この重い想いをどうしよう?

韮瀬隈則

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シナリオID:869

オープニング

●
「本日ぶんの差し出し、持って来たわよォ!」
 ここはリブラネスタの倉庫街。
 とある零細運送業者の作業場で、近所の冒険者ギルド支所受付嬢が声をはり上げる。
 しかし、愛想よく迎えてくれるはずの親方が来ない。
 さらに、同じく事務員さんも来ない。
「取り込み中みたいだし待たせてもらいましょ。差し出す荷物はそこに置いていいけど、まだ帰らないでね。受け取りの荷物が有るかもだから」
 実家のような安心感で、受付嬢は荷物持ちに引き連れてきた冒険者たちに指図をすると、勝手にそこらの椅子に腰かけた。なお、冒険者たちは立ちっぱなしである。

「差し出しはいつもの業務定期便スね。受け取りの荷物は今日は無っス。荷物が多いなら集荷に行ったのに……ってか、悪りぃスね。親方も事務女史も、あっちのお客様にかかりっきりで」
 やっと受付嬢に気付いた配達員の兄ィちゃんが、接客ついでに「ほら」とこっそり指をさす。
 親方が対峙しているのは、妙齢の女性とそれより少し年上らしき女性の二人組。
 事務女史が応対しているのが、なにやら陰気で独特な雰囲気の職人一人。
「窓口直接だと配達料金がちょっとお得ですもん。で、お困りっぽいけど、冒険者がご入用だったりしない? 彼らもヒマになったし、今ならお安くしとくわよォ☆」
 ころころ笑って受付嬢は、逃げそびれた冒険者たちを勝手に叩き売る。

●
「今晩こちらに差し出される手荷物を、明日午前中に港の最南端ふ頭で受け取りたいのです。匿名で……」
 年上の貴婦人が鍔の広い帽子と扇子の奥からのたまう。
「明日午前中に港の最南端ふ頭へ届けていただきたい手荷物を、今晩こちらで差し出したいのです。匿名で……」
 年若いお嬢様がブ厚い写生帳を抱えた陰からのたまう。
「あー。お二人はお知り合いで? なのに匿名というのは……」
「「知り合いではありません!」」
「それは失れ……」
「「神の僕同志です!」」
「と、ともかくですね? お名前とせめて事情を伺ってのご相談を……」
「そうですそうです! あ、ワタクシ冒険者ギルドの受付でして親方とも懇意でして、お力になれることと思いまして!」
 親方の百戦錬磨の運送業経験が通じない。そこにすかさず受付嬢が割って入る。冒険者の腕を引っ張って。

 ――貴婦人が語ったのが下記の事情だ。
 曰く、夫の仕事で王国南部の都市に数年、住居を移さなければならない。
 心残りは神の僕としての生き甲斐が中断してしまうことだが、祭典で友誼を深めた同志から聖典の写本をお譲り頂けるというではないか。
 問題は未だ転居先が定まらず、なのに既に家は引き払い明日には港を発たねばならぬこと。そして……。
「わたくしの真名は『聖刻の翡翠姫(ジェイドオブスティグマ)』ですわ」

 ――お嬢様が深く頷いて貴婦人に続く。
 曰く、自分とて年若き学徒の身。近く学術都市へ留学が決まっている。
 祭典での運命の友誼は断ち切れぬと天啓をうけ、聖典の自動筆記を託し、住む場所は離れても神の僕として務めを果たしたい。
 問題は彼女とて留学先の勝手もわからず、写本完成は今晩遅く。だが相手は家を引き払い明日に出航してしまう。そして……。
「私の真名は『鎮魂の謡い女(レクイエムシンガー)』……」

 受付嬢が、すん……と真顔になる。
「あだ名しか知らない友達の、急ぎの荷物のやりとりっスかぁ」
 配達員の兄ィちゃんが的確に要約するが、なんとかする前提なのは冒険者たちである。

●
 事務女史が作成途中の伝票を前に考え込む。
「記入通りにですな、この寝床をですなww明日午前中、最南端ふ頭から王国へ出航のとある紳士同志wwオゥフwwに送り届け、お輿入れの対価をwwヂュフォォww代理で受け取ってですなww今週中に拙者に渡していただきたいのでござるwwヒュヒッ!」
 独特な雰囲気の職人が食い気味に解説してくれる。
 ところどころに挟まる単語は、依頼人の名前と受取人の名前だろうか?
 事務女史の様子では伝票の問題点はどうやら一つだけではないらしい。
「ウチの個人のお客様向け取扱い容積を超えてますね。あと、重量も超えてますね。代金引換も保証も金額が高すぎまして。それよりあの……」
「そうそれより冒険者ギルドの荷運びサービスにお引継ぎをお勧めします。あ、ワタクシ冒険者ギルドの受付でして事務女史とも懇意でして、お力になれることと思いまして!」
 今度はこちらを、と、受付嬢が食いこんでくる。冒険者たちの襟首を引きずって。

