邪悪なるゴブリン

馬車猪

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シナリオID:447

オープニング

「お客様やめてください。ゴブリンのお客様ぁ!!」
 体格の良い店主とゴブリンがもみ合っている。
 ゴブリンは全裸に近い。
 動くたびに垢か泥か分からないものがぽろぽろと落ちて、控えめに表現して非常に汚らしい。
「お客様っ?」
 1年前なら問答無用で殴りつけ、村の若いのを呼び寄せて殴り殺していた。
 しかし冒険者であるゴブリンによって身内が助けられたことがあり、今ではすっかり親ゴブリンだ。
「あんたっ、ソレって蛮族のゴブリンじゃないのかいっ」
 宿の女将が気付いたときには既に遅かった。
 テーブルからナイフを奪ったゴブリンが、悪意と殺意で満ち満ちた表情で切っ先を全身で押し込んだ。
「いでぇっ」
「うちのボロナイフが刺さるかこのバカ亭主っ!!」
 女将が椅子を振り上げてフルスイング。
 衝突の瞬間椅子が激しく歪んで、ゴブリンの首が不自然な方向に曲がる。
「逃げるよあんたっ」
「け、けどよっ」
 店主は自分の腹ほどの背丈しか無い妻を見下ろす。
「俺、他のゴブリンを2階にあげちまったんだ」
 この店は食事と酒で食っている店であり、泊まり客は滅多にいない。
 今2階にいるのはゴブリンだけだ。
「壊されたり汚されたりしたらっ」
「しっかりおし。命あっての物種だよ!」
 つま先立ちになって頬をはたく。
 結婚してから初めて振るわれた暴力によって、店主の混乱がおさまり若い頃の気分が甦る。
「すまねぇ、腑抜けてた」
 眉間に皺が寄り、料理で鍛えられた腕の筋肉が盛り上がる。
「村長の家に行くぞ」
 妻を両手で持ち上げ、太い両腕で庇うように抱きしめる。
「ちょっ、あんた」
「村長への説明は頼む。俺ぁ、頭悪いからな」
 ゴブリンの死体を無視して宿の玄関を空ける。
 そこには見慣れたのどかな風景ではなく、罪のない男女が血を流す地獄の光景が広がっていた。
「なっ」
 すぐに気弱な店主に戻ろうとする夫を、昔から肝が据わっている妻が叱咤する。
「村長の家! まずはそれだけ考えな。あんたらも呻いている暇があるなら立って逃げるんだよっ!!」
 混乱しきった状況で、堂々とした態度をとり明確に方針を示す。
 村の老若男女が立ち上がる。
 ゴブリンが家屋に入り込んでいるのを無視し、家族や隣人と支え合って避難所でもある村長宅を目指す。
「おのれゴブリン……。私とハニーのおうちを……許さん」
 夫に庇われたままの彼女が漏らす言葉は殺意がたっぷりで、夫は青い顔で冷や汗を流していた。

●防衛戦
 石が飛ぶ。
 防衛側の人間達は蛮族ゴブリンと比べれば体格が良く、しかも丘の上から投げているのでかなり優位だ。
「ひぃっ」
 だが数が違う。
 自身を妻の盾にする宿屋の主人や、その背後から猛烈に投げまくっている女将がいるが数の差は補えない。
 村人が投げる腰の入っていないへろへろ弾は、ほとんどゴブリンに当たらず当たっても浅い打撲だけだ。
「来るわっ。男共は武器を構えなさいっ」
 自身も麺棒を構えようとした女将が近所の奥様によって村長宅に避難させられる。
 宿屋の主人が真新しい建材を両手で抱え上げ、丘を駆け上る蛮族共に対してフルスイングする。
 へっぴり腰だ。
 そして、ゴブリン達もへっぴり腰だ。
 冒険者のように気合いが入った戦士は少数派であり、人間も蛮族も傷つけたくはあるが傷つきたくはないのだ。
 奇妙な均衡は日が落ちる直前まで続き、少数の怪我人を出しただけで双方それぞれの拠点に戻っていった。

