【死軍】愛しき妻よ

STANZA

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シナリオID:250

オープニング

「坊ちゃま、いけません!」
「離せ爺、レリアが! レリアがあそこにいるんだ!」

 とある貴族の御曹司が所要で家を留守にしている間に、それは起きた。

 帝国南部鎮守都市ヴィントの消滅。

「もう間に合いますまい」
 若き主人の腕を掴んで、爺は首を振る。
 悲劇の一報は、全てが終わった後にもたらされた。

 愛する妻を家に残してきたことを悔やむ以外に、出来ることは何もなかった。


――――――


 それから数ヶ月。
 帝国辺縁にある別荘に身を寄せた彼の耳に、奇妙な噂が入って来た。
 数日前に突如として湧き出した死者の群れの中に、彼の妻の姿を見た者がいるというのだ。
 直後、その噂を裏付けるかのように、彼女からの手紙が届く。
 勿論それが真っ赤な偽物であることは彼にもわかっていた。
 だが手紙が届いたということは、彼女があの死者の中に存在するという何よりの証拠だと、彼は思った。
「亡骸でもいい、連れて帰りたい」
 そして丁重に葬ってやりたい――

 押し寄せる数万という大群の中から、たったひとりを見つけ出すのは不可能に近い。
 だが奇跡的に、彼の妻レリアは集団からはぐれ、一人で荒野を彷徨っていた。


「……そうして旦那様は、奥様を別荘に連れ帰られたのですが……」
 白髪の紳士がギルドのカウンターで告げた。
「旦那様は、その奥様を……生きておられると仰せなのです」
 確かに正面から見れば顔かたちは生前のままと言っていいほど綺麗に整っている。
 だが後頭部の毛はざっくりと抜け落ち、そこから腐臭のする汁が際限なく滲み出ていた。
 知性も記憶も思考能力もなく、何か呻き声のようなものを発するだけで会話は不可能。
 かといって人を襲う気配はないが、恐らく今はただ、その本能が何らかの原因で一時停止した状態なのだろう。
 それが何かはわからないが、条件が整えば彼女は必ず人を襲う。
「ですが旦那様は……」
 紳士は大きな溜息と共に頭(かぶり)を振る。
「今は彼女と共に寝室に籠もっておいでです。手を離すとどこかへ行ってしまうからと、ずっと抱き締めたまま」

 その彼女を家族の元へ還してやってほしいというのが、紳士の依頼だった。
「もう、あのお嬢さんを……自由にしてあげたいのです」


――――――


「大丈夫だよ、レリア。君は僕のものだ……僕が絶対に、君を守るからね」
 彼は妻を抱き締めて、そう囁いた。
 嗅覚が麻痺したらしく、酷い臭気はもう感じない。
 妻から何の反応もないのはいつものことだ。
 実のところ、結婚してから今まで会話らしい会話をしたことがない。
 だが問題はなかった。
 彼は欲しいものを手に入れたのだから。
「田舎には碌な娘がいないくてさ。君が帰って来てくれて、本当に嬉しいよ」
 妻の今にも崩れ落ちそうな頬を撫でる。
「君は綺麗だよ。世界一綺麗だ……この僕の妻に相応しい」
 心など、どこにあろうと関係ない。
 勿論、存在しなくても一向に構いはしなかった。