「ンゴォ! それは重畳ww! 壊れもので逆さま厳禁で下積み厳禁でww生きwwなまものでござるwwンゴ!」
 職人は勝手にぺたぺたとケアマークを荷物に糊付けしてゆくが、その荷物が大問題だった。
((棺……よね?)ですね)
 黒い歪に長い六角形。体積といい重量といいまさに棺。
「ご、ご遺体の搬送はギルド便でも届け出が……」
「乙女(ラピュセル)たんは生きてござるよ! 生きた人形姫でござる!」
 はてな?
 伝票に書かれた内容品は『眠れる乙女(ラピュセル)たん』である。さっぱりわからない。

 受付嬢の顔は虚無となる。
「大荷物は荷馬車手配の都合でそろそろ出発しねぇと。ってか、等身大人形っスか。この荷姿と伝票だと役人にツッコまれたら厄介っスね」
 要約する配達員の兄ぃちゃんが有能過ぎるが、実際に運ぶのは冒険者たちである。

●
「……あの」
 騒動の中、小さな小さな声がする。
 控えめなけれど切実な声に最初に気が付いたのは、配達員の兄ィちゃんだ。
「お嬢ちゃん、どうしたっスか?」
 しゃがみこんで目を合わせて首をかしげる。
 5~6歳くらいの幼女が、小さな籠とコインを握りしめて立っているのを、怖がらせないようにっこり笑って要件を聞く。

「明日、南のふ頭を出発するお船に乗るはずの男の子に、この籠をわたしてほしいんです」
 これです。と差し出す持ち手と覆い布付きの籠にはクッキーと小さな花束。自作クッキーは、脆く崩れそうなさくほろタイプ。オアシスは仕込まれているのだろうが、花束はあくまで可憐で繊細だ。
「お、お金。運んでもらうお金、これで足りますか?」
 小さなお客様の為に伝票を用意する配達員の兄ィちゃんに、差し出すコインの額は、同じ都市内でも距離のある最南端ふ頭まではとても足りない。
 表情から察したのだろう。幼女の貌に絶望の色がさす。
「もう会えないかもしれないのに……ご両親の都合で王国に何年も行ってしまうのに……」

 小さい子供にとって年単位の別離は永遠に近い。
 だから配達員の兄ィちゃんはにっこり笑って大丈夫、と言うのだ。
「ウチじゃなくて冒険者なら。港に行く用事のついでになら。このお金で配達して貰えるっスよ、きっと」

解説

●目的  零細運送会社では手に負えない荷物の配達を完了せよ ●依頼人詳細 ・女性二人組  互いに仮名しか知らないが、とある祭典が縁の親友同士  双方とも転居間近で住所交換もままならず、仮名での荷物のやりとりを希望  送り先:リブラネスタ最南端のふ頭 王国南部行き専用待合室  差出時:本日夜間  受取時:明日午前中  荷姿・品名:手書き冊子数冊(80サイズ)・『聖典』  オプション:匿名配送 ※「妖しい禁断の交流な香りがするわ!」(受付嬢談) ・人形職人  とある筋では有名な人形師で、特注品を出国間際の顧客紳士に納品したい  棺サイズのサイズと重量の荷物を差出し、損害補償と代金引換を希望  送り先:リブラネスタ最南端のふ頭 王国南部行き専用待合室  差出時:本日すぐ  受取時:明日午前中  荷姿・品名:棺(270サイズ)・『眠れる乙女たん』  オプション:取扱注意・損害補償・代金引換 ※「配達員の懸念通り、不審物扱いされるかも……というか不審物ですよね?」(事務女史談) ・幼女  意中の男の子が両親の都合で出国してしまうので、見送りの品を渡したい  デリケートな手作りクッキーと花束の籠だが、手持ちの金額が足りない  送り先:リブラネスタ最南端のふ頭 王国南部行き専用待合室  差出時:本日いつでも  受取時:明日午前中  荷姿・品名:籠(60サイズ)・『お菓子とお花』  オプション:取扱注意・配達便共用による格安料金 ※「なンか行先が全部同じっぽいし、便乗して届けてあげられそうじゃないっスか?」(配達員の兄ィちゃん談) ●配送先情報 ・リブラネスタ最南端のふ頭 王国南部行き専用待合室  運送会社拠点から2時間かかる  大きな荷物は馬車の手配と積込手続きのため、プラス4時間が必要  受取人が待合室に到着するのは出航(正午)の1時間前 ●NPC情報 ・運送会社の親方と従業員  リブラネスタの一角で、所在地域内での信書ならびに小包の配達、仕入や納品の代行を営む零細企業  近所の冒険者ギルド支所の受付嬢とは腐れ縁 (関連シナリオ「この牛柄のカードをどうしよう?」)

