ブランシュ・テューダーの秘密の庭掃除

棟方ろか

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シナリオID:362

オープニング

 口紅を塗ってお洒落した林檎を見かけたら、ジャムと林檎酒(シードル)の香りを思い出すの。
 林檎は生で食べるには苦くて酸っぱいけれど、醗酵させた林檎酒(シードル)は甘くて美味しいのよ。
 黄色く芳醇な香りがするマルメロの実も、砂糖漬け(マーマレード)になるとますます子どもたちの人気者。
 この村(ウォラム・フェア)で育った子は、庭や近所で成った果実が食卓に出る日々が当たり前だから、果物にこだわるのも無理ないわ。その家も今の時期は来たる冬に備えて、枯れ草の中にたくさんの果実を眠らせているの。それを拾い上げて炉端の灰で蒸し焼きにするのも、寒くて暗い冬を楽しむ秘訣よ。ううん、秘訣なんて難しいものじゃないわ、きっと『娯楽』と呼べるものね。

●冒険者ギルドにて
「よっ、お疲れさん。ちょうど良かった、ちょっとこれ見てくれないかな」
 依頼書を掲示していた人の良さそうな青年が、掲示板の前へやってきた冒険者へ声をかける。冒険者の目を引いてすぐに彼がノックしたのは、張り出して間もない新鮮な依頼書だ。
 ブランシュ・テューダーという依頼人の名で、依頼内容は『庭掃除』と記されているが。
「記載は庭掃除なんだけどね、庭を荒らす害獣を退治をしてくれって話だ」
 張り出され、多くの人の目に留まる依頼書だ。諸事情から表記は穏便なものにしたかったという。もちろん、ギルドにはきちんと仕事の詳細が伝えられているため、情報に偽りはない。
「テューダー子爵直々の依頼だ。冒険者に頼るのも厭わない珍しいお貴族さんだよ」
 まるで他の多くの貴族は違うとでも言いたそうに、青年は頬を掻いて詳細を話し始めた。
「日中は被害どころか、襲撃犯の影も形もないらしい。荒らされるのは夜間だけだ」
 果物の貯蔵所はもちろん、手入れの行き届いた花が引きちぎられ、薪や鉢はひっくり返され、ラティスも倒されて散々な目に遭ったという。はじめの二日程は獣避けの香草や罠で対処を試みたが、どうも効果が無かったようで。
 二日目以降、襲撃者は脇目も振らず貯蔵所や食用花へ突き進んで荒らしていったのが、痕跡から分かっている。同じ個体が連夜攻めてきたのだろう。
「夜の見回りをしてた衛兵によると、襲撃犯は猪の群れって話さ」
 衛兵たちで追い払いはしたが負傷者も出てしまい、さすがに続けて来られると耐えられない。そこで冒険者に声がかかったのだ。冒険者なら害獣を見事に殲滅し、平穏な夜と庭を取り戻してくれるだろうと、ブランシュはもちろん使用人たちも期待している。
「しかも猪は大きいのが四体。小さいのに至っては七体もいる大所帯だよ」
 相手は人を恐れずに突進してくる猪だ。庭で戦いを続ければ、どれだけの被害が及ぶかは想像つく。毎日毎日、若い庭師エグバートがぼろぼろの庭を前に呆然と佇み、涙を堪えつつ整えていく背中を館の人々は知っている。殲滅はもちろんだが、庭もなるべく守るよう努めてほしい。
 かれらがやってくるのは、庭の向こうに広がる深い森だ。森の何処から来るのかまでは不明だが、庭を気にせず戦えるという点では森を戦場とするのが一番だろう。当然、猪にとって森は正に庭のようなもの。地の利が向こうにあることを忘れてはならない。
「……森にも猪が食べるような茸とか実とか、あるはずなんだけどな」
 顎を撫でながら青年が唸る。やはり蓄えのある庭を発見されたのが、運の尽きだったのだろうか。
「そうそう、依頼書にもある通り、夜が明けたら朝食も出してくれるってさ。いいなあ」
 青年が羨ましげな声をあげたのには理由がある。ウォラム・フェアは果実酒やジャムといった、果物を用いた素朴ながらも温かい食事が美味しいと評判だ。林檎と梨、今の時期はマルメロを使ったパンや紅茶が絶品だと彼は言う。
「今から向かえば日没前に到着できるよ。……あのさ。お土産、頼んでもいい?」
 そんな一言を最後に、青年の依頼説明は幕を下ろした。

