父と娘、戦う。
キャラクターノベル(グループ)制作 白葉うづき納品 2023年11月25日 10時41分42秒
繰り出した初撃が躱されたと知るや、コルネリウス・アーラは連続で拳を繰り出す。正面からだけでなく横や下から放たれる連撃は、しかし目の前の相手に届かなかった。いつもすんでのところで躱される。もしやリーチでさえ見極められているのか。けれどペースはこちらにある。狙って幾度かタイミングをずらしながら続けていると、相手の翻した半身が僅かに傾いだのをコルネリウスは見逃さない――好機だ。
踏み込んだ前足から全力で拳を振りかぶった。当たれば数メートルは吹っ飛ぶかというほど力を込めた一撃。けれどそれは届かず、突き出した腕を絡めとるよう両手が巻き付く。
「――っ!!」
咄嗟にコルネリウスは後ろに飛びのく。一瞬でも遅れていればあのまま投げ飛ばされていただろう。ひと呼吸さえ気を張る相手。己を磨き、力を手に入れたことでコルネリウスも相手の力量が多少なりともわかる。ただ、相手の底はいくら探ろうとしても知れない。何度も相対しても、いつも本気を出せていないのではないかと思うほどだ。
だからこそ――コルネリウスは全力を出せる。
「やっ!」
コルネリウスが飛び出す。同時に放った拳は避けられるが、ステップを踏むよう遠心力を利用し回し蹴りを繰り出す。逞しい脚が風を切って迫るが予想されていたのか抱き込むよう取られかけ、コルネリウスは前腕部を振り回し連撃することでそれを防ぐ。肘を突き出した反動で再び拳を繰り出せば相手は避けず、手でいなすようにあしらう。続けて出した拳も蹴りも受け止めるよう手でガードされる、しかし避けられはしない。ならば。
「はあっ!!」
「!」
ガードすらぶち壊す重さを込めた一撃。やっと届いた感触、みしりと耳障りな音が鳴る。繰り出した拳は正しく相手をとらえ、砂埃をあげながら後ろに吹き飛んでいった。
細く、長く息を吐く。砂埃が晴れると、父――フェアロス・アーラ・アスプロスが柔らかく頬笑みを湛えていた。
「とてもいい動きでした。それに今の一撃も素晴らしいですね」
「ありがとうございます」
褒められたコルネリウスはくすぐったそうに笑う。
「あ。腕に傷が……!」
裾から覗く父の腕に痣のようなものがあった。コルネリウスがつけたものだ。
「問題ありません」
フェアロスは手を腕にかざし、光球を生み出す。光が収まるとすっかり傷は癒えていた。
「すみません……」
「謝ることはありませんよ。そのくらいの方が訓練にもなりますし、私も嬉しいです」
――娘であるコルネリウスと、その父であるフェアロスがなぜその身一つで戦っていたか。これは日頃授恵者として研鑽を積む二人の、手合わせと称した戦闘訓練だ。初めはフェアロスが娘を鍛えるために行うものだったかもしれない。けれど着実に力をつけてきたコルネリウスにとって父は訓練相手として申し分のない存在。お互い忙しい身ではあるが、こうして時間の合う時に顔を突き合わせ、手合わせをすることがあった。身内で訓練が出来るのはありがたいことだ。
「さて……それでは次に移りましょうか。せっかくコルネといられる時間なのです、少しでも有意義に過ごしてほしいですから」
「それは私も同じですよ、父さん」
今しがた行った模擬戦は、武器を持っていない時に敵との遭遇を想定したもの。シチュエーションを想定し、戦ってはお互いの意見を出し合い、考え付いた戦い方を試し、来るべき時に備えるよう力を付けていく。
「コルネ」
「はい、わっ」
放られた武器を受け取る。長めの木剣はコルネリウスの愛用する剣とよく似た振り心地。顔を上げると、フェアロスも普段握っているような杖を手にしていた。
「盾も持っていいですよ。そして、実戦を想定して動きましょうか。そうですね……」
杖を構え、静かにフェアロスが対峙する。同時にコルネリウスへ張り詰めるほどの気迫が伝わってきた。思わず目を見張る――コルネリウスの目に、父が本気であることが見て取れた。模擬戦と言うには難しいほどの迫力が伝わってくる。
父が微笑む。
「何を使っても構いません。私を倒すつもりで来なさい、コルネ」
その響きは楽しそうにさえ聞こえた。
コルネリウスは守りたいと思う者を守るために、フェアロスは身を守りながら周囲を助けるために自身の力を磨いている。コルネリウスは防御を、フェアロスはきっと回復や補助を中心に技の研鑽を続けているだろう。積極的に相手を打ちのめす戦い方ではないが、今この瞬間、父に全力をぶつけられることは、はっきり言って高揚する。
皮膚を金属と同じ硬さに。ここから加速して突っ込むか、遠距離から出方を見るか。
(突っ込む!)