マスターより

 リクエストからだいぶ遠くなってしまったのではあるまいか?  自覚はあります。韮瀬です。  あとOPが無駄に長ェ!  いや本当に申し訳ない。  察していただけると思うのですが、妖しかったり怪しかったりの荷物はいわゆる前フリで、幼女の淡い初恋を託した籠を運ぶのが本体です。  というか、リリカルなラブコメにしたいので、なんとか頑張ってください。

リプレイ

●
 配達の兄ィちゃんに笑いかけられてなお、籠を抱えて不安げに冒険者たちを見上げる幼女に、ネーヴェ・グラヌローザは目線をあわせて提案する。
「お嬢様。よろしければ共にふ頭まで参りませんか? 少し遠い道のりですが…私達冒険者に、贈り物を直接渡す為のお手伝いをさせていただきたいのです」
「!?」
 唐突な申し出に幼女が目を丸くするのにかぶせるように、背後で配達の兄ィちゃんと馬車の手配に勤しむ男(キーゼ)のひとりごと。
「さて。最南端ふ頭への配送は、この大物(棺)のほかに明日朝にもあるわけですか。積荷が小さい(本だ)から荷台に余裕ができてしまうと。作業員を増やしても大丈夫と。ええ、大切な荷物ですからね……自由時間多めで作業員急募ですね」
 キーゼの台詞が些かわざとらしいのは、ネーヴェと幼女に聞こえるようにだろう。
 てててっ……と、軽快な毬のように子犬が幼女の目の前に転がった。
「もう会えないかもしれないなら、もう一度会って自分で渡すほうが良いと思うのだ」
 くりんとした目を心なしか潤ませて、子犬、ではなく大福は幼女に訴えかける。
 ぜったい、ぜったいに。こういうとき大福の瞳は雄弁だ。
「作業員も大募集中なのだ!」
「親御さんへの説得でしたら私共におまかせくださいね」
「あぁ~。手配が煩雑過ぎて、幼女の手も借りたいくらいに忙しい……」
 大福とネーヴェにこくりと頷く幼女の背後から、今度は本気で多忙を嘆くキーゼの声が重なった。

 ――数時間後の零細運送業者の作業場にて。

「それでは確かに請けたまわりました」
 一礼をしてキーゼは、令嬢(鎮魂の謡い女)から本の包みと割符を受け取る。
 木製の割符には、差出人と受取人の真名でのサイン、運送業者の焼き印が押されている。二つに割られた片割れは貴婦人(聖刻の翡翠姫)が持ち、明日の出航での照合を待っているはずだ。
「あ、あの内容物は……」
「はい。書籍であると確認できましたので、さらに布で保護して木箱に詰めさせていただきます」
 芸術の学徒なら書籍の角折れは気にするはずだ。安心し何度も頭を下げる令嬢を見送り、キーゼは入れ違いに作業所へ帰ってきた大福とネーヴェへ、首尾はどうだったかと話を向ける。
「説得はできた、と思います。行けるかどうかは、明朝の送迎のときにもう一度ご挨拶をいたします時に」
「胸の『従戦記章』で信頼はしてもらえたのだ。後は……女の子と親御さんとの問題なのだ」
 大福とネーヴェにキーゼは頷き、作業場隣の車停めを指さす。
「ここに泊まり込んでもいいそうですが夜間は火気厳禁。ならば……と、アニムス(フラム)氏がおうちキャンプを設営してくださいましたよ」
 そりゃもうノリノリで。と付け加えれば、大福が歓声をあげる。
「この匂い! 彼ご自慢の干し肉とチーズなのだ! チーズを絡めた肉をパンに乗せて頬張るのが美味なのだ! ……パンの替わりにお好み焼きでいいのだ?」
 うっとり唾を飲み込みながら、ならばと自分も野営セットを展開しボウルに小麦粉を溶きはじめる。
「ルート確認がてら星空の下でお夜食ですね」
 あら嬉しい、とネーヴェは空を見上げる。大福の故郷でも、星に願いをかける風習があると聞く。だから満天の星に願うのだ。幼女の初恋の行方を。

