【聖祭】英雄のまぼろし
大和気 いぐる
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シナリオID:325
オープニング
●慰霊祭
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。
この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることや、想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。
街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。
赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――今年も、各地で慰霊祭が執り行われていた。
●学園の慰霊祭 夜の部
今年もパンクリアース学園で、慰霊祭の催しが盛大に行われました。
とはいえ、慰霊祭は家族で、という習慣の生徒は多いのです。
家に帰る生徒たちが引き上げると、学園は一気にさびしくなりました。
大食堂に山と積まれたごちそうも、残り少なくなりました。
大騒ぎをやめて、静かに窓辺で語らう生徒が増えました。
早々と会場の、あと片付けに入る生徒もいます。
あなたたちも、ある小食堂の片付け担当でした。
入り口には「閉場! 入るなら片付け手伝って!」の貼紙をぺとり。
机と椅子は部屋の端に集められ、ごちそうの残りは器に詰め終えました。
床には紙屑が、まだ散らばっています。
もみの木模様のセーターを忘れていったのは、だあれ?
そんな風に片付けに追われるなか、彼は現れたのです。
「ホッホッホーウ! メリー、ユールフェース!」
慰霊祭につきものの、赤白の衣装をまとった少年です。
たぶん、少年です。
ハーフリングだから、本当はいくつなのか、よくわかりませんでした。
誰だ君は。貼紙をしておいただろう。
入ってきたということは、片付けを手伝う気はあるんだろうな?
そのようなことを言うと、彼は笑ってうなずきました。
「うん、いいよ! でもさ、僕、ここのことは良く知らないんだ」
生徒の友だちか、お客さんか、それとも最近増えた聴講生でしょうか。
「だからさ、片付けが終わったら、このあたりを案内しておくれよ!」
かまわないが、いったい君は、どこの誰なんだ。
そう言うと、彼は、また高らかな笑い声をあげました。
「ホッホッホーウ! 僕を知らないだって?
まあ、そうかもしれないな。
僕は年に一回、慰霊祭の晩にしか、自由に出歩けないしね」
そして、言ったのです。
「僕は、ジド・ルウ。
呼びにくければ、ジュールかユールって呼んでもいいよ?」
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。
この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることや、想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。
街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。
赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――今年も、各地で慰霊祭が執り行われていた。
●学園の慰霊祭 夜の部
今年もパンクリアース学園で、慰霊祭の催しが盛大に行われました。
とはいえ、慰霊祭は家族で、という習慣の生徒は多いのです。
家に帰る生徒たちが引き上げると、学園は一気にさびしくなりました。
大食堂に山と積まれたごちそうも、残り少なくなりました。
大騒ぎをやめて、静かに窓辺で語らう生徒が増えました。
早々と会場の、あと片付けに入る生徒もいます。
あなたたちも、ある小食堂の片付け担当でした。
入り口には「閉場! 入るなら片付け手伝って!」の貼紙をぺとり。
机と椅子は部屋の端に集められ、ごちそうの残りは器に詰め終えました。
床には紙屑が、まだ散らばっています。
もみの木模様のセーターを忘れていったのは、だあれ?
そんな風に片付けに追われるなか、彼は現れたのです。
「ホッホッホーウ! メリー、ユールフェース!」
慰霊祭につきものの、赤白の衣装をまとった少年です。
たぶん、少年です。
ハーフリングだから、本当はいくつなのか、よくわかりませんでした。
誰だ君は。貼紙をしておいただろう。
入ってきたということは、片付けを手伝う気はあるんだろうな?
そのようなことを言うと、彼は笑ってうなずきました。
「うん、いいよ! でもさ、僕、ここのことは良く知らないんだ」
生徒の友だちか、お客さんか、それとも最近増えた聴講生でしょうか。
「だからさ、片付けが終わったら、このあたりを案内しておくれよ!」
かまわないが、いったい君は、どこの誰なんだ。
そう言うと、彼は、また高らかな笑い声をあげました。
「ホッホッホーウ! 僕を知らないだって?