直感に従ったとも言えるほどの攻め、それをコルネリウスは忠実に実行した。剣を構えながら加速、ぶおんと空気が唸るほどの一撃。フェアロスは真正面から剣戟を受ける。杖を盾代わりに受け止めることで威力を殺したのかそれとも基礎能力が高いのか、思ったよりも威力を出せていない。
「こちらの番です」
振りかぶった杖がコルネリウスを狙った。腕の長さも手伝い、コルネリウスの視界外からくるような攻撃が襲ってくる。構えていた盾で防ぐも、容赦のない一撃はずんと重い。踏ん張った足が地面を抉った。一度引いたコルネリウスは衝撃波を放つ。今度は直撃したが、瞬く間に回復されてしまった。続く剣での攻撃も届いてはいるが、すぐに回復されてしまう。
木と木がぶつかる鈍い音が幾度も鳴る。隙を狙って剣を繰り出し、杖が盾を打ち、盾で押し込むように殴り、足元が抉れるよう乱れていく。こちらへのダメージもゼロではない。訓練用の防具ではすべてを耐えることが難しい。持久戦になればこちらが不利か。
ならば、一撃で決める必要がある。正直に真正面から突っ込んだところで躱されるだけだろう。それくらい父は考えているし、私のことをよくわかっている。
だからこそそこに、隙が生まれる。
「はあっ!」
再び距離を取って加速、近付いて気付いた――フェアロスの体が僅かながら光を帯びている。それでも構わず、威力を乗せて鋭く剣を突き出した。実直なまでに真っすぐな一撃。
「!!」
フェアロスは咄嗟に杖を構える。それをコルネリウスの剣は真っ二つに両断、めきりという音とともにフェアロスへと一撃が通った。同時に、握っていた木剣も剣先から砕けた。
「あいたた……まさか、そのまま突っ込んでくるなんて……予測が外れてしまいました」
「す、すみません! でも、父さんならこの方が通じると思ったんです」
「なるほど、相手のことを考えた上での判断ですか。私も判断が遅れてしまいましたね」
コルネリウスは手を伸ばし、尻もちをついていたフェアロスを立ち上がらせる。フェアロスは砂埃にまみれながらも、楽しそうに笑っていた。
「よくできました、コルネ。後はもう少し攻め手を増やしておきましょうか」
「もちろんです! あ、でもその前に」
コルネリウスはちらりと地面を見渡す。そこには、無残にも散らばった木々のかけらがあった。よく見ると盾もひびが入っている。
「ああ、可哀そうなことをしてしまいました……」
「すみません……」
「私もですから、一緒に謝りましょうね。今度からはもう少し丈夫な武具で手合わせをしましょう。……ああ、コルネ。汚れてしまいましたね」
フェアロスが顔に付いた砂埃を拭ってくれる。優しい手つきに、コルネリウスはくすぐったそうに瞳を細めた。
踏み込んだ前足から全力で拳を振りかぶった。当たれば数メートルは吹っ飛ぶかというほど力を込めた一撃。けれどそれは届かず、突き出した腕を絡めとるよう両手が巻き付く。
「――っ!!」
咄嗟にコルネリウスは後ろに飛びのく。一瞬でも遅れていればあのまま投げ飛ばされていただろう。ひと呼吸さえ気を張る相手。己を磨き、力を手に入れたことでコルネリウスも相手の力量が多少なりともわかる。ただ、相手の底はいくら探ろうとしても知れない。何度も相対しても、いつも本気を出せていないのではないかと思うほどだ。
だからこそ――コルネリウスは全力を出せる。
「やっ!」
コルネリウスが飛び出す。同時に放った拳は避けられるが、ステップを踏むよう遠心力を利用し回し蹴りを繰り出す。逞しい脚が風を切って迫るが予想されていたのか抱き込むよう取られかけ、コルネリウスは前腕部を振り回し連撃することでそれを防ぐ。肘を突き出した反動で再び拳を繰り出せば相手は避けず、手でいなすようにあしらう。続けて出した拳も蹴りも受け止めるよう手でガードされる、しかし避けられはしない。ならば。
「はあっ!!」
「!」
ガードすらぶち壊す重さを込めた一撃。やっと届いた感触、みしりと耳障りな音が鳴る。繰り出した拳は正しく相手をとらえ、砂埃をあげながら後ろに吹き飛んでいった。
細く、長く息を吐く。砂埃が晴れると、父――フェアロス・アーラ・アスプロスが柔らかく頬笑みを湛えていた。
「とてもいい動きでした。それに今の一撃も素晴らしいですね」
「ありがとうございます」
褒められたコルネリウスはくすぐったそうに笑う。
「あ。腕に傷が……!」
裾から覗く父の腕に痣のようなものがあった。コルネリウスがつけたものだ。
「問題ありません」
フェアロスは手を腕にかざし、光球を生み出す。光が収まるとすっかり傷は癒えていた。
「すみません……」
「謝ることはありませんよ。そのくらいの方が訓練にもなりますし、私も嬉しいです」