●討伐依頼
「ゴブリンが出ました」
 冒険者ギルドの職員は淡々と説明する。
「当たり前ですがゴールディのゴブリンは含まれていません」
 人類と致命的な水準で利害が衝突する、蛮族のゴブリンだ。
「場所は王国の田舎。細い街道が通っている村です」
 毛皮や木材目当ての隊商がたまに通過するような、田舎町と田舎村の中間の集落だ。
「近くの森から現れたゴブリンに襲撃されました」
 最初は不意を打たれたとはいえ襲撃慣れした村だ。
 村長宅で集合して武装を身につけ、反撃を開始してからは大きな被害は出していない。
「速やかに現地に向かいゴブリンを排除してください」
 言い終えた後、小さな声で続ける。
「もとはゴールディのゴブリンに対しても悪意を隠さない村でした」
 様々な理由で悪意をなくして態度を改めたタイミングでのゴブリン襲撃だ。
 放置すれば蛮族ゴブリンも冒険者ゴブリンも区別せず憎む村になりかねない。
「あくまで独り言ですが、ゴブリンの授恵者の評判を上げる形で依頼を成功させると、いろいろな方面から感謝されると思います」
 目的は蛮族ゴブリンの撃退であるが、様々な目的を同時に達成可能な依頼らしかった。

解説

■成功条件:蛮族ゴブリンの撃退または殲滅  10体倒すか、10体倒す以上の精神的ダメージを与えれば撤退を試みます。 ■戦場  1.村長宅がある丘のその周辺。村人は全員ここ。非武装ゴブリンが包囲中。  2.ゴブリンリーダーが休憩中の宿屋とその周辺。軽武装ゴブリンもいます。  3.村の近くの森。戦闘開始時点ではゴブリンはいません。撤退するときはこの森の奥へ逃げようとします。 ■討伐リスト  具体的な数はプレイヤー情報です。 ・非武装ゴブリン  戦闘力は授恵者と比較すると非常に低いですが、最も貪欲なゴブリンです。  放置すれば村人が家の中に隠していた食料を食い尽くし、衣服等も奪い尽くしてしまいます。  様々なものを抱えているため、普段よりさらに動きが鈍くなっています。  22体。移動:2 ・軽武装ゴブリン  村の家屋の略奪で手に入れたナイフや鉈を装備したゴブリンです。攻撃力だけが高め。  比較的リーダー格の言葉を聞きますが、しょせんは蛮族ゴブリンです。  8体。移動:3 ・体格の良いゴブリン  リーダー格です。  授恵者ゴブリンはもちろん、ゴールディのゴブリンにも頭脳では全く勝ち目はありません。  しかしヒューマンの成人男性に近い身長と体重を持ち、白兵戦闘限定ですが授恵者に迫る戦闘力があります。  2体。移動:4 ■他 ・村長  村人の指揮の維持と暴走の阻止に専念しています。  指揮は宿屋夫妻に丸投げ中。 ・宿屋店主  腕力はありますが性格は戦闘に向いていません。そろそろ体力と気力の限界です。 ・宿屋女将  元気。村人の中では最も投擲が得意ではありますが、シューターと比べると素人同然の技量しかありません。

マスターより

 ゴブリン限定依頼ではないので、様々な種族の冒険者の参加を待ってます!

