この牛柄のカードをどうしよう?
韮瀬隈則
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シナリオID:434
オープニング
「お疲れさまっしたぁ!」
ここはリブラネスタの倉庫街。
とある運送業者の作業場で、聖霊節のかきいれ時から解放された冒険者数名と配達員たちが、売れ残りのエールとワインをひっかけ同じく売れ残りの菓子を頬張って、ささやかな『お疲れさま会』に湧いていた。
通常通りの手紙や荷物の配送業務のほかに、この時期、聖霊節のプレゼント交換を配達で行う需要やら、年内に仕入れや買い物を済ませたい需要やらが重なって、とにかく目の回るような忙しさだったのだ。
冒険者ギルドから助っ人をたのみ、やっと、やっと配り終わった手紙に荷物。
そりゃぁ、打ち上げもやるし無礼講にもなるというものだ。
「おやっさんのシメが、そういやまだだな」
古参の配達員が首を傾げた。
社長のおっさんのシメの一言がなくてこのどんちゃん騒ぎは終われない。
もちろん、冒険者だって帰れない。
「さっき来た冒険者ギルドのおネェちゃんと印刷工房のジジイが、おやっさんを事務所に引っ張り込んで、そのままウンともスンとも言ってこねぇんだよ」
「え? それじゃ俺たち居残りのまま放置かよ?」
「誰か様子を見に行きなさいよ。正直、とっとと帰りたいっていうか、厭な予感がするからズラかりたいんだけど?」
おまえが行けよ。いやお前が。
そんな押し付けあいがほのぼの繰り広げられるなか、突如、バタンと事務所のドアが開く。
(あ、これ。厭な予感があたるヤツだ……)
――案の定。
「おまえらに年末年始に売りさばいて配って貰いたいものがある! だが、ソレがなんなのかは未定だ!」
おやっさんが印刷工房の爺さんの抱えた箱の中身を掲げ、よくわからないオーダーを冒険者と配達員たちにつきつけた。
●
配達員が箱の中身を1枚、つまみ上げて小首をかしげる。
手のひらサイズの厚手のカードに黒でブチ柄が印刷されているのが、凡そ、3000枚。
白地に黒く大きなブチ……?
「牛の柄、っすか?」
「いや、パンダ柄だそうだ」
はてな?
配達員の疑問が深まる前に、印刷工房の爺さんが涙ながらに訴えた話はこうだ。
聖霊節に合わせてさるGP教信徒からカードの大量注文がはいり、爺さんは急いで木版を彫り印刷を済ませ納品したのだという。が、しかし、待っていたのは不良品としての返品であった。ということらしい。
「パンダのしっぽは黒ではなく白だと……」
慌てて刷りなおしての納品で事なきをえたものの、残ったのは無駄に良い紙を使った白地に黒のブチ柄のカード。その数、3000枚。借金してまで誂えた高級紙である。原価分、いや、売価の半額だけでもなんとか金に換えていただけないか、でなければ自分は年を越せない。
そう肩を落とした爺さんに同情したのが、冒険者ギルドの受付嬢と運送業のこのおっさん。なんとかなる、なんとかする、ノープランだけど。
で、いまこの状態である――。
「親方が言うにはね、高級なカードなんだから、お値段次第で手紙に使いたいってお客さんは必ず居る、と」
「問題は、爺さんの懐具合のためにこの量を年末年始までに売りさばかねばならないこと。そして配達業としては、とっとと手紙として消費してもらうかコレクションとして死蔵してもらうのが後腐れがなさそうだと考えていること」
ほか、なにかあったかしら?
