【帝国】『ヤコブの顔』を使え!

大和気 いぐる

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シナリオID:910

オープニング

 白茶けた金髪、三白眼の赤い目。
 どうにもこうにも、人相が悪い。
 一応、商売だけは誠実にやってきたつもりだ。
 ああ、けれども。ヤコブ・ヴィリアン。

 何だって、ワタシの顔が吸血鬼(ソイツ)に似てるだなんて事に?

●ある交易商の決心
 ジェイコブ・ビリジアンは、交易商だ。
 痩せぎすで、ワシ鼻。あんまり目つきも良いとはいえない。
 けれど、見かけによらず商売は誠実で、扱う商品の品質は高かった。
 交易商としては、結構な信用を築いているといってもいい。

 彼の面相は悪名高き吸血鬼、ヤコブ・ヴィリアンにそっくりだった。
 それが判明したのが、ひと月ほど前のことである。

 ヤコブ配下の吸血鬼に盛大な人違いをされ、拉致監禁されたのだ。
 幸い冒険者たちに救助され、事なきを得たが。
 その時負った怪我も、もう癒えた。

 しかし、それがケチのつきはじめだった。
 よく往復している街の人々が邪険にしてくることは、あまりない。
 だが、問題は初対面の人々である。
 砦の一件のせいで、冒険者ギルドの似顔絵つき手配書が広まったようだ。
 それにつれ、妙な目で見られることが増えた。
 おまけに眷属の吸血鬼も、難民キャンプで何かをやらかしたらしい。

 どうにも、行き詰まりを感じる。
 ジェイコブは、近所の商業神の祠を詣でることにした。
 日参するほど信心深いわけでもないが、折に付け挨拶は欠かさない。

 略式ではあるが礼拝し、お供え物と御布施を少し。
 それから神託を受け取る。
 神託といっても、大袈裟なものではない。
 神託所で、大体の運勢とちょっとしたアドバイスが書かれた紙をもらう。
 くじ引きと、あんまり変わらないものだ。

 それでも若い頃に受け取った神託は、今でも心の支えだ。
『誠実な取引を続けよ、信用が財産となる』

 今回、下った神託は――。

『己の持つものを存分に使え。
 戦場近くに開運の気配あり。多くの者のために動け』

 はて、『己の持つもの』とは、どんな意味か――。
 ジェイコブは目を閉じ、考えこんだ。

●己の持つものを存分に使え
「――とまあ、そういった経緯でな」

 王国騎士リリィ・ナイトレイは、何とも言えない表情でそう言った。
 彼女の側には話どおり、ヤコブ・ヴィリアンそっくりの男が立っている。
 件のジェイコブ・ビリジアン氏だ。

「もともと彼は、私を訪ねてきてくれたのだが……。
 騎士隊での運用より、冒険者ギルドに委ねたほうが良かろうと思ってな。
 王国所属の兵というのは、色々面倒なしがらみも多い。
 吸血鬼相手の作戦ならば、授恵者が多いほうが彼も安全だろう」

 ジェイコブが進み出て、冒険者たちに訴えた。
「……ワタシにも具体的な案はないのですが――。
 この顔が何かに役に立つのなら、協力させてください。
 件の吸血鬼を討伐できれば、人々の噂もある程度沈静化するでしょう」

 ――なかなか勇気ある申し出だ。
 民間人を危険に晒すのはどうか、という考えもあるにはある。
 だがヤコブの眷属をも惑わす『そっくりさん』というのは、得難い人材だ。
 さて、どんな作戦が考えられるだろう――?