――娘であるコルネリウスと、その父であるフェアロスがなぜその身一つで戦っていたか。これは日頃授恵者として研鑽を積む二人の、手合わせと称した戦闘訓練だ。初めはフェアロスが娘を鍛えるために行うものだったかもしれない。けれど着実に力をつけてきたコルネリウスにとって父は訓練相手として申し分のない存在。お互い忙しい身ではあるが、こうして時間の合う時に顔を突き合わせ、手合わせをすることがあった。身内で訓練が出来るのはありがたいことだ。
「さて……それでは次に移りましょうか。せっかくコルネといられる時間なのです、少しでも有意義に過ごしてほしいですから」
「それは私も同じですよ、父さん」
今しがた行った模擬戦は、武器を持っていない時に敵との遭遇を想定したもの。シチュエーションを想定し、戦ってはお互いの意見を出し合い、考え付いた戦い方を試し、来るべき時に備えるよう力を付けていく。
「コルネ」
「はい、わっ」
放られた武器を受け取る。長めの木剣はコルネリウスの愛用する剣とよく似た振り心地。顔を上げると、フェアロスも普段握っているような杖を手にしていた。
「盾も持っていいですよ。そして、実戦を想定して動きましょうか。そうですね……」
杖を構え、静かにフェアロスが対峙する。同時にコルネリウスへ張り詰めるほどの気迫が伝わってきた。思わず目を見張る――コルネリウスの目に、父が本気であることが見て取れた。模擬戦と言うには難しいほどの迫力が伝わってくる。
父が微笑む。
「何を使っても構いません。私を倒すつもりで来なさい、コルネ」
その響きは楽しそうにさえ聞こえた。
コルネリウスは守りたいと思う者を守るために、フェアロスは身を守りながら周囲を助けるために自身の力を磨いている。コルネリウスは防御を、フェアロスはきっと回復や補助を中心に技の研鑽を続けているだろう。積極的に相手を打ちのめす戦い方ではないが、今この瞬間、父に全力をぶつけられることは、はっきり言って高揚する。
皮膚を金属と同じ硬さに。ここから加速して突っ込むか、遠距離から出方を見るか。
(突っ込む!)
直感に従ったとも言えるほどの攻め、それをコルネリウスは忠実に実行した。剣を構えながら加速、ぶおんと空気が唸るほどの一撃。フェアロスは真正面から剣戟を受ける。杖を盾代わりに受け止めることで威力を殺したのかそれとも基礎能力が高いのか、思ったよりも威力を出せていない。
「こちらの番です」
振りかぶった杖がコルネリウスを狙った。腕の長さも手伝い、コルネリウスの視界外からくるような攻撃が襲ってくる。構えていた盾で防ぐも、容赦のない一撃はずんと重い。踏ん張った足が地面を抉った。一度引いたコルネリウスは衝撃波を放つ。今度は直撃したが、瞬く間に回復されてしまった。続く剣での攻撃も届いてはいるが、すぐに回復されてしまう。
木と木がぶつかる鈍い音が幾度も鳴る。隙を狙って剣を繰り出し、杖が盾を打ち、盾で押し込むように殴り、足元が抉れるよう乱れていく。こちらへのダメージもゼロではない。訓練用の防具ではすべてを耐えることが難しい。持久戦になればこちらが不利か。
ならば、一撃で決める必要がある。正直に真正面から突っ込んだところで躱されるだけだろう。それくらい父は考えているし、私のことをよくわかっている。
だからこそそこに、隙が生まれる。
「はあっ!」
再び距離を取って加速、近付いて気付いた――フェアロスの体が僅かながら光を帯びている。それでも構わず、威力を乗せて鋭く剣を突き出した。実直なまでに真っすぐな一撃。
「!!」
フェアロスは咄嗟に杖を構える。それをコルネリウスの剣は真っ二つに両断、めきりという音とともにフェアロスへと一撃が通った。同時に、握っていた木剣も剣先から砕けた。
「あいたた……まさか、そのまま突っ込んでくるなんて……予測が外れてしまいました」
「す、すみません! でも、父さんならこの方が通じると思ったんです」
「なるほど、相手のことを考えた上での判断ですか。私も判断が遅れてしまいましたね」
コルネリウスは手を伸ばし、尻もちをついていたフェアロスを立ち上がらせる。フェアロスは砂埃にまみれながらも、楽しそうに笑っていた。
「よくできました、コルネ。後はもう少し攻め手を増やしておきましょうか」
「もちろんです! あ、でもその前に」
コルネリウスはちらりと地面を見渡す。そこには、無残にも散らばった木々のかけらがあった。よく見ると盾もひびが入っている。
「ああ、可哀そうなことをしてしまいました……」
「すみません……」
「私もですから、一緒に謝りましょうね。今度からはもう少し丈夫な武具で手合わせをしましょう。……ああ、コルネ。汚れてしまいましたね」
フェアロスが顔に付いた砂埃を拭ってくれる。優しい手つきに、コルネリウスはくすぐったそうに瞳を細めた。