秘湯と猛立つクリーパー
広大野人
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シナリオID:704
オープニング
●寂れた秘湯
リーンエス王国の北側、連なる山々の一角に、その秘湯はあった。
なんでも、「名もなき剣士」が戦いの傷を癒した温泉だとかなんとか……眉唾だろうけど。
ただ、その秘湯の所有者は王家に連なるとある侯爵家のものであるので、完全なホラ話でもないかもしれない。
山奥に位置する為、人里があるのは、そこから街道を通って山を下った所にある小さな村だ。
村を治めているのは、秘湯の所有者とは別の貴族――所謂、貴族派に属する者だ。もっとも、治めているといっても飛び地な為、村には月に一度ほど、貴族の使いがやってくる程度のものだが。
その貴族の使いを村人らは毛嫌いしていた。
偉そうにやってきては税と称して村から搾取を続けているからだ。
「今月はこれだけか。最近、怠けてるだろう」
「天候不順でして……」
「貴様らはいつもそれだ。この事は御当主様に言いつける。覚悟しておけ」
ぶっきらぼうに告げて立ち去ろうとする貴族の使者を村長が止めた。
「じ、実は秘湯に続く街道にクリーパーが出没しまして……その関係で村に立ち寄る客も来なくなり……」
「だから、どうしろと?」
「ご討伐をお願いしたく……」
その台詞に使者はかったるそうに村長を指差した。
「いいか、村を治めているのは御当主様だ。だが、秘湯は別だ。こっちは忙しく、一人の兵士もだせん」
「は、はぁ……」
機嫌悪く立ち去る使者の後ろ姿を見つめながら、村長は言い知れぬ不安を覚えていた。
嫌な予感は的中するものだ。
村長は馬車を乗り継ぎ、秘湯の所有者である、とある侯爵家へと出向いた。
取り次いだ執事に状況を伝え、討伐をお願いしたのだが……。
「確かに、侯爵家が秘湯を所有している。しかし、街道の管轄は別だ。それより、今月分の使用料は貰っていないぞ」
「今月はクリーパーのせいで全く客が来ず……」
「それは使用している君らの運営が下手糞なだけだろう。こっちは由緒正しき秘湯を貸してやっているのだ。必要な対価は支払ってもらおうか」
「そ、そんなぁ……」
とぼとぼと侯爵家の屋敷を出る村長。
吹き抜けた冷たい風が、抜け落ちてしまった頭を撫で、思わず身震いした。
「いったいどうすればいいのだ……」
御当主も侯爵家も、問題を解決しようとする気がない。
しかし、このままだと村は困窮してしまう。一刻も早く秘湯に続く街道に出没したクリーパーを討伐してもらわないといけない。
「……自分達で解決するしかないか」
相手はクリーパーだ。一般人でどうこうできるレベルではないのは村長がよく知っている。
けれど、選べる手段が限られている以上、全く試さないという訳にはいかないのだ。
●猛立つクリーパー
数名の村人が恐る恐る街道を進む。
「この辺りのはずだ……」
「やっぱり、俺らじゃ無理だって」
「でもよ、もし、一体だけならやれるんじゃねぇか?」
「馬鹿言うなよ」
周囲を警戒しながら一歩一歩確かめる。
一瞬の油断が命取りだ。その時、猟師のダーチが目を凝らした。街道から外れた所に、一頭の鹿がいたからだ。
「おい、あの鹿、獲っていこうぜ」
「どうみても、ダメだろう。クリーパーに見つかるぞ」
「そうだけどさ、あんなに無防備で……狙ってくれっていってるようなものだし」
ダーチは素早く矢を番えた。
きっと大丈夫。そう自分に言い聞かせ、意識を集中させる。そして、矢を放つ瞬間だった。
ヴヴヴヴヴヴ!
何かが振動するような音が聞こえ、僅かに手元が狂ってしまった。
猟師が放った矢は鹿の尻にブスっと刺さる。当然、致命傷ではない。慌てて逃げ出す鹿。
「お、おい、アレ!」
村人の一人が大きく叫んだ。
巨大なミミズのようなクリーパーが、土の中から突然現れたのだ。数は3体。鹿を囲んでいる。
「で、でたぁ!」
「クリーパーも鹿を狙っていたのか!」
出現したミミズのようなクリーパーは先端からべとべとするような液体を巻き散らす。
それを浴びた鹿は途端に動きが悪くなる。
べとべとした上にぬるぬるしているようだ。4本脚の鹿ですらも動き難くなるのだから、人が受けたら大変な事になるだろう。
「に、逃げるぞ!」
村人らは一斉に駆け出した。
背後から鹿の悲痛な鳴き声と骨が砕ける音が響いてきたのであった。
リーンエス王国の北側、連なる山々の一角に、その秘湯はあった。
なんでも、「名もなき剣士」が戦いの傷を癒した温泉だとかなんとか……眉唾だろうけど。
ただ、その秘湯の所有者は王家に連なるとある侯爵家のものであるので、完全なホラ話でもないかもしれない。
山奥に位置する為、人里があるのは、そこから街道を通って山を下った所にある小さな村だ。
村を治めているのは、秘湯の所有者とは別の貴族――所謂、貴族派に属する者だ。もっとも、治めているといっても飛び地な為、村には月に一度ほど、貴族の使いがやってくる程度のものだが。
その貴族の使いを村人らは毛嫌いしていた。
偉そうにやってきては税と称して村から搾取を続けているからだ。
「今月はこれだけか。最近、怠けてるだろう」
「天候不順でして……」
「貴様らはいつもそれだ。この事は御当主様に言いつける。覚悟しておけ」
ぶっきらぼうに告げて立ち去ろうとする貴族の使者を村長が止めた。
「じ、実は秘湯に続く街道にクリーパーが出没しまして……その関係で村に立ち寄る客も来なくなり……」
「だから、どうしろと?」
「ご討伐をお願いしたく……」
その台詞に使者はかったるそうに村長を指差した。
「いいか、村を治めているのは御当主様だ。だが、秘湯は別だ。こっちは忙しく、一人の兵士もだせん」
「は、はぁ……」
機嫌悪く立ち去る使者の後ろ姿を見つめながら、村長は言い知れぬ不安を覚えていた。
嫌な予感は的中するものだ。
村長は馬車を乗り継ぎ、秘湯の所有者である、とある侯爵家へと出向いた。
取り次いだ執事に状況を伝え、討伐をお願いしたのだが……。
「確かに、侯爵家が秘湯を所有している。しかし、街道の管轄は別だ。それより、今月分の使用料は貰っていないぞ」
「今月はクリーパーのせいで全く客が来ず……」
「それは使用している君らの運営が下手糞なだけだろう。こっちは由緒正しき秘湯を貸してやっているのだ。必要な対価は支払ってもらおうか」
「そ、そんなぁ……」
とぼとぼと侯爵家の屋敷を出る村長。
吹き抜けた冷たい風が、抜け落ちてしまった頭を撫で、思わず身震いした。
「いったいどうすればいいのだ……」
御当主も侯爵家も、問題を解決しようとする気がない。
しかし、このままだと村は困窮してしまう。一刻も早く秘湯に続く街道に出没したクリーパーを討伐してもらわないといけない。
「……自分達で解決するしかないか」
相手はクリーパーだ。一般人でどうこうできるレベルではないのは村長がよく知っている。
けれど、選べる手段が限られている以上、全く試さないという訳にはいかないのだ。
●猛立つクリーパー
数名の村人が恐る恐る街道を進む。
「この辺りのはずだ……」
「やっぱり、俺らじゃ無理だって」
「でもよ、もし、一体だけならやれるんじゃねぇか?」
「馬鹿言うなよ」
周囲を警戒しながら一歩一歩確かめる。
一瞬の油断が命取りだ。その時、猟師のダーチが目を凝らした。街道から外れた所に、一頭の鹿がいたからだ。
「おい、あの鹿、獲っていこうぜ」
「どうみても、ダメだろう。クリーパーに見つかるぞ」
「そうだけどさ、あんなに無防備で……狙ってくれっていってるようなものだし」
ダーチは素早く矢を番えた。
きっと大丈夫。そう自分に言い聞かせ、意識を集中させる。そして、矢を放つ瞬間だった。
ヴヴヴヴヴヴ!
何かが振動するような音が聞こえ、僅かに手元が狂ってしまった。
猟師が放った矢は鹿の尻にブスっと刺さる。当然、致命傷ではない。慌てて逃げ出す鹿。
「お、おい、アレ!」
村人の一人が大きく叫んだ。
巨大なミミズのようなクリーパーが、土の中から突然現れたのだ。数は3体。鹿を囲んでいる。
「で、でたぁ!」
「クリーパーも鹿を狙っていたのか!」
出現したミミズのようなクリーパーは先端からべとべとするような液体を巻き散らす。
それを浴びた鹿は途端に動きが悪くなる。
べとべとした上にぬるぬるしているようだ。4本脚の鹿ですらも動き難くなるのだから、人が受けたら大変な事になるだろう。
「に、逃げるぞ!」
村人らは一斉に駆け出した。
背後から鹿の悲痛な鳴き声と骨が砕ける音が響いてきたのであった。
解説
冒険者の皆様、こんにちわ。受付嬢のアーネリーです。
それでは私から依頼の詳細について説明致します。
(……そこから資料を取り出すのに、そこそこ時間を要する)
えと……依頼の主目的は『街道に出現したクリーパーの討伐』となります。
確認されている数は3体です。隠れている敵がいるかどうかは不明です。
村人からの話を基に描いてみましたが……姿は大きいミミズだそうで……。
(大地から猛立つクリーパーが描かれた資料を取り出す)
『大きさは人と同じ程。頭頂部からべとべとする液体のようなものを巻き散らす』
『液体を浴びると行動に支障が出てしまう様子』
『攻撃方法はぶっとい身体での叩きつけ』
それにしても気持ちの悪いクリーパーです。冒険者の皆様には、ぜひともサクっと討伐して頂きたいと思います。
とは言っても、戦場の事は私もよく分かりませんので、色々なアクシデントもあるかもしれません。
この依頼に関しては、『色々なアクシデント』が発生しても、それを許容できる冒険者の方に限っての参加を推奨致します。
え? ……ぐ、具体的には、ど、どんな話になるかと? えーと……その……。
(咄嗟に胸元を両腕で覆って身体の向きを正面から外した)
そんな事、言えるわけないじゃないですか!
とにかく、身体中がべとべとぬるぬるになってしまったり、仲間と不本意なぶつかり方をしてしまったり、転んであられもない姿勢になってしまってお嫁にいけない状況になっても、こちらでは責任を取りませんので。
(不満そうな表情を浮かべたまま、別の資料を取り出す)
なお、依頼主である村長のご厚意で戦闘後に秘湯に入れます。
というか、むしろ、入ってからギルドに帰ってきてください。他の方の迷惑になりますから。
一応、混浴との事で、水着着用です。これについての理由は私からは言えません。強制です。そんなものなのだと割り切って下さい。
それでは、依頼の詳細は以上になります。
皆様の冒険が大成功しますように!(パンッと手を叩いた)
マスターより
どうも、広大野人です。そうです、3作目でとんでもない依頼を出すような広大野人です。
いや、とんでもなくはないですよね。クリーパーと戦って、温泉に入ってくるだけですから。なので、コメディ依頼ではありません。補足になりますが、依頼に至った経緯を冒険者は知り得ていて問題はありません。
ただし、アーネリーが心配するような『色々なアクシデント』があり得るかもしれないので、貴方様の大事なキャラクターがあんな事やこんな事になっても構わないですー(むしろ大歓迎ですー)みたいな人の参加を推奨します。
また、『色々なアクシデント』には遭いたくないけど、クリーパーぶっ殺したい、困っている村人を助けてあげたいという純粋無垢な人は、プレイングでその旨をご明記下さい。
リプレイ
●
極太蚯蚓が出現地となっている場所に到着した一行。
敵の姿は見えなかった。目撃者の話から推察するに地中に潜っているのだろう。
「でっかいミミズのクリーパーか。身体を地上に出して来た時を狙うしかないな」
キリクの台詞に、ララベル・サン・ディーベルも深く頷いた。
「地中から不意打ちを仕掛けてくるかもしれない。気をつけないと」
「極太蚯蚓がこちらの歩いた振動を元に位置を把握しているのなら、少しやりようがあるが……」
「僕はエーテルを使って探してみるよ」
敵を地表に誘き出すか探し出して倒す。やるべき事が決まっている以上、まずは効率良く敵を見つけ出す事が大事だろう。
そんな訳で一行は街道を境に二手に分かれるのであった。
忍賊には探知用のエーテルの波動を放つスキルがある。
所謂、【探波】。指定範囲内の地形・構造物の構造の情報を取得するのだ。極太蚯蚓が人並みの大きさであれば、地中に不思議な空間が発生するはず。
「ふしぎ亭の仲間達であるのアリエッタ、イル達と一緒に、極太蚯蚓をやっつけて、村と秘湯の平和を守るよ!」
気合を入れるララベルの脳裏には戦いの後の秘湯が浮かんでいた。
ふと、アリエッタとイルの二人と一緒に湯に浸かる事になるのか――と思い至り、頬が熱くなる。
「なかなか見つからないな」
「あ、あぁ! ソウダネー」
突然、イルに話し掛けられ、想像していた事が覗かれたような気分になり、慌てるララベル。
胸に手を当てて深呼吸。大丈夫、この世界にラキスケの神様なんか、きっといるはずが無いのだから。
「ララベルがそっちなら、あたしはこっちだね」
少し離れた場所でアリエッタがブンブンと手を振っている。
それに応じるようにララベルも手を挙げようとした直後だった。
ヴヴヴヴヴヴ!
何かが振動する音が響き――。
「アリエッタ!」
ララベルの警戒の声が後少し遅れていたら、致命傷を受けていたかもしれない。
地中から飛び出すように極太蚯蚓が出現したのだ。【探波】に当たらなかったのは、恐らく、隠匿的な能力があったのだろう。
「うへぇ……気持ち悪いぃ……」
「……こんなの相手にしなければ……なんてね……」
極太蚯蚓の姿に乙女二人が、明らかに嫌そうな表情で言い放つ。
低い腰だめで相手の動きを見計らいながら同じ場に留まらないように接近するアリエッタ。
「あたしの動きは疾風! 捉えられないよ!」
避けるのは得意だし、負けるつもりもない。
そんな彼女の気持ちを極太蚯蚓が感じ取ったかどうかは分からないが、応じるように、奇妙な上下運動を繰り出した。
「「「あっ!」」」
3人の言葉が重なる。極太蚯蚓の頭頂から、液体のようなものが溢れだしのだ。
それは雨のように容赦なく降り注ぐ。避けられるというレベルの話ではないようだ。
極太蚯蚓に一番近いアリエッタをフォローする為に踏み出していたララベルがべとべとぬるぬるする液体に足を滑らせ――彼はハーフビーストの仲間を押し倒すように地面に転がる。
「ひゃぁぁぁぁぁ!」
まるで天にまで届くのではないかという程、甲高いアリエッタの悲鳴。
転んだ事、押し倒された事、なによりも、内心、最近かっこいいなーと意識し始めた相手からの積極的なアプローチ(?)に悲鳴が出ない訳がない……といっても、こんな状況はまだ望んでいないのも確かで……まだ?
