おねがいテディベア
あまのいろは
コメント 9
シナリオID:247
オープニング
●
ほんのすこしでも、わたしのことを想ってくれますように。
あなたが悲しみに暮れたとき、そっと寄り添ってくれますように。
ひとりで夢へと旅立つ君が、寂しくありませんように。
ひとつひとつ、願いを込めて。――――ねえ。おねがい、テディベア。
●
都市同盟のリブラネスタにある、酒場「踊る子熊亭」。
そこに掲示された1枚の張り紙。
中央にはクマのイラスト。ふんわりとした色合いのそれは、酒場にある張り紙にしてはちょっと浮いていて。なんとなく気になってしまうひとも多かった。
――――願いを込めて世界にひとつだけのテディベアを作りませんか。
どうやら、どこかの手芸店で行われるイベントのお誘いのようだ。
ヴァイセントラフ砦防衛戦。――多くの冒険者たちが戦いに赴くことを、リブラネスタの住民たちも知っている。
そのせいもあるのだろうか。街角を往くひとたちの足取りは、なんだか落ち着かない。
だから、そんな気持ちをすこしでも忘れることが出来るように、このようなイベントが企画されたのだろう。
イベントが行われる場所と日時。それから簡単な概要が書かれた張り紙は、店主からの言葉で締められていた。
――――ほんのすこしですが、お茶とお菓子も用意してお待ちしております。楽しい時間になりますように。
ほんのすこしでも、わたしのことを想ってくれますように。
あなたが悲しみに暮れたとき、そっと寄り添ってくれますように。
ひとりで夢へと旅立つ君が、寂しくありませんように。
ひとつひとつ、願いを込めて。――――ねえ。おねがい、テディベア。
●
都市同盟のリブラネスタにある、酒場「踊る子熊亭」。
そこに掲示された1枚の張り紙。
中央にはクマのイラスト。ふんわりとした色合いのそれは、酒場にある張り紙にしてはちょっと浮いていて。なんとなく気になってしまうひとも多かった。
――――願いを込めて世界にひとつだけのテディベアを作りませんか。
どうやら、どこかの手芸店で行われるイベントのお誘いのようだ。
ヴァイセントラフ砦防衛戦。――多くの冒険者たちが戦いに赴くことを、リブラネスタの住民たちも知っている。
そのせいもあるのだろうか。街角を往くひとたちの足取りは、なんだか落ち着かない。
だから、そんな気持ちをすこしでも忘れることが出来るように、このようなイベントが企画されたのだろう。
イベントが行われる場所と日時。それから簡単な概要が書かれた張り紙は、店主からの言葉で締められていた。
――――ほんのすこしですが、お茶とお菓子も用意してお待ちしております。楽しい時間になりますように。
解説
●場所
都市同盟のリブラネスタにある手芸店です。
●できること
テディベア作り。
がっつり裁縫!ではなく、お話をしながら楽しむことが目的のイベントです。
ですので、だいたいの形は出来ています。
なので、自分の好きな柄の耳や手、目などのパーツを選び、綿を詰めて、好きなリボンを飾って完成です。
もちろんがっつり裁縫が出来る方はがっつり作って下さって構いません。
香り袋を入れたり、お守りや手紙を入れたり、アレンジなども大歓迎です。
ぜひ、あなただけのテディベアを作ってあげてください。
●手芸店の店主
ヒューマンの女性です。おっとりしています。
街がなんとなく騒がしいので、穏やかな時間を過ごしたいと思いこのイベントを企画したようです。
マスターより
はじめまして、あまのいろはです。
大規模な作戦が行われているなかですが、ちょっとだけ穏やかな時間を過ごしませんか。
ほのぼのテディベア作ろ!というシナリオです。
心情やセリフはあればあるほど嬉しいです。
文字数が余ってるな、というときは心情やセリフをひとつ書き足してくださるだけでも助かります。
参加して頂いた冒険者さんの交流も描きたいと思っております。
ひとりで黙々と作業をしたい方や、これだけはやめてね!というNG項目がありましたらその旨を明記願います。
それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
