【豆充】それから恋が生まれるかどうか?
狐野径
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シナリオID:586
オープニング
●チョコレート普及大作戦
『迷宮都市エドゥノーグのダンジョンから、突如大量のカカオ豆が得られるようになった』
その驚きのニュースは、エドゥノーグの商人達の広報の甲斐あって、瞬く間に大陸中を駆け巡った。
カカオ豆とチョコレート。
その存在は大陸広くで知られているものの、一般的に流通しているとは言い難い。カカオの栽培に適した土地は総じて治安が悪く、輸出にたえうるほどの大規模なカカオ農園が作れないためだ。カカオ豆の安定した供給元がなく、ダンジョン産のものに頼らざるを得ないため、チョコレートは上流階級や富裕層で愛好されるに留まっていた。
そんなカカオ豆が『突如』『大量に』、おまけに商人達が販促にと担ぎ出した古い童話に乗っかって、『チョコレートは愛と平和を育むお菓子♪』なんて触れ込みと共に市場へ流れ込んだものだから、さあ大変。
しかし何にせよ、おいしいチョコレートが庶民の口に入るようになるのは良いことだ。おいしいは正義。冒険者達もカカオ豆求めダンジョンへ、あるいはチョコレートの普及を目指し大陸各地へ飛ぶのだった。
●豆をぶつけ?
リーンエス王国のとある町。
この町でカカオ豆にまつわる恋のドラマがあったとかなかったとか。
町で働くハーフリングの少女が、籠一杯のカカオポットを運んでいた。
前が見えないほど積まれていたため、前方不注意だった。
出会い頭で人にぶつかり、躓く、が、それは踏ん張った。
カカオポットは踏ん張らず、一つが衝撃で勢いよく吹っ飛んだ。
その結果、近くを歩いていた、大変かっこいい男性の顔面を直撃した。
少女は気づかず、急いでいたので店に走る。
カカオポットを顔面に受けた青年は、ひっくり返り、道行く人に介抱された。
そのあと、状況を知り、カカオを持って、その少女を追った。
そして、恋が芽生え、結婚したという。
「いや、待って、その間、どうなっているんです? そもそも、介抱してくれた女性と恋が芽生えるなら、理解できます!」
イベント企画を頼まれた町の商店街の店主の一人ササナが突っ込む。
「いやー、本当らしいよ? 本命にカカオ豆をぶつけると、恋が実るって」
商人仲間の中年男性が真顔で言う。
だから、それを生かしてイベントをしてほしいというのが、この商店街の集まりの決定。
それを投げられたのは、若手のササナだった。ちなみにササナの店舗は雑貨屋で、集まりの日仕入れで町を離れていた上、こう行事は若手がいいだろうという投げられ方だった。
頭痛を覚えたササナは前にいる男性に向って告げる。
「例えば、奥様と結婚する前、カカオ豆……いえ、実の部分ごと力いっぱいぶん投げられて、それが顔にめり込んで、恋が生まれましたか?」
相手は、目を泳がせた。
そして、「頼んだよー」と言って立ち去った。
「逃げるなぁあああ! 嘘でしょおおお!?」
ササナは頭を抱えた。
どうやって、愛をはぐくむような行事になるのか?
すでに用意されている、カカオ豆もどきやカカオポットもどきだ。
仕事は早いが、豆やポットもどきの力の入れ方がバラバラだ。藁を丸めただけのもあるし、猫にでも上げれば喜びそうな編んだ藁のボールもある。その上、木彫りで誰か作ったポットがある。
その結果、投げて当たるのか不明なものから、力いっぱいだとケガ人出そうなものまで様々だ。
「……本当、なんで素直に『チョコレートあります!』でいいはずなのに……なんでこんな……」
ササナは溜息をつく。
「この木彫りと藁細工、私もらっていってもいいかしらねぇ。売れそう……じゃなくて、商店街全体の売り上げは大切、売り上げは大切……売り上げ……販促イベント?」
イベントの状況によっては、商店街の売り上げに直結するため、机に突っ伏す。
ササナはふと、この町に最近できた占い処を思い出した。
「そこの受付の子が結構話題になっていたじゃない? だからっ!」
ササナは占い処に駆け込んだ。別に占ってもらう訳ではなかったのはもちろんだ。
●イベントらしい
カカオ豆をぶつけて告白しよう!
片思いのあなたは、大好きなあの人に。
出会いがないと嘆くあなたは、イベントで素敵な人に出会えるかもしれない。
そして、出会いがないと腹が立つあなたも……。
色々な気持ちをカカオ豆やカカオポットに込めて、素敵なあの人、もてるあの人にぶつけよう!
参加条件は、豆や実を投げられるヒトたち。
さらに、ぶつけられても恨まないことも大切です。
さあ、豆や実のぶつけ合い、あなたは誰に投げますか?
そして、これが終わったら、チョコレートを贈り合いましょう!
お買い上げは――。
「会場は、この、噴水広場でいいですね」
ササナは淡々と道を封鎖する許可を得る。
カカオ豆やカカオポットもどきを場所をどこに置くのか悩む。中央に置くことにした。
「一応、これで、あの子のおかげで町の少女や女性は出てくれると思う……それに釣られて、少年や男性も……そして、是非、町の外から冒険者が来てくれると……大変嬉しい」
ササナは期待と不安を抱きながら作業を進めるのだった。
一方で、出場を打診されたイアハイト・シュトルツは緊張と喜びで生き生きしていた。
雇い主であるトラウム・エアウァルトは渋面だ。
「やめておいた方がいいんじゃないかい? 君、体力あるけど、運動神経鈍いし……」
トラウムは町に商店を出しているため、ある程度関わる必要はあるし、一方で彼が怪我するのも困ると考える。
そもそも動くのは面倒だし、好き好んで目立つ所に行きたくない。
「でも、役に立てるって、僕、嬉しいんです」
イアハイトがいいながら、きらきらと輝きを増す。
「あー、うん、怪我しない程度に頑張ってこいよー」
「はい」
生き生きと出かけるイアハイトだった。
「冒険者も参加するっていうのが、救いだなぁ」
イアハイトを守ってくれるということより、色々な人がいるということで、状況が分散され不規則になるだろうから。
「そうなんだよなぁ、俺より、あの坊や、動きが鈍いんだよなぁ」
頭を抱えるのだった。
『迷宮都市エドゥノーグのダンジョンから、突如大量のカカオ豆が得られるようになった』
その驚きのニュースは、エドゥノーグの商人達の広報の甲斐あって、瞬く間に大陸中を駆け巡った。
カカオ豆とチョコレート。
その存在は大陸広くで知られているものの、一般的に流通しているとは言い難い。カカオの栽培に適した土地は総じて治安が悪く、輸出にたえうるほどの大規模なカカオ農園が作れないためだ。カカオ豆の安定した供給元がなく、ダンジョン産のものに頼らざるを得ないため、チョコレートは上流階級や富裕層で愛好されるに留まっていた。
そんなカカオ豆が『突如』『大量に』、おまけに商人達が販促にと担ぎ出した古い童話に乗っかって、『チョコレートは愛と平和を育むお菓子♪』なんて触れ込みと共に市場へ流れ込んだものだから、さあ大変。
しかし何にせよ、おいしいチョコレートが庶民の口に入るようになるのは良いことだ。おいしいは正義。冒険者達もカカオ豆求めダンジョンへ、あるいはチョコレートの普及を目指し大陸各地へ飛ぶのだった。
●豆をぶつけ?