リプレイ

●
 澄んだ瞳は高い知性を感じさせ、引き締まった口元は強い自制心の現れだ。
 体格、骨格、体色の全てが蛮族ゴブリンと同じで、しかしそれ以外の全てが違っている。
「依頼を受けた冒険者だ。よく持ち堪えてくれた」
 ゴブリンであるのに絶対に蛮族に見えないテテリカに村長以下全員が混乱していた。
 テテリカがエーテルで光弾を1つ生み出し矢をつがえ、素早く前線へ撃ち込む。
 大柄な村人とやりあっていた蛮族達の足下から、薄いのに効果の強い煙幕が噴き出し動きを乱した。
「冒険者ギルドのゴブリン?」
「そうだ。そこの青年、一旦丘の上まで戻って治療を受けろ」
 意識して力強く断言する。
 そして、2階から糸を垂らして針の穴に通すような精度で、人と人の間に矢を通過させ蛮族の腕を貫かせる。
 振りかぶられた緑の腕から、そのままなら青年の命を奪っていたはずのナイフがこぼれ落ちた。
「我、ゴールディのゴブリン『叡智の探求者』ストレガ也!」
 大音量である。
「無辜の民に助太刀致す! 蛮族に呪いあれ!」
 渦巻く魔力は非授恵者にも感じられるほどだ。
 丘を半包囲しているゴブリンの半数近くが、ストレガ・L・リベルガストラのエーテル光に照らされ前進も後退も出来なくなる。
 時間制限があるとはいえ、10体近くをまとめて無力化完了だ。
「すまぬが荷物まで無傷とはいかぬ。細かな狙いをつけるのはまだ無理なのだ」
 無数の小さな光弾を作り上げ、直線に足止めした蛮族とは別方向に撃ち出す。
 略奪品である食べ物と着る物を抱えた蛮族達が、7割ほどが脚に、2割ほどが腰を中心に、残る1割が頭や上半身に深手を負って悲鳴をあげた。
「ゴブ……リン?」
 ストレガの角に気付いた村長が呆然とする。
「うむ。祖たるストレガに連なるゴブリンである。ゴールディのゴブリンは今も良き隣人なのだ。そして蛮族たる同族に対する処置もまたヒト族と同じなのだ」
 混乱した相手に本音であると同時にプロパガンダでもある内容を囁く様は、まさしく文明人であった。
「冒険者ギルド所属、放浪騎士のシュロだ! 村人さん達、助けにきたぞっ!」
 小柄な少女が身の丈ほどもある大剣を軽々と振り回す。
 鋼の大剣を覆う光は眩いのに目を痛めず、しかし肌が痛いほどの威圧感を感じさせる。
 シュロは、ストレガにより手傷を負った集団に狙いをつける。
「そこっ!」
 斬り捨てられたのは蛮族ゴブリン1体のみ。
 しかし剣を覆う光は雪崩の如く地面を打ち据え、広がる衝撃が負傷ゴブリンに致命傷を与えていく。
「えっ」
 授恵者の腕力は見た目によらないとはいえ、シュロ程に極端な存在は珍しい。
 村人は混乱したまま、しかしようやく助かったことを実感しつつあった。
「見えているぞ」
 ストレガ達後衛を狙った投石をレイ=レーベンス=レックフォードが打ち落とす。
 丘の上という有利な地形にいて、しかも五感を駆使して俯瞰で観ることの出来るレイは敵味方の動きに気付き易い。
 大柄ゴブリンによる渾身の投石が、レイの大太刀に打ち落とされて地面に転がる。
 ようやく移動封じから抜け出した軽装ゴブリンがレイを避けて村人を狙おうとするが判断も行動も遅い。
「レイ=レーべンス=レックフォード。いざ参る」
 すらりとしているのに逞しい背中は村人に安心感を与え、扱い辛いはずの大太刀を体の一部として扱う様は蛮族を恐怖させる。
 1匹が恐怖に耐えきれなくなってレイに向かい、拳を空振りさせレイの攻撃を引きつけることも出来ずたたらを踏む。
 旋回する大太刀が、シーザーロアの影響下にない蛮族から1匹ずつ斬りつける。
 体格と腕力と剣技の差は残酷なほどで、一太刀ごとに大量の血が零れ丘の土を汚すのだった。