リプレイ
●
『願いを込めて世界にひとつだけのテディベアを作りませんか』
そんな張り紙を見て集まった冒険者たちを、手芸店の店主は嬉しそうに迎え入れる。
机の上には様々な手芸道具と、色とりどりの生地やボタン。
それと一緒にお菓子も並べられ、かまどのうえではケトルがしゅんしゅんと湯気を吐いている。
手芸道具だけでなく、お菓子も用意されているのを見たライラック・I・フローレスは、ちょっとびっくりしてしまう。
「あの、お招きありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて丁寧にお礼を言う彼女を見て、店主はゆったりと微笑む。
「いいの、いいの。こうして穏やかな時間が過ごせることが嬉しいから。こちらこそお礼を言わなきゃ」
大規模な作戦が行われている今、街はなんだか落ち着かなくて。だから、彼女も気を紛らわしたかったのかもしれない。
「ボクにでも、作れる、かな」
『偵察は最大の防御』ニール・ロブラリアがこてりと首を傾げれば、彼女の伸ばしっぱなしの長い髪がしゃらりと揺れた。
髪の向こうに隠れた、ほんのすこし不安そうな彼女の瞳を見た店主は笑って言う。みんないるから大丈夫、楽しい時間にしましょうね、と。
「…………自分の好きなように、作っていい、の?」
ぱちぱち、ぱちり。『物静かな名参謀』ロサード・シュナイダーは、並んだ生地を眺めながら何度も瞬く。
ロサードは今まで、自分の家でしたいこと、好きなこと、選びたいこと、それらを主張することが出来なかった。許されなかった。
選ばれるのは、褒められるのは、愛されるのは。いつだって、ロサードではなくて、妹だったから。
だから、自分で選んだ好きなものでテディベアを作っていいという言葉は、なんだか信じ難くてふわふわと不思議な気持ちになる。
(すごく、新鮮。………そうか、冒険者になって、私はとても自由になったのかも)
胸のあたりがあたたかい気がするのは、きっと、出された紅茶のせいだけではないのだろう。
おずおずと生地を選び始めたロサードの隣で、エリスは既に型紙に添って切り抜かれた生地に手を伸ばす。
「……どうしようかなあ、お裁縫よくわからないしパーツ縫い合わせるだけにしよっと」
――糸とかはクマに馴染む色が良いかなあ、それじゃあ茶色の糸?
生地も、糸も、ボタンも、リボンも。あまりにもたくさんの種類があるものだから、どうしたって目移りしてしまう。
いろいろな素材を手に取り悩む彼の目に、いちばん最初に留まったのは、緑色のリボン。
とりあえず、とそのリボンに手を伸ばす。そうだ、気に入ったものから選んでいこう。――お茶をしながらでもいいくらい、時間はあるのだから。
●
ちくちくと裁縫をしながら『安穏の守り手』フィーレン・ステオラーズが思い出すのは、今は亡き母の姿。
記憶のなかの母は、陽が昇る前から沈んだ後まで、ずっとずっと裁縫をしている。
生きていくために必要だった。例えそれが僅かばかりの稼ぎだとしても、ふたりの生活の支えだった。まだ幼い彼は、そんな母を見守るばかりで。
「繕いものは見てる事が殆どで、自分でやった事は……、……うん、ない事はないけど……」
手伝うよ、と申し出たときのことを思い返す。――うん。アレはなんかこう、かろうじてつなぎ合わせた感じになっていたね、と、フィーレンはどことなくバツが悪そうに笑う。
「まあ、今やればそこそこ出来るさ、うん。教えてくれるひともいるしね」
店主や、裁縫の心得があるライラックから教わりつつ縫えば、随分と綺麗に出来ている。かろうじてつなぎ合わせた、なんて見た目のテディベアにはならなくて済みそうだ。
「こういうのもいいか」
とん、と机の上に置かれたふわふわのテディベアは、『道標』カイン・ステラがたった今仕上げたものだ。
「あら、すごい。器用なのね。……リボンはどうする?」
「あ、リボンじゃないとダメ?」
「そんなことはないわ。好きなように作ってほしいもの」
何か他に必要なものはある? と、僅かに首を傾げた店主に、カインはそれじゃあ、と提案する。
「できたら三角帽子とマント作って、魔法使い風にしたいんだが……」
