【聖祭】深緑の輪の並ぶ中を歩こう
屋守保英
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シナリオID:379
オープニング
●慰霊祭は一年の締めくくりです
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることや、想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。
赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――さて。今年も、各地で慰霊祭が執り行われようとしてた。
●いよいよ慰霊祭が始まります
「メリーユールフェスです、皆さん!」
「踊る小熊亭」の受付嬢、ハーフビーストのクサンドラ・ファンフリートは、大きな耳を跳ねさせながら明るい笑顔を見せた。
頭には白いポンポンのついた三角帽子。服の上から赤いケープも羽織っている。彼女も彼女で、すっかりその気になっていた。
12月、聖霊節。ロスガリア大陸でも特に重要な、冬の時代の到来を告げる祭りである。
英雄ジド・ルウの功績を讃え、神々に祈りを捧げ、ごちそうを食して催しを楽しんで。そんな、一年でも大いに盛り上がる時期が、この時期だ。
今年は授恵者が多く表れたこともあって、既に各地で大いに盛り上がりを見せている。リブラネスタの冒険者ギルドにも「踊る小熊亭」にも、各地で行われる慰霊祭の案内が届いていた。
「水上都市アキュアリスタでも、慰霊祭が行われるんですよ。街が飾り付けられて、たくさんのリースが飾られて、遺跡はキラキラ光って……」
うっとりした表情を浮かべながら、クサンドラがほうと息を吐く。両手を握りながら話す彼女も、きっと現地で楽しみたいことだろう。酒場の仕事が無ければ行っただろうに。
ぶるると頭を振って、気を取り直してからクサンドラが話す。
「なので、今回は依頼というより、案内ですね。夜の輝くアキュアリスタで、街中を歩きながら慰霊祭を楽しむ! いかがですか?」
そう言って、彼女が取りだしたのは一枚のチラシだ。手作り感あふれるそのチラシには、アキュアリスタの遺跡と街並み、そこに飾られるリースを模したイラストがでかでかと描かれている。
つまりは、今回は作業も何もない、楽しむことが主目的だ。街中を歩き、食事をし、恋人と愛を誓いあう。きっと素敵な一日が過ごせるはずだ。
納得した様子の授恵者たちへとにっこり笑ったクサンドラが、手元のチラシの束を抱え上げる。
「あ、ちゃんと今回も案内は作ってありますので、ご安心ください。チラシ、掲示板に貼りだしておきますね!」
そう言って、クサンドラはチラシを片手にカウンターを出ていく。彼女の太い尻尾の根元には、小さなベルがリボンで括りつけられて鳴っていた。
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることや、想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。
赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――さて。今年も、各地で慰霊祭が執り行われようとしてた。
●いよいよ慰霊祭が始まります
「メリーユールフェスです、皆さん!」
「踊る小熊亭」の受付嬢、ハーフビーストのクサンドラ・ファンフリートは、大きな耳を跳ねさせながら明るい笑顔を見せた。
頭には白いポンポンのついた三角帽子。服の上から赤いケープも羽織っている。彼女も彼女で、すっかりその気になっていた。
12月、聖霊節。ロスガリア大陸でも特に重要な、冬の時代の到来を告げる祭りである。
英雄ジド・ルウの功績を讃え、神々に祈りを捧げ、ごちそうを食して催しを楽しんで。そんな、一年でも大いに盛り上がる時期が、この時期だ。
今年は授恵者が多く表れたこともあって、既に各地で大いに盛り上がりを見せている。リブラネスタの冒険者ギルドにも「踊る小熊亭」にも、各地で行われる慰霊祭の案内が届いていた。
「水上都市アキュアリスタでも、慰霊祭が行われるんですよ。街が飾り付けられて、たくさんのリースが飾られて、遺跡はキラキラ光って……」
うっとりした表情を浮かべながら、クサンドラがほうと息を吐く。両手を握りながら話す彼女も、きっと現地で楽しみたいことだろう。酒場の仕事が無ければ行っただろうに。
ぶるると頭を振って、気を取り直してからクサンドラが話す。
「なので、今回は依頼というより、案内ですね。夜の輝くアキュアリスタで、街中を歩きながら慰霊祭を楽しむ! いかがですか?」
そう言って、彼女が取りだしたのは一枚のチラシだ。手作り感あふれるそのチラシには、アキュアリスタの遺跡と街並み、そこに飾られるリースを模したイラストがでかでかと描かれている。
つまりは、今回は作業も何もない、楽しむことが主目的だ。街中を歩き、食事をし、恋人と愛を誓いあう。きっと素敵な一日が過ごせるはずだ。
納得した様子の授恵者たちへとにっこり笑ったクサンドラが、手元のチラシの束を抱え上げる。
「あ、ちゃんと今回も案内は作ってありますので、ご安心ください。チラシ、掲示板に貼りだしておきますね!」
そう言って、クサンドラはチラシを片手にカウンターを出ていく。彼女の太い尻尾の根元には、小さなベルがリボンで括りつけられて鳴っていた。
解説
いよいよ聖霊節本番です。
全力で、のんびりと、慰霊祭を楽しみましょう。
●目的
・水上都市アキュアリスタで聖霊節を楽しむ。
●特記事項
現場はアキュアリスタの街中です。街を歩くのでも、レストランや酒場で食事をするのでも、ちょっとロマンチックに過ごすのも、なんでもよしです。
リースは大小もモチーフも様々。先般私が運営した準備フェーズの依頼「【聖祭】深緑の輪を作ろう」にて作成されたものも飾られています。
準備フェーズにも参加された方は、自分の作ったリースが飾られているのを探すのも、きっと楽しいことと思います。
マスターより
こんにちは、屋守保英です。
クリスマスの時期ですね。ロスガリア大陸でもお祭りが開かれるようです。