解説

≪依頼書≫ 内容 :庭のお掃除 場所 :リーンエス王国ウォラム・フェア、テューダー家 期間 :日没から朝食の時間まで 報酬 :普通 依頼主:ブランシュ・テューダー 備考 :仕事終わりに朝食をご一緒しましょう ≪PL向け解説≫ ●成功条件  庭を荒らされないよう一晩監視し、猪を殲滅する ●状況  夜に咲く花や、暗いことで眠りに就ける花もあるため、庭園に灯りは設けていません。  庭であれば月明かりだけでも充分ですが、森は鬱蒼としているため、月明かりだけでは不十分でしょう。  あと庭も森も夜は寒いです。一応、ブランシュから一人一人に厚手のブランケットは貸し出されます。 ●敵 猪×4体、うり坊×7体  突進する他、大きな猪は鋭い牙で突き上げる攻撃もしてきます。  小さい方はちょこまか動き回って素早く、一頭が攻撃したら他の個体も続けて同じ相手を襲う傾向あり。 ●NPC ブランシュ・テューダー  今回の依頼人。三十代の子爵。のんびりした雰囲気の女性。  ウォラム・フェアと呼ばれる村一帯の管理を任されている。 アイラ・ヘイゼル  ブランシュの世話係。ブランシュより少し年上で、ブランケットや朝食の準備は彼女が行う。 エグバート  テューダー家に召し抱えられて間もない若い庭師。ある意味、今回一番被害を受けた人。

マスターより

 おいしい朝食のためにも、庭師のためにも、解決してあげてくださいませ。  なお、当依頼での言動や成果によって、今後テューダー家から出される依頼に変化が生じるかもしれませんし、生じないかもしれません。

リプレイ

●
 庭師のエグバートが案内した場所は、彼が丹精して育てた植物たちの楽園――のはずだった。未だ元通りとは呼べない庭を目の当たりにして、ザザ=ステルヴィナは、大丈夫よ、と片目を瞑ってみせる。
「これ以上、荒らさせたりはしないから」
 かれの言葉を耳にし、フリューリングスルフト=ティエラ――フリューもまた庭の惨状に眉根を寄せる。
(心込めて育てた花々や庭……)
 ひどい有様としか形容できない。花弁は散らされただけでなく踏み荒らされ、土に塗れて本来の色から程遠い。どことなく怯えて映ったこの庭は、襲撃の残滓が色濃く、完全に復活するまで日数もかかりそうだ。
 そこへダリア・レプシウスが言の葉を繋げる。
「ご安心ください。このご依頼、ダリア・レプシウスも皆様と一丸となり、成してみせますわ」
 心強さを受け取り、若き庭師は頭(こうべ)を垂れ、どうかお願いします、と願いを震わせた。