解説

 ジェイコブ・ビリジアン氏を運用した作戦を立案、実行してください。  彼は、ヤコブ・ヴィリアンに酷似した外見をしています。  成果として求められるのは、ヴィント奪還に役立つものです。  彼を囮とした眷属の誘い出し、偽装による情報撹乱などが考えられます。  敵を対象とするだけでなく、味方に向けた作戦もあり得るでしょう。  もちろん自由な発想で、それ以外の立案を行って頂いても結構です。  一人あたりの字数の都合上、概略報告のみの描写になるかと思います。  似た内容の作戦提示があった場合、こちらの判断でまとめて描写します。  他と共通する要素がなく、単独での遂行も難しい内容の場合は立案だけで終わる可能性もあります。  また作戦の結果まで描写できるものは限られています。  例示すると、本丸であるヤコブとの決戦は含まれません。  それに関わる作戦の提案までは行えます。  ただし、リプレイでは作戦本部に報告されたと記されるのみになりそうです。  難易度は「普通」としてありますが、立案した作戦によって変わります。  眷属の中でも強力な者を騙し討ちしたい、などは「難しい」相当です。  反対に、ジェイコブに荷運びをしてもらう、などは「易しい」相当です。  なお報酬や経験点は変わりません。  シナリオ結果は、全体の作戦の成否と内容から判断されます。  少々無理がある作戦があっても、それだけで失敗にはなりません。  ですが、そういったものばかりだと厳しい結果になりそうです。  不明な点があれば、リリィを指名の上、掲示板でご質問ください。  ただし、全てにお答えできるとは限りません。 ▼関連リプレイ 「愛しのヤコブ様」  ジェイコブがヤコブの眷属に拉致られた事件の詳細です。  特に読まなくても支障はありませんが、興味がございましたら、どうぞ。 ▼NPC ・ジェイコブ・ビリジアン  ヒューマン 男性 50代  普段は徒歩で近距離の交易を営んでいる商人。  ヤコブ・ヴィリアンによく似た、あまり恵まれない人相の持ち主。  顔はともかく、いいひとです。  交易で生計を立てられる程度の能力を有しています。  非授恵者で、戦闘能力はありません。 ・リリィ・ナイトレイ  王国騎士。関連キャラクター参照。  攻略と設定に影響しない範囲で、掲示板での質問に応じます。  非授恵者ですが20LV相当の戦闘力があります。  希望すれば同行や支援が可能です。

マスターより

 お世話になっております。  大和気(おおわけ) いぐる です。  今回は少々、変則型のイベントシナリオかと思います。  ヤコブのソックリさんを見物してみたい方は、是非どうぞ。  自分の策を試してみたい方もお待ちしております。

リプレイ

●
「顔を使ってくれというのも、またどうしていいか困っちゃうね……」
 アルマ・ヴァレンタインは弱り顔で言った。

「まことに、すみません……」
 それ以上の弱り顔で、ジェイコブが縮こまる。
 またその顔がヤコブに似ているのが、微妙なカンジだ。

 グレイ・ナックラーは、その顔をしげしげ見て言った。
「なるほど……これは、たしかに似ている」

「そ、そうですか……」
 ジェイコブはしょんぼりと肩を落とす。

「いや、まあ。そこは災難じゃったな。
 ……で、今回はそれを活かせないか、という話じゃな?」

「ボクは、色んな人に目撃されるといいと思うんだけど」
 アルマが言うと、グレイは顎髭をさすりながら、しばらく考えた。

「では、一つ献策させてもらおうかのぅ。
 儂が示す策は『ヤコブの顔を覚えさせる』作戦じゃ」

 一応、ヤコブの顔は手配書になって冒険者や兵士たちに知られている。
 王国の騎士は特に、古くからの凶悪犯として知っている者も。
 だが、末端や新参の者たちが知っているとは限らない。
 書類の類を読めないだけならまだしも、見ようともしない輩もいるのだ。
 実際に対面しないと、顔を覚えられない、という者もいる。

「なるほど、兵士さん相手かあ……なら危なくないね!」
「そうじゃろ?」
 得意げに片目をつぶって見せるグレイ。

「それに。皆におぬしを知ってもらうのは悪くないぞ?」
「えっ、ワタシですか? 『ヤコブの顔』のほうではなく?」

「そうじゃ。おぬしは王国で商売をしとるんじゃろ?
 ならば、王国の兵士や騎士に知られておれば、誤解も解きやすい。
 それに、後々の商売のタネにもなるかも知れんしな」