クリスマスの飾りつけって綺麗で楽しいですよね。見ているだけでワクワクしてきます。
今回は【聖祭】第二弾、お祭り本番です。ライトアップされた夜のアキュアリスタをお楽しみください。
以上、よろしくお願いします。
リプレイ
●クリスマス
水上都市アキュアリスタの聖霊節の夜は、いつも以上にきらびやかで、いつも以上に賑やかだった。
街路の両側に軽食やスイーツ、アクセサリーを売る屋台が並ぶ中、スィーリーンは目を輝かせながら町並みを眺めていた。
「飾り付けも綺麗ですけれど、街並みそのものも素敵ですね……!」
彼女のそばにいつの間にか立っていたノノアも、目を大きく見開きながら同じ方向を見ている。
「さすが水上都市アキュアリスタの聖霊節ね……」
声を発したのはほぼ同時。そして距離も近い。二人共が、つい最近互いの声を聞いたことがあったわけで。
「あら?」
「えっ」
思わず互いに顔を見合わせた。高身長のリザードマンであるスィーリーンと、尻尾の大きいハーフビーストのノノア。見紛うはずもない。互いに表情をほころばせた。
「ノノア様、お久しぶりです」
「ボリエ村以来ね」
今年の晩秋に、一緒にリーンエス王国の村にブドウ摘みに行った仲。袖振り合うも他生の縁。二言三言、顔を合わせて言葉を交わす。
「今日は、お一人で?」
「ええ、一人で回ろうと思って。スィーリーンさんも?」
しかし、顔見知りだからといって同行するかとは限らない。今日はお互い、一人で楽しむ予定だったのだ。なので、スィーリーンもノノアもさらりと言葉を交わして別れる。
「そうですね。それじゃあ、楽しんでください」
「ええ、そちらも」
それぞれ短く話して、別々の街路へ。スィーリーンが立ち入ったのは屋台の多く立ち並ぶ目抜き通りだ。
「リースがたくさん……これだけ多いと作るのも大変だったでしょうけれど、きっと楽しかったでしょうね」
屋台に掲げられ、屋台と屋台の間に掲げられ、街路を挟む柵にも、店の扉にも。
様々なところに掲げられた様々なリースを見て、スィーリーンは目を細める。身長の高い彼女の目には、様々なところにリースが飾られているのが見えていた。
「軽食の屋台などは、出ていないでしょうか。あとはスイーツのお店なども……」
視点を下の方に向けながら、軽食の屋台がないかどうかを探す。美味しそうなものを並べている屋台は多くあるが、どの屋台のご飯も美味しそうだ。
これは自分では決めきれない、諦めてスィーリーンは屋台の中で魚の身を焼く、ハーフビーストの男性に声をかける。
「すみません、この街の食べ物でおすすめは何かありますか?」
「ん? そうだなぁ……魚の身を挟んだサンドイッチなんかが有名だぞ。あとは……」
話を熱心に聞きながら、スィーリーンは視線を屋台の中に向ける。店主の男性はそう言うが、今こうして焼かれている魚も美味しそうだ。
一方ノノアは目抜き通りから外れ、レストラン街に足を向けていた。喧騒はいくらか落ち着いているが、こちらも聖霊節のごちそうを求めて人々が集まっている。
「帝国の崩壊が無かったら、今は両親と一緒に聖霊節を堪能していたのかしらね……」
街路を歩きながら、ノノアは今はなき故郷、そして両親を思い返す。もう手の届かない幸せな日々、懐かしいが、そこばかりに目を向けても仕方がない。
いろいろな人と出会えたことに感謝して、前を向いて進む。それが今の自分に必要なことだと、ノノアは思う。
それにしても、随分多くのレストランがあるものだ。王国風、帝国風、都市同盟風にシャルガネ風。よりどりみどりだ。
「この辺のレストランもいい感じね。ここの店とか、雰囲気がいいし……一人でも入れるかしら」
そう言いながらノノアが扉を開けたのは、帝国風の料理を出すらしい一軒のレストランだった。ステンドグラスの嵌められた扉を開けて、中を覗き込む。
「すみません、一人でも大丈夫ですか?」
「いらっしゃいませ、大丈夫ですよ。どうぞこちらへ」
迎えてくれたエルフのウエイターが、にこやかに笑ってノノアを席まで案内した。メニューを渡され、料理を決めて、運ばれてくる牛肉のコトレータに、根菜のスープ、クリームをふんだんに使ったケーキ。どれもこれもいい味わいだ。
「うーん、美味しい……」
「ご満足いただけましたか?」
食事を終えて満足した表情のノノアの元に、ウエイターがやってくる。彼へと笑いかけながら、ノノアが一本指を立てた。
「ええ、ありがとう。とても良かったわ。食後にお茶をいただけるかしら」
その言葉に相手は頷いて。供される紅茶を楽しみながら、ノノアはレストランの窓から見える、アキュアリスタの平和な街の姿をも楽しんだ。
●ヴァイナハテン
「メリーユールフェス!」
ニーラ・メッコはぐ、と両腕を高く天に向かって突き上げながら、もう何度も発したその文句を発した。
頭には白いポンポンのついた三角帽子、服の上には赤いケープ。ちょうど、祭りを案内してくれた「踊る子熊亭」のクサンドラが、こんな格好をしていた。
そして、彼女は今、レストラン街の外れにある、とある人気レストランの窓際席に一人座っていた。アキュアリスタの目玉である湖と遺跡が一望できる席ということで、数あるレストランの中でも特に人気の店、人気の席だ。
「さすがは水上都市アキュアリスタが見渡せる絶景が売りのレストラン、その窓際席! 早朝から並んだ甲斐があったわー」
ニーラはこの席を確保するため、早いうちからアキュアリスタに入って、列に並んでいたのだ。目当ての席の確保のためには、早め早めの行動が欠かせないのである。
メニューにちらと視線を向けてから、ニーラが近くを通ったウエイターを呼び止める。
「お兄さん! 聖霊節限定の特別料理を一人前お願い! このときのために依頼で頑張ってお金を貯めたんだから!」
「かしこまりました、少々お待ち下さい」
彼女の言葉に、意を汲み取ったウエイターが一礼する。そうしてしばしの時間をおいて、彼女の前に運ばれてきたのはソテーされた若鶏だ。
若い鶏は非常に貴重だ。よほど潤沢な肥育が出来ないと、若鶏のうちに店に出すことは出来ない。故にこの特別料理は数量限定、金額もかなりする。
それをニーラは迷わず注文した。このために、この日のために色んな仕事をこなしてきたのだ。
