ある睡眠の話、睡眠の質とは
キャラクターノベル制作 ウケッキ納品 2023年10月10日 09時24分16秒
●ある睡眠の話、睡眠の質とは
森の奥にある【ストレガ・L・リベルガストラ】の研究所兼自宅。
彼女が留守の間、留守番をしている助手の少年【レゼル】は扉の開く音を聞いて玄関へと急ぐ。恐らく、ストレガが帰ってきたからだ。
玄関へ向かうとそこには何やら大きな袋を担いだストレガがいた。冒険の帰りなのか服には若干の返り血を浴びている。袋の口からは鳥の羽のようなものが覗いていた。背後の荷台には食肉用に加工された大きな肉の塊が見えた。
「少年、今帰ったのだ! 喜べ、今日は鳥鍋なのだっ!」
「おかえりなさいませ、ストレガ様。なんだか今日はかなり大量ですね?」
清潔な布をストレガに渡し、レゼルは荷台に乗った肉隗を降ろす。かなり大型なので降ろすのも一苦労だ。
ストレガは布で身体を拭って汗を落としながら話す。その表情は生き生きとしている。レゼルは楽しそうに冒険の土産話を聞きながらそんな彼女の顔を見る。彼は楽しそうに土産話を語る彼女が好きなのだ。
冒険で汚れた服を風呂場に置いてくると、ストレガは新しい服に着替えてやってきた。
「では少年、夕飯にするとしよう。棚からキノコ類と野菜、乳製品を取ってきて欲しいのだ」
「わかりました、鍋に合いそうな調味料も持ってきますね」
レゼルが棚を漁っている間、ストレガは肉を鍋用に切り分けていく。ぶつ切りに一口大にして食べやすいように大きさを整える。
鍋用に肉を切り終え、残った肉を保存用に加工。壺に適宜塩漬けにして蓋を閉める。
「ストレガ様、持ってきました。こんな感じでいかがでしょうか?」
レゼルが持ってきた野菜やキノコ、調味料と乳製品を見てストレガは頷いた。どうやら問題はなかったようでレゼルはホッとする。駄目な場合はもう一往復、棚への道が待っていたのだから。
「うむ、少年もわかってきたのだ。いや、ここに来たばっかりの何を入れるかすら、わからなかった少年が懐かしいのだ。あの頃は鍋に入れようと私の――――」
「ちょっ、それは恥ずかしいので言わないでくださいよっ」
そんな感じで談笑しながら二人は鍋の用意をすすめ、具材を切って鍋に詰めた。
煮込んでいる間、椅子に腰かけたストレガはレゼルに問いかける。
「して少年。睡眠の質は上質なのだ?」
ストレガの言葉を真意をレゼルは考えた。
彼はほぼ彼女と共にベッドで寝ている。抱き枕にされることも少なくはない。それを辛くはないか、と聞かれているのだろうかと考える。
(いや、正直に寝づらいというべきだろうか。待て待て、ストレガ様による抱かれ心地というか安心感は凄まじい。できれば、続けて頂きたい所なんだけど……って僕は何を考えてっ!?)
