砂上の花

崎田航輝

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シナリオID:733

オープニング

「ここが彼女の眠っている場所です」
 微風が吹く、静かな霊園の一角にその墓は建っていた。
 丁寧に手入れがされているのだろう、汚れ一つないその墓石を見つめてから――依頼者の青年は冒険者達へ振り返る。
「ここへ“砂上の花”を供えたい。それで僕の冒険は終わりです」
 だからどうか最後の冒険に付き合ってくれませんか、と。

●冒険家
 アロルドと名乗ったその青年はまだ若かった。
 事実、冒険歴はベテランと言えるほどは長くないという。
 見た目にもまだ少年らしさすら残している――けれど多くのものを見てきたかのように、穏やかな空気を纏って、老成していた。
 昔を思い出すように彼は笑う。
「子供の頃に冒険家を夢見て、それを目指して。実際になってからは、色んな場所に繰り出しては色んな失敗をする……今思えばよくいる新人冒険家でしたね」
 それでもアロルドは日々を経て、成長した。
 一人前と言える冒険家になって――そんな折に立ち寄った街で、大切な人も出来た。ブリジットという名の娘で、アロルドはその心優しさに惹かれたという。
「彼女は病気で、あまり外にも出られませんでした。だから僕は自分が経験した色んな事を話して、聞いてもらいました。彼女は喜んでくれて……それが何より楽しい時間でした」
 親も認めてくれたから、結婚式もあげた。
 だがその頃にはもう、ブリジットの余命が迫っていた。
「出来る限りの事はした……とは思いたいです」
 アロルドは方々を巡って治療法を探した。借金をして薬や医者を用意した。けれどブリジットが助かる事はなかった。
「今も後悔は、消えませんが」
 それでもブリジットの親はよく尽くしてくれたと、アロルドに感謝をした。見立てよりもずっと、ブリジットは長生きしたのだ。

●依頼
 アロルドは彼女の死後、長く塞ぎ込んだ。
 けれど暫くの後には冒険を再開したという。
「薬などの為にお金を借りていましたからね。必要に駆られてですよ」
 それに、と続ける。
「ブリジットが言っていました。自分が死んでも悲しみ続けないで、と。つらい気持ちになっても、いつかそれを乗り越えて……「自分の人生を生きて」と」
 だからアロルドは冒険を続け、ひとまず借金を完済した。
 そうして最後の心残りだけを済ます事が出来たら――冒険を辞めると決めた、と。
「それが“砂上の花”です」

 世の冒険譚には、記録のように詳細なものから、作り話としか思えない荒唐無稽なものまで存在する。
 砂上の花はそんなエピソードの一つ。
「何てことはありません。砂漠に咲くとても綺麗な花があると、それだけなのですが」
 それは砂に咲いたとは信じられぬような色彩と淡い光を帯びていて、この世のものとは思われぬ程美しいのだという。
 荒涼な地の中にこつ然と現れるように、狭い範囲に花園を形成していて……まるで夢の中に迷い込んだような錯覚を味わうらしい、と。
「何かのきっかけで話したその噂に、ブリジットは興味を持っていました。「見てみたいわ」と、そんなふうに笑って」
 アロルドも当時、花を探そうとした事はあった。けれど情報が少なく、砂漠を一人で探索出来る程の実力もなかった。
「だからまたいつか、と、そう諦めたんです」
 そしてその花を見る前に、ブリジットは亡くなってしまった。それが長く心に残っていたという。
「冒険を再開してからは、ずっとその情報を集めていました」
 そうして、どうやらその花が実在するらしいと判ったのだという。
「シラー砂漠の荒れた一帯。凶悪な魔物を越えたその先にあるらしいです」
 それを手に入れて……最後の冒険としたい、と。
「冒険を続けているといつまでも彼女の事を考えて、くよくよしてしまいますから。彼女の助言を、僕なりに受け入れてみようと思うんです」
 既に街の隅でひっそりと商売を始めていて、飢えない程度にはやっていけそうだという。
 自分には合っていないだろう。けれどそれが多分、新しい人生を生きる事なのだと思うから、と。
「未知の花を探すなんて、久しぶりに冒険らしい冒険でわくわくしますね。僕にとっては最後ですが――是非、手を貸してくれませんか」
 アロルドはそう静かに笑った。

