小さな出会い、拡大する何か

狐野径

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シナリオID:736

オープニング

●溜息
 リザードマンで研究者のポルトはリブラネスタに住んでいる。
 冒険者をする傍ら、自分の研究を進めるのにもってこいだからだ。
 情報が集まる。
 物が集まる。
 人が集まれば、事件も起きる。
「まさか……こんな事態になるとは」
 そう、事件が起こっていた。
 実験で使っている道具はドワーフ製。
 その材料の一部はフィルエス大森林産。
「はぁ……」
 溜息を漏らす。
 この事件の発端をポルトは聞いている。
「捕獲に使う道具なければ、僕の実験も進まないし……僕、怒ってもいいところ?」
 ふと、気づいた。
「そういえば、知り合いの酒造りでも、材料の供給が止まっているとか言ってたよな……この件が原因で」
 道具屋や酒を扱っている店の人も巻き込んだ方がいいかもしれないと気づいた。
「僕一人だと力が小さいけど……でも、うーん、僕が言ったところで大丈夫かな?」
 悩むポルトはなぜか冒険者ギルドに向かった。
 決断のためのヒントを得るため。

●ことの発端 エルフたち
 エルフの少年クレイブは、フィルエス大森林を出たのは初めてだった。
 一人ではなく、大人が一緒だ。
「やっぱり人間が多いね」
 ぽつりクレイブの感想を漏らした。

 木がなく、石とレンガの建物がある。
 海があり、空気の匂いが違う。
 何もかもが不思議、何もかもが興味となる。
 クレイブは大人たちに付いていく。

「クレイブ、あっちに我々の拠点となる家があります」
 お付きの一人サムソンは言った方を見た。
 クレイブは、サムソン達の動きが変わったのに気づいた。
 何かと思って、クレイブは警戒している方向を見る。
「ドワーフ? 女性はひげは剃るって本当なんだ」
 クレイブはつぶやいた。

●ことの発端 ドワーフたち
 ドワーフの少女アゴニはドワーフ王国から出たのは初めてだ。
 出かけたかったけど「子どもだから」という理由でなかなか許可が出なかった。
 最近、父親の工房に改装工事が入り、使えなくなったため、大人たちに付いて出かけることになった。

 工房ではたらく三人の大人はリブラネスタ辺りに来たことがある。
 アゴニは安心できるし、あれこれ聞くこともできるため頼もしく感じる。
 ただ、いちいち許可を取らないと行けないだろうことは想像が付き、残念だった。
「外に出るって、面白い。色々な物がある」
 アゴニは感想を述べる。

「そろそろ、あたしたちの拠点となる家よ」
 お付きのドワーフであるフクスは一軒の家を指した。
 その中でアゴニはある集団に目を留めた。
「エルフ? 細っ。あんなので槌とかもてるのかな」
 アゴニはつぶやいた。

●それから……
 クレイブとアゴニは隣同士の家だった。
 別の家を借りるにしても、なかなか条件に遭うのはない。
 大人達は、何か、嫌悪感があるらしく、いちいちもめている。
 音がうるさいだの、煮炊きの匂いが臭いだの……ちょっとしたことで互いに苦情を言い合う。

 ただ、クレイブとアゴニは、嫌悪感よりも好奇心が勝っていた。
 大人達が静かに言い合っているそばで観察していた。
 大人達の状況に目を白黒さているクレイブやアゴニは、互いに同じ感覚を持っていると認識していた。
「なんだ、普通だよ」
「あの子はあたしと変わらないかも」
 目が合うとなんとなく笑った。

 たまたま、単独で外出するタイミングが合ったとき、二人はこっそり話した。
 名前を聞き、ここに来た理由などを話す。
「なんでもめるんだろう」
「わかんない」
 二人は溜息をついた。
 たぶん、難しい何かがあるのだろうと納得するけれども、楽しいことが楽しくないのは嬉しくなかった。
 
 一度会えれば、次の約束もつけられる。
 だから、ここにいる限り、時々会って、一緒に遊ぼうということになった。

 ただ、大人達に気づかれた。
「こそこそと何やってんです」
「そっちの坊やは大切な嬢に何してくれるんだ」
「するわけないでしょ! ドワーフごときに」
「それはこっちも同じだよ。エルフごときに」

