逃亡の果てに

広大野人

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シナリオID:836

オープニング

●どこぞの屋敷

 国王派に属するそこそこ位の高い爵位を持つ貴族の跡取りが大怪我を負う事故が発生した。
 視察の為に訪れた建築現場で、足場が突然崩れて、頭上に落ちてきたのだ。
 後一歩ずれていたら即死だっただろう。九死に一生を得たのは幸運だったからに過ぎない。
 表向き、工事の事故……という形で収めたが……。
「……その裏切り者の名は、ザンツと言ったか」
 一人の老人紳士がゆったりとしたソファーに腰を掛けていた。
 長く伸びた白髪はサラリと流れており、歳を感じさせない。
「はい。事件後、逃亡しており、現在は追跡中ではあります」
 応えたのは壮年の男性。老人の息子とさほど歳は変わらないだろうか。
 落ち着いた物腰だが、周囲に放っている独特の気は、まるで刃のようだ。
「まぁ、消されるのは間違いないとして……我々としても放置しておく訳にはいかん。表向きな」
 老人紳士はそう告げると、表情を変えずに窓の外に映る風景を眺める――ザンツという青年は『組織』に属していた。
 勧誘したのはこの老人ではない。ある筋から推薦を受けての事だ。
 働きもなかなか良かったものの、どうやら最初から機会を伺っていたスパイのような存在だったという事だ。あるいは……買収されたか。
 しかし、特段珍しい事でもない。権謀術数渦巻く政争では、吐いて捨てる程ある事なのだから。
「分かりました。私が直接、出向きます」
 壮年は背筋をビシっと伸ばして宣言する。
 ザンツという名の裏切り者を始末してくるのだ。放置しておいても、衛兵や私兵、あるいは王国騎士が捕まえるだろう。
 問題になっているのは『組織』として、ちゃんと『動いた』かどうかだ。
 裏切り者がどのような末路に至るのか、示しをつけなければいけない。
「そうか……では、フォーゲンよ、お前に任せる。始末の内容は問わない」
 フォーゲンと呼ばれた壮年は無言で頭を下げると――音も無く退室した。

●どこぞの森

 ザンツは必死に森の中を走っていた。
 酒と賭博と女が好きで金欲しさに自らの立場を売った愚か者ではあるが、危機に対する感性は鋭い。
 ここまで逃げてこられたのもそのおかげだ。森を抜け、山を越えれば帝国領だ。そこに逃げ込めば、少なくとも衛兵共の追撃はない。
「後は……変装する道具が欲しいところだぜ」
 忍賊(シーフ)としての腕もある。変装した上で王国から遠く離れた地に逃げ込めば、完璧だ。
 なんだったら、野盗になって難民共を襲い、衣服を奪ってもいいだろう。その中に女でもいれば、尚更だ。
「その為にも、まずは追手をどうにかしねーとな」
 衛兵も貴族の私兵も王国騎士も、どいつもこいつも大勢で追い駆けてくる。
 まるで、レースだ。逃げ出した兎を誰が一番最初に捕まえるかという名のレース。
 一つ言えるのは、捕まれば最後、ザンツは消される事だ。事件は工事事故として片づけられ、ザンツは適当な罪で裁かれ、拷問の上、首ちょんぱだ。
「……なんだ、ありゃ? ダンジョンか?」
 森の中の不自然の空洞。
 所謂、エーテル溜まりだ。もっとも、ザンツは冒険者ではないので、そんなものに興味はない。
 だから、通り過ぎようとした……その時、彼の目にクリーパーの姿が映った。
 人よりもやや大きい姿に禍々しい棘を身体中から生やしているクリーパーだった。
「…………使えるな、アレ」
 キュッと足を止めるザンツ。
 このまま逃げていてもどこかで追いつかれる可能性が高い。
 ならば、アレを使って返り討ちにしてしまえばいい……問題は、どうやって、追手をおびき出すかだ。
 少し悩んだ後、ザンツはわざと足跡が残るようにして歩きだした。
「あんなのと戦って無事には済まないはずだ。さぁ、誰が来るかな~」