●
 ――同時刻。最南端のふ頭、港湾事務所前の停車場にて。
 
「私めはパヴェル・パルバッハ・バッハカノン、旅の楽師でございます。此度は仲間の楽師の長い長い異国招聘のはなむけに、特注の楽器を手渡すべく、このように運び込んだ次第でございます」
 まるで観客にするように、黒い楽師服を着こなす男、パヴェル・A・サムルガチェフがその長身をうやうやしく折り曲げた。
 隣で勢いよく一礼をする少年は楽師仲間だろうか。黒い楽師服に着られているようだ。
「俺……わたくしは相棒のフラム・アニムス。荷物の宛先は兄弟子です……ございます!」
 ふたりの前には港湾査察官と荷運び水夫頭が、胡散臭げにエセ楽師コンビ背後の馬車を睨んでいる。

 大型の荷馬車に慎重に縄掛けされ、持ち手と背負子が取り付けた巨大な木箱。
 荷造りを頑張ったパヴェルの名誉のために断っておこう。
 持込された『眠れる乙女(ラピュセル)たん』のあまりにもな外観(棺)に、パヴェルは人形師に提案したのだ。
「職人さんよぉ。有名な人形師で、作品はマニア垂涎というじゃねぇか。マニアさん達は、パッケージにも作品性を求めてると思うわけさぁ。折角の綺麗な棺に眠ってるんだ。直接そこに伝票や取扱注意札を貼り付けちまうのはダイナシなんじゃねぇかと……」
「ヂュフォォ!! よくぞ! よくぞ指摘頂けたでござるよ! ……パヴェル氏(うじ)はマニアの鑑でござるな! フォヌカポォww」
(フォヌカポォというのはマニア用語かな? ブラボーみたいな)
(たぶんそうじゃねぇかなぁ……)
 追及したら負けだな、と、引っぺがした伝票を書き直しはじめたフラムとともに、パヴェルは棺全体を更に保護する木枠を調達にかかったものである。

 しかし……まぁ棺が入る大きさの木枠といえば、人間も入るのだ。
 査察官と水夫頭が冒険者(エセ楽師)ふたりを睨む。
「ここ最近、大掛かりな密輸に使われるのが楽器ケースでね……」
「職人手ずからの保証書がございます」
「ふむ……『踊り歌い奏でる乙女、ケース付き』? 備考に人形型楽器?」
 伝票を書き直したフラムも頑張ったのだ。
「ダンスパートナーをつとめる等身大人形です! 曲に合わせてですね、こう」
 フラムがポーズをとる。パヴェルが手を取る。
 ダンス実演が暫く格闘技くさい動きだったのは男女パートで主導権争いがあったものか? パヴェルの学術都市出身らしい優雅なフィニッシュを決めた頃には、納得したのか呆れたのか、査察官と水夫頭は港湾事務所に引っ込んだあとだった。

「よっしゃクリアー。夜明けの積込までキャンプだ!! じつはこんなものを持参してましたッ! ジャジャーン」
 作業場の車停めにもBBQセット作ってきましてね。大福さんのお好み焼きに挟んで喰うと絶品なんだよこれがっ!
 立て板に水のフラムが背嚢から取り出した干し肉とチーズをいそいそと焚火で炙る。
「っと、一張羅にシミつけちゃいかんな。……というか、器用だねぇお前さん(フラム)。道中あっという間にコレ(楽師服)縫っちまうとは」
「苦労したのはパヴェルさんの驚異の胸囲くらいっすよ」
 へへっと笑うフラムからの肉を有難く頬張って、酒の代わりだとパヴェルはココアを振舞う。
「さっきの芸術家同志の見送りシチュエーションなぁ。こんな旅ができりゃぁ、俺も……いやなんでもねぇ」
 満天の星をふたりで見上げる。幼女の見送りは仲間が頑張って手配しているはずだ。見送られる少年は――未だそれを知らない。

●
 ――翌朝。王国南部行き専用待合室に、旅立つ人々が集い始める。

「準備オッケー! いよいよ受取人に配達完了だな」
 荷物の梱包再確認、ヨシ! 積込の立ち合い、ヨシ! 荷馬車の回送手配、ヨシ! 馬のエサやり、ヨシ! 本と女の子の送迎組の馬車のぶんも、まとめてヨシ! 安全唱和、ヨシッ!!
 運送業者の作業場に貼ってあった標語を真似して、腰に手をあて指さし確認。そんなフラムが、とある家族を眺めるパヴェルに気が付いた。
「パヴェルさん? あの旦那さんが人形の受取人っぽい。ってか、写本の受取人の貴婦人って奥さんだったのか」
 そんな予感はしてたよ。とフラムがパヴェルを振り返れば、彼の視線の先には、受取人から少し離れてじっと窓を見る少年が一人。
「パヴェルさん、あの子って……」
「たぶん、なぁ。女の子が来るなんて知らないハズなのに、さっきからずっと窓から停車場のほうを見てるんだ。手に封筒握りしめて、待合室に間借りしてる飛脚の事務所の前に居るんだ」
 心残り――があるのだろう。
 女の子よりふたつみっつ年上にしかなってない、男の子といってもまだまだ幼い子なのだ。両親とともに住み慣れた街を離れて何年も。いつ帰るとも約束なぞできず。
 幼馴染を少年は覚えていても、彼女が覚えてくれているかどうか?
「っと。紳士が財布片手にキョロキョロしはじめたからな、行ってくるかぁ」
「アッチ(本と女の子)も到着したっぽい……」
 白いオオカミに先導されて、停車場遠くに着いた馬車から軽快に降りる毬は大福だろう。
 窓から大きく手を振って、フラムとパヴェルは荷物預入カウンターに向かう。

