【豆採】パンドラの車輪

東山秋治

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シナリオID:591

オープニング

●
「うっし、こんなモンでいいか」
 地下迷宮(ダンジョン)の一室、カカオの実を袋に詰めた男が仲間の方を見やる。
 彼の仲間達もそれぞれ荷物を詰め終わっているようだ。
 最近、迷宮都市エドゥノーグで展開されているカカオ採集キャンペーン。彼らはそれに参加するべく地下迷宮(ダンジョン)に潜った冒険者達だった。
「それにしても、エドゥノーグの地下迷宮だってのにたいした脅威も無かったな」
「……ぁー……確かにそうですね。前に潜った時は致死性のトラップがあったんですけど」
 思い思いに話をしながら帰還の途につく。そんな時……。

 ――ゴトッ……ズンッ――

 背後で何か重いものが落ちる音、直後、重いものが転がる音。
「走れ!」
 一行のシーフが叫ぶ。直後、彼らは一斉に駆け出す。しかし、転がる音は遠ざかるどころか近づいてきて……。
 何かが近づくにつれて微かに漂ってきた、このダンジョンに似つかわしくない匂いに彼らが振り向いた時。

 ――視界は茶色に覆われていた。

 その後、パーティ全員が火傷を負ってダンジョン入り口に倒れていたのを他の冒険者達に発見される。
 

●
「すぐに出せるものですと……これですか」
 ルイウェン・ヴェーリンは一つの依頼書を前に冒険者達に告げる。
「内容自体は最近出されている依頼と同様、カカオ採取がメインです」
 ですが、と一同を見回して続ける。
「帰還時にトラップをかわしきれず、巻き込まれる事例が後を絶ちません。また、トラップをかわしきれなかった冒険者のほとんどが火傷がによる傷を負っています。今のところ負傷どまりで死者は出ていませんが……」
 エドゥノーグの地下迷宮(ダンジョン)故、冒険者でもかわしきれないトラップは当然あるだろう。
 しかし、かわしきれない事例が多いにもかかわらず重傷者も出ていないトラップ……普通に考えれば、地下迷宮に似つかわしいものではない。

「とはいえ、この都市(エドゥノーグ)の地下迷宮である以上油断は禁物です。今まで致命的なものが無かったから今回も……とは限りませんのでご注意を」

解説

●目的  ・ダンジョン内でのカカオ採取   依頼で指定された区域は、一度深く潜った後、ゆるい傾斜の長い通路の終端に5つの部屋がある区域となります。  ※PL情報   各部屋には何かしらのトラップ、もしくはモンスターが配置されております。それらを解除、ないし撃破することでカカオが入手できます。

マスターより

後発となりましたが、【豆採】関連出させていただきます。 シンプルなダンジョンアタックですが、お約束も準備してございます。 無事に帰るまでが迷宮探索です。

リプレイ

●冒険者ギルドにて
「トラップはよくあるものだったぜ。まあ、解除はちと手間かかったけどさ」
 エリザ・A・ミシャールの問いに、同じダンジョンに潜ったパーティのシーフが答える。
「つっても迷宮都市(エドゥノーグ)の地下迷宮(ダンジョン)だ。俺達が潜った時と同じトラップとは限らねぇのがな……」
「アンタ達が最後に巻き込まれたトラップって、やっぱり大岩が転がってくるような……?」
「多分な。あの手のトラップは逃げるに限るから、後ろも見ずに逃げたさ。でもま、追いつかれて……気づいたら入り口に放り出されてたってワケだ」
 そーいや、結構強めのカカオの香りがしたな。と。
「しかし、何故入口に戻されるのやらな」
 エリザの夫であるガルレイド・S・グリディッカーが続けて尋ねる。
「さてな。あの地下迷宮(ダンジョン)じゃ何があってもおかしかないさ。迷宮に飲み込まれる話ぐらいは聞いたことあるだろ? その逆の事が起きたってトコじゃないかね」
 そこまで話すと、俺が話せるのはこんなところだな。とシーフは席を立つ。