受付嬢が聞き取りメモを開いて首をかしげる。
そろりそろりと足抜けを図った配達員が、「畜生! 外から閂掛けられてて逃げられねぇ!」と悪態をつくのを、さらりと流し、受付嬢はにこやかに言い放つ。
「そういうわけですので冒険者の皆さんはアイディア出しと、実際の販売をお願いね☆ 配達員の皆さんは参考意見だしてもらわないと、いざ手紙として配達ってときに苦労するかもしれないから、ちゃんと物申してね☆」
うふふんあははん。
思いっきり丸投げ暴投しやがった受付嬢はさておき――。
爺さんは気の毒だ。俺たちはもっと気の毒だ。と、冒険者と配達員は顔を見合わせ溜息をついた。
解説
マスターより
リプレイ
「牛柄のカードだ!?」
ちょっとまて、見せろ見せろと、ダレまくった配達員たちをかき分けて大柄な牛のハーフビーストが箱と爺さんのまえに躍り出る。
「ちょっ……あたしもあたしもーっ」
慌てて追ってくるそっくりなハーフビーストの冒険者に、やっぱり双子だなぁと顔見知りらしい配達員が変な感心をしている。
「こ、これはまさにおれ達の為のカードじゃないか! なぁ、ミルク」
「すっごい! ずっと欲しかった牛柄グッズがこんなに! パンダと似た柄で得しちゃったかも! ねぇ、ホルス」
歓喜の声を上げる二人は、ホルス・タインとミルク・タイン。似てる似てると掲げたカードを体に宛ててみるまでもない。二人はホルスタイン種牛の獣人で、その体毛は艶めいた白と黒。
ほう、偶然だが良かったじゃないか、社内販売だって歓迎だぞ、と商売っ気を出した親方に、二人は超イイ笑顔でとんでもない数字を提示した。
「「それじゃあ、900枚! いただくわぁ☆」いただいていくぜぇ!」
「は?」
いきなり総枚数の30%が予約済みである。
「ホルスさん、ミルクちゃん。あの……無理して関係者が買い取りとか、しなくていいのよ? 自ば……実需なき販売はギルドのほうでも……」
いきなり何かの闇に突っ込むことになるのかしらと、ギルド受付嬢が慌てて問うが、二人は顔を見合わせてけらけらと笑って否定する。
「ほら、ギルドに申請した身分証の家族欄をみてくれよ」
「ウチの家業、牛の神ナンディの神官だから。神殿でお授けするグッズや宗教行事のご案内に、牛に因んだレターセットがあると重宝するのよねぇ」
神様に因むものだから下手に安っぽいものは使えなくってね、と、ミルクはうっとりと高級カードの肌触りと堪能する。
それにしても900枚とは……と受付嬢が呟く。
「グッズ販売分は3枚セットにするからぁ、全部を販売分に回したとしてもぉ、300セットくらいだもの?」
「ちなみに3枚セットの内訳は、飾る用、保管用、布教用。盛大に使わせてもらうぜぇ」
だから900枚は任せておけ、と笑うホルスとミルクだったが、「ただ……」と続ける。
「牛柄ってだけでグッズとして売れるのはナンディ神殿じゃこれが限度だ」
スマン、と続ける。
「実は牛がすべて白黒ブチ柄じゃねぇ。肉牛野牛は当然、乳牛でさえこの白黒ブチ柄なのは一部なんだ」
「そうなのよねぇ。パンダみたいに全員のブチ柄が固定ってわけじゃないから、そのへんは個体で違ってるってことでぇ融通効くのだけれどぉ……」
ホルスとミルクが言うように、『自分の柄』を欲しがる顧客は間違いなく居る。
居るけれど、それだけじゃたぶん頭打ち。
他の売り方を考えなければ――
●
「お品物は良いのですよねぇ。件の牛柄のカード」
ちょっとワタシにも見せちゃくれませんか? と、シャーデンフロイドが箱から件のカードをつまみあげる。なお、件のカードといっても、その例のものの……という意味で、人編に牛という牛柄にちなんだシャレではない。
「この上質な紙、糸くずではないバージンコットンを用いてさらに、紙漉きの器具は昔ながらの手漉き用。インクの乗りも素晴らしく、さらにこのインクに香料が練りこまれておりますねぇ」
くんっ、と鼻を鳴らしうっとりと香りを堪能していたシャーデンフロイドが、「しかし……」と続ける。
「確かに牛が浸透したトコロは当然として、そこ以外にもアピールしなけりゃ、売れるものも売れやしませんですね」
ふむ……と考え込んでニヤリと笑う。
「無ければ作ればよい、とは誰の言葉でしたか。牛柄、いえ、白黒ブチ柄が新年の最新流行であると、一大キャンペーンをこちらから仕掛け、消費者の皆様に流行最先端を認識してもらおうじゃありませんか?」
ふふふ。ワタシ、こうみえてファッションリーダーを自負しておりましてね。だぁいじょうぶだいじょぉぉぶ! 流行ってのは仕掛け人が作るものです。ふはははは!