多く材料も使うことになるから良ければ、という彼に、店主はふるりと頭を振る。
「きっと、とっても素敵な子になるわね」
店主はくすくす笑うと、折角だから他にもいろいろ持ってくるわ、と素材を取りに下がっていった。
机の上に置かれたカインが作ったテディベアを、ロサードがまじまじと見ている。
(……すごい)
貴族の子女の嗜みとして、裁縫は一通り習ったけれど。こんなに素早く綺麗に仕上げるのはなかなか難しい。
実はこのひとも貴族、なのだろうか。でも男性が裁縫を習う、なんて話はあまり聞いたことがない。
ロサードの視線は、カインとテディベアの間を行ったり来たり。
お話出来れば楽しいだろうとロサードも思う。けれど、どう話を切り出せばいいのだろう。
――声、かけても大丈夫? ……よく、わからない。
口を閉じたり開いたり。手を上げたり下げたり。きょろきょろわたわた。謎のボディランゲージを試みるロサードを見て、カインがくくくと笑った。ロサードがぱっと顔を上げる。
「どうした、分からないことでもあるのか?」
「……あ。ええと。……そう、じゃなくて……。すごく、上手、だから」
「はは、ありがとよ。今じゃ趣味みたいなもんというか」
きょとんと瞬きしたロサードを見て、えーっとな、とカインは頬を掻く。
「俺は孤児院にいたんだけど……、年下が遊んでる最中に破っちまった袖や裾直したり、手助けに内職したりしてたもんだから……」
気付いたら得意になっていた、とカインは笑う。
生活は決して楽とは言えなかったけれど、孤児院の子供たちのことを想えば、それを辛いとは思わなかった。
「ああ、じゃあそれも孤児院の子たちに?」
「そうだな、孤児院に来る小さいのは大体不安だらけだからな。気を紛らわせるだろ」
フィーレンの問いに、カインが答える。彼の言葉は多少ぶっきらぼうではあるけれど、その声は優しさに満ちていた。
「…………それは、とっても、……すてきなこと、だとおもう」
縫っている最中のテディベアをきゅうと握りながら。ロサードが一生懸命告げた言葉に、カインは少し気恥ずかしそうに笑う。
「……自分のためじゃなくて、誰かのために作るというのもいいね」
フィーレンの言葉に、ロサードもこくこくと頷く。たくさんの褒め言葉が恥ずかしかったのだろうか。応える代わりにカインが紅茶に口を付ける。
「なんだか、お母さんみたいだね」
けれど、フィーレンが何気なく言った言葉に、カインが思わず噎せる。びっくりしたロサードはぱたぱた手を振り、おろおろとカインの顔を見ることしか出来ない。
「………おっ、俺は、決して母ちゃんではない……!!」
なんとかそんな言葉を絞り出す様子を見て、フィーレンはくすくす笑って自身の針をちくちく進めていくのだった。
「ニールさんのテディベア、とっても綺麗だね」
「せっかく世界にひとつだけの、を謳うなら、いろんな色柄にしようと思うんだ。からふる?」
胴体は花柄で、顔は黒、瞳は赤。他の部分は違う色。
うるさくならないように拘って色柄を選んだテディベアは、綿を詰められてふこふこ愛らしい見た目になっていく。
「……かわいいね」
ぎゅうっと抱きしめたらどんな感覚がするだろう。はやく抱きしめたいけれど、出来上がるまでは我慢、我慢。ニールはせっせと綿を詰めていく。
「あまり詰めすぎると歪んじゃったりするから、ちょっと難しいと思うけれど気を付けてね」
歪んじゃいそうだったら直すのを手伝うよ、とライラックが告げれば、ニールはこくんと頷く。
はじめてのテディベア作り。分からないことばかりでも、教えてくれるひとがいるから裁縫を楽しむことが出来る。エリスも、そのうちのひとりだった。
「う、ちょっと痛い……」
作りかけのテディベアから、ぱっと手を離したエリスが指先を咥える。どうやら、針で指先を刺してしまったらしい。
「へいき?」
「ありがとう、大丈夫だよ。……ふふっ、見て。耳の付け方、だいぶ下手。つけたの僕だけど」
「バランス、難しいよね。でも、それも愛嬌だと思うよ」
話をしながらも、ちくちくと針を進めるライラックの手は止まらない。その迷いない針使いに、エリスがほうと息を吐いた。