●
 冒険者ギルドでのやり取りのしばらく後、冒険者たちの姿は地下迷宮(ダンジョン)にあった。
「ダンジョンの経験は豊富だから任せてよ!」
 そんな言葉と共に、一行の先頭に立つバクル・バスリーと、エリザの相棒である栗鼠(セスタ)が先行し、少しずつ、確実に歩みを進めていく。鏡での角先確認、暗がりには石を放り込んで確かめるなど、地下迷宮(ダンジョン)に慣れているバクルの先導もあり、今のところはトラップもモンスターとの遭遇も無く、順調と言える。
「しかし……モンスターどころか、罠の類すらこうも無いものか?」
 後方で、通過後に発動するようなトラップが無いか確認しているセリオス・オーガストが呟く。
「無いに越したことは無いぜ。特に、せっかく集めたカカオを落とすようなトラップは御免だ」
 アルベルト=V=シュタールシュヴェーアトの言葉に、それもそうか、と苦笑するセリオス。
 ギルドから指定されたカカオの採取地点はもう少し下ったところだろうか。そんなことを考え始めた頃、開けた空間に出る。
 普通に戦闘が出来そうなぐらいの方形の部屋の奥に、重そうな両開きの扉。
「トラップもモンスターも、本命はこの奥……といったところか」
 セリオスとバクルが扉周辺のトラップを確認する間、ガルレイドは扉を見上げて呟く。
「トラップ、無さそうだよ。……開けるね」
 確認を終えたバクルが、セリオスと共に重い扉を開ける。その先には、ゆるい傾斜が上に向かって続いており、奥で平らになっているのか明かりが漏れているのを確認できる。
 ガルレイドの提案で傾斜を調べながら上るも、これまでの道程では存在していた装飾のような凹凸が無く、ほぼ面一(つらいち)という差はあれど、仕掛けの類は存在しなかった。
 そして、傾斜を上り切った一行の前には左右にそれぞれ2つ、通路の奥にも他より少し大きい扉が並んでいた。

●
 一番手前にあった右側の扉の前で、セリオスが膝を突いて扉を調べている。
「……シュタールシュヴェーアト、鍵穴の前に盾をかざしてみてくれ」
「ん? おう、こうでいいか?」
 セリオスの言う通りにアルベルトが盾をかざすや否や、カツンと金属同士がぶつかる乾いた音が聞こえる。そして、扉の下に転がったのは小さな矢。
「よくあるトラップだ。覗き込んだ瞬間……ってヤツだな」
 もう一度盾をかざしても矢は飛んでこない。改めてセリオスが扉を調べると……鍵は掛かっていない。
「僕が開けるよ」
「バスリー、扉を開けたら頭を下げてくれ」
 バクルの背後、ガルレイドが杖を構えて告げる。
 その言葉に頷くとバクルは盾を構えて扉を開け、即座に盾をかざして身を低くする。

 開かれた扉の中に火球が撃ち込まれ、入り口付近で炸裂。爆発の煙が晴れるのを待って再度バクルが中に踏み込む。

 部屋の中は、壁石の隙間から枝が生えている奇妙な部屋で、その枝にはカカオの実が生っていた。
 先程の爆炎で扉付近の枝の一部が燃え落ちたが、回収するには問題無さそうだ。
「ダンジョンに木? どうなってんだこれ」
「さてね。他の部屋に大元があったりするんじゃないか? バクル、セリオス、トラップはどうだい?」
 エリザが首を傾げるアルベルトに返し、罠を調べていた2人に声をかける。
 2人とも「無さそうだ」というジェスチャーを交えて返す。
「こっちは無さそうだ。枝に触れたら……なんてことが無い限りは大丈夫だろう」
「そうだね。調べたところじゃスイッチの類は無いから、この部屋は扉だけだったみたいだ」
「モンスターが出てくる様子もなさそうだ。では、この部屋から回収を始めるとしよう」