悶々と考え、勝手にじたばたしているレゼルを不思議そうにストレガは眺めている。
「何をばたばたしているのだ? まあいいのだ。上質な睡眠は上質な寝具からもたらされると言っても過言ではないのだ。故にこれが必要となる!」
どんっと彼の前に置いたのは先程、彼女が持って帰ってきた大量の鳥の羽だった。
「鳥の羽、ですよね。あ、結構大きな羽ですねこれ。それに質もいいです」
「そりゃそうなのだ、私がしっかりと分けたのだから。小分けにして羽根と羽毛に分けてあるのだ」
「確か、羽根は硬くって羽毛は柔らかいんでしたっけ?」
大袋から羽根と羽毛の小袋を出しながらストレガは頷いた。
「うむ、羽根は硬めで洗濯に向かない。羽毛は柔らかく、洗濯も可能なのだ。夕飯の後に風呂の方で羽根と羽毛の処理をする。手伝ってくれるのだ?」
「それは勿論お手伝いしますとも。あ、いい感じに鍋が煮えたみたいですよ。まずは食べてから考えましょうか」
キノコと野菜、鶏肉たっぷりのミルク鍋を美味しく頂いた後、食休みを挟んでストレガとレゼルは風呂場で羽根と羽毛の下処理を行っていた。
大きめの釜で羽毛と羽根を煮込んでいく。こうすることで汚れを落としながら殺菌が可能となる。
全ての羽根と羽毛を釜に入れるとストレガとレゼルは薄着になった。ストレガがレゼルの手をぎゅっと握ると、少々顔を赤らめる。
レゼルの手を引いてストレガはサウナへと向かう。その様子は師匠と弟子というよりは、お姉さんと手を引かれる弟だ。
「ふふ、いつになっても慣れないのだ、少年は。恥ずかしがり屋なのはいつ解消されるのだ?」
「うう、そんなこといっても、中々慣れるものではないですよっ」
恥ずかしそうに手を握り返しながら、レゼルはストレガについていく。幼少期に行き場を失い、拾われた彼にとって彼女は師匠であり、母であり、姉なのだ。
ストレガたちはサウナで身を温めながら、羽根と羽毛を煮込む大釜を監視する。万が一、発火しないようにの番の為でもあった。
「して少年よ、明日は出かけるから留守を頼むのだ」
「はい、それは構いませんが、何かの依頼で遠出ですか?」
額から流れる汗を拭いながらストレガは、はふぅっと息を吐く。流れた汗が谷間に少々溜まっていた。
「いや近くにある町まで赴いて、職人に羽根と羽毛で布団と枕を作ってもらうのだ。少年の分もあるから期待するといいのだー」
「わかりました、では留守はお任せくださ……って、えっ!? 僕の分まであるんですかっ!? そんな、悪いですって」
手を振って遠慮するレゼルの鼻先を指でこつんっとつつくと、ストレガは優しく笑った。
「何を言うのだ、日頃のお礼も兼ねている。私が色々と動き回れるのは、ここを維持する少年の働きもあってこそ、研究の手伝いも大いに助かっているのだ」
「はは、そこまで面と向かって言われると恥ずかしい物ですね。わかりました、そういうことでしたらありがたく頂戴します」
腕を組むとストレガはうむ、といって頷いた。
しばらくして、二人は風呂場で羽毛と羽根を手分けして水で洗っていく。これは汚れが残っていないかの確認の為だ。
レゼルは手元の羽毛を洗って、水から上げるとじっと眺める。目立った汚れはないように見えた。
「こっちは問題なさそうですね。ストレガ様の方はどうですか?」
ストレガも水に漬けていた羽根を引き上げると汚れの確認を行う。よく見ても汚れは無い。
「問題ないのだ。軽く水を切って、物干しに干すのだ。サウナの余熱を用いれば乾くのも早いのだ」
羽毛と羽根を持ったストレガとレゼルは物干しを用意すると、サウナの余熱を利用してそれらを干していく。
全てを干し終えたストレガ、レゼルは外に用意してあるハンモックに身を委ねた。
風で静かに揺られながらストレガはのんびりと空を眺める。