ナイフを入れれば、ぷつりと肉の繊維が切れ。一口大に切って口に運べば、柔らかな肉汁が溢れ出す。施されたバターの旨味も、実にたまらない。
「うーん、この味、最高ー! 美味しいー!」
もう、たまらない。そんな声がニーラの全身から溢れ出していた。
どんどん肉は彼女の腹の中に収まっていって、皿の上は空っぽ。それを確認したウエイターが、ニーラへと声をかける。
「お飲み物はどうなさいますか?」
「ぶどうジュースをお願いするわ!」
年齢的に、お酒はまだ飲めない。ここはぶどうジュースで我慢するのだ。
そうして運ばれてくるのはリーンエスの銘醸地、ボリエ村生産のぶどうジュース。グラスから甘い芳香が立ち上る。
「お待たせいたしました」
「ありがとう! んー、このジュースも美味しいー!」
一口、口に含めば溢れんばかりの果実味と甘みがニーラの味覚を支配した。これもまた、たまらないものだ。
「町の灯りが綺麗よねぇ。最高のディナーだったわ!」
光り輝くアキュアリスタの遺跡と町を窓から眺めて、ニーラは微笑む。この上等な時間を、もう少し堪能していたかった。
●ユール
一人で単独行動をしている聖霊節の参加者は多い。ブルーテ・ビシアもその人並みに混ざって、アキュアリスタの街を散策していた。
「たくさんのリースが飾られているなぁ。俺の作ったリースも、この中にあるってことだよな……」
彼が目を向けているのは、街のあちこちに飾られたリースだ。シンプルなものから派手なもの、奇抜なものまで様々多彩。
ブルーテも先日、この街でリース作りの手伝いをした。結構な数を作成し、そのいずれもがシンプルで特徴のないものだが、自分が手掛けたリースを見紛うはずもない。
何しろ、あの集団の中では飛び抜けてたくさんの数を作ったのだ。自分の作品を見つけられる確率も上がる。事実、ある屋台の軒先に飾られているのを、すぐに見つけられた。
コニファーの枝が差し込まれ、ナンテンの実で彩られたリース。無骨な屋台によく似合っている。
「工房で一緒に作った仲間たちの作ったのも……お、あったあった」
その周辺に目を向けて、他の仲間の手の中で見かけたリースがないか、探すブルーテ。キョロキョロとしていると、隣の屋台に見かけたことのあるリースが。ヒバの葉が巻かれ、果物のオーナメントや木の実があしらわれた品だ。
「これは隣で作っていたあいつの……こっちはあれか、あの吟遊詩人の作っていた派手なやつ」
その屋台の隣、雑貨屋の軒先には真っ赤なリースが飾られている。赤く染まった木製の薔薇が、ここでもしっかり主張しているようで。
心の内で感心しながら、ブルーテは目の前にある屋台の店主に声をかけた。リザードマンの店主が、湯気の立つ大鍋をかき混ぜている。中身は温かなグリューワインだ。
「しかし冷えるな……おっちゃん、グリューワイン一杯くれ」
「あいよ」
返事を返す店主の男性が、手にしたおたまでワインをひとすくい。木製のカップに注いでブルーテに手渡せば、代わりに数枚の硬貨が店主の手の中へ。
そのグリューワインを飲みつつ散策を再開すれば、三色のリボンが巻かれたリースに、稲穂と麦の穂があしらわれたリースが目に留まる。見たことのあるリースがちゃんと飾られているのは、嬉しいものだ。
グリューワインを飲み終えたところで、ブルーテが目に留めるのは一軒の酒場だ。扉を大きく開いたそこにもリース。ありふれた内容のものだが、もしかしたらあの場で作られたものかもしれないし。何より扉の向こうからいい香り。
「お、こっちの酒場もいい匂いさせてるな。邪魔するぜ」
「おう、いらっしゃい」
そうして酒場の中に入り、軽食をつまんで酒を呷ったブルーテだ。程々に飲んで、いい気分になった彼が酒場を後にすると。
「ふー……お?」
酒場の向かい、アクセサリーを取り扱っている屋台の軒先。リース台の枝がほとんどむき出しになり、上部にナンテンの枝とリボンが飾られたリースが目に入った。
「……へえ」
あれも、自分の作品だ。飾られているのが嬉しくなって、つい、その屋台の品物を覗き込んでしまう。
「ちょっと、品物見せてもらえるか」
「ええどうぞ、存分に見ていってちょうだい」
ブルーテが店頭の商品に興味を示したことに喜びながら、店番を勤めるハーフリングの女性が笑う。こうしてこの街の賑わいに貢献できれば、嬉しいとブルーテは思っていた。
●フリストゥーイエナ
単独で行動する者もいれば、一緒になって行動するものもいる。ケン・Z・ブラッドリーとシャロン・ラ・モリエールは、偶然この街にやってきて顔を合わせると、至極スムーズに言葉を交わし合っていた。
「あら、お久しぶり。よろしければご一緒しませんか?」
「そいつは嬉しいお誘いだ、喜んで」
先日のヴァイセントラフ砦の防衛依頼で、共に肩を並べて戦った仲だ。それだけではない、寝顔だって見ているくらいの間柄。少しは戦い以外の場でも、交流を深めていいはずだ。
そう考えたシャロンはケンを誘い、アキュアリスタの目抜き通りにくり出す。
並ぶ屋台、その店先のリース。それらを見ながらケンが感慨深げに零した。
「すごい数のリースだな」
「そうですね。私がこないだ作ったものも飾られているんですよ」
「へえ? どんな感じのを作ったんだい?」
ケンの発言に反応したシャロンが笑みを見せると、興味をいだいたケンが乗っかってくる。
シャロンはふ、と宙を見上げながら笑った。夜空には星が瞬いている。あの星空のようなきらびやかなリースを、この町で作って孤児院に送り届けたっけ。
「緑色のと金色のと二つあって……あっ、ありました、あれですあれ」
そう話しながらシャロンが一軒の屋台を指差す。そこにはたしかに、緑色の土台にリボンを結ばれた松ぼっくり。白と青の二色の綿にナンテンの実。あの時シャロンが作り上げたリースだ。
それを見ながら、ケンが顎に手を持っていく。
「へえ……綺麗じゃないか」
「ふふん。もう一つのも近くに飾ってあったりしませんかねー」
褒められたシャロンが自慢気に胸を張ると。その張られた腹から、鳴き声を上げる腹の虫。しかも結構大きい音が鳴った。
「あっ……」
突然腹の虫に鳴かれて、シャロンが顔を赤らめた。彼女を見やったケンが、くすりと笑みを零す。
「ふふ、こうあちこちから美味しそうな匂いがすると、お腹が空くよな?」