「教えてもらっても良いかな? 耳が上手につけられないみたい」
「うん、任せて。えーっと、まずは待ち針で仮留めして――……」
教えてもらいながら一生懸命裁縫をするエリスを見て、ライラックが微笑む。
どうしても集中すると、自分の世界に入り込んでしまう。こうして話をしながら裁縫をするのも、なかなか楽しいものだ。
自分を育ててくれたドワーフの夫婦ふたりも、手伝いをする私を見てこんな感情を抱いたりしたんだろうか。――そんなことを、ふと思う。
「ねえ、ライラック。俺のテディベアも見てもらっていい?」
フィーレンに声を掛けられたライラックはぱっとそちらに顔を向けると、もちろんと微笑んだ。
「ふむ、ここはそうやるのか……」
「フィーレンさんのテディベア、なんだか、フィーレンさんに、似てる」
「ああ、自分の着ている服の色に似せたんだ。何となく、見慣れた色の方が愛着湧くだろう?」
ひとつ、ふたつと言葉を交わしながら。時にはちょっと、お菓子で休憩。そうして、ちくちくちくちく。ひと針ひと針、心を込めて、願いを込めて、大切に縫っていく。
「ふふ。みんなとっても素敵」
店主は机にちょこんと並んだテディベアたちを見ると、嬉しそうに笑った。
●
薔薇の刺繍が華やかな、丁寧に縫われたテディベアがロサードのもの。
三角帽子にマント、それから魔法の杖。魔法使いのようなテディベアが、カインのもの。
小さなお耳と大きな手。星が飾られたリボンで結ばれたテディベアが、フィーレンのもの。
とってもカラフル。顔立ちがちょっぴり凛々しく、抱き心地が良さそうなふかふかテディベアが、ニールのもの。
タグには彼女のマークである黄色くて丸い鳥。足裏に刺繍が施されたテディベアが、ライラックのもの。
緑の耳と手足、それからリボン。ちょっぴり歪んだ耳も愛らしいテディベアが、エリスのもの。
それぞれが、想いを込めて作ったテディベア。
お店で売られているものほど綺麗に出来ていなかったとしても、このテディベアたちは世界にたったひとつだけ。
「孤児院に来る小さいのの支えになってやってほしいな」
そう言いながら、カインはテディベアの鼻をこつんとつつく。――不安な子供たちが、すこしでも笑顔になってくれますように。それが、彼がテディベアに込めた願いだった。
「願いかあ……」
黒いまんまるおめめにじっと見詰められ、エリスがぽつりと呟く。一番下の弟のことを考えながら楽しく縫ってはいたけれど。この胸にある想いを、言葉にするのはちょっぴり難しい。
「…………エリス?」
ロサードに顔を覗き込まれたエリスは、ぱっと顔を上げる。
「あ、ごめん、なんでもないよ。ロサードさんは、どんな願いを込めたの?」
「…………願い、じゃ、ないけれど……」
テディベアをじいと眺めたロサードは、つんと指先で薔薇の刺繍を指差した。
「ロサード……。この名前は、確か薔薇の花からとられたとか聞いたこと、あったような気がしたから」
誰に聞いたのか、それが真実なのか、もう、すっかり思い出せないけれど。どんなに願っても、過ぎた時間が戻ってくるわけではないけれど。
――――私が『私』を、愛してあげることは、出来るかもしれない。彼女のテディベアには、無意識のうちにそんな願いが込められていたのかもしれない。
ロサードは、しゅるりと髪のリボンを解くと、テディベアの首に優しく結んであげる。
「はじめまして、せかいにひとつだけの、わたしのテディベア」
そう言ってテディベアを見詰める彼女の眼差しは、なんだかとっても、優しく見えた。
「ふぅ、何とか形にはなったか……?」
楽しかったけれど、やっぱり慣れない作業をすれば疲れてしまう。フィーレンはぐいと伸びをひとつ。
「ありがとう。いい経験が出来たし、とても楽しかったよ」
店主にそう告げれば、彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。
「どんな願いを込めたか聞いてもいい?」
「願いは、成長かな。強くなりたい気持ちを込めて」
熊は強さの象徴って聞いたことがあるからね、とフィーレンが、がおおと熊のポーズをする。それを見た店主や冒険者たちもくすくす笑う。
