こんなの、恋じゃない
キャラクターノベル制作 小湊拓也納品 2023年11月23日 11時19分17秒
●
部屋を、掃除した。
学生寮である。借り物の、部屋である。
常に綺麗にしておかなければならない。
そう思っていても、生活をしていれば汚れてくるものだ。
汚れたままには、しておけない。
アルフィー・リッパーは、そう思う。
自分が死ねば、この部屋は、見知らぬ誰かが使う事となるのだ。
「えーと……立つ鳥、後を汚さず。だっけ? 何か、そんなの」
祖父に教わった言葉である。
血の繋がった祖父ではない。
アルフィーは『じいちゃん』と呼んでいた。
老人だったからだ。
父か祖父かと言えば、祖父であろう。
「……会いに行くよ、じいちゃん。もうちょっとしたら、ね」
すでにいなくなった祖父に語りかけながらアルフィーは、右手で左胸を押さえた。
最近、どうも心臓の調子がおかしい。
締め付けられるような痛みが頻発する。
痛む心臓が、ドキドキと跳ね上がる。
来たか、とアルフィーは思ったものだ。
「俺、知ってるよ。じいちゃん……これって『ふせいみゃく』だろ? じいちゃん、コレで死んじゃったもんなー」
祖父の死後、アルフィーは野良猫となった。
ハーフビーストの少年が、本当に野良猫の如く生きなければならなかった。
金も物も食料も、盗んだ。
盗む相手は、アルフィーなりに見極めたつもりである。
盗人から冒険者へと転身する事が出来たのは、仲間たちのおかげだ。
様々な出会いを経て、薄汚い野良猫も少しは成長した、とアルフィー自身は思っている。
まだまだだ。もっと自分は、学ばなければならない。
だから、パンクリアース学園の編入試験を受けた。
学は無い。祖父から、最低限の読み書きを習っただけだ。
合格したのは、奇跡と言っていいだろう。
彼女と出会えたのは、さらなる奇跡だ。
ひねくれ者の野良猫であった自分が、彼女とは打ち解ける事が出来た。
何でも、話せた。
一緒に学び、遊んだ。
冒険者として、共に戦う事もあった。
漁についても、教えてもらった。
楽しい。それは、間違いなかった。
だが『ふせいみゃく』が起こるようにもなった。
彼女と時間を共有していると、決まって心臓がおかしな具合になる。
「ドキドキするんだよ、じいちゃん。きゅぅ、って言うか。とくん、って言うか……何なのかな、これって」
部屋の掃除は、すぐに終わった。
所有物が少ないからだ。
友人たちに分け与えてしまおう、とアルフィーは思った。
「俺……やっぱ、死んじゃうんだなー」
祖父は『ふせいみゃく』を引き起こして亡くなった。
心臓が締め付けられ、高鳴る。
死亡する数カ月前にそんな症状を自覚し、医者に『ふせいみゃく』だと言われた。
まさしく、今のアルフィーと同じだ。
胸が、締め付けられるように苦しい。高鳴る。
その症状は、彼女を見た時に生ずる。
彼女を見て、嬉しかった事や楽しかった事が起きた時。
アルフィーは嬉しくなりながら、楽しくなりながら、しかし『ふせいみゃく』を引き起こして苦しくもなる。
その様子を見ていた友人の一人が、荒唐無稽な事を言ったものだ。
お前、それは恋じゃないのか……などと。
「そんなワケあるかよ! な、じいちゃん」
アルフィーは笑った。
「俺もう21歳だぜ、大人なんだぜ! 恋ってのが何なのかくらい知ってらあ。恋ってさ、楽しくて幸せなもんだよ。こんなふうに苦しいワケないんだよ。俺、詳しいんだから」
●
俺、もう死ぬからさ。
そんな事を言った途端、友人たちは寄ってたかってアルフィーを医者のもとへと運び込んだ。
「何、不整脈じゃと」
その医者は、アルフィーに言った。
「よく聞け若者。おぬしの病はの、そのような生易しいものではないぞ。気の毒に、医者では治せぬ病に罹ってしまったのう……もはや手の施しようもなし、せめて思い残す事の無きように過ごせ」
●
医者の、その言葉の意味をアルフィーが理解したのは、数日後である。
俺、もう死ぬからさ。
アルフィーは友人たちに、そう言った。
それが、彼女の耳に入ってしまったのだ。
息せき切って、彼女は会いに来てくれた。様子を、見に来てくれた。
自分は彼女に、心配をさせてしまった。
彼女に、悲痛な思いをさせてしまった。
そしてアルフィーは、気付いたのだ。
自分が『ふせいみゃく』だと思っていたもの。
それが、恋であると。
「……何だよ……何なんだよ……」
身辺整理が、全くの無駄になった。
綺麗に片付いた部屋の中。アルフィーは独り、懊悩している。
物語の中の恋人たちは皆、幸せそうにしていた。楽しそうだった。
「嘘っぱちじゃん、あんなの全部…………恋、って…………めちゃくちゃ、苦しいよ…………辛いよう……」
助けて、じいちゃん。
その言葉をアルフィーは、嗚咽と一緒に呑み込んだ。
誰かに助けを求める、事ではなかった。
部屋を、掃除した。
学生寮である。借り物の、部屋である。