解説

●目的  冒険家アロルドを連れて「砂上の花」を手に入れる。 ●現場  王国の西、シラー砂漠の荒涼な一角。  高低差のある砂の山を越えた先にある、深く砂煙の立ち込めた地帯。乾燥と高温が強く、それまでの道中に比べて一層荒れた環境。  広大だが視界は良くはなく、遠くまでは見通せない。 ●移動について  荷台を引く驢馬にて行軍する。食料などは充分な量を積む事が出来る。 ●敵について  “砂霞”という異名で呼ばれる魔獣。数は一体。  古くから多くの冒険家や探索者を撃退してきたと語られている。  この周辺の砂煙や、荒れた環境を作り出した原因だと言う者もおり、真偽は不明ながら現在進行系で砂漠を侵食して変容させているとの話まである。  見た目は全長7mほどの大蛇に似ていて、巨大な蜥蜴が魔獣化して、長大に成長したと考えられる。  砂を掘り、穴を作って地中を移動する事が判っている。  能力は以下。  砂雨 鋭利な砂粒を降らす。【スリップ】を伴う範囲魔法射撃。射程20hex、直径3hex。  落錐 穴を作り滑落させる。【束縛】を伴う範囲射撃。射程6hex、直径1hex。  濃煙 砂煙を凝集する。【窒息】を伴う範囲魔法射撃。射程20hex、直径1hex。  爪泳 地中から爪を奔らせる。【流血】を伴う範囲射撃。長さ3hex、幅1hex。 ●砂上の花について  現場周辺のどこかに狭い範囲で群生している花。  一切の植物がないような砂地に生える花で、小さく美しい花園を形成していると言われている。  目撃談はあるが、魔獣に阻まれた為かこれまで採取出来た者はいない。 ●同行者  冒険家アロルドが同行する。  剣を装備したウォーリア。近接攻撃と衝撃波による射撃(射程6hex)を行える。

マスターより

シラー砂漠の行軍、探索と魔獣退治を行います。 物理的には、砂霞を倒さずとも花を見つけることは可能です。 ただ一帯は砂霞の縄張りのようにもなっているので、戦闘をせずに発見に至るのは難しいでしょう。 砂霞そのものについても、砂漠を荒らして害を為す存在なので討伐は望まれます。 敵は砂や煙を飛ばす場合は砂上に出てきます。適宜対応策や戦い方を考えて臨むと良いかも知れません。 皆様のプレイングを心より楽しみにお待ちしております。

リプレイ

●霞
 遠景が砂色の煙に霞んでいる。
 シラー砂漠の東部。前方に広がるその景色を、冒険者達は眺めていた。
「すごい場所だね――」
 ララベル・サン・ディーベルは呟きながら見回す。
 触れる砂は乾ききり、周囲にはサボテンの類すら生えていなかった。
 荒涼な景色の果て。
「こんな砂漠に、どうやって花が咲いてるんだろう?」
「見てみなければ判らない。が……なんとも浪漫溢れる話だね」
 アルフレッド・ラ・ギの声には強い興味も含まれていた。依頼による仕事ではありながら、今回の件は個人的な研究の一端にもなるものだから。
 こくりと頷くレイヤ・ダライ=カホールもまた、瞳ににわかな輝きを宿している。
「あの“砂上の花”が、遠くない場所にあるんですね……!」
 それはレイヤ自身、噂でしか聞いた事がないものだった。
 ここまで来ても、それがあるとは信じられない程。けれどそれ故に、目にした時の感慨はひとしおだろう。
 この冒険そのものが、まるで物語のようだとも思うから。
「ぜひ見つけたいですね!」
「そうですね」
 応えるのは同道するアロルド。
 静かな口調ながら、そこには確かに期待の色もあるようだった。
「僕も楽しみです。きっと、最後の冒険にもふさわしいと思いますから」
「……最後、か」
 バーネット・フォーサイスは砂を踏みしめながら、一度だけアロルドの横顔を見ていた。
 それきりまた、前を見て。
「それなら尚更――悔いが残らないものにしないとな」
「ワタシも最後まで手伝うから、頑張ろうね!」
 トゥーリが言えば、アロルドはありがとうございます、と穏やかな笑みを浮かべる。
 ララベルも少し、その顔を見つめていた。
 未知の花をこの目で見てみたい思いは強かった。けれど何より、彼の最後の冒険を全うさせてあげたいから。
「皆、行こう!」
 頷く仲間達と共に――霞の中へ進み始めてゆく。