●
 略奪した建物から顔を出した蛮族ゴブリンを出迎えたのは、非現実的なほどの美貌と稲妻を思わせる速度の狙撃であった。
 光の矢が額に直撃。
 頭蓋は貫かれず、森の中で鍛えられた下半身が衝撃を吸収するがいきなりの攻撃に混乱する。
「俺たちがあなた方の啓蒙の光となって差し上げますわ」
 恐るべき速さと美貌を持つバンビは、種族としてはゴブリンである。
(たとえ同族と言えどもゴールディかそうでないかによってゴブリンはこうも違うのか)
 こんなゴブリンが跋扈している現状では、ゴブリンに対する一般的な態度を偏見と非難するのは難しいかもしれない。
(この村は十分に理性的。だが如何に理性的とはいえ長年の嫌悪感情は一朝一夕には拭えないものだ。少しずつ啓蒙していくしかないのだ)
 だから蛮族ゴブリンを倒す実績を積み重ねる。
「さっさと啓蒙されてしまいなさい。さもなければとく速やかにお逝きなさい」
 威力は平均的でも術の発動までの時間は壮絶なほど短く、ボスゴブリンと合流しようと駆けてきた蛮族達をバンビの氷嵐が襲った。
 ボスゴブリンが吼える。
 様々な意味の欲望をバンビに向けて手を伸ばし、しかし届く前に盾で払われ鋼の刃を突き出される。
 授恵者に匹敵する速度で飛び退くが、イヴェール・イリュジオンの踏み込みはボスゴブリンの後退速度を上回っていて剥き出しの緑色の胸に浅くない傷を刻んだ。
「やりますね」
 見事な突撃をみせつけたイヴェールが、攻撃から防御に切り替える。
 反撃のゴブリンパンチは鉄槌の一撃に等しいのに、装甲の厚さと防御の巧みさを兼ね備えたイヴェールは傷らしい傷も負わない。
 蛮族の長は、己がシーザーロアの影響下にあることに気付けなかった。
「ゴールディのゴブリン達からしてみればたまったものじゃないわね。同じ種族同士でもこれだけ違うなんて……」
 セリーヌは、口から出かかった不憫という単語を頑張って押し止める。
「ま、まぁ私的にはゴブリンの評価はどっちでもいいのだけれども! いずれにせよ、生かして返すわけにはいかないわね」
 彼女が狙うのは宿の玄関で激戦を繰り広げる大柄ゴブリン、ではない。
「2階の部屋だけであんなに」
 日の当たらない側の窓の向こうに小さな人影が見える。
 視認の難易度は高いが暗視が得意なセリーヌにとっては簡単で、中途半端に開いた窓の中へ次々矢を打ち込んだ。
「掃除が大変だけど、勝つのが最優先だから」
 矢に弧を描かせる。
 何本もの矢が緑色の体に突き刺さる。
 濃い血の臭いをさせながら反対側の窓から逃げようとして、セリーヌの飼い狼に吠えられて驚き窓から転がり落ちた。
 冒険者という強敵は最高の教材でもある。
 戦闘開始直後と比べると明らかに精度を増した体当たりが、イヴェールの盾に強い衝撃を与えて数歩の後退を強いる。
 ボスゴブリンが前進。
 宿の出入り口に通過可能な空間が出来て、そこへ矢傷だらけのゴブリン達が殺到した。
「平和な村を襲うような蛮族ゴブリンに情けは無用! キッチリぶっ飛ばすよ!」
 ピンクの髪が元気よく揺れる。
 ニーラ・メッコはエーテルを使って光り輝く球を作り上げ、そこから放たれた光が蛮族達の足に絡みつく。
 その効果は速度を落とすだけ。しかし、戦いの場での速度の低下は即座に死に繋がる。
 逃げることも追いかけることも出来なくなるからだ。
「お前達が悪いゴブリンだね! 村の財産は村の人達の物だよ! 勝手は許さないよ!」
 杖をつきつけるニーラに、ボスゴブリンを除くゴブリンが怯えて略奪品をその場に放り出す。
 そうすると移動速度が上がり、スタティックフィールドの影響下でもなんとか動けるようになった。
「ニーラ☆バレットをくらえっ!」
 直前の術とは大きさも性質も違う光弾を大量に発生させる。
 個々の威力は小さくなる術だが、ニーラほどの魔力があれば高威力の広範囲攻撃と化す。
 汚れた緑色の肌に次々と光弾が突き刺さり、蛮族の命を瞬く間に削り取った。
 ボスゴブリンが突進する。
 狙いは同族を大量に傷つけたニーラだ。
 ニーラ強力なキャスターではあるが物理攻撃に対する防御力は弱く、この一撃が直撃すると本当に危険だ。
「あなたの相手は私です」
 イヴェールが割り込みボスの攻撃を盾で受ける。
 重装備の前衛であるイヴェールにとっても痛い攻撃のはずなのに、イヴェールは痛みに耐えるだけでなく深刻な状態になっていない。
 以前の攻防でつけたはずの傷がイヴェールから消えていることにボスゴブリンが気付く。彼女は自らを癒やす術も使えるのだ。
「悪を生かす理由は無いので殲滅します」
 正式な宣戦布告もなく戦いを仕掛け奪うのは蛮族であり悪だ。
 慈悲を与える理由など存在せず、イヴェールの猛攻が大きなゴブリンの五体に傷をいくつもつけていく。
「悪に施す慈悲はありませんので」
 ボスゴブリンの士気が崩壊する。
 全てを捨てて逃げる背中を、イヴェールの剣が切り裂いた。
 だがまだ死なない。
 森まで逃げて逆襲の機会を待とうと、全ての力を絞り尽くして必死に駆ける。
 しかしその程度では全く足りない。
「村人相手の点数稼ぎに付き合ってもらいます」
 バンビが発生させた氷嵐が体力と生命を弱めていく。
 耐えて走っても嵐から抜け出せず、やがて足が萎えて前のめりに倒れる。
 氷嵐の最大射程は弓ほどではないが長大であり、短時間駆けた程度では射程から抜け出せないのだ。
「啓蒙活動の一環ではあっても矢面には立ちたくないのだわ」
 バンビはフードの位置を直す。
 角を隠すとゴブリンにもゴブリナにも見えないバンビは、彼女の言うとおりゴブリンイメージ改善作戦には不向きな存在かもしれなかった。