 罵詈雑言が並ぶ中、クレイブとアゴニはおろおろするしかなかった。

 結果、よく分からないうちにクレイブの住む里で取れる原材料の出荷停止。
 アゴニの親の工房ではないけど、それが材料に必要だったため、その道具は生産停止。
 そこらまたもめて、エルフの別の里で出荷していた酒の香り付に使う植物が運搬停止。
 あおりを受けたのはリザードマンの酒作り工房で、酒の生産停止――連鎖する。

●家出?
 クレイブもアゴニも、リブラネスタにいても楽しくなくなった。
 かといって、家に戻るのも息苦しく感じる。

 決めた訳ではなかったけれども、二人は、家出した。
 誰も話聞いてくれないし、本当はもめる必要なんてないはずなのだから。
「アゴニ、どこ行こうか」
「あたしたちも冒険者になればいいんだよね」
「僕、一応、弓使えるよ!」
「あたしは……うーん、殴れる!」
 二人は楽しそうに笑った。
 ただ、冒険者ギルドの近くに大人達を見た。

 クレイブとアゴニは見つかる前に逃げた。
 通行人が多く、ぶつかったり、出店の物を落としかかったりする。
 一定のところで道に入り、呼吸を整える。
「どーしよー」
 二人は呻いた。

「どーかしたの?」
 入ってきたところから、エルフの二人連れがいる。
 一瞬、大人が来たのかと思ったけれども、まったく知らないエルフだ。
 クレイブとアゴニは警戒はする。
 冒険者が多いのだから、エルフがいたところでおかしくもない。
 ただし、タイミングが良かったので不審者かもしれないと考えはする。
「良ければあたしたちで話聞くよ?」
 杖を持っている女性がいう。
「わたしたち、人の話を聞くのは得意よ」
 弓を持っている女性が言う。

 クレイブとアゴニは悩むところだった。
 ただ、エルフの女性二人は、優しそうだし、ふわっと漂う空気が心地よかった。
 ひょっとしたら親切な人かもしれない。
 エルフだけど。
 だから二人はついて行くことにした。
 ふんわり笑顔のエルフ二人について。
 町の中だし、変なことはないだろうと思いながら。

 サムソンとフクスなどエルフとドワーフの大人達は、近くにそれぞれが探す人物がいることに気づかなかった。
 互いにけん制しながら、冒険者ギルドに入る。
「まさかと思うけど、あんたたちがうちの嬢を連れ出したのかっ」
「なんでそんなことしなきゃいけないんですっ」
 そして、ギルド内で捜索依頼を出す前に、口論が始まる。

 町の中、ギルドの中にいる冒険者たちは、傍観するのか、話を聞くのか――。

解説

●目的・目標など  ギルド内での騒動を収める。  ギルド前から走り去った子どもたちを見つける? ●現場  リブラネスタの街中及び冒険者ギルド内。 ●エルフ側NPC  ・クレイブ 男、12歳くらい。たぶんシューター。  街に来て色々学んだ。基本素直な少年。  見聞を広めるために、お付きとともに、リブラネスタにやってきた。  ・サムソン 男、20代後半くらい。  他の人(二人)とともに、クレイブの案内役をかねやってきた。  ドワーフはなんか嫌い。とりあえず、嫌いという部分が強い。 ●ドワーフ側NPC  ・アゴニ ドワーフ、女、12歳くらい。  好奇心旺盛。特に、きらきらしたものに興味を引かれる。  見聞を広めるために、お付きとともに、リブラネスタにやってきた。  ・フクス ドワーフ、女、20代後半くらい。  アゴニを守ることを前提で行動する。 ●その他  ・ポルト 街で暮らすリザードマン。  とりあえず、道具が入手できず困っている。  そのため、状況を収めるための知恵を借りに冒険者ギルドに向かう。  ・なぞのエルフ二人連れ 女、20代ぽい外見。  一人はシューター、一人はキャスターの様子。  街の空き地に止まっている馬車の持ち主。  馬車は大き目では見ている人も多い。

マスターより

 こんにちは、狐野径です。  一般的な冒険者であれば、影響はすぐに出ませんが、あの香のついた酒なくなったとか……起きるかもしれません?  小さな意地、古くからの意識から面子の問題など、絡みに絡んでいる現状。  なお、報酬があるのは、少年少女捜索が絡むため、その依頼金の分配ととらえていただければ幸いです。  よろしくお願いします。

