【聖祭】路地の奥へと繋がる道
真柄 葉
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シナリオID:323
オープニング
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることだけでなく想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。ジド・ルウが好んでいたという、赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――実りの秋、収穫祭を終えた人々は、深まる冬の気配を感じながら、慰霊祭の準備を進めていた。
そして、それはリブラネスタの路地の奥、人の気配もあまりない薄暗い一角に、ひっそりと佇む一軒のお店にも訪れようとしていた。
「ありがとうございましたっ!」
最後の客が店を出ていくのを見送ったセイル。
「ふぅ……今日も終わったぁ」
店奥のいつもの定位置でググっと伸びをする。
「さて、店じまい店じまい」
座っていた椅子から立ち上がり、先ほど客が出て行った入り口を目指す。
ゴミ屋敷同然だった以前の店は、リニューアルを経て見違えるほど綺麗に整った店内へと生まれ変わった――のだが。
「あれ、これどこに置いてあったっけ……」
途中、客が手に取り見ていたのだろう。古い紋具が一つ、椅子の上に置かれていた。
「照明用のだから、たぶんこっちだよね」
セイルはそれを手に取ると、置き場を探して店の中を奥へと戻る。
カランコロン――。
と、そんな時、店の戸に取り付けたベルが鳴った。
ふと入口へ視線を向けると、入ってきたのは顔なじみの男だった。
「邪魔するぞ」
「なんだ、あんたか」
先ほどの紋具を一先ずその辺りに置きながら、セイルは気のない返事で返す。
「なんだとは随分だな」
「何の用? もう店閉めるけど」
ちっ、鍵を閉めるの忘れてた――と、ちょっぴり思いながらも、セイルは男の元へ歩いていった。
「何の用って、お前なぁ……ここは一応俺の店でもあるんだぞ」
まるで我が店の如く、脱いだコートを入り口に掛け、男――この店の共同経営者であるレドレスは、大きな溜息をつく。
「俺の店って、何もやってないじゃない。たまにはトイレ掃除しに来なさいよ」
「俺の仕事それかよっ!? じゃない! 俺は資金面で支援してるだろう!」
「あれから赤字だしてないし。支援してもらう必要は――まぁ、来年にはなくなるわよ」
「相変わらず金に関してはずぼらもいい所だな……」
ふんっとそっぽを向くセイルに、レドレスは呆れて肩を竦めた。
「うるさいわね……で、ほんとに今日は何の用? 冷やかしに来たわけじゃないんでしょ?」
「あー、うん。別段、用があってと言う訳じゃないんだが――」
「あっそ。それじゃね。ばいばい」
セイルはレドレスをくるりと180度回転させると、背中をぐいぐいと押し始める。
「ちょ、ちょっと待て! ある! 用があるから!!」
「む……なによ、用って」
レドレスの背中を押すのを止め、明らかに不機嫌になるセイルの声。
「あー……その、なんだ。もうすぐ聖霊節だろ」
「ああ、もうそんな時期ね。どおりで寒くなってきたはずだわ」
「それでだな。あー、うん……」
「何よ。もじもじしてきしょいわね」
「き、きしょっ!?」
「はい、お話終わったのなら出て行ってね」
ズーンと肩を落とすレドレスを、セイルは今だとばかりに背中を押して追い出した。
――カチャ。
「……えっ」
施錠音で、ようやく我に返ったレドレス。以降、泣けど喚けど店内からセイルの反応はなく、トボトボと家路につく。
「へくしゅんっ!! あー、寒い……色々、寒い……」
道中、レドレスは『魔法使いの空き瓶屋』にコートを置いてきたことを、ようやく思い出したのだった。
●翌日
「邪魔するぞ」
「邪魔するなら帰って」
「お邪魔しまし――じゃない!」
「……もぉ、何の用よ」
来店早々息を切らすレドレスに、セイルは思いっきり眉を顰める。
「何の用かじゃない! 何度言えばわかる、俺もこの店の共同経営者なんだっ! だから、入店早々帰れとか言われる筋合いはないっ!」
「うーん、そうは言っても、純粋に邪魔だし――あっ」
「最近露骨過ぎないかっ!?」
「え、えっと、何の事かなぁ。セイルわかんないなぁ」