●冒険者ギルド
 受付嬢であるアーネリーの所に王国騎士が依頼を持ち込んできた。
 また、あのぶっきらぼうな騎士かと思いきや、やって来たのは爽やか過ぎる程の好青年だった。
「王国騎士エナハルト・ティルムと申します。急ぎで依頼を出したい」
 磨かれた金属鎧は光を反射し、片手に持っている豪華な飾りの兜はいかにも高そう。
 これが田舎街でなければ、さぞかし様になっていただろうが、ここは王都から遠く離れたありふれた街だ。
「はい。それでは、こちらにご記入下さい」
 スッと書類を差し出す。
 騎士はササっとペンを走らせた。お手本のような綺麗な字を書く。顔も良くて物腰丁寧でおまけに字も綺麗。絵に描いたような騎士様で見ていて飽きない。
「時間がないので申し訳ないが、概略だけ説明するので、後は書いたものを参照して欲しい」
「分かりました」
「ありがとう。依頼内容は王都で犯罪を犯したザンツという若者の確保だ。生死は問わない。今、多くの兵士達で探索しているが、探索範囲が広すぎて手が足りないので冒険者達にはある一角を任せたい。探した結果、見つからなければそれでも良いです。見つけた場合、対処は冒険者達に一任する。以上だ」 
 やや早口で説明するとエナハルトはすぐに兜をかぶる。
 折角のイケメンなのに勿体ない……と心の中で呟くアーネリー。
「承りました」
「それでは、失礼する」
 まるで一陣の風のように立ち去る王国騎士。
 アーネリーは呆然と見送り……姿が見えなくなってから、依頼書を改めて確認する。
 必要事項はしっかりと書かれて――。
「――えぇー! 抜けばっかりなんですけど!!」
 驚きのあまり目が飛び出しそうになる受付嬢。
 丁寧に書かれていたのは最初の方だけで、あとは抜けている所ばかりだ。よほど急いでいたのだろう。
「えーと、えーと、な、なんとか、依頼には……出せる……かな、あー。でも、これじゃ、やっぱり、足りないかもー!」
 悲壮な表情で叫ぶ。
 仕事中はボーと見惚れていてはいけないと、改めて学習するアーネリーであった。

解説

冒険者の皆様、こんにちわ。受付嬢のアーネリーです。 それでは私から今回の依頼の詳細について説明致します。 依頼目的は『犯罪者の確保』となります。 犯罪者はザンツという名の青年との事です。詳しい情報は分かりませんが、黒毛の短髪で額に横一文字の傷を持っているそうです。 王都で王族に対する暗殺計画を企てていたそうです。証拠が揃い逮捕する前に、逃げ出したそうで、現在は街からほど近い山裾の森に逃げ込んでいるとの事。 探索範囲が広いので、冒険者の皆様にはある一角の捜索をお願いします。 発見次第、身柄を確保……との事ですが、生死問わないそうです……と言っても、王族に対する暗殺計画を企てるような人なのでどの道、極刑だと思いますけど。 探索エリアとなる森の中は足場も悪く陽の光も薄く、視界も通りません。地元の人も基本的には近寄りませんので、くれぐれもお気をつけ下さい。 それでは、依頼の詳細は以上になります。 皆様の冒険が大成功しますように!(パンッと手を叩いた) (珍しくちゃんとした依頼紹介が出来たようでホッとしている) =====追記===== ・捜索はプレイングやスキル等を考慮した一般判定を行います(一人3回)。 ・ザンツを見つける為には、冒険者達全員の合計で10回以上の成功が必要です。 ・ザンツを発見できなかった場合、クリーパーだけが襲い掛かってきます。負ければ依頼失敗となります。 ・フォーゲンという名の壮年もザンツを探しています。彼よりも先にザンツを見つけようとした場合、探索の成功回数を増やす必要があります。 ・森には、禍々しい棘を全身に持つ鬼のようなクリーパーがおり、ザンツ発見時に襲ってきます(ザンツが操っている訳ではありません)。 ・ザンツは戦闘不能か死ぬまで戦います。 ・冒険者達が先にザンツを発見し確保した後でも、フォーゲンと接触する事になります。フォーゲンには冒険者達に敵意はなく、同じようにザンツを追い駆けていたと告げます。