リプレイ

●冒険者ギルド
 家出と思われるエルフの少年クレイブとドワーフの少女アゴニ。
 冒険者ギルドに捜索願いを出しに来たその保護者役の大人達。代表はエルフの方はサムソンで、ドワーフの方はフクス。
 依頼出しよりも、大人達はにらみ合う。

 リディリディ・トゥラ・イェレミースは冒険者ギルドに入って、騒ぎを見る。
(私もドワーフに対してなじめないというか、いまだに警戒してしまうところがあります……)
 フィルエス大森林の生まれ、育つ。
 大森林ではドワーフを見たことなくても苦手というエルフが多い。
 リディリディもその影響を受けているし、子どものころに遭ったことから、ドワーフに対して忌避感はあった。
(……私のわだかまりはともかく、いなくなった子どもを探さないといけませんね)
 種族が何であれ、行方不明の子どもを探すのは話が別だった。

 アヴェラ・ウッチェロは言い争いを目撃し、
(変なものにこだわるのね)
 と思う。エルフとドワーフの確執を聞いていても、その理由はよくわからない。
 目の前のもめごとも、理由は曖昧である。
(エルフだから、ドワーフだから嫌い? それより、行方不明な子がいるの? もめている場合じゃないわよね)
 アヴェラはどうするか思案後、そちらに向かった。
 
 エフィルミアは騒動を目に「またですか」と思った。
「エルフとドワーフのケンカは珍しくないですけど、場所が悪いですね」
 冒険者ギルドは種族の垣根を越えて協力し、物事に当たっている組織だ。
 そこで、種族を理由に相手を嫌う言葉を平気で言うのは非常によろしくない。
 エフィルミアは声を掛けるタイミングを計りつつ、近づいた。

 キーゼは聞こえる言葉からもめている理由を考える。
 理由はわかるが、曖昧な内容だ。
 ただし、子どもの家出は緊急を要するはずだ。
 どう対応するか考えていると、その人たちを見守るリザードマンに気づいた。
 彼はもめている人たちを見て、溜息をついているように見えた。
(何か用か知っているのでしょうか?)
 キーゼはリザードマンの方に向かった。

●依頼に
 アヴェラがパンッと小気味よく手をたたくと、ギルド内が静かになった。
「で、仕事を頼むの? 頼まないの?」
 アヴェラはもめていた一行を見渡した。
「冒険者の業務を邪魔して喧嘩売るなら、命知らずだわね」
 それに呼応するようにエフィルミアが声をあげる。
「冒険者ギルドでケンカは御法度ですよ! 皆さんがここに来るということは何か問題があったんでしょ? ケンカしている場合じゃないのでは?」
 問いかけに、サムソンとフクスが同時に口を開き、途中からにらみ合いになる。
 エフィルミアがもう一度「ケンカしている場合ではないのでは」と言い、
「よかったら話をしてもらえませんか? 私も冒険者なので力になりますよ!」
 と語り掛けた。
 リディリディが近くに来て、エフィルミアに同意する。
 しかし、サムソンとフクスは互いにけん制し合い、言葉が発せないようだった。
 アヴェラはにらみつけるような顔で、鋭く言う。
「貴方たちの感情とか、どうでもいいから。事実と要望だけ述べなさい」
 そこから、捜索対象や依頼人たちのことなど聞き出す。
「で、見た目の特徴は? 最後に目撃したのはいつ?」
 12歳ということ、まだ、外見は子どもの特徴が多いことなどが告げられる。
 最後に見たのは今朝ということだった。
 そして、アヴェラは最後の質問を出した。
「死体の持ち帰りでも報酬はもらえるの?」
 アヴェラの言葉に、依頼人だけでなく、話を聞いていた冒険者もはっとする。
 家出が迷子で済めばいいけれども、不審者やクリーパーに襲われる等事件もありうるのだ。
「で、報酬はもらえるの? もちろん、誰も、死体にして返したいわけではないけど」
 アヴェラがいうと、サムソンもフクスも異口同音に「払う」という。
「さて、乗りかかった船だし、この仕事、わたし引き受けるわ」
 リディリディは挙手し「私も受けます」という。
「じゃ、よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
 二人は挨拶を交わす。
 アヴェラが周りの冒険者をうかがうと、エフィルミアは「この人たちを見ています」という。
「これで終わると思えませんし。もしも、の時は助太刀しますよ」
 エフィルミアの言葉に、アヴェラとリディリディがうなずいた。
 リザードマンと話しながら、こちらを見ているキーゼにも三人は気づく。
 何かあるというのは感じ取れた。
 エフィルミアが確認を取ることにして、捜索に向かう二人は出発した。