リーンエス王国に戻ったら、自分の部屋の主になってもらうつもりだけれど、こちらでは連れて歩こう。
あとでひっそり手芸店のことを宣伝するつもりだし、実際に作ったものを見ればきっと興味を引くだろう。自分たちのように喜んでくれるひとは、きっとたくさんいるに違いない。
「うん、いいかんじ」
ライラックは、テディベアをぎゅっと抱きしめて抱き心地をチェック。
これを手にする人の心が穏やかになりますように。そんな願いを込められたテディベアは、誰にでも愛されそうなほど可愛らしい。
それを見たニールも、ぎゅっと自分の作ったテディベアを抱きしめてみる。
家にぬいぐるみの類があった記憶がないから、どう扱うものか実感が湧かないけれど。この愛らしい形なら、癒やしや安心を得るというのは、なんとなくわかる。
(今のボクに、願いらしいものは、特にない)
縫っている最中にも、いろいろ考えてはみたけれど、これといって思い浮かばなかった。けれど、それは恥ずかしいことではなくて。
(――だから、ボクの作ったテディベア。キミには何の願いも想いも託さずに)
まっさらな状態で、ただ、ニールの傍にいてくれれば、今はとりあえずそれでいい。
(願いや想いは、これから、詰まっていく気がするから)
ニールは、ふかふか柔らかい身体を、もう一度ぎゅっと抱きしめるのだった。
「ニールさんは、リボンは結ばないの?」
ライラックの言葉に、ニールがはっと顔を上げる。
「あ、最後にリボンという難関が待ち受けていた。綺麗に結ばなければ……」
願いを込めて、想いを込めて。この世界にうまれた世界にひとつだけのテディベア。
それはきっと、彼の、彼女たちのこれからの冒険を傍で見守っていくことだろう。そう、ずっと、ずっと――――。
『願いを込めて世界にひとつだけのテディベアを作りませんか』
そんな張り紙を見て集まった冒険者たちを、手芸店の店主は嬉しそうに迎え入れる。
机の上には様々な手芸道具と、色とりどりの生地やボタン。
それと一緒にお菓子も並べられ、かまどのうえではケトルがしゅんしゅんと湯気を吐いている。
手芸道具だけでなく、お菓子も用意されているのを見たライラック・I・フローレスは、ちょっとびっくりしてしまう。
「あの、お招きありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて丁寧にお礼を言う彼女を見て、店主はゆったりと微笑む。
「いいの、いいの。こうして穏やかな時間が過ごせることが嬉しいから。こちらこそお礼を言わなきゃ」
大規模な作戦が行われている今、街はなんだか落ち着かなくて。だから、彼女も気を紛らわしたかったのかもしれない。
「ボクにでも、作れる、かな」
『偵察は最大の防御』ニール・ロブラリアがこてりと首を傾げれば、彼女の伸ばしっぱなしの長い髪がしゃらりと揺れた。
髪の向こうに隠れた、ほんのすこし不安そうな彼女の瞳を見た店主は笑って言う。みんないるから大丈夫、楽しい時間にしましょうね、と。
「…………自分の好きなように、作っていい、の?」
ぱちぱち、ぱちり。『物静かな名参謀』ロサード・シュナイダーは、並んだ生地を眺めながら何度も瞬く。
ロサードは今まで、自分の家でしたいこと、好きなこと、選びたいこと、それらを主張することが出来なかった。許されなかった。
選ばれるのは、褒められるのは、愛されるのは。いつだって、ロサードではなくて、妹だったから。
だから、自分で選んだ好きなものでテディベアを作っていいという言葉は、なんだか信じ難くてふわふわと不思議な気持ちになる。
(すごく、新鮮。………そうか、冒険者になって、私はとても自由になったのかも)
胸のあたりがあたたかい気がするのは、きっと、出された紅茶のせいだけではないのだろう。
おずおずと生地を選び始めたロサードの隣で、エリスは既に型紙に添って切り抜かれた生地に手を伸ばす。
「……どうしようかなあ、お裁縫よくわからないしパーツ縫い合わせるだけにしよっと」
――糸とかはクマに馴染む色が良いかなあ、それじゃあ茶色の糸?