「着いたのだ! 粽(オオカミ)! 今回も危険物や怪しい人の警戒、ありがとうなのだ」
 大福は念押しに、と、エーテルの探知波(捜波)を巡らせる。
 市内とはいえ、早朝の下町からここ最南端ふ頭まで、ほぼリブラネスタを突っ切る旅だ。ましてや運ぶは貴重品。そして小さな女の子。最後の最後まで油断なんてするものか!
「お嬢様、お手をどうぞ。御尊父、御母堂も」
 御者台から降りたキーゼが、荷台にしつらえた簡易座席にすわる幼女とその両親のために、踏み台をおき手を差し伸べる。
 後部席から立ち上がるネーヴェにおずおずと伺う幼女に、やさしくやさしく頷いて、ネーヴェは「いってらっしゃい」と専用待合室の建物を指す。あそこに幼女が心づくしの品を渡したかった男の子が居る。ふたりを隔てる距離は、また縮まったのだ。
 大福が建物に手を振っている。窓から見えるのは、フラムとパヴェルだ。
「ドキドキしますね、自分のことじゃないのに」
「実は僕も、鼓動がはね上がって呼吸も浅くなってます。これでも」
 無表情で応えるキーゼに「わかりますとも」とネーヴェは微笑み、家族らの背中を追って歩きはじめる。

●
「坊ちゃん、誰かをお待ちですか?」
 パヴェルとフラムは何枚もの書類の束にサインを貰い、預かった代金を確かめ革袋の紐を封蝋で閉じ、貴重品入れを腹に巻く。その間もずっと、少年は封筒を握って思い詰めているものだから、彼と彼の待ち人のためにふたりはそっと少年の前に膝をつく。
「待ってない。来てくれるわけない。だって喧嘩しちゃったんだから……さよならをちゃんと言えなかったんだから……」
 ぎゅっと手紙を握りしめる。
「手紙、ださねぇの?」
 ふる……と小さく頭を横にふる。手紙にはおそらく、ごめんねとさようなら。
「相手は女の子なのに、僕より小さな女の子なのに、僕は勇気が出ないんだ」

「預かっていたお花とお菓子の籠なのだ。クッション材たっぷりだから船旅でも大丈夫なのだ。お花のオアシスもたっぷり給水なのだ」
 はい。と、大福はマジカルポケットから籠を取り出し、幼女に渡す。綺麗な薄紙に鳥の卵のようにくるまれて、クッキーも花束も昨日以上に美しい。
「……ありがとう、お兄ちゃんお姉ちゃん」
 ぺこりと頭を下げて、けれど、幼女は専用待合室ドア前から動かない。
「どうしました?」
 ネーヴェは優しく幼女をうながす。すぐ横の窓から室内の様子を伺っているキーゼからは、対象の男の子がちゃんと居てフラムとパヴェルと話していると、身振り手振りで伝わっているのに。
「迷惑じゃないかな? 怒らないかな? ちゃんとさよならしたかったけど、その前に喧嘩しちゃったから、もう会いたくないって思われてないかな?」
 扉を開けてしまえば嫌われているのが確定してしまうかもしれない。扉を開けなければわからないけれど、でもなにも伝わらないまま、二度と会えないかもしれない。こわい。こわい。でも……!
「それなら絶対会うべきなのだ。会って話してちゃんと見送るべきなのだ。だって、だって、最後に話した言葉で後悔するのは辛いのだ……おっ父……」
 泣きそうな声で大福が呟く。大きなオオカミ(粽)が慰めるように体を大福に擦り付ける。
「大丈夫ですとも。貴女が相手を想っているのは伝わりますとも。それに、喧嘩するほど仲が良いのですね」
 無表情なくせに情緒が手に取れるように、キーゼが室内の様子を伝えてくれる。
 だからネーヴェはドアを開ける。やさしく幼女の背中をおす。