「たしかに、そういう考え方はありますね。
 ……ありがとうございます」

 深々と頭を下げるジェイコブ。

(災難な御仁じゃのう……)
 グレイは、同情心を隠せなかった。

「……僭越ながら、もう一案」
 ジェイコブを眺める二人に声をかける者があった。
 ゴブリンのゴブロウタである。

「せっかく、ほぼ実物といえる人物がいるんです。
 服装や、髪型を変えた場合のことも周知しておくと良いかと」
 眼鏡をキラリと光らせ、彼は言った。

「……あのヤコブが変装するか? と言われると疑問じゃが。
 ああいや、逆に何をしでかすか全くわからん、とも言えるか。
 確かに、備えはしておくべきじゃの」
 グレイも同様、眼鏡を光らせて応じた。
 ……別に対抗したわけでもないのだろうが。

「うーん、でも、砦にいい服やカツラなんてあるかな?」
 眼鏡はなかったので、アルマはこめかみを擦りながら言った。

「イメージが湧けばいいんです。出来は気にしなくていいですよ」
「そっか。じゃあ、ちょっと待ってて!
 何か使えそうなものがないか、探してみるよ!」

●
 ――そして、数刻後。

「じゃーん! どうだろ、なかなかイイんじゃない?」
 アルマは得意満面、胸を張った。

 まずは服装。
 さすがに貴族が着るような、豪華な服は用意できなかった。
 アルマは新品の軍服に、なるべく良い布で作ったフリルを縫い付けた。
 それだけで、軍服っぽさはずいぶん減った。
 赤いマントはカーテンを拝借したものだ。

 ……まあ、服飾のプロがしっかり見たら、素人仕事なのはバレるだろう。
 でも、遠目に見る分には、わりと高級感は出てると思う。

 髪の毛はちょっと短い。
 仕方がないので、よーくブラッシングして、サラサラにしておいた。
 毛糸で即席のカツラも作ってみたが、さすがに偽装には使えないだろう。

 それから、次にメーキャップ。
 おしろいを顔にはたきこみ、目の下に炭の粉を塗る。
 紅(べに)にも炭を混ぜて塗れば……吸血鬼らしい血色の悪さの出来上がり。
 牙は白木を削って、即席の入れ歯を作った。