生地も、糸も、ボタンも、リボンも。あまりにもたくさんの種類があるものだから、どうしたって目移りしてしまう。
いろいろな素材を手に取り悩む彼の目に、いちばん最初に留まったのは、緑色のリボン。
とりあえず、とそのリボンに手を伸ばす。そうだ、気に入ったものから選んでいこう。――お茶をしながらでもいいくらい、時間はあるのだから。
●
ちくちくと裁縫をしながら『安穏の守り手』フィーレン・ステオラーズが思い出すのは、今は亡き母の姿。
記憶のなかの母は、陽が昇る前から沈んだ後まで、ずっとずっと裁縫をしている。
生きていくために必要だった。例えそれが僅かばかりの稼ぎだとしても、ふたりの生活の支えだった。まだ幼い彼は、そんな母を見守るばかりで。
「繕いものは見てる事が殆どで、自分でやった事は……、……うん、ない事はないけど……」
手伝うよ、と申し出たときのことを思い返す。――うん。アレはなんかこう、かろうじてつなぎ合わせた感じになっていたね、と、フィーレンはどことなくバツが悪そうに笑う。
「まあ、今やればそこそこ出来るさ、うん。教えてくれるひともいるしね」
店主や、裁縫の心得があるライラックから教わりつつ縫えば、随分と綺麗に出来ている。かろうじてつなぎ合わせた、なんて見た目のテディベアにはならなくて済みそうだ。
「こういうのもいいか」
とん、と机の上に置かれたふわふわのテディベアは、『道標』カイン・ステラがたった今仕上げたものだ。
「あら、すごい。器用なのね。……リボンはどうする?」
「あ、リボンじゃないとダメ?」
「そんなことはないわ。好きなように作ってほしいもの」
何か他に必要なものはある? と、僅かに首を傾げた店主に、カインはそれじゃあ、と提案する。
「できたら三角帽子とマント作って、魔法使い風にしたいんだが……」
多く材料も使うことになるから良ければ、という彼に、店主はふるりと頭を振る。
「きっと、とっても素敵な子になるわね」
店主はくすくす笑うと、折角だから他にもいろいろ持ってくるわ、と素材を取りに下がっていった。
机の上に置かれたカインが作ったテディベアを、ロサードがまじまじと見ている。
(……すごい)
貴族の子女の嗜みとして、裁縫は一通り習ったけれど。こんなに素早く綺麗に仕上げるのはなかなか難しい。
実はこのひとも貴族、なのだろうか。でも男性が裁縫を習う、なんて話はあまり聞いたことがない。
ロサードの視線は、カインとテディベアの間を行ったり来たり。
お話出来れば楽しいだろうとロサードも思う。けれど、どう話を切り出せばいいのだろう。
――声、かけても大丈夫? ……よく、わからない。
口を閉じたり開いたり。手を上げたり下げたり。きょろきょろわたわた。謎のボディランゲージを試みるロサードを見て、カインがくくくと笑った。ロサードがぱっと顔を上げる。
「どうした、分からないことでもあるのか?」
「……あ。ええと。……そう、じゃなくて……。すごく、上手、だから」
「はは、ありがとよ。今じゃ趣味みたいなもんというか」
きょとんと瞬きしたロサードを見て、えーっとな、とカインは頬を掻く。
「俺は孤児院にいたんだけど……、年下が遊んでる最中に破っちまった袖や裾直したり、手助けに内職したりしてたもんだから……」
気付いたら得意になっていた、とカインは笑う。
生活は決して楽とは言えなかったけれど、孤児院の子供たちのことを想えば、それを辛いとは思わなかった。
「ああ、じゃあそれも孤児院の子たちに?」
「そうだな、孤児院に来る小さいのは大体不安だらけだからな。気を紛らわせるだろ」
フィーレンの問いに、カインが答える。彼の言葉は多少ぶっきらぼうではあるけれど、その声は優しさに満ちていた。
「…………それは、とっても、……すてきなこと、だとおもう」
縫っている最中のテディベアをきゅうと握りながら。ロサードが一生懸命告げた言葉に、カインは少し気恥ずかしそうに笑う。
「……自分のためじゃなくて、誰かのために作るというのもいいね」
フィーレンの言葉に、ロサードもこくこくと頷く。たくさんの褒め言葉が恥ずかしかったのだろうか。応える代わりにカインが紅茶に口を付ける。
「なんだか、お母さんみたいだね」
けれど、フィーレンが何気なく言った言葉に、カインが思わず噎せる。びっくりしたロサードはぱたぱた手を振り、おろおろとカインの顔を見ることしか出来ない。
「………おっ、俺は、決して母ちゃんではない……!!」
なんとかそんな言葉を絞り出す様子を見て、フィーレンはくすくす笑って自身の針をちくちく進めていくのだった。
「ニールさんのテディベア、とっても綺麗だね」
「せっかく世界にひとつだけの、を謳うなら、いろんな色柄にしようと思うんだ。からふる?」