 外套(マント)をしかと巻き、風が衣服へ滑り込むのを避けたファイサル・アル=ファルドは何気なく木々を仰ぎ見る。黒が滴る森は、夜を目前にした空よりも遥かに暗く、ランタンを頼りに地面を確かめるも、簡単に辿らせてはくれない。
 ううん、とコーデリア・コンクエストが唸った。
「柵の壊れ具合から、方角はこちらに違いないんですけどね」
 庭を囲う柵の一部は、猪によって破壊されていた。襲撃犯が彷徨う異邦の存在でないのなら、巣から真っ直ぐ庭へ向かってきたはず。だからこそ敵も巣も、冒険者たちの見ている方向にあるとコーデリアたちは予想していた。
 すん、と赤頭巾の少女が不意に鼻を鳴らす。
「においますね」
 言いながらユネスコ・ビスコが捉えたのは、土の盛られた糞の跡。そして低木に成る実の無残な有様。どれどれとファイサルが覗き込むと、黄昏すらも追いやった暗闇の中に、分け入ったような茂みの不自然さがあった。
「獣道、ですか」
「獣道ですね」
 ファイサルの確認にユネスコが応じる。山野を分け入る日々に育ったユネスコにとって、故郷と異なる地なれど同じ自然。獣道を探り当てるのも難しくはなかったのだが。
 そこへ、森の奥へ向かっていたザザが、落葉の絨毯を踏み締めて戻ってきた。
「巣は発見できそうでしたか?」
 コーデリアからの問いに、かれは緩くかぶりを振るう。
「あんまり探っちゃうと、却って予期しない動きをされそうだったもの」
 ザザの報告に、そうですわね、とダリアも肯う。
「下手に刺激して、予想外の事態が起きたら大変ですわよね」
「収穫なしも仕方ないってことかなぁ」
 話を聞いていたフリューが瞬いた。ブランケットも、冷えた夜気で濡れたような心地がする。
「ふふ、そうでもないわよ」
 艶めいた笑みを零したザザは、拳を開く。細長い指が開いたそこに、小粒の実や欠けた茸が包まれていて。
「食べられそうな物はそこかしこで見かけたわ」
「食に困って庭を襲った、というわけではなさそうですね」
 収穫物を目に留めユネスコが首を傾ぐと、横でフリューもくるくると目線を動かした。
「美味しいものを見つけちゃって、そっちに天秤が傾いた感じなのかな」
「森の木の実などがお口に合わなかった、という可能性も……?」
 コーデリアが不思議そうに紡いだところで、笑みを絶やさぬままファイサルが付け加える。
「どちらにしても他人のご飯を奪う一家ですから、遠慮は要りませんね」
 彼の瞳は、まもなく邂逅を果たす敵を想い、僅かに揺れた。

●
 寝静まる夜に、鳥の声さえ遠く聞こえる。
 そんな中、固くなりかけていた土が抉れ、草葉が微かにざわめき出す。
 ユネスコが連れていた狼シバの吠える声を合図に、双眸を輝かせてユネスコが勝負を賭けた。初手が肝要と捉えた少女は、シバが猪相手に臆さず威嚇する様を視界に入れつつ、体温でぬるくなった弓を構える。少女が番えた矢は、瞬く間に巨躯へと突き刺さった。