 キーゼはリザードマンに声を掛ける。
「どうかしたんですか?」
「あ、いやー、あの人たちどうしたんです?」
「エルフとドワーフのもめごとで理解いただけますか?」
 キーゼの説明に、リザードマンは「あー」と渋い声を出した。
「僕が困っていることの元凶、あの人たちかな」
「どういうことです? 僕は冒険者をしていますキーゼと言います」
「この町で研究者兼冒険者をしているポルトです」
 互いに名乗ったところで、ポルトが来た理由を話した。
「使っている道具をドワーフが作っているんです。その材料の一部がエルフのところから来ているらしいです。最近、その供給が止まり、在庫限りとなっているのです」
「原因は、まさか?」
「商人に聞いたら、些細なもめごとの結果、ドワーフに売るなんて良くないとかいうことになったらしいですよ」
「些細……」
 キーゼはギルド内のもめているエルフとドワーフを見た。
「些細と言っても」
「根が深いとか、曖昧な理由のような気がします」
 ポルトの言葉にキーゼは「確かに」と同意した。
 ちょっとしたことが積もり積もってこうなったことは想像できた。
 キーゼはもめている一行と冒険者の動きを見つつ、尋ねる。
「何にせよ、このままではよくないのは間違いないですね。意見調整してどうにかしましょう。ポルト氏、必要な時証言してくれますか?」
 ポルトに否応はなかった。

 エフィルミナとキーゼはもめごとにかかわることについて情報交換する。
 サムソンやフクスたちは静かだけれども、どうなるかわからないため、様子を見ることになる。

●捜索
 リディリディとアヴェラはギルドの外に出てから、調査手順など話し始める。
 アヴェラは周囲を見渡して言う。
「まずは聞き込みね。家出、ただの迷子、誘拐、両方の可能性があるのが痛いわね」
「子どもとはいえ、エルフとドワーフが一緒にいるのは珍しいかもしれませんね」
 とリディリディは言う。
「あの年齢なら、ある程度現実的な思考ができる。つまり、家出なら自立の手段を求めるはず」
 アヴェラの推測にリディリディは「そうですね」と同意し、続ける。
「冒険者ギルドに来た、可能性はあります……? ここから聞き込みをしていきませんか?」
「手がかりがない以上、それでいいわ」
 アヴェラは提案を受け入れた。
 リディリディは、不安を抱いていた。
「どなたかが目撃していて、覚えていてくださると良いですか……」
「聞いてみないとわからないもの」
 アヴェラに促され、リディリディも続いた。

 聞き込みをしていくと、二人連れのエルフの女性が情報に上がる。
 エルフとドワーフの子どもがついて行ったということ、彼女たちが大き目の馬車を所有していることや、冒険者らしいということなどわかった。
 リディリディは情報に対して、
「シューターとキャスターなら、エルフではあまり珍しくもないですが、二人で大きな馬車というのは少しひっかかります」
 と思う。商人をやっている可能性もあるが、風体からする違う気もする。