……正直、とても胡散臭い。
ぶつぶつと、ああでもないこうでもない、とつぶやきながら、時折、印刷工房の爺さんに何かを確認して「イケるっ!」と叫ぶ。
遠巻きに見ている配達員達が、こっそり距離を取る。――っと、そこにいきなり、「配達員さんっ!」とシャーデンフロイドが話題を振った。
「うひょぉあ!!」
「配達員さん達にお伺いしますけど、牛に因んだ御商売されてる商店と、ブチ柄の服を売ってる衣料品店と、お祭り好きなお知り合いに心当たりありません? あ、いえ、ちょっとトレンド操作をしてみようかと☆」
にっこり笑う。やっぱり胡散臭い。
「牛そのものの商売ではありませんが、はい!」
配達員の間から、トゲトゲの球体から生えた小さな手が挙手された。
「ん?」
気付かれなかった――。
もう一度、今度はちゃんと背を伸ばして、ハリーヌ・ヨツユビが存在感たっぷりに両手を挙げる。
「ワタクシが配達にいったお客様の中に、高級食品店と乳製品製造卸売業者とオシャレカフェがございました。どの店も、新年にむけてお得意様宛に新製品の売り込みを考えておられました」
この店舗とこの店舗とこの業者と、あとはこちらのご領主様でございますね。
ハリーヌが、配達の相棒として連れてきているゴリラに配送業の得意客マップを拡げさせ、ちょっとお高いショッピング街とそのオーナー宅を指してゆく。
「そういえば……」
と、配達員の何人かがごそごそとポケットから小さな包みを取り出した。
何かと問えば、試供品がわりにと持たされた形の崩れたチーズだという。
「そう。それでございます。それの他にもあのショッピング街で、とある地方のご領主様が開発された乳牛とその商品を独占販売したいとかで……」
ちゃっかり、贈答品シーズンには配達を請け負うお問い合わせをいただいてきたというのだから、ハリーヌも抜け目がない。
「このショッピング街の方々がお得意様に贈るグリーティングカードに、この高級カードの柄は最適だと思うのです。新規のお客様むけにも、ご来店の際にカードをお持ちいただくと限定サンプルのプレゼント、なぞの文言があれば、新しいもの好きのお客様や食べ盛りのお子様にねだられたお客様が来店いただけるのではないかと」
ハリーヌのくりりんとした目ときゅるるとひくつく鼻。サンプルのチーズを目の前にした表情がまさに、新しいおやつを親にねだる幼子のようにかわいらしい。
「イケる! イケるわよね! ってか新製品はそのチーズだけじゃないのよね? 戦略練るからそのサンプルのお裾分けを……」
食い気に釣られた受付嬢を羽交い絞めにして、しかし、シャーデンフロイドも脳内で算盤をはじき喜色満面で頷く。
「高級路線の商用はそれで決まりですねぇ。さっそく、明日朝早くから営業をかけましょっか? 大丈夫、販促セットとして100単位で束にして売るのにして、ついでに爺さんの店のレターセットも売り込みましょっかねぇ」
ホルスとミルクのナンディ神殿用は、祈祷済みの3枚セットに組んで、美麗な紙紐で帯止めすることで付加価値をつけ、1枚当たりの価格を元の納品予定額の10Gにキープ。
商品に組む作業は、「ウチの一家に任せて」とミルクが請け負う。
販売予約数900枚。回収金額は9000G。
ハリーヌの見つけた高級乳製品路線も、相手は高級店と領主である。100枚単位とするかわりに1枚あたりを8Gとしたものの、爺さんの店で棚ざらしになっていた高級封筒もセットで売り込めば損はない。なんなら、その高級封筒にも、ワンポイントで印刷を加えたって、冒険者たちが手伝うなら大した手間はないのだ。
予約見込み数は、おおよそ600枚。
回収金額こそ4800Gだが、同時に見込めるデッドストック品の販売で差額はむしろプラスになる。
