Present For Her

さとう綾子

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シナリオID:854

オープニング

●君だけの贈り物

 その男性が酒場「踊る子熊亭」へとやってきたのは、お昼過ぎで夕方はまだ遠い――そんな、ちょっと眠い曖昧な時間だった。
 白いシャツに手入れの施されたズボンを履いた男性は、慌てたようにギルドの中を見渡して「誰か力を貸してもらえないか」と息も絶え絶えに言った。どうやら、ここまで走ってきたらしい。
 何人かの冒険者が男性に近づき水を渡してやると、男性は水を飲み干してから言った。
「彼女が今日、誕生日だったんだ。すっかり忘れていた」
 ……はい?
「今日の夕方からデートなんだ。何かプレゼントを用意しなければいけないけれど、何にしていいか、焦ってしまってわからない」
 ……つまり?
「何人か、プレゼント探しに付き合ってもらえないか。もちろん謝礼は出す。時間がないからこのリブラネスタの商業街で購入できるもの限定になってしまうが……」

 男性の名はリチャードと言った。
 要は彼女――フローラという名らしい――とデートをする夕方までに、プレゼントを何品でもいいから購入したいということらしい。
 フローラは花屋の娘で、今日のために品のいいレストランを予約しているらしい。リチャードはそれを不思議に思っていたのだが、誕生日だったと思い出したというわけだ。
 しかも、こんなリチャードとフローラ、婚約直前らしい。フローラとしてはプロポーズなんてあったら嬉しいなあ、的な思惑もあるのだろう。
 リチャードもいいプレゼントが見つかれば、プロポーズをするのもやぶさかではないらしい。ここは二人の背を押してあげるのもいいかもしれない。

「どうか、よろしく頼む」
 深々と頭を下げるリチャードに、冒険者たちは困った顔をしたのだった。
 恋人の誕生日は忘れないようにね。

解説

<人物紹介> ・リチャード(27):うっかり者。あまりセンスもよくないけど、商売をしているので、それなりの目利き。   お金のことは気にするな。 ・フローラ(25):花屋で働く気立てのいいお嬢さん。そろそろプロポーズしてくれないかなとそわそわ。   物の価値はお金じゃはかれないと思ってる、気持ちを大事にする子。 <場所設定> リブラネスタの商業街。いわゆるファンタジー的商店街と思っていただければ。 特殊なものでなければだいたいのものは揃います。