「はい……それに今日は、『踊る子熊亭』の無料飯しか食べてないから……」
ケンの言葉に腹を抑えながら、シャロンが呻く。今日は一日一食無料の食事を昼前に食べたきり。それから水以外は何も口にしていないで、この現場だ。腹の虫だって鳴きだして当然と言える。
苦笑したケンが、財布を取り出しながら目の前の屋台の焼台に並べられた牛肉の串焼きを見やる。
「じゃ、そこの串焼きでも買って食べるか? 奢ってやるよ」
「奢りですか!? やった!!」
奢り。その言葉に反応したシャロンの尻尾がピンと立った。串焼き一本程度、奢ったとしてさしてダメージはない。
買った串焼きを頬張りながら、ケンとシャロンは屋台の並ぶ通りを歩いていく。
「こういった祭りの屋台の料理って独特な旨さがあるよな」
「はい。なんだか、特別な感じがします……美味しすぎるので買い食い癖がつかないようにしないと……」
ケンの言葉に、俯くようにしながらシャロンは串焼きの肉をかじっていた。節約倹約を旨とする彼女、ちょっとの贅沢も控えなければと心に決めているのだ。
シャロンの言葉に困ったような笑みを見せながら、ケンが両手に息を吐く。
「そうだな……しかし、最近冷えてきたな。やっぱり冬か」
息を吐きかけた手をこすりながら、ケンが視線を横に向けた。ちょうどそこには、自前の豊かな毛皮を持つ、獣人姿をした狐のハーフビーストの観光客。自分と違って、彼は暖かそうだ。
「ハーフビーストの人たちの中には、自前の毛で暖かそうな人達がいるよな」
「孤児院でもヒューマンの子は寒そうでしたね。寒いですか? 私のしっぽは暖かいですよ」
ケンの言葉にシャロンも頷いて。彼女もハーフビースト、ヒューマンやドワーフより寒さには強いようだ。
と、いたずらっぽく笑うシャロンが、尻尾をしゅるりと動かした。
「あ、よく孤児院ではこうやってましたよ」
そのまま、尻尾をケンの片足に巻きつけた。同時に身体をぴったり寄せる。突然の行動にケンが驚きの声を上げた。
「うわ……!? びっくりした。でも暖かいな」
驚いたし、歩きにくいけれど、片足だけぽかぽかと温かい。その事実に目を細め、二人は夜のアキュアリスタを歩いていった。
●ナビダー
現地で合流した面々もいれば、先んじて合流して連れ立っている面々もいる。ヒロ・テスタロッサ、ララベル・サン・ディーベル、テュリン・ヴィングの三人については後者だった。
「ほぇー、世界にはいろんな街があるんだねー♪」
「そういえば、時期的にこういう行事があったの忘れてたわね」
「う、うん……大きな戦いがあったりして、大変だったもんね……」
感動しながらアキュアリスタの夜景を見やるヒロに同調して、テュリンも低い身長をいっぱいに伸ばすように人出を眺める。ララベルはと言うと、あまりの人の多さに気後れしているようだ。
怖気づいた様子のララベルの手を、ヒロとテュリンが一緒になって引く。
「さて、それじゃ夜景の綺麗な場所を探してみましょうか」
「うんうん、片っ端から見て回りたいね! ほら、ベル君も早く!」
「ま、待ってよ……!」
ララベルが二人に引かれるようにして、三人はアキュアリスタの目抜き通りを歩いた。ここは広い通りであるゆえに、たくさんの屋台が出店して、たくさんのリースが飾られている。ヒロも、テュリンも、感動に目を見開いていた。
「うわぁ、すごーい……!」
「……そっ、それにしても色んな飾りがあって賑やかだね」
「故郷の街には、こんな華やかな場所なかったからなー」
ララベルが左右に忙しなく目を配りながら言うと、ヒロが口を開いて呆けたようにしながら声を発した。
そこからは楽しい観光の時間。目抜き通りを歩き、様々な色合い、様々な飾りのつけられたリースの間を歩きながら、ヒロが唐突にララベルとテュリンに声をかける。
「ねぇねぇ、テュリンちゃんとベル君の昔の話聞きたいなー♪」
「えぇっ!?」
「あ、聞きたいー? といっても、ベルは昔から今と殆ど変わらない感じではあるけどね」
困惑の声を上げるララベルに対し、テュリンは逆に面白そうに笑った。
戸惑うララベルをそのままに、テュリンの口から二人の思い出話が語られる。昔に遊んだ記憶、遠出して冒険した場所、楽しかったこと、などなど。
そうこうするうちに、三人は目抜き通りの端、湖の際までやってきて。少し開けて広場になったその場所からは、遺跡の姿がよく見える。
「……あ、見てみてここ、ここからあっちを見るとすごく綺麗!」
「あ、ほんと……」
「壮観ね、こうして見ると」
リースの飾られた柵に手をかけながら、三人は光り輝く遺跡の姿に目を見張った。
今は泉の水がなくなってその全貌が顕になっているが、普段の水が張られた時分に見るこの光景も、また綺麗なのだろう。
鮮やかに輝く遺跡を見ながら、ララベルがふと、声を上げる。
「……ねえ、二人とも」
「ん?」
「なーに?」
思わせぶりに声をかけてくるララベル。彼に返事を返すヒロもテュリンも笑みを浮かべて。そんな二人に輝かんばかりの笑みを向けながら、彼は言う。
「僕、二人の事大好きだよ……こんな風に、もっと親密になりたいな」
その発言に、一瞬だけ二人が目を見開いた。そしてすぐ、面白いものを見た、と言わんばかりに目を細める。
「ほほぉー? それはつまり、幼馴染以上の関係になりたいという事かしら?」
「えっあっ」
テュリンのツッコミに、元々赤く染まっていたララベルの頬が更に赤くなった。耳も赤い。これはきっと、寒さのせいではない。
まごつくララベルに、ヒロとテュリンが両側から抱きついた。
「……ふふ、でも、そういうのも良いかもね」
「うふ、ありがとね♪ サービスでハグもつけちゃう♪」
嬉しい言葉に、喜ぶ二人。そんな二人に密着されて、ララベルはますます混乱を深くした。
●ラァジディストヴォー
賑やかしく沸き立つアキュアリスタの街を、シャルロッテ・レッフラーは歩いていた。
「ヴァイセントラフ砦防衛時、男の人に危ない所を助けて貰ったなぁ……」
同じ頃、御堂・秀哉も同じ道を逆方向に歩いていた。
「ヴァイセントラフ砦防衛で一緒に戦った、可愛い子がいたなぁ……」
二人とも、先の決戦で戦い、勝利を勝ち取った冒険者。過去の戦いを思い浮かべ、その際に顔を合わせた同僚を思い浮かべながら、二人は距離を近づけていく。