更なる特別仕様が追加発注できれば、1枚当たりの値段も引き上げられるはずだ。
商用のまとまった数以外――あとは低価格路線の広報用。そして個人用。
「ふむ……」
シャーデンフロイドが考え込む。
もう少し頑張れば、爺さんがなんとか年越しできる額は捻出できる。
もとの原価が6Gだから、それさえ切らなければいい。
いいのだが、しかし――。
「せっかく大きくキャンペーンを行うんです。ちょっと予算と手間がかかっても良い。そういう覚悟はおありでしょうかね? 最低限の回収は目途がついたんです。なら、元の売価以上にこの牛柄のカードを売って流行らせる。そんな夢を追ってみる気はありませんかねぇ?」
ゆらり。
シャーデンフロイドは、爺さんと目を合わせ、親方と受付嬢とに目を合わせ、振り向いて冒険者たちと配達員たちに相対した。
「ワタシががっつりプロデュースさせていただくんです。ええ、どんな付加価値でも……まぁ、現実的な範囲ですけども? 付加価値を提案していただければ? この高級カードをこのリブラネスタの流行最先端に売れるグッズにしてやろうじゃぁありませんか!」
ふふふ、ふふふふ。
飄々とした男が燃えている。ただし、やっぱりちょっと胡散臭い。
●
まずは自分の職分でできる提案を!
発破はかけてみるものだ。
「木版。木版ならいくらでも追加印刷できますのじゃ」
爺さんが挙手する。
何版も重ねる多色刷りこそ無理だが、100枚単位でなら既存の牛柄カードに文字や図版を追加請け負いすることはできる。
もちろん白黒でベッタリと白黒のブチ柄が印刷されているのだから、追加印刷の内容に限りはあるのだが。
「はいはい! それでしたら、新年のご挨拶文に添えて、売り出す乳製品のブランド名を入れていただければ、製造販売元のご領主様が喜ばれるかとぞんじます。先ほど提案しました文言も、刷色を変えて新年らしさをだしていただきますと、なお宜しいかと」
ハリーヌも挙手する。
手書きで一言を添えるスペースも用意して、その年だけの特別感も演出すると記念になりますよね、と、デザイン案も出す。
「そうだ! ご持参のうえで来店のお客様用サンプルですけれど、最近流行ってる東方由来の『お年玉』にちなんで、お年玉付きご挨拶状と名前を付けたらどうでしょうか?」
それは子供向けにちょうどいいと、孫の顔を思い出したらしい爺さんが、さっそく売り込み用の見本をスケッチしはじめた。
「黒に黒を追加するのも、黒に他の色を追加するのも大丈夫、ってことか?」
ホルスがにゅっと、爺さんのまえに顔を突き出す。
はっきりいって、超近い。
びびってカクカク頷くのに苦笑して、ミルクがホルスを押しのけて意図を説明する。
「牛に限らなければぁ、白黒のブチ柄の動物ってわりと居るのよぉ。ウチの家族もそうだけどぉ、ちょっと柄の形を弄れるならぁ、縞模様系や斑模様系じゃないならぁ、牛柄じゃなくてブチ柄アニマル模様ってことにできるのねぇ」
ねぇ? と後ろに避けたホルスに振る。
「まぁ、そういうこったな。パンダ柄の件は、シッポの部分が余計な黒刷で消せなかったからボツったんだろう? だが、引き算はできなくても足し算ができるなら、犬、猫、ウサギにブタ、馬だってなんなら鑑賞魚だって、白黒ブチ柄は居るんだぜ? 『自分の柄のグッズ』が持てるってこった」
今度は近くないからか、爺さんが納得したように頷く。
そうだった。
納品が不可能になり、他に使いようもないと思われたカードを抱えてしまったのは、パンダのシッポを黒くした引き算ができなかったから。
「印刷、手伝ってくれるかい?」
爺さんの問いに、ミルクもホルスも勿論と答える。
これで牛柄が『自分の柄じゃない』お客さんにもアピールできる!