●
「お前の相手はこの私が行おう」
 レイは大柄ゴブリンの動きを見切っている。
 一度足を止めることで空振りを誘い、攻撃直後の蛮族に鋼の大太刀を突き立てる。
 決して浅くはないが、予想以上の生命力を手のひらに感じた。
 蛮族が何かをしゃべる。
 意味は全く分からないが明らかに言語であり、近くの民家から鉈や包丁を持ったゴブリンが次々飛び出してくる。
「お前の相手は私だと言ったぞ」
 この程度なら問題ない。
 レイはエーテルを使って加速し、撤退しようとした蛮族ナンバー2を後ろから刺し貫く。
 刃は骨と骨の隙間を貫通して、蛮族の胸から切っ先が突き出す。
 壊れた肺へ血が流れ込み、生き延びれば大きな勢力を築いたかもしれないゴブリンが自らの血で溺死した。
「宿屋はココで、村長さんの家はココ。村の近くに森があるんだね。ふむふむ」
 まだ戦いの音が響く村の中で、ニーラが自作地図を手に考えている。
「森に逃げる気?」
 重装鎧を装備したシュロが、大きな音をたてながら森へ侵入。
 さらに大きな音をたてて枝や根を踏みつぶし、奥へ逃げようとするゴブリンへ一気に迫る。
「全て置いていけ」
 大剣を振るうには狭い空間だ。
 が、シュロは精度を重視した素早い一撃を繰り出し、ゴブリンの無防備な背中を文字通り粉砕する。
 小麦が入った袋が地面に落ちるが回収している暇はない。
 追跡劇では、移動に専念可能な逃亡側の方が有利なのだ。
「後……4つ!」
 シュロの鋭敏な聴覚が逃げ続けるゴブリンの位置を特定する。
 直線距離では短いが障害物が無数にある。
 邪魔な枝を力強い一撃で切り落とし、もう1体のゴブリンを斬り殺した時点で他の3体との距離が離れ過ぎていた。
「頼んだぞ」
 だがシュロは慌てない。
 冒険者ではない戦力が、予めこの森に待機していた。
 エーテルの波が森の木々を貫通する。
 対生物用に整えられた波は、ゴブリンの位置を特定してからセリーヌの元へ跳ね返る。
「一匹も逃がしてやらないから、安心して」
 セリーヌの目の前には古木と手入れされていない茂みが密集していて、強行突破すれば森林資源に大ダメージを与えることになる。
「いきなさい!」
 だが手段はある。
 エーテルリンクで繋がったペットに情報を渡すと、ゴブリンを遮る位置へゆっくり歩いて両手を広げる。
 授恵者であるセリーヌには劣るが比較出来る程度には強く、蛮族通常ゴブリンなら単身で粉砕可能な戦力。エーテルリングで繋がった狼だ。
 移動速度に優れているため行く手を遮るのは得意であり、移動速度に劣るゴブリンでは突破困難だった。
 たん、と軽い音がする。
 飛翔する矢のエネルギーが、見事に貫通力に変換された証だ。
(5歩後退。焦らず長期戦のつもりで)
 テテリカがエーテルリンク越しに命じると、ゴリラは蛮族との抗戦は避けて退路潰しに専念する。
 背中に矢が刺さったままの蛮族が別の撤退路を探そうとして、次の矢がとすんと突き刺さる。
 テテリカは、身の丈をはるかに超える強弓を見事に使いこなしている。
 そこに、大きく迂回したセリーヌが放つ矢が加わる。
 木の弓なので威力は控えめだが2方向からの攻撃だ。
 蛮族が木々を盾にしようとしても片方の防御は出来ず、一方的に撃たれて血を失う。
 森が静けさを取り戻すまで、1分もかからなかった。