まあ、そうかもしれないな。
僕は年に一回、慰霊祭の晩にしか、自由に出歩けないしね」
そして、言ったのです。
「僕は、ジド・ルウ。
呼びにくければ、ジュールかユールって呼んでもいいよ?」
解説
ジド・ルウを名乗る謎の少年に、夜の学園を案内してあげてください。
なお、夜間は閉鎖されているはずの場所も、なぜか入れます。
実は学園の案内、というのは口実で、彼はお喋りしたいだけです。
PCの個人的な思い入れやエピソードを語ると彼はよろこびます。
彼が一番関心を持っているのは、人々の日々の暮らしです。
パンクリアース学園の生徒や教師でなくても参加できます。
授恵者は聴講生枠で学園に入れますし、何か他の理由でも結構です。
前述のとおりの動機ですから、学園施設に詳しくなくて構いません。
報酬が設定されていますが、これはギルドからのものではありません。
片付けをしたお駄賃として、学園から貰うものと考えてください。
なお、リプレイは、ですます調で執筆します。
▼NPC
・ジド・ルウ?
ハーフリング 男性 年齢不詳
ジド・ルウを名乗る謎の少年。
おそらく名乗っているだけで、本物ではないでしょう。
ただのなりきり少年かもしれません。
先生が仕掛けた夢のあるイタズラかもしれません。
それか、慰霊祭にみた夢にすぎないのかも。
いくら素性を聞かれても、彼はジド・ルウだと言いはるだけです。
正体を探る試みは、なぜかすべて空振りに終わります。
ジド・ルウ伝説の真偽などを聞いても、それとなくはぐらかされます。
手合わせなどを願っても、同様です。
リプレイで正体が明かされることは、ありません。
当然、シナリオ中はずっとPCたちについてまわります。
彼を案内しても、PCが怒られたり、責任を問われることはありません。
すべては「慰霊祭の夜のふしぎなできごと」として処理されます。
マスターより
はじめましての方が多いかと思います。大和気 いぐる です。
今回は、メルヘン、ハートフル路線です。
あんまり野暮をいわず、付き合ってくれる方をお待ちしています。
リプレイ
もしも、みなさんの目の前に、英雄を名乗る少年が現れたら?
信じるでしょうか? それとも?
今宵、集った冒険者たちは、少なくともウソだとは言いませんでした。
だって、今日は慰霊祭の夜です。
特別なことが、おきても、いいじゃありませんか。
そういう特別なことは、そういう心持ちのひとに、おきるものです。
ですから、彼のことは、ジド・ルウまたはジドとよびますね。
みなさんも、そういう心持ちでいてください。
そうしたら、きっと、特別なことがおきますから。
●
さて、冒険者たちは、そういった具合でした。
ですから、自己紹介が終わるころには、ジドもご機嫌でした。
ジドは学園を案内してほしいと言いました。
でも、こまりました。どうしましょう。
生徒はシャルロッテ・レッフラーひとりきりでした。
それでも、いろいろと考えてネーヴェ・グラヌローザが言いました。
「ジド・ルウ……ユール様。
私は、あまり学内は詳しくないのでございます。
でも、とりあえず。食堂のことならお話しできますよ」
ネーヴェが持ってきたのは、小食堂のメニューでした。
「今の時期でしたら、このシチューが特別美味しゅうございますね」
「私もおいしいと思いました! 少しオレンジの香りがついてるの」
アステルが元気よく、うなずきました。
寒い冬には、こっくりと煮たシチュー。
みなさんも好きですよね?
もちろんジドも、そうでした。
「へえ! いいなあ。僕も好きだよ、シチュー。
ブラウンのなら、ナッツと果物入りのパンを浸すのもいいよね」
「それから、シチューの残りをキレイに拭って食べるのも、だろ?」
レオネベルが、まるで男の子みたいに言いました。
「そうそう! あれ、おいしいよねえ」
ジドは、瞳をかがやかせました。
「ジド・ルウ、もう少し早く、来てくれればよかったのに。
ごちそう、もうほとんど残ってないから……」
ニール・ロブラリアが、ぽそり、つぶやきました。
お鍋はすっかり空っぽ。
食べ物も、ごちそうと呼べるほどには残っていません。
それでも、ジド・ルウは、喜ぶかしら?
ニールが残り物の器を差し出すと、ジドはにっこり笑いました。
「ありがたく、いただくよ」
まあ、その食べっぷりといったら!
真っ白なおひげを汚しもせずに、ぺろり。
よほど、お腹がへっていたのかもしれませんね?
「足りなかったか? 良かったらコレもいるかい?」
御堂・秀哉が、干し肉と乾パンを差し出しました。
ジドは、丸まっちい手で、それを受け取りました。
ですが、すぐには食べません。
少し、小首をかしげてから、いくつかを秀哉の手に戻しました。
「ありゃ。あまり好きじゃなかったかい?」
「ううん。違うんだ。ねえ、シャルロッテにもわけてあげて」
「えっ!?」
シャルロッテは、おどろきました。
そんなに、物欲しそうにみえたかしら?
ただ、二人のやりとりを好ましく見ていただけなのです。
「ううんとね、僕が見たいだけなんだ。
シュウヤがシャルロッテに何かあげるところ」
ジドは、ニヤニヤと笑いました。
秀哉はいまいち、よくわからないようでした。
「そうか? じゃあ、どうぞ」
「……あ、ありがとうございます……」
シャルロッテは消え入りそうな声で言いました。
●
さて、残り物を食べ、好きな食堂メニューのお話で盛り上がったあと。
みんなが向かったのは、誰もいない教室でした。
シャルロッテはもちろん、聴講生たちも、よく知っていますからね。
「ここでは何をするんだい?」
「いろんな事を学ぶんだ。読み書きとか」
レオネベルが言いました。
「レオもここで読み書きを習ってるの?」
「ここでじゃないけど。いい先生がいてさ。
いつか手紙をちゃんと書けるくらいにはなりたいな。
そう、ジド・ルウと会ったなんて書いたら、チビどもは驚くだろうな」
「そりゃあ、いい!
いつかちゃんと、じゃなくて、とりあえず書いちゃうんだよ。
手紙ってやつは、読み書きの練習にもってこいさ。
僕も、ずいぶん下手くそな手紙をいろんな人に出したものさ」
そんなものか。
レオネベルは目を丸くしました。
今度、時間を取って書いてみるべきかもしれません。
「手紙かあ。旅先でお兄ちゃんに書いたら、喜んでもらえるかな?」
アステルが言いました。
「もちろんさ。アステルは絵を描くんでしょ?
それなら、絵手紙を送ったら? きっと喜んでもらえるよ」
はて、絵のことなんて、話したでしょうか?
でもそれは、とてもすてきな考えに思えました。
アステルは、ジド・ルウの顔をよく覚えておこう、と思いました。
もちろん、絵手紙にするためです。
「手紙でございますか。……私には出せる方がおりません」
ネーヴェが、すこしさびしそうに言いました。
彼女は昔のことを、すっかり忘れてしまっているのでした。
「なあに、これから探せばいいさ。
何なら、未来の自分に手紙を出してみるのもいい。
もしかしたら、昔のネーヴェも自分へ手紙を出しているかもよ?」
おやおや、昔のことなんて、話したでしょうか?
でもそれは、なかなか面白い考えに思えました。
未来の自分が、不思議な手紙をひらくようすを想像して。
ネーヴェは、にっこり、ほほえみました。
「ボクも、出す人がいない……」
ニールが、ぽつりと言いました。
「いや、君は、とりあえず、保護者に出したほうがいいと思う」
ジドは、妙にきっぱり言いました。
ニールは、とりあえず、覚えていたらそうしよう、と思いました。
「私は……危ない所を助けてくれた恩人に」
シャルロッテが、ちらり、秀哉を横目で見ながら言いました。
「いいね! やっぱり秘めた思いを伝えるなら、手紙だよ!」
「い、いえ……お、お礼状ですよ?」
「ふうん、そうお? それなら、それでもいいけど」
ジドはニヤニヤ笑いを浮かべておりました。
シャルロッテの顔は、赤くなりました。
「僕も、これといった相手はいないな」
「そうなんですか?……故郷の、どなたかに、とか」
秀哉にシャルロッテが提案しました。
どこか、探るようでもありました。
「うーん、故郷じゃ修行と勉強ばっかりだったからな」
「ねえ、それならさ」
ジドが言いました。
「旅先から、シャルロッテに手紙を出したらどうだい?
知らない仲じゃあ、ないんだろ?」
おやおや、ジドは、ずいぶんと世話焼きみたいです。
ジド・ルウには、お嫁さんはいなかったそうです。
もしかしたら、ほかのひとの面倒をみるほうが好きだったのかも?
●
さて、次に向かったのは大図書館です。
ニールが案内してくれました。
だあれもいないと、とても本が多いのがよくわかります。
「ボクの家にも本が沢山あって。
だからかな。つい、入り浸ってしまう」
ニールが言いました。
「うーん、すごいな。僕、こんなに沢山の本を見たのは初めてだ」
ジドは興味しんしんといったふうでした。
「読み書きを習っても、とても全部は読めそうもないな」
レオネベルが言いました。
「さすがに読破した人はいないと思いたいな」
「どれだけ時間があっても足りなそう!」
「いえ、魔法使いの塔に、実は読破した方がいるって噂が……」
シャルロッテが口にした噂に、みんな目を丸くしました。
大したひともいたものです。
「……でも、その人もきっと知らないだろうな。
慰霊祭の晩に現れる英雄のお話なんて」
まったく、ニールの言うとおりです。
なんだか得した気分になって、みんなは、にんまり笑いました。
●
ダンスホールが開いていたので、みんなは、こっそりお邪魔しました。
残念なことに、楽団のひとたちは帰ってしまっていました。
けれど、アステルがすてきな笛を披露してくれました。
ネーヴェも、あわせて歌をうたってくれました。
楽団にもひけをとらない、すばらしい音楽でしたよ!