マスターより

でも、うっかり恋人の誕生日忘れることもあるよね。さとう綾子です。 そんなうっかりさんを助けてあげてくださいませ。 よろしくお願い致します。

リプレイ


 なんとも奇妙な話になったものだ。
 Alexandra・Hexe・Claudiaは『踊る子熊亭』で、皆でリチャードを囲みながら小さなため息をついた。何しろ――。
「――正直なところ、いくら『良い物』を贈ったところで彼女が手放しで喜ぶさまが思い浮かびませんでした」
 Alexandraの出した結論はこれだったのだ。困ったようにAlexandraは金の髪を指に巻く。けれども、かの気持ちと、その気持ちに応えたい。どうするべきか。
 迷うAlexandraにリチャードは不思議そうな顔をする。
「そうか? フローラは何をあげてもいつも喜んでくれるぞ」
「ワタクシこういったことには疎いのでございますが、Alexandra様に同意なのでございますよ」
 クリクリの黒い目。ヒクヒク鼻を動かしながらハリーヌ・ヨツユビが言えば、森のように鮮やかな緑の瞳をまばたきしてから、ティトもこっくりと頷いた。
「ぼくも、今回に限ってはそう、思う。今回は……特別、だし」
 リチャードの彼女、フローラの誕生日プレゼントを用意する。それがキオルティスも含む四人に与えられた任務(?)なのだが、Alexandraは難しい顔だ。ハリーヌとティトも少し困った顔になってしまう。
(彼女の誕生日のプレゼント選び、か。それは大役だね。頑張って探してみよう)
 キオルティスは華やかな金の髪を揺らして頷いた。
(素敵な1品に出会えるといいね)
 考え込む女性陣に対してリチャードとキオルティスは少し不思議顔だ。なにしろ、プレゼントならキオルティスにはいくつも思い浮かぶのだから。キオルティスは吟遊詩人だけあって、綺麗なものには目が肥えている。いくつもの恋も見てきたならば、プレゼントを考えるのも朝飯前だ。
 フローラは花屋勤め。ならば、花言葉にも詳しいはずとキオルティスは考える。
 その花言葉に込めたリチャードの想いを受け取って欲しい。また、毎日彼のことを思い浮かべられるよう、普段から持ち歩けるものがいい。物であって生花でないのは、季節や場所を問わず、探せば生花よりも簡単に入手できるためだ。
 いくつか脳裏に候補が上がったところで、キオルティスはリチャードへと身を乗り出した。
「さて、リチャードさん。俺の見立てでも構わないかな?」
 だから、キオルティスは一番に提案を口にした。
「構わないさ。いくつでも言ってみてくれ」
「贈り物としてはブローチか手鏡をオススメするよ。ブローチなら胸元にあしらって貰えて、いつでも心臓……ハートの近くに」
「ふむ」
 リチャードは感心したように頷く。
「手鏡なら毎日身だしなみを整えるときに、とびきりのスマイルを抱けるように」
「それはよいな。ブローチと手鏡ならばすぐにでも見つかるだろう」
「焦ったら駄目だよ。そこに、花言葉を込めるんだ」
 キオルティスがリチャードを制止したときに、ふと、Alexandraが口を開いた。
「花言葉、ですか……」
「うん? どうしたの、レディ?」
 キオルティスが尋ねると、Alexandraはまっすぐにリチャードを見つめた。金の瞳はとても真剣だ。
「現状、依頼人であるリチャードさんの話から、フローラさんの欲しいものに見当がついています」
「本当か? それはなんだ?」
 リチャードが身を乗り出すのをハリーヌとティトが抑えた。
「まあまあ、お待ちくださいませ」
「うん、ゆっくり……話す、から」
 リチャードが落ち着いたのを見て、Alexandraは静かに話し始めた。
「リチャードさんの話から、フローラさんは『今日のために品のいいレストランを予約』し、リチャードさんを待っていることまでわかっています」
「ああ、その話はしたな」
「……商業に携わる人間であれば、限られたリソースは1番に望むものに投資すべきと理解できるはず」
 リチャードは腕を組んで黙り込んだ。
「単純に物が欲しいのであれば、自身で用意するか、或いはリチャードさんにその旨を伝えるはず。しかし彼女はそのリソースでもって、要はリチャードさんと逢うための時間と場所を用意している」
 Alexandraは指を一本立てた。
「――つまり、彼女が欲しいものはリチャードさん自身」
 リチャードが唸る。ハリーヌとティトが頷いた。
「ご自覚のないまま、よくお付き合いしてこられたでございますねえ……」
「大切な人の誕生日、ぼくも忘れないように気をつけないと……ね」
「ここまで考えつくと、あとはなんのためのプレゼントかという話です」
 Alexandraはふう、と息をひとつ吐いた。
「リチャードさんが物を贈るという行為で充足感を得たいのであれば、リブラネスタでは食に日用に着飾りにとなんでもありです。が、彼女を思う故とあれば、多くは必要ないかと」
 リチャードは渋面で黙り込んでしまった。ハリーヌはそんなリチャードを見て、前足を動かし、鼓舞する。
「リチャード様、しっかりなさってくださいませ」
「だが……」
「物ではなく気持ちとも言われるものが贈り物でございます。リチャード様は商売をされているとのことでございますから、読み書きができるのでございましょうか」
「ああ、それはできるが……」
「フローラ様が読めるかはわからないのでございますが、プレゼントにお手紙を添えてはいかがでございましょう。きっと宝物になると思うのでございます」
「フローラは読めないが……それは俺が読み上げればいいことか」
 リチャードはようやく落ち着いたらしい。少し考えてから頷いた。
「では、手紙と皆に提案してもらえる物を二、三送ろう。紙とペンは此処にあるか?」
「折角だから、品のいい紙……買うのは?」
 ティトが言えば、リチャードはそうだな、と頷いた。
「お手紙の内容に困ったら、感謝の気持ちを書けば大丈夫……だよ」
「そうか。それなら俺にでも書けそうだ。ではお勧めの贈り物を教えてくれ」
 キオルティスがブローチと手鏡を勧めたのに対し、Alexandraとハリーヌはペンダントを、ティトはブローチをお勧めする。
「フローラさんのお好きな花があれば、その花モチーフのペンダントなどいかがでございましょう。お好きな花がわからなければ、定番のバラなどでございましょうか」
「好きな花はわからないから、バラになるかな……だが、どうしてペンダントを?」
「指輪……はお花屋さんとのことで、仕事中に傷がついたりを気にされるかもしれないと思ったのでございます」
 ハリーヌが言えば、Alexandraは「キオルティスさんも言っていたように」と前置きをしてから、
「フローラさんの生活に馴染みのある花言葉のペンダントがいいかと思います。モチーフとする花は……直球には薔薇ですが、マーガレットなども?」
「ん? 花言葉を使うならアイビーが周りを取り囲んだアングレカムの花の意匠はどうだろう?」
 キオルティスが具体的なお勧めを提案する。
「花言葉は『永遠の愛』『いつまでもあなたと一緒』。フローラさんとリチャードさんがいつまでも愛を共にできるように……」
「ぼくは、紅い薔薇のブローチって……思って、たけど。それも、素敵」
 ティトがにっこりと笑う。キオルティスも微笑んだ。
「ありがとう、レディ。じゃあ、ブローチはその意匠でいこう」
「では、ペンダントはバラでよろしゅうございますね? ブローチとかぶることもなくよろしいかと」
「そうですね、それでいいかしら」
 ハリーヌとAlexandraは頷いた。
「ならば、決定だな。品のいい紙と薔薇モチーフのペンダント、それにそのアイビー……?」
「アイビーが周りを取り囲んだアングレカムの花。アングレカムの花がわからなければ、俺が教えるよ」
 キオルティスがすかさずフォローする。
「頼む。そのブローチの三品を買いに行こう。手紙はまた此処に戻ってきて書けばいい」
 次第に空の色が変わっていく。五人は急ぎ出かけることにした。