解説

はぐれゾンビを一体、退治してください。 それさえ出来れば後は自由です。 ■場所と状況 ・とある貴族の別荘 ・貴族とその妻(ゾンビ)は廊下の突き当たりにある寝室に閉じこもっている ・部屋の前には10人ほどの護衛が付き、広さは2×2ヘクス程度 ・寝室の広さは3×3ヘクス程度、二人は奥の天蓋付きベッドにいる ・寝室には中庭に面したテラスに通じる窓がある ■敵 ・貴族の妻レリア(ゾンビ)  最初はぼんやりとして動かないが、冒険者達が武器を向けた時点でゾンビとしての本能を取り戻し、動くもの全てに襲いかかろうとする  と言っても攻撃は腕を振り回したり噛み付いたりする程度なので、授恵者にとっては驚異ではない  ヴィント出身。家族や親しかった者はもうこの世にいない ・護衛×10  寝室のドア前に陣取っている  全員が剣と盾を装備した一般の兵士(非授恵者)  駆け出し冒険者でも対等以上に戦える  士気は高くない、寧ろ低い  内心では多くの者が「主人はイカレている」と思っている  主人の怒りに触れない理由さえあれば、さっさとこの場を放棄したい ・貴族の坊っちゃん  ヴィントの消滅で父や縁者が死亡したことにより当主の座についた  世間の評判はよろしくない  家臣からの信望も薄っぺらい  誰かのものは俺のもの  戦闘力ゼロ、寧ろマイナスだが口だけは達者  現在は状況を受け止めきれずに精神が不安定になっている  ただ周囲の者に言わせれば「元からこんなもん」らしい ■その他 解説に書かれた情報は、依頼開始時点でPCが知っているものとして構いません ゾンビは必ず倒す必要がありますが、護衛は説得などで手を引かせることも可能です ※OPや解説で明記されていない部分の解釈はお任せします  設定や世界観の範囲内で、ご自由にお楽しみください

マスターより

初めまして、或いはいつもお世話になっております、もしかしたらお久しぶりかもしれません、STANZA(すたんざ)です。 たとえ生ける屍になったとしても、愛する妻を手放したくない―― 裏の事情さえ知らなければ、美しき悲劇として語られることになったかもしれません。 何を真の敵と見定めるかによって、攻略方法が変わってくることもありそうです。 心情もりもりでも可、寧ろ歓迎。OPや解説の情報から妄想を膨らませてみても良いでしょう。 有り得そうな妄想は事実として採用されるかもしれません。 では、よろしくお願いします。

リプレイ

 冒険者達は中庭の草陰からそっと中の様子を伺っていた。

「あのお嬢さんを自由に……ですか、困りましたね」
 フリーダ=ブロムヴィストの神は言った、「追い込まれた狐はジャッカルより凶暴。はっきりわかんだね」と。
「個人的にはあの貴族様を何とかしない事には、たとえ解放したとしてもろくな結果にならそうな気がします」
「何とか……ね。坊ちゃんの生死は何も頼まれてないんだよなぁ」
 そっち方面で「何とか」しちゃう? とサイラスが手にした鉄の斧の背を指でトントン叩く。
「男としても、貴族としても、ろくでもないお坊ちゃん。いてもいなくても困らないなら、存在価値は?」
「どう考えても女の敵というか、いけ好かない野郎よね」
 ロサード・シュナイダーの言葉にエリザ・A・ミシャールが深く深く頷く。
「不幸な事故が起きたとして、悲しむ者なんていないんじゃないかねぇ?」
 と、冒険者達のお坊ちゃまに対する印象は総じて斯様に最悪なわけだが。
「まあ、あの坊ちゃんはあまり同情するべきところは無さそうなんだけどさ」
 でもねぇ、と言葉を切ったエリザの後を継いでロサードが言った。
「使用人達は巻き込まれただけ。迷惑をかけるのは本意じゃない」
 坊ちゃんはどうでもいいが、彼に起因する何事かによって、被害者である使用人達が不利益を被ることがあってはならない。