 出来栄えは、なかなかのものだ。

「おお。さらに真に迫ったのう」
「ええ。似顔絵より臨場感があります。いいですね」
 グレイとゴブロウタが揃って称賛した。

「……な、なんだか奇妙な感じがしますね……」
 鏡に映った自分の顔をしげしげと眺め、ジェイコブは目を瞬かせた。

「まーね。ヤコブがかなり奇妙なヤツだからね……」
「そんなに奇妙なヤツなんですか?」
「まあ、ありていに言って、奇人変人の類じゃな」

「そうだ、『すぅいいいいいいと!』って言ってみて」
 アルマは思いつきを口にした。

「す……すぅいいいいいいと!」
「……うわぁ」

 ドン引きするぐらい似ていた。

「……えーと、こんな事言うヤツなんですか?」
「うん、言うよ……ていうか声も似てるんだね」

「それはいい。是非、兵士に声も聞かせておきましょう」

●
 砦の中なら危険はないだろう。そんな思惑で決行された作戦だった。
 しかし、思わぬ事で肝を冷やす一幕もあった。

 四人が兵の詰め所へと、移動しようとしていた時のことである。

 渡り廊下の向こうから、一人の大柄な獣人(ハーフビースト)が歩いてきた。
 ――その頭は猪のものだ。

「……うおっ!?」
 思わず地の出た悲鳴を発し、ゴブロウタが驚愕した。
 グレイもアルマも似たようなもので、顔面蒼白になっている。

 バルディオン将軍。

 彼の息子が、ヤコブにどんな目にあわされたかは、有名な話である。

 ――絶対に、顔をあわせてはいけない。
 いくら、広く兵に周知すべき顔であったとしても。

「……いかん、隠れるんじゃ!」
「ままま、まずいよ~~!!」
「えっ……何があったんです?」
「いいから、早くこっちに来てください……!」

 四人は大慌てで、その場を離れた。
 幸い、バルディオン将軍に追求されるようなことは無かった。

●
 危機を乗り越えつつ、一行は砦の兵士の詰め所数ヶ所に出向いた。

 上官に話を通し、兵士たちの前に立つ。
 衣装と不格好な即席カツラを、とっかえひっかえ。

 時折ジェイコブが『すぅいいいいいいと!』などと叫んでみせる。

 意外にも真剣に見ている兵士が多かった。
 ……中には完全に面白がっている者もいたが。

「……なんだか見世物じみてきましたね」
「……真面目にマネてるだけなんじゃがのう……」
「……しょうがないよ、本物がアレだもの」

 ひとまず、書類で見るだけよりも、印象に残っただけ良いだろう。
 三人は、そう結論づけた。
 実際、砦の兵士の間では、しばらくその話題が頻発したのだった。

●
「なかなか、内向きの作戦は上手くいってるようじゃないですか」
 キーゼがグレイにそう言った。
 表情は動かず、褒めているのか、そうでないのか、いまいち読みにくい。

「ふむ。外向きの案があると言いたい風情じゃな」
「ええ、まあ。せっかくですから」

「あんまり危ないことはさせたくないですね。
 彼は善意の一般人ですよ?」
 ゴブロウタが言う。

「わかってますとも」
 うなずくキーゼの表情は、やはり動かない。

「ヤコブ・ヴィリアンがヴィント奪還戦線に内通している。
 ……そんな噂を斥候あたりに掴ませられないか、と」

「おっ、いいね。結構騙せると思うぜ。
 あいつ、冒険者ギルドに依頼出してきたぐらいだしな」
 話を聞いていたサイラスは、乗り気のようだ。

「裏切り者を装うのはオレも考えていました。協力しますよ」
 ゴブロウタもうなずく。

「できれば、砦の上役と面会している所などを見せられれば良いのですが」
「上役か……バルディオン将軍とか? ……さすがにまずいか」
「……儂らも極力避けてたぐらいじゃぞ」
 サイラスの言葉にグレイが苦りきった顔をした。
 ゴブロウタも思い出して、冷や汗をたらした。

「別に本物でなくても構いません。そう思わせられれば良いだけなので」
「将軍のそっくりさんまではいないだろ」
 サイラスが長い首をひねった。

「いえ、意外にいけるかも知れませんよ。
 猪頭の見分けがつく者は少ないでしょう」
「被り物でも使う気か? しかし、あれほどの偉丈夫は……」
「いえ、そこにいるじゃないですか」

 キーゼはじっとサイラスの方を見ていた。

「なるほど、オレでは物理的にできない役割ですね。
 それに近場で彼を守れます」
「ヴァレンタインなら工夫して、それらしく装ってくれそうじゃな」
 ゴブロウタとグレイがうんうん、とうなずいている。

「……ええっ、おれ?」
 妙なことになってしまった。
 サイラスは金色の目を白黒させた。

●
「うーん……正直作り物っぽいけど、そこは勘弁してよね」

 アルマのこしらえた被り物は、それなりの出来だった。
 近づけば仮装なのが丸わかりだろう。
 かといって、あまり遠まきに見られても効果は薄そうだ。
 仕方がないので、夜陰でごまかすことをサイラスは提案した。

 決行場所は、数日前に斥候の目撃報告があった場所だ。
 ゴブロウタが、斥候を誘導しつつ、後方支援に回ることになった。

(……まさか竜になる前に、猪獣人のフリをするハメになるとは)
 ちょっと勘弁してほしい。
 ……とはいえ、これで少しでも戦局が有利になるならば。
 被り物の中で、サイラスは腹をくくった。

「ば、バァルディオオオン! おお、バァルディオオオン!
 ゆ、許してくださァアァい! ワタシが愚かだったのデェエェス!!」

 ヤコブに扮したジェイコブが、目の前で土下座して泣きわめく。
 セリフはともかく、姿勢はなかなか自然だ。
 迷惑客(クレーマー)に謝り慣れているのかも知れない。
 それから声が、かなり似ていた。これは大きい。

「よくも私に命乞いなど出来るな、吸血鬼!!
 我が息子が受けた辱め、許すことなど到底出来ぬ!!
 八つ裂きにして、燃やし尽くし、川にバラまいてくれる……!!」

 声はどうともできないが、サイラスは演技には自信があった。
 芝居小屋なら喝采を浴びるレベルじゃないだろうか。
 まあ、本物ならばこの状況、狂戦士と化しているかもしれない。
 だが、それは言っても仕方ないことだ。