 一行は隊列を組んで、それを崩さぬように前進してゆく。
 視界が悪い分、警戒は欠かさない。荷を引く驢馬(ろば)を中心に据え、前後左右、さらに下方にも注意を向けて一歩一歩歩んだ。
「暑くなってきましたね!」
 日差しを遮るよう、マントを改めて羽織り直すのはエルナ・クルプファルツ。ペットのリスの視界も共有し、辺りを見張りつつ――ふと仰ぐと空には眩しい太陽があった。
 朝早くに辿り着き、暫くは涼しい行軍を続けられていた。砂煙も遮光には一役買っていたが……中天の陽光ばかりは流石に防いではくれない。
 ただ、皆の備えも万全だ。
 カルフ・オルヴォも今一度フードを目深にしながら視線を向ける。
「こういう時には、探検を焦るものじゃない。速度を少し落とすぞ。水も、大丈夫か?」
「ええ」
 応えるレティシア・レインフィールは、丁度水袋を皆へ渡している所。戦う前に体力を消費しないよう、つぶさに気を使っていた。
 同時に、周囲に注意を払うのも忘れない。
 研ぎ澄ませる聴覚は、砂風を捉えるばかり。だがどこか遠くから、震動にも似たものが伝わってくるのが判っていた。
「一帯のどこかに、魔物がいるのは確かなようです」
「砂を掘る蜥蜴(とかげ)、だったか」
 カルフも音に意識を集中する。
 微かにだけ聞こえるそれは、彼方で砂を掘る音だろうか。遠方である分、敵の強大さを表す証左にも思えた。
「少なくとも、体力は保っておかないとな」
「あ、砂丘があります! あの陰で休みましょう!」
 エルナが指差すと、皆も頷いて小休止。
 その後も休憩を挟みつつ、確実に歩を進めていった。

 暗夜を焚き火が照らす。
 霞の中を探索して半日、皆は平坦な地で野営を敷いていた。
 食糧に火を通し、調理もして栄養を補給してゆく。バーネットは肉を齧りながら隣のアルフレッドを見やった。
「それ、何だ?」
「調査書みたいなものだよ。個人的なね」
 アルフレッドは言いつつ、砂漠の環境について書き留めている。星の位置を見てマッピングもしていて、既にかなりの距離を歩いた事が把握出来た。
「ここの広さも無限ではないし、明日あたりには魔獣と遭遇してもおかしくないね」
「花も、見つかるでしょうか」
 レイヤは興味の尽きぬ様子で見回している。
 今のところは、何かが生っているとは思われぬ環境だ。
「オアシスのような場所があるのか、それとも、実は植物ではないとか?」
「その辺りもよく判ってはいないようです」
 アロルドはそう返した。
「目撃談もそれらしきものを見たというだけの情報ですから。しっかり観察出来た人はいないでしょう」
「ほんとに幻の花なんだね……」
 呟くララベルは、だからこそどんな花なのかと期待が膨らんで。緑玉のように瞳をきらきらと輝かせる。
「今回は絶対見つけようね!」
 アロルドの新しい一歩の為にも、と。
 にこりと向けられた笑みに、アロルドも頷く。
「ありがとうございます。必ず、見つけたいです」
「実際、長引くほど不利になるからな」
 吹きすさぶ寒風に、カルフはフードを被り直していた。
 物資には限界があり、一帯はいるだけで体力を奪われる環境だ。反して魔獣にとってここはホームだろう。
 彷徨う程、安全に帰還できる確率は下がってゆく。
「――さっさと発見させて貰えるとありがてぇが」