「それは良いとして……さて、どうするかね」
 エリザは室内に目をやって、顔のパーツを全て真ん中に集めたような表情をした。
 エルフ特有の整った顔立ちが台無しだが、それも仕方がないだろう。
「いや、出来ればいきなり事を荒立てる前に、一度坊ちゃんとは話をしておきたいんだけどね……その、出来れば寝室じゃない別の部屋で」
 さすがに匂いがキツい。
 窓を開け放っているせいもあるだろうが、離れていても顔がこんな有様になるほど臭うのだから、室内はどれほどのものかと考えただけで気が遠くなる。
 それでもじっと彼女(ゾンビ)を抱き締めたまま恍惚の表情を浮かべている彼は、一体どんな精神状態なのだろう。
 エリザは傍らの夫、ガルレイド・S・グリディッカーをちらりと見る。
「ねぇアンタ。アンタもアタシの事、あれぐらい好いてくれるかい?」
「好いてはいるし、当然愛してもいるがね」
 彼の答えは素っ気ない。だが言葉の多寡が想いの深さを測る物差しとはならないことは、互いに承知していた。
(故に恥を晒させる真似はせん)
 生前の姿のまま残しておきたい気も分からないでもない――が、これでは拙い。
(愛を与える相手が姿形ではな)
 見た目など時と共に容易く移りゆくものなのに。
 まあ、エルフの場合は外的要因がない限り、殆ど不変とも言えるほど緩慢ではあるのだが、それはともかく。
「愛を語るなら何故亡骸を腐敗させる。生きていると信じているからか」
 ここまでかなりの距離があるのに、それでも鼻を突くこの臭気。
「あの坊、性格がおかしいのは大体わかった。だが精神はどうなんだ?」
 美しさのみを重視するならば、これが気にならない筈もない――精神がまともなら。
「……盛られたか?」
 何かの陰謀ではないか……そう感じたのは彼ばかりではなかった。

「その可能性も考慮に入れるべきでしょうね」
 Alexandra・Hexe・Claudia(アレクサンドラ・ヘクス・クラウディア)が頷いた。
「まず今回の依頼……一連の出来すぎた状況は注意深く精査すべきでしょう」
 帝国崩壊の災厄に、貴族内で唯一生き残った御曹司。
 その時たまたま用事で帝都を留守にしていたというのは本当に偶然だったのか。
 数ヶ月後、たまたま民に目撃され、更に群からはぐれて彷徨っていた屍人。
 そして死者からの手紙。
「この状況、第三者が作り出したものであることは明白です」
 問題は「誰が」「何の為に」ということだが。
「私もそこは気になってる」
 ロサードが同意を示す。
「けど、まずは目の前の問題を片付けないと」

 手始めに、部屋の前に陣取った護衛をどうするか、だが。
「まああれだな、なんか適当な理由つけて離れて貰うように交渉……つーか職務放棄する様に誘惑?」
 サイラスが言うように「冒険者に手加減されたとはいえやられて吹っ飛ばされた」或いは「別の所で襲撃あったからそっちに行ったら」など、後で言い訳が出来るような理由を与えれば喜んで飛び付くに違いない。
「だって悪臭のする死体を守る為に戦うなんてそんなの耐えられないでしょ?」
 坊っちゃんに対する周囲の評価を聞くに、まともな雇用かも怪しいものだ。
 そんなことの為に危険に身を置く理由があるとも思えない。
「そうだな。騎士でもなく、雇われの兵士であれば名誉や義理はそこまで重視しないだろう」
 でなければ金かと、ガルレイド。
「多少の金額なら……依頼主から工面できるんじゃあないかね」
 支度金としていくらか持たせた上で、どこか坊やの干渉しない所での働き口を紹介すれば彼等も文句はないのではないか。
 どのみち当主がこのままであれば、この家は取り潰しだ。そうなれば彼等は、支払いも次の仕事の伝手もないまま放り出される事になるだろう。
「実はそう思って、いくらか紹介出来そうな所を調べておいたんだが」
「流石、手回しが良いね」
 エリザが自分の手柄の様に胸を張る。
「それじゃ、アタシは職場放棄の正当な理由を作ってやるかね」

 ということで。

「皆様お揃いのご様子ですね」
 フリーダが護衛達の前に立ち、丁寧に一礼した。
 何事かと身構える彼等を前に、フリーダは「これまでのあらすじ」を語り始める。
 扉の向こうのアレと、その原因となっているモノをどうにかする為に執事に依頼された事。
 無意味な交戦を避けつつ事態を収拾するために、穏便に通して欲しいこと。
「この場を離れる正当な理由が必要でしたら、そちらもご用意しておりますので」
 その言葉が終わると同時に、中庭の方からやや棒読みの声が聞こえた。
「大変だー、庭に侵入者がー!」
 護衛達は互いに顔を見合わせると、先を争う様に中庭に向かう。
 そこには大きな黒い塊が――
「ウホ?」
「ゴリラだーーー!?」
 驚く彼等に、エリザは楽しそうに笑いながら耳打ちする。
「大丈夫、あの子(シア)はアタシの連れさ。危険はないけど、早いとこ捕まえた方が良いかもね?」
 体当たりで彫刻を倒したり、ボディプレスでベンチを粉砕したり、勢い余って植木を引っこ抜いたりしないうちに。

 護衛達のいなくなった廊下で、冒険者達は覚悟完了した表情でドアを見つめる。
「行くぞ」
 ガルレイドがドアを開け放った直後、全員が一斉に咳き込み、空気の流れに背を向ける様にして鼻と口を抑えた。
 超嗅覚を持っていたら即死しかねないレベルの猛烈な臭気。
 果たしてこの状況で正気を保っていられるものだろうか。
 突入した彼等はまず、何を置いても部屋中の窓という窓を開け放ち、空気を入れ替える。
 話はそれからだ。

 臭気が薄れ、皆の思考力が戻ったところでサイラスが幻影を呼び出した。
 使用人達の情報と肖像画から、出来るだけ生前の面影に似せて、悲しそうな表情で。
『あなた』
 そこにロサードが声帯模写で声を被せてみる。
 本人の声は知らないが、肖像画から想像した声を何種類か出してみて、使用人達に最も似ていると言われた声だ。
「レリア……?」
 彼がぼんやりと曇った目を幻影に向ける。
「……違う……レリアはここにいる……あれは偽物だ」
「いや、幽霊だよ」
 幻影を解いたサイラスが言った。
「紛い物に騙される貴方に悲しんで、死んでも死に切れないのでは?」
「何を言ってる、生きてる者が幽霊になる筈がないだろう」
 一応、会話は成立するようだ。
 話が通じているかどうかはともかく。
 と、サイラスの肘をロサードがつつき、何かを耳打ちする。
 再び現れた幻影は、微笑んでいた。
『あなた、私はここよ』
 その声と表情に、彼の目の色が変わった。

 ここに嫁いで以来、彼女の笑った顔を誰も見た事がないという。
 けれどそれ以前はコロコロとよく笑う、明るい娘だったとか。

「レリア……やっと、やっと笑ってくれたね……!」
 妻(ゾンビ)を手放し、立ち上がる。
(まあ都合の良いまやかし、邪竜紛いの下衆な誘惑でしかないのだけれどねぇ……)
 サイラスはその様子を冷めた目で観察していた。
(愉快だよなぁ。愛とか薄っぺらくて)
 ふらふらと近寄ってきた彼は、妻(幻影)に向かって手を伸ばす。
 しかし、それは触れることなく宙をかく――何度も、何度も。
「言っただろ、幽霊だって。ま、化けて出るくらい貴方を想ってたとかでは?」
 その言葉に、彼は妻(ゾンビ)を見る。
「あなたも薄々彼女がもう人ではない事を理解しているのではありませんか?」
 フリーダの指摘に、彼は力なく首を振った。
 だがフリーダは構わず続ける。
「死んだ者は蘇りませんし、彼女はもう元には戻りません。だからこそ彼女を自由にさせてあげるのが貴方にできる唯一の行動ではありませんか?」
 啓示では「だからカリスマを用意しておく必要があったんですね」との事だったが、果たして役に立っただろうか。
 彼の喉から呻き声が漏れる。
「違う、違う、違う――!」
 頭を抱え、イヤイヤをする様に身を捩る。
 これは眠らせて排除するしかないか――フリーダがそう思い始めた時。