 ――そして扉を開ければ。

「「!!」」

「ごめんなさい! どうしてもお別れ前に会いたくて、だから……」
「ごめんっ! ってずっと言いたかった、会って話したかった!」

 お互いに差し出される籠と手紙。
 唖然とし、見つめあい、そして今度は笑いだす。
 簡単なことじゃないか。見送るほうも見送られる方も素直になるだけでいいのじゃないか。

 荷物預入カウンターで貴婦人に本の包みを渡しているキーゼが、子供たちと冒険者へ聞こえるように呟いた。
「奥様、なるほど! 差出人様のほかにも趣味の文通相手がリブラネスタにいらっしゃる。旦那様も職人さんへオプションの追加注文のご予定が……ああ喧嘩なさらず。どちらも尊い芸術品でございます」
 はい、はい。と頷きながらメモを取っているところをみると、零細運送会社へ今後も手紙と荷物の仲介依頼だろう。
「住所が決まりましたら運送会社にご連絡ください。ええ、営業所留め置きも転送も承っております。手紙の同梱? 構いませんよ」
 真面目な顔で契約のお話、だけれど内容はキーゼの顔より雄弁だ。

「て、手紙書くから!」
「お花は……しおれちゃう。字覚えてお返事書くから!」

 そして出航の鐘が鳴る――。
 蒼い、どこまでも蒼い空に、白い帆が風をはらんで駆けてゆく。

●
 ことことと軽くなった馬車の車輪が回る。
「昨晩はぶしつけなお願いを聞いてくださりありがとうございます」
 零細運送会社へ帰る道すがら。ネーヴェは幼女の両親へ頭を下げる。
「明日の朝、最南端のふ頭まで荷物を運びに向かうこと。お嬢様を一緒にお見送りに連れ出すこと。とても大切なお友達の旅立を、幼い子供にとってはあまりに長い歳月になるとはいえ、贈り物を直接渡すためだけに早朝からの外出をお願いしたこと」
 女の子は泣き疲れて、両親の膝の上で眠っている。
「なにより、私達冒険者を信用していただいたこと。感謝のしようもございません」
 女の子の手には男の子からの封筒。
 中身は手紙と、男の子と幼女のお揃いのおもちゃの指輪だ。
「いえ。娘からあの少年と仲直りをして見送りたい、と、昨晩話し合ったのです」
 ネーヴェの礼に幼女の両親は、こちらこそと礼を返す。
 御者台に座るキーゼの背中は寡黙で、けれど優しい。

 もう一台の荷馬車の御者台で、パヴェルは風に髪をそよがせて呟く。
「この風と青空はどこまでも繋がってるんだよなぁ」
(まだまだ俺の旅は小せぇなぁ)
 そんな感慨は荷台に座るフラムの盛大な鼻水を啜る音でダイナシになるのだが。
「良かったなぁ良かったなぁあああ!」
 フラムが抱きついている粽(オオカミ)が困っている。
「大福、生き別れは他人事じゃなかった……のだ」
 うんうん、と大福も粽に抱きついている。こっち(息子のようなもの)には困ってない。
「あのな……」
 重要な物言いでフラムは続ける。
「互いの瞳や髪の色の揃いの指輪贈るのってプロポーズなんだって。初恋って甘酸っぺーよなぁああ」

 初恋の行方を見守るように、オオカミの尻尾が優しく揺れた。

マスターコメント

 お疲れさまでした。  この度はご参加、有難うございました。  つたないリプレイですが、少しでもお気に召せば幸いです。  皆様のプレイングがリリカルに大きく振れていたので、無事! ラブってコメることができました。  初恋は実らないものとはいいますが、文通してれば大丈夫。たぶん。
ショートシナリオR

ショートシナリオR普通 報酬:標準5 / 4〜6人

2021年05月17日 15時16分13秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ネーヴェ・グラヌローザ

    ネーヴェ・グラヌローザと申します。 もうあまり日数が御座いませんが、無事成立しますよう祈って。 ええと、荷物を回収してまとめて持って行けば宜しいのでしょうか。 順序としては人形職人→幼女→女性二人組、ということになりそうですわね。馬車を手配して、そのまま順に向かう……とかでも大丈夫なんでしょうか。 次の発言までには、もう少しきちんと読み込んで参りますわね。

  2. 大福

    大福と粽もお荷物の配達お手伝いするのだ~ よろしくお願いします、なのだ~。 お仕事一緒にしたことある人ばっかりで心強いのだ~! ん-とん-と… 女の子と人形職人さんはもう荷物持ってきてるのだ? おねえさん達の荷物は夜に持ってくるのだ?? 人形職人さんの手続きとか馬車借りたりとか荷物積み込んだりしてたら 荷物持ってきてくれる時間になるのだ??? 大福、ちょっと自分で何言ってるか分からなくなってきたのだ