 故にこそ、一行は長々とは立ち止まらない。
 交代で見張りをしつつ夜を明かすと――早朝には行軍再開。気温が上がらぬ内に一帯の中程にまで到達していた。 
 そうして、聞こえ続けていた異音の方向も明瞭になってくると――トゥーリは嗅覚でも異常を察知する。
「何かいるよ! 地中にいて……段々近づいてくるみたい」
「砂霞(すながすみ)、か」
 バーネットは呟いて杖を手にとる。未だ見た目には景色に変化はない。ただそれでも、気配にも似たものは感じた。
「うん――来るよ。皆、準備を!」
 ララベルも探知用エーテルにその存在を捉えて言った。
 それにアロルドも剣を抜いている。
「ここを越えて、花に辿り着こう」
「……」
 その真っ直ぐな瞳を、レティシアは少しだけ見ていた。
 前に進もうとする心。
(アロルド様は、強い方なのですね)
 いや、と思い直す。
 強いのではなく、強く在ろうとしているのだろう。全ては、愛する人の想いを守る為に。
 自身に心を向け、レティシアは目を伏せる。
(……私は、後悔しか残らなかった)
 ――愛しているのならば、彼の手を離すべきだったのに。
 過日の記憶が巡る。
 故にこそ、自身の手を強く握った。
(私は……今度こそ、貴族の務めを果たさなければ)
 越えるべき戦いがあるならば、越える。
 意志を胸に、澄んだ瞳で前を見据える。瞬間、地鳴りを響かせて巨影が現れた。

●異形
 それは大蛇の如くうねり、蜥蜴の如き形を持つ異形だった。
 砂を掘って半身を現した――砂霞。長らく伝えられてきた謂れに違わぬ、強大な威容を誇る魔獣だ。
 こちらの震動を察知して現れたのだろうか、そのまま砂煙を生み出そうとしてくる、が。
「させないよ!」
 先んじて頭部へと接近するのがララベル。高速で宙を駆けながら距離を詰め、細剣を真っ直ぐに突き出していた。
「そこだっ! 疾風三連土竜叩!」
 奔る剣閃が硬い表皮を連続で穿つ。初手から確かな傷を刻み込みながら――ララベルは素早く飛び退き間合いも保った。
 砂霞は鋭い歯音を響かせ、そちらへ視線をやろうとする。けれどそこへ駆けてゆく小さな影が一つ。
 エルナのリスが生み出した分身だ。
 砂霞がそちらに視線を向けると、分身体は即座に霧散する。だが一瞬でも隙が生まれたのなら、それは好機。
 瞬間、エルナが矢に鮮やかなエーテルを纏わせて射撃。霞の中に美しい光の直線を描きながら鮮烈な一撃を与えていた。
「今です!」
「任せて!」
 応えるトゥーリも真っ直ぐに疾駆している。
 エルナの射撃によって敵が微かに惑っている内に――蹄を響かせながら一息に至近へ。走り抜けながら祭刀を奔らせ、鋭利な一閃を加えた。
 同時に声にエーテルを乗せ、皆を勇壮に鼓舞。身体能力を引き上げていくのも忘れない。
 僅かによろめいた砂霞は、一度潜行する素振りを見せる。だがバーネットがそれを見逃すはずもなく。
「させないさ」
 向ける杖から、ばちりと眩い雷光を生み出していた。
 目も眩む程の輝きは、無数の稲妻が弾ける空間となって巨体を閉じ込めてゆく。バーネットはそのまま氷の矢も放って砂霞の鱗を凍らせた。
 苦悶にのたうつ砂霞は、動きが鈍って砂へも容易に潜れない。
 それでも砂の雨をこちらの前衛へ降らせてくるが――衝撃を受けたララベルへは、アルフレッドが杖を翳していた。
「すぐに治すよ」
 瞬間、溢(あふ)れるのは温かな光。
 凝集されたその煌めきが聖なる力を帯びてゆくと、アルフレッドはそれを投射。ララベルの体へ同化させて不調を浄化させてゆく。
「これで後は、体力かな」
「――ええ」
 応えてそっと息を吸うのはレティシア。
 そのまま静やかで美しい聖歌を口ずさみ、白銀に明滅する癒やしの光を生み出した。優しく風に乗ったその輝きは、ララベルに触れて痛みを拭い去ってゆく。
「これで、大丈夫です」
「ありがとう!」
 ララベルが言って返す、その頃にはカルフが槍を手に疾走している。
 砂霞は連撃を狙って砂煙を集め始めているようだったが――カルフはそれよりも疾く至近へ。
「巨大って事は、それだけ隙があるって事だ」
 相手の大振りな動きを縫うように、滑り込んで懐へ辿り着くと――燃えるように発光した槍で一撃。腹下から背へと矛先を貫通させた。
 そのまま砂にも突き刺して、巨体を縫い止める。
「アロルド、やってやれ」
「――はい!」
 頷くアロルドは、そこへ斬撃を見舞う。
 痛みに身じろぐ砂霞を、レイヤもまた逃しはしなかった。
「行きますよ!」
 短杖に魔力を迸らせて、生み出すのは不可視の波動。剛速で奔るそれによって砂霞を蝕んで、能力を減衰させてゆく。
 だけに留まらず、レイヤは連撃。鈍色に瞬くエーテルの塊を撃ち当てて攻撃能力を摩耗させていた。
「このまま一気に攻めていきましょう!」
「うん!」
 溌溂と返すララベルは、既に空中。
 羽が舞うように軽やかに、それでいて放つ攻撃は苛烈に。剣で砂霞の鱗を貫き、風穴を開けてみせる。
 砂上に転げる砂霞へ、エルナも弓弦を引いて狙いを定める。リスに撹乱もさせながら――敵が隙を見せた所へ矢を撃ち込んでいった。
「段々、弱ってきたみたいです!」
「畳み掛けていくよ!」
 トゥーリは砂霞の零距離へ。身じろぐ巨体に怯まず迫り、大振りに薙がせた一刀で脚を斬り飛ばしてゆく。
 砂霞はそれでも抗おうとするが――バーネットが間合いを保った位置から、魔力の光弾を形成していた。 
 敵が目を向けてくる頃には、発射済み。一直線に突き抜ける衝撃で腹部を正確に貫いてゆく。
「――これでもまだか」
「なら、斬り続けるだけだ」
 静かに言ったカルフは大太刀に力を込め、風を逆巻かせていた。瞬間、刃を振り抜くと共に衝撃波を飛ばし、砂霞の脚を更に斬り裂いてゆく。
 砂霞は煙を集めて反撃するが――カルフの受けたダメージは浅い。
 直後にはアルフレッドが対処に回り、振るった杖から清廉な光を投射して――即座に治療してみせた。
「後は頼むよ」
 それに応えてアロルドが剣撃を加えると、レティシアもまた短いメロディを口ずさむ。
 すると流麗な旋律が形をとったように魔力の矢が生まれ――飛翔。砂霞の頭部を貫通していった。
 斃(たお)れゆく巨体に、レイヤは手のひらを翳す。
「これで終わりです!」
 刹那、砂煙を全て吹き飛ばすかのような氷嵐を招来。その巨体を千々に斬り裂いて、砂霞を撃破した。