マスターより

こんにちわ。これが7作目となる広大野人です。 今回は森の中での探索&戦闘となるシナリオです。さーちあんどなんちゃら。 ザンツは逃亡の身ではありますが、悪い事をした犯罪者の上、生かしておいても難民に襲い掛かる野盗になるだけなので、きっちりきっかり『始末』いただけるといいと思います。 (『どこぞの屋敷』と『どこぞの森』はPL情報となります)

リプレイ

●
 鬱蒼と生い茂る深い森の中を、二人の少女――片方は男の子――が、周囲を注意深く確認しながら進んでいた。
「これは梃子摺りそうな気がします」
 そう言ったのは、フリーダ=ブロムヴィストだった。
 木々の根っこがうねる地面の上でも姿勢を崩さず、丁寧な口調で告げる。この青い髪の少女が言った通り、犯罪者(ザンツ)の探索は一筋縄ではいかなかった。
「早く見つけないと陽が暮れそうだよ」
 アシュリー・レドルナンが倒木を軽い跳躍で避けながら不安そうに呟く。
 昼間でも薄暗い森なのだ。夜になったら完全な暗闇になるだろう。夜の森は色々と怖いものだ。
「啓示では『騙して悪いがされるよりは100倍マシ』とありますし、何とか頑張りましょう」
「はーい!」
 元気な返事をしたアシュリーの頭の上には栗鼠が乗っていた。
 その栗鼠は野生のものではない。仲間のペットであり、探索のフォローの為に付いているようだ。
(それにしても本当に犯罪者の確保だけで終わるのでしょうか……?)
 そんな事を心の中で思いつつ、フリーダは森の中を見渡す。ただ見ている訳ではない。透視による能力だ。
 ザンツが王国兵に追われていた事を考えれば、きっと、帝国領に向かって逃げているはずだ。
「あっ! コレ見てよ! きっと枝を足場に蹴った跡!」
 太めの枝に残された痕跡をアシュリーが見つけた。
 逃亡しているザンツは忍賊(シーフ)でもある。試しに蹴った先に向かって探知用のエーテルを飛ばすが――。
「真っ直ぐ逃げる訳ないよね」
「それでも、私達が探索しているエリアに、目標が居る可能性が高い情報は意味があると思うのです」
 潜んでいる可能性が高いと思えば、より注意して意識できるものだ。
 相手は素人ではない。兵士達による大掛かりな追跡から逃亡しているのだから、油断はできない。
 最悪、突然襲われる可能性もある。それを考慮して、今回、二人一組となっての探索だ。それに声の届く範囲に他の仲間もいるのだから。

「まぁやらかした事が事だし、山狩りしてまで探す理由にはなるんだろうが、ここまで来ると、犯罪者の捜索と言うより狩猟の様相を呈してるな」
 痕跡が見つからないかと地道に探索を続ける、バーネット・フォーサイス。
 なるべく周囲に溶け込むような準備をしてきたが、どうしても物音が立ってしまいがちだった。これはザンツも同様のはず。
 しかし、今の所、変わった物音は感じられない。温度差を認識できるサーマルアイで周囲を見ても結果は同様だった。
「人間一人が動く以上、どっかに痕跡は残るはずだが……」
「日中は潜んでいるという可能性もあるな」
 エリザ・A・ミシャールはそう応えながら、神経を研ぎ澄ます。
 冒険者達が気をつけていても足を進めれば何かしらの物音が大小問わず、出る。ここまで念入りに捜索しても見つからないのは、隠れ潜んで機会を伺っている事も考慮する必要があるだろう。
「嫌な気配だ」
 ふと、足を止めてエリザは告げた。
 胸の奥に突き刺さるような違和感。
 これは『人』相手のものではない……『クリーパー』だろうか。そんな気配を感じ、視線を凝らした。
「…………」
 軽快な身のこなしで草木を越える。
 見つけたのは不自然に折れ曲がった下草。高さ的にも動物ではなく、明らかに人の手による折れた形跡だ。
 何事かと追い駆けてきたバーネットはそれを見て言い放つ。
「あからさますぎるんだな」
 ご丁寧に少し離れた場所には足跡も見えている。
 まるで見つけてくれって言っているようなものだ。微かな痕跡を探してここまでたどり着いたので、探索自体に無駄が無かったにせよだ。
「俺達を誘っているのか?」
「恐らく、な」
 エリザは背負っていた弓を手にした。無意識のうちに矢筒を確かめる。
 戦闘準備に入った事自体、仲間達に対する合図なのだ。わざとらしく残された足跡の方向には、別の仲間達が探索を続けていた。