 ガルレイドの一言が採取開始の合図となり、それぞれが持ち込んだ袋に実を詰めていく。

●
「扉に罠は無い。……少なくとも、今は敵の反応も無いな」
「わかった。開けるぜ……」
 罠と[孤高者の捜波]で敵の反応を確認したセリオスが身を引くのと入れ替わりにアルベルトが扉に手をかけ、押し開く。
 ここまでの4部屋は、最初の部屋とさして変わらず、途中アルベルトが落とし穴を踏み抜いた以外、実の回収は順調だった。
 重い音を立てて扉が開かれるのに合わせ、盾を構えたバクルが足元を確かめながら踏み込む。
「さっきみたいに入ってすぐに落とし穴……は無さそうだね」
 これまでの部屋と同様、壁からはカカオの木の枝が伸びており、一番奥には普通では考えれれない太さのカカオの木が石畳を割って根を生やし、妙な存在感を醸している。
「……すごいねこりゃ……。他の部屋より大物じゃないか」
 エリザが、ほぅ、と。生っているカカオの実を手に取りながら、感心したように呟く。
「ここから他の部屋にも伸びていると考えるべきか」
 枝の先が天井を這うように伸び、壁の向こうに消えているのを確認したガルレイドが独り言ちる。
「ひとまず敵の気配はないようだ。今のうちにカカオの実を回収してしまおう」
 セリオスの言葉に一同頷き、それぞれカカオの実の回収を始める。
「前の冒険者達もここまでは上手くいってるんだよな」
「そうだね。モンスターもいなかったし、前の人達が全部片づけ…………」
「? バスリーさん?」
 不意に押し黙ったバクルに声をかけるアルベルト。バクルは返事の代わりに口元とに人差し指を当る「静かに」というジェスチャーで答えた。
 バクルの様子に気づいた3人も作業の手を止めてバクルの様子を見守る。部屋の外、壁の中で蠢く音をバクルの耳は捉えていた。
「…………何か…………! エリザさん! 幹の陰!!」
「っ!!」
 バクルの声に咄嗟に飛び退くエリザ。直前まで彼女がいた空間で昆虫の顎がガキンと音を立てて閉じられる。
 飛び退いた先、床を這っていた根に足を滑らせたエリザをガルレイドが支える。
「……なるほどな。幹に穴を開けて壁の外に潜んでいたというわけか」
 弓を構えたセリオス。番えた矢が狙う先には、巨大なカミキリムシが、カカオの木の幹と壁の間の穴から顎を鳴らしてのそりと這い出てくるところだった。

「全くいないとは思っていなかったが……!」
 苦虫を噛み潰したような顔で呟くセリオス。その番えた矢の先には光が収束し……放たれた。
 光はカミキリの片羽根に命中、消し飛ばす。
「アルベルト! バクル! 前を頼む!」
 前衛2人に言い放ちつつ、エリザの放った一矢は胴体の節に命中し、食いこむ。
「さぁ、ぼくが相手だ!」
「逃がさないぜ!」
 シューター2人の作った隙に前衛2人が後衛3人とカミキリの間に割り込み、バクルは盾を、アルベルトは大太刀をそれぞれ構える。
 バクルの放った[シーザーロア]に本能的にバクルを脅威と認識し、即座に標的を彼に切り替えて大顎で噛みついてくる。
「よ……っと」
 しかし、バクルも慣れたもの。盾に噛みつかせ、盾の円形の外周を利用していなす。
 そしてそこにガルレイドから火球(フレイムゲイズ)が放たれる。カミキリを中心に炸裂した火球は、意志を持っているかのように接近している前衛2人を避けてカミキリに絡みつく。
「昆虫であるなら、な」
 効きはいいはずだと。

 バクルが徹底的に引き付け、セリオスのエリザの放つ矢が確実に甲殻を穿つ。
 未だ炎の纏わりつくその巨体を、ガルレイドの[魔弾]が撃ち抜き、アルベルトの大太刀が袈裟に切り伏せる。
 これが、2匹であれば流れはまた変わり、冒険者達も苦戦を強いられただろう。しかし、明確な役割分担をそれぞれが自覚した上で行動すれば……。
「これで……最後だ!」
 アルベルトの太刀がカミキリムシの首を飛ばすのに、そう時間はかからなかった。

●
 カミキリムシを倒し、実の他に苗木を手に入れた一行は帰還の途につく。
「別に帰りだから罠を無くしてくれるわけじゃないからね。帰還時にトラップに巻き込まれる例が多発してるみたいだから、気を引き締めよう」
 バクルの言うとおりである。事実、これまで挑んだ冒険者達は帰り道でのトラップに巻き込まれて失敗の目を見ている。

「この手の地下迷宮(ダンジョン)の最後って、大岩が定番だと聞いたことが有るんだが……」
「巻き込まれた冒険者が帰ってこれてる辺り、大した重量ではなさそうだが」
「うん、この壁の感じからしてもそんな気はするよ」
 そんな言葉を交わしながらも、警戒は怠らず、傾斜の1割も下っただろうか。そんな折……。

 ガコッ …… ズンッ……!