●
「お前達では足りないのだ」
 ストレガは、幼児にも分かるはっきりとした口調で宣言してから刃を押し込んだ。
 止めを刺された蛮族が、何故という思いを表情に残したまま絶命する。
(ゴブリン族というだけで迫害されない安住の地を作る。私達は先達のその方針に賛同しているのだ)
 ストレガを疑う村人は、既にいない。
「そのゴリラは我々の仲間です」
 雪男風のゴリラを見て驚く村人に、テテリカが穏やかな言葉を選んで声をかける。
「戦闘中の協力に改めて感謝します。おかげで後ろを気にせず戦えました」
「危機が迫ればまた呼ぶといいのだ」
 理性的な2人は、村人が持つゴブリンのイメージを一変させるのに十分な存在だった。
「ゴブリンを差別しなかったのは偉いけど、ゴブリンだから何でも許したのは間違いだったな」
 汚れて使えなくなった敷物を宿屋から運び出したシュロが、他の村人に聞こえない距離と位置から声をかける。
「人だろうとゴブリンだろうと悪い奴は悪い奴。相手の行動を見て応えるのが大切だと思うぞ。……慣れるまで大変だろうけどな」
 大男が落ち込んだ顔で頭を下げ、妻に慰められていた。
 イヴェールが片付けの手を止めた。
 村人達はとっくに疲労困憊で力尽きている。戦闘の緊張は凄まじく体力を消耗させるので、イヴェールのように戦闘直後から平然と力仕事を続けることは出来ない。
 ニーラによって武勲詩が奏でられる。
 時間的制約があるため既存の作品の単語を入れ替えたものだが、村人の奮闘や冒険者の活躍を格好良く表現した詩になっている。
「冒険者ゴブリンの活躍で、村は救われたのでした!」
 村人達が歓声をあげる。
 村長宅の戦いにはニーラがいなかったことに気付いている冒険者達は、大人の態度で気付かないふりをしていた。

 こうして、ゴブリン嫌いだった村がまた1つ、親ゴールディゴブリンの村へ変わったのであった。

マスターコメント

 蛮族殲滅完了!  村の懐柔成功!!  おめでとうございます。素晴らしい成功です。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2021年01月07日 14時41分45秒 公開

成功

相談掲示板

  1. ニーラ・メッコ

    キャスターのニーラ・メッコです。 よろしくね!