「カッコいい人だったなぁ……いえ、それは関係ないけど……はぅ……」
「またいつか、会うことも……」
会うことも、あるだろうか。そんな偶然はないだろうか。そう思いながら、同時に空を仰いで。
ぐ、とシャルロッテが拳を握った。
「ううん、美味しいものでも食べて切り替えようっ! ……って、あ、れ?」
その拍子に、足元がお留守になっていたのだろう、他の観光客の足とぶつかる。ぐらりと傾ぐ彼女の身体。
そこに、すぐさま差し出される手が二つ。
「危ないっ!」
「きゃっ!?」
倒れそうになる彼女の体を支えたのは秀哉だった。彼の手に、ぷにっと柔らかな感触が伝わって。その手の置かれている場所は、ちょうどシャルロッテの胸元だ。
しかしそこに彼は気付かない。気付かないまま、シャルロッテに呼びかけた。
「大丈夫ですか!?」
「す、すみません! ありがとうござい……ああっ!!」
「え? ……ああっ!!」
お礼を言う彼女が視線を眼前の秀哉に向ければ、その覚えのある顔に声を上げて。同時に秀哉も、自分の手がある場所に気がついて声を上げて。
気がつけば往来の真っ只中で、二人して頭を下げあっていた。
「す、すみません、すみません!」
「い、いえ! こちらこそ、すみません!」
一頻り謝って、互いに互いがその人物であることを確認して、シャルロッテと秀哉は笑いあった。
そして改めて、己の名を相手に告げる。
「私はシャルロッテ……お名前、聞かせて貰えますか?」
「あ、あー、あの時の! 僕は秀哉です、御堂秀哉」
自己紹介も済んだら、再びはにかむように笑う二人。そして秀哉が、恥ずかしそうに頭をかきながら口を開いた。
「……その、よろしかったら一緒に夕食でも、どうですか」
「わ、ありがとうございます!」
その誘い文句に、すぐに飛びつくシャルロッテだ。そうと決まれば話は早い。二人は今いる場所から、レストラン街に向けて歩き出す。
歩きながらも、先の決戦での話は尽きない。
「その、すみません、僕、あの時もなんか変なところ触って……」
「えっ、そんなことありましたっけ? すみません、夢中で全然覚えてなくて……」
レストラン街を歩き、良さそうな雰囲気のレストランを探しながら、秀哉とシャルロッテは会話を重ねていく。
その道中、こちらもヴァイセントラフ砦防衛戦で見かけた、ララヴェル・ララフェルがいたような気もした。
きっと、彼女もここにいたのだろう。そんな気がした。
水上都市アキュアリスタの聖霊節の夜は、いつも以上にきらびやかで、いつも以上に賑やかだった。
街路の両側に軽食やスイーツ、アクセサリーを売る屋台が並ぶ中、スィーリーンは目を輝かせながら町並みを眺めていた。
「飾り付けも綺麗ですけれど、街並みそのものも素敵ですね……!」
彼女のそばにいつの間にか立っていたノノアも、目を大きく見開きながら同じ方向を見ている。
「さすが水上都市アキュアリスタの聖霊節ね……」
声を発したのはほぼ同時。そして距離も近い。二人共が、つい最近互いの声を聞いたことがあったわけで。
「あら?」
「えっ」
思わず互いに顔を見合わせた。高身長のリザードマンであるスィーリーンと、尻尾の大きいハーフビーストのノノア。見紛うはずもない。互いに表情をほころばせた。
「ノノア様、お久しぶりです」
「ボリエ村以来ね」
今年の晩秋に、一緒にリーンエス王国の村にブドウ摘みに行った仲。袖振り合うも他生の縁。二言三言、顔を合わせて言葉を交わす。
「今日は、お一人で?」
「ええ、一人で回ろうと思って。スィーリーンさんも?」
しかし、顔見知りだからといって同行するかとは限らない。今日はお互い、一人で楽しむ予定だったのだ。なので、スィーリーンもノノアもさらりと言葉を交わして別れる。
「そうですね。それじゃあ、楽しんでください」
「ええ、そちらも」
それぞれ短く話して、別々の街路へ。スィーリーンが立ち入ったのは屋台の多く立ち並ぶ目抜き通りだ。
「リースがたくさん……これだけ多いと作るのも大変だったでしょうけれど、きっと楽しかったでしょうね」
屋台に掲げられ、屋台と屋台の間に掲げられ、街路を挟む柵にも、店の扉にも。
様々なところに掲げられた様々なリースを見て、スィーリーンは目を細める。身長の高い彼女の目には、様々なところにリースが飾られているのが見えていた。
「軽食の屋台などは、出ていないでしょうか。あとはスイーツのお店なども……」
視点を下の方に向けながら、軽食の屋台がないかどうかを探す。美味しそうなものを並べている屋台は多くあるが、どの屋台のご飯も美味しそうだ。
これは自分では決めきれない、諦めてスィーリーンは屋台の中で魚の身を焼く、ハーフビーストの男性に声をかける。
「すみません、この街の食べ物でおすすめは何かありますか?」
「ん? そうだなぁ……魚の身を挟んだサンドイッチなんかが有名だぞ。あとは……」
話を熱心に聞きながら、スィーリーンは視線を屋台の中に向ける。店主の男性はそう言うが、今こうして焼かれている魚も美味しそうだ。
一方ノノアは目抜き通りから外れ、レストラン街に足を向けていた。喧騒はいくらか落ち着いているが、こちらも聖霊節のごちそうを求めて人々が集まっている。
「帝国の崩壊が無かったら、今は両親と一緒に聖霊節を堪能していたのかしらね……」
街路を歩きながら、ノノアは今はなき故郷、そして両親を思い返す。もう手の届かない幸せな日々、懐かしいが、そこばかりに目を向けても仕方がない。
いろいろな人と出会えたことに感謝して、前を向いて進む。それが今の自分に必要なことだと、ノノアは思う。
それにしても、随分多くのレストランがあるものだ。王国風、帝国風、都市同盟風にシャルガネ風。よりどりみどりだ。
「この辺のレストランもいい感じね。ここの店とか、雰囲気がいいし……一人でも入れるかしら」
そう言いながらノノアが扉を開けたのは、帝国風の料理を出すらしい一軒のレストランだった。ステンドグラスの嵌められた扉を開けて、中を覗き込む。
「すみません、一人でも大丈夫ですか?」
「いらっしゃいませ、大丈夫ですよ。どうぞこちらへ」