「はわわわ……ごっ、ごめん!」
一方のララベルは彼女よりも顔を真っ赤にしていた。
戦闘中に仲間に襲い掛かるゲス……なんて噂になったりしたら大変だ。
二人の惨事にイルが一人で極太蚯蚓と対峙する。敵の注意を引いていないと危険だと判断したからだ。
ぶんぶんと頭先を振りながら液体を降り注ぎ続ける存在に、イルは珍しく怯えた乙女のような声を挙げる。
「な、なんで、こんなの」
けれど、すぐに表情を硬く締める。
大丈夫……か弱い乙女姿なぞ、見られてはいない……仲間の二人以外には。
「イルからそんな可愛い声が出るなんて!」
「僕がイルも守るから!」
「私をそんな目で見ないで……というか、二人でじゃれ合っている場合ではないのよ」
どうやら、極太蚯蚓は液体を振りまくのに夢中になっているようで、隙を見てイルが駆け寄る。
全身ぬるぬるになってしまって立ち上がりが遅れている二人を助けるつもりなのだが……ララベルが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「来ちゃダメだって!」
「あ! あぁぁぁ!」
お約束というのはこういう事なのだろう。気持ち悪い液体に足を滑らせ、正面からララベルに突っ込むイル。
転がる事を承知の上で受け止めたララベル。見事な根性ではある……イルの服を引っ張っていなければ。
「イル! はだけちゃってるよ!」
液体で服が溶けないだけマシだが、乙女らしい肌が露わになる。
「ちょっと、ベル! こっち見ないでよね!」
「事故、事故だから! って、極太蚯蚓が、こっちに!!」
足場は超絶不安定。前後を仲間の柔肌に挟まれた状態で絶体絶命のピンチ。
覚悟を決めてララベルは両手を伸ばす。すぐに姿勢を固定して迎撃しなければいけないからだ。手を伸ばした先が胸と尻だったのは仕方ない……という事にしておこう。裏山。
「これ以上は、やらせない! 喰らえ、疾風三連突!」
ある意味、既にやられちゃってるアリエッタとイルだが、二人の悲鳴を置いて、ララベルは宙を疾走した。
疾風足とエアーライド。躰を捻りながら鞘から二本の細剣を抜きつつ、極太蚯蚓をすれ違いざまに切り捨てた。
ララベルらが戦い始めた頃、街道を挟んで反対側でも戦いが繰り広げられていた。
手ごろな大きさの岩の上に登り、多数の石を転がして敵を誘き出したのだ。姿を現した所で集中攻撃。液体を振りまかれるよりも早く1体を葬った。
「受付嬢は何をやけに気にしていたのでしょう……クリーパー退治で思わぬ危険が発生するとか、よくあることのような気がするのですが」
セツリが淡々と告げつつ、槍先をブンっと振った。
冒険が危険なものである以上、心配されるのはありがたい話ではあるが。
「『そそり立つ、ぶっとい体をぶつけてくる』……あー、受付さんが何か変な様子だった理由に納得しました」
衝撃波を飛ばして集中攻撃に参加したエルファリアが大太刀を肩に乗せて近づきながら言葉を続ける。
「クリーパー相手に想像力豊かですね」
「聞いていた通り、ずいぶん逞しい、雄々しいと言ってもいい姿ですが……怖気づくわけにはいきません」
頷きながらセツリは応えると周囲を警戒する。
ララベル達が引き付けている1体。先ほど1体倒しているので、残りはあと1体……他に隠れていなければ。
「今の戦闘で敵も気が付いたはず……」
慎重に辺りを警戒して気配を探るキリク。
岩の上に戻ろうと足を進めた時だった。背後からの妙な殺気に身体が考えるより先に反応する。
「うしろっ!?」
振り向きつつ矢を番えたのは流石というべきだろう。
しかし、それよりも早く極太蚯蚓は地表に出現しつつ、例のとんでもない液体を散らしていた。
それを弾け飛ばすようにエルファリアが衝撃波を放ったが、全てを吹き飛ばすには無理があった。結果的には、キリクが液体まみれになるだけだった。
「申し訳ないです」
悪意がある訳ではなかったので素直に謝りつつ、駆け寄るエルファリア。
「大丈夫だ。それより、走ると!」
「――っあ」
気が付いた時には、べとべとぬるぬるするとんでもない液体に足を滑らせてしまっていた。
何度か姿勢を戻そうとしてその度に豊満な胸が淫らに揺れ――ブンっと大太刀がキリクの首筋の横を掠めて落ちたのは、不幸中の幸いだっただろう。
もつれるようにぶつかるエルファリアとキリク。どういう事情でそうなったのか分からないが、何故かキリクの上衣が剥かれている。華奢な身体ながらも年相応な男の子な躰だ。
そして、目を丸くしている彼の手は、エルファリアの柔らかい所をモロに力強く握っていた。これがラキスケか。
と言っても、エルファリアは気にした素振りを見せなかった。むしろ、キリクの方が変な声が出そうだったのを堪える。
「……え、と……」
「……立ち直るの優先しません?」
ここは互い深く考えず、波風立てないのが無難だと瞬時に理解した。
これは依頼中の事故みたいなものなのだから、わざわざラキスケに触れない程度が、互いに平和というもの。
追い打ちを掛けるように極太蚯蚓がぬるぬる状態のままぶっとい胴体で体当たりを仕掛けてくる。ご丁寧に頭頂部から液体を垂れ流しながら。
「危ない!」
くるんと滑りながら位置を入れ替えたキリクが敵の攻撃を受けた。直前、セツリから防御力が上がる術が届いた事で、大したダメージにならずに済む。しかし、受け止めた極太蚯蚓の胴体はぬるんと抜けて離れていった。一連の攻防で彼の全身はもはや液体まみれだ。