 リディリディとアヴェラは該当の馬車を見つける。
 御者台には誰もいない。
 馬車の中から話をする声が漏れている。はっきりと聞こえないけれども、緊急性があるような声には聞こえない。
 リディリディはどうやって声を掛けるか悩む。
 一方で、アヴェラは「失礼するわね」と声を掛け、幌を開けた。
 リディリディは長杖を握りしめ、アヴェラの後ろから中をのぞき込んだ。
 小さなテーブルなどもあり生活感がある。
 その中に、エルフの女性が二人と少年が一人、ドワーフの少女が一人いる。
 アヴェラは状況確認を始める。
「あなたがクレイブで、あなたがアゴニでいいの?」
 クレイブとアゴニがびくりと動く。
 エルフ二人は「あらあら」といい微笑み、アヴェラとリディリディを見つめる。
 その視線は、二人の正体を探ろうとしているようだった。
 視線に緊張しながらリディリディは口を開く。
「えっと……探すように依頼が出ているのです」
 クレイブとアゴニは戻りたくないことを示すように首を横に振る。
 リディリディは女性二人に質問をする。
「あなたたちは、どうしてこの二人と?」
「困っていたから連れてきたの」
 その返答にアヴェラは溜息が漏れる。
「子ども達の話を聞こうって、立派ね。ただ、申し訳ないけど、世の中には子どもに害意を持っている大人もいて、その人たちも同じことをいうのよね」
 エルフたちは、シューターがハルシ・エルと名乗り、キャスターがナツキ・エルと名乗った。
「あとは、子どもたち次第だよ」
「私たちは味方するし、逃げ場は作るよ」
 ハルシとナツキがいうと、四人を見る。
 アヴェラは二人が悪人ではないと理解し、子どもたちに向き合った。
「大人たちにきちんと話してみれば?」
 リディリディもギルドであったことから、
「簡単に収まるとは思えませんが、変わるかもしれません」
 という。二人のエルフも「そうそう」と援護する。
 クライブとアゴニはうなだれたが、このままではいけないと理解し「戻るよ」と言った。
 それを聞いて、リディリディは胸の奥の苦しかった息を吐いた。
 一行は、馬車を出てギルドに向かうのだった。

●結局
 ギルド内のサムソンとフクスなど大人たち。
 相手もここで待っているということが癪に障ったようで、静かだったけれども徐々にうるさくなってくる。

 エフィルミアが一行に声を掛けた。
「……クレイブくんとアゴニちゃんのお話をちゃんと聞いてみたんですか? あなたたちの話ばかりで本人達の話が出てこなかったんですけど?」
 大人たちは「聞く必要がなぜあるのか」というようなことを言う。
「見聞を広げるためにリブラネスタに来たのに、二人の見聞を大人が狭めてどうするんですか」
 大人たちからぶつぶつ返答があるが、声が小さいのは言っていることが理解できたからだ。
 キーゼが静かに割って入る。
「『ごとき』ですか……? では、僕からこう言いましょうか『私の前で調子に乗るな、非授恵者ごときが』と」
 威圧感のこもった、低くどっしりとした声音だった。
 言った直後、キーゼは息を吐くと普段通りの口調に戻す。
「その様子では、お互いに普段から子どもの前でそんな調子だったのでしょう。子は親の背を見て育つとは言います。親でなくとも保護者務めるような親しい大人も含まれますよ。子どもは大人の感情にも敏感です。そうなると子どもだけで家出したくもなる」
 キーゼは一旦切った後、続ける。
「いきなり隣人を好け、など言いませんが、仕事と感情は分けるべきです……他者に迷惑をかけてまで争って楽しいですか?」
 キーゼはポルトに来てもらう。
 ポルトが起こっていることを淡々と語る。
 エフィルミアは「それで生産停止が次々と……頭痛くなりそうです」と感想を漏らす。
 サムソンやフクスたちは相手が悪いとばかりににらみつける。
 キーゼは一同を見渡し、
「さて、今のあなた方はいなくなった子どもたちに胸を張って自分たちが保護者だと誇れますか? もし、それで誇れるなら、僕はむしろ出て行ったお二人に敬意を表しますよ」
 というと、一行は黙った。
 エフィルミアがサムソンとフクスたちに語り掛ける。
「私は森を出て、冒険者になって、エルフなのに魔法が苦手なコンプレックスも、種族の確執も小さなことだなぁって気づいたんです」
 エフィルミアはこれまで見てきたことなどを思い浮かべた。
「種族じゃなくて個人で見る、自分は自分にできることで役に立てる……きっと、それに気づくことがリブラネスタでの最初の一歩。せっかく街に来たんです。あなたたちも一歩踏み出してみませんか?」
 エフィルミナの言葉に大人たちは目をそらす。
「互いに嫌うなら仕方がないですが、その負の遺産を子の世代に渡すことは許されません」
 キーゼの淡々とした声は、大人たちにも届いた。