 突然の狼の登場で混乱していた獣の群れは、矢継ぎ早に痛め付けられたことで、より危地の場にあると思い知る。
「こうして目の当たりにすると大家族ですね」
 茂み越しに呟いたユネスコの近くで、コーデリアが頷いた。
「大家族で外食したい気持ちは、わかりますけど……」
 続けてコーデリアは、ふふんと得意げに鼻を鳴らす。
「ナワバリを荒らすものはケジメが必要ですね、海賊的に」
 海賊ジョンの物語におけるナワバリ意識を胸に抱き、興奮冷めやらぬ少女は前を見据える。
「数は揃ってるよ!」
 目を凝らしたフリューが、庭荒らしの元凶を数えて知らせた。
 冒険者が揃っているというのに、獣に散開する気配はなく、ファイサルはそれが気になっていた。衛兵との対峙が成功したのも関係しているのだろうか。一群は逃げずに攻めてくる。腹を満たす為、なり振り構わぬのもまた獣ゆえか。
(……良い度胸だ)
 吐息だけでファイサルが笑う。己の短剣を暗闇で煌めかせるのに、充分すぎる相手だ。彼は先手を取って冷えた土を蹴り、図々しい来訪者へ熱を贈る。裂いた傷口から噴き出る赤による熱を。刃の摩擦により生じた痛みによる熱を。
 悲痛な獣の叫びが轟く頃、閉ざしていた瞼をそっと押し上げ、ザザは清かな夜を打ち破る気配に口端を上げる。
「天光満ちて流れよ。異界の門開きて奏でよ、その旋律……」
 言の葉を音で綴りながら、杖を突き出す。
「出でよ、アーケインテンペスト!」
 示した先に稲光が迸り、かの閃光が獣たちを惑わせた。空を覆い尽くすほどの森の天蓋は、暗夜において光の存在を際立たせる。続けて杖の先端で宙に円を描けば、氷の矢が猪を凍えさせた。
 手際の良さを目撃したフリューが、振り向かぬままザザへぐっと親指を突き立てる。
「良い凍り具合だね!」
「お褒め頂き光栄よ」
 淑やかにザザが一礼するのを見届ける暇も持たずに、巧みな身のこなしでフリューが向かうは猪の傍。
「荒らすんは許せんね」
 森を過ぎる疾風のごとく、不意に吹くかまいたちのごとく、彼女は二種の刃で逆立つ毛も厚い皮の面も切り裂いた。
 そして意気衝天の勢いでコーデリアも斧を振りかざす。
「さあ! この海賊コーデリア様に挑みたい奴は居やがるのですか!」
 憧れに伴う台詞の運びと、使い慣れた斧で風を切り威嚇する。するとうり坊に、コーデリアの存在は脅威として見做された。斧を海賊旗の代わりに掲げた彼女を、小さな猪が追う。
 引き付ける役を担うのは、彼女ひとりだけではない。
「さぁ、どこからでも掛かってきなさい!」
 ダリアは皆が相手取った敵の姿を見渡し、あぶれた猪へ敵意を向ける。殺気と呼ぶにはあまりにも正道なる空気と眼差しだ。けれど狙い過たず、彼女のその意志が猪を射抜いた。ひりつく感覚を覚えた猪がダリアへ飛びかかる。
(っ! なんて強力な……!)
 円い盾で凄まじい体当たりを耐え、ダリアは誇りを剣に換えた一太刀で、鋭く、重たく、悪意をかち割った。