ひゅーひゅーと鳴りもしない口笛を吹きつつ、セイルが明後日を見つめる。
そんなセイルをじっと見据え、レドレスは大きく息を吸い込むと。
「聖霊節だ!」
店内に響き渡る大声で叫んだ。
「う、うるさいわね……わかってるわよ。聖霊節でしょ。もうすぐよね、街もなんだかキラキラしてきてるし」
なぜか妙に鼻息の荒いレドレスに、セイルは面倒くさそうに答える。
「聖霊節だぞ!」
「聖霊節、よ? だからどうしたのよ」
「そうだ、聖霊節だ!」
「……聖霊節、ね?」
「ああ、聖霊節なんだ」
「聖霊節……」
何とかわかってくれと念を込めるレドレスに、セイルはゆっくりとかみしめるように「聖霊節……」と何度もつぶやいた。
「聖霊節……そうか、(かき入れ時の)聖霊節じゃない!」
ハッと顔を上げるセイル。
「そうか、やっとわかってくれたか! そうなんだ、(恋人たちの)聖霊節なんだ!」
ハッと目を輝かせるレドレス。
「こうしちゃいられないわ。急いで準備しないと!」
「そうだ、こうしちゃいられないんだ、セイル! 俺はもうすでに2か月前から準備万端だがな!」
「2カ月も前から!? レドレス、あなた、やるわね……!」
「ふっ、この時の為に練りに練った計画だからな! わかってもらえて正直ほっとしているぞ!」
ようやく互いの意思が通じた。そう思ったレドレスは興奮を押さえられない。
「それじゃそっちはそっちで頑張ってね!」
しかし、セイルから帰ってきた答えは予想していたものとは違っていた。
「……えっ? お、おい、どこへ行くんだ!?」
「え? 冒険者ギルドに決まってるじゃない。じゃ、店番よろしくっ!」
そういって、レドレスの返事も聞かずセイルは店を出て行ってしまった。
一人、店に残されたレドレスはというと――。
「冒険者……? なんで冒険者が(恋人たちの)聖霊節に必要なんだ。もしかして、とっておきのサプライズ的な何かなのか……?」
こうして、レドレスの眠れぬ夜は、聖霊節の当日まで続く――かもしれない。
解説
マスターより
リプレイ
「ふひぃちべたい゛!」
キンキンに冷えた両手でセイルのほっぺをムニムニするサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブ。
「折角あんなに綺麗にしたのに、お掃除サボってたでしょ~?」
「う゛っ」
モニモニされながらセイルは明後日の方角へ視線を逸らした。
「もぉ、ほんとにしょうがない子だなぁ」
サフィラはセイルの頬から手を引くと。
「まずは飾りつけより掃除から始めるよっ!」
ぐっと腕まくりし、仲間達に声をかけた。
「セイル君、この紋具は高価な部類に入りますか? こちらは浄水用の紋具のようですが、どのあたりに固めていますか?」
「え、えっと……たぶん、こっち?」
「こっちというのは、店の奥の事でしょうか? やはり高価なものは奥へ?」
「う、うん……? その方がいいのかな?」
散らかった紋具のありかを事細かに尋ねるセツリに、セイルは曖昧な返事を返す。
「はは、相変わらずだねセイルさん」
微妙な雰囲気が流れる二人に、キオルティスが声をかけた。
「あはは……片付けってどうも苦手で」
以前も片づけを手伝ってくれた彼に、セイルは申し訳なさそうに苦笑い。
「なに、レディの頼みならいつだって呼んでくれていい。すぐに駆けつけるさ」
一方、キオルティスは蕩ける様なイケメンスマイルで微笑む。
「え……あ、その、ありがとう?」
「なに、可愛いレディが素敵な聖霊節を迎えられるよう、最善を尽くすのが男の――」
「ちょっ!? な、何やってるんだアンタ!」
と、セイルの手を取ったところで邪魔が入る。
「やぁ、レドレスさんじゃないか。いつからそこに?」
「ずっと居たわ! それより、手!」
「うん? ああ、そうだねこっちだったね」
キオルティスはセイルから手を離すと、今度はレドレスの手を取った。
「へ……?」
「ふっふっ。レドレス、暇そうだね~」
予想外の返しに戸惑うレドレスの肩に、サフィラが手を回し不敵に笑う。
「ひ、暇じゃないぞ!」
そんなサフィラに警戒心剥き出しのレドレス。
「いやぁ、これでも一安心だ。なぁ頼もしい男よ(セイルさんが見ているよ)」
「えっ……?」
「そうとも、レドレス! 我々には頼もしい君の助けがいるのだよ(ね、セイルのナイト君)」