●
「あぁーーー考えすぎてぼけっとしちゃってた……はい」
いままで事務所のスミでうつらうつらしていたニール・ロブラリアが、ふと覚醒して挙手をする。
「良かった。お酒飲ませてないのに酔わせちゃったかと……」
彼女につきっきりだった配達員が安堵の声をもらすが、心配ない。ニールは舟を漕いでいても寝ていないし、ぼけっとしているのは平常運転だ。
「聞こうと思ってたことがいくつかあるんだよ」
まずは本職に……、と呟いて、ミルクとホルスに手招きする。
「動物が信仰されている東方の地域では、干支っていうその年を守護する動物がいて、新年からは牛なんだそうだけど本当?」
シャルガネ出身の人から聞いたのと本に載ってたから、干支は知ってるんだけど、じゃあ今年や来年の動物の神様が誰なのかってのまではうろ覚えだし? と記憶を辿るそぶりをして、かくり、と首を傾げた。
「良く知ってるじゃねえか! だからウチの神殿も大忙しを見越してるんだが」
ホルスの答えに良かった合ってたと頷く。
「つまり、東方の人たちにとっては縁起物なんだよ。牛グッズって。もちろんシャルガネの人たちにもだし、彼らと仲良くしている人たちにだって、縁起物だよね?」
だから……と続ける。
「縁起物のプレゼントやお手紙を贈りあうのって聖霊節でもやるじゃない? それ、干支でも流行らせたらいいと思うのだよね」
離れて暮らす人に、いつもお世話になってる人に、守護聖獣のお手紙を贈るって、筆不精でもできるご挨拶だと思うんだよねぇ……。と続けた。
「イイ! それで行こう」
シャーデンフロイドが膝を打つ。
が、またニールの首がかくりとなる。
ん? と訝って、あああああ! とシャーデンフロイドも思い当たる。
「個人客相手に期間限定で売って、期間限定で配らなければいけなくて、カードのお値段に配送料足すからあまりお高いお値段にすると手が出ないじゃないですかぁぁ!」
「うん……」
だから、と続けた。今度は親方にご相談、と。
とん。とニールが机の上に小さな包みを出した。
「ウチの配達区域でお得意さん同志の荷物のやり取りに使う、専用の革袋じゃないか?」
親方がそれを見て、それがなにか? とニールに聞く。
「これのすごいところは、配達区域が限られるけれど専用袋に入れれば均一料金、というところなんだよね。お得意様専用なのが惜しいくらい。だからね、期間限定でこのカードだけでいいから、特別仕様のカードを買ったお客さんに限り同じ仕組みを使えないかな? って思うんだよね……」
どう?
ニールがメモを親方に渡し、シャーデンフロイドと爺さんにも手招きをする。
ぼけっとしながら何か書いていたのは、企画書兼見積書だったようだ。とてもそうは見えない殴り書きだったので、不可解な図形を量産しながら舟を漕いでいたようにみえただけで。
「特別仕様のカードを買ったら、有効期間は限定だけどそのまま飛脚に出せる定額サービス。という感じだね。柄がはいっているほうにはメッセージを、反対側には届けてほしい相手と、差し出す方の情報を書いてもらうんだよ。宛名の書き方も枠を印刷して決めちゃえば、配達するときに間違いも起こりにくいかも」
印刷、大丈夫だよね? と爺さんに聞いて快諾をもらう。
「均一料金で運ぶのは、この大きさも重さも均一な1枚のカードだけ。配達料金はカード代金にコミコミで、ちょっとお得に。だけどニコニコ先払い。配達する範囲は親方のトコが配達するエリアだけで、それ以外の都市へはちゃんと都市間の飛脚料金をもらうようにすれば損はしないハズだよ」
配達員が意見があると手を挙げる。
「引き受け期間によっては、本業に影響がでたりするんじゃね?」
そこなんだよね。と、ニールは親方に意見を求める。
「期間限定にするには、引受期間と配達期間の目安とを宛名の面に印刷して、ついでにその間に親方の運送事務所にださないと無効にすれば……ってところまでは考えた……んだけど、具体的な数字はボク、わかんないから」
うーん。大雑把なボクには限界だね。
追加アイディアが湧いてくるまでちょっと一休みするね?