「……こういうのも悪くはないのだー。風が心地いいのだ」
「ですね。普段、揺られて寝ることはないのですがこれはこれでいい感じだと思いますよ。穏やかに眠りがやって来そうな、気がしますねぇ」
優雅に体を冷ました後、ストレガとレゼルは干された羽毛、羽根を回収して家の中へ。
夜も更け、ストレガとレゼルは布団に入る。いつも通り、レゼルは彼女の抱き枕と化していた。
最初はこれが恥ずかしかったレゼルだが、現在では心地良さや安心感が上回っており、眠気も手伝って早々に寝てしまうことの方が多い。
腕の中で寝に入ったレゼルを撫でながら腕を伸ばしてメモを取ると、ストレガはレゼルが眠りについた時間を記録する。
「ふむ、いつもの寝具だとまあまあの時間なのだ。ふわぁ……私も寝るとするのだ」
ストレガは机に置いていた水を一口飲むと眠りにつく。
研究の為もあるが、普段からストレガは夜更かしをしない。夜更かしは頭に大敵だとか。酒も寝る前に飲んだりはしないので、そういう意味でも健康と言えるだろう。寝る前の酒を睡眠導入として飲む者もいるが、あれは眠っているようで頭はしっかり寝ていない場合が多いのだ。
翌朝。
まず目を覚ましたのはレゼルだった。
布団からストレガを起こさないように出ると、伸びをして軽く体を動かす。寝ている間に凝った体を伸ばす為だ。
「ふむぅ……すうすう」
ふと振り向くと、ストレガが布団を巻き込んで寝返りを打っている。布団をかけなおしてから、レゼルは部屋を出た。
入り口の近くに今日持っていくであろう羽毛と羽根を持っていきやすいように大袋にまとめて入れてから、分かりやすい所に置いておく。
次は朝食の準備だ。卵と適当な野菜、鶏肉を軽く炒めていく。
「えっと、お次はっと……」
塩と胡椒を振りながら、豆類や木の実を荒く砕いた特製の粉を振りかける。これはレゼル特製のスパイスのような物で、ザクザクとした食感と心地良い香りを料理に与える。配合比はその時に応じて変えているので一定ではない。
皿に料理を盛り付けていると、まだ寝ぼけ眼のストレガが起床してくる。ちょっと服がずれている辺り、まだ頭が寝ているのかもしれない。それを見て、レゼルはちょっと可愛いなぁと思った。
「ふぬ、いい匂いがするのだぁ……今日はぁ、何なのだぁ?」
「おはようございます、ストレガ様。今日は野菜と鶏肉を卵で軽く炒めた物です。冷めない内にどうぞ」
席に着いたストレガは、あむあむと朝食を食べ始める。レゼルも自分の分を皿によそってから席に着いた。
昼食や夕食はストレガが基本的に作るが、朝食に関してはレゼルが担当することが多い。
早くに起きてしまうレゼルは、ゆっくり目に無理なく起きるストレガの為に朝食や朝の準備を行うことが多いのだった。
「今日もいい味をしているのだ。また腕をあげたのではないか?」
「いえいえ、まだまだストレガ様には及ばないですよ」
そう言いながらも、ちょっと嬉しそうにレゼルは笑うのだった。
朝食を食べ終えたストレガがレゼルに見送られて町へと向かう。
しばらく移動し近場の町に着いたストレガは枕や布団を作る職人を探した。
酒場などで聞き込みをし、教えてもらった店へと彼女は足を運ぶ。
木の簡素な扉を開けると恰幅のいい女性がカウンターにいた。
「おや、お客さんかい? 枕でも布団でも毛布でも何でも作るよ? 素材が選びたいならこっちから……」
「素材は持ってきたのだ。これを使って欲しいのだ」
どんっと置かれた袋を見て店主の女性は少々驚いた。どの羽根も綺麗に処理されていたからだ。
「こりゃあ、驚いたねぇ。魔物の羽根や羽毛だっていうのにこんなに綺麗に。それに大量。お客さん、もしや冒険者かい?」
「いかにも。ストレガ・L・リベルガストラなのだ。よろしくなのだー」
「ああ、丁寧にありがとうねぇ。あたしはディベラだよ。よし、こんな羽根を渡されちゃあ良い仕事しないわけにはいかないねぇ!」