迎えてくれたエルフのウエイターが、にこやかに笑ってノノアを席まで案内した。メニューを渡され、料理を決めて、運ばれてくる牛肉のコトレータに、根菜のスープ、クリームをふんだんに使ったケーキ。どれもこれもいい味わいだ。
「うーん、美味しい……」
「ご満足いただけましたか?」
食事を終えて満足した表情のノノアの元に、ウエイターがやってくる。彼へと笑いかけながら、ノノアが一本指を立てた。
「ええ、ありがとう。とても良かったわ。食後にお茶をいただけるかしら」
その言葉に相手は頷いて。供される紅茶を楽しみながら、ノノアはレストランの窓から見える、アキュアリスタの平和な街の姿をも楽しんだ。
●ヴァイナハテン
「メリーユールフェス!」
ニーラ・メッコはぐ、と両腕を高く天に向かって突き上げながら、もう何度も発したその文句を発した。
頭には白いポンポンのついた三角帽子、服の上には赤いケープ。ちょうど、祭りを案内してくれた「踊る子熊亭」のクサンドラが、こんな格好をしていた。
そして、彼女は今、レストラン街の外れにある、とある人気レストランの窓際席に一人座っていた。アキュアリスタの目玉である湖と遺跡が一望できる席ということで、数あるレストランの中でも特に人気の店、人気の席だ。
「さすがは水上都市アキュアリスタが見渡せる絶景が売りのレストラン、その窓際席! 早朝から並んだ甲斐があったわー」
ニーラはこの席を確保するため、早いうちからアキュアリスタに入って、列に並んでいたのだ。目当ての席の確保のためには、早め早めの行動が欠かせないのである。
メニューにちらと視線を向けてから、ニーラが近くを通ったウエイターを呼び止める。
「お兄さん! 聖霊節限定の特別料理を一人前お願い! このときのために依頼で頑張ってお金を貯めたんだから!」
「かしこまりました、少々お待ち下さい」
彼女の言葉に、意を汲み取ったウエイターが一礼する。そうしてしばしの時間をおいて、彼女の前に運ばれてきたのはソテーされた若鶏だ。
若い鶏は非常に貴重だ。よほど潤沢な肥育が出来ないと、若鶏のうちに店に出すことは出来ない。故にこの特別料理は数量限定、金額もかなりする。
それをニーラは迷わず注文した。このために、この日のために色んな仕事をこなしてきたのだ。
ナイフを入れれば、ぷつりと肉の繊維が切れ。一口大に切って口に運べば、柔らかな肉汁が溢れ出す。施されたバターの旨味も、実にたまらない。
「うーん、この味、最高ー! 美味しいー!」
もう、たまらない。そんな声がニーラの全身から溢れ出していた。
どんどん肉は彼女の腹の中に収まっていって、皿の上は空っぽ。それを確認したウエイターが、ニーラへと声をかける。
「お飲み物はどうなさいますか?」
「ぶどうジュースをお願いするわ!」
年齢的に、お酒はまだ飲めない。ここはぶどうジュースで我慢するのだ。
そうして運ばれてくるのはリーンエスの銘醸地、ボリエ村生産のぶどうジュース。グラスから甘い芳香が立ち上る。
「お待たせいたしました」
「ありがとう! んー、このジュースも美味しいー!」
一口、口に含めば溢れんばかりの果実味と甘みがニーラの味覚を支配した。これもまた、たまらないものだ。
「町の灯りが綺麗よねぇ。最高のディナーだったわ!」
光り輝くアキュアリスタの遺跡と町を窓から眺めて、ニーラは微笑む。この上等な時間を、もう少し堪能していたかった。
●ユール
一人で単独行動をしている聖霊節の参加者は多い。ブルーテ・ビシアもその人並みに混ざって、アキュアリスタの街を散策していた。
「たくさんのリースが飾られているなぁ。俺の作ったリースも、この中にあるってことだよな……」
彼が目を向けているのは、街のあちこちに飾られたリースだ。シンプルなものから派手なもの、奇抜なものまで様々多彩。
ブルーテも先日、この街でリース作りの手伝いをした。結構な数を作成し、そのいずれもがシンプルで特徴のないものだが、自分が手掛けたリースを見紛うはずもない。
何しろ、あの集団の中では飛び抜けてたくさんの数を作ったのだ。自分の作品を見つけられる確率も上がる。事実、ある屋台の軒先に飾られているのを、すぐに見つけられた。
コニファーの枝が差し込まれ、ナンテンの実で彩られたリース。無骨な屋台によく似合っている。
「工房で一緒に作った仲間たちの作ったのも……お、あったあった」
その周辺に目を向けて、他の仲間の手の中で見かけたリースがないか、探すブルーテ。キョロキョロとしていると、隣の屋台に見かけたことのあるリースが。ヒバの葉が巻かれ、果物のオーナメントや木の実があしらわれた品だ。
「これは隣で作っていたあいつの……こっちはあれか、あの吟遊詩人の作っていた派手なやつ」
その屋台の隣、雑貨屋の軒先には真っ赤なリースが飾られている。赤く染まった木製の薔薇が、ここでもしっかり主張しているようで。
心の内で感心しながら、ブルーテは目の前にある屋台の店主に声をかけた。リザードマンの店主が、湯気の立つ大鍋をかき混ぜている。中身は温かなグリューワインだ。
「しかし冷えるな……おっちゃん、グリューワイン一杯くれ」
「あいよ」
返事を返す店主の男性が、手にしたおたまでワインをひとすくい。木製のカップに注いでブルーテに手渡せば、代わりに数枚の硬貨が店主の手の中へ。
そのグリューワインを飲みつつ散策を再開すれば、三色のリボンが巻かれたリースに、稲穂と麦の穂があしらわれたリースが目に留まる。見たことのあるリースがちゃんと飾られているのは、嬉しいものだ。
グリューワインを飲み終えたところで、ブルーテが目に留めるのは一軒の酒場だ。扉を大きく開いたそこにもリース。ありふれた内容のものだが、もしかしたらあの場で作られたものかもしれないし。何より扉の向こうからいい香り。
「お、こっちの酒場もいい匂いさせてるな。邪魔するぜ」
「おう、いらっしゃい」
そうして酒場の中に入り、軽食をつまんで酒を呷ったブルーテだ。程々に飲んで、いい気分になった彼が酒場を後にすると。
「ふー……お?」
酒場の向かい、アクセサリーを取り扱っている屋台の軒先。リース台の枝がほとんどむき出しになり、上部にナンテンの枝とリボンが飾られたリースが目に入った。
「……へえ」
あれも、自分の作品だ。飾られているのが嬉しくなって、つい、その屋台の品物を覗き込んでしまう。
「ちょっと、品物見せてもらえるか」