レオネベルが羊飼いの踊りを教えてくれました。
ジドは笛と歌にあわせて、くるくる踊ってみせました。
ホッホーウ! ずいぶんと愉快なかけ声があがっておりました。
秀哉とシャルロッテは、ジドのすすめで二人で踊ることにしました。
よろけた彼女を支えて、微妙なところに手がふれたり。
そんなこともありましたが。
まあ、若いふたりにはよくあることです。
気にするほどのことじゃあ、ありません。
●
冒険者たちは、ほかにも色んな場所を見て回りました。
運動場では、みんなで鬼ごっこをしました。
ジドの、すばしこいことといったら!
みなさんにも見せてあげたいくらいでした。
あれは、つかまえるのに骨がおれるでしょうね。
美術室では、アステルが、みんなの似顔絵を黒板に描いてくれました。
まったく、消してしまうのがもったいない出来ばえでした。
レオネベルは、ひよこを一緒に描いてもらっていましたよ。
いつか飼ってみたいんですって!
噂の魔法使いの塔も見に行きました。
さすがに中には入りませんでしたけどね。
窓辺から手を振るひともいました。
意外に気のいいひとが住んでいるのかもしれませんね?
そうそう、ニールとレオネベルは学園でお化けにあったんですって。
ほかの五人は、そのおはなしに、ちょっとおっかなびっくりでした。
そんなに悪いお化けじゃないらしいのですけれど。
そうはいっても、ねえ?
ジドが一番、お化けを気にしていたので、みんな笑いました。
英雄なのに、おかしいですよね?
ほかにも、面白おかしいことが、いくつもありました。
でも、さすがにぜんぶは、おはなししきれません。
もし、みなさんが、この冒険者たちに出会うことがあったなら。
慰霊祭の不思議なできごとについて聞いてみてください。
みなさんが、すてきな心持ちのひとならば。
きっと、よろこんで教えてくれますよ!
●
さて、冒険者たちは、ばら園のあずまやで一休みすることにしました。
休憩するには、もってこいの場所です。
ばらが咲いていれば、もっと良かったのに!
でも、さすがに真冬にそれは、ぜいたくですよね。
ニールは、めざとく小食堂からクッキーを持ち出していました。
割れてしまっていたけれど。
ひい、ふう、みい……おあつらえむきに、七つに割れておりました。
ちょうど、みんなでわけるのに、いい具合でした。
「夜にお菓子をつまむのって、ちょっと楽しいよな」
秀哉が言いました。
「罪悪感、っていう人もいるけど、これくらいなら、いいよね」
「さようでございますね」
アステルとネーヴェも、うなずきました。
クッキーをかじりながら、みんなは夜空を眺めました。
もう、かなり夜もふけてきました。
いつの間にか、ちらちら粉雪がふりはじめています。
なんとなく、おひらきの時間が近づいているのが、わかりました。
「今日は……なんだか子供に戻ったみたいで。
奇跡みたいなことが沢山あったから……」
シャルロッテは、胸がいっぱいみたいです。
ジドはわかっているよ、という風にうなずきました。
「へー、奇跡って、なんかいいことあったの?」
「もう! シュウヤはニブチンだな!」
「な、なんだよ……」
ジドが世話焼きなのは、もうみんな、大体わかっておりました。
ですから、ジドと秀哉のやりとりに、苦笑いをうかべました。
「ボクも、英雄に会えるなんて思わなかった。
本で読むのだけじゃ、わからないこともあるね……」
ニールがしみじみ言いました。
「本じゃないと、わからないこともあるさ」
「ジュールちゃん、今日は楽しかったよ!
私、ぜったい今日のこと絵に描くね」
アステルが言いました。
「うん。兄さんにも見せておやりよ」
「ユール様、今宵は童心にかえる心地がわかったような気がしますわ」
ネーヴェがほほえみました。
「遊ぶの、僕も楽しかったよ」
「もう帰っちゃうのか?