と、キオルティスとサフィラがレドレスの手を取りながら、ささやきかけた。
「そ、そうか、俺の助けが! 仕方ない、年末で本業が死ぬほど忙しいが、頼りになる男はここぞという時に助けるものだしな!(チラッチラッ」
そんな二人の甘言にあっさり乗っかるレドレス。横目にセイルを何度も見ながら早速と腕を捲った。
「なんとも、流れる様な連携――いえ、人心掌握術ですね……」
キオルティスとサフィラがこっそりハイタッチする中、セツリが呆然と事の成り行きを見つめていた。
「そんじゃセツリちゃん、お二階行っていいよ」
「え、いいのですか?」
「構わないさレディ。後は彼が存分に働いてくれる」
「そ、それでは、お言葉に甘えて失礼しますね……?」
笑顔で送り出す二人に背中を押されて、セツリは階段を上がっていった。
その頃、他の三人は店へと続く路地の入口に居た。
「ここから奥は直接見えないんだね」
通りから路地の奥を覗き込み、スフィカが首をひねる。
「それに入口が狭いから、素通りされることも多そうね」
アンネエルカが路地の中で両手をいっぱいに広げて見せた。
「これじゃ路地を照明用の紋具で飾りつけしても、あんまり目立たないかなぁ?」
「そうね。忙しい季節だし皆早足に通り過ぎちゃうかも……」
スフィカの懸念にアンネエルカも表情を曇らせる。
「何かいい案があればいいんだけど……」
「そうね……」
と、二人して頭を捻っていると。
「それでしたら、私によい考えがありますわ」
エレノア・D・グリフィスがポンと拳を打った。
「何かいい案でも浮かんだの?」
「ええ」
そう言うとエレノアは入口脇の民家の壁に、手で大きな四角を作って見せる。
「それはもしかして看板? あっ、入口に看板を置いて路地に誘導するのね!」
「はい。ただ普通の看板では目立たないでしょうから、路地同様、照明用の紋具で彩ってはどうかと思ってます」
「わぁ、それいいね! 照明付き看板なんてちょっとした発明なんじゃない?」
「あら、『魔法使いの空き瓶屋』で売れますでしょうか?」
「「かも?」」
そんなやり取りに、少女は可笑しそうに笑った。
●
二階では休憩場所として整えた空スペースでセツリが考え事をしていた。
「小麦粉……は高級すぎるので、やはり燕麦でしょうか。甘味を足すにしても砂糖は……ふむ、軽食にはやはり高すぎますね」
セツリが悩んでいるのは、この休憩場所で提供する予定のメニュー――の原価。自分で費用を出すわけでもないのに、生来の金銭感覚のズレから、ずっと頭を悩ませていた。
「セツリさん、休憩スペースはどうかしら?」
と、そんな所へアンネエルカが階段を上がってきた。
「今、整え終わった所です。まだ飾りつけはしていませんので、殺風景ではありますが」
「そんなことないわ、趣があってとっても素敵よっ!」
セツリによって整えられたテーブルに腰かけ、アンネエルカはくるりと店内を見渡す。
木造の建物は簡素だが長い年月を経てしっとりと落ち着いた色味を見せてくれる。
「窓際にだから、日差しが暖かくてポカポカね」
「はい、寒い季節ですので、少しでも暖が取れる様にと」
店は路地の奥なのだが、時間によっては陽の光が多少なりとも入ってくる。
アンネエルカは「とってもいい考えね!」と嬉しそうに微笑んだ。
「それに、この窓からの景色もとっても綺麗だわ」
窓から下を見下ろせば、聖霊節の為に着飾った路地が見える。
「そうだ、いい事を思いついたわ!」
来たばかりなのにすぐに席を立ったアンネエルカを、セツリは首をひねったまま見送った。
●
「ふぅ、大体片づけは終わったかな? レドレスもお疲れ!」
額に浮いた汗をぬぐい、サフィラが満足げに呟いた。
「ひぃひぃ……俺に肉体労働は向いてないことがよくわかった……」
「何を言う頼もしい男よ。素晴らしい働きっぷりだったよ」
と、キオルティスがドンとレドレスの背を叩く。
「そ、そうか……?」
二人してうんうんと頷くものだから、レドレスもまんざらではない様子。
「ちょっと休憩してきていいよ。二階でセっちゃんが休める所作ってるはずだから」
そんなレドレスに、サフィラが階段を指さした。
「そうだね、ゆっくりしてくるといい。後でセイルさんも行って貰うよ」
「そ、そうか! それならば仕方ないな! 先に待ってる!」
二人にそう言われて、レドレスは弾む足取りで階段を駆けあがった。