●花
 上方に見えたのは曇りない青空だった。
「荒れた環境を作り出したというのも、嘘ではなさそうだね」
 周囲を見渡しながら、アルフレッドはペンを走らせる。辺りの霞は消え去っていて、砂漠の景色も遮られず望む事が出来た。
 魔獣の死骸の一部も、回収する。
「大蛇の如く変容した蜥蜴……調べがいがありそうだ」
「何だか、ほとんど竜みたいな敵でしたね……」
 レイヤはぽんぽんと自身の砂埃を払いながら、大きな爪の欠片を見やっていた。
 それから皆で無事を確認し合ったあと、探索を再開する。とはいえ――この環境なら、周りと違うものを発見するのに時間はかからなかった。
「植物が揺れるような音がするよ」
 そう彼方へ目線を向けるのはララベル。風に乗ってさらさらと、快い音色が耳に届くのに気づいている。
 その方向へ歩めば――程なくレティシアが天眼で鮮やかな色彩を捉えた。
「……花が、咲いています」
 高い砂丘に囲まれた平地。
 霞の中では容易に見つけられなかったであろう場所に――それは生えていた。
「わぁ! とっても綺麗です!」
 坂を下りたエルナは、視界に飛び込んだ景色に声音を明るくする。
 満開の花。
 黄土色に満ちた砂漠の中で、幻想的な程の白と薄紅。決して広くはないが、絨毯のように花園を形成していた。
 花弁は仄かだが甘い香りがして、淡い光を帯びている。
「砂に生えてるんだね」
 トゥーリは覗き込んで、感心の声音だ。
 根は浅く、どこかに繋がっている訳ではない。この一帯の砂を栄養にして、長く生きている植物のようだった。
「これが、砂上の花……」
 アロルドは静かに見つめて、「ごめんね。一輪、貰うよ」と、そっと摘み取っていた。
「優しい色の花ですね。彼女も、喜んでくれると思います」
 その表情はどこか寂しげでもある。
 それを見やって、カルフは口を開いた。
「最後の冒険はどうだったよ?」
「……」
「心残りはもう、無くなったか?」
 バーネットも声を継ぐ。目を閉じてから、それでもアロルドは頷いた。
「……ええ」 
 そこあるのは単純な感情ではないだろう。それでも、心の整理はついているようだった。
 カルフは小さく息をつく。
「ブリジット、って言ったな。……てめぇが経験した色んな事を話す姿にも惚れてたなら、新しい人生が「違う生き方してくれ」って事じゃねぇとは思うがな――」
「……そうですね。そうも、考えはしましたが」
 それでも決めた事ですから、とアロルドは笑んだ。
 カルフはそうか、と声を返す。
「ま、どう生きようがてめぇの人生だよ。これまでの事は無くならねぇし、貯めた経験は新しい視点を生む。惚れた奴の記憶も全部、“ここ”からてめぇを作るんだろう」
 言って胸を叩いて。
「頑張れよ」
 今の商売に顔出した時にはちょいとまけてくれよな、と軽く言いながら。
「……ありがとう、ございます」
 アロルドはカルフと皆へ頭を下げる。その瞳は少しだけ、潤んでいた。
 皆は今一度花を眺める。
「キレイだね!」
「ええ! 本当に夢の中みたいな景色です……!」
 トゥーリの言葉に、レイヤも声を華やがせていた。
 夢幻のような美しさを持つ花。
 けれどそれは確かにそこに存在していて……これから始まる未来へ見送ってくれるかのように、穏やかに揺れていた。