常に綺麗にしておかなければならない。
そう思っていても、生活をしていれば汚れてくるものだ。
汚れたままには、しておけない。
アルフィー・リッパーは、そう思う。
自分が死ねば、この部屋は、見知らぬ誰かが使う事となるのだ。
「えーと……立つ鳥、後を汚さず。だっけ? 何か、そんなの」
祖父に教わった言葉である。
血の繋がった祖父ではない。
アルフィーは『じいちゃん』と呼んでいた。
老人だったからだ。
父か祖父かと言えば、祖父であろう。
「……会いに行くよ、じいちゃん。もうちょっとしたら、ね」
すでにいなくなった祖父に語りかけながらアルフィーは、右手で左胸を押さえた。
最近、どうも心臓の調子がおかしい。
締め付けられるような痛みが頻発する。
痛む心臓が、ドキドキと跳ね上がる。
来たか、とアルフィーは思ったものだ。
「俺、知ってるよ。じいちゃん……これって『ふせいみゃく』だろ? じいちゃん、コレで死んじゃったもんなー」
祖父の死後、アルフィーは野良猫となった。
ハーフビーストの少年が、本当に野良猫の如く生きなければならなかった。
金も物も食料も、盗んだ。
盗む相手は、アルフィーなりに見極めたつもりである。
盗人から冒険者へと転身する事が出来たのは、仲間たちのおかげだ。
様々な出会いを経て、薄汚い野良猫も少しは成長した、とアルフィー自身は思っている。
まだまだだ。もっと自分は、学ばなければならない。
だから、パンクリアース学園の編入試験を受けた。
学は無い。祖父から、最低限の読み書きを習っただけだ。
合格したのは、奇跡と言っていいだろう。
彼女と出会えたのは、さらなる奇跡だ。
ひねくれ者の野良猫であった自分が、彼女とは打ち解ける事が出来た。
何でも、話せた。
一緒に学び、遊んだ。
冒険者として、共に戦う事もあった。
漁についても、教えてもらった。
楽しい。それは、間違いなかった。
だが『ふせいみゃく』が起こるようにもなった。
彼女と時間を共有していると、決まって心臓がおかしな具合になる。
「ドキドキするんだよ、じいちゃん。きゅぅ、って言うか。とくん、って言うか……何なのかな、これって」
部屋の掃除は、すぐに終わった。
所有物が少ないからだ。
友人たちに分け与えてしまおう、とアルフィーは思った。
「俺……やっぱ、死んじゃうんだなー」
祖父は『ふせいみゃく』を引き起こして亡くなった。
心臓が締め付けられ、高鳴る。
死亡する数カ月前にそんな症状を自覚し、医者に『ふせいみゃく』だと言われた。
まさしく、今のアルフィーと同じだ。
胸が、締め付けられるように苦しい。高鳴る。
その症状は、彼女を見た時に生ずる。
彼女を見て、嬉しかった事や楽しかった事が起きた時。
アルフィーは嬉しくなりながら、楽しくなりながら、しかし『ふせいみゃく』を引き起こして苦しくもなる。
その様子を見ていた友人の一人が、荒唐無稽な事を言ったものだ。
お前、それは恋じゃないのか……などと。
「そんなワケあるかよ! な、じいちゃん」
アルフィーは笑った。
「俺もう21歳だぜ、大人なんだぜ! 恋ってのが何なのかくらい知ってらあ。恋ってさ、楽しくて幸せなもんだよ。こんなふうに苦しいワケないんだよ。俺、詳しいんだから」
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俺、もう死ぬからさ。
そんな事を言った途端、友人たちは寄ってたかってアルフィーを医者のもとへと運び込んだ。
「何、不整脈じゃと」
その医者は、アルフィーに言った。
「よく聞け若者。おぬしの病はの、そのような生易しいものではないぞ。気の毒に、医者では治せぬ病に罹ってしまったのう……もはや手の施しようもなし、せめて思い残す事の無きように過ごせ」
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医者の、その言葉の意味をアルフィーが理解したのは、数日後である。
俺、もう死ぬからさ。
アルフィーは友人たちに、そう言った。
それが、彼女の耳に入ってしまったのだ。
息せき切って、彼女は会いに来てくれた。様子を、見に来てくれた。
自分は彼女に、心配をさせてしまった。
彼女に、悲痛な思いをさせてしまった。
そしてアルフィーは、気付いたのだ。
自分が『ふせいみゃく』だと思っていたもの。
それが、恋であると。
「……何だよ……何なんだよ……」
身辺整理が、全くの無駄になった。
綺麗に片付いた部屋の中。アルフィーは独り、懊悩している。
物語の中の恋人たちは皆、幸せそうにしていた。楽しそうだった。
「嘘っぱちじゃん、あんなの全部…………恋、って…………めちゃくちゃ、苦しいよ…………辛いよう……」
助けて、じいちゃん。
その言葉をアルフィーは、嗚咽と一緒に呑み込んだ。
誰かに助けを求める、事ではなかった。