と、親方とシャーデンフロイドに数字周りをブン投げて、ニールはまた船を漕ぎだした。
●
倉庫街の夜から中一日はさんだ冬の日のお昼前。
ここは高級ショッピング街からつづく道なりの、運送業者の持込受付用の店舗。
はす向かいにはちょっと庶民向けの柄物専門衣料品店、もう少し先には爺さんの工房兼用の店舗がある。
「ンまぁぁ。向こうはド派手なのねぇ!」
ちょっとわたしの服じゃ地味かしらぁ?
くるん、くるん、とコスチュームをひらめかせながら、イーヤ・レプリスがはす向かいの衣料品店の商品ディスプレイにライバル意識を燃やしている。
シャルガネ出身の衣料品店店主は従業員曰く「NANIWAのオバチャン」という称号の持ち主らしい。売っている衣料品はすべてが柄物。しかも、動物柄ばかりという筋金入りだ。
「この販促コスチュームの提供元でもありますからねぇ、白黒だけの牛柄とはいえこちらもなかなか派手な方じゃないかと思うのでs……うわぁああああああああっっっ! ななな、なにもろ肌脱いでンですかね、イーヤさんっ!」
お揃いの牛柄コートを着て路面に立つ、シャーデンフロイドが隣のイーヤがコートを脱ぎだしたのに慌ててまた着せかける。
せっかく手配した立役者が、販促コスチュームを着なくてどうする? と、冒険者と配達員がお揃いで着るこの牛柄コート。暖かいけれどちょっと恥ずかしいコレを、頑張って着ているのだ。シャーデンフロイドだって。
「大丈夫ん。ちゃんと下にも着ていますわよ? 牛柄☆」
ほら。と見せる。
コートの下のわがまま豊満ボディに喰いこむように張り付くそれは、牛柄のマイクロビキニ!!
思わず目を剥いて、慌ててそっぽをむくシャーデンフロイドに、ふふ☆と笑いかけてついでに投げキッスを贈る。
「どどど……」
「どうしたのかって? お向かいの衣料品店のマダムにオススメされたから、買っちゃったのです☆ 可愛いでしょう? 布面積? お胸のサイズに合う牛柄の水着がこれしかなかったのだから不可抗力なのですよん」
たゆん。
イーヤの胸が甘美に揺れる。
「ちょっとは乳牛っぽく見えるかしらね? それとももっと乳牛っぽさを強調した方がいいですかしら?」
たゆたゆしながら通りすがりの人々に、牛柄カードを宣伝してゆく。
イーヤの後ろには、シャーデンフロイドが手配した縁起物の牛柄ポスター。ホルスとミルクの監修付きだから、東方の風習を知っている顧客にも訴求性が高いはず。
「1枚貰おうか?」
一人の紳士がイーヤの前に立つ。
「普通のカード8Gと、配達サービス付き10Gと、ココだけ☆の特別サービス付きスペシャルカード15Gがございますわ」
ふふ。イーヤが妖艶に微笑む。
「す、スペシャルを戴こう!」
「かしこまりました。それではこちらから1枚お取りくださいね」
合わせていたコートの襟元を拡げると、胸の谷間に牛柄カードが挟まっているではないか!
「暖めておいたのですわ。冬は断然! ホットミルクで身も心も温まりたいですわね☆」
スタンプサービスも料金のうちですわよ。と、カードを抜き取った手をとり、カードにキッスマークはどうなさいますか? と上目遣いに聞いてみる。
「それより、も、もう1枚っ」
紳士のリクエストに天を仰ぐ。
「あら、品切れですわ。こちらの在庫からお取りくださいませ?」
コートの裾を捲ってガーターベルトからも抜いてもらう。
一度にショーケースに装填できる数に限りがあるから、不可抗力、不可抗力。
「キミ、この寒空に健康的だねぇ。牛乳を飲めばそんな元気になるのかな?」
今度は、やせぎすの紳士が興味深そうにイーヤに聞いてきた。
もちろんですとも、と答えるイーヤに紳士は悩みを打ち明け始めた。
「私の息子が小さくてね、なかなか大きくならないのだよ。ミルクの栄養でぐんぐん大きく元気になると聞いてね」
紳士はイーヤの胸の谷間をガン見してくる。
(どっちの息子のことですかしら?)