リーンエス王国のとある町。
この町でカカオ豆にまつわる恋のドラマがあったとかなかったとか。
町で働くハーフリングの少女が、籠一杯のカカオポットを運んでいた。
前が見えないほど積まれていたため、前方不注意だった。
出会い頭で人にぶつかり、躓く、が、それは踏ん張った。
カカオポットは踏ん張らず、一つが衝撃で勢いよく吹っ飛んだ。
その結果、近くを歩いていた、大変かっこいい男性の顔面を直撃した。
少女は気づかず、急いでいたので店に走る。
カカオポットを顔面に受けた青年は、ひっくり返り、道行く人に介抱された。
そのあと、状況を知り、カカオを持って、その少女を追った。
そして、恋が芽生え、結婚したという。
「いや、待って、その間、どうなっているんです? そもそも、介抱してくれた女性と恋が芽生えるなら、理解できます!」
イベント企画を頼まれた町の商店街の店主の一人ササナが突っ込む。
「いやー、本当らしいよ? 本命にカカオ豆をぶつけると、恋が実るって」
商人仲間の中年男性が真顔で言う。
だから、それを生かしてイベントをしてほしいというのが、この商店街の集まりの決定。
それを投げられたのは、若手のササナだった。ちなみにササナの店舗は雑貨屋で、集まりの日仕入れで町を離れていた上、こう行事は若手がいいだろうという投げられ方だった。
頭痛を覚えたササナは前にいる男性に向って告げる。
「例えば、奥様と結婚する前、カカオ豆……いえ、実の部分ごと力いっぱいぶん投げられて、それが顔にめり込んで、恋が生まれましたか?」
相手は、目を泳がせた。
そして、「頼んだよー」と言って立ち去った。
「逃げるなぁあああ! 嘘でしょおおお!?」
ササナは頭を抱えた。
どうやって、愛をはぐくむような行事になるのか?
すでに用意されている、カカオ豆もどきやカカオポットもどきだ。
仕事は早いが、豆やポットもどきの力の入れ方がバラバラだ。藁を丸めただけのもあるし、猫にでも上げれば喜びそうな編んだ藁のボールもある。その上、木彫りで誰か作ったポットがある。
その結果、投げて当たるのか不明なものから、力いっぱいだとケガ人出そうなものまで様々だ。
「……本当、なんで素直に『チョコレートあります!』でいいはずなのに……なんでこんな……」
ササナは溜息をつく。
「この木彫りと藁細工、私もらっていってもいいかしらねぇ。売れそう……じゃなくて、商店街全体の売り上げは大切、売り上げは大切……売り上げ……販促イベント?」
イベントの状況によっては、商店街の売り上げに直結するため、机に突っ伏す。
ササナはふと、この町に最近できた占い処を思い出した。
「そこの受付の子が結構話題になっていたじゃない? だからっ!」
ササナは占い処に駆け込んだ。別に占ってもらう訳ではなかったのはもちろんだ。
●イベントらしい
カカオ豆をぶつけて告白しよう!
片思いのあなたは、大好きなあの人に。
出会いがないと嘆くあなたは、イベントで素敵な人に出会えるかもしれない。
そして、出会いがないと腹が立つあなたも……。
色々な気持ちをカカオ豆やカカオポットに込めて、素敵なあの人、もてるあの人にぶつけよう!
参加条件は、豆や実を投げられるヒトたち。
さらに、ぶつけられても恨まないことも大切です。
さあ、豆や実のぶつけ合い、あなたは誰に投げますか?
そして、これが終わったら、チョコレートを贈り合いましょう!
お買い上げは――。
「会場は、この、噴水広場でいいですね」
ササナは淡々と道を封鎖する許可を得る。
カカオ豆やカカオポットもどきを場所をどこに置くのか悩む。中央に置くことにした。
「一応、これで、あの子のおかげで町の少女や女性は出てくれると思う……それに釣られて、少年や男性も……そして、是非、町の外から冒険者が来てくれると……大変嬉しい」
ササナは期待と不安を抱きながら作業を進めるのだった。
一方で、出場を打診されたイアハイト・シュトルツは緊張と喜びで生き生きしていた。
雇い主であるトラウム・エアウァルトは渋面だ。
「やめておいた方がいいんじゃないかい? 君、体力あるけど、運動神経鈍いし……」
トラウムは町に商店を出しているため、ある程度関わる必要はあるし、一方で彼が怪我するのも困ると考える。
そもそも動くのは面倒だし、好き好んで目立つ所に行きたくない。
「でも、役に立てるって、僕、嬉しいんです」
イアハイトがいいながら、きらきらと輝きを増す。
「あー、うん、怪我しない程度に頑張ってこいよー」
「はい」
生き生きと出かけるイアハイトだった。
「冒険者も参加するっていうのが、救いだなぁ」
イアハイトを守ってくれるということより、色々な人がいるということで、状況が分散され不規則になるだろうから。
「そうなんだよなぁ、俺より、あの坊や、動きが鈍いんだよなぁ」
頭を抱えるのだった。
解説
●目的・目標
イベントに参加して、思いの丈をぶつける。
ぶつける相手は、好きな人でもいいし、もてる人に対してぶつけてもいい。
人を守ってもいい……まあ、そんな感じで色々ぶれているけど、基本「カカオ豆またはカカオポットもどき」を投げるイベント。
カップルで互いに投げてもよし、OPの状況を意識して行動を決めるも良し。
イベントは、午前10時半くらいから一時間以内を見込んでいる。
●会場
とある町の噴水広場。
噴水を中心に半径35メートルの大きさの会場。
遮蔽物は噴水しかない。噴水は直径3メートル、中心が高さ1メートル50センチ。
一応、噴水の縁は腰掛けるのに良い高さ。
司会進行および審判のササナがいるのは舞台。舞台は、会場の端にある。
●投げるもの
カカオ豆やカカオポットは「もどき」。
その結果、重さや形状がまちまち。藁丸めただけなど、飛ばないし、空中分解しそう。
中には、木彫りのカカオポットがある上、とがっている部分があったりするらしい。
投げるものによっては、飛ばない、けがをさせるという恐ろしい行事になっている。
幸いというか、量産しやすかった影響か、藁丸めただけとか、大きさが同じくらいの石が多い。
良識がある人は、いわゆる「おてだま」のように作ってくれてはいる。中に入っているのが「藁」というのがネックかもしれないが。
●現地のNPC
・ササナ 一般人、女性。二十代半ば。
イベントの司会進行および審判をする。とはいえ、審判は時間を計る位だ。
・イアハイト・シュトルツ 占い処の受付をする16歳男。
おっとりした美少年ということになっている。
知識はあっても活かせないということから、自信をなくしていたけど、最近活発になっているぽい。
・町の住民 男女ある程度人数。年齢層は十代から二十代後半がほぼ。
●注意事項
互いに投げ合う人、連れがいる人は、フルネームをプレイングに記載いただくと、迷子防止になります。
マスターより
こんにちは、狐野径です。
なんでこうなったのか、深く考えるとおしまいです。私も分かりません。
豆やポットは、楕円形のボールだったり、わらを丸めたただけだったり、質も素材も見た目も様々です。投げるのも大変だったり、投げたら大変だったり……。
そんなわけでコメディです。
恋、生まれますか?