●
 つま先で湿った落葉を蹴っては標的から離れ、離れてはまた迫撃する。その繰り返しでフリューが群れを掻き乱してきた。火よりも赤き髪をなびかせ、陽よりも目映い琥珀の瞳で睨み、彼女は軽やかに宙空も地も征する。
「早めに終わらせよう! 騒音も花が眠れんやもやし!」
 己に切り傷を齎した二振りを、巨猪も無視できない。
「こっち、うちに任せて!」
 皆へ告げた彼女は踵を返し、突進を試みた猪を連れて庭から遠ざかる。
 練り上げたエーテルで光を点したコーデリアが、その優しい光をダリアへと放つ。癒しを得たダリアは、盾を構え続けて揺らがない――思いのほか手こずっていると感じつつも。治癒に専念できる立場がいない以上、銘々で負傷に気を遣う必要があったからだ。
 敵の注意を引く仲間たちがある中で、シバの唸りに怯んだ一体を陰からユネスコが狙い撃つ。夜気に冴えた頭と、元来の視覚をもってすれば、追い込むのは容易い。一体、また一体と深まる夜の下で数えては、残存する敵の数をユネスコが皆へ示していく。
 そして白銀がひた走る。長夜を巡るファイサルは、星月夜とは異なる輝きを帯びて、獣から命を削ぐ。頭突きを繰り出すうり坊に姿勢が崩れかけても、機動力を活かして攻勢に出た。
(食い物の恨みと、丹精込めて作った庭を荒らされた恨み。纏めて味わうといい)
 身を翻してファイサルが一撃を傾けた先、うり坊が全身を強かに打つ。地に伏せた猪が動かなくなったのを確かめてから、頭部を低くして置いておき、次なる標的へ狙いを定めた。
 彼が駆け回る間に、ザザが四辺へ踊らせたのは光の弾。
「素敵なお庭を楽しめない来客には、お帰り頂かないとね」
 招かれざる客めがけ、流星に似た光を降らせていく。
 深夜に広がった一瞬の明るさが、仲間たちへ光明を示す。
 だからフリューも後押しされた心地で、持ち前の技を襲撃者たる獣へ披露し続けた。
「ほらほら、うちの速さに勝てるかな!」
 不敵な笑みを浮かべ手招く彼女の元へと、うり坊が突撃を試みる。フリューも腰を落とし、招いた手で剣を握り直して水平に構えた。駆け抜けるだけの猪に、彼女の意図を判断する力は――ない。
 突進の勢いを糧に換え、フリューは襲撃犯を鋭利な刃の餌食にした。深々と刺さった手応えこそが、猪の末期を報せる証となる。
 一方、跳んだコーデリアの総身から、闘気に溢れた光が零れゆく。地上へ鏤められるだけの輝きは、どれも地ではなく彼女の握る斧へ集う。そして。
「締めくくりといきましょう」
 まるで明るい兆し――曙光のごとく気を漲らせた渾身の一振りは、大地を割らんばかりの衝撃で、押し寄せたうり坊らを叩く。
 ダリアが高らかに奏でたシーザーロアも、分別つかぬ獣へ怒りや恐怖を染み込ませていた。一体を盾で凌いではまた引き付け、うり坊を虜にしたダリアの奮闘は、息を乱す要因にもなっていたが。
「っ、この程度ですか! 私の盾を破れないなど、大したことありませんわね!」
 呼吸を荒げても、ダリアは挑むのをやめない。人の言語など獣に理解できるはずもないのに、彼女へ蝟集する獣はいずれも怒りに満ちていて――だからこそダリアには好都合だった。勇ましい掛け声と共に、猛獣たちを薙ぎ払う。
 抜かりはなかった。彼女の剣は、敵を討ち果たすために振るわれるのだから。
 ぴょんと茂みから赤頭巾が飛び出す。すると狼が、軽やかな足取りで駆け寄って来て。
「シバ! よくやりましたですよ!」
 ユネスコはわしゃしゃとシバを撫で回して褒めちぎる。
 仲間たちもユネスコたちの周りへ歩みを寄せた。獣のにおいも戦いの気配も、徐々に遠ざかっていく。終わったのだと理解した途端から、誰からともなく庭を振り返る。突破されずに残る庭は、訪れたときと同じ顔をしていた。