思わず真顔になってしまっても不可抗力。
「パパー。お腹すいたから早く帰ろう」
「おお。見てごらん、ミルクを嫌がらずに飲めばお姉さんみたいに大きくなれるよ。天国のお母様も喜ぶよ」
「うん! あ、牛さんカード僕に買ってくれるの?」
とてとてと駆け寄ってきた幼いリアル息子と父との微笑ましい会話に、イーヤが孤児院を思い出してホロリときちゃったのも不可抗力。
●
「領主様への納品、終わりました。追加した特別な印刷がとても素晴らしいって、喜んでいただけましたよ! これから高級食料品店様差出ぶんの配達に向かいます」
倉庫兼作業所のほうに、ハリーヌがペットのゴリラとともに帰ってきた。
牛柄コートはゴリラともお揃いだ。
『新年の配達中です』のタスキがけなのは、配達依頼主への配慮だろう。
お駄賃にチーズサンドイッチも戴いてしまいました。皆さんもどうぞ。と、包みを作業机に渡して、そこでなにやら作業中のニールを覗き込む。
「なにを書いておられるのです?」
「午前中に店舗で引き受けたぶんの、あて名書きだよ。読み書きが苦手なひとの代筆と、縁起物だからって、普通のお店でもお得意様あてにと買って差し出してくれたところのあて名書きサービスぶん」
丁寧にこころを込めて。
「やっぱりお手軽に送れて、新年をいい機会にお手紙を書きたいひと向けのお便りグッズって、こんなご時世だからこそ求められているんだなって、わかったかな……」
見て。と、ニールが見本用のカード何枚かと文例用のチラシを、ハリーヌに見せる。
読み書きが得意ではないひとのために、良いお手紙の書き出しが思い浮かばないひとのために、ニールと爺さんが用意した文例サンプル。
「人気なのはね、これ。『去年はありがとう 今年もよろしく』と『新しい年があなたに素晴らしい年でありますように』って」
優しい笑顔になって、ニールは差し入れのチーズサンドイッチに手を出して、ますます破顔する。
濃厚な味の高級サンドイッチが美味しいのは当然で、だけど想像よりもさらに美味に感じるのはなぜだろう。
「その文例集のチラシ。ワタクシにも何枚かいただけますか?」
はい、とニールに一束渡されて、なにをするのかと問いかける目にハリーヌは応える。
「配達中に余裕があったら、大道芸っぽく手売り用に持ち歩いているカードを路上販売しているのです。寸劇を交えての販売が好評なのですけれど、そんなに素敵な文例があるのなら、寸劇に取り入れればなお喜んでいただけるのかな、と思いまして」
ねぇ、と背後に控えたゴリラを見れば、ウホウホと愛嬌あふれる相槌で返す。
グッドアイディア!
と、サムズアップして、ニールはハリーヌを送り出す。
入れ違いに配達から帰ってきたホルスとミルクの双子に、差し入れのチーズサンドイッチがあるから、と袋を指さすと、わっと陽気な歓声が上がった。
●
さて、と、親方が皆を集めて決算報告を行う。
ここは冒頭の倉庫街、親方の運送業者倉庫兼作業所である。
「販売総数2950枚、ただし50枚はサンプル分だから、実質完売だ。利益の方だが、なんだかんだで目標額の15000Gを大幅超え。必要経費を差っ引いても、もとの納品予定額の30000Gに迫る金額をはじき出したぞ」
おおおー!