結局、勝てなかったなあ。足には自信あったのに」
レオネベルは、ちょっとくやしそうです。
「なんでも続ければ、思うよりずっと上達するものさ。
走り込みでも、読み書きでもね」
さよならなのはわかっていましたが、誰もそれは言いませんでした。
ジドもただ、ニコニコ笑っておりました。
「みんな、今日はありがとうね。
お礼といってはなんだけど。もし、よかったら。
明日の朝。お日様が出る直前に。
また、ばら園に来てくれないかな?」
とうとつなお願いに、みんなは顔を見合わせました。
でも、イヤだなんていう者は、ひとりもおりませんでした。
「わかったよ」
「明日の朝、日の出前だな?」
「このばら園に来ればいいんだね?」
みんなが、そう言うと、ジドは本当にうれしそうに笑いました。
心が、ほかほかするような、あたたかな笑顔でした。
「じゃあ、みんな! メリー・ユールフェス!!」
『メリー・ユールフェス!!』
そうです。慰霊祭のあいさつは、ひとつきり。
だから、さよらなんて、いらないのでした。
ぴゅう、と粉雪を含んだ、つむじ風が強く吹き。
みんなが思わず目を閉じて。
それから、もう一度目を開くと。
赤白衣装のハーフリングの少年は、もう、どこにもおりませんでした。
●
翌朝のことです。
冒険者たちは、ちゃんと、ばら園に集まりました。
さて、なにがあったと思います?
「バラが咲いてる!」
凍てつく冬の朝もやの中。
ばら園のアーチに、真っ白なばらが、ぜんぶで六輪。
ぴかぴかと咲いておりました。
「霜で出来たバラだ……!」
ちょうど昇ってきた朝日に照らされて、まばゆく花びらが光ります。
ぴかぴか、きらきら……。
「ああ、溶けちゃう……」
かと思うと、はかなく散るみたいに、消えてゆきました。
あとに残ったのは、慰霊祭のための、星型のかざりつけ。
誰かが片付け忘れたかざりに、ぐうぜん霜がついただけかもしれません。
でも、みなさんなら、もうおわかりですね?
そう、冒険者たちも、もちろん、わかっていましたよ。
それが、ジド・ルウからの贈り物だってことを。
●
さて、これで慰霊祭の夜の不思議なおはなしは、おしまい。
もしも、みなさんの目の前に、英雄を名乗る少年が現れたら?
信じるでしょうか? それとも?
みなさんにも、不思議で特別な出会いが、おとずれるといいですね!
メリー・ユールフェス!!
☆☆☆☆☆☆
信じるでしょうか? それとも?
今宵、集った冒険者たちは、少なくともウソだとは言いませんでした。
だって、今日は慰霊祭の夜です。
特別なことが、おきても、いいじゃありませんか。
そういう特別なことは、そういう心持ちのひとに、おきるものです。
ですから、彼のことは、ジド・ルウまたはジドとよびますね。
みなさんも、そういう心持ちでいてください。
そうしたら、きっと、特別なことがおきますから。
●
さて、冒険者たちは、そういった具合でした。
ですから、自己紹介が終わるころには、ジドもご機嫌でした。
ジドは学園を案内してほしいと言いました。
でも、こまりました。どうしましょう。
生徒はシャルロッテ・レッフラーひとりきりでした。
それでも、いろいろと考えてネーヴェ・グラヌローザが言いました。
「ジド・ルウ……ユール様。
私は、あまり学内は詳しくないのでございます。
でも、とりあえず。食堂のことならお話しできますよ」
ネーヴェが持ってきたのは、小食堂のメニューでした。
「今の時期でしたら、このシチューが特別美味しゅうございますね」
「私もおいしいと思いました! 少しオレンジの香りがついてるの」
アステルが元気よく、うなずきました。
寒い冬には、こっくりと煮たシチュー。
みなさんも好きですよね?
もちろんジドも、そうでした。
「へえ! いいなあ。僕も好きだよ、シチュー。
ブラウンのなら、ナッツと果物入りのパンを浸すのもいいよね」
「それから、シチューの残りをキレイに拭って食べるのも、だろ?」
レオネベルが、まるで男の子みたいに言いました。
「そうそう! あれ、おいしいよねえ」
ジドは、瞳をかがやかせました。
「ジド・ルウ、もう少し早く、来てくれればよかったのに。
ごちそう、もうほとんど残ってないから……」
ニール・ロブラリアが、ぽそり、つぶやきました。
お鍋はすっかり空っぽ。
食べ物も、ごちそうと呼べるほどには残っていません。
それでも、ジド・ルウは、喜ぶかしら?