  2. バンビ

    ハイスピード・キャスターのバンビですわ。 よろしくしてくれてよくってよ。

  3. ストレガ・L・リベルガストラ

    ロースピードにするキャスターのストレガなのだ。 宜しくなのだ。

  4. テテリカ

    シューターのテテリカ。 よろしく頼む。 ……こんな短い挨拶なのに噛んでしまった(下の投稿で誤字)。

  5. シュロ

    放浪騎士のシュロだ。クラスはファイターだぞ! 悪いゴブリンは本当にどこにでも沢山現れるな。 とりあえず考えないとなのは、村長宅に行くか、宿屋に行くかか? 村長宅のほうは弱いのしかいないけど数が多いから、範囲攻撃を持ってる方がよさそうだな。 宿屋の方は戦えるゴブリンがいるみたいだし、どう戦うかは考えないとな。あと宿屋を壊さないように注意か? ゴブリンが逃げ出して行きそうな森のほうは……何か腹案があればって感じか?

  6. イヴェール・アーチボルト

    ウォーリアのイヴェール・イリュジオンです。 どうぞよろしくお願いいたします(ぺこり) まず決めておきたいのはゴブリンを撃退するか殲滅するか、どちらを前提にしてどう人を分けるかでしょうか? 撃退であれば退路になる森に人を配置する必要はありませんので、その分を他に回す事が出来ると思います。 逆に殲滅であれば最低二人は必要になってくるでしょうか? そして殲滅であれば村長宅と宿屋、手分けをして両方に向かう必要があると思います。 一方だけに仕掛けた場合、もう一方が逃げ出す可能性もありますので… 村長宅側はそうですね、範囲攻撃があると私も良いと思いますが、色んなものを抱えてるそうなので、それらを取り返す事を考えるのであれば火などは使えないかも知れませんね… あとはゴブリンの授恵者の評判を上げる形を望むのでしたら村長宅側にはゴブリンの方に行って貰った方が良さそうでしょうか? 村人たちの目に触れる場所で蛮族のゴブリンと戦って頂ければゴブリン全てが悪、という評価は避けられると思います。 あとは戦い方次第でしょうか…

  7. ストレガ・L・リベルガストラ

    範囲攻撃ぶっぱなすので村長卓のほうには私が行くのだー 特性は逃走防止のスタティックとアーケイン アクションは指摘の通り荷物の全滅は避けたいしメテオライトとタイダルストリームでいくのだ 逃がすと戻ってくる可能性高いから殲滅がいいのだ これだけ数いるなら集落もあると見るのだ

  8. テテリカ

    >殲滅か撃退か どちらかというと殲滅の方針だが、皆の意見にも合わせる。 今後の襲撃を予防するために、撃退の流れでも最低限リーダー格2体は討伐した方が良さそうだ。 >村長宅、宿屋、森 俺は範囲攻撃を用意して村長宅にいこうと思う。戦場は屋内というより丘のようなので、弓でも戦いやすそうだ。 森には俺と別行動で相棒の獣に待機してもらう手もある。単独行動はリスクもあるが……。 ZOC能力のあるゴリラ、独撃が得意なイノシシ、敵と距離をとって魔法攻撃ができる大鼬あたりが適任だろうか。

  9. レイ=レーベンス=レックフォード

    ウォーリア のレイ。 よろしく頼む。 殲滅に手を上げておくよ。

  10. シュロ

    >撃退or殲滅 今回の敵は、ゴブリンかどうか以前に、ただの賊だろう? 数が多すぎて倒し切れないってわけじゃないなら、殲滅でいいと思うぞ。 >各クラスと班分け 今回の参加メンバーのクラスはこんな感じだな。 前衛はちゃんと壁役も意識しないとダメかもな。 ウォーリア 3 キャスター 3 シューター 2 因みに現在の行先表明はこんな感じだな。 ●村長 ストレガ キャスター テテリカ シューター ●宿屋 >個人 私はウォーリアの中でも防御型だからな。どっちに行っても壁役を任せてくれていいぞ。 村長の方に行くなら範囲メイン、宿屋に行くならデバフ込みかな?