「それじゃ、俺は行くよ」
「あれ、キオルーは何か用事?」
「外のレディ達が、俺を持っているのでね」
「あーはい。頑張ってねー」
颯爽と店を後にするキオルティスを見送ったサフィラ。
と入れ替わりで、スフィカが店に現れた。
「おや、レディ。ようこそ『魔法使いの空き瓶屋』へ?」
「それ誰の真似っ」
サフィラの出迎えにスフィカはぷふっと吹き出した。
「外はもういいの?」
「うん、アンネエルカさんも戻って来てくれたし、うちはこっちを手伝うよ」
「おっ、それじゃ飾りつけいっちゃいますかー」
「いっちゃいますかー!」
おー! と二人して拳を上げ、サフィラとスフィカは店内の装飾を開始した。
●
「ここを釘で止めて……」
路地の入口ではエレノアが脚立に乗り看板の設置に勤しんでいた。
不安定な高所で、不慣れな道具を使いつつ一生懸命に作業していると。
――ドンッ。
「あっ……」
通行人がぶつかったのか、脚立がぐらりと揺れた。
ただでさえ不安定な脚立の上でバランスを崩し、エレノアは背中から落下する――。
「おっと、エレノアさん大丈夫かい?」
寸前でキオルティスがレノアを左腕で抱きとめ止めた。
「あ、ありがとうございます」
「なに、怪我が無くてよかった」
まだ心臓がバクバク言っているエレノアに、キオルティスがニコリと微笑みかける。
「少し顔が赤いが、冷えたのなら店まで送っていくよ?」
「い、いえ、大丈夫です。助けていただいてありがとうございました」
「なに、お安い御用さ」
そう言うとキオルティスはゆっくりとエレノアを立たせてやった。
「さて、指示を出してくれれば俺がやろうか」
「いいのですか?」
「ああ、俺の方は路地に置いていくだけだからね。もう終わったよ」
言いつつエレノアから工具を受け取るキオルティス。
彼は装飾の終わった路地に数々のオーナメントを取り付け、それを来店者が自ら取り、店内にあるリースやツリーに飾り付けを行ってもらう、参加型のイベントを考えていた。
その用意もすでに終わり、路地は一層華やかになっている。
キオルティスは路地を覗き込みながら、「夜になって照明用紋具に灯が入ればもっときれいだろうね」と楽しそうに呟いた。
「それで、後はこの屋根をつければ終わりかな?」
「はい、お願い出来ますか?」
「ああ、任せてくれよ」
「ありがとうございます。では私は看板の方を描いていきますね」
二人は分担して看板製作の作業にかかる。
キオルティスが屋根を看板に取り付け、エレノアが用意していた油絵の具を手に取った。
「それは猫かい?」
屋根の取り付けを終え、エレノアが描き進める絵を眺めていたキオルティスが問いかける。
「はい、可愛いでしょう?」
「ああ、確かに……だがなぜ猫なんだい?」
「えっと、猫は商売の神様って言うのをどこかの書物で読んだような気が……しないでもなかったので」
「はは、随分曖昧な理由だね。まぁ、これだけ可愛ければ女性の目には留まりやすいかな」
次第に形になっていくエレノアの絵を見て、キオルティスはふとある事を思いつく。
「そうだ。君の絵描きもイベントにさせてもらおうかな」
「え?」
そう言うと、キオルティスは腰に下げたハープを取り出し掻き鳴らし始めた。
●
「はぁ……疲れた」
休憩スペースに置かれたテーブルにぐでっと体を預けるレドレス。
「おや、レドレス君」
そこに3階からセツリが降りてきた。
「丁度良かった。聖霊節で出すお菓子を試作してみたのですが、試食してみませんか?」
「おっ、丁度腹が減っていたんだ。いただこう」
机から体を起こしたレドレスは、セツリが置いた皿に視線を落とす。
「クッキーだな」
「クッキーです」
少し歪な形ながらも、それはこんがりと焼き色の付いたクッキーだった。
レドレスは少し不安を覚えつつも、空腹に負け口に運ぶ。
「う、うむ……非常に個性的な味がする」
「この独特の苦みと雑味が癖になりますよね」
「これ何で出来ているんだ……?」
「当然小麦は高くて使えませんので燕麦を使用しました。砂糖も最低限の使用に抑え、原価で言うと――これくらいですね。もう少し切りつめてもいいかともいます」
「安っ!? いやいや、クッキーだろ! それくらい買ってこよう!?」
「買う? 何をです?」
「クッキーだよ!」
「ちょっと何言ってるか解りませんが……」
『セツリさーん!』