マスターコメント

お疲れさまでした。 砂漠の行軍は無事に進み、魔獣も討伐する事が出来ました。目的の花も見つける事が出来、アロルドにとっては何よりの結果となった事でしょう。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:標準8 / 4〜8人

2021年04月08日 16時28分58秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. レティシア・R・クラティアス

    ごきげんよう。私はレティシア・レインフィールと申します。 ヒーラーとして、お役に立てる事が出来ましたら幸いです。 既知の方も、初めてお目にかかる方もよろしくお願い致します。 相談すべき事はいくつかございますが、大まかに分けさせて頂きますと 移動・索敵・戦闘・花の捜索の四点となりますでしょうか? >移動 荷台を引く驢馬にて行軍し、食料などは充分な量を積む事が可能との事。 そうなりますと、いかに疲労を蓄積しないかが重要かと存じます。 定期的な水分補給は勿論、日差しや高温の対策も出来るとよろしいでしょう。 >索敵 私は思い付く事ですと、分担して四方を視覚で確認。あとは音、でしょうか。 穴があった場合は、特に警戒が必要でございましょう。 常に気を張っていては疲労も蓄積するでしょうから 可能であれば交代制に出来ればよろしいですね。 >戦闘 各種のBSをお持ちのようですが、幸い私を含めヒーラーの方が現時点でも三人おりますので 余程の長期戦にならない限りは解除に困る事はございませんね。 ただ、全員が窒息状態からの行動不能となるのを防ぐ為 出来ればヒーラー同士は一定以上の距離(直径1hex以上)を常にとるのがよろしいかと存じます。 >花の捜索 魔獣の撃破後であればそんなに難しい事ではないかもしれませんけれど もし戦場の近くにあった場合は花園を荒らしてしまう可能性がございますから その点だけは要注意でございますね。

  2. レイヤ・ダライ=カホール

    キャスターのレイヤ・ダライ=カホールです。 よろしくお願いしますね。 “砂霞”はなかなかの強敵ですね。 どの攻撃も範囲攻撃なので密集してると危険かも? 地中からの爪泳や落錐は予測が難しそうです。 冒険家アロルドの最後の旅路。なんだか物語の一節みたい。 難しい依頼ですが、砂上の花…ぜひ見つけたいですね!

  3. エルナ・クルプファルツ

    エルヴンシューターのエルナです!皆様よろしくお願いしますね! >移動 砂漠での活動の対策は要りそうですね! 肌を露出しない服装やピュアウォーターなどのスキル、砂丘があるようなのでその影で休む等も必要かもですね! >索敵 道中は野盗さん等への警戒が必要でしょうか! 野営の分担も考える必要がありそうですね! 砂霞さんの縄張りについてからは、かの魔獣さん以外への警戒は不要そうな気もしますね! >戦闘 砂中に潜んだまま放つ短射程の「落錐」「爪泳」 砂上に姿を現して放つ長射程の「砂雨」「濃煙」 の四種のスキルを使い分けて来るようですね! こちらの攻撃機会は長射程攻撃後のみとなるのでしょうか! なるべく上手く長射程攻撃を誘発しつつ、再度潜られる前に速やかに攻撃を集中させる必要がありそうな気がします! レティシアさんも言うように、花園を破壊してしまわないよう戦闘場所も注意でしょうか! 砂上の花……どんな姿なのでしょうね!楽しみです!