 仲間からの身振り手振りを確認し、ケン・Z・ブラッドリーは大太刀を鞘から静かに抜き放つ。
「今回の相手は逃亡した犯罪者か……しかし……なんかやな気配がするな」
「さて、ザンツは同じシーフなのよね、おねえさんだったらどう逃げるかしら?」
「腕っぷしに自信があれば返り討ちか?」
 ケンの台詞にエミリアは微笑を浮かべた。
 二人は持てる能力・スキルを総動員してこれまで探索を続けていた。地道な作業といっても過言ではない程、僅かな痕跡も見つけるのが苦労した。
 それが唐突に、痕跡が見つかったのだ。
「追跡してくる者達を出来るだけバラバラにさせておいて、後は……ね」
 最初に熟達した者が何とか見つけられるような痕跡だけを残し、探索の足並みをバラけさせる。
 それが一定の所に達した所で、わざと痕跡を残し、追跡者を釣る。
 そうして釣られた追跡者だけを返り討ちしていけば、残るは素人ばかり。逃げやすくなるというもの。
「なるほどな。そうやって逃げてきたって訳か」
「王族暗殺を企てたともなると、国外逃亡は当然よね。人が多くなく、隠れやすい場所といえば……」
 帝国との国境に近い森の中に逃げ込み、返り討ちできる準備を整えた。
 だからこそ、あからさまな痕跡を残した。ザンツの唯一の誤算は、このエリアを探索しているのが冒険者達だったという事だろう。
 視界の先、人影が見えたと思った次の瞬間、別方向から細い木々をへし折りながら、何かが迫って来る。
「さて、どんな罠が待っているのかしらね」
 エミリアは剣と短剣をそれぞれ抜刀すると油断なく構えた。
 これまでの静寂が嘘のように騒がしく音を立てて、姿を現したのは、不気味なほど禍々しい棘を全身に生やした巨人のようなクリーパー。
「……クリーパーも罠として使う……俺達が戦っている間に不意打ちしてくるつもりか。だが、そう簡単に事は進ませないぜ!」
 ザンツと思しき人影はサッと森の中に隠れて見えなくなった。一方のクリーパーはもう目の前まで迫っている。
 大声で仲間に知らせながら、迎え撃つようにケンが一歩進み出ると、大太刀を大上段に構えるのであった。