この広い世界には、彼みたいな美少年があんな事そんな事になるのがお好きな人もいるらしいので、物書きや絵描きがこの場に居たとすれば、きっと良い題材にはなったと狂気しているだろう。
結果的に極太蚯蚓が離れた為、間合いが広がった事になり、セツリは攻撃を受けたキリクに寄って傷を確認しようと手を伸ばした。
「気がついていない傷がないか、ちゃんと確認しないと」
「ズボンは下げなくても――」
セツリにそんなつもりは無かったがぬるぬるしていて定まらない動きに、キリクが抵抗しようと手を突き出したが……。
その手が自分の服を掴む前にセツリの上着を引っ張ってしまい、摩擦係数が限りなく低くなっている状態もあわさって、スルンと抜けポヨンと出る。何がとは言わないが。
「私は怪我していませんよ。それより、大丈夫ですか?」
「……だ、大丈夫。だが、別の意味で色々と大丈夫ではない」
主に自分の今後の社会的立場の保持について……だ。
「本当に大丈夫なのでしょうか?」
守られたエルファリアも心配する。当然の事ながら、社会的立場の事ではない。
体格差があるからか、傍目からは、お姉さん二人に身体中を確認されるショタ……にしか見えない状況。これがオネショタか。どうしてこうなった。
「それより、敵を」
「あ……そういうのは倒した後でも、ですか。確かにそうです」
なにか変に捉えたセツリだが、いちいち、指摘している場合でもない。
3人は互いに支え合いながら立ち上がった。人とは支え合って生きていく生き物。揃ってぬるぬるてかてかなのが、さまになっていないが。
「次で決める」
頭頂部から怪しげな液体をまき散らしながら再度攻撃してくる極太蚯蚓に武器を構える冒険者達。
一気に決着をつける……そう強く決意しながら――。
●
無事(?)に極太蚯蚓を殲滅し、一行は秘湯に到着していた。
ここで体を綺麗にしてから帰還するまでが今回の依頼内容だ。
「混浴? 男女別々にすればいいじゃない……というかしなさいよ」
嫌な予感をしつつ湯の中に沈むイル。秘湯と呼ばれるだけあって濃厚な褐色は、見た目重視のビキニを隠してしまう。それはそれで解せないものがある。
「水着、似合っていると思うよ」
「……見ていたとか油断できないな」
褒められた事で急に恥ずかしくなるが、そこは強引に誤魔化す。
「いや、だって、ほら……ね、アリエッタ」
救いを求めるようにララベルは視線をアリエッタに向けた。
彼女は湯一点を見つめ、カッコよかったな~とか何やら呟いていて、人の話を聞いていない。
「さてはアリエッタの姿もジロジロと見ていたのね」
イルがサッとララベルとアリエッタの間に割って入った。
弁解するように大袈裟な手ぶりでアピールするララベル。ふと――以前、別の温泉の時を思い出していた。
「そ、そうではなくて!」
彼の慌てぶりにようやくしてアリエッタが我に返る。今日の良い出来事を頭の中で反芻していたのだ。
なぜか庇われている状況に、イルの脇からぴょんと顔を出す。
「どしたの? カゼ?」
顔が真っ赤なララベルに心配して、スーと近寄ると額を合わせた。
額は特段、熱いというのもではなかった。というか入浴中だし分からないだろう。
近すぎて目の行き場のないララベルが不審者のようにぐるぐると視線を回す。
「……あ、もしかしてエッチな事考えていたんじゃない? いやらしいんだから」
「健全な男子とはそういうものよ」
アリエッタを後ろから守るようにイルが抱き締める。
「だから――」
なんとか誤解を解こうとしたララベルだったが、湯の中が見えない事もあって底に付いた手を滑らせてしまい、派手に転がる。
当然の事ながら、二人巻き込んだのは言うまでもない事だった。
バシャンと湯がはじける大きな音と悲鳴のような仲間の声に、気をつけようと心の中で強く決意したキリクは顎まで浸かるように沈む。
その横に並ぶようにセツリとエルファリアが湯の中に入ってきた。
「とても良いお湯で、戦いの後に入れる事は、ありがたいお話です」
「水着は勿体ないですが」
美女二人の言葉に心の中で同意しつつ、油断するとラキスケの神が降臨しそうだったので、気をつけながらキリクは台詞を選んだ。
「クリーパーを退治した事で客足が戻るといいが」
「これだけ良いお湯なのに、クリーパーのせいで人の姿が無いのは勿体ない」
持ち上げた手から零れ落ちる温泉の湯は肌にしっとりと残る。
詳しく分からないが名湯でもあるのだろう。秘湯の伝説は意外と嘘ではないのかもしれない。
セツリの意見にエルファリアもコクンコクンと同意する。
「領主さんも侯爵さんも、偉いのはそうなんでしょうが、偉そうぶるなら相応の仕事はしてほしいですね」
「今後もクリーパーがでないとは限らない……か」
「……例えば『領主や侯爵が手をこまねいていたクリーパーは退治された』なんて話を、広めてみても良いかもしれませんね」
フフっと笑い顔を浮かべながら言ったセツリに、エルファリアはパンと手を叩いた。
「領主も侯爵も自分の土地に出たクリーパーに手も足も出なかった……みたいな噂が流れちゃったら節約分以上の損になりますよね。そこを上手く使えば、私達の依頼費用の負担、何とかなるかもしれませんね」
「なるほど、交渉の余地はありそうだ」
王国内の政治争いは主に王家側と貴族側に二分されている。村が上手く立ち回る必要があるだろう。要はこれからも問題が発生した際にすぐ解決できる体制になれば、村としては問題はないのだから。
