【聖祭】オリジナルグリューワインを求めて
上神谷 郁登
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シナリオID:256
オープニング
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることだけでなく想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。ジド・ルウが好んでいたという、赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――実りの秋、収穫祭を終えた人々は、深まる冬の気配を感じながら、慰霊祭の準備を進めていた。
●
ワインの産地として知られるエラトゥーン都市同盟のとある酒場は、この時期になると頭を悩ませる。
それは、グリューワインについてだ。
スパイスが毎年同じでは芸が無いし、器も奇抜な物は敬遠される……風変わりにしすぎない程度に他店と差を出すため、妙案はないものかとマスターはギルドにこっそり依頼を出した。
しかし、その依頼文を見た冒険者たちの様子に統一性はなかった。
ある者はスパイス採取の依頼だと思い、ある者はお酒を試飲できる依頼だと舌なめずりし。
ある者は器から内装まで慰霊祭仕様にコーディネートする依頼だと目を輝かせた。
条件は、詳細は。詰め寄る冒険者にギルドスタッフも困惑する。
――グリューワイン制作のお手伝い募集。その一言が書かれているだけなのだから。
●
わからなければ、本人に聞くまで。
小首を傾げながらも、冒険者は【準備中】の札が下げられた酒場に向かってみる。給仕スタッフが掃除のために開け放った窓からは、時折箒で床を掃く音に混じってぼやき声が聞こえてきた。
どうやら、声の主は初老の男性――この酒場のマスターのようである。
「もう慰霊祭か……今年も店を切り盛りするだけなんだろうなぁ」
子供の頃は、慰霊祭といえばごちそうが食べられる日だったし、プレゼントを楽しみにしながら祈りを捧げてみたりして、飾り付けられた街中をわくわく見て回ったものなのに。
「……うちみたいな酒場が今更なぁ、そんな小洒落たことをやってもなぁ。せめてグリューワインくらいで気分に浸るのが精一杯か」
深い深いため息からは、諦めきれない憧れがにじみ出ていた。
解説
マスターより
リプレイ
「グリューワイン制作のお手伝いと聞いてやってきたのですが」
漏れ聞こえたマスターのぼやきに、フリーダ=ブロムヴィストは小声で呟く。
「どうやらそれだけでは収まりそうもない気配ですね」
「そうだね、私も美味しいグリューワインの味見つきなら喜んで、と思ったけど……マスターは慰霊祭に心残りがあるみたい?」
ロゼットが思案げに眉を寄せる。
「私達で何かしてあげられないかな」
とりあえず美味しいグリューワインを作るという、そこは外せないとして。
「そんな小洒落たこと、とか言ってるけどさ」
シャンテ・フーケが小さく笑った。
「あの声の調子だと、絶対やってみたいと思ってるよね」
「啓示では、あれはツン=デ・レェという症状だそうです……なんでも、本音と反対の事を口に出してしまう病気だとか」
「ご病気なのですか、それは大変です」
リディリディ・トゥラ・イェレミースが心配そうに言った。
「ギルドに依頼文を出すくらいですから、よっぽどお困りだったのでしょう。けれど、そこまで深刻なものだったなんて……」
「それ、治療法ってあるの?」
「恐らく本音を叶えて差し上げる事で全快するかと……」
ロゼットの問いにフリーダが頷く。
「それに、やはり美味しいグリューワインですね」
「近頃は冷え込んできたし、暖めたマグカップに注ぐホットワインでほっと一息、なんて良いよね」
シャンテが言った。ダジャレではない、と、思う、多分きっと。
「ちょっとした風邪なんかにも良いみたいだし、心の風邪にも効くんじゃないかな」
というわけで。
「……啓示では『目指せ、ジュンマイ=ダイギン=ジョー!』……? つまり、良いワインを作るという事でしょう」
つまり、良いワインを作るということだろう。
「それと、マスターの心の風邪を治すことですね」
その二つを目標に、冒険者達はそれぞれの考えのもとに動き始め――と、その前に。
「あ、あの……」
リディリディが皆を呼び止めた。