胴体は花柄で、顔は黒、瞳は赤。他の部分は違う色。
うるさくならないように拘って色柄を選んだテディベアは、綿を詰められてふこふこ愛らしい見た目になっていく。
「……かわいいね」
ぎゅうっと抱きしめたらどんな感覚がするだろう。はやく抱きしめたいけれど、出来上がるまでは我慢、我慢。ニールはせっせと綿を詰めていく。
「あまり詰めすぎると歪んじゃったりするから、ちょっと難しいと思うけれど気を付けてね」
歪んじゃいそうだったら直すのを手伝うよ、とライラックが告げれば、ニールはこくんと頷く。
はじめてのテディベア作り。分からないことばかりでも、教えてくれるひとがいるから裁縫を楽しむことが出来る。エリスも、そのうちのひとりだった。
「う、ちょっと痛い……」
作りかけのテディベアから、ぱっと手を離したエリスが指先を咥える。どうやら、針で指先を刺してしまったらしい。
「へいき?」
「ありがとう、大丈夫だよ。……ふふっ、見て。耳の付け方、だいぶ下手。つけたの僕だけど」
「バランス、難しいよね。でも、それも愛嬌だと思うよ」
話をしながらも、ちくちくと針を進めるライラックの手は止まらない。その迷いない針使いに、エリスがほうと息を吐いた。
「教えてもらっても良いかな? 耳が上手につけられないみたい」
「うん、任せて。えーっと、まずは待ち針で仮留めして――……」
教えてもらいながら一生懸命裁縫をするエリスを見て、ライラックが微笑む。
どうしても集中すると、自分の世界に入り込んでしまう。こうして話をしながら裁縫をするのも、なかなか楽しいものだ。
自分を育ててくれたドワーフの夫婦ふたりも、手伝いをする私を見てこんな感情を抱いたりしたんだろうか。――そんなことを、ふと思う。
「ねえ、ライラック。俺のテディベアも見てもらっていい?」
フィーレンに声を掛けられたライラックはぱっとそちらに顔を向けると、もちろんと微笑んだ。
「ふむ、ここはそうやるのか……」
「フィーレンさんのテディベア、なんだか、フィーレンさんに、似てる」
「ああ、自分の着ている服の色に似せたんだ。何となく、見慣れた色の方が愛着湧くだろう?」
ひとつ、ふたつと言葉を交わしながら。時にはちょっと、お菓子で休憩。そうして、ちくちくちくちく。ひと針ひと針、心を込めて、願いを込めて、大切に縫っていく。
「ふふ。みんなとっても素敵」
店主は机にちょこんと並んだテディベアたちを見ると、嬉しそうに笑った。
●
薔薇の刺繍が華やかな、丁寧に縫われたテディベアがロサードのもの。
三角帽子にマント、それから魔法の杖。魔法使いのようなテディベアが、カインのもの。
小さなお耳と大きな手。星が飾られたリボンで結ばれたテディベアが、フィーレンのもの。
とってもカラフル。顔立ちがちょっぴり凛々しく、抱き心地が良さそうなふかふかテディベアが、ニールのもの。
タグには彼女のマークである黄色くて丸い鳥。足裏に刺繍が施されたテディベアが、ライラックのもの。
緑の耳と手足、それからリボン。ちょっぴり歪んだ耳も愛らしいテディベアが、エリスのもの。
それぞれが、想いを込めて作ったテディベア。
お店で売られているものほど綺麗に出来ていなかったとしても、このテディベアたちは世界にたったひとつだけ。
「孤児院に来る小さいのの支えになってやってほしいな」
そう言いながら、カインはテディベアの鼻をこつんとつつく。――不安な子供たちが、すこしでも笑顔になってくれますように。それが、彼がテディベアに込めた願いだった。
「願いかあ……」
黒いまんまるおめめにじっと見詰められ、エリスがぽつりと呟く。一番下の弟のことを考えながら楽しく縫ってはいたけれど。この胸にある想いを、言葉にするのはちょっぴり難しい。
「…………エリス?」
ロサードに顔を覗き込まれたエリスは、ぱっと顔を上げる。
「あ、ごめん、なんでもないよ。ロサードさんは、どんな願いを込めたの?」
「…………願い、じゃ、ないけれど……」
テディベアをじいと眺めたロサードは、つんと指先で薔薇の刺繍を指差した。
「ロサード……。この名前は、確か薔薇の花からとられたとか聞いたこと、あったような気がしたから」
誰に聞いたのか、それが真実なのか、もう、すっかり思い出せないけれど。どんなに願っても、過ぎた時間が戻ってくるわけではないけれど。
――――私が『私』を、愛してあげることは、出来るかもしれない。彼女のテディベアには、無意識のうちにそんな願いが込められていたのかもしれない。
ロサードは、しゅるりと髪のリボンを解くと、テディベアの首に優しく結んであげる。
「はじめまして、せかいにひとつだけの、わたしのテディベア」
そう言ってテディベアを見詰める彼女の眼差しは、なんだかとっても、優しく見えた。