●

 真っ先に戦闘状態に入ったケンとエミリアを援護するように、まずはフリーダとアシュリーが駆けつけて合流。
「私が正面を抑えます」
 身を翻しつつ、姿勢を低く落として棘這者(クリーパー)からの突きを避けるとフリーダは祭刀を叩き込む。
 敵は棘だらけだから、不用意に近寄るのは危険だ。それでも彼女は盾を構えつつ、正面に居座った。
 そこへ、木々の幹を蹴って宙転しながら、棘這者の注意を反らすような機動を描くアシュリー。
 攻撃よりも敵を翻弄させる事を狙っているのだ。
「鬼さん、ボクはこっちだよ!」
 飛び回る羽虫を振り払うように腕を振るう棘這者は隙だらけだ。
 当然の事ながら、ケンがそれを見逃すはずがない。幹が乱立する森の中、器用に大太刀を振り抜いた。
「でかぶつなだけあって狙い放題だぜ!」
 斜めに入った一撃は巨人の脚に深く食い込む。
 ……が、思った以上に刃が入った為か、引き抜くまでに僅かな隙が生じた。
 背筋に凍るような殺気を感じたのは、下草に潜んでいたザンツが絶好の機会を狙って飛び出してきたからだ。
「まず、ひとりぃぃ!」
 致命傷を与えなくとも、それなりの傷を負わせるつもりだったのだろう。
 忍賊(シーフ)特有の機動力を見せて短剣をケンの背中に突き刺す――はずだった。
「生死問わず、Dead or Alive。いいわね、楽で」
 割り込んだのはエミリアだった。罠を警戒し、超聴覚と嗅覚で周囲の様子を覗っていたからこそ、素早く反応ができたのだ。
 短剣同士が宙でぶつかり派手な火花が舞うが、それが消え落ちもしないうちにザンツは不利を悟って逃げ出す。
「てめぇの相手は俺なんだよ!」
 ケンが即座に【殺界】を行使しようとしたが、僅かにザンツの方が素早かった。
 腐っても、忍賊(シーフ)のようだ。
「できればみんなで囲って攻撃したい所よねぇ……」
 追撃に移るかどうか、迷っている暇はない。エミリアはフリーダに視線を向ける。
 その意味を理解してフリーダは深く頷いた。追い駆けるのであれば餅は餅屋ではないが、忍賊(シーフ)に任せるべきだろう。
「ここは私に任せて!」
「俺も残る。先に行け!」
 ケンも叫ぶと再び大太刀を構えた。
 依頼の目的はザンツの確保であり、棘這者の討伐ではない。要は、ザンツを確保するまでの間、持ち堪えられればいいのだ。
「気をつけてね」
 満面の笑みを浮かべながら、アシュリーはそう告げると、エミリアと共に駆けだした。

 比較的近い範囲に仲間を分散させていた冒険者達の作戦は思いもしない流れを生んだ。
 後ろから追い駆けてくるエミリアとアシュリーに気を取られ、ザンツは逃亡方向から向かってくるエリザとバーネットに気が付かなかったのだ。
「……空を閉ざす雷雲よ、眩むほどの雷光で世界を満たし澱ませよ! 澱嵐(アーケイン)」
 バーネットの術が発動すると、無数の稲妻のようなものが空間を支配した。
 特殊な結界は移動力を阻害する働きを持っている。ザンツの機動力が落ちた。
「さて、どこまで逃げられるかね?」
 エリザが集中したエーテルを矢と共に放つ。
 狙った通り、それはザンツの太腿に直撃すると、込められたエーテルが身体に蝕んでいく。
 突然の奇襲。移動を阻害され、強力な攻撃を受けては突破は難しいとザンツは判断したが、背後から迫って来る忍賊(シーフ)二人よりも、前方の冒険者の方が組みやすいと思ったようだ。
 見れば、擲人(シューター)と術師(キャスター)だ。近接戦に持ち込めば幾らでもやりようがある。
「向かってくるなんて、良い度胸だぞ」
「舐められているようだ」
 続けて放たれた氷矢と精密射撃は、ザンツへと確実に直撃した。
 足場の悪い森の中でなければ避けられていただろうが――自ら仕掛けた森の中での戦いなのに、自業自得……いや、策士策に溺れるというべきか。
「く、くそったれが……」
 無様に地面に転がったザンツ。
 立ち上がろうとした時には既に遅かった。追跡してきたエミリアが片方の足の健を断つ。
「これで逃げられないわね」
「さっさと諦めればいいのに」
 苦し紛れに短剣を闇雲に振ってエミリアを突き刺そうとしたが、アシュリーがザンツの短剣を手ごと素早く蹴り飛ばす。
 移動する足を封じられ、武器も失い、戦闘不能だ。
 油断なく、バーネットは即座に拘束の術を行使する。こういう輩は最後まで何をしでかすか分からない。
「そんじゃま、一丁上がりってな」
 杖の先端で軽く叩き、光の縄が音も無くスッと伸びると、術による輝く縄によってザンツは縛り上げられたのであった。