「マスターへのご挨拶も兼ねて、美味しいお茶で一息ついてはいかがでしょう」
リディリディのお茶と、マスターが出してくれたお菓子で一休みしたら、行動開始だ。
「……まぁ、僕はお酒には疎いんだけども、とりあえずスパイスが要るのかな?」
「そうね、ワインに使うスパイスだと……クローブに、ローリエ、ローズマリーと……」
シャンテとロゼットはスパイスの調達係だ。
「レモンやオレンジの皮もあると良いけど、そっちは街の方がありそうね」
「じゃあ僕は街の方に行こうか、交渉は得意だし」
「なら私は採集に行くわね。フレッシュなハーブも欲しいし、種類が多くなればワインの味付けにも幅が出るし」
分担は決まった。
シャンテはマスターから預かった財布を手に、ロゼットは採集用の籠を手に、店を後にする。
(聖霊節ですか……。もうそんな季節なのですね)
お茶の道具を片付け、二人を見送りながら、リディリディは考えを巡らせる。
と言っても、彼女が生まれ育った氏族の中では、聖霊節だからといって特別に何かをする習慣はなかった筈だと記憶していた。
(あぁ、でもこういった町に住むとそういうわけにもいかないのかもしれません)
森には森のやり方がある様に、街には街のやり方があるのだろう。
(少しだけでもお手伝いできれば良いのですが……ああでも、困りました……)
リディリディは森で採れる木の実のことならそれなりに豊富な知識があるが、同じ木の実でもスパイスとなると勝手が違う。
(そちらの面ではお役に立てそうにありません。だからといって、味見係となってしまっては……)
悩んでいると、フリーダが声をかけてきた。
「リディリディ様はお酒にはお詳しいのでしょうか?」
フリーダに下された啓示によると、「今回の=レギュでは18歳未満は飲酒はエヌ=ジー」という事で、16歳の彼女には味見をする権限が与えられていないのだ。
調理係として、これは困る。
けれど誰かに頼めれば、と考えたのだが。
「いえ、一応は飲めますが……味の違いはよくわからないのです」
だって酒の個性を認識する前に、何故か瓶が空になっているんですもの。
今回もいつの間にか鍋ごとごっそりなくなってしまう、という怪事件が起きないとも限らない。
「ごめんなさい、お役に立てなくて……」
「いいえ、お気になさらず。美味しいグリューワインを作れるように、お互い出来る事で頑張りましょう!」
出来る事。
自分に出来る事は――
(まずはお掃除、そして買い出しと……)
ワイン作りには関われないけれど、マスターにはゆっくり過ごして貰いたいから。
リディリディはマスターの許可を得て、テーブルや椅子を片付け始める。
「お掃除なら私も手伝います」
フリーダと二人で手早く終わらせ、リディリディは買い出しの為に店を後にした。
「定番なのはシナモンやジンジャーだろうけど……うん、これも買っておこう」
シャンテは黒胡椒の瓶に手を伸ばした。
予算内に収め、かつ色々な種類を数多く揃える為に、値切ったり纏め買いで値引き交渉したり、あらゆる手段を駆使して材料を調達する。
タンポポやローズマリーも買い足して、後は雑貨店で秘密の買い物を。
ロゼットは街外れの野原でワイン作りに使えそうな植物を探して歩く。
普段から薬草採集で慣れている為、どんな植物がどこに生えているか、見知らぬ土地でも大体の見当は付いた。
「フレッシュハーブも摘んで行こうかな」
セージにローズマリー、タイム、ミント、オレガノ、レモンバーム――今の季節に採れるのは、そんなところだろうか。
二人が調達したスパイスやハーブを受け取って、フリーダは早速調理を始める。
これまで作った事のあるレシピをマスターに尋ね、それとは組み合わせを変えて新しい味になるように。
「味見はロゼットさんとシャンテさんにお願いして良いでしょうか」
「勿論、任せて!」
「マスターが良いって言うなら、僕も」
作った本人が飲めなくても、頼もしい味見役がいるのだから、きっと良いグリューワインが出来る筈だ。
色々な組み合わせで試しながら、より最適な味を目指して、フリーダはひたすらに作り続ける。
「こっちは香りが良いし、さっきのは甘みが強くて美味しいし、良いわね!」
どれを飲んでもそれぞれに良い所があり、どれも甲乙付け難く……つまり全部美味しい。
「あはは……参考にならなくてゴメンなさい。ワインの飲み比べなんて初めてで」
役得である。実に幸せである。