冒険者たちと配達員たちとで歓声が上がる。
爺さんはもう半泣きだ。
「配達の期間限定もさきほど完了っす。最初はどうなることかと思ったっすけど、引き受けから配達完了まで余裕をとれたので混乱は思ったより少なかったっす」
「それよりなにより、配達していて、受け取った人がすげぇ喜ぶのが俺も嬉しくてさぁ」
「あと、あの出発式っての? 揃いの牛柄コート着て一斉に配達に駆けだすの、自分でやってて格好良かったよなぁって」
うんうん。
配達員の頷きに一安心して、シャーデンフロイドと受付嬢がこっちの大口のほうはどうだったか、ミルクとホルスに神殿販売ぶんの様子を聞く。
「完売にきまってるじゃねぇか! 野暮な心配するんじゃねえよ」
「飾る用、保管用、布教用で3枚セットにしたじゃなぁい? それがね、縁起物戦略にウチの家族でアイドルグループ作ってアピールしたら、飾る用、保管用、布教用で3セットお求めになる信者さんが続出したのよぉ」
「モー点だったぜぇ、牛だけに」
オチをつけてホルスが笑いミルクも笑い、つられて皆も笑いだした。
「この動物カードムーブメント、来年も再来年もいや、継続的にイケる……」
と、シャーデンフロイドがこっそりガッツポーズをしたのを知ってか知らないでか――。
「シマウマ柄のミスプリントをしてしまったんじゃ……」
と、また年末に爺さんが親方を訪ねることになるのは、まだ1年近く未来の話。
マスターコメント
イベントシナリオ普通 報酬:少ない6 / 4〜12人
2021年01月12日 15時21分15秒 公開
相談掲示板
パンダの尻尾って白なんだ、ふぅん……。 や、どうも。シャーデンです。 4人集まったってことは、依頼をお受けできそうですかねぇ。 アイディア次第でいかようにもアレンジできそうな紙ですけど……どうしましょうね。 これ全部溶かして再生紙にしちゃだめなんですか? いや冗談ですよ。
パンダのしっぽって、なかなか見る機会ないよね……、 おじいさんが間違えるのも仕方ない、かな。 ボクは、ニール・ロブラリア。よろしくね。 カードをそのまま送れる、定額郵便の提案、をまずしておけばいいのかな。 新年のグリーティングカードとして、売り出す感じで。 「なんで牛柄?」かは……何かアイデアある人いれば、乗りたいかも。 ボクの方は、文字の読み書きのできない人向けへ、 代筆や、短い定型文の見本を作って、それを真似して書けば 誰でも簡単なメッセージカードが作れるような取り組み、考えてる。
白黒柄って、パンダだけじゃねぇよ、バクやブタや犬なんかもあるじゃねぇかよ…ってことで、オレはホルス・タインっていうもんだな。妹のミルクも参加しているんだな。 まぁ、牛柄ってことで、うちん所の施設で売ることも検討したほうがいいんじゃねぇかって思うんだな。
そうですねぇ、ニールさんの仰る通り、変わった柄の高級グリーティングカードをなんとか定額郵便として売りさばきたい。 牛柄を浸透させるために、まずトレンドを操作してみるのはどうです? ポスターや牛柄衣類の着用で町中に浸透させて、次は牛柄が来るって思わせるんですよ。 だぁいじょうぶ、「流行」ってのは大概、こういう仕掛け人がいるもんです。 そのあとホルスさんのところで売り出したら、トレンドも相まってうなぎ登り!嬉しい! 人が集まれば、ニールさんのメッセージカード講座も捗るんじゃないかなって。 ま、他に案があるとすれば、カード自体に占いやクーポンとかの付加価値をつけることでしょうかねぇ。
イーヤよ、よろしくね。 とりあえず全員で一丸となって行動する、とかじゃなければ地道に売り歩いてみるつもりよ。 やり方は私流になるけどね。
あら、もう出発1日前ですわね。
ボクの行動は、だいたい先の発言通りでいく予定だよ。 牛柄理由は、シャーデンさんの案を補強する形か、 時間や資金の問題で難しければ、いっそシャルガネ居住区に伝わる 暦や思想云々で説明してしまおうかな、と。 どちらにしろ(文字数的に)触れる程度になりそうだけど。