腕をまくって見せるディベラの前に金の入った袋をいくつか置いた。またもや店主は目を見開く。
「金に糸目はつけない。最高の布で最高の布団と枕を二人分、作って欲しいのだ」
「はっはっは! こんなに気持ちのいい払い方をする冒険者がいるなんてねぇ。わかった、最高の品を仕上げるから期待しておいておくれ!」
差し出されたディベラの手をストレガはがしっと力強く握って、かたい握手を交わした。
少し話をした後、ディベラはいくつかの香草を机に並べた。
「眠りやすい香りを出す香草をうちは編み込むんだけどね、どれがお客さんの好みだい?」
「ふむ、少々拝借するのだ。これは……うむ、こっちのはさっきよりも……」
しばらく香草の香りを確認し悩んだストレガはその内の一つを選んでディベラに差し出す。
それを受け取ったディベラは数日後に出来るから受け取りに来て欲しいと言った。
ストレガはそれを了承し、店を後にする。
店を後にしたストレガはその足で歓楽街へと向かった。寝具と共に使用するお香を選ぶ為だ。
いくつか店をまわって良質なお香を手に入れたストレガは帰路につく。
それから数日後。
レゼルが片付け中の部屋の扉を勢いよくストレガが開いた。傍らには枕と布団を抱えている。嬉しそうな笑顔が実に眩しい。
「少年ッッ! 布団と寝具が届いたのだ! 良質な睡眠の研究を再開するのだーー!」
こうして良質な睡眠をとる為の研究が再開される。
まず良質な睡眠を取るには、風呂や食事の順序も大事となるだろう。
風呂の前に食事を済ませる為、ストレガは夕食づくりに励んだ。
良い眠りにつけるようにと、今日は魚介類と乳製品をふんだんに使った混ぜご飯……のような物を作る。
米を炒めながら味付け、香草も混ぜながら焦げ付かないように注意する。仕上げに海鮮を散りばめ、完成。
「今日も夕飯が美味いのだぁ! 味付けは町で見かけた調味料を使ってみたのだが、少年はどうなのだ?」
「そうですね、変わった風味がしますが僕はこれ、好きです」
ならよかったのだ、とストレガもスプーンで米をすくうと食事を頬張った。
食事を終え、ストレガとレゼルは風呂に入った。互いに体を流し、一日の疲れを取る。恥ずかしそうにするレゼルをストレガが、可愛いのだ、とからかいながら、二人は風呂を終える。
いつものように布団に入ったレゼルは見慣れない物をストレガが机に置いていることに気が付いた。
「ストレガ様、それは一体? なんだかいい香りがしますけど……」
「これはな、少年。良い眠りにつけるよう、体をリラックスさせてくれるお香なのだ。きっといい夢が見れるのだっ」
お香の用意を終えると、ストレガも布団に入る。レゼルの頭を撫でながら穏やかな眠気に身を委ねた。
新調した枕や布団のおかげか、いつもよりも眠気の到来が早く、ストレガはうとうとし始める。普段であればレゼルを撫で、彼が眠りについてから少々読書するくらいの時間はある。だが、今日はそれすら不可能なぐらい眠気の到来が早いのだ。
「ぐぬ、これではぁ、メモがぁ……ぐふっ」
机の上にあるメモに手を伸ばし、なんとか時間をメモした所で彼女の意識は睡眠の海へと沈んでいった。
その日、彼女は不思議な夢を見た。
暗い道の中で何も見えない闇が広がる。どこまでも冷たく暗い。
ふと、差し出された手を取った。すると世界からは闇が晴れ、暖かい光が広がっていく。
顔を上げると、それは笑ったストレガ自身の姿だった。頬を涙が伝うと同時に胸の奥が暖かくなった気がした。
(この夢は、もしかして……)
誰からの目線だったのか、考えている間に再びストレガの意識は途切れた。
翌朝。
気持ちのいい朝の光で目を覚ましたストレガは伸びをする。
「ふわぁあぁーー。よく寝たのだぁ……む?」