 その頬にロサードの拳が飛んだ。
「貴方がしているのは、奥さんの人としての尊厳を踏みにじる行為だ」
 尻餅をつき、何が起きたのかわからない様子で自分を見上げる彼に、ロサードは続けた。
「本当に奥さんを愛しているなら、どうしてそんなことができる。貴方が愛しているのは奥さんではなくて、ただひたすら自分でしかない」
 だから誰も、貴方を愛さないんだ――と、それだけはどうにか呑み込んだが、言ってしまっても良かったかもしれない。
 そこに一仕事を終えたエリザが話しかけてくる。
「アンタ、どうしてレリア嬢の事をそこまで想う? 何がアンタをそうさせる?」
(誰も知らない二人の馴れ初めとか……あったらいいけどねぇ)
 だが淡い期待は幻影よりも儚く消えた。
(こりゃダメだね。いっとき更生させても、多分繰り返すんだろうさ)
 不幸な事故に遭って貰うしかない――もし、あの紳士が心の整理を付けられるなら。
 それなら自分も甘んじて汚名を受けようと、覚悟を決めていた。
 だが彼は言ったのだ。
『お恥ずかしい事ですが、馬鹿な子ほど可愛いと申しますから』
 ――と。
「自分の息子みたいに思ってんだよ、あの人は」
 少なくとも一人は、彼を愛してくれる人がいる。
 彼の為ではなく、あの紳士の為に、ここは手を引こう――それが本当に彼らの為になるのか、それはわからないが。

「それじゃ、さっさと仕事を終らせるかね」
 サイラスがゾンビに向けて斧を振り上げる。
 それが覚醒のスイッチになったのか、ゾンビは急に活き活きと動き始めた。
 サイラスの強打を掻い潜り、腕を闇雲に振り回しながら進む先には、彼がいた。
「やめろレリア、僕がわからないのか!?」
「寧ろ何故わかると思うの、この状況で」
 ゾンビの横合いからロサードの魔矢(エーテルアロー)が飛び、カバーに入ったフリーダが盾でその進行を防いだ。
 そこに追い付いたサイラスが、今度こそ強打をきっちり叩き込む。
 頭を砕かれてもそれは動き続けていたが、やがて燃料が尽きた様に、ただの死体に戻って崩れ落ちた。


 墓地の一角に掘られた穴から炎が立ち上がる。
 フリーダは穴の縁に膝を付き、その魂に向かって祈りを捧げた。
「これ以上彼女を苦しませたくはありません。これで解放できれば良いのですが……」

 少し離れてその炎を見つめながら、ガルレイドが呟く。
「……先に死なれたら、どうするか……か」
 考えたくもないが、別れは必ずやって来る。二人同時か、どちらかが先か、確率は三分の一。
「まぁ、そうだな……自らの炎で、弔うかね。そうすれば、見る度に思い出せて、残るだろうよ」
 その言葉に、寄り添っていたエリザは彼の肩にそっと体重を預けた。