と、二人が不毛な舌戦を繰り広げていると、外から呼ぶ声がする。
セツリはレドレスとの不毛な戦いを切り上げ、窓際へ駆け寄ると窓を開けた。
「セツリさん、どう? ちゃんと見えているかしら?」
窓から見下ろすと、路地でアンネエルカが手を振っている。
そして、その周りには――。
「なるほど、そういう案でしたか。えっと右側の照明具が少しずれていますね」
セツリはアンネエルカの左にある紋具を指さした。
「これね。――どうかしら?」
「はい、大丈夫です。綺麗に見えていますよ」
「ありがとう、ちょっと確認に上がるわ!」
笑顔で手を振って嬉しそうに駆け戻ってくるアンネエルカ。
「これに灯が入れば、お客さんよりもご自身の方が喜びそうですね」
そんなアンネエルカを見つめ、セツリが小さく微笑んだ。
●
「わわわ、暖かい?」
店へと戻ってきたアンネエルカを出迎えたのは、柔らかな温もりだった。
「ふっふー、よくぞ気付いてくれましたっ!」
そんなアンネエルカを出迎えたのは、棚影から顔を出したスフィカだった。
「これって暖房用の紋具かしら?」
「そそ。店の奥にいいものあったからエーテル注いでみたんだ。どうかな?」
「とってもいいと思うわっ! 冷えた体にとても心地いいし、なんだか心まで温まる感じがするもの」
「にしし、やったねっ」
アンネエルカの感想にスフィカはグッとサムズアップ。
「それに、飾りつけもとっても素敵。このツリーはキオルティスさんの言ってたイベント用かしら。あっちのオーナメント達も棚をとっても綺麗に彩っているわっ」
素敵と何度も口ずさみながら、アンネエルカが煌びやかな店内を見渡していると。
「お嬢さん、お目が高いね!」
「わわっ!?」
突然かけられた声に驚いた。声の主は天井からぶら下がってるサフィラだった。
「アンネに言われてた小物も置いておいたよ」
と、音もなく着地したサフィラが指差す奥のカウンターには、小さな商品棚が取り付けられ、色とりどりのペアアクセサリーが輝いている。
「ありがとうっ、手に取ってもらえると嬉しいのだけど……」
「きっと大丈夫だよ、とっても素敵だもん!」
心配そうに呟くアンネエルカにサフィラはにかっと笑った。
「それじゃ2階へ上がろか。外の二人ももうすぐ来るみたいだし」
と、スフィカに言われ3人は階段を上がった。
●
6人で談笑していると、エレノアとキオルティスが階段を上がってきた。
「お疲れさまっ!」
出迎えたスフィカが二人に席を勧め、セツリが軽食と飲み物をテーブルに置いた。
8人は聖霊節当日の出し物やイベントの話に花を咲かせる。
当日はやっぱりジド・ルウの衣装だよね! とか。ここで出すドリンクは何にしよう? とか。
イベントの参加賞はどうする? とか。寒さも厳しくなるしブランケットも用意しよう! とか。
皆が聖霊節当日に思いを馳せながら、時間は過ぎて行く。
そんな中、アンネエルカがふと口を開いた。
「照明は少し暗くしてもらいたいの」
「暗く?」
「だって、ここに座る二人には特別な夜を過ごしてほしいもの」
と、アンネエルカが窓の外へ視線を移す。
日の落ちた路地に浮かび上がるのは、照明紋具の配置を工夫して作ったハートの灯。
それは、彼女がここを訪れる客の為に仕込んだ仕掛けだった。
「なんだかロマンチックですわね」
「えへへ……全部ママの受け売りなんだけど」
エレノアの言葉にアンネエルカは照れ臭そうに舌を出した。
こうして店の準備は無事終わった。
聖霊節にまた遊びに来るよ、と言って別れた冒険者達。
あと数日もすれば聖霊節がやってくる。そして、この店にも沢山の客がやってくるだろう。
セイルとレドレスの二人は、そんな事を思いながら帰っていく冒険者達をずっと見つめていたのだった――。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人
2020年12月11日 12時49分54秒 公開
相談掲示板
ヒーラーのセツリです、よろしくお願いします。 聖霊節らしい装い、ですか。 通り道を使わせていただける民家の方にも楽しめるようなものが出来ればよいのですけど。
じんぐるべーる♪じんぐるべーる♪ ユールフェスー♪ にゃ!シーフのサフィラだよっ! 裏路地でちよっとさみしい場所だけど ユールフェスらしくキラキラに飾ってみんなが楽しめるようにしたいねっ!