 フリーダとケン、二人の闘士(ウォーリア)らは、棘這者と互角以上に渡り合っていた。
 棘這者は大きさから推察するに中型クリーパーのようだ。普通なら冒険者数人で立ち向かう相手だし、ザンツが罠として嗾けた存在だ。そこそこの強さがあったはず。
 有利に戦いを進められたのは二人の方が上手だったからだ。
「どんなに鋭い棘があっても刺さらないと意味がないですよね」
 振り下ろされた棘這者の腕を盾でしっかりと受け止めるフリーダ。
 衝撃は相当だが、時折、回復を使えば耐えられないものではない。
 盾で跳ね除け、力強く踏み込むと強烈な一撃を足元へ叩き込む――棘這者の左足が砕け散るとバランスを保てず倒れた。
 飛び掛かるように大太刀を構えて突貫するケンに、地面を転がった敵が起死回生の棘を射出する。
「甘いぜ!」
 ガンッと地面に隠れた太い根を蹴り、その反動で身体を捩じると、紙一重に放たれた棘を避けた。
 押し込むようにエーテルに包まれた大太刀を振り下ろし、棘這者を両断する。左右に割れた敵に、二人はダメ押しの攻撃を加えた。
「そっちは任せたぜ!」
「承りました」
 悪足掻きか、棘這者は全身の鋭い棘を伸ばす。しかし、そんな事で今更、冒険者が怯むはずもない。あっという間にケンとフリーダによって幾度も切り刻まれる。
 それがトドメとなり、棘這者はボロボロっと崩れ落ちていった。

●

 ザンツを捕縛し、棘這者と戦っていた二人と合流した所で、一行の前に壮年の男性が姿を現した。
 一見すると、どこかの執事のような装いだが、全身から発せられる気が只者でないと告げている。
「邪魔にならないようにと見ていましたがお見事なお手並み。流石、冒険者達です」
「誰だ、てめぇは?」
 怪しみながらもケンが全員を庇うように進むと男性に問う。
 それに応えるように男性は非礼を詫びてから、深く頭を下げて名乗った。
「私の名はフォーゲンと申します。とある貴族の命で犯罪者であるザンツを追っていました」
「始末しに来たのかしら?」
 エミリアの問いに首を振るフォーゲン。
 どうやら、冒険者達に敵対するつもりもないようだ。
「それは皆様方にお任せしますよ。皆様の手柄ですし、私としては見届けられればどうにでも良いので」
 つまる所、手柄を横取りしたい訳でもなく、ザンツがどのような最期を迎えるのか知りたいようだ。
 フォーゲンの発言に一行はお互いに顔を見合わせた。
「ボクはこの場で『始末』した方が良いと思うんだけどなあ……」
 非情な事を言い放つアシュリー。
 だが、本当に非情かと言うとそうでもないかもしれない。次いで言うと、アシュリー自身は直接、手を下したくはない様子だった……単に武器が汚れるのが嫌なだけだが。
「せっかく捕らえたのに、わざわざここで処理する必要ないだろう?」
 ケンがそう言って大太刀を肩に背負う。
 戦闘は終わったのだ。余計な事もする必要もない。
「公知の場で処刑する、という事実に価値があることもあろうさ。別に不要だっていうなら依頼主が適当にするだろう」
 意見が分かれた所でエリザが発した台詞が妥当なラインとなった。
 冒険者達は『依頼』で動いている。今回、ザンツの確保だけで生死問わずとされていた。生きて捕らえた場合、どうするかは依頼主が考える事だ。
 猿ぐつわと魔法の縄だけではなく、別縄でグルグル巻きにされ、ザンツは担がれる。
「啓示でも『安定は大事。はっきりわかんだね』とありますし、これで良いと思います」
 一件落着とばかりに、フリーダはフォーゲンに向かって告げる。
 ザンツといえば暴れずにただ憎悪を宿した瞳を冒険者達に向けていた。
「王都に行けば死より恐ろしい事が待っていたりするだろうか?」
 何気なしに呟いたバーネットの予想はあながち間違いではない。
 だが、冒険者達が心を痛める事でもないだろう。これは、ザンツ自身が招いた人生の結末なのだから。
 真っ当な人生を歩んでいれば、そもそも犯罪者にならんのだろうし。
「それでは、道中、私も同行致しましょう。きちんと、見届けたいので」
 態度は丁寧そのものだが、発せられる雰囲気は底が知れないフォーゲンの台詞に、一行はもう一度、互いの顔を見合わす。
 帰還するまで油断できない人物と共に過ごす方が、探索しているよりも気が張るものだと冒険者達は思うのであった。