  3. パヴェル・A・サムルガチェフ

    一番槍なのに遅くなっちまってすまねぇ。 パヴェルだ。無事面子が揃って嬉しいねぇ。 特に面倒くせぇのは人形職人のオッサンがもってきた 棺みてぇな奴か。 なるべく怪しまれずに運べればと思ってる。 ちょうど俺の身長とちけぇし、木工スキルつかって専用の箱を準備して俺が担当しようと思うんだが如何だろうか。 例えば、だ。演奏家の格好をして大きな棺の外側を楽器箱にしちまう。 その状態で担げば、ガタイのいい大楽器の男が舟に乗るだけにできるだろう? 気になるところがあれば言ってくれ。

  4. フラム・アニムス

    挨拶が遅くなってごめん…! キャスターのフラムだ。みんなヨロシクー! パヴェルさんの提案、俺は賛成です! 一人で持つのがもし大変だったら後ろで支えます。

  5. キーゼ

    さて、お願いしますね 運送に最大6時間、正午の1時間前には到着、となると。 事前に出れるものを先に出るか、あるいは3つ纏めて運び、ですか。 効率的には後者でしょうね まあ、時間に猶予はありそうですから‥‥どうせなら、幼女に関しては連れて行ってあげたいところですね。 早朝出発なら、間に合うでしょう 流れとしては 1日目(集荷手配) 荷物受け取りと馬車の手配、荷物到着次第積み込み 同時に運送ルートの制定(急な工事や通行止めなどが無いかの確認) 幼女を連れていく場合、家族への説明 2日目(配送) 朝出発 2時間程度の道程なので余裕を見て依頼人到着予定の3時間前に到着するよう調整 荷物の受け渡し こんなところでどうでしょうか? 荷物の偽造についてはパヴェル氏の案でもよいと思いますよ

  6. ネーヴェ・グラヌローザ

    無事に依頼成立となって嬉しゅうございます。 改めまして皆様、どうぞ宜しくお願い致します。 基本の流れとしては、キーゼさんの仰る方向で宜しいかと存じます。馬車の手配と荷物積み込みは前日中にしておくのが確実でしょうね。 女の子を連れて行くことに関して、前の日から、しかも宿泊を伴うことになるでしょうから、ご両親が心配する気が致しますね……。折角なら会わせてあげたい気持ちはあるのですが。 もし連れて行くようでしたら、私とどなたかもう一人、説得役として来ていただけたらと思います。現状女は私ひとりですから、少なくとも私は行った方が良いと思うのです。 けれど、女ひとりで連れ出すというのもまた、ご両親は心配なさるのではと思いますので。 人形の入った荷物の偽装に関しては、パヴェルさんの案で宜しいかと存じます。何なら他にも楽器を持てば、上手くカモフラージュ出来るのではないでしょうか。

  7. ネーヴェ・グラヌローザ

    ……ふと考えたのですが、女の子は早朝に迎えに行けば宜しいのでしょうか。 どちらにしても丁寧な説明とご家族の理解は必須ですわね。【礼儀作法】と【話術】は所持しておりますので、とりあえず装備しておきたいと思います。

  8. キーゼ

    >幼女について ああ、失礼。二日目の項目に抜けていましたね。二日目の朝に迎える予定です。 ええ、朝…とはいえ、10時着としても8時発ですから、まあ普通に間に合う時刻かと。 その手の説得は、きっと女性の方がよろしいでしょうからね。 構わないのなら、お任せしたいところではあります。

  9. パヴェル・A・サムルガチェフ

    ハーフビーストが揃うと一層少し気合いが入るぜっ。 ああ、大福のは・・・・・・大丈夫だ。心配する気持ちも解るし、順番に整理していこうぜ。 まとめて1人で抱え込まねぇでも、 相談してどの荷物に集中するか決めれば上手く。と思うんでな。 ちょ、キーゼのだんなぁ。人聞きの悪ぃ話にしねぇでくれよ……。 ま、皆からが賛成してんなら、いいけどよ(苦笑い) お墨付きを貰ったんでこのまま詰めさせて貰う。 あー、1人の楽器弾きじゃ信用ならねぇかもしれねぇし、 フラムの坊主にも是非手伝ってもらいてぇ。 できれば音楽家風の服装に着替える準備をしておいてくれ。 (背後都合で、4日の夜あたりにプレイング送信になる。すまん)

  10. パヴェル・A・サムルガチェフ

    (背後都合で、5日の出発直前は修正ができねぇかもしれねぇ。一応伝えておく)

  11. 大福

    ぱべる、ありがとうなのだ。大福、一人で迷子になるところだったのだ… 音楽家に変装したぱべるとフラム楽しみなのだ~ キーゼとねーべ(発音できなかった)は凄く分かりやすく話してくれてありがとうなのだ 大福、急いで準備して出発しなきゃいけない気がして混乱してたのだ ねーべが女の子のおっ父とおっ母の説得にいくなら大福も着いて行ってもいいのだ?