「ふぅ、何とか形にはなったか……?」
楽しかったけれど、やっぱり慣れない作業をすれば疲れてしまう。フィーレンはぐいと伸びをひとつ。
「ありがとう。いい経験が出来たし、とても楽しかったよ」
店主にそう告げれば、彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。
「どんな願いを込めたか聞いてもいい?」
「願いは、成長かな。強くなりたい気持ちを込めて」
熊は強さの象徴って聞いたことがあるからね、とフィーレンが、がおおと熊のポーズをする。それを見た店主や冒険者たちもくすくす笑う。
リーンエス王国に戻ったら、自分の部屋の主になってもらうつもりだけれど、こちらでは連れて歩こう。
あとでひっそり手芸店のことを宣伝するつもりだし、実際に作ったものを見ればきっと興味を引くだろう。自分たちのように喜んでくれるひとは、きっとたくさんいるに違いない。
「うん、いいかんじ」
ライラックは、テディベアをぎゅっと抱きしめて抱き心地をチェック。
これを手にする人の心が穏やかになりますように。そんな願いを込められたテディベアは、誰にでも愛されそうなほど可愛らしい。
それを見たニールも、ぎゅっと自分の作ったテディベアを抱きしめてみる。
家にぬいぐるみの類があった記憶がないから、どう扱うものか実感が湧かないけれど。この愛らしい形なら、癒やしや安心を得るというのは、なんとなくわかる。
(今のボクに、願いらしいものは、特にない)
縫っている最中にも、いろいろ考えてはみたけれど、これといって思い浮かばなかった。けれど、それは恥ずかしいことではなくて。
(――だから、ボクの作ったテディベア。キミには何の願いも想いも託さずに)
まっさらな状態で、ただ、ニールの傍にいてくれれば、今はとりあえずそれでいい。
(願いや想いは、これから、詰まっていく気がするから)
ニールは、ふかふか柔らかい身体を、もう一度ぎゅっと抱きしめるのだった。
「ニールさんは、リボンは結ばないの?」
ライラックの言葉に、ニールがはっと顔を上げる。
「あ、最後にリボンという難関が待ち受けていた。綺麗に結ばなければ……」
願いを込めて、想いを込めて。この世界にうまれた世界にひとつだけのテディベア。
それはきっと、彼の、彼女たちのこれからの冒険を傍で見守っていくことだろう。そう、ずっと、ずっと――――。
マスターコメント
テディベア作り、楽しんで頂けたでしょうか?
世界にひとつだけのテディベア、どうぞ可愛がってあげてください。
とても素敵なプレイングばかりで、とてもほっこりしました。
みなさまのおかげで、手芸店がなんだか繁盛しそうな気配がします。
MVPは大変迷いましたが、これからの想いがより明確に書かれていたニール様に。
またどこかでお会い出来れば幸いです。ご参加ありがとうございました。
ショートシナリオ易しい 報酬:標準6 / 4〜6人
2020年11月30日 11時12分48秒 公開
成功
参加者
- シュナイダー ロサード
カイン・ステラ
フィーレン・ステオラーズ
ニール・ロブラリア
ライラック・I・フローレス
エリス
相談掲示板
ライラック・I・フローレス、種族はハーフリングだ。初依頼となってて手間取ってしまうかもしれないが、その、よろしくな。
へー、テディベア、ねえ…。 面白そうだね。裁縫の経験はないけど、俺でも出来そうかな? あ、俺はフィーレン。宜しくな。
カイン・ステラだ。よろしく。 まーこういうのんびりした時間を過ごすのもいいよな。
エリスだよ、よろしくね。 テディベア……どんなのが良いかなあ、ふふっ
No.5
シューター、ろ……(戦闘依頼時の挨拶をしようとして、少し考えるように止まる) …ロサード・シュナイダー。 よろしく。 テディベア…自分の、好きに選んでいいの? …。 (なにやら考えているようだ)
ニール・ロブラリア。よろしくね。 クマといっても、いろんな色柄があるんだね。 裁縫はあまり得意じゃないから、簡単なパーツ選びにとどめておこう。
えっと、裁縫の心得、あるから、少し手助け出来たらと思う。みんなよろしく。 ひと針ひと針丁寧に、あと楽しめたらって思う。緊張してうまく言えないけど、がんばろ!
ライラックさんにご教授願えるなら、もう少しこだわった作りにしようかな。 できるだけ縫い目が目立たないような色にするつもりだったけど、 気にせずパーツを選んでみることにする。 不器用なのは誤魔化せないけど、がんばるから、よろしくね……。
反応遅くなっちゃったけどライラックさんはお裁縫得意なの? うーん……こういうのあまり得意じゃないから僕も教えてもらいに行くかも。 もちろんできる限りのことはちゃんと頑張るね。