ニールが残り物の器を差し出すと、ジドはにっこり笑いました。
「ありがたく、いただくよ」
まあ、その食べっぷりといったら!
真っ白なおひげを汚しもせずに、ぺろり。
よほど、お腹がへっていたのかもしれませんね?
「足りなかったか? 良かったらコレもいるかい?」
御堂・秀哉が、干し肉と乾パンを差し出しました。
ジドは、丸まっちい手で、それを受け取りました。
ですが、すぐには食べません。
少し、小首をかしげてから、いくつかを秀哉の手に戻しました。
「ありゃ。あまり好きじゃなかったかい?」
「ううん。違うんだ。ねえ、シャルロッテにもわけてあげて」
「えっ!?」
シャルロッテは、おどろきました。
そんなに、物欲しそうにみえたかしら?
ただ、二人のやりとりを好ましく見ていただけなのです。
「ううんとね、僕が見たいだけなんだ。
シュウヤがシャルロッテに何かあげるところ」
ジドは、ニヤニヤと笑いました。
秀哉はいまいち、よくわからないようでした。
「そうか? じゃあ、どうぞ」
「……あ、ありがとうございます……」
シャルロッテは消え入りそうな声で言いました。
●
さて、残り物を食べ、好きな食堂メニューのお話で盛り上がったあと。
みんなが向かったのは、誰もいない教室でした。
シャルロッテはもちろん、聴講生たちも、よく知っていますからね。
「ここでは何をするんだい?」
「いろんな事を学ぶんだ。読み書きとか」
レオネベルが言いました。
「レオもここで読み書きを習ってるの?」
「ここでじゃないけど。いい先生がいてさ。
いつか手紙をちゃんと書けるくらいにはなりたいな。
そう、ジド・ルウと会ったなんて書いたら、チビどもは驚くだろうな」
「そりゃあ、いい!
いつかちゃんと、じゃなくて、とりあえず書いちゃうんだよ。
手紙ってやつは、読み書きの練習にもってこいさ。
僕も、ずいぶん下手くそな手紙をいろんな人に出したものさ」
そんなものか。
レオネベルは目を丸くしました。
今度、時間を取って書いてみるべきかもしれません。
「手紙かあ。旅先でお兄ちゃんに書いたら、喜んでもらえるかな?」
アステルが言いました。
「もちろんさ。アステルは絵を描くんでしょ?
それなら、絵手紙を送ったら? きっと喜んでもらえるよ」
はて、絵のことなんて、話したでしょうか?
でもそれは、とてもすてきな考えに思えました。
アステルは、ジド・ルウの顔をよく覚えておこう、と思いました。
もちろん、絵手紙にするためです。
「手紙でございますか。……私には出せる方がおりません」
ネーヴェが、すこしさびしそうに言いました。
彼女は昔のことを、すっかり忘れてしまっているのでした。
「なあに、これから探せばいいさ。
何なら、未来の自分に手紙を出してみるのもいい。
もしかしたら、昔のネーヴェも自分へ手紙を出しているかもよ?」
おやおや、昔のことなんて、話したでしょうか?
でもそれは、なかなか面白い考えに思えました。
未来の自分が、不思議な手紙をひらくようすを想像して。
ネーヴェは、にっこり、ほほえみました。
「ボクも、出す人がいない……」
ニールが、ぽつりと言いました。
「いや、君は、とりあえず、保護者に出したほうがいいと思う」
ジドは、妙にきっぱり言いました。
ニールは、とりあえず、覚えていたらそうしよう、と思いました。
「私は……危ない所を助けてくれた恩人に」
シャルロッテが、ちらり、秀哉を横目で見ながら言いました。
「いいね! やっぱり秘めた思いを伝えるなら、手紙だよ!」
「い、いえ……お、お礼状ですよ?」
「ふうん、そうお? それなら、それでもいいけど」
ジドはニヤニヤ笑いを浮かべておりました。
シャルロッテの顔は、赤くなりました。
「僕も、これといった相手はいないな」
「そうなんですか?……故郷の、どなたかに、とか」
秀哉にシャルロッテが提案しました。
どこか、探るようでもありました。
「うーん、故郷じゃ修行と勉強ばっかりだったからな」
「ねえ、それならさ」
ジドが言いました。
「旅先から、シャルロッテに手紙を出したらどうだい?