机の上を見ると、昨夜、途中で力尽きたメモ書きがあった。辛うじて時間はメモってあるものの、後半部分は支離滅裂で何が書いてあるか判別できない。しかも最後の所は線がぐにゃぁっと伸びるように引かれており、どうやらそこで限界を迎えたらしい。
「ふむ。これは枕と布団の効果てきめんなのだ」
布団から出ると、緩んだ衣服をただし部屋を後にする。
居間へ行くと既にレゼルが朝食の用意を終えていた。目玉焼きにパン、焼きベーコンが用意されている。
料理の片づけをしているレゼルの背後からぎゅっと彼を抱き締めた。その行為は母性からくるものだ。何故かはわからない、だがそうした方がいい、そうしたい気がしたのだ。昨日見た夢が原因かもしれない。
嬉しそうに笑いながら、彼はストレガに問いかける。
「あはは、おはようございます、ストレガ様。昨日はよく眠れましたか?」
レゼルの問いかけに満面の笑顔でストレガは答える。
「勿論なのだ! やはり寝具の良さは睡眠に影響する。これはいい研究結果になったのだ」
それからストレガは朝食を食べながら、枕や布団のこだわりポイントをレゼルに語る。レゼルはそれを楽しそうに聞いているのだった。
森の奥にある【ストレガ・L・リベルガストラ】の研究所兼自宅。
彼女が留守の間、留守番をしている助手の少年【レゼル】は扉の開く音を聞いて玄関へと急ぐ。恐らく、ストレガが帰ってきたからだ。
玄関へ向かうとそこには何やら大きな袋を担いだストレガがいた。冒険の帰りなのか服には若干の返り血を浴びている。袋の口からは鳥の羽のようなものが覗いていた。背後の荷台には食肉用に加工された大きな肉の塊が見えた。
「少年、今帰ったのだ! 喜べ、今日は鳥鍋なのだっ!」
「おかえりなさいませ、ストレガ様。なんだか今日はかなり大量ですね?」
清潔な布をストレガに渡し、レゼルは荷台に乗った肉隗を降ろす。かなり大型なので降ろすのも一苦労だ。
ストレガは布で身体を拭って汗を落としながら話す。その表情は生き生きとしている。レゼルは楽しそうに冒険の土産話を聞きながらそんな彼女の顔を見る。彼は楽しそうに土産話を語る彼女が好きなのだ。
冒険で汚れた服を風呂場に置いてくると、ストレガは新しい服に着替えてやってきた。
「では少年、夕飯にするとしよう。棚からキノコ類と野菜、乳製品を取ってきて欲しいのだ」
「わかりました、鍋に合いそうな調味料も持ってきますね」
レゼルが棚を漁っている間、ストレガは肉を鍋用に切り分けていく。ぶつ切りに一口大にして食べやすいように大きさを整える。
鍋用に肉を切り終え、残った肉を保存用に加工。壺に適宜塩漬けにして蓋を閉める。
「ストレガ様、持ってきました。こんな感じでいかがでしょうか?」
レゼルが持ってきた野菜やキノコ、調味料と乳製品を見てストレガは頷いた。どうやら問題はなかったようでレゼルはホッとする。駄目な場合はもう一往復、棚への道が待っていたのだから。
「うむ、少年もわかってきたのだ。いや、ここに来たばっかりの何を入れるかすら、わからなかった少年が懐かしいのだ。あの頃は鍋に入れようと私の――――」
「ちょっ、それは恥ずかしいので言わないでくださいよっ」
そんな感じで談笑しながら二人は鍋の用意をすすめ、具材を切って鍋に詰めた。
煮込んでいる間、椅子に腰かけたストレガはレゼルに問いかける。
「して少年。睡眠の質は上質なのだ?」
ストレガの言葉を真意をレゼルは考えた。
彼はほぼ彼女と共にベッドで寝ている。抱き枕にされることも少なくはない。それを辛くはないか、と聞かれているのだろうかと考える。
(いや、正直に寝づらいというべきだろうか。待て待て、ストレガ様による抱かれ心地というか安心感は凄まじい。できれば、続けて頂きたい所なんだけど……って僕は何を考えてっ!?)