 焼け跡を埋め戻し、目印に石を置く。
 後はあの紳士が立派な墓石を建ててくれるだろう。
 依頼された仕事としてはこれで終わり――なのだが。

 冒険者達は屋敷の居間に留まっていた。
 目の前に、体を洗って新しい服に着替えさせられた彼が放心した様子で座っている。
 ガルレイドは彼に目を向け、心の中で溜息を吐いた。
(亡骸を生前そのままに残すというのはなくはない。だが埋葬も何もせずに腐敗させた姿を晒しては冒涜もいいところだ)
 その愛は何に向けられたものなのか……そもそも愛なのか。
 一服盛られた疑いも、まだ晴れてはいない。
「奇しくも、今依頼と似た案件を知っています」
 アレクサンドラが言った。
「ヴァイセントラフ砦を襲撃した屍人の群れと、砦の生存者へ届けられた決起の手紙――ヤコブの手の者によるとされる、無味乾燥な布石……」
 仮にその根が同じであるなら、その目的もまた合致する見込みが立つ。
(狙いは……決起ないしは取り込み? この依頼で以て御曹司に被害意識を残すよう仕向け、これを手駒に仕立てる為の材料とする気?)
 その当人は正気と共に魂まで失った様に呆けてはいるが、その器と財力あたりが目当てなら、生きてさえいれば状態など問題にならないのだろう。
「この案件がどう転がるにしても、ギルドにも国にもヤコブの意図が絡む可能性を警告すべきでしょう」
 ギルドへはこの依頼の結果報告と同時に行えば良いだろう。
 必要と判断されれば、上位の機関にはギルドから報告が行く筈だ。
 ただ現状では証拠に乏しい。
 いくら冒険者としての勘がそう告げていたとしても、多くを納得させるに足るだけの証拠がなければ組織は動かないし、動けない。
「この疑惑を精査するには、彼に届いた手紙と砦に届いた手紙。両方を比較せねば始まりません」
 その手紙は今どこにあるのか。
 家探しをするまでもなく、その情報は紳士からもたらされた。
「寝室の机にあるかと存じます」
 彼はいつも、大切なものはその引き出しに仕舞い込んでいるらしい。
 それを取って来て貰い、中を確認する。
「この筆跡は奥様のものですか?」
 アレクサンドラの問いに執事は首を振った。
「これは貴方が受け取ったの? 届けたのは正式な配達人?」
 ロサードの問いにはどちらも首が縦に振られる。
「なら配達記録が残ってるかも」
 それを辿れば、手紙の出どころがわかるかもしれない。
「あとは砦宛の手紙を持ち出すなり記憶するなりできれば進展が望めるかと」
 アレクサンドラが手紙の文面を見つめる。
 伝え聞いたものと内容は似ている様だが、筆跡は実物を見なければ判断できない。
 ただ、砦の状況が落ち着くまで、その入手は難しいだろう。
 出どころの調査にしてもそれなりの時間がかかる。

 何かの陰謀だとしたら、まだ危険は去っていない。
 転職を希望した者を除く半数ほどの護衛に後を任せ、この場はひとまず収められることとなった。

マスターコメント

ご参加ありがとうございました。 お坊ちゃまの前途はひとまず置くとして、紳士の希望は無事に叶えられました――この先も苦労が続くとしても。 レリアの魂も、無事マトリクス界に至ることが出来たでしょう。 その後の調査については、もし何か判明すれば別途報告がある(依頼が出される)かもしれません。 ない頭を絞って考えてみますので、期待せずにお待ち下さい……
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2020年12月02日 16時14分39秒 公開

成功

相談掲示板

  1. フリーダ=ブロムヴィスト

    ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 目標を達成するだけなら護衛を説得なり武力行使なりで突破し、 貴族を無力化した後に貴族の妻…ゾンビを撃破する形になるでしょうか。 ただ、正直な所これだけですと彼の心情的にあまりよろしく無いかと思います。 何とかして彼を説得して心情にケリを付けてあげてからにしたいところです。

  2. エリザ・A・ミシャール

    エリザだ。クラスはシューターだが……今回の依頼に関してはあまり関係ないかね。 とりあえずよろしく。 甘ちゃんの坊をどうにかしろって具合かね。 解説の内容は爺やから聞いた感じだろうか。 OP最終段落の内容をなんとか誰かから聞き取ることができれば、坊の説得ができるかもしれないねぇ……

  3. Alexandra・Hexe・Claudia

    キャスター、クラウディアです。よろしくお願い致します。 ー…フリーダさんの考えに思うところはありますが、正直なところ私は逆の立場です。 状況を鑑みるに、今回の貴族…主観では圧制者に映ります。 この人物の欲望で束縛された人々がおり、当人がそれに何ら疑問を抱かないこの状況。 悲嘆を終わらせるのであれば、この者の性根を叩き直すか、さもなくば排さねば…そう私は考えております。