メリーユールフェス!…と、気が早いかな?(微笑 シーフのキオルティスと言うよ。キオでもルティスでもお好きに。 美しく、楽しく、キラキラと華やかに派手に行きたいものだね! ついでにお客さんもふらりとお店に足が向くような…。 今回は宜しく、ね。
スフィカだよ、よろしくね。 古紋具使っていいってことだし商品宣伝兼ねて飾り付けに使いたいな、照明用紋具とか。 お店までの道も明るく楽しい、路地裏だって忘れちゃう飾り付けにしちゃいたいね。
>明るく楽しく 「路地裏という悪条件。治安もちょっと悪かったり、薄暗かったり、かび臭かったり。」とあるので、そういう雰囲気を変えられれば、治安改善などにも繋がるかもしれませんね。 >2階の空いたスペース 聖霊節の間だけでも、何か使えないでしょうか。あまり広くはないので大したことはできないでしょうが…… 外は明るく楽しくという感じで飾りつつ、こちらは落ち着いた雰囲気にして、簡単に飲食休憩できるようにするとか。 共同経営者を含めても二人しかいないので、フルに働くにしても出せて飲み物ぐらいでしょうか?
エレノアと申します。 どうぞよしなに・・・ 古紋具を飾りに使うのはよいわね。 道まで飾り付けるなら大通りから誘導する様に飾り付けると効果的だと思うけどどこまでできるかしらね。
>2階の空いたスペース 休憩スペースいいね。保温出来る紋具あれば、お店の前で暖かい飲み物配って~って考えてたんだけど、お店の中に誘導して休憩してもらったほうが暖かくゆっくり出来そー。 2階に行く途中でお店の中も見てもらえるから、売り物に興味持ってくれるかもだし! 外の飾り付けを2階から見てもらうってのも綺麗そうだね。やるなら是非準備や誘導手伝わせてもらうよー!
裏路地の飾り付けもじゅーよーだけど、お店の中もちょっと掃除した方がよさそうだねっ ……前も結構キレイにしたはずなんだけどなぁ 年末の大掃除も兼ねて飾り付けの前に掃除しちゃうよっ! 3階も使えるみたいだから、お菓子とかも用意して2階でゆっくりしてもらうのもいいかもねっ!
>休憩スペース ご協力いただけるなら助かります。 外の飾りを2階からも、というのは頭にありませんでしたが、確かに同じ飾りでも違うように見えて面白そうですね。 言い出した身でもあるので、レイアウトを考えたり、そもそもの提案や説得はこちらで重点的に行おうかなと考えています。
俺は音楽関係を何かやりたい…かな。出来るなら、だけれど。 あとは大通りからお店までの各所にリースかツリーのパーツを置いて スタンプラリーみたいにして集めて貰って、それを持って来たお客さんに お店内のリース土台やツリーの土台に飾り付けて貰う…ってのも 考えてみてるんだけど、どうだろう? 予め、飾り付けもしておくけれど、お客さん参加型の何かが有っても 良いかな…と思ったりして、ね。 勿論、大掃除兼片付けは必須だね!
ごめんなさい、すっかり遅くなってしまったのだわ…! アンネエルカよ、アンネって呼んでくれても大丈夫。どうぞよろしくね。 2階の休憩スペース、とっても素敵ね! そこから外の飾りつけを眺めて貰うっていうアイディアも素敵だわ。 ロマンチックで、恋人たちの季節って言う一面でも押し出せそう。 それでね、お店までの道の飾りつけで思いついたことがあるのだけれど… 上から眺めた時に、何かの絵や模様が浮かんで見えるようにも出来ないかしら。 小規模な地上絵みたいなイメージかしら。灯した明かりで表現できたらいいなって。 薄暗さの解消をしつつ、二度美味しいみたいな。私がやろうとしてるのはそんな感じかな。 勿論、事前のお掃除なんかはお手伝いさせてくださいな。 お客さんたち参加型の企画も楽しそう!より記憶に残る思い出になりそうだわ。 各々の飾り付けをしながらでも、設置のお手伝いは出来そうだし。
もうすぐ出発だねー! とりあえずあたしは大掃除と通りの飾り付けのお手伝い、それから当日は売り子の手伝いもしちゃおっかな! あとはレドレスだけど……こっちはメインじゃなさそうだしいっか!(酷)