「ええどうぞ、存分に見ていってちょうだい」
ブルーテが店頭の商品に興味を示したことに喜びながら、店番を勤めるハーフリングの女性が笑う。こうしてこの街の賑わいに貢献できれば、嬉しいとブルーテは思っていた。
●フリストゥーイエナ
単独で行動する者もいれば、一緒になって行動するものもいる。ケン・Z・ブラッドリーとシャロン・ラ・モリエールは、偶然この街にやってきて顔を合わせると、至極スムーズに言葉を交わし合っていた。
「あら、お久しぶり。よろしければご一緒しませんか?」
「そいつは嬉しいお誘いだ、喜んで」
先日のヴァイセントラフ砦の防衛依頼で、共に肩を並べて戦った仲だ。それだけではない、寝顔だって見ているくらいの間柄。少しは戦い以外の場でも、交流を深めていいはずだ。
そう考えたシャロンはケンを誘い、アキュアリスタの目抜き通りにくり出す。
並ぶ屋台、その店先のリース。それらを見ながらケンが感慨深げに零した。
「すごい数のリースだな」
「そうですね。私がこないだ作ったものも飾られているんですよ」
「へえ? どんな感じのを作ったんだい?」
ケンの発言に反応したシャロンが笑みを見せると、興味をいだいたケンが乗っかってくる。
シャロンはふ、と宙を見上げながら笑った。夜空には星が瞬いている。あの星空のようなきらびやかなリースを、この町で作って孤児院に送り届けたっけ。
「緑色のと金色のと二つあって……あっ、ありました、あれですあれ」
そう話しながらシャロンが一軒の屋台を指差す。そこにはたしかに、緑色の土台にリボンを結ばれた松ぼっくり。白と青の二色の綿にナンテンの実。あの時シャロンが作り上げたリースだ。
それを見ながら、ケンが顎に手を持っていく。
「へえ……綺麗じゃないか」
「ふふん。もう一つのも近くに飾ってあったりしませんかねー」
褒められたシャロンが自慢気に胸を張ると。その張られた腹から、鳴き声を上げる腹の虫。しかも結構大きい音が鳴った。
「あっ……」
突然腹の虫に鳴かれて、シャロンが顔を赤らめた。彼女を見やったケンが、くすりと笑みを零す。
「ふふ、こうあちこちから美味しそうな匂いがすると、お腹が空くよな?」
「はい……それに今日は、『踊る子熊亭』の無料飯しか食べてないから……」
ケンの言葉に腹を抑えながら、シャロンが呻く。今日は一日一食無料の食事を昼前に食べたきり。それから水以外は何も口にしていないで、この現場だ。腹の虫だって鳴きだして当然と言える。
苦笑したケンが、財布を取り出しながら目の前の屋台の焼台に並べられた牛肉の串焼きを見やる。
「じゃ、そこの串焼きでも買って食べるか? 奢ってやるよ」
「奢りですか!? やった!!」
奢り。その言葉に反応したシャロンの尻尾がピンと立った。串焼き一本程度、奢ったとしてさしてダメージはない。
買った串焼きを頬張りながら、ケンとシャロンは屋台の並ぶ通りを歩いていく。
「こういった祭りの屋台の料理って独特な旨さがあるよな」
「はい。なんだか、特別な感じがします……美味しすぎるので買い食い癖がつかないようにしないと……」
ケンの言葉に、俯くようにしながらシャロンは串焼きの肉をかじっていた。節約倹約を旨とする彼女、ちょっとの贅沢も控えなければと心に決めているのだ。
シャロンの言葉に困ったような笑みを見せながら、ケンが両手に息を吐く。
「そうだな……しかし、最近冷えてきたな。やっぱり冬か」
息を吐きかけた手をこすりながら、ケンが視線を横に向けた。ちょうどそこには、自前の豊かな毛皮を持つ、獣人姿をした狐のハーフビーストの観光客。自分と違って、彼は暖かそうだ。
「ハーフビーストの人たちの中には、自前の毛で暖かそうな人達がいるよな」
「孤児院でもヒューマンの子は寒そうでしたね。寒いですか? 私のしっぽは暖かいですよ」
ケンの言葉にシャロンも頷いて。彼女もハーフビースト、ヒューマンやドワーフより寒さには強いようだ。
と、いたずらっぽく笑うシャロンが、尻尾をしゅるりと動かした。
「あ、よく孤児院ではこうやってましたよ」
そのまま、尻尾をケンの片足に巻きつけた。同時に身体をぴったり寄せる。突然の行動にケンが驚きの声を上げた。
「うわ……!? びっくりした。でも暖かいな」
驚いたし、歩きにくいけれど、片足だけぽかぽかと温かい。その事実に目を細め、二人は夜のアキュアリスタを歩いていった。
●ナビダー
現地で合流した面々もいれば、先んじて合流して連れ立っている面々もいる。ヒロ・テスタロッサ、ララベル・サン・ディーベル、テュリン・ヴィングの三人については後者だった。
「ほぇー、世界にはいろんな街があるんだねー♪」
「そういえば、時期的にこういう行事があったの忘れてたわね」
「う、うん……大きな戦いがあったりして、大変だったもんね……」
感動しながらアキュアリスタの夜景を見やるヒロに同調して、テュリンも低い身長をいっぱいに伸ばすように人出を眺める。ララベルはと言うと、あまりの人の多さに気後れしているようだ。
怖気づいた様子のララベルの手を、ヒロとテュリンが一緒になって引く。
「さて、それじゃ夜景の綺麗な場所を探してみましょうか」
「うんうん、片っ端から見て回りたいね! ほら、ベル君も早く!」
「ま、待ってよ……!」
ララベルが二人に引かれるようにして、三人はアキュアリスタの目抜き通りを歩いた。ここは広い通りであるゆえに、たくさんの屋台が出店して、たくさんのリースが飾られている。ヒロも、テュリンも、感動に目を見開いていた。
「うわぁ、すごーい……!」
「……そっ、それにしても色んな飾りがあって賑やかだね」
「故郷の街には、こんな華やかな場所なかったからなー」
ララベルが左右に忙しなく目を配りながら言うと、ヒロが口を開いて呆けたようにしながら声を発した。
そこからは楽しい観光の時間。目抜き通りを歩き、様々な色合い、様々な飾りのつけられたリースの間を歩きながら、ヒロが唐突にララベルとテュリンに声をかける。
「ねぇねぇ、テュリンちゃんとベル君の昔の話聞きたいなー♪」
「えぇっ!?」
「あ、聞きたいー? といっても、ベルは昔から今と殆ど変わらない感じではあるけどね」
困惑の声を上げるララベルに対し、テュリンは逆に面白そうに笑った。