よろしくお願いします。
リプレイ
●現地に行こう
オフレコらしいけれども……ロイ・アウレアに催しの話を持ってきたのは、キーゼだった。
ロイの記憶の中のキーゼは「恋人連れで来いよ、全力で投げつけてやるからな」と笑顔で言った。
あくまで記憶の中。
町おこしのイベントがあるのはいいことだと思うし、行く。
とはいえ、大切な人を考え、単独で。
ロウトフェダーは現在やさぐれている。
恋人はいない、想い人もなし。とはいえ、普段ならば、カップルを祝福する気持ちもある。
昨今の「チョコを交換して両思い」という流れに、持っていた自制心も流されいったらしい。
そんな中、この街のイベント。
「ふっ、大義名分を与えられたのだから、やることは一つ!」
こぶしを固め、天に突きあげた。
トゥーリは必要ならけが人は【ヒール】で治すつもりであった。
「ケガ人とかなくって安全に楽しめたらいいね!」
どうなるかわからないし、イベントの趣旨が迷走しているのが、危険な予兆でもあった。
それに見聞きして知るカカオポットの大きさ。
「大きな実だねぇ! 思いっきり投げられたらとっても痛そう」
一方で「でも、投げたり、体を動かしたりするのは面白いし、いいよね!」と考えた。
楽しいイベントになることを願う。
キーゼは日ごろ世話になっているエルナ・クルプファルツをデートに誘った。
その誘われたエルナはうきうきわくわくして向かう。
「実はデートなんて初めてです!」
キーゼを異性として特に意識はしていないとは言う。
それはともかくとして、デートという響きや喫茶の常連仲間と出掛けることも楽しい。
さて、待ち合わせ場所で合流したとき、キーゼは「誘いに快諾してくれてありがとうございます」と礼を述べる。
「そんな、楽しみにしてきたんですよ」
エルナは微笑む。
ほっとするキーゼは何かを感じ、周囲を見渡した。
「どうかしましたか?」
「いや……何でもないですよ」
エルナにキーゼは告げる。
二人は会場に向かう。
なお、キーゼを見ている目はあった。
目の持ち主はコハクであり、うきうきと出掛けたエルナをつけてきていた。
母と慕うエルナの様子から何かあると感じていた。そうしたら、キーゼと合流したのだ。
これは、母を守らねばならないと、威嚇および殺気を発してキーゼを見ていた。
しかし、状況がわからない今、割って入るわけにもいかない。
様子を見るためついて行く。
イベント会場に到着した。
その内容を知り、コハクは自分がすべきことを理解した。
●のんびり、まったり?
ケン・Z・ブラッドリーは会場となっている広場に面した店の、軒に上った。
まだ開店前の店であることや、会場に人が来る前だったため、気づいた人はいなかった。
ケンは催しがあることを知らないため、何も考えず仮眠をとる。
日が当たるとぬくもりがちょうどよく、熟睡に向かうのも良いかもしれない。
会場に人が集まり、にぎやかになっても、仮眠をとる――「実は、熟睡してない?」と問う人は良くも悪くもいなかった。
シャロン・ラ・モリエールはチョコレートが食べたいがため、カカオを投げ合うイベントがあるのを見て、虫取り網を片手にやってきた。
(地面に落ちなければセーフ、落ちても三秒以内に拾えばセーフよ!)
異様な意気込みとともに、会場にいた。
イベントの肝である「思いをぶつける」については、どうでもいいことだった。
思いをぶつける相手もいないというのが第一だが、カカオを取ることが今日の目的でもある。
ただ、彼女、一つ、重要なことを見落としているのだが――。
ロイは会場に入るとキーゼと目が合った。挨拶のあと「カップル多い」と思った。
「どちらかというと、カップルは穏やか……もてたい、もてない人は必死……という構図だろうか?」
人の様子はそう分析できそうだった。
町の男性陣の視線は女性陣に向かいつつも、外見のいい男性にもいっている。一方の、女性陣は目がうろうろしている。町の人もだけど冒険者も見ているようだ。
会場を見ていると、見覚えのある少年がいた。
「イアハイトさん?」
近寄って声を掛けるとイアハイト・シュトルツがきょとんとした後、驚いた顔をした。
「ロイさん? その節は、お世話になりました」
「いや、元気そうでよかったよ」
近況報告や雑談しつつ開会を待つ。
会場でキーゼはイベントに誘ったが、「祭りとはいえ、エルナ氏にぶつけていいか」と悩んでいた。
悩む間にまた視線を感じたため、出所を探す。その時、ロイと目が合い挨拶を交わす。
ロイが視線をそらしても、視線はあるので違うものだとわかる。
「あら、コハクさんも来ていたんですね!」
エルナが明るく言う。
キーゼがエルナを見ると、コハクがその横にいる。
無表情であるが、キーゼと視線が絡んだ瞬間「がるる」と威嚇してきた。
キーゼは冷や汗を流す。
たぶん、これは、事件が起こる、自分に。
トゥーリは待っている間、町の少女たちの視線がよく向かう先を見た。
少年は町の住民ぽいから知り合いなのだろうと思う。
ただし、エルフの男性と話しているのが見えるため、どっちに向かう視線か実はわかりづらい。
気になったので声を掛けることにした。
「おはよう」
「おはようございます」
イアハイトとロイが挨拶を返す。
「アナタは町の人?」
イアハイトの方に問う。
「あ、はい。町にある占い処で受付をしています」
「なるほど」
トゥーリはうなずいた。
つまり、占い処に来た人がイアハイトを知っているわけである。