 品のいい紙と薔薇のペンダントは比較的早くに見つかった。薔薇の色で花言葉も変わるためちょっと揉めたが、ここは「情熱」の赤にすることにした。一粒薔薇の花がついた控えめなペンダントだ。
 ブローチはアングレカムの花の意匠が珍しく難航したが、夕方までに彫ってくれるという店を見つけた。キオルティスが丁寧に意匠を伝えて、夕方までに取りに来る旨を残し、一度五人は『踊る子熊亭』に戻ってきた。
 最後は手紙を書くのだ。
「本当はね……時間があれば、リチャードさん自ら四つ葉のクローバーを探して……押し葉の栞を作ってあげるだけでも十分だと思うんだけど……」
 キオルティスは頬杖をついて残念そうに言う。
「時間が余ったら、探してみるかい? きっと買ったモノよりリチャードさんの想いが彼女には伝わると思う、な」
「手紙を書き終え、時間があれば、だな。ちなみに花言葉はあるのか?」
「ん? 花言葉?」
 キオルティスはいたずらっぽく微笑んだ。
「葉に1つずつ『希望、信仰、愛情、幸福』だよ」
「それはよいな」
 とは言え、まず手紙を書かねば始まらない。
「『フローラへ』……えー……」
「そこはやっぱり『愛するフローラへ』でございましょう」
 ハリーヌが言えば、
「まだここは『親愛なるフローラへ』でも構わないと思います」
 とAlexandra。ティトはうーんと考えて、
「シンプルに『フローラへ』……いいと、思う」
「宛名でこんなに悩まされるものなのか!」
 ペンを握りしめるリチャード。キオルティスが笑う。
 時刻はゆっくりと夕方に近づいてきていた。

 手紙を書き終え、ブローチを受け取る。残念ながら四つ葉のクローバーを探す時間はなかったが、手紙、ペンダント、ブローチの三品を持って五人は噂のレストランに向かった。少し高台にある、景色が綺麗に見えるレストランだ。
「俺一人では緊張して渡せないかもしれない。よかったら最後まで付き合ってもらえないか」
 リチャードの言葉にきょとんとする四人を横目に、リチャードは自分たちの予約席の近くに冒険者たちの席を用意してもらうように頼んでくれた。
 レストランに潜入しようと思っていたティトは内心で大喜びだ。
(怪しまれないように応援しない、と)
 好きなものを頼んでいい、と言いおいて、リチャードは予約された席へと向かった。まだフローラは来ていない。四人はなんの気なしにメニューを開き、衝撃を受けた。
「こ、これは……」
「『踊る子熊亭』とはメニューが違いますね」
「金額を見たら頼めなくなるでございますよ」
「でも、リチャードさんのおごり……だよ?」
 これだけのレストランを用意したフローラの必死さがわかるというものだ。メニューを見てひそひそと話す四人の後ろを、ふといい香りをまとった清潔感あふれるワンピースの女性が通り過ぎた。
 香りは香水ではない、生花の香り。フローラだとすぐに知れた。
「まあ、リチャードが先に来ているなんて珍しい」
「ああ、誕生日おめでとう、フローラ」
 リチャードの言葉にフローラはぱあっと笑顔になった。やはり、Alexandraが睨んだとおり、フローラの欲しいものはリチャードその人、そしてその言葉だったのだ。
「誕生日のプレゼントを受け取ってくれるかい? フローラ」
「プレゼントなんて……」
「こっちがネックレス。こっちがブローチ。花言葉は、えーと」
「……大丈夫、わかるわ、リチャード。アングレカムの花のブローチなんて、珍しいし……花言葉も合わせて嬉しい」
「そうか。そして……手紙だ」
 緊張しているのか先にどんどん手のうちを明かしていくリチャード。四人ははらはらしっぱなしだ。だが、フローラがここで困惑したようだった。
「手紙は、私は読めないわ」
「大丈夫だ。君が暗記できるくらい短いものだから」
 フローラが手紙を開く音がする。リチャードはそれを受け取ると、咳払いをして読み上げた。
「親愛なるフローラへ」
 フローラはじっとリチャードを見る。四人もリチャードを見る。一世一代の大勝負の瞬間だ。
「一番のプレゼントは俺の気持ちだ。愛している。結婚してくれないか。リチャード」
「……よくシンプルにまとめたものだよね」
「ええ。随分と悩みましたけれど……」
「シンプルなのが一番でございますね」
「うん、シンプル……大事、だね」
 四人も息を飲んでフローラの答えを待つ。
 しばしの沈黙。フローラは泣いていた。おそらくは嬉し涙だろう。
「愛しているわ、リチャード。答えはもちろんイエスよ」
 リチャードが歓喜のあまり立ち上がり、四人の冒険者も水のグラスを持ち乾杯する。これならば、いくら食べても文句は言われないだろう。
 四人はリチャードたちの会話が聞こえない位置に席を移動させてもらい、遠慮なく料理をいただきながら、時折二人を眺め、グラスを掲げる。
 窓から見える景色は藍色に変わっていく。一番星が二人のカップルを祝福しているかのようだった。