  4. No.4

    サイラスだ、ウォーリア。よろしくなー 護衛に関してはやる気ないみたいだし、交渉あたり持ち込んで追っ払えないか試そうかな。一々無駄に時間使うの面倒だわ 貴族の坊ちゃんの方はどうにかしろとか言われてないから興味無いし、心情に配慮とかはどちらでもいいかな。人間だから救助した方がいいだろうけど依頼には関係ないし、ガワはあるから説得とか普通には効かなそうだよねと。 幻影とかで生前の奥さん見せるとかしようか?なんかゾンビから引き剥がすとか、交渉とかに使えるかも知れんし ゾンビはとりあえず動くものへ反応して襲うとあるし、ゾンビに武器向けた時点で坊ちゃん真っ先に襲われそうだとおもうね。なんで坊ちゃん無事で終わらせたいなら早めに納得させないといけなそうだなぁ

  5. No.5

    シューター、ロサード・シュナイダー。 よろしく。 どうしようもないオトコ。 こういうのは、横っ面ひっぱたくくらいしないと、目が覚めない気がする(ろさーど は すぶり を している !)

  6. ガルレイド・S・グリディッカー

    ガルレイド・グリディッカー、キャスターだ。よろしく頼む。 まぁ真っ当な説得で精神が不安定な者を説得するのは難しそうではあるが。 パッと思いついたのはゾンビになった彼女の代わりとなる、彼女より美しいモノを用意する、かね。…幻影等は丁度よさそうだ。 護衛も貴族がそのモノに執着すれば、ただで我々を通しても怒りは買わないだろう。

  7. フリーダ=ブロムヴィスト

    >説得 交渉等説得系の特技を取っていないので説得は難しいのですが、 代わりにヒュプノシスを持って行ってみるつもりです。 武器を向けたら襲い掛かるという条件がわかっているのであれば、 戦闘前に貴族様を寝かせて無力化、安全な場所に移動させるという手を取れるかと思います。

  8. エリザ・A・ミシャール

    >目的 はぐれゾンビを一体、退治してください、なんだよねぇ こう、女の敵って感覚はクラウディアやロサードとアタシも一緒かも これ、護衛はうまいこと説得して不幸な事故で坊ちゃんには永遠に静かになってもらうってのは…… >説得 1日考えてみたんだけどね 結局あまり説得したくならなかったんだ( >ゾンビになった彼女の代わりとなる アンタ、それ本気で言ってる? アタシはやんないよ (旦那宛のRPなので悪しからず)

  9. No.9

    ゾンビ退治以外は自由ですとか書いてる時点で生死なんて問わないんだろうねぇ。 いやOPにないけど、マスターよりな部分に書いてある通り坊ちゃんも救って欲しいと言われたとか捏造してもいいけどさ。 とりあえず一般系のスキルは幻影と誘惑?辺り持ち込むつもりだよ。貴族へは説得より都合の良いいいくるめとか、楽な考えに誘うとかそっち系の方が良さげだし。 とりあえず自由にして上げたいと依頼人が言ってるから死体を火葬?焼いてしまいたいなぁと思ってる。土葬だと掘り起こしそうだよね。そのまま?貴族からしたら動かなくなっただけでしょ?俺らへ人殺し呼ばわりはするだろうけど 真の敵を何と見定めるか云々あるけど、俺は依頼上の討伐対象が敵でしかないのでなー。そこ以外はそんなに考えとらんよ?

  10. Alexandra・Hexe・Claudia

    依頼解決にあたり、私は一度周辺調査を組み入れるつもりです。 …というのも、今回の一件。どうも一過性のものには見えなかったもので。 帝国崩壊の災厄に、たまたま貴族内で唯一用事あって生き残った御曹司。 数ヶ月後、たまたま民に目撃され、更に群からはぐれてさまよっていた屍人。 今に至る一連の状況…出来すぎのように感じます。

  11. エリザ・A・ミシャール

    もう1日前だがどうするよ。 明日はアタシ、直前までほとんど顔を出せないと思う。 後日の調査なりは好きにすればいいと思うけど、貴族の処遇だけは決めないと現地で内輪もめもマズいんじゃないかい。 ・ケアする フリーダ ・ケアせず、矯正・粛清方向 クラウディア、サイラス、ロサード、エリザ ガル、アンタどうすんの? >死体の処理 サイラスに任せてもいいかい? 他に意見も出てないし、あと腐れなく燃やしとくっていうのはやっといた方がいいだろう