「……なんか、視線が痛い」
「まあ、痛いですね」
ロイがトゥーリに同意した。
トゥーリとロイがイアハイトを見た。
「イアハイトさん、頑張ってよけるんだよ」
トゥーリが言うとロイがうなずく。
「え? 当たらないといけないのでは?」
真面目にイアハイトが答えるし、イベントの内容考えるとトゥーリも「確かに」とうなずきたくなる。
「カカオポット、結構大きいよ」
トゥーリは指さした。
「……本当ですね」
「うん。無理しないで避けたほうがいいよ」
「それはオレも思うよ」
ロイにもやんわり念を押された。
「はい、気を付けます」
イアハイトが緊張した面持ちで答えた。
ロウトフェダーは会場に入る。
はやる気持ちを抑えつつ、開会の宣言を待った。
待てば、待つほど、やる気があふれる。
恋する乙女の肉食獣のような視線も見える。
「これは、戦場か? 恋の迷宮を抜けるための?」
イベントの趣旨に沿ってつぶやいたところで、することは一つ。カカオを投げることだった。
開会式は主催のササナが司会をして、粛々と進められる。
そのような中、長い話をする来賓がいたり、短い挨拶で終わる来賓もいる。
「では、開始です! 思いの丈をぶつけあってください!」
宣言された。
●冒険者たちと一般少年
「いいか、逃げろよ!」
ロイは笑顔で、豆を投げる。軽く投げるとはいえ、何かの拍子でけがをさせるのも問題なので、豆もどきは柔らかいのを選んでいた。
結構、飛ばない。
それはそれで楽しい。
トゥーリはいきなり集中砲火を少女たちから受ける。
「わわっ!?」
回避はするが、さすがに、よけきれないものもあり、ゴンとかコンとかいう音がする。
飛び方も見ていると、勢いよく飛ぶモノから、ヘロヘロと弧を描いて落ちていくのがある。
豆やポットを触ると、模型やら手芸やら様々なものだった。
「これは、結構、危険だね」
一定の物で投げられるわけではないため、軌道が読めない。
「トゥーリさん、大丈夫ですか?」
イアハイトが声を掛けてきた。
「あ、大丈夫だよ……って!?」
トゥーリは必要なら盾になるとか考えていたけれども、豆礫に逃げることにした。
「ごめんねー」
「いえ、気を付けてください」
イアハイトが見送る。
次はイアハイトが標的になる。
声を掛け、ぶつけてくるが、結構本気ぽそうだ。
「いてっ」
「大丈夫?」
ロイが途中から盾になる。
「ありがとうございます」
イアハイトが困った顔になった。
「よけろよー」
ロイはイベントとして盛り上げるつもりで、少女たちの方に向かって投げた。
「避けたらイベントの意味がありませんわっ!」
「イーアさんだって、よけてません!」
少女たちが色々言う。
「その心意気、すごい」
ロイは感心した。
「で、よけてなかったのかい?」
ロイは、イアハイトに確認する。
「その……よけてみたんですけど……」
イアハイトは顔を真っ赤にした。
「あ、うん、たくさん飛んでくるとよけられないな」
「あ、はい」
試しに、ロイがイアハイトに豆を投げてみた。
動きが見えるし、よけられるだろうと思っていた。
しかし、イアハイトはよけるそぶりは見せたが大変遅かった。
ロイは何かを察した。
「とりあえず、動き回ろう」
「はい」
ロイが伝授した。
その直後、ロイに向かって、カカオポットが鋭く飛んでくる。豆も飛んでくる。
「え?」
町の少女たちがなぜか皆、ロイに向かって投げ始めていた。
「ちょ、待って、それは死ぬ! 楽しいのを投げてくれっ!」
ロイは慌てて逃げ出した。
トゥーリは自分に【ヒール】を掛ける。
豆の投げ合いを見ていると、本気で投げている人がいたり、かなり危険な雰囲気だ。
流れ豆や流れポットに当たるとそっちに向かってぶん投げる人もいる。
不穏な空気も漂うが、楽しそうにも見える。
「終わってみないとわからないね。ワタシも混ざろう」
トゥーリは元気よく向かった。
ロウトフェダーのやるきは開会直後から爆発した。
「ひゅーひゅー、お似合いだねぇ!(こん畜生が!!!)」
カップルに祝福風の言葉を言いつつ、毒は胸の奥で叫ぶ。
ただし、投げ方はかなり、攻撃的だ。
投げられた方はたまったものではないはずだが、どこか嬉しそうな雰囲気がしているのだ。
「なんでだっ!」
別のカップルにも投げるが、祝福されたという雰囲気になっているように感じられる。
豆もどきをパッと撒く。ただし、藁を丸めただけのもので、うまく投げられなかった。
「豆にまで馬鹿にされているのかっ」
ロウトフェダーは唇をかんだ。
「だ、大丈夫ですか?」
逃げ回っていたイアハイトが声を掛けてきた。
「いや、大丈夫だ」
「良かったです」
ロウトフェダーは気づいた。
彼の背後から複数の殺気があることに。
それは、少女たちが、ロウトフェダーに対して放っているものだ。
「う、そういうことかっ!」
ワッサーと豆を撒いた。先手必勝という感じだった。
少女たちはロウトフェダーに向かった豆を投げ出した。
互いに一歩も譲らない豆の応酬。
間にいたイアハイトは避難する。迫力にたいして「すごい」と言って見るだけだった。
多勢に無勢でロウトフェダーが移動させられている。噴水のそばまで来ていた。
そんななか、ロウトフェダーが投げたところカップルに当たり、反撃のカカオポットを食らう。
「うわっ」
ゴチッといい音がしたあと、ロウトフェダーの目の前を星が飛んだ。
噴水に倒れた。
「ううっ、俺の恋人は迷宮なんだからなー」
ずぶぬれになり、叫んだ。
●リアジュウ?
シャロンはカカオ豆どころかカカオポットもあることに気づいた。
「これはっ、実を取れば、効率がいいかもしれません!」
鼻息荒く投げられるものを見定める。
「それにしても、飛び方が一定ではないですね」
力がない人が投げているとかそういう感じではない。鋭い飛び方をする豆があったり、ヘロヘロとした飛び方をする実もある。
投げつけられた人が「ぎゃ」という悲鳴を上げているのも聞こえる。
「大変ですね……と見ている場合ではありません! カカオ回収です」
逃げまどうイアハイトと遭遇し、彼を守るように実を取った。
「ありがとうございます」
「いいのです。怪我はありませんね? では!」
シャロンの姿は颯爽としてかっこいい。
シャロンはもくもくとポットや豆を回収していく。
ずっしりと重いカカオポットの実を取った。
結構たまったこともあり、満面の笑みを浮かべ、中身を確認することにした。
「え、これはっ!」
大変素敵な木彫りカカオポットだった。
工芸品としても――という意識は全く彼女は持つことができなかった。
「模型なんですね」
食べ物投げるのもおかしいとは思ってはいたけれども。
「はぁ」
ふてくされ、ため息交じりにそれを適当に投げた。
「いで」
ケンの頭に模型カカオポットの頂点が直撃した。偶然、何たる偶然。
「ん? いい感じで寝てたのになんだ……」
頭をさすり、ケンは周りと広場の方を見る。
ちょっと、なんか恐ろしい風景も見える、かもしれない。
「……て、シャロンじゃないか」
ケンは軒から飛び降りる、木彫りのカカオポットを持って。
「今度は、カカオを集めているのか? 相変わらず――」
ケンはシャロンの頭をカカオポットでポムポムする。
言葉と行動が同じタイミングで、シャロンは驚き、慌てて振り返る。
「――食いしんぼ……ぐあっ」
ケンは言葉を最後まで紡ぐことはなく、ノックダウンされる。
シャロンが持っていた虫取り網が、振り返った際に半円を描き、ケンの側頭部にきれいに叩き込まれたのだった。
「ケン様、なんでこんなところに!? え? ちょ!?」
シャロンは倒れるケンを支える。
そのまま、ずるずると座りこみ、膝枕することになる。
(そういえば、カカオをぶつけると恋がはじまるって話だったわね。関係ないけど)
互いにぶつけ合っていることになっているのだが――気づいていない。
ケンは意識が戻ってきた。
側頭部に違和感があるため、触れようとした。
その時、手が何か柔らかい感触の物に触れる。
何だろうと思いつつ、触る。
ふにふにふに……。
柔らかい、気持ちいい。
シャロンはケンの手がもみもみしている物の持ち主だ。
胸にある、豊かなふくらみ。
何されているか気づくまで、表情が無になっていた。
何をされているか気づいて、カッと顔に血が上る。
「何をしているんですかぁああああ!」
シャロンはその手を払うように、ケンの頭を殴った。
殴られたケンは地面に転がり、また、暗転した世界に戻るのだった。
●乱投
エルナは感謝の気持ちを込めて、投げるつもりだ。できるだけ痛くないものを選ぶ。
豆やポットが置いているコーナーでわら製の豆を見つけた。それがいいだろうと何個か取った。
その横で、コハクは投げやすそうな、木製カカオ豆をいくつか手に取る。
一方のキーゼは悩みながら一応、布に包まれたカカオ豆もどきを入手する。
豆置き場から離れたところで、エルナとコハクはキーゼを前に構えた。
「では、投げ合いましょうか?」
エルナの言葉にコハクがうなずく。
「一緒に投げますか?」
コハクはうなずく。
「さあ、いきますよ、さぁ……はいっ!?」
エルナの掛け声は、最後、驚愕に変わった。
コハクが振りかぶり、思いっきり豆を投げた結果、キーゼの頬をかするように、一直線に剛速球のカカオ豆が飛んでいったからだ。
「残念……」
コハクはつぶやく。
「……」
「……」
エルナとキーゼが沈黙する。
「えっと、コハクさん……?」
困惑のエルナの言葉に、コハクはやり切った表情を見せた。
「結構、固いの選んで投げてきてますよね!?」
キーゼの言葉にコハクはうなずく。持っている木製カカオ豆を見せた。
「これ、投げやすい」
「……いやいや……」
「行くよ」
「ちょ……!」
キーゼは逃げるつもりで構えた。
コハクのカカオ豆がまたストーンと飛んでいく。
流れ弾ならぬ流れ豆に当たった人がいないのは幸いか。
なお、コハクにはキーゼに対して、当てたいけど、どこかで当てたら悪いという意識があるらしい。
「待ってください! えいっ」
エルナは豆をキーゼに軽く投げた。【ヒール】もかけてあげたいところだ。
しかし、キーゼはそれにあたるどころか逃げ出した。コハクの豆が飛んできているからだ。
「仕方がないですね……。コハクさんにも投げておきますね。えい」
愛情たっぷり籠った笑顔の投球。
藁のカカオ豆もどきは、コハクの頭にポスンと落ちた。
コハクは木製カカオ豆を、弧を描くようにエルナに投げた。
そのあと、コハクはキーゼに剛速球で投げる。
エルナが知り合いであるロイと出会った。
「ロイさんにも投げます」
「受けて立つ!」
「お友達パワー!」
藁の豆はロイにポスンと当たる。
「では、こちらもお返しの豆をいくよ」
ロイも軽く投げた。
その様子をコハクは見ていた。
「ルナママ……人気」
ただ、コハクは豆を投げる最中であった。
その結果、キーゼにぶつけるつもりはなかったはずの豆は――。
逃げ回っていたキーゼはイアハイトに出合った。
「おや、このようなところで」
「こんにちは。キーゼさん、お久しぶりです」
丁寧なあいさつを受けているキーゼは、現在置かれていた状況を忘れそうになった。
「最近どうで……っあっ」
キーゼの肩にカカオ豆が直撃していた。それだけでなく、違う角度からカカオポットが刺さったり、豆が大量に飛んでくる。
キーゼは痛みで一瞬意識が飛んだ。
「キーゼさんっ!? だ、誰かっ!?」
イアハイトが果敢にもキーゼを支えたが、下敷きになった。
「無理しないでっ!」
キーゼはあちこちさすりながらなんとか起き上がり、自分に【ヒール】をかけておく。
「怪我はないですか」
イアハイトに尋ねるとうなずいた。
「……ごめん」
コハクが謝ってエルナの陰に隠れた。
コハクがぶつけたのはどれかわからないのが実情だった。
●無事? 終了
豆やポットが飛び交う。
それも終わった。
誰が一番当てられたかなどわからない。その豆などを取っておかない限り。
消化不良のままイベントは終了したといっても過言ではなかった。
ササナはホッとしているようだけど。
トゥーリは何事もなく終わったように見えるので安堵する。
そうすると、行事とのかかわりも思い出し、チョコレートが脳裏に浮かぶ。
「チョコ食べられたらいいな」
「ぜひ、店を見てください!」
ササナに勧められた。
昼食前でよく動いたこともあり、空腹だった。
そのため、町の商店を見にいくことにするのだった。
ロイは片付けを手伝っていた。
「そういえば、ササナさんは投げなかった?」
「はい、司会ですし」
「せっかくなのに」
「いえいえ……」
「無事に終わってよかったよね」
ロイの言葉に、ササナは力いっぱいうなずくのだった。
キーゼは流れ豆以外コハクにはぶつけられていないが、結構な恐怖を味わった。
「エルナ氏も楽しめているなら何より」
付き合ってくれた相手のことを考え、ほっとした。
エルナは楽しかったようで、始終笑顔だ。
「ご飯食べていきます? コハクさんも一緒に行きますよね?」
「うん、お昼、食べたい」
「キーゼさんも行きますよね?」
「ええ、行きますよ」
キーゼはエルナの横でコハクに威嚇されたが、豆をぶつけられるわけではないので、構わなかった。
のんびりと商店がある方に向かうのだった。
ロウトフェダーはぬれた服を乾かし、町に出る。
「飯、食べてくか」
気分を発散させたのですがすがしくはあるけれども、何か疲労もしていた。
ケンは無事に目を覚まし、シャロンに「結局、何してたんだ」と問う。
「思いの丈を込めてカカオ豆を投げ合うというイベントです」
カカオ豆を集めていたということは黙秘した。
「てっきり、豆集めてんだと思ったぜ」
「……それより、ケン様は?」
「仮眠とってた。て、もう昼か、飯食いにいこう」
二人は飲食店のある方に向かうのだった。
オフレコらしいけれども……ロイ・アウレアに催しの話を持ってきたのは、キーゼだった。
ロイの記憶の中のキーゼは「恋人連れで来いよ、全力で投げつけてやるからな」と笑顔で言った。
あくまで記憶の中。
町おこしのイベントがあるのはいいことだと思うし、行く。
とはいえ、大切な人を考え、単独で。
ロウトフェダーは現在やさぐれている。
恋人はいない、想い人もなし。とはいえ、普段ならば、カップルを祝福する気持ちもある。
昨今の「チョコを交換して両思い」という流れに、持っていた自制心も流されいったらしい。
そんな中、この街のイベント。
「ふっ、大義名分を与えられたのだから、やることは一つ!」
こぶしを固め、天に突きあげた。
トゥーリは必要ならけが人は【ヒール】で治すつもりであった。
「ケガ人とかなくって安全に楽しめたらいいね!」
どうなるかわからないし、イベントの趣旨が迷走しているのが、危険な予兆でもあった。
それに見聞きして知るカカオポットの大きさ。
「大きな実だねぇ! 思いっきり投げられたらとっても痛そう」
一方で「でも、投げたり、体を動かしたりするのは面白いし、いいよね!」と考えた。
楽しいイベントになることを願う。
キーゼは日ごろ世話になっているエルナ・クルプファルツをデートに誘った。
その誘われたエルナはうきうきわくわくして向かう。
「実はデートなんて初めてです!」
キーゼを異性として特に意識はしていないとは言う。
それはともかくとして、デートという響きや喫茶の常連仲間と出掛けることも楽しい。
さて、待ち合わせ場所で合流したとき、キーゼは「誘いに快諾してくれてありがとうございます」と礼を述べる。
「そんな、楽しみにしてきたんですよ」
エルナは微笑む。
ほっとするキーゼは何かを感じ、周囲を見渡した。
「どうかしましたか?」
「いや……何でもないですよ」
エルナにキーゼは告げる。
二人は会場に向かう。
なお、キーゼを見ている目はあった。
目の持ち主はコハクであり、うきうきと出掛けたエルナをつけてきていた。
母と慕うエルナの様子から何かあると感じていた。そうしたら、キーゼと合流したのだ。
これは、母を守らねばならないと、威嚇および殺気を発してキーゼを見ていた。
しかし、状況がわからない今、割って入るわけにもいかない。
様子を見るためついて行く。
イベント会場に到着した。
その内容を知り、コハクは自分がすべきことを理解した。
●のんびり、まったり?
ケン・Z・ブラッドリーは会場となっている広場に面した店の、軒に上った。
まだ開店前の店であることや、会場に人が来る前だったため、気づいた人はいなかった。
ケンは催しがあることを知らないため、何も考えず仮眠をとる。
日が当たるとぬくもりがちょうどよく、熟睡に向かうのも良いかもしれない。
会場に人が集まり、にぎやかになっても、仮眠をとる――「実は、熟睡してない?」と問う人は良くも悪くもいなかった。
シャロン・ラ・モリエールはチョコレートが食べたいがため、カカオを投げ合うイベントがあるのを見て、虫取り網を片手にやってきた。
(地面に落ちなければセーフ、落ちても三秒以内に拾えばセーフよ!)
異様な意気込みとともに、会場にいた。
イベントの肝である「思いをぶつける」については、どうでもいいことだった。
思いをぶつける相手もいないというのが第一だが、カカオを取ることが今日の目的でもある。
ただ、彼女、一つ、重要なことを見落としているのだが――。
ロイは会場に入るとキーゼと目が合った。挨拶のあと「カップル多い」と思った。
「どちらかというと、カップルは穏やか……もてたい、もてない人は必死……という構図だろうか?」
人の様子はそう分析できそうだった。
町の男性陣の視線は女性陣に向かいつつも、外見のいい男性にもいっている。一方の、女性陣は目がうろうろしている。町の人もだけど冒険者も見ているようだ。
会場を見ていると、見覚えのある少年がいた。
「イアハイトさん?」
近寄って声を掛けるとイアハイト・シュトルツがきょとんとした後、驚いた顔をした。
「ロイさん? その節は、お世話になりました」
「いや、元気そうでよかったよ」
近況報告や雑談しつつ開会を待つ。
会場でキーゼはイベントに誘ったが、「祭りとはいえ、エルナ氏にぶつけていいか」と悩んでいた。
悩む間にまた視線を感じたため、出所を探す。その時、ロイと目が合い挨拶を交わす。
ロイが視線をそらしても、視線はあるので違うものだとわかる。
「あら、コハクさんも来ていたんですね!」
エルナが明るく言う。
キーゼがエルナを見ると、コハクがその横にいる。
無表情であるが、キーゼと視線が絡んだ瞬間「がるる」と威嚇してきた。
キーゼは冷や汗を流す。
たぶん、これは、事件が起こる、自分に。
トゥーリは待っている間、町の少女たちの視線がよく向かう先を見た。
少年は町の住民ぽいから知り合いなのだろうと思う。
ただし、エルフの男性と話しているのが見えるため、どっちに向かう視線か実はわかりづらい。
気になったので声を掛けることにした。
「おはよう」
「おはようございます」
イアハイトとロイが挨拶を返す。
「アナタは町の人?」
イアハイトの方に問う。
「あ、はい。町にある占い処で受付をしています」
「なるほど」
トゥーリはうなずいた。
つまり、占い処に来た人がイアハイトを知っているわけである。
「……なんか、視線が痛い」
「まあ、痛いですね」
ロイがトゥーリに同意した。
トゥーリとロイがイアハイトを見た。
「イアハイトさん、頑張ってよけるんだよ」
トゥーリが言うとロイがうなずく。
「え? 当たらないといけないのでは?」
真面目にイアハイトが答えるし、イベントの内容考えるとトゥーリも「確かに」とうなずきたくなる。
「カカオポット、結構大きいよ」
トゥーリは指さした。
「……本当ですね」
「うん。無理しないで避けたほうがいいよ」
「それはオレも思うよ」
ロイにもやんわり念を押された。
「はい、気を付けます」
イアハイトが緊張した面持ちで答えた。
ロウトフェダーは会場に入る。
はやる気持ちを抑えつつ、開会の宣言を待った。
待てば、待つほど、やる気があふれる。
恋する乙女の肉食獣のような視線も見える。
「これは、戦場か? 恋の迷宮を抜けるための?」
イベントの趣旨に沿ってつぶやいたところで、することは一つ。カカオを投げることだった。
開会式は主催のササナが司会をして、粛々と進められる。
そのような中、長い話をする来賓がいたり、短い挨拶で終わる来賓もいる。
「では、開始です! 思いの丈をぶつけあってください!」
宣言された。
●冒険者たちと一般少年
「いいか、逃げろよ!」
ロイは笑顔で、豆を投げる。軽く投げるとはいえ、何かの拍子でけがをさせるのも問題なので、豆もどきは柔らかいのを選んでいた。
結構、飛ばない。
それはそれで楽しい。
トゥーリはいきなり集中砲火を少女たちから受ける。
「わわっ!?」
回避はするが、さすがに、よけきれないものもあり、ゴンとかコンとかいう音がする。
飛び方も見ていると、勢いよく飛ぶモノから、ヘロヘロと弧を描いて落ちていくのがある。
豆やポットを触ると、模型やら手芸やら様々なものだった。
「これは、結構、危険だね」
一定の物で投げられるわけではないため、軌道が読めない。
「トゥーリさん、大丈夫ですか?」
イアハイトが声を掛けてきた。
「あ、大丈夫だよ……って!?」
トゥーリは必要なら盾になるとか考えていたけれども、豆礫に逃げることにした。
「ごめんねー」
「いえ、気を付けてください」
イアハイトが見送る。
次はイアハイトが標的になる。
声を掛け、ぶつけてくるが、結構本気ぽそうだ。
「いてっ」
「大丈夫?」
ロイが途中から盾になる。
「ありがとうございます」
イアハイトが困った顔になった。
「よけろよー」
ロイはイベントとして盛り上げるつもりで、少女たちの方に向かって投げた。
「避けたらイベントの意味がありませんわっ!」
「イーアさんだって、よけてません!」
少女たちが色々言う。
「その心意気、すごい」
ロイは感心した。
「で、よけてなかったのかい?」
ロイは、イアハイトに確認する。
「その……よけてみたんですけど……」
イアハイトは顔を真っ赤にした。
「あ、うん、たくさん飛んでくるとよけられないな」
「あ、はい」
試しに、ロイがイアハイトに豆を投げてみた。
動きが見えるし、よけられるだろうと思っていた。
しかし、イアハイトはよけるそぶりは見せたが大変遅かった。
ロイは何かを察した。
「とりあえず、動き回ろう」
「はい」
ロイが伝授した。
その直後、ロイに向かって、カカオポットが鋭く飛んでくる。豆も飛んでくる。
「え?」
町の少女たちがなぜか皆、ロイに向かって投げ始めていた。
「ちょ、待って、それは死ぬ! 楽しいのを投げてくれっ!」
ロイは慌てて逃げ出した。
トゥーリは自分に【ヒール】を掛ける。
豆の投げ合いを見ていると、本気で投げている人がいたり、かなり危険な雰囲気だ。
流れ豆や流れポットに当たるとそっちに向かってぶん投げる人もいる。
不穏な空気も漂うが、楽しそうにも見える。
「終わってみないとわからないね。ワタシも混ざろう」
トゥーリは元気よく向かった。
ロウトフェダーのやるきは開会直後から爆発した。
「ひゅーひゅー、お似合いだねぇ!(こん畜生が!!!)」
カップルに祝福風の言葉を言いつつ、毒は胸の奥で叫ぶ。
ただし、投げ方はかなり、攻撃的だ。
投げられた方はたまったものではないはずだが、どこか嬉しそうな雰囲気がしているのだ。
「なんでだっ!」
別のカップルにも投げるが、祝福されたという雰囲気になっているように感じられる。
豆もどきをパッと撒く。ただし、藁を丸めただけのもので、うまく投げられなかった。
「豆にまで馬鹿にされているのかっ」
ロウトフェダーは唇をかんだ。
「だ、大丈夫ですか?」
逃げ回っていたイアハイトが声を掛けてきた。
「いや、大丈夫だ」
「良かったです」
ロウトフェダーは気づいた。
彼の背後から複数の殺気があることに。
それは、少女たちが、ロウトフェダーに対して放っているものだ。
「う、そういうことかっ!」
ワッサーと豆を撒いた。先手必勝という感じだった。
少女たちはロウトフェダーに向かった豆を投げ出した。
互いに一歩も譲らない豆の応酬。
間にいたイアハイトは避難する。迫力にたいして「すごい」と言って見るだけだった。
多勢に無勢でロウトフェダーが移動させられている。噴水のそばまで来ていた。
そんななか、ロウトフェダーが投げたところカップルに当たり、反撃のカカオポットを食らう。
「うわっ」
ゴチッといい音がしたあと、ロウトフェダーの目の前を星が飛んだ。
噴水に倒れた。
「ううっ、俺の恋人は迷宮なんだからなー」
ずぶぬれになり、叫んだ。
●リアジュウ?
シャロンはカカオ豆どころかカカオポットもあることに気づいた。
「これはっ、実を取れば、効率がいいかもしれません!」
鼻息荒く投げられるものを見定める。
「それにしても、飛び方が一定ではないですね」
力がない人が投げているとかそういう感じではない。鋭い飛び方をする豆があったり、ヘロヘロとした飛び方をする実もある。
投げつけられた人が「ぎゃ」という悲鳴を上げているのも聞こえる。
「大変ですね……と見ている場合ではありません! カカオ回収です」
逃げまどうイアハイトと遭遇し、彼を守るように実を取った。
「ありがとうございます」
「いいのです。怪我はありませんね? では!」
シャロンの姿は颯爽としてかっこいい。
シャロンはもくもくとポットや豆を回収していく。
ずっしりと重いカカオポットの実を取った。
結構たまったこともあり、満面の笑みを浮かべ、中身を確認することにした。
「え、これはっ!」
大変素敵な木彫りカカオポットだった。
工芸品としても――という意識は全く彼女は持つことができなかった。
「模型なんですね」
食べ物投げるのもおかしいとは思ってはいたけれども。
「はぁ」
ふてくされ、ため息交じりにそれを適当に投げた。
「いで」
ケンの頭に模型カカオポットの頂点が直撃した。偶然、何たる偶然。
「ん? いい感じで寝てたのになんだ……」
頭をさすり、ケンは周りと広場の方を見る。
ちょっと、なんか恐ろしい風景も見える、かもしれない。
「……て、シャロンじゃないか」
ケンは軒から飛び降りる、木彫りのカカオポットを持って。
「今度は、カカオを集めているのか? 相変わらず――」
ケンはシャロンの頭をカカオポットでポムポムする。
言葉と行動が同じタイミングで、シャロンは驚き、慌てて振り返る。
「――食いしんぼ……ぐあっ」
ケンは言葉を最後まで紡ぐことはなく、ノックダウンされる。
シャロンが持っていた虫取り網が、振り返った際に半円を描き、ケンの側頭部にきれいに叩き込まれたのだった。
「ケン様、なんでこんなところに!? え? ちょ!?」
シャロンは倒れるケンを支える。
そのまま、ずるずると座りこみ、膝枕することになる。
(そういえば、カカオをぶつけると恋がはじまるって話だったわね。関係ないけど)
互いにぶつけ合っていることになっているのだが――気づいていない。
ケンは意識が戻ってきた。
側頭部に違和感があるため、触れようとした。
その時、手が何か柔らかい感触の物に触れる。
何だろうと思いつつ、触る。
ふにふにふに……。
柔らかい、気持ちいい。
シャロンはケンの手がもみもみしている物の持ち主だ。
胸にある、豊かなふくらみ。
何されているか気づくまで、表情が無になっていた。
何をされているか気づいて、カッと顔に血が上る。
「何をしているんですかぁああああ!」
シャロンはその手を払うように、ケンの頭を殴った。
殴られたケンは地面に転がり、また、暗転した世界に戻るのだった。
●乱投
エルナは感謝の気持ちを込めて、投げるつもりだ。できるだけ痛くないものを選ぶ。
豆やポットが置いているコーナーでわら製の豆を見つけた。それがいいだろうと何個か取った。
その横で、コハクは投げやすそうな、木製カカオ豆をいくつか手に取る。
一方のキーゼは悩みながら一応、布に包まれたカカオ豆もどきを入手する。
豆置き場から離れたところで、エルナとコハクはキーゼを前に構えた。
「では、投げ合いましょうか?」
エルナの言葉にコハクがうなずく。
「一緒に投げますか?」
コハクはうなずく。
「さあ、いきますよ、さぁ……はいっ!?」
エルナの掛け声は、最後、驚愕に変わった。
コハクが振りかぶり、思いっきり豆を投げた結果、キーゼの頬をかするように、一直線に剛速球のカカオ豆が飛んでいったからだ。
「残念……」
コハクはつぶやく。
「……」
「……」
エルナとキーゼが沈黙する。
「えっと、コハクさん……?」
困惑のエルナの言葉に、コハクはやり切った表情を見せた。
「結構、固いの選んで投げてきてますよね!?」
キーゼの言葉にコハクはうなずく。持っている木製カカオ豆を見せた。
「これ、投げやすい」
「……いやいや……」
「行くよ」
「ちょ……!」
キーゼは逃げるつもりで構えた。
コハクのカカオ豆がまたストーンと飛んでいく。
流れ弾ならぬ流れ豆に当たった人がいないのは幸いか。
なお、コハクにはキーゼに対して、当てたいけど、どこかで当てたら悪いという意識があるらしい。
「待ってください! えいっ」
エルナは豆をキーゼに軽く投げた。【ヒール】もかけてあげたいところだ。
しかし、キーゼはそれにあたるどころか逃げ出した。コハクの豆が飛んできているからだ。
「仕方がないですね……。コハクさんにも投げておきますね。えい」
愛情たっぷり籠った笑顔の投球。
藁のカカオ豆もどきは、コハクの頭にポスンと落ちた。
コハクは木製カカオ豆を、弧を描くようにエルナに投げた。
そのあと、コハクはキーゼに剛速球で投げる。
エルナが知り合いであるロイと出会った。
「ロイさんにも投げます」
「受けて立つ!」
「お友達パワー!」
藁の豆はロイにポスンと当たる。
「では、こちらもお返しの豆をいくよ」
ロイも軽く投げた。
その様子をコハクは見ていた。
「ルナママ……人気」
ただ、コハクは豆を投げる最中であった。
その結果、キーゼにぶつけるつもりはなかったはずの豆は――。
逃げ回っていたキーゼはイアハイトに出合った。
「おや、このようなところで」
「こんにちは。キーゼさん、お久しぶりです」
丁寧なあいさつを受けているキーゼは、現在置かれていた状況を忘れそうになった。
「最近どうで……っあっ」
キーゼの肩にカカオ豆が直撃していた。それだけでなく、違う角度からカカオポットが刺さったり、豆が大量に飛んでくる。
キーゼは痛みで一瞬意識が飛んだ。
「キーゼさんっ!? だ、誰かっ!?」
イアハイトが果敢にもキーゼを支えたが、下敷きになった。
「無理しないでっ!」
キーゼはあちこちさすりながらなんとか起き上がり、自分に【ヒール】をかけておく。
「怪我はないですか」
イアハイトに尋ねるとうなずいた。
「……ごめん」
コハクが謝ってエルナの陰に隠れた。
コハクがぶつけたのはどれかわからないのが実情だった。
●無事? 終了
豆やポットが飛び交う。
それも終わった。
誰が一番当てられたかなどわからない。その豆などを取っておかない限り。
消化不良のままイベントは終了したといっても過言ではなかった。
ササナはホッとしているようだけど。
トゥーリは何事もなく終わったように見えるので安堵する。
そうすると、行事とのかかわりも思い出し、チョコレートが脳裏に浮かぶ。
「チョコ食べられたらいいな」
「ぜひ、店を見てください!」
ササナに勧められた。
昼食前でよく動いたこともあり、空腹だった。
そのため、町の商店を見にいくことにするのだった。
ロイは片付けを手伝っていた。
「そういえば、ササナさんは投げなかった?」
「はい、司会ですし」
「せっかくなのに」
「いえいえ……」
「無事に終わってよかったよね」
ロイの言葉に、ササナは力いっぱいうなずくのだった。
キーゼは流れ豆以外コハクにはぶつけられていないが、結構な恐怖を味わった。
「エルナ氏も楽しめているなら何より」
付き合ってくれた相手のことを考え、ほっとした。
エルナは楽しかったようで、始終笑顔だ。
「ご飯食べていきます? コハクさんも一緒に行きますよね?」
「うん、お昼、食べたい」
「キーゼさんも行きますよね?」
「ええ、行きますよ」
キーゼはエルナの横でコハクに威嚇されたが、豆をぶつけられるわけではないので、構わなかった。
のんびりと商店がある方に向かうのだった。
ロウトフェダーはぬれた服を乾かし、町に出る。
「飯、食べてくか」
気分を発散させたのですがすがしくはあるけれども、何か疲労もしていた。
ケンは無事に目を覚まし、シャロンに「結局、何してたんだ」と問う。
「思いの丈を込めてカカオ豆を投げ合うというイベントです」
カカオ豆を集めていたということは黙秘した。
「てっきり、豆集めてんだと思ったぜ」
「……それより、ケン様は?」
「仮眠とってた。て、もう昼か、飯食いにいこう」
二人は飲食店のある方に向かうのだった。
マスターコメント
ご参加ありがとうございます。
謎の行事に参加した猛者たち……?
人間関係もあれやれこれや。
また、ご縁があれば、お会いしましょう。
イベントシナリオ易しい 報酬:無し8 / 4〜25人
2021年02月25日 11時27分58秒 公開
大成功
相談掲示板
職は関係なさそうだが、シューターのロイ・アウレアです。 「ぶつけてやるから来い」と熱い誘いを受けてきました。 オレ……恋人が居るから、ぶつけられても困るんだがなぁ(キラリ笑顔で、フラグ) っと、言うのはネタで、ぶつけなくて良いからっ! まともに受けたらコロサレルよね?ってメンバーしか見当たらないので 豆まき感覚で楽しく行きたいな。 ほらっ、これを見てる人~一緒に遊ぼう(カモーーンッと手を振り)
シャロンです。 今回はケン様と行動しますね。
ロウトフェダーだ、飛び入りですまない、よろしく! 豆をぶつけに行きます。 お、ロイもいるのか、よろしくな! ロイは恋人いるんだよな! 大丈夫、コロサナイので安心してくれな!
トゥーリだよ、よろしくね! ワタシは特に投げる相手もいないから、同じような人がいたら投げてもらう相手になれるように「投げつけられ役」でいこうかな!
増えたね! トゥーリさんはイベシナぶり、ロウトさんお手柔らかに( シャロンさんは…お幸せに? うむ、コロサナイデ、ネ、みんなで楽しく行こう~。