  4. バーネット・フォーサイス

    キャスターのバーネット・フォーサイスだ。 まぁ、よろしく頼むわ。 >移動 それなりに長期間の活動になりそうだし、快適度を上げる工夫は必要だな。 砂漠用の装いも必要だろうし、野営用の機材とかも可能なら持ち込みたいところだ。 物資が増えるなら、一纏めにマジカルポケットでして持ち込むのも有りだな。 >索敵 通常時は看破等の知覚系スキルを活用して、砂上の微妙な変化を感じ取りながら 周辺を警戒するのがベターか? >戦闘 一番厄介なのが、通常は地面に潜ってるって所だな。 攻撃して来る時は地上に出てくるそうだし、そのタイミングを狙って集中攻撃を浴びせたり、 移動阻害等で動きを封じる必要があるな。 あとは範囲攻撃対策で分散しつつ、相互に援護し合える程度の距離を維持するって感じか?

  5. カルフ・オルヴォ

    ウォーリアのカルフだ。纏めやアドバイスを活かさせて貰うぞ。 交代で見張りもしよう。 砂霞の発見法は今のところ音しか思いつかんな。 攻撃もBS付きで射程が長いのばかりで厄介だから……一先ず抵抗は上げとくぜ。

  6. レイヤ・ダライ=カホール

    現場は砂漠でも特に乾燥と高温が強い場所ですか。 砂煙の立ち込めた地帯…そのまま戦うには厳しい環境ですね。 戦闘中に水分補給とか難しそうです。 いっそ途中で一夜明かして朝から現場に入ってもいいかもしれませんね。 夜は冷えますが、アレも魔獣とはいえトカゲなら体温が低いうちは多少動きが鈍いかも…。 >索敵 視界も砂煙のせいであんまり遠くまでは見えないので、やっぱり音や振動がメインになりますかね。 多分敵も地中からの攻撃の時は音や振動でこちらの位置を確かめてると思うので、 逆に大きな音や振動があると攪乱とかできたりするかもしれないですね。

  7. トゥーリ

    トゥーリだよ、よろしく! 索敵はまあ……向こうから勝手にやって来そうな気はするかな? どちらかというと奇襲防止とか、探索妨害への備えをしっかりしておいた方がいい気がするんだよね。砂漠って広いし、敵が一体だけ?なら襲撃のタイミングも向こう次第だし。 敵襲の前兆をどうやって逃さないか、に注意するのがいいんじゃないかな! とりあえず魔獣を倒してから砂上の花を探すって流れでいいんだよね……?

  8. カルフ・オルヴォ

    >向こうから勝手にやって来そうな 確かに、砂漠は餌も少ないだろうから 特に何かしなくても荷車の移動音で現れるかもしれんな。 今のところ接近戦し、砂に潜らせない方法を考えてる。 低温動物の可能性もあるな…こうして話を聞いてると具体的に行動が浮かぶので助かるぜ。

  9. レティシア・R・クラティアス

    >移動 砂漠に入られる時は、確かに朝がよろしいかと存じます。 ただ、夜になるまでに遭遇出来るかどうかは運次第でしょうから 念の為、照明以外に可能であればエンライトもあるとよろしいでしょうか? >野営 見張りは交代制として、アロルド様も含めますと 人数的には四人と五人の二班となるのがよろしいでしょうか? >索敵 索敵を行えば奇襲防止にもなりますから、警戒するのに越した事はございません。 そして索敵も交代制にされるのでしたら 野営班と同じ物にするのが一番分かりやすいかと存じます。 >戦闘 基本的な戦法として、バーネット様の案に賛成致します。 音で攪乱する案も興味深いのですけれど スキルのサウンドボマーは戦闘中の使用は困難なのが難点でございますね。 >花の捜索 砂漠の移動中にも捜索は行うとしても 恐らく本格的に捜索が出来ますのは戦闘後となりましょう。 有効そうなスキルですと、幸運の星でございましょうか……?