「それでは後程、村長にお伝えして一件落着ですね」
安心した表情を浮かべるエルファリアに、ハッと思い出したセツリが手をにぎにぎとする。
「そういえば、お二人の傷の確認が残っています」
「僕は……大丈夫だ」
これ以上、事故とはいえ何かやりかしたら、後で恩人になんて言われるかせ。
ジリジリと下がったが、段差に気が付かずバランスを崩して湯の中に頭から沈むキリクであった。
極太蚯蚓が出現地となっている場所に到着した一行。
敵の姿は見えなかった。目撃者の話から推察するに地中に潜っているのだろう。
「でっかいミミズのクリーパーか。身体を地上に出して来た時を狙うしかないな」
キリクの台詞に、ララベル・サン・ディーベルも深く頷いた。
「地中から不意打ちを仕掛けてくるかもしれない。気をつけないと」
「極太蚯蚓がこちらの歩いた振動を元に位置を把握しているのなら、少しやりようがあるが……」
「僕はエーテルを使って探してみるよ」
敵を地表に誘き出すか探し出して倒す。やるべき事が決まっている以上、まずは効率良く敵を見つけ出す事が大事だろう。
そんな訳で一行は街道を境に二手に分かれるのであった。
忍賊には探知用のエーテルの波動を放つスキルがある。
所謂、【探波】。指定範囲内の地形・構造物の構造の情報を取得するのだ。極太蚯蚓が人並みの大きさであれば、地中に不思議な空間が発生するはず。
「ふしぎ亭の仲間達であるのアリエッタ、イル達と一緒に、極太蚯蚓をやっつけて、村と秘湯の平和を守るよ!」
気合を入れるララベルの脳裏には戦いの後の秘湯が浮かんでいた。
ふと、アリエッタとイルの二人と一緒に湯に浸かる事になるのか――と思い至り、頬が熱くなる。
「なかなか見つからないな」
「あ、あぁ! ソウダネー」
突然、イルに話し掛けられ、想像していた事が覗かれたような気分になり、慌てるララベル。
胸に手を当てて深呼吸。大丈夫、この世界にラキスケの神様なんか、きっといるはずが無いのだから。
「ララベルがそっちなら、あたしはこっちだね」
少し離れた場所でアリエッタがブンブンと手を振っている。
それに応じるようにララベルも手を挙げようとした直後だった。
ヴヴヴヴヴヴ!
何かが振動する音が響き――。
「アリエッタ!」
ララベルの警戒の声が後少し遅れていたら、致命傷を受けていたかもしれない。
地中から飛び出すように極太蚯蚓が出現したのだ。【探波】に当たらなかったのは、恐らく、隠匿的な能力があったのだろう。
「うへぇ……気持ち悪いぃ……」
「……こんなの相手にしなければ……なんてね……」
極太蚯蚓の姿に乙女二人が、明らかに嫌そうな表情で言い放つ。
低い腰だめで相手の動きを見計らいながら同じ場に留まらないように接近するアリエッタ。
「あたしの動きは疾風! 捉えられないよ!」
避けるのは得意だし、負けるつもりもない。
そんな彼女の気持ちを極太蚯蚓が感じ取ったかどうかは分からないが、応じるように、奇妙な上下運動を繰り出した。
「「「あっ!」」」
3人の言葉が重なる。極太蚯蚓の頭頂から、液体のようなものが溢れだしのだ。
それは雨のように容赦なく降り注ぐ。避けられるというレベルの話ではないようだ。
極太蚯蚓に一番近いアリエッタをフォローする為に踏み出していたララベルがべとべとぬるぬるする液体に足を滑らせ――彼はハーフビーストの仲間を押し倒すように地面に転がる。
「ひゃぁぁぁぁぁ!」
まるで天にまで届くのではないかという程、甲高いアリエッタの悲鳴。
転んだ事、押し倒された事、なによりも、内心、最近かっこいいなーと意識し始めた相手からの積極的なアプローチ(?)に悲鳴が出ない訳がない……といっても、こんな状況はまだ望んでいないのも確かで……まだ?
「はわわわ……ごっ、ごめん!」
一方のララベルは彼女よりも顔を真っ赤にしていた。
戦闘中に仲間に襲い掛かるゲス……なんて噂になったりしたら大変だ。
二人の惨事にイルが一人で極太蚯蚓と対峙する。敵の注意を引いていないと危険だと判断したからだ。
ぶんぶんと頭先を振りながら液体を降り注ぎ続ける存在に、イルは珍しく怯えた乙女のような声を挙げる。
「な、なんで、こんなの」
けれど、すぐに表情を硬く締める。
大丈夫……か弱い乙女姿なぞ、見られてはいない……仲間の二人以外には。
「イルからそんな可愛い声が出るなんて!」
「僕がイルも守るから!」
「私をそんな目で見ないで……というか、二人でじゃれ合っている場合ではないのよ」
どうやら、極太蚯蚓は液体を振りまくのに夢中になっているようで、隙を見てイルが駆け寄る。
全身ぬるぬるになってしまって立ち上がりが遅れている二人を助けるつもりなのだが……ララベルが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「来ちゃダメだって!」
「あ! あぁぁぁ!」
お約束というのはこういう事なのだろう。気持ち悪い液体に足を滑らせ、正面からララベルに突っ込むイル。
転がる事を承知の上で受け止めたララベル。見事な根性ではある……イルの服を引っ張っていなければ。
「イル! はだけちゃってるよ!」
液体で服が溶けないだけマシだが、乙女らしい肌が露わになる。
「ちょっと、ベル! こっち見ないでよね!」
「事故、事故だから! って、極太蚯蚓が、こっちに!!」
足場は超絶不安定。前後を仲間の柔肌に挟まれた状態で絶体絶命のピンチ。