 扉が開くとアヴェラが入ってくる。
 クレイブとアゴニが続き、リディリディが最後に入ってきた。

「クレイブ」
「アゴニ」
 大人たちに声を掛けられた二人は顔を伏せる。

 アヴェラとリディリディ、キーゼとエフィルミアは合流すると、互いに状況を手短に話す。
 話している間、クレイブもアゴニも動かない。
 一方、大人たちも動かない。

 アヴェラが大人たちに声を掛けた。
「あなたたちの様子を見て、二人は逃げだしたのよ」
 リディリディが続いて口を開いた。
「あの……私が仲良くしてという資格はありませんが……ただ、ドワーフのつくるお酒が飲めなくなってしまうのは、その、寂しいですね」
「商品を我慢するとしても、消えた原因が後世に語られるんですよ」
 キーゼの指摘が加わる。
「それ、嫌ですね」
 エフィルミアが苦笑した。

 大人たちは、何か言いたそうだったが、沈黙を守った。
 しばらくして、エルフたちはクレイブと、ドワーフたちはアゴニに向き合う。
 そして、問うのは同じ内容だった。相手となぜいるのかということだった。
 クレイブもアゴニもはっきりと言った。
「ドワーフとか関係ないな、って思ったんだ。それに、いろいろな人と話すと面白いよ」
「面白いよ。同じもの見ても同じときもあるし、見方違うし。それに、街にはいろんな人がいるもの」
 二人の言葉に、ギルド内で拍手が上がる。
 聞いている人たちが自然と手をたたいていたのだった。
 
 大人たちは相手には謝罪しないが、ギルドにいる人たちには頭を下げた。
「浅慮で申し訳なかった」
「騒いで申し訳なかった」
 そのあと、報酬を納金した後、エルフはエルフ、ドワーフはドワーフで戻っていった。

「キーゼさん、皆さん、ありがとうございました」
 ポルトはほっとした様子でギルドを後にした。

 後日、止まっていた製品の生産が再開されたという情報がもたらされる。
 もめごとに間接的にかかわっていた冷静になったのだろう。
 クライブとアゴニの周りの大人が変わったかはわからないが、二人が街で外出することに文句は出なくなった。

マスターコメント

 対応、ありがとうございました。  子どもと大人、困っている人、それぞれ適宜対応していただけました。  まあ、原因が原因なため、大人は不満は残っている状態でしょう。  ここにでました、エルフとドワーフの大人たちは、冷静になるチャンスは得られました。  仲良くならなくても、いがみ合わないようになると良いですよね。  ご縁があれば、よろしくお願いします。
ショートシナリオR

ショートシナリオR普通 報酬:少ない4 / 4〜8人

2021年04月05日 01時12分17秒 公開

大成功

参加者

相談掲示板

  1. No.1

    えっと、成立するか今のところわかりませんが、その・・・。 キャスターのリディリディです。 あの、よろしくお願いします。

  2. キーゼ

    さて、宜しくお願いしますね。 あと二人、来てくれると有難いのですが。 とりあえず、大人たちの説得と、子供の捜索ですか 手があれば二手に分かれてもいいと思うのですが。 蒸留酒が買えなくなるのは困りますからねぇ。

  3. No.3

    あ、その・・・、成立するかは現在あやしく、揃ったとしてもそれから相談というのも難しそうですね・・・。 とりあえず、私は・・・、子どもの捜索に注力してみる方向で進めていきます。

  4. アヴェラ・ウッチェロ

    シーフのアヴェラよ。 エルフとドワーフの指の比べあいができると聞いて。 ……いや、さすがに冗談よ。 よろしくおねがいするわ。 ひとまず捜索と説得ね。 一旦捜索側に挙手しておくわ。

  5. エフィルミア

    シーフのエフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 私も家が嫌で家出した身なので、ちょっと親近感が沸いちゃいます。 2人の生活がまた楽しくなるように、頑張りたいです!せっかく街に来たんだから、楽しまなくちゃ勿体ない! アヴェラさんとリディリディさんが捜索に回ってくれるみたいなので、私は説得を頑張ってみようかなっと思います! サムソンさんはエルフの話なら素直に聞いてくれそうですし、フクスさんはアゴニさんの為なら少しは耳を傾けてくれる…といいなぁ。 大き目の馬車に誘導するエルフ2人組…怪しい匂いがしますね!人攫いの可能性も? クレイブくんもアゴニちゃんもお付きの人がいますし、良い家の子っぽいです。 こんな些細な言い合いで原材料を止めるくらい力のある家だと、悪い人は以前から狙っていそう…(むむむ) もしもの時に駆けつけられるようにテレパスを持って行きましょうか?

  6. キーゼ

    出発確定ですか、一安心ですね では、私も説得側に行きましょうか

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0