「お待ち下さい、バルディオン将軍!」
 付き人に扮したキーゼが止めに入る。

(……というか、無表情なのかよ。夜で良かったぜ。)
 と内心でサイラスはボヤいた。

「お怒りはごもっとも。
 しかし、怒りにまかせるより、利用したほうが賢いかと」
「おおお、何でも、何でもしマアァァス!!」
「今、何でもするといいましたね……?」

 ランタンの薄明かりのもと、怪演は続くのだった。

●
「なあ、これ、正直効くのか……?」
 砦に戻り、被り物を外しながら、サイラスはキーゼに問うた。

「さあ? そもそも、ひとつの策に頼り切るのは愚か者のやることですよ。
 それに、こういうのは目撃証言を重ねる事が重要なんです」
 キーゼはすまし顔だ。

「同意です。一度であきらめるのは、もったいない」
 ゴブロウタもつれない。

「えっ、まだやるのかよ……」
「そうですが、何か」
「よ、よろしくお願いします……!」

 ヤコブそっくりの顔で、熱く頼み込まれる。
 サイラスは何とも言えない気持ちになった。

「……わかった。こちらこそ、よろしく頼むぜ……」

 結局、一行が本格的に襲われたりすることはなかった。
 数日間にわたり、あちこちで寸劇は繰り広げられた。

●
 これらの動きは、敵方の一部に効果があったようだった。
 砦に近づきすぎた斥候が捕らえられる事例が、数件あったのだ。
 真実を確かめるために、という者が多かった。
 中にはヤコブがバルディオンに下ったと思い込み、投降する者もいた。

「……ひっかかるヤツいたんだな」
「まあ、こんなものでしょう。
 メドゥにあまり動きがなかったのは残念ですが……。
 ヤコブは本気で見切られてるのかも知れませんね」

 キーゼが相変わらずの無表情でそう言った。

●
「ねえ、メドゥが釣り出せないなら。
 吸血鬼側に、積極的にメドゥを襲わせるようにできない……ですか?」

 ベアトリーチェ・カロッサが、そんな事を言い出した。

「ふむ。聞かせてもらいましょうか」
 捕らえた斥候の情報などをチェックしつつ、キーゼが応じる。

「ジェイコブさんに、ケガしたフリをしてもらって。
 で、アタシも吸血鬼のフリをして言うの。
 ヤコブ様がメドゥに襲われたーっ!……って。
 メドゥが吸血鬼に化けてたことにすれば、疑心暗鬼になるんじゃない?」

 ベアトリーチェの口調は、夢中で話すうちに素になっていた。

「なるほど。良さそうです。
 そんな事情から『忠誠心の高い吸血鬼』をヤコブが求めている。
 ……とすれば、釣れる輩も出そうな気がするのですが」

 同意し、さらに提案してきたのは、ノックス・マグナだ。

「少々リスクが高そうに思えますが……まだ策がありそうですね」

 キーゼがうながすと、ノックスはうなずいた。

「ええ。釣った者には情報を流してもらいます。
 私をヤコブの信奉者の騎士として、紹介するんです。
 砦に近づきたい、砦の情報を知りたい時の窓口は私だと」

「接触が密になりますから、人手がほしいところですね」
 キーゼは考えこんだ。

「……メドゥ役としてなら、オレも手をかせると思う。
 演技力ならサイラスにまた協力してもらってもいいんじゃないか」
 ゴブロウタが言った。

「ああ、サイラス氏の演技力は頼りになりますね」
「あとは……他の面子に後方支援してもらうのもいいだろう」

●
「ふっふっふー。どうだい?」
 三度、アルマのスタイリングの腕がうなった。

 ゴブロウタとサイラスは、全身黒ずくめだ。
 実際のメドゥの指先構成員が、こんな姿をしているわけでもないだろう。
 だが、いかにもありそうな感じに仕上がっている。

「……まあ、被り物よりはいいな」
 サイラスは黒フードを被って微妙そうな顔をした。

「……わーっ、アルマさん器用なんですね」
 ベアトリーチェは即席の吸血鬼の扮装に関心していた。
 鏡の前で、いーっとして、白木の牙を眺めてみる。
 不健康そうなメイクも、これはこれで、なかなか新鮮だ。