悶々と考え、勝手にじたばたしているレゼルを不思議そうにストレガは眺めている。
「何をばたばたしているのだ? まあいいのだ。上質な睡眠は上質な寝具からもたらされると言っても過言ではないのだ。故にこれが必要となる!」
どんっと彼の前に置いたのは先程、彼女が持って帰ってきた大量の鳥の羽だった。
「鳥の羽、ですよね。あ、結構大きな羽ですねこれ。それに質もいいです」
「そりゃそうなのだ、私がしっかりと分けたのだから。小分けにして羽根と羽毛に分けてあるのだ」
「確か、羽根は硬くって羽毛は柔らかいんでしたっけ?」
大袋から羽根と羽毛の小袋を出しながらストレガは頷いた。
「うむ、羽根は硬めで洗濯に向かない。羽毛は柔らかく、洗濯も可能なのだ。夕飯の後に風呂の方で羽根と羽毛の処理をする。手伝ってくれるのだ?」
「それは勿論お手伝いしますとも。あ、いい感じに鍋が煮えたみたいですよ。まずは食べてから考えましょうか」
キノコと野菜、鶏肉たっぷりのミルク鍋を美味しく頂いた後、食休みを挟んでストレガとレゼルは風呂場で羽根と羽毛の下処理を行っていた。
大きめの釜で羽毛と羽根を煮込んでいく。こうすることで汚れを落としながら殺菌が可能となる。
全ての羽根と羽毛を釜に入れるとストレガとレゼルは薄着になった。ストレガがレゼルの手をぎゅっと握ると、少々顔を赤らめる。
レゼルの手を引いてストレガはサウナへと向かう。その様子は師匠と弟子というよりは、お姉さんと手を引かれる弟だ。
「ふふ、いつになっても慣れないのだ、少年は。恥ずかしがり屋なのはいつ解消されるのだ?」
「うう、そんなこといっても、中々慣れるものではないですよっ」
恥ずかしそうに手を握り返しながら、レゼルはストレガについていく。幼少期に行き場を失い、拾われた彼にとって彼女は師匠であり、母であり、姉なのだ。
ストレガたちはサウナで身を温めながら、羽根と羽毛を煮込む大釜を監視する。万が一、発火しないようにの番の為でもあった。
「して少年よ、明日は出かけるから留守を頼むのだ」
「はい、それは構いませんが、何かの依頼で遠出ですか?」
額から流れる汗を拭いながらストレガは、はふぅっと息を吐く。流れた汗が谷間に少々溜まっていた。
「いや近くにある町まで赴いて、職人に羽根と羽毛で布団と枕を作ってもらうのだ。少年の分もあるから期待するといいのだー」
「わかりました、では留守はお任せくださ……って、えっ!? 僕の分まであるんですかっ!? そんな、悪いですって」
手を振って遠慮するレゼルの鼻先を指でこつんっとつつくと、ストレガは優しく笑った。
「何を言うのだ、日頃のお礼も兼ねている。私が色々と動き回れるのは、ここを維持する少年の働きもあってこそ、研究の手伝いも大いに助かっているのだ」
「はは、そこまで面と向かって言われると恥ずかしい物ですね。わかりました、そういうことでしたらありがたく頂戴します」
腕を組むとストレガはうむ、といって頷いた。
しばらくして、二人は風呂場で羽毛と羽根を手分けして水で洗っていく。これは汚れが残っていないかの確認の為だ。
レゼルは手元の羽毛を洗って、水から上げるとじっと眺める。目立った汚れはないように見えた。
「こっちは問題なさそうですね。ストレガ様の方はどうですか?」
ストレガも水に漬けていた羽根を引き上げると汚れの確認を行う。よく見ても汚れは無い。
「問題ないのだ。軽く水を切って、物干しに干すのだ。サウナの余熱を用いれば乾くのも早いのだ」
羽毛と羽根を持ったストレガとレゼルは物干しを用意すると、サウナの余熱を利用してそれらを干していく。
全てを干し終えたストレガ、レゼルは外に用意してあるハンモックに身を委ねた。
風で静かに揺られながらストレガはのんびりと空を眺める。
「……こういうのも悪くはないのだー。風が心地いいのだ」
「ですね。普段、揺られて寝ることはないのですがこれはこれでいい感じだと思いますよ。穏やかに眠りがやって来そうな、気がしますねぇ」
優雅に体を冷ました後、ストレガとレゼルは干された羽毛、羽根を回収して家の中へ。
夜も更け、ストレガとレゼルは布団に入る。いつも通り、レゼルは彼女の抱き枕と化していた。