マスターコメント

 お疲れ様でした&ご依頼にご参加いただき、ありがとうございました。  森の中での探索と戦闘という事で細かい所にも配慮された方が多く、全体的に冒険者側のワンサイドゲームだったかと思います、  探索判定は甘くしたつもりはなかったのですが……しっかりと準備されていたかなと。戦闘も危なげなく、流石だなと。  さて、ザンツの身柄はこの後、シナリオの流れ的に依頼主に引き渡しとなるとは思いますが……新たな冒険の始まりは、ひょんな所からこっそり始まったりするのかな~などと考えております。  それでは、改めて、依頼へのご参加、ありがとうございました。また機会があれば冒険者の方々のご参加の程、お待ちしております。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:多い6 / 4〜6人

2021年05月09日 00時26分21秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. フリーダ=ブロムヴィスト

    ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 基本的には捜索メインで進める形になりますね。 クリーパーも生息する広大な森から犯罪者を探すのは中々骨が折れそうですね。 参加者の人数を考えるとローラー作戦も難しいでしょうから、 相手の逃亡先から帝国側に向かうという目星を立てて探す形になるでしょうか?

  2. バーネット・フォーサイス

    キャスターのバーネット・フォーサイスだ。 まぁ、よろしく頼むわ。 とりあえず、今回は捜索メインだな。 範囲が広くて手がかりも少ないから、虱潰しに探す羽目になるが、 痕跡さえ見つけられたらそこから辿れるだろう。 あと、捜索時は合流し易いように、お互いに離れすぎず、精々声の届く範囲に留めるのが良いか?

  3. エリザ・A・ミシャール

    エリザだ。よろしく頼む。 依頼目的が「ザンツの確保」だということ。 PL情報だが、フォーゲンが「ザンツの始末」を目的に動いていることを考えると、10回よりも高い水準で探索の判定は成功する必要がありそうだね。 その上で、クリーパーを撃退し、ザンツも無力化しなければならない。 場合によっては、フォーゲンとも戦闘になるだろうか……。 >相手の逃亡先から帝国側に向かうという目星を立てて探す これはその方針である程度範囲を絞って、捜索するしかないだろうね >お互いに離れすぎず、精々声の届く範囲に留める これはいい点と悪い点があるように思ったね。 メタ込みだが、声を上げるということはザンツやフォーゲンにも存在が知られる可能性が高いということになる。合流しやすくなるから不測の事態への対応力は上がるだろうけど、ザンツに逃げられたりする可能性も同時に上がりそうな気がしたねぇ。 今の時点でアタシから「どちらがいい」とは言い切れない。意見が欲しいところだ。 テレパスがあればまた話は別だけど、これはスキル枠を使うから別途ということで。