  10. バーネット・フォーサイス

    >野営 3交代なら人数的に均等になるだろうが……夜間何かあった時の即応性は下がるか。 まぁ、多少休憩に要する時間は増えるかもしれんが、2交代で問題ないと思う。 分担とかは細かく決めなくても、移動中の索敵と休憩時の見張りは2交代で行う、 位のざっくりさで良いんじゃないか?

  11. カルフ・オルヴォ

    MSの判断次第だが、記憶してる限り幸運の星は良いぞ。 これは野営にも関わりそうだから聞くんだが、超聴力を持つ予定の奴は居るか? スキルをバランス感覚(砂地対策)にするか、超聴力かで迷ってる。 全員が持つ必要はなく、見張りの交代メンバーごと1名以上が持つと安定しそうって認識なんで 2-3名が持てば良いと思ってるぜ。 班はおれもざっくりさで、職や所持スキルで手分けMS一任でどうよ? >戦闘 バーネット案で構わん、ただ…弓を持ってねぇんだな。 有効なスキルも無いんで接近戦し、砂霞には槍を1本プレゼント予定だ。 自力で抜けねぇ程度に深く突き挿したままに出来りゃあ、簡単には砂に潜れねぇだろう。 遠距離攻撃の邪魔って事なら安い弓を支度して、突き挿したら離れ、後は撃っとくが、どうよ?

  12. カルフ・オルヴォ

    超聴覚は自分で持つ事にした。連投になってすまんな。

  13. バーネット・フォーサイス

    >個人行動 とりあえず、ピュアウォーターは持ち込んで、道中は水不足にならない様にするつもりだ。 索敵に関しては、看破で砂漠の様子から敵の居場所を探る予定でいる。 戦闘ではアーケインテンペスト改とフリーズボルトで敵を足止めしつつ、 姿を補足できていれば魔弾、居場所があやふやならストーンブラスト2で周辺諸共薙ぎ払う。 あとは、夜間急に照明が必要になった時に備えエンライトは持っていくつもりだ。

  14. エルナ・クルプファルツ

    一先ず索敵と野営関係の必要そうなものをタグっぽくまとめてみました! こんな感じでよければこのままプレイングに記載しようと思いますので、皆さんのプレイング圧縮に活用してもらえれば! 【共通】 ※本タグは以下の3つの内容を示す ・道中は隊列を組んで前後それぞれに索敵役と前衛を置き、中間に荷駄馬や打たれ弱いメンバーを配する。前後左右を分担し警戒。索敵役の捜波を基に戦闘は可能な限り避けて進む。 ・砂霞の出現領域に入ってからは、道中の警戒に下方を加えて奇襲警戒。砂中の移動音や砂上の僅かな動きなどに特に注意を払う。警戒メンバーは半数ずつの2交代で行う ・野営時も道中と同様に半数ずつの2交代で夜間の周囲警戒等の寝ずの番をする。その際、必ず超聴覚を持つ者が一人は警戒に立てるようにする

  15. レティシア・R・クラティアス

    エルナ様、お気遣い感謝致します。 ご活用させて頂いた分、戦闘などに力を尽くさせて頂きますね。 >個人 私は超聴覚と天眼での索敵と 後者は戦闘中、近く花園があった場合の注意喚起の為に利用を想定しております。 基本的に戦闘では回復や状態異常の解除を優先させて頂き 回復が不要な際は攻撃の援護を予定しております。

  16. エルナ・クルプファルツ

    レティシアさんありがとうございます! ではこのまま記載させていただきますね! 索敵は捜波と超聴覚を所持していくのでそちらで、砂中の砂霞さんを発見した際にはリスさんが一日一回だけ使えるエーテル分身を使って、分身を囮に地上に誘き出すようにする予定です! なるべく砂霞さんが私達と反対を向くように誘導するように書いてみたので、上手く行けば先手が取れるかもしれません!

  17. ララベル・サン・ディーベル

    ギリギリまで顔出せなくてごめんね。 僕は、シーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、宜しくね。 僕も捜波と超聴覚で索敵することにするね。

  18. カルフ・オルヴォ

    【共通】使わせて貰ったぞ。 武器でコスト超過で細かい部分をプレで補う形にしたので助かったよ。 接近戦は射線を塞がない様にする事と、貫いた後は離脱と入れた。 後は成るように成れ、だな。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0