●
 狩った猪はユネスコやファイサルたちが率先して放血し、すっかり森の恵みと化した。彼女たちが拵えた狩猟肉は、テューダー家にとって、来たる真冬を前にしたご褒美と言えるだろう。
 フリューが戦いの最中に落としてしまったブランケットをはたき、回収に務める侍女アイラへ向き直る。
「ありがとうございました、汚しちゃってごめんなさい」
 素直に謝ると、アイラはゆるやかに頭を横に振って。
「皆様のお役に立てたのです。これらは勲章でございましょう」
 物言わぬブランケットの気持ちを代弁し、勲章となる赤や黄色の葉を連れてアイラは下がった。

 ――ウォラム・フェアの朝は霧と共に始まる。
「ごっはん~! ごはん~! おいしそ~!」
 口ずさむ音頭フリューのものだ。気分が弾むのも無理はない。
 食卓(テーブル)に並んだティーカップや、パンの盛られた籠(バスケット)、ジャムが輝く瓶に火で温められたバター、摘んで間もない葉野菜の彩りが、今か今かと皆の帰りを待っていたのだから。
「まあ素敵♪」
 言葉に違わぬ音を弾ませてザザが手を叩く。
「まるで少女小説に出てくる朝食のようですわ」
「そう仰って頂けると用意した甲斐があるわ。ねえアイラ」
 朝食と共に待っていたブランシュが視線を流した先、給仕を続けるアイラが頬をふくりともたげた。
 やがて、誰も彼もが陽気さを帯びる程には、楽しい朝食のひとときとなる。戦いで夜を明かした冒険者も今は、芳しい香気と喉を落ちる温かさに身を委ねていて。
「皆様のお陰で大事なく済みましたわ、ありがとう」
 ブランシュが改めて感謝を述べた後、本当に良かったです、とコーデリアが連ねる。
「人の蓄えを奪うことを覚えた獣が生息域を広げたら、この庭だけの問題ではなくなりますし」
 コーデリアにとっては、知識として持ってはいても痛感してこなかった現実だ。領地があることの大変さに納得する彼女に、耳を傾けていたブランシュは眼(まなこ)を細めた。
「ええ、仰る通り。事前に解決できてほっとしたわ」
 そう返したブランシュに、果肉たっぷりのジャムをパンへ塗りたくってユネスコも報告する。
「あれだけの痕跡を残した猪たちは、うっかりさんですね」
 野生に暮らしながらも人に慣れているのか、はたまた天敵がいないのか。
 ユネスコの話にブランシュが感心する間も、柔らかな白パンは上等な小麦の薫りを漂わせていた。だからファイサルは口に含んでからも、しっかりそれを堪能する。寒い夜を終え、霧から滲む陽射しに包まれた景色を眺めての朝食。
「一仕事を終えた後に、この朝食を味わえるだなんて……」
 春に咲く花のような優しい黄色のマーマレードも、一度(ひとたび)パンという寝台で横になり、幸せにまどろみ甘さを増した。美味しいなぁ、と囁くファイサルにこくりとダリアが頷く。
「想像よりもずっと華やかで、美味しいですわ」
 そんな冒険者たちの反応は、ブランシュたちの頬をより綻ばせるもので。
「これ、お土産に買って帰ろうかな……」
 ジャムやマーマレードの瓶を見つめてぽつりと零したファイサルに、ふとダリアが思い起こす。
「そういえば、ギルドの方にお土産をお願いされていましたね」
 すると、あっ、とフリューも声をあげる。
「せっかくだからお土産、買いたいなって思うんだけど!」
 どこで買えばいいのかを尋ねるフリューたちに、ブランシュは眦を和らげた。
「せっかくですから差し上げるわ。遠慮なさらないで。……アイラ、後で皆様にお持ちして」
 目を見開く冒険者たちをよそに、ブランシュはアイラへ指示を飛ばす。
「……あの」
 ザザがそこで穏やかに話しかける。
「元通りになったお庭を眺めに、折を見てまたお伺いしても?」
 その言葉を聞き、ブランシュ・テューダーは庭を一瞥した。
 早朝から働くエグバートの姿は、脅威の失せた庭を一刻も早く綺麗にしてあげたい心で満ちていた。冒険者たちにもそう感じ取れる程、彼の姿は活き活きとしていて。
「勿論よ。あの子(エグバート)も花たちも喜ぶわ」
 朝食の席から浮き立つ気分と朗笑が、空へ空へと昇っていく。
 彼らが守り抜いた庭は朝陽に煌めき、葉や花に薄らと描かれた露の跡は、どこか微笑んで見えた。

マスターコメント

 お疲れ様でした。無事に猪は食用肉となり、庭は徐々に元の姿を取り戻していくことでしょう。  ご参加いただき、誠にありがとうございました!  またご縁がつながりましたら、よろしくお願いいたしますね。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2020年12月24日 15時32分35秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ファイサル・アル=ファルド

    おぉ、参加できてた。 ファイサル・アル=ファルドだ。 どなたさんもどうぞよろしくお願いします。

  2. No.2

    シューターのユネスコです。 よろしくお願い致します。

  3. コーデリア・コンクエスト

    ウォーリアのコーデリア・コンクエストと申します。 皆様よろしくお願いいたします。 ナワバリを荒らすものは獣だろうとケジメが必要ですね、海賊的に。

  4. ダリア・レプシウス

    ウォーリアのダリア・レプシウスと申します。 よろしくお願いいたしますわ。

  5. No.5

    夜間の森での行動になるから、明かりと防寒対策は必要ということですね。 ボクは暗視があるのでだいじょうぶですが、何かしらの携行照明があると良いかもです。 狩る相手は普通の猪のようですが、数がやや多いですね。 あれの牙は鋭いですし、突進力もなかなかのものですから、孤立するのは危険かと。 樹上ならば相手も手出しできないでしょうし、いざという際の避難先とするのはアリかも知れません。