知らない仲じゃあ、ないんだろ?」
おやおや、ジドは、ずいぶんと世話焼きみたいです。
ジド・ルウには、お嫁さんはいなかったそうです。
もしかしたら、ほかのひとの面倒をみるほうが好きだったのかも?
●
さて、次に向かったのは大図書館です。
ニールが案内してくれました。
だあれもいないと、とても本が多いのがよくわかります。
「ボクの家にも本が沢山あって。
だからかな。つい、入り浸ってしまう」
ニールが言いました。
「うーん、すごいな。僕、こんなに沢山の本を見たのは初めてだ」
ジドは興味しんしんといったふうでした。
「読み書きを習っても、とても全部は読めそうもないな」
レオネベルが言いました。
「さすがに読破した人はいないと思いたいな」
「どれだけ時間があっても足りなそう!」
「いえ、魔法使いの塔に、実は読破した方がいるって噂が……」
シャルロッテが口にした噂に、みんな目を丸くしました。
大したひともいたものです。
「……でも、その人もきっと知らないだろうな。
慰霊祭の晩に現れる英雄のお話なんて」
まったく、ニールの言うとおりです。
なんだか得した気分になって、みんなは、にんまり笑いました。
●
ダンスホールが開いていたので、みんなは、こっそりお邪魔しました。
残念なことに、楽団のひとたちは帰ってしまっていました。
けれど、アステルがすてきな笛を披露してくれました。
ネーヴェも、あわせて歌をうたってくれました。
楽団にもひけをとらない、すばらしい音楽でしたよ!
レオネベルが羊飼いの踊りを教えてくれました。
ジドは笛と歌にあわせて、くるくる踊ってみせました。
ホッホーウ! ずいぶんと愉快なかけ声があがっておりました。
秀哉とシャルロッテは、ジドのすすめで二人で踊ることにしました。
よろけた彼女を支えて、微妙なところに手がふれたり。
そんなこともありましたが。
まあ、若いふたりにはよくあることです。
気にするほどのことじゃあ、ありません。
●
冒険者たちは、ほかにも色んな場所を見て回りました。
運動場では、みんなで鬼ごっこをしました。
ジドの、すばしこいことといったら!
みなさんにも見せてあげたいくらいでした。
あれは、つかまえるのに骨がおれるでしょうね。
美術室では、アステルが、みんなの似顔絵を黒板に描いてくれました。
まったく、消してしまうのがもったいない出来ばえでした。
レオネベルは、ひよこを一緒に描いてもらっていましたよ。
いつか飼ってみたいんですって!
噂の魔法使いの塔も見に行きました。
さすがに中には入りませんでしたけどね。
窓辺から手を振るひともいました。
意外に気のいいひとが住んでいるのかもしれませんね?
そうそう、ニールとレオネベルは学園でお化けにあったんですって。
ほかの五人は、そのおはなしに、ちょっとおっかなびっくりでした。
そんなに悪いお化けじゃないらしいのですけれど。
そうはいっても、ねえ?
ジドが一番、お化けを気にしていたので、みんな笑いました。
英雄なのに、おかしいですよね?
ほかにも、面白おかしいことが、いくつもありました。
でも、さすがにぜんぶは、おはなししきれません。
もし、みなさんが、この冒険者たちに出会うことがあったなら。
慰霊祭の不思議なできごとについて聞いてみてください。
みなさんが、すてきな心持ちのひとならば。
きっと、よろこんで教えてくれますよ!
●
さて、冒険者たちは、ばら園のあずまやで一休みすることにしました。
休憩するには、もってこいの場所です。
ばらが咲いていれば、もっと良かったのに!
でも、さすがに真冬にそれは、ぜいたくですよね。
ニールは、めざとく小食堂からクッキーを持ち出していました。
割れてしまっていたけれど。
ひい、ふう、みい……おあつらえむきに、七つに割れておりました。
ちょうど、みんなでわけるのに、いい具合でした。
「夜にお菓子をつまむのって、ちょっと楽しいよな」
秀哉が言いました。
「罪悪感、っていう人もいるけど、これくらいなら、いいよね」
「さようでございますね」
アステルとネーヴェも、うなずきました。
クッキーをかじりながら、みんなは夜空を眺めました。
もう、かなり夜もふけてきました。
いつの間にか、ちらちら粉雪がふりはじめています。
なんとなく、おひらきの時間が近づいているのが、わかりました。
「今日は……なんだか子供に戻ったみたいで。
奇跡みたいなことが沢山あったから……」
シャルロッテは、胸がいっぱいみたいです。
ジドはわかっているよ、という風にうなずきました。
「へー、奇跡って、なんかいいことあったの?」
「もう! シュウヤはニブチンだな!」
「な、なんだよ……」
ジドが世話焼きなのは、もうみんな、大体わかっておりました。
ですから、ジドと秀哉のやりとりに、苦笑いをうかべました。
「ボクも、英雄に会えるなんて思わなかった。
本で読むのだけじゃ、わからないこともあるね……」
ニールがしみじみ言いました。
「本じゃないと、わからないこともあるさ」
「ジュールちゃん、今日は楽しかったよ!