  12. フラム・アニムス

    キーゼさん、ネーヴェさん、纏めてくださりありがとうございます! ・1日目⇒馬車の手配&荷物の集荷 ・2日目⇒朝に女の子のお迎え後に配送開始 合ってるかな? スキルは『天眼』とかルート把握で役に立つかも。 俺は楽師の服に着替えて、パヴェルさんと一緒にカムフラージュする感じで行きますー! 他は臨機応変で動けるようにしていきます。

  13. ネーヴェ・グラヌローザ

    >女の子 ああ、やはり翌朝でしたか。キーゼさん、補足ありがとうございます。 では、私と大福さんで前の日に、ご両親の元へお願いに上がりましょう。所要時間を考えますと、人形が入った箱の積み込みは他の方にお任せする形になるでしょうか。パヴェルさん、フラム様、キーゼさん、どうか宜しくお願い致します。 >大福さん ふふっ、私も読み込む前は大福さんと同じ調子でしたから、大丈夫ですよ。皆様で手分けして頑張りましょうね。 大福さんが一緒に説得へ来て下さるのなら心強いですわ。どうぞ宜しくお願い致します。 そういえば私の名前、発音が少し難しいですよね。もし宜しければ「ネネ」と呼んで下さいませんか? 遠い昔、こんな風に呼んでくれる人がいらしたような気がするんです。そんなことをふと、思い出しまして。 >パヴェルさん プレイング送信日程、承知致しました。 背後都合は大事ですから、どうぞご無理のなきよう。直前に何か変更があれば、こちらでフォロー致しますね。 >フラム様 日程はそれで大丈夫かと存じます。 天眼は便利そうですわね。是非お願い致します。 楽師の衣装を身に纏うお姿、楽しみにしておりますね。

  14. ネーヴェ・グラヌローザ

    今、プレイングを書いていたところなのですが……申し訳ありません、説得に字数を大きく割くことになってしまい、他の行動まで手が回りそうにありませんの。 他の荷物に関しては皆様にお任せしても宜しいでしょうか……?

  15. キーゼ

    >荷物 構いませんよ。 字数はだいぶ余裕が出ますのでね。

  16. 大福

    >ネーヴェ ありがとうなのだ!大福と粽も一緒に説得にいくのだ~ Σねねって呼んでいいのだ?可愛いのだ!大福でも言いやすいのだ! ねね!ねねっ!なのだ(尻尾ぶんぶん)

  17. 大福

    そういえば、一日目に預かった荷物とか馬車とかは二日目の朝まで零細運送会社さんに預かってもらえるのだ? 大福達、それぞれ一日目のお仕事が終わったら一旦帰るか近くに泊まるのだ?

  18. キーゼ

    >荷物 ルート調整などもあるかと思いますので、僕は多分残りますよ 馬車ならば馬の管理などもありますし、最悪止められる場所で野宿ですかね

  19. 大福

    キーゼありがとうなのだ! 大福、野営セットを手に入れたのだ!役に立つのだ!?(使ってみたいだけ)

  20. キーゼ

    使ってみたいなら、使ってみてもよいと思いますよ、野営セット

  21. フラム・アニムス

    >ネーヴェさん 荷物の件了解です!サポート頑張ります。 あと俺に「様」要らないですよー!気軽に呼んでください。 >大福さん 野営したい!(俺も使ってみたいだけ) 野宿になったら使おう!キャンプー! 俺も字数余りそう。

  22. 大福

    わーい!お許しが出たのだ!フラムや皆んなとキャンプするのだ! あ。ちゃんと荷物番とお馬さんのお世話もするのだ。 あっ。でも、ねねは女の子だからキャンプとかして大丈夫かな、なのだ。

  23. ネーヴェ・グラヌローザ

    おはようございます。いよいよ今晩出発でございますね。 荷物の件、皆様ありがとうございます。助かりますわ。 それではフラム様は、フラムさん、と呼ばせて頂きますね。 私の二人称は結構取り違えられ易いことが最近判明致しましたもので、大福さんとフラムさんには追って交友申請させて下さいまし。 私も冒険者の端くれ、野営はお手の物ですよ。 ふふ、皆さんでキャンプというのも、楽しいものですわね。楽しみです。

  24. 大福

    ねね!おはようなのだ!交友申請ありがとうなのだ~! わーい♪みんなでキャンプするのだ~!

  25. フラム・アニムス

    おはようございます。 今夜出発ですね!! ネーヴェさん、交友申請ありがとうございますー! みんなで一緒にキャンプ楽しみ!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0