  6. フリューリングスルフト=ティエラ

    シーフのフリュー(略称)だよ、よろしくね。 うちも暗視あるよ。防寒具ないからブランケットはお借りしようかな。 突進力もすごそうだし、ウリ坊も同じ相手に他の個体が続けて襲う傾向があるらしいから、そうだね、孤立は危険だとうちも思うよ。 戦う場所は庭を守ることを考えると、うちも森の中が良いかな。 昼間の内に猪たちがくる方向とか足跡で予想つけられればいいんだけど。 難しい場合は夜、向こうが庭に入る前に出迎えて森へ場所を移すのはどうかな? あとは、猪たちがなにを狙ってきていたのか。果実や食用花が好きなのかな? 果実にこだわっている場所の果実だし、それがおいしいって事を知っちゃったのかな?なんて。 狙っているのがわかればそれで誘き出しとか出来るのかなとかも考えてみたり。

  7. ザザ=ステルヴィナ

    キャスターのザザ=ステルヴィナよ。今回はヨロシクねん♪ 私も暗視と、防寒対策にマントは持って行く予定。 >戦う場所 依頼の時間帯は日没から朝食の時間までだから、基本的には暗闇の中で行動する事になりそうね。 猪達の行動パターンは決まっている様だし、貯蔵所や食用花を狙って来た所を庭の手前の森で迎え討つか、 足跡を辿って猪の巣を見付けて叩くか…のどちらかになりそう? >戦闘 猪を発見したら、先ずはサブで【アーケインテンペスト】、メインで【フリーズボルト】を使用して猪の機動力を削ぐ予定よん。

  8. コーデリア・コンクエスト

    >戦う場所 庭で待っていれば確実に戦えるけれど庭が荒れる危険があり、森に入れば見つけられなかった場合に取り逃がす可能性があるけれど戦いになったとき庭を荒らされることは考える必要がない、ということになるでしょうか。 フリューの言うようにまず手掛かりを探してみて猪を追えそうならば森に入り、そうでなければ庭で待ち構えるのがいいかもしれません。 >戦闘 耐久力が低めの人がウリ坊に集中的に狙われると危険そうですね……動きも素早いようですし、ザザのアーケインから逃れたウリ坊がいれば【シーザーロア】で誘引しようと思います。 シーザーロアは一匹にしか利きませんが、うまく習性を利用すれば七匹全てこちらに向かわせることができるかと思います。その分私は攻撃を受けることになるのでメインアクションは自分への【ヒール】が多くなりそうです……そういえば今回ヒーラーがいませんね。傷ついた人へもヒールを使うようプレイングには書いておきます。

  9. フリューリングスルフト=ティエラ

    依頼開始時間帯が日没からだけど、少し前から準備として行動できるなら事前調査する。 出来なければ、庭の前で待ち構えって感じの方がよさそうかな? ヒールはうちも持ってるから、持っていけるように調整してみるね。

  10. ファイサル・アル=ファルド

    事前調査が出来れば森へ入って猪を追い、出来なければ庭の前で待ち構える。了解です! 俺も暗視を持っていきます。防寒具は借りる事になりそうかな……? ヒールも用意出来そうなので持っていきますね

  11. コーデリア・コンクエスト

    今後も役に立ちそうですし私も暗視を取得してきました。 これで夜の森も問題なし、です。 私もブランケットは借りることにするつもりです。 明朝には出発ですね。こちらプレイングは提出済みです。

  12. No.12

    事前準備の件はおっけーです。 猪大家族なので足跡なんかは比較的容易に探せそうですね。 狼のシバを同行させますので、嗅覚による察知も行おうかと。 罠を仕掛けようかと思いましたが、変に警戒されてもと思い、今回は取りやめにしました。

  13. ダリア・レプシウス

    私もなるべく猪の突進を前衛で受けて味方の反撃に繋げたいと思います。 ランタンを持参いたします。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0