ロゼットにとっては、これが冒険者になって初めての慰霊祭だった。
「故郷の神殿では酔えるほど飲む機会がなくて……ああ、美味しい」
「ローズマリーは紅茶感覚で買ってみたけど、どうだろう?」
「うん、いい香り! 白ワインでも合うかも!」
シナモンの枝やフレッシュなハーブを添えてみたり、黒胡椒で味を引き締めたり、レモンやオレンジでフルーティな香りを楽しんだり――
「……あれ? 気のせいだと良いのですが、皆さん酔ってません?」
酔ってらい酔ってらい、らいじょぶらいじょぶ。
なお残った試作品はリディリディさんが全て美味しくいただきました。
結局、店のワイン樽を丸々ひとつ消費する勢いで作られたグリューワインの試作品は数十種類にも及び、その中から最終的に十種類の新しいレシピが選ばれる事となった。
「いや、どれも美味しくてひとつには絞りきれなかったよ」
マスターはそう言って、嬉しそうに笑った。
「どうだろうなぁ、十種類をいっぺんに出してお客さんに迷う楽しみを味わって貰うか、それとも限定メニューにして毎年違った味が楽しめる方が良いかなぁ」
それを迷うのも、また楽しい。
けれど「楽しい」はそれだけではなかった。
「これくらいの大きさなら、お邪魔にはならないと思うのですが……」
リディリディがカウンターの隅にでも置けそうな、小さなモミの木を差し出した。
「慰霊祭ではこういった樹に飾りつけをするんですよね」
「ああ、まぁ……そうなんだが」
マスターが「うちの店には似合わないだろう」と言い出す前に、シャンテが指先に小さなベルをぶら下げて見せた。
「ツリーがあるなら丁度良い、これを飾ってくれないか?」
それは例の秘密の買い物で手に入れた材料を使って、シャンテが手作りしたものだ。
他にもキャンディや小さなプレゼントの箱、星を象った飾りなどなど、お馴染みのモチーフで作った小物がたくさん。
「こうした手細工は久しぶりだけど、やり始めると面白いな」
「さっきから隅の方で何かしてると思ったら……」
「そう言うロゼットさんも、何か作ってたよね?」
「あ、バレてた?」
シャンテに言われ、ロゼットは後ろ手に隠していた何かを取り出した。
「マスター、良かったらこれを店に飾らせてもらえない?」
それは材料集めのついでに手に入れた蔦や松ぼっくり、どんぐりや針葉樹の葉、それに色鮮やかな木の実などで作られたリースだった。
「良いんじゃないかしら。酒場でも小洒落たことをやっても」
「……なんだ、聞かれちまってたのかぃ」
マスターは目を泳がせながら鼻の脇をポリポリと掻いた。
「まったく恥ずかしいったらねぇな」
「そんなことないさ、誰だってユールフェスには心躍るもんだろ?」
シャンテが小さな飾りをツリーにぶら下げ、カウンターには小さな人形をちまちまと並べてみる。
「せっかくの聖祭なんだ、楽しまなきゃ損だよ、うん」
それは三角と丸の積み木を重ねて簡単な人形の形を作り、そこに赤と白の布で拵えたユールフェスの聖人たちの衣装を着せたものだ。
小さな聖人達はツリーに向かってよちよち行進しているように見えた。
「ここに来るお客さんにだって子供の頃はあったでしょう」
カウンターの向こうに立つマスターの背後、店に入った客が一番に目にするであろう場所に、ロゼットはリースを飾った。
「昔を懐かしがったり、今を楽しんだり、それも良いんじゃないかな」
リースにはいくつかのスパイスも使われているらしく、甘く刺激的な香りがふわりと漂って来る。
「ごちそうだってプレゼントだって、年齢制限なんてない筈だしね」
シャンテが言った。
だから全然、恥ずかしいことなんてない。
「笑われたり、しないか?」
おずおずと尋ねたマスターに、リディリディが頷く。
「ワインを飲みながら飾られたモミの木を眺める……とても楽しくて、素敵な事だと思います」
「綺麗に飾り付けたら沢山の人に来て貰えるかもしれません」
フリーダが言った。
「啓示では『こういう時はまず形から入るのが良いでしょう』との事ですし」
慰霊祭までもう時間もない。
この際だから徹底的に飾り付け、ユールフェスを満喫しよう。
「そうだな……うん、そうだ。俺はなんで諦めちまってたんだろうなぁ……」
マスターがこっそり目尻を拭う様子に、冒険者達は見て見ぬふりで目を逸らす。
「だからもう少し予算をくれないかな?」
差し出したシャンテの手に、マスターは財布をぽーんと投げて寄越した。