「よろしくお願いします」
「ひゃっ!」
 鏡の中に、不意にヤコブそっくりの顔が映り込む。
 ベアトリーチェは思わず飛び上がった。

「すみません……」
「いっ、いえ……」
 会釈をしながら、思わずまじまじと顔を観察してしまう。

(……ホントに手配書とおんなじ顔だ……)
 ボロボロに加工された服と、絵の具で描いた傷跡が痛々しい。

「……王国騎士の服を私が着るというのも、奇妙なものですね」
 ノックスのサーコートとマントは、リリィが調達してくれたものだ。
 鎧のたぐいは、自前のものを使っている。

「ボクも、もしもの時に備えて、離れて見張っとくよ。
 ……がんばってね!」
 アルマが親指をたてて、激励した。

●
「ヤコブ……お前はすでに組織のお荷物なのだ……ここで死ねいッ!」
 何のかんの言っても、サイラスの演技は流暢だ。
 別にノリノリというわけではない。それでもやる事はやる。
 ゴブロウタはボロを出さないためか、黙っていた。

「ぐふっ!?」
「ああっ、ヤコブ様! おのれ、メドゥめ! よくもヤコブ様を!!」
 ベアトリーチェは、見劣りしないようにと必死で叫ぶ。
 打ち合わせどおりに短剣を振り回し、二人を撃退(したふりを)する。

「…………ううッ、ベアト……ワタシはもうダメです……」
「なにをおっしゃるんです、ヤコブ様!」

 ジェイコブの演技力はここ数日で上昇しているようだった。
 商人だけに、ある程度要領がつかみやすいのかも知れなかった。

「ヤコブ様が襲われた! 超ヤバイ!! ヤバイよー!!
 ……誰かきてー!!」

 さて、これで釣れる吸血鬼が出るものか。

「なんですと、ヤコブ様が!?」

(……ほんとに来たっ!!)
 叫びだしそうになり、ベエアトリーチェは慌てて唾を飲み込んだ。

●
 釣れた吸血鬼は……何というか、かなり残念なやつだった。

「つ、つまりー。オマエは、王国騎士ではないのだな?」
「いや、王国騎士だ。だがもう王家には仕えておらぬ。
 ヤコブ様の崇高なご意思に共鳴し、密かに忠誠を誓ったのだ」
「王国騎士なら敵かっ!?」
「いや違う! 話を聞いていたのか!?」

 脅威度が低そうなのは構わない、というか好都合だ。
 だが、頭(おつむ)が弱すぎる。
 説明をするノックスにも疲れが見えはじめていた。

「おバカさんですねェ! とにかく彼はワタシの下僕なのです!」

 熱演で応じるジェイコブに、内心肝を冷やす。
 助かるが、逆上されると危険だ。
 ベアトリーチェもそれとなく前に出ている。

「ともかく、ヤコブ様は忠誠心に厚い者を欲しておられる」

 ちょっとコイツから、情報を得るのは難しそうだ。
 そう判断して、窓口云々の話は端折る。

「特にメドゥを見つけたら、即、たたきのめすように」
 代わりに、メドゥの指先の構成員を見つけたら、襲うよう誘導する。

「わかったー。おで、メドゥ、たおす。 ヤコブ様、ほめて!」
「すぅいいいいいいと! ん~~、大変素晴らしい!」
「ヤコブ様もこのようにおっしゃっています。奮起するように」

●
「……な、なんだか、ぐだぐだだったね……」
 ベアトリーチェが、どっと疲れた、という風情で言った。

「誰にもケガがなかったのは良いですが……。
 ちょっと釣れた相手がダメすぎましたね。
 これは、続けるべきかどうか……」
 ノックスが考え込む。

「まあ、続けてみてもいいんじゃないか。
 全部が全部、あれほど残念なやつじゃないだろうし……」
 サイラスがフォローした。

「そうですね。撹乱にはなると思います」
 ノックスは嘆息し、次はもう少しまともな相手が釣れるよう祈った。

●
 この作戦は、ある程度の数の下級吸血鬼を引っ掛けた。
 最初の吸血鬼ほど酷い者ばかり、というわけでもない。
 だが、あまり上位の力ある吸血鬼と接触することは叶わなかった。
 大体は斥候や下級兵士と同等の情報しか持っていない者だった。

 怪しまれ、戦闘になだれこんでしまった回もある。
 ただ、上位の吸血鬼が相手でなかったため、ことなきを得た。
 ジェイコブが巻き込まれて負傷することもなかった。

●
 砦にジェイコブが訪ねてきて、数日がたった。
 砦周りの情勢も、徐々にきな臭くなってきている。

「そろそろ、潮時かと思うんじゃ」
 グレイが、荷運びを手伝っているジェイコブに声をかけた。
 交易商らしく、大荷物を軽々と運んでいる。

「あ、あー……そうだよね」
「……うん、結構砦まわりの戦闘が激しくなってるものね」
 一緒に荷運びをしていたアルマとベアトリーチェも察したようだった。

「……そうですか。お世話になりました。
 何かワタシも役に立ちたいと思ったのですが……。
 結局ご面倒をかけてしまったようです」

 ジェイコブが深々と頭を下げる。

「いやっ、迷惑じゃないよ! 結構おもしろかったし!」
「そうですよ! 情報もちょこちょこ入りましたし! ね!」
 アルマとベアトリーチェが口々に言った。

「うむ。卑下することはないぞ。
 砦の兵士たちも、いざという時に判断が早くなるじゃろうしな」
 グレイも大きくうなずいた。

「こちらこそ、危険度が高い作戦につきあわせてしまったな。
 あんなのでも吸血鬼だ……怖い思いもしただろう」
 ノックスが頭を下げる。

「いえ、はじめてというわけでもありませんし。
 ……かえって度胸がついた気がします」
 ジェイコブの表情は、ヤコブそっくりのくせに、さっぱりとしていた。

「演技、なかなかだったぜ。
 商売がうまくいかなかったら、役者もいいんじゃないか」
 サイラスが言う。

「この年で、ですか?
 まあ、荷運びがキツくなったらいいかもしれませんね」

 言ってジェイコブは『すぅいいいいいいと!』と叫んでみせた。
 一同が苦笑いする。

「帰りの道中はご一緒できませんが、気をつけて」
「……ナイトレイ騎士隊に頼めば送ってくれると思います」
 キーゼとゴブロウタが言った。

「何から何までお世話になりました。
 ――本当に、ありがとうございました」

 最後にもう一度お辞儀をして、ジェイコブが笑う。

 見慣れてみれば、その笑顔は、あんまりヤコブに似ていないな。
 そう、冒険者たちは思った。

マスターコメント

 このたびはご参加いただき、ありがとうございました。  文字数の余裕ができたので、少々描写を濃くしてあります。  OPの予告と違う仕様になってしまいましたが、ご容赦ください。
イベントシナリオ

イベントシナリオ普通 報酬:標準7 / 4〜25人

2021年06月07日 20時38分34秒 公開

成功

相談掲示板

  1. ノックス・マグナ

    シューターのノックスです。 よろしくお願いします。 特に案がある訳ではないので人手が必要でしたらお声掛け下さい。 お声が掛からなければ一人で出来る範囲で細々と動くつもりです。

  2. アルマ・ヴァレンタイン

    出発人数になってた…ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしく。 ボクもいい案が浮かばないー… 解説にあるような偽装?してヴィントの周辺地域に出没してもらって 攪乱につながってもらえればくらい…

  3. グレイ・ナックラー

    遅ればせながらキャスターのグレイじゃ よろしくのぅ しかし、件のヤコブに似てる人がちらほらいるみたいじゃな 違う依頼にも別のヤコブ似のやつがおったぞ やはり、一番に思い浮かぶのは、敵戦力の揺動じゃな 眷属が間違えるほどじゃったら、ヤコブのいる位置とは真逆の位置でちんぷんかんぷんな動きをして惑わしてもらうとかじゃろうか あとは、新兵などにヤコブの顔を覚えさせるための顔見せを行うとかどうじゃ? ヤコブという存在を知っていても顔を知らないやつもおるじゃろうし、そういった奴らにヤコブの顔を覚えさせるのはいざというときの判断の助けになると思うのじゃ

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0