  11. イヴェール・アーチボルト

    方針としては殲滅で良さそうですね。 殲滅であれば逃げ出したゴブリンがいれば積極的に追撃して排除、また退路にも足止めなり人が欲しいいところですが… まぁ退路の森に関しては移動力のある宿屋側のゴブリンを逃さず殲滅すれば、残りの村長側のゴブリンは抱え込んでいる物を捨てて逃げに徹さない限りは追撃可能でしょうか。 テテリカさんの相棒に待機して貰うのであれば、無理はさせず足止めに徹して貰うくらいがいいのかも知れませんね。 クラスは回復手段に乏しいのでヒールは一応持ってる方は持っておいた方が良いかも知れませんね…特に宿屋側は。 私は宿屋側にいきましょうか。 人数の振り分けはどうしましょうか? 4・4で分かれるのか、5・3とかどちらかに偏らせるのか…偏らせるとしたら宿屋側が多めでしょうか?

  12. ニーラ・メッコ

    蛮族ゴブリンをやっつけるのと、 ストレガさんとバンビさんとテテリカさんに大活躍してもらって 冒険者ゴブリンの評判を高めればいいのね。 まぁ、蛮族ゴブリンをやっつけたら自動的に大活躍って感じになるんだろうけど、 村人達によりアピールできるようにできれば……いいな。どうしよ。 二手に分かれるなら、私は宿屋側を希望しておくね! 人数比はみんなの希望次第でいいと思う。 2:6とか偏りすぎたらアレだけどね。

  13. テテリカ

    俺もヒールを持っていくことにしよう。 森の見張りはゴリラに頼む。 活躍するという方向性ではないかもしれないが、村人にも安全な場所からこの戦いに参加してもらう、というのを考えた。 数人の冒険者で22体の敵ゴブリン全員の動きを把握するのは難しそうだ。 村人に逃げそうな素振りの敵を教えてもらい、遠距離攻撃でその敵を倒すとか。 冒険者ゴブリンと協力して敵性ゴブリンを倒したことで村人に信頼感を持ってもらえれば……と。 他にもアピールの工夫があれば色々やってみるのも良いと思う。

  14. セリーヌ

    遅れてごめんなさい、シューターのセリーヌよ。 私は宿屋側を希望するわね。 それなら、シューターのバランスが取れると思って。 あとは、森に逃げようとするゴブリンをお掃除すればよろしいのかしら? 冒険者ゴブリンの評判を高める為に、私も裏で頑張るわね。

  15. シュロ

    >班分け それじゃあ私は村長側に行っておくな。 ●村長 シュロ ウォーリア ストレガ キャスター テテリカ シューター ●宿屋 イヴェール ウォーリア ニーラ キャスター セリーヌ シューター

  16. イヴェール・アーチボルト

    宿屋側は可能であれば初手は他の家屋の影などから奇襲を狙ってみましょうか… リーダー格が宿屋の中で休憩しているのであれば、その周辺か中で軽武装のゴブリンがうろうろしてそうですし。 リーダー格が出てくる前に先手を取って数を減らせるのであればそれに越した事はありませんしね。 宿屋から出てきたら私はリーダー格の対処を優先するので他をお任せする事になると思います。

  17. バンビ

    俺は宿屋側の対応に廻りますわ。 基本は範囲攻撃で派手にコロコロ吹っ飛ばしてやろうかと思いますの。 ●村長 シュロ ウォーリア ストレガ キャスター テテリカ シューター ●宿屋 イヴェール ウォーリア ニーラ キャスター セリーヌ シューター バンビ

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0