私、ぜったい今日のこと絵に描くね」
アステルが言いました。
「うん。兄さんにも見せておやりよ」
「ユール様、今宵は童心にかえる心地がわかったような気がしますわ」
ネーヴェがほほえみました。
「遊ぶの、僕も楽しかったよ」
「もう帰っちゃうのか?
結局、勝てなかったなあ。足には自信あったのに」
レオネベルは、ちょっとくやしそうです。
「なんでも続ければ、思うよりずっと上達するものさ。
走り込みでも、読み書きでもね」
さよならなのはわかっていましたが、誰もそれは言いませんでした。
ジドもただ、ニコニコ笑っておりました。
「みんな、今日はありがとうね。
お礼といってはなんだけど。もし、よかったら。
明日の朝。お日様が出る直前に。
また、ばら園に来てくれないかな?」
とうとつなお願いに、みんなは顔を見合わせました。
でも、イヤだなんていう者は、ひとりもおりませんでした。
「わかったよ」
「明日の朝、日の出前だな?」
「このばら園に来ればいいんだね?」
みんなが、そう言うと、ジドは本当にうれしそうに笑いました。
心が、ほかほかするような、あたたかな笑顔でした。
「じゃあ、みんな! メリー・ユールフェス!!」
『メリー・ユールフェス!!』
そうです。慰霊祭のあいさつは、ひとつきり。
だから、さよらなんて、いらないのでした。
ぴゅう、と粉雪を含んだ、つむじ風が強く吹き。
みんなが思わず目を閉じて。
それから、もう一度目を開くと。
赤白衣装のハーフリングの少年は、もう、どこにもおりませんでした。
●
翌朝のことです。
冒険者たちは、ちゃんと、ばら園に集まりました。
さて、なにがあったと思います?
「バラが咲いてる!」
凍てつく冬の朝もやの中。
ばら園のアーチに、真っ白なばらが、ぜんぶで六輪。
ぴかぴかと咲いておりました。
「霜で出来たバラだ……!」
ちょうど昇ってきた朝日に照らされて、まばゆく花びらが光ります。
ぴかぴか、きらきら……。
「ああ、溶けちゃう……」
かと思うと、はかなく散るみたいに、消えてゆきました。
あとに残ったのは、慰霊祭のための、星型のかざりつけ。
誰かが片付け忘れたかざりに、ぐうぜん霜がついただけかもしれません。
でも、みなさんなら、もうおわかりですね?
そう、冒険者たちも、もちろん、わかっていましたよ。
それが、ジド・ルウからの贈り物だってことを。
●
さて、これで慰霊祭の夜の不思議なおはなしは、おしまい。
もしも、みなさんの目の前に、英雄を名乗る少年が現れたら?
信じるでしょうか? それとも?
みなさんにも、不思議で特別な出会いが、おとずれるといいですね!
メリー・ユールフェス!!
☆☆☆☆☆☆
マスターコメント
わりあいとPBWの主流からはずれたシナリオだったと思うのですが
おつきあいくださった方々がいて幸いでした。
どなたもすてきなPCさんたちですね。
童話や絵本を参考に文を組み立ててみたのですが
世の童話・絵本作家さんたちというのはつくづく偉大です。
このリプレイが少しでも慰霊祭の思い出に残ることができれば、うれしいです。
メリー・ユールフェス!&メリー・クリスマス!
ショートシナリオ易しい 報酬:少ない6 / 4〜6人
2020年12月23日 09時47分07秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
メリーユールフェス。ニール・ロブラリアだよ。よろしくね。 ……大図書館方面へ、案内という名の迷子の旅、してると思う。
メリー・ユールフェス。ネーヴェ・グラヌローザと申します。どうぞ宜しくお願い致します。 私は聴講生として出入りしておりますので、学内にはあまり詳しくありません。ですから、探検と称してご一緒に学内を色々と歩き回りたいと存じます。 大図書館、面白そうでございますね。迷子になったとしても、それもまた楽し、かと存じます。