戸惑うララベルをそのままに、テュリンの口から二人の思い出話が語られる。昔に遊んだ記憶、遠出して冒険した場所、楽しかったこと、などなど。
そうこうするうちに、三人は目抜き通りの端、湖の際までやってきて。少し開けて広場になったその場所からは、遺跡の姿がよく見える。
「……あ、見てみてここ、ここからあっちを見るとすごく綺麗!」
「あ、ほんと……」
「壮観ね、こうして見ると」
リースの飾られた柵に手をかけながら、三人は光り輝く遺跡の姿に目を見張った。
今は泉の水がなくなってその全貌が顕になっているが、普段の水が張られた時分に見るこの光景も、また綺麗なのだろう。
鮮やかに輝く遺跡を見ながら、ララベルがふと、声を上げる。
「……ねえ、二人とも」
「ん?」
「なーに?」
思わせぶりに声をかけてくるララベル。彼に返事を返すヒロもテュリンも笑みを浮かべて。そんな二人に輝かんばかりの笑みを向けながら、彼は言う。
「僕、二人の事大好きだよ……こんな風に、もっと親密になりたいな」
その発言に、一瞬だけ二人が目を見開いた。そしてすぐ、面白いものを見た、と言わんばかりに目を細める。
「ほほぉー? それはつまり、幼馴染以上の関係になりたいという事かしら?」
「えっあっ」
テュリンのツッコミに、元々赤く染まっていたララベルの頬が更に赤くなった。耳も赤い。これはきっと、寒さのせいではない。
まごつくララベルに、ヒロとテュリンが両側から抱きついた。
「……ふふ、でも、そういうのも良いかもね」
「うふ、ありがとね♪ サービスでハグもつけちゃう♪」
嬉しい言葉に、喜ぶ二人。そんな二人に密着されて、ララベルはますます混乱を深くした。
●ラァジディストヴォー
賑やかしく沸き立つアキュアリスタの街を、シャルロッテ・レッフラーは歩いていた。
「ヴァイセントラフ砦防衛時、男の人に危ない所を助けて貰ったなぁ……」
同じ頃、御堂・秀哉も同じ道を逆方向に歩いていた。
「ヴァイセントラフ砦防衛で一緒に戦った、可愛い子がいたなぁ……」
二人とも、先の決戦で戦い、勝利を勝ち取った冒険者。過去の戦いを思い浮かべ、その際に顔を合わせた同僚を思い浮かべながら、二人は距離を近づけていく。
「カッコいい人だったなぁ……いえ、それは関係ないけど……はぅ……」
「またいつか、会うことも……」
会うことも、あるだろうか。そんな偶然はないだろうか。そう思いながら、同時に空を仰いで。
ぐ、とシャルロッテが拳を握った。
「ううん、美味しいものでも食べて切り替えようっ! ……って、あ、れ?」
その拍子に、足元がお留守になっていたのだろう、他の観光客の足とぶつかる。ぐらりと傾ぐ彼女の身体。
そこに、すぐさま差し出される手が二つ。
「危ないっ!」
「きゃっ!?」
倒れそうになる彼女の体を支えたのは秀哉だった。彼の手に、ぷにっと柔らかな感触が伝わって。その手の置かれている場所は、ちょうどシャルロッテの胸元だ。
しかしそこに彼は気付かない。気付かないまま、シャルロッテに呼びかけた。
「大丈夫ですか!?」
「す、すみません! ありがとうござい……ああっ!!」
「え? ……ああっ!!」
お礼を言う彼女が視線を眼前の秀哉に向ければ、その覚えのある顔に声を上げて。同時に秀哉も、自分の手がある場所に気がついて声を上げて。
気がつけば往来の真っ只中で、二人して頭を下げあっていた。
「す、すみません、すみません!」
「い、いえ! こちらこそ、すみません!」
一頻り謝って、互いに互いがその人物であることを確認して、シャルロッテと秀哉は笑いあった。
そして改めて、己の名を相手に告げる。
「私はシャルロッテ……お名前、聞かせて貰えますか?」
「あ、あー、あの時の! 僕は秀哉です、御堂秀哉」
自己紹介も済んだら、再びはにかむように笑う二人。そして秀哉が、恥ずかしそうに頭をかきながら口を開いた。
「……その、よろしかったら一緒に夕食でも、どうですか」
「わ、ありがとうございます!」
その誘い文句に、すぐに飛びつくシャルロッテだ。そうと決まれば話は早い。二人は今いる場所から、レストラン街に向けて歩き出す。
歩きながらも、先の決戦での話は尽きない。
「その、すみません、僕、あの時もなんか変なところ触って……」
「えっ、そんなことありましたっけ? すみません、夢中で全然覚えてなくて……」
レストラン街を歩き、良さそうな雰囲気のレストランを探しながら、秀哉とシャルロッテは会話を重ねていく。
その道中、こちらもヴァイセントラフ砦防衛戦で見かけた、ララヴェル・ララフェルがいたような気もした。
きっと、彼女もここにいたのだろう。そんな気がした。
マスターコメント
ご参加くださった皆様、ありがとうございました。
お楽しみいただけたら幸いです。
メリーユールフェス!
イベントシナリオ易しい 報酬:無し12 / 4〜12人
2020年12月26日 10時58分40秒 公開
普通
参加者
相談掲示板
ノノアよ。 今の所は街用の私服で一人で見て回ろうとしてますが、何方かご一緒する方がいましたらご一緒にどうでしょうか。その場合に内容を細かくするのでしたらお手紙で合わせる感じになりそうですわ。
シャルロッテです。 よろしくね。
僕は、ララベル・サン・ディーベル。 みんな、よろしくね! ヒロとテュリン姉と一緒に楽しむつもりだよ。
ブルーテ・ビシアだ。よろしくな。 リース作りに参加してたんで、その時に作成したリースを探しがてら 街中ふらふら歩いてみようかと。 酒場に吸い込まれてそうな気もするが。
スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 街を歩きながら街並みや飾り付けを見て回りたいと思っています。
キャスターのニーラ・メッコです。 よろしくね! 聖霊節の町を満喫するよ! 楽しみ!
ララヴェルです。 水上都市に行くのは初めてなので、あちこち見て回れたらなーと思っています。 よろしくおねがいします!
テュリン・ヴィングよ。 既に発言されてるけど、ベル達と一緒に行動する予定かな。 そんな訳でよろしくね
ヒロ・テスタロッサだよー! テュリンちゃん&ベル君と行動する予定ー。 もし現地で会ったらよろしくー♪