「好きなだけ使え、もってけドロボー!」
どうやらツン=デ・レェの病はすっかり治ったようだ。
その後、青天井の予算で好き放題に飾り付けた彼の店には大勢の客が詰めかけ、いい歳のオヤジ達が子供のようにはしゃぎながら思い出話に花を咲かせたとか。
勿論、豊富なメニューのグリューワインも大人気だったそうだ。
(代筆:STANZA)
マスターコメント
ショートシナリオ易しい 報酬:少ない4 / 4〜4人
2020年12月29日 13時46分27秒 公開
参加者
フリーダ=ブロムヴィスト
- イェレミース トゥラ リディリディ
ロゼット
シャンテ・フーケ
相談掲示板
じゃあ始めましょうか。私はロゼット、よろしくね。 依頼の目的はグリューワイン制作のお手伝いってことだけど、 依頼主である酒場のマスターは、慰霊祭に憧れがあるみたい? お手伝いに専念しても良いし、ささやかな何かもできるかも? 依頼の中で必要な経費はマスター持ちだから、 予算を度外視した行動は取れなさそうね。 あと「昼時過ぎ~夕方前(お店は休憩時間です)」だから、 無限に時間が使える訳じゃない、と。 私は「1」だとスパイスの調達で、平野に採取に行けるわ。 「2」なら味見係ね。料理はあんまり得意じゃないわ。 「3」は得意不得意なし、開店前の買い出しとか掃除かな。 で、平野に採取に行くについでに植物を集めて、リースの 飾りでも作れないかなあと。(いわゆるクリスマスリース) お店の玄関か内装に飾っておけば、ちょっとは雰囲気でるかなって。 後日の片付けも簡単だしね。私の今の希望はこんな感じよ。 「2」で調理場に立つ間に、ワインに合うもので酒場でも 出せそうな一品を作る、なんて行動もありかなって思ったわ。 依頼書を見て考えてたことを言ってみたけど、どうでしょう。
ヒーラーのシャンテだよ、どうぞよろしく。 大体の案はロゼットさんが提示してくれたみたいだけど、僕は【1】と【3】辺りの手伝いだろうなぁと思って来た感じだね。 街へスパイスの調達をしに行くついでに、店を彩るような小物をいくつか揃えて飾り付け……そんな感じかな。
No.3
リ、リディリディといいます・・・。 えっと、その・・・。よろしくお願いします。 私ができるのは、3あたりでしょうか。 スパイスには詳しくありませんし、私が味見をすると知らない間に・・・、ちょっと量が減ってしまいそうなので。
りょーかい。 あとフリーダの希望があるとして、1から3全部に 関わるのは大変だし、私は1と2くらいかな。 シャンテが街で、私が平野でスパイス調達してきたら 手広く調達できて良いかも、とか。 味見ってワインの試飲だと思ったけど…リディリディは お酒もどんどんいっちゃう人…??
ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 こちらの手持ちのスキル等を考慮すると、料理が出来そうな2か各種雑務の3が行けそうな感じです。 とりあえずは2を希望しておきますが、担当が足りない様であれば3も行えるでしょうか。 ただ、2の場合は年齢の都合飲酒はダメですので、味見役の方がおられると良いのですが…
No.6
お、お酒ですか・・・。 えっと、そうですね。そんなに強くありません。(うわばみ並み感 ただ、飲んでいると、その・・・。 なぜかすぐに瓶が空になるんですけど・・・。
んー、僕が【2】を入れるとしたらそうだねぇ。 【1】で調達したスパイスがワインと合ってるかどうかの確認、って意味合いで少し味見する感じになるかなぁ。 それか、現場にはマスターさんもいることだし、彼に味見をお願いしてみてもいいかもしれないね。
【1】スパイス調達(平野に採取) 【2】味見係(マスターの試作品を味見) 希望は出たみたいだし、私はこれでいこうかな。 とりあえず1~3に、誰かが入ってれば良いでしょう。 依頼は「制作の手伝い」だから、ワインの制作自体はマスターが やると思うわよ。もちろん私たちがチャレンジもOKと思う。 フリーダみたいに年齢や、お酒は駄目って人は器のアイデアを 提案してみるとかもアリね。採用するかはマスター次第だけど。 易しい依頼だし、難しく考えず自分らしくお手伝いしましょ。 リディリディのは…よーく分かったわ。 もし【2】も選んで、飲みすぎるのを制止するブレーキ役の人が 欲しいとかあったら言ってね。そういうのも個性だし。