最初はこれが恥ずかしかったレゼルだが、現在では心地良さや安心感が上回っており、眠気も手伝って早々に寝てしまうことの方が多い。
腕の中で寝に入ったレゼルを撫でながら腕を伸ばしてメモを取ると、ストレガはレゼルが眠りについた時間を記録する。
「ふむ、いつもの寝具だとまあまあの時間なのだ。ふわぁ……私も寝るとするのだ」
ストレガは机に置いていた水を一口飲むと眠りにつく。
研究の為もあるが、普段からストレガは夜更かしをしない。夜更かしは頭に大敵だとか。酒も寝る前に飲んだりはしないので、そういう意味でも健康と言えるだろう。寝る前の酒を睡眠導入として飲む者もいるが、あれは眠っているようで頭はしっかり寝ていない場合が多いのだ。
翌朝。
まず目を覚ましたのはレゼルだった。
布団からストレガを起こさないように出ると、伸びをして軽く体を動かす。寝ている間に凝った体を伸ばす為だ。
「ふむぅ……すうすう」
ふと振り向くと、ストレガが布団を巻き込んで寝返りを打っている。布団をかけなおしてから、レゼルは部屋を出た。
入り口の近くに今日持っていくであろう羽毛と羽根を持っていきやすいように大袋にまとめて入れてから、分かりやすい所に置いておく。
次は朝食の準備だ。卵と適当な野菜、鶏肉を軽く炒めていく。
「えっと、お次はっと……」
塩と胡椒を振りながら、豆類や木の実を荒く砕いた特製の粉を振りかける。これはレゼル特製のスパイスのような物で、ザクザクとした食感と心地良い香りを料理に与える。配合比はその時に応じて変えているので一定ではない。
皿に料理を盛り付けていると、まだ寝ぼけ眼のストレガが起床してくる。ちょっと服がずれている辺り、まだ頭が寝ているのかもしれない。それを見て、レゼルはちょっと可愛いなぁと思った。
「ふぬ、いい匂いがするのだぁ……今日はぁ、何なのだぁ?」
「おはようございます、ストレガ様。今日は野菜と鶏肉を卵で軽く炒めた物です。冷めない内にどうぞ」
席に着いたストレガは、あむあむと朝食を食べ始める。レゼルも自分の分を皿によそってから席に着いた。
昼食や夕食はストレガが基本的に作るが、朝食に関してはレゼルが担当することが多い。
早くに起きてしまうレゼルは、ゆっくり目に無理なく起きるストレガの為に朝食や朝の準備を行うことが多いのだった。
「今日もいい味をしているのだ。また腕をあげたのではないか?」
「いえいえ、まだまだストレガ様には及ばないですよ」
そう言いながらも、ちょっと嬉しそうにレゼルは笑うのだった。
朝食を食べ終えたストレガがレゼルに見送られて町へと向かう。
しばらく移動し近場の町に着いたストレガは枕や布団を作る職人を探した。
酒場などで聞き込みをし、教えてもらった店へと彼女は足を運ぶ。
木の簡素な扉を開けると恰幅のいい女性がカウンターにいた。
「おや、お客さんかい? 枕でも布団でも毛布でも何でも作るよ? 素材が選びたいならこっちから……」
「素材は持ってきたのだ。これを使って欲しいのだ」
どんっと置かれた袋を見て店主の女性は少々驚いた。どの羽根も綺麗に処理されていたからだ。
「こりゃあ、驚いたねぇ。魔物の羽根や羽毛だっていうのにこんなに綺麗に。それに大量。お客さん、もしや冒険者かい?」
「いかにも。ストレガ・L・リベルガストラなのだ。よろしくなのだー」
「ああ、丁寧にありがとうねぇ。あたしはディベラだよ。よし、こんな羽根を渡されちゃあ良い仕事しないわけにはいかないねぇ!」
腕をまくって見せるディベラの前に金の入った袋をいくつか置いた。またもや店主は目を見開く。
「金に糸目はつけない。最高の布で最高の布団と枕を二人分、作って欲しいのだ」
「はっはっは! こんなに気持ちのいい払い方をする冒険者がいるなんてねぇ。わかった、最高の品を仕上げるから期待しておいておくれ!」
差し出されたディベラの手をストレガはがしっと力強く握って、かたい握手を交わした。
少し話をした後、ディベラはいくつかの香草を机に並べた。
「眠りやすい香りを出す香草をうちは編み込むんだけどね、どれがお客さんの好みだい?」
「ふむ、少々拝借するのだ。これは……うむ、こっちのはさっきよりも……」
