答えは『彼女』との縁の先に
キャラクターノベル制作 空色みなも納品 2023年08月26日 12時02分10秒
●
これまでだって、そうだった。
これからだって、そうだろう。
いつだって答えはそこにある。
僕と『彼女』の縁が、標となって行く先を照らしてくれる――。
●
赤、黄。そして、緑。
鮮やかな色彩が籠に詰め込まれ、店先に並べられている。
そのうちの黄色い丸に伸びる、ひとつの手。
手が取った丸――柑橘のような果物を、青年の青い瞳がしげしげと眺めた。
「あら、トレーガーさんじゃない。今日は何をお求めだい?」
その様子に気付いた一人の女性が、声を上げた。
「こんにちは。お店で出す新しいメニューに使える食材が何かないかと思いまして……」
橙の短い髪を揺らし、青年が女性へ顔を向ける。
青年の名はユーリ・トレーガー。
先程の言葉からも分かるように、飲食店を経営している。
この町、リブラネスタで。
そしてユーリが営むのは、単に飲食だけを提供する店ではない。
飲食と同時に、卓上遊戯が楽しめる店――卓上遊戯喫茶なのだ。
その性質から主な目当てが卓上遊戯にある客も多いのだが、それはそれ。
やはり食卓を彩る料理も、楽しい時間を演出するのに欠かせない物である。
ゆえに新メニュー開発もユーリの大切な仕事のひとつ。
こうして近所の青果店に立ち寄ったのも、アイデアの種を求めてのことだった。
「なるほど、そうかい! どんなメニューが出来上がるか、楽しみだねえ!」
そう言ってカラカラと笑う女性は、この青果店の店員だ。
この店舗は当の女性が一人で切り盛りしている――というわけではなく。
店長が仕入れで出かけているため、一人で店番をしている最中である。
こうして女性店員が店頭に立っていることは何も珍しいことではない。
そのため、今ではユーリもこの店員とすっかり顔なじみとなっていた。
「そういうわけなので、なにか新しく入荷した食材などあれば――」
「ああ、目玉商品はだいたい店先のあの辺りにまとめてあるよ。いくらでも見ていっておくれ!」
ユーリは店員に連れて行かれた先で行われる商品説明に、真剣な面持ちで聞き入っている。
卓上遊戯喫茶というユーリの店の性質上、売れ行きの商品は遊戯の合間でも楽しめる軽食や飲料だ。
とはいえ、しっかり腹を満たせる食事の需要もないわけではない。
どういった方向性で新メニューを用意するか――まずはそこから考える必要があった。
アイデアを出すという作業は難しいもので。
最初の糸口さえ掴めれば後は容易く手繰り寄せられるようなことでも、その糸口がなかなか掴めない。
それでも何がヒントになるか分からない以上、情報収集が大切なのだ。
目にしたもの、耳にしたものを全て記憶に留め置き。
そうして頭の中に蓄えた点と点がやがて線で繋がる時、アイデアという像を結ぶのだから。
「それにしてもトレーガーさんがこっちでお店を開いてから、もうけっこう経つんだねえ」
すると、ふと思いついたように青果店の店員が雑談を持ち掛けた。
時が経つのは早いもんだと店員がしみじみ呟くのを聞いて、ユーリもまた回想する。
ここ、リブラネスタへ辿り着くまでのこと。
そして、リブラネスタで店を開いてからのこと。
ユーリは以前、リーンエス王国でパンクリアース学園に在籍していた。
学園卒業後は実家を手伝っていたユーリであったが、兄と大喧嘩の末に家を出ることに。
その際、付いて来てくれた使用人二人と共にやってきたのが――このリブラネスタだった。
リブラネスタで卓上遊戯を楽しめるお店を開こう。
学園生時代にたくさんの幸せをくれた卓上遊戯を、より多くの人々へ――。
その目標は、家を出たユーリに自然と付いてきた。
卓上遊戯の文化を広めることは、胸に抱き続けてきた想いだったから。
すると、どうだろう。
彼が店を開こうとした場所は、『彼女』の切り盛りする店のすぐそばだったではないか――。
ユーリと『彼女』の劇的な邂逅の噂は瞬く間に広がり、二人はご近所さんの間でもちょっとした名物となっていた。
それが物語だったとしてもドラマチックなストーリーに、娯楽に飢えているご近所さんたちが食いつかないはずもない。
「トレーガーさんが来てからというものの、あの子も前より楽しそうにしてるよ」
何を隠そう、この青果店の店員もユーリとその『彼女』の関係を見守っているご近所さんの内の一人だ。
青果店の店員はユーリより長くリブラネスタにいるため、以前の『彼女』についても様子を知っているのだと言う。
まあ『彼女』が以前より明るく感じるというのも、あくまで店員視点の話であるが。
「そうでしたか。改めてそう言われると、どこか照れくさくもありますね」
話を聞きながら、ユーリはポリポリと頭を掻いていた。
二人が共に過ごせるようになったことを『彼女』が喜んでいるようで面映ゆい気持ち――も、あったが。
それまで『彼女』が置かれていた境遇を思うと、どこか申し訳ないような気持ちもあった。
そこにユーリの負うべき責任は、なかったとしても。
「で、どうなんだい? あの子とはちゃんとうまくいってるかい?」
店員の話はさらに二人の関係に踏み込んでいく。
やはりこの店員のように世話焼きな女性ともなると、他人の色恋沙汰にも敏感になるものらしい。
受け取り手によっては大きなお世話とも捉えられかねないが、ユーリは特に気を悪くした様子もない。
その点については、ユーリが『彼女』との関係を大っぴらにしていることも大きいだろう。
なにも恥ずべきことなどではなく、むしろ誇らしいことなