なのだ。距離を常に維持し続ける事は困難であった。
「ならこうするだけのこと」
 弓を射た直後、エリザは構える武器をタクトに切り替えた。唐突な武器替えに戸惑う相手に、エリザは魔法の光を叩き込む。相手が至近からの攻撃を狙うなら、こちらも……という訳である。
(アタシがこの距離でタイマンするなんて、普通は無いんだがね)
 しかし、そうであれば逆にこの状況を生かせる形に持ち込んでいく……それがエリザの戦略であった。
「ぐっ」
 攻撃方法の切り替えは、相手の虚も突いたらしい。反応が遅れた相手をエリザは確実に追い込んでいく。
 一方のエリザは相手に接近した事を逆に生かして戦い、僅かな隙も見逃さないようにしながら、すかさず魔法を叩きつける。
「ぐっ、やるな」
 痛手を負った対戦相手が体勢を立て直そうとするが、そこにエリザは攻撃を重ねる。振り下ろされる剣を避けつつ、繰り返し放たれる光はじわじわと徐々に相手を追い込んでいき、負傷の度合いには徐々に差が出ていく。
 少しずつ、だが確実に、戦況はエリザの優勢に傾いていった。
「そこまで」
 やがて、傷の深さを見極めたアナンディーンが決着を告げる。エリザの勝利だ。
「ふう……」
「くっ、負けたか……」
 相手が悔しそうなのは、2人の戦いだけでなく、8名の戦いそのものも冒険者側の勝利で決着したからだろう。彼が勝てば、全体の勝敗は引き分けに持ち込めたが、結果はそうはならなかった。
「すっかりやられてしまった」
「こっちも序盤は追い込まれてしまったからね、おあいこさ」
 もう少し相手の見極めに時間を使いたかったのだが、そこまでの余裕が無くなってしまったのは、彼の力量あってのこと。互いの健闘を称えつつ、エリザ達は一礼する。
(観戦する側にも、いい経験になっただろうか……?)
 そう周囲にチラリと目をやり、夫の姿を探すエリザであった。

 3勝1敗、冒険者の勝利――その結果に、自警団の男達は本当に悔しげな様子だった。サリアの対戦相手も、勝利は紙一重の差だったと自覚しているのだろう。
「まだまだ精進しなければいけないな」
「おう!」
「二度と負けねぇ!」
 どうやら、彼らの意識にも良い作用があったようだ。その辺りを危惧していたアナンディーンも、少しホッとしているように見えた。
「今回はわざわざ出向いてくれて感謝する」
 最後に、自警団のリーダーは約束の報酬を差し出す。と、
「やった! 報酬も貰えて訓練もできるなんて、すっごくいい依頼だったわ!」
 しっかり報酬も貰えて一石二鳥だと言わんばかりに喜ぶサリアに、自警団のリーダーがくつくつ笑う。
「……こんな風に楽しんで鍛錬する心持ちも大切なのかもしれないな」
 常に気を張り詰めるのではなく、気負い過ぎるでもなく。こうした余裕やゆとりも大切なのかもしれないと、そうアナンディーンも小さく笑う。
 こうして、各自それぞれに得た経験を胸に、腕試しは終わりを迎えたのだった。

マスターコメント

 腕試しの結果は、以上のようになりました。自警団の人達にとって、有意義な結果となったようです。皆さん、お疲れ様でした。
ショートシナリオR

ショートシナリオR普通 報酬:標準4 / 4〜8人

2021年06月16日 12時23分00秒 公開

普通

相談掲示板

  1. テテリカ

    テテリカだ。……まだ他の参加者はいないが、来ると信じて待つとしよう。 俺はシュータ-だが、弓を使えない状況での訓練がしたくてこの依頼を受けた。近接武器で戦う。 真剣勝負を望む相手に不慣れな武器で応じることは、少々不誠実なのではないかと思うところもあるが……。

  2. ストレガ・L・リベルガストラ

    ストレガなのだ。よろしくなのだ。 スキル使えないキャスターだからまったくもってちょうどいいと思うのだ。

  3. サリア・ウェントス

    サリアよ、よろしくね。 新米冒険者だし、こっちにとってもいい訓練になりそうね。

  4. エリザ・A・ミシャール

    エリザだ、よろしく頼む。 一応、もう一人誘っているから成立には関係ないが……増えるかも知れない。 まだ来ていないようだから、もしかしたら来れないかもしれない。 いずれにしても、一対一の模擬戦ということでそこは準備をさせてもらった。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0