  12. No.12

    護衛はうまいこと説得して不幸な事故で坊ちゃんには永遠に静かになってもらう… いいね(真顔 とはいえ、それだと爺やさん達が困る。 …あれ。もしかして、困らない? 幻影系をもっていくなら、私は声帯模写で補強とかを…と思ったけど、奥さんの声を知らないのでこの辺はうまくいかない可能性が高い。一応あらかじめ爺やさんとかに見て貰うけど。 洞察はもっていくので、護衛とか坊ちゃんと話する時には役立つかもしれない。 護衛はともかく、坊ちゃんとは話す余地があるかは知らないけど。 >死体の火葬 その方がいいかもしれない。 掘り起こしの危険性もだけど…ボロボロの崩れたゾンビの体が、この世界に残る彼女の最後の姿とか、あまりに哀れ。 …この辺は、私の感情論。 >一連の状況が出来すぎ …確かに、一理ある。 頼まれたことだけすませて、それでオシマイにするのは簡単だけど、これが何かの陰謀みたいなものに繋がっている可能性があるなら、放っておけない。坊ちゃんはどうでもいいけど。 Alexandra、良ければその調査、私にも手伝わせて欲しい。

  13. フリーダ=ブロムヴィスト

    >貴族 ケアの有無はともかくとして、さすがに粛清はまずい気がします。 滅んでしまったとはいえ帝国の貴族の端くれに当たる方であることは明らかですし、 私達冒険者の一存で貴族を粛清してしまったとしたら、 貴族を守れなかった咎で護衛の方達も無事では済まないでしょうから、 本気で私たちの排除にかかる可能性もあり得ます。 わざわざそんなリスクを踏んでまで粛清する必要性もないのでは? >火葬 私もそれがベストだと思います。 自由にしてあげるという意味では正解かと。

  14. Alexandra・Hexe・Claudia

    ご助力いただき感謝します、ロサードさん。 現在のこちらの方針ですが、 【御曹司に届いた妻からの手紙】 これの実物や細かな経緯について、詳しく調べることを考えております。 正味、死人が手紙を書き起こすなど考えられませんし。 これが他者によってもたらされたものであれば、そこには明確な意図があるはず。 特に懸念すべきは「メドゥの指先」… これが動いての現状 と考えるならば、御曹司がどうであれ次は領民に魔の手を伸ばすやも。 誰が書き起こし、誰が届けたのか。 その意図は何なのか。 ―奇しくもヴァイセントラフ砦には、王国に対して決起を促す大量の手紙が届いたとか。 筆跡をこれらと照合し、仮に一致するものがあれば、先に述べた疑問にも方向性が示されることでしょう。

  15. Alexandra・Hexe・Claudia

    ―まあ、対応にあたって即時粛清 という選択は一般にフリーダさんの意見が尤も。 不要な争いを避けるという意味では同意です。 但し相手が帝国貴族である点は、寧ろ一定まで手段に遠慮を持たせない要因となっているものと。 というのも、雑に言えば帝国は『有能を尊び無能を切る』性質なので。 特に今回は御曹司の一存で一帯領土の機能不全や士気低下を招いている有様。 帝国が合理性を認めるには十分かと。

  16. No.17

    >ケアか矯正か粛正か この辺ははっきりしておかないと、多分面倒。 当然私は、矯正。 …粛正が一番楽だろうけど、その後の後処理は面倒。 爺やさんや護衛達に迷惑をかけるのは本意じゃない。 >手紙 基本の方針了解。 それなら私は受け取りの方中心に探ってみる。 受取人、配達人、差出人…簡単に繋がるとは思えないけれど、洞察スキルを使って話をきいていけば、ある程度の情報は得られる…と思う。多分。 調べるのは時間かかりそうだし、場合によっては依頼後の対応で考えた方がいいかも。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0