しばらく香草の香りを確認し悩んだストレガはその内の一つを選んでディベラに差し出す。
それを受け取ったディベラは数日後に出来るから受け取りに来て欲しいと言った。
ストレガはそれを了承し、店を後にする。
店を後にしたストレガはその足で歓楽街へと向かった。寝具と共に使用するお香を選ぶ為だ。
いくつか店をまわって良質なお香を手に入れたストレガは帰路につく。
それから数日後。
レゼルが片付け中の部屋の扉を勢いよくストレガが開いた。傍らには枕と布団を抱えている。嬉しそうな笑顔が実に眩しい。
「少年ッッ! 布団と寝具が届いたのだ! 良質な睡眠の研究を再開するのだーー!」
こうして良質な睡眠をとる為の研究が再開される。
まず良質な睡眠を取るには、風呂や食事の順序も大事となるだろう。
風呂の前に食事を済ませる為、ストレガは夕食づくりに励んだ。
良い眠りにつけるようにと、今日は魚介類と乳製品をふんだんに使った混ぜご飯……のような物を作る。
米を炒めながら味付け、香草も混ぜながら焦げ付かないように注意する。仕上げに海鮮を散りばめ、完成。
「今日も夕飯が美味いのだぁ! 味付けは町で見かけた調味料を使ってみたのだが、少年はどうなのだ?」
「そうですね、変わった風味がしますが僕はこれ、好きです」
ならよかったのだ、とストレガもスプーンで米をすくうと食事を頬張った。
食事を終え、ストレガとレゼルは風呂に入った。互いに体を流し、一日の疲れを取る。恥ずかしそうにするレゼルをストレガが、可愛いのだ、とからかいながら、二人は風呂を終える。
いつものように布団に入ったレゼルは見慣れない物をストレガが机に置いていることに気が付いた。
「ストレガ様、それは一体? なんだかいい香りがしますけど……」
「これはな、少年。良い眠りにつけるよう、体をリラックスさせてくれるお香なのだ。きっといい夢が見れるのだっ」
お香の用意を終えると、ストレガも布団に入る。レゼルの頭を撫でながら穏やかな眠気に身を委ねた。
新調した枕や布団のおかげか、いつもよりも眠気の到来が早く、ストレガはうとうとし始める。普段であればレゼルを撫で、彼が眠りについてから少々読書するくらいの時間はある。だが、今日はそれすら不可能なぐらい眠気の到来が早いのだ。
「ぐぬ、これではぁ、メモがぁ……ぐふっ」
机の上にあるメモに手を伸ばし、なんとか時間をメモした所で彼女の意識は睡眠の海へと沈んでいった。
その日、彼女は不思議な夢を見た。
暗い道の中で何も見えない闇が広がる。どこまでも冷たく暗い。
ふと、差し出された手を取った。すると世界からは闇が晴れ、暖かい光が広がっていく。
顔を上げると、それは笑ったストレガ自身の姿だった。頬を涙が伝うと同時に胸の奥が暖かくなった気がした。
(この夢は、もしかして……)
誰からの目線だったのか、考えている間に再びストレガの意識は途切れた。
翌朝。
気持ちのいい朝の光で目を覚ましたストレガは伸びをする。
「ふわぁあぁーー。よく寝たのだぁ……む?」
机の上を見ると、昨夜、途中で力尽きたメモ書きがあった。辛うじて時間はメモってあるものの、後半部分は支離滅裂で何が書いてあるか判別できない。しかも最後の所は線がぐにゃぁっと伸びるように引かれており、どうやらそこで限界を迎えたらしい。
「ふむ。これは枕と布団の効果てきめんなのだ」
布団から出ると、緩んだ衣服をただし部屋を後にする。
居間へ行くと既にレゼルが朝食の用意を終えていた。目玉焼きにパン、焼きベーコンが用意されている。
料理の片づけをしているレゼルの背後からぎゅっと彼を抱き締めた。その行為は母性からくるものだ。何故かはわからない、だがそうした方がいい、そうしたい気がしたのだ。昨日見た夢が原因かもしれない。
嬉しそうに笑いながら、彼はストレガに問いかける。
「あはは、おはようございます、ストレガ様。昨日はよく眠れましたか?」
レゼルの問いかけに満面の笑顔でストレガは答える。
「勿論なのだ! やはり寝具の良さは睡眠に影響する。これはいい研究結果になったのだ」
それからストレガは朝食を食べながら、枕や布団のこだわりポイントをレゼルに語る。レゼルはそれを楽しそうに聞いているのだった。