「走って!」
 バクルが叫ぶ。同時か添えよりも早いかといった反応速度で一行が駆け出す。
「ちょっ! なんだありゃ!」
 思わず振り向いたアルベルトが叫ぶ。
 転がってきたのは大岩ではない。太く巨大な柱の両端にこれもまた巨大な馬車の車輪を付けたような物体だった。それが、柱の部分から湯気が見えるほど熱され、どろどろになったチョコ―レートを滴らせて追いかけてくるのだ。
「なるほど、ここの壁が面一(つらいち)だったのは車輪を引っ掛けないためか」
「分析はいいから足を動かすんだ! ……ガル?」
 傾斜の構造に納得したようなセリオスに反応しつつも、エリザは先ほどから押し黙ったままの夫(ガルレイド)を見やる。
 彼は杖を構えて魔法発動の準備をしていた。
「皆はそのまま走り抜けろ」
 魔法発動の準備が完了すると、皆に告げてガルレイドは振り返る。そして放たれたのは……。

 ――[タイダルストリーム]――

 ――溶けたチョコレートはその成分上、水分は厳禁とされる。地下迷宮の罠(ダンジョントラップ)とはいえ、それ自体は変わらないのか。
 結果、[タイダルストリーム]の水流をぶつけられたことで表面の成分が分離し脆くなり、そのまま中心部分が撃ち抜かれて崩壊。残った車輪部分は足を止めていたガルレイドの両脇を抜けて転がるが、間も無くバランスを崩して転倒、溶けたチョコの山となった。

「押し戻せればと思ったのだが……想定外であったな」

 頭を掻きながら仲間のもとに下りていくガルレイド。
 その後は、特段の妨害を受けることも無くダンジョンを抜け、帰還となった。
「よし、後は採った豆も持っていくだけ。やっぱりダンジョンは良いよね!」
 そして、無事に冒険者ギルドにカカオとその苗木が届けられ、依頼完了となった。

●
 以前迷宮に来たときは土産を忘れたので今回は土産を……と思っていたのだが……。
 ……よく考えたら、豆が土産は微妙ではないか? しかも、今回は送り先が同行している……であれば。
「……その辺の店に寄ってから帰ろうかね、エリザ」
「何か買ってくれるのかい?」
「まあ……そんなところだよ」

マスターコメント

お疲れ様でした。 最終的な判定の結果、入手した物としてカカオだけでなくその苗木も発見するに至りました。 また、最後のトラップでございますが……正体はアレです。 MVPは、最後のアレを当方の想定外のスキルで対処、それが結果的に最適解となったため付与させていただきました。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準5 / 4〜8人

2021年02月28日 20時34分31秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. バクル・バスリー

    ウォーリアのバクルだよ。よろしくね。 迷宮知識で、トラップ解除やモンスター対応の手伝いをするね。 戦闘では主に前衛で敵を引き付けるよ

  2. エリザ・A・ミシャール

    シューターのエリザだ。夫とのペア参加になる。 よろしく頼むよ。 メンバーの揃い具合にもよるが、ペットはゴリラとリスと揃えているから……壁役か探査役か足りない方を優先させるつもりだ。それにしても、火傷するけど重傷者はいないトラップっていうのは不思議だね。生還者から話を聞くとかはできるんかね? メタ的に考えるなら溶けたチョコレートなんだが……

  3. セリオス・オーガスト

    ・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む モンスターはともかく罠はどうにか解除できる手立てが欲しいところだな

  4. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 とにかくモンスターを倒しに行くぜ

  5. エリザ・A・ミシャール

    探波持ちがいなさそうかね? こっちはリス+暗視+看破+捜波で、どちらかといえばモンスター警戒寄りのプレイングになったよ バクルがうまく罠を解除できれば良し、無理そうなら壊す感じに書いてある 光源は松明+エンライトで確保してあるから、ひとかたまりになって動く分には十分だろう

  6. セリオス・オーガスト

    エリザがモンスター警戒方向に行くので俺は罠解除方向でやっておくな。看破と罠解除で罠の発見と解除を試みる。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0