マスターコメント

 とても素敵な贈り物を考え、選んでくださり、本当にありがとうございました。皆様の気持ちがとても嬉しく執筆させていただきました。  アドリブが多いので、とても恐縮です。キャラ様のイメージを崩していないことを祈ります。  称号は皆様、おなじものをお配りしました。よろしければ。  ご参加、本当にありがとうございました。
ショートシナリオ

ショートシナリオ易しい 報酬:標準4 / 4〜6人

2021年05月06日 08時26分57秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. Alexandra・Hexe・Claudia

    今依頼でもよろしくお願い致します。 キャスター、クラウディアです。 …彼女の側からデートの、しかもゆっくりと対話のできる環境の用意がある。 なんともはや、誂向きのプロポーズチャンスですね。 ―これはプレゼントそのものよりも、プレゼントを切っ掛けのひとつに気持ちを通わせればゴール一直線でしょうね。 課題となるプレゼント選びにはメッセージ性を重視して… あとは、お互いの気持ちを認識させるアプローチを加えればいいのかな?

  2. ティト

    ティトです、今回はよろしくお願いします、ね。 フローラさんがお花屋さん、なら… あえて花束とか渡してみるのはどう、かな? 花言葉を探せばふさわしいのがあると思う、し お花屋さんならその辺は詳しいと思う、から お互いの気持ちを認識させるアプローチには最適だと思う、よ。

  3. キオルティス

    遅くなってすまない。キオルティスと言うよ。 キオでもルティスでもお好きに。今回は宜しくね。 さて、とプレゼントだけれど…ティトさんの意見のアレンジとなるけれど 生花じゃなくて、その相応しい花言葉に因んだアクセだったり、服飾用品、 あとは後に残る小物類…手鏡とか、かな…はどうだろうか、と思ったよ。 生花じゃ生花を扱っているフローラさんにとって身近過ぎるかな…と。 それなら生花じゃないからこそ、現実に手にし難い花も送れるような 花を意匠とした何かが良いかな…と思ったりしたんだけど、どうだろうか。

  4. ハリーヌ・ヨツユビ

    飛び入り参加で失礼いたします。 ワタクシはハリーヌ。しがないヨツユビハリネズミでございます。 今回はよろしくお願いいたしますよ! ワタクシこういったことには疎いのでございますが、やはりアクセサリーなど、ずっと残るものが良いと思うのでございます。 フローラさんのお好きな花があれば、その花モチーフのペンダントなどいかがでございましょう? お好きな花がわからなければ、定番のバラなどでございましょうか。 指輪…は、お花屋さんとのことで、仕事中に傷がついたりを気にされるかもしれないと思ったのでございます。 それから、リチャード様は商売をされているとのことでございますから、読み書きができるかもしれないでございますね。 フローラ様が読めるかはわからないのでございますが、お手紙も添えてはいかがでございましょう。 きっと宝物になると思うのでございます。

  5. ティト

    うーん…確かに生花だと特別感がない、ね… 花モチーフのペンダント、とっても良いと思う、よ。気持ちを大切にする人へのプレゼントなら、お手紙を書くのもとっても良い…プライスレス感がでていて嬉しいと思う、よ! そしたら、薔薇のペンダントとお手紙の2つで大丈夫そう、かな? プロポーズするなら手紙の中に指輪入れて渡してみるとかどう…?「開けてみて」って言ってみる、の。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0