  4. エミリア・シバ

    あら、昨日書き込んだつもりで出来てなかったわ。 おねえさんはシーフのエミリアっていうわ、よろしくね。 とりあえず捜索のために、超嗅覚と超聴覚を持っていく予定よ >お互いに離れすぎず、精々声の届く範囲に留める そうねぇ、おねえさんも完全に全員で分かれると、実際にザンツとクリーパーを発見した時が怖いかしら? 1人の時に発見して1対2で一気襲われることになったら怖いので、最低でも二人一組ぐらいになってたほうが良い……かも?とは思ったわ。 探せる範囲とかが半分になってしまうので、みんなで話し合えたらいいわね、ここの部分は。

  5. アシュリー・レドルナン

    遅くなったね、ごめん。 シーフのアシュリーだよ、よろしくね。 ザンツはシーフなんだよね? 追われてることも気づいているようだから、足跡とかも要所要所で消しちゃってそうだなあ。 ボクは木の枝に痕跡がないかとかを含めて調べてみるよ。 >お互いの距離 そうだね、ボクもエリガの意見と同意かな。 気づかれるって心配もあるから目の届く範囲がいいかあ。

  6. バーネット・フォーサイス

    >方針 二人組を組むのは良いと思う。 何かあった時、まぁPL情報敵にクリーパーが襲ってきた時だが、 二人で耐えるなり、片方がザンツの追跡をするなりで、対応力が上がるしな。 あと声での合流だが、ザンツに関していえばそもそもクリーパーと戦闘になった段階で、 ザンツを発見できているかに関わらず、此方の存在を察知して逃走しようとするだろうから、 逃走されるリスクそのものは変わりないと思う。 どちらかといえば、早期にザンツの追跡と捕縛に増援を出せる方が良いんじゃないか?

  7. アシュリー・レドルナン

    明日出発だし決めなきゃいけないね。 二人組っていうのは事前で決めておく? 出発まで時間もあまりないし適当に決めちゃうけど、 エリザとバーネット、ケンとエミリア、フリーダとボク(アシュリー)って感じで良いかな? 一応、シーフとシューターはそれぞれの組にわかれるようにしたんだけど。 あと、さっきはエリザの名前を間違ちゃってたよ。ごめんね。

  8. ケン・Z・ブラッドリー

    顔出しがぎりぎりで済まない ウォーリアーのケンだ 今回の状況だ戦闘になることもかんあがえりゃ2人組で別れて捜索するってのでいいとおもうぜ。 対象は理想は生け捕りにして情報引き出したいって感じだが状況が状況だけにかなりうまく立ち回らないといけないだろうな ザンツを見つけてもクリーパーが襲ってくることはPL情報でPCとしてはわかっていないことなのが難点か できれば、見つけた時の対応を決めておくとタイムラグを出さずに済むか? 俺の相方はシーフのエミリアか だったら荒事は俺が対応して追跡はエミリアが対応したほうが適材適所か?

  9. フリーダ=ブロムヴィスト

    >方針 班分け了解しました。 それでは私は主に戦闘を中心に行動を行いたいと思います。 アシュリー様はよろしくお願いしますね。

  10. バーネット・フォーサイス

    >組み分け 組み分けはレドルナンの分け方で問題ないと思う。 >方針 まぁ、もう時間もない事だし、 「各組がお互いを視認できる程度の距離に散らばって捜索」 位に落とし込むのが無難な所か? >個人行動 俺は基本的には足止め担当だな。 アーケインテンペスト改とフリーズボルトで、ザンツとクリーパーのそれぞれの 移動を妨害して、逃走防止と味方が集まるまでの時間稼ぎをするつもりだ。 あとは念のためのヒールと、捕縛用の光呪縛って所だな。

  11. エミリア・シバ

    あら、ごめんなさい、もう一日余裕があるとゆっくりしてたわ。 班分けは了解で、方針もバーネットちゃんの「各組がお互いを視認できる程度の距離に散らばって捜索」で問題ないと思うわ。 ん?追跡自体は全員がやるのよね? PL情報だけれどクリーパーもザンツ発見時に襲ってきますだから、ザンツ発見以降は捜索はとくにはないでしょうし。

  12. エリザ・A・ミシャール

    班分けはアシュリーの提案内容で異論無いよ プレイングも提出済みだ

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0