覚悟を決めてララベルは両手を伸ばす。すぐに姿勢を固定して迎撃しなければいけないからだ。手を伸ばした先が胸と尻だったのは仕方ない……という事にしておこう。裏山。
「これ以上は、やらせない! 喰らえ、疾風三連突!」
ある意味、既にやられちゃってるアリエッタとイルだが、二人の悲鳴を置いて、ララベルは宙を疾走した。
疾風足とエアーライド。躰を捻りながら鞘から二本の細剣を抜きつつ、極太蚯蚓をすれ違いざまに切り捨てた。
ララベルらが戦い始めた頃、街道を挟んで反対側でも戦いが繰り広げられていた。
手ごろな大きさの岩の上に登り、多数の石を転がして敵を誘き出したのだ。姿を現した所で集中攻撃。液体を振りまかれるよりも早く1体を葬った。
「受付嬢は何をやけに気にしていたのでしょう……クリーパー退治で思わぬ危険が発生するとか、よくあることのような気がするのですが」
セツリが淡々と告げつつ、槍先をブンっと振った。
冒険が危険なものである以上、心配されるのはありがたい話ではあるが。
「『そそり立つ、ぶっとい体をぶつけてくる』……あー、受付さんが何か変な様子だった理由に納得しました」
衝撃波を飛ばして集中攻撃に参加したエルファリアが大太刀を肩に乗せて近づきながら言葉を続ける。
「クリーパー相手に想像力豊かですね」
「聞いていた通り、ずいぶん逞しい、雄々しいと言ってもいい姿ですが……怖気づくわけにはいきません」
頷きながらセツリは応えると周囲を警戒する。
ララベル達が引き付けている1体。先ほど1体倒しているので、残りはあと1体……他に隠れていなければ。
「今の戦闘で敵も気が付いたはず……」
慎重に辺りを警戒して気配を探るキリク。
岩の上に戻ろうと足を進めた時だった。背後からの妙な殺気に身体が考えるより先に反応する。
「うしろっ!?」
振り向きつつ矢を番えたのは流石というべきだろう。
しかし、それよりも早く極太蚯蚓は地表に出現しつつ、例のとんでもない液体を散らしていた。
それを弾け飛ばすようにエルファリアが衝撃波を放ったが、全てを吹き飛ばすには無理があった。結果的には、キリクが液体まみれになるだけだった。
「申し訳ないです」
悪意がある訳ではなかったので素直に謝りつつ、駆け寄るエルファリア。
「大丈夫だ。それより、走ると!」
「――っあ」
気が付いた時には、べとべとぬるぬるするとんでもない液体に足を滑らせてしまっていた。
何度か姿勢を戻そうとしてその度に豊満な胸が淫らに揺れ――ブンっと大太刀がキリクの首筋の横を掠めて落ちたのは、不幸中の幸いだっただろう。
もつれるようにぶつかるエルファリアとキリク。どういう事情でそうなったのか分からないが、何故かキリクの上衣が剥かれている。華奢な身体ながらも年相応な男の子な躰だ。
そして、目を丸くしている彼の手は、エルファリアの柔らかい所をモロに力強く握っていた。これがラキスケか。
と言っても、エルファリアは気にした素振りを見せなかった。むしろ、キリクの方が変な声が出そうだったのを堪える。
「……え、と……」
「……立ち直るの優先しません?」
ここは互い深く考えず、波風立てないのが無難だと瞬時に理解した。
これは依頼中の事故みたいなものなのだから、わざわざラキスケに触れない程度が、互いに平和というもの。
追い打ちを掛けるように極太蚯蚓がぬるぬる状態のままぶっとい胴体で体当たりを仕掛けてくる。ご丁寧に頭頂部から液体を垂れ流しながら。
「危ない!」
くるんと滑りながら位置を入れ替えたキリクが敵の攻撃を受けた。直前、セツリから防御力が上がる術が届いた事で、大したダメージにならずに済む。しかし、受け止めた極太蚯蚓の胴体はぬるんと抜けて離れていった。一連の攻防で彼の全身はもはや液体まみれだ。
この広い世界には、彼みたいな美少年があんな事そんな事になるのがお好きな人もいるらしいので、物書きや絵描きがこの場に居たとすれば、きっと良い題材にはなったと狂気しているだろう。
結果的に極太蚯蚓が離れた為、間合いが広がった事になり、セツリは攻撃を受けたキリクに寄って傷を確認しようと手を伸ばした。
「気がついていない傷がないか、ちゃんと確認しないと」
「ズボンは下げなくても――」
セツリにそんなつもりは無かったがぬるぬるしていて定まらない動きに、キリクが抵抗しようと手を突き出したが……。
その手が自分の服を掴む前にセツリの上着を引っ張ってしまい、摩擦係数が限りなく低くなっている状態もあわさって、スルンと抜けポヨンと出る。何がとは言わないが。
「私は怪我していませんよ。それより、大丈夫ですか?」
「……だ、大丈夫。だが、別の意味で色々と大丈夫ではない」
主に自分の今後の社会的立場の保持について……だ。
「本当に大丈夫なのでしょうか?」
守られたエルファリアも心配する。当然の事ながら、社会的立場の事ではない。
体格差があるからか、傍目からは、お姉さん二人に身体中を確認されるショタ……にしか見えない状況。これがオネショタか。どうしてこうなった。
「それより、敵を」
「あ……そういうのは倒した後でも、ですか。確かにそうです」
なにか変に捉えたセツリだが、いちいち、指摘している場合でもない。
3人は互いに支え合いながら立ち上がった。人とは支え合って生きていく生き物。揃ってぬるぬるてかてかなのが、さまになっていないが。
「次で決める」
頭頂部から怪しげな液体をまき散らしながら再度攻撃してくる極太蚯蚓に武器を構える冒険者達。
一気に決着をつける……そう強く決意しながら――。
●
無事(?)に極太蚯蚓を殲滅し、一行は秘湯に到着していた。
ここで体を綺麗にしてから帰還するまでが今回の依頼内容だ。
「混浴? 男女別々にすればいいじゃない……というかしなさいよ」
嫌な予感をしつつ湯の中に沈むイル。秘湯と呼ばれるだけあって濃厚な褐色は、見た目重視のビキニを隠してしまう。それはそれで解せないものがある。
「水着、似合っていると思うよ」
「……見ていたとか油断できないな」
褒められた事で急に恥ずかしくなるが、そこは強引に誤魔化す。
「いや、だって、ほら……ね、アリエッタ」
救いを求めるようにララベルは視線をアリエッタに向けた。
彼女は湯一点を見つめ、カッコよかったな~とか何やら呟いていて、人の話を聞いていない。
「さてはアリエッタの姿もジロジロと見ていたのね」
イルがサッとララベルとアリエッタの間に割って入った。
弁解するように大袈裟な手ぶりでアピールするララベル。ふと――以前、別の温泉の時を思い出していた。
「そ、そうではなくて!」
彼の慌てぶりにようやくしてアリエッタが我に返る。今日の良い出来事を頭の中で反芻していたのだ。
なぜか庇われている状況に、イルの脇からぴょんと顔を出す。
「どしたの? カゼ?」
顔が真っ赤なララベルに心配して、スーと近寄ると額を合わせた。
額は特段、熱いというのもではなかった。というか入浴中だし分からないだろう。
近すぎて目の行き場のないララベルが不審者のようにぐるぐると視線を回す。
「……あ、もしかしてエッチな事考えていたんじゃない? いやらしいんだから」
「健全な男子とはそういうものよ」
アリエッタを後ろから守るようにイルが抱き締める。
「だから――」
なんとか誤解を解こうとしたララベルだったが、湯の中が見えない事もあって底に付いた手を滑らせてしまい、派手に転がる。
当然の事ながら、二人巻き込んだのは言うまでもない事だった。
バシャンと湯がはじける大きな音と悲鳴のような仲間の声に、気をつけようと心の中で強く決意したキリクは顎まで浸かるように沈む。
その横に並ぶようにセツリとエルファリアが湯の中に入ってきた。
「とても良いお湯で、戦いの後に入れる事は、ありがたいお話です」
「水着は勿体ないですが」
美女二人の言葉に心の中で同意しつつ、油断するとラキスケの神が降臨しそうだったので、気をつけながらキリクは台詞を選んだ。
「クリーパーを退治した事で客足が戻るといいが」
「これだけ良いお湯なのに、クリーパーのせいで人の姿が無いのは勿体ない」
持ち上げた手から零れ落ちる温泉の湯は肌にしっとりと残る。
詳しく分からないが名湯でもあるのだろう。秘湯の伝説は意外と嘘ではないのかもしれない。
セツリの意見にエルファリアもコクンコクンと同意する。
「領主さんも侯爵さんも、偉いのはそうなんでしょうが、偉そうぶるなら相応の仕事はしてほしいですね」
「今後もクリーパーがでないとは限らない……か」
「……例えば『領主や侯爵が手をこまねいていたクリーパーは退治された』なんて話を、広めてみても良いかもしれませんね」
フフっと笑い顔を浮かべながら言ったセツリに、エルファリアはパンと手を叩いた。
「領主も侯爵も自分の土地に出たクリーパーに手も足も出なかった……みたいな噂が流れちゃったら節約分以上の損になりますよね。そこを上手く使えば、私達の依頼費用の負担、何とかなるかもしれませんね」
「なるほど、交渉の余地はありそうだ」
王国内の政治争いは主に王家側と貴族側に二分されている。村が上手く立ち回る必要があるだろう。要はこれからも問題が発生した際にすぐ解決できる体制になれば、村としては問題はないのだから。
「それでは後程、村長にお伝えして一件落着ですね」
安心した表情を浮かべるエルファリアに、ハッと思い出したセツリが手をにぎにぎとする。
「そういえば、お二人の傷の確認が残っています」
「僕は……大丈夫だ」
これ以上、事故とはいえ何かやりかしたら、後で恩人になんて言われるかせ。
ジリジリと下がったが、段差に気が付かずバランスを崩して湯の中に頭から沈むキリクであった。
マスターコメント
お疲れ様でした&ご依頼にご参加いただき、ありがとうございました。
あまり過激にする訳にもいかず、かといって普通の討伐リプレイになってしまうと、それはそれで勿体ない……というジレンマの中で、色々と描写させて頂きました! あとは各自の脳内補完に託します(マテ ちなみに、戦闘判定は、その前の探索の状態から特に問題なかったと思います。実にお見事でした。
改めて、依頼へのご参加、ありがとうございました。また機会があれば冒険者の方々のご参加の程、お待ちしております。
ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人
2021年03月24日 20時42分53秒 公開
大成功
相談掲示板
僕は、シーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、よろしくね!
ヒーラーのセツリと言います。よろしくお願いします。
エルファリアと言います、よろしく。 まあ汚れるとしても、アフターケアばっちりならおいしい方ですよね。
シューターのキリクだ、よろしく。 ネバネバ粘液は勘弁して出来れば欲しいな…。適度に離れて攻撃するぞ。
遅くなってごめんなさい。 シーフのイルよ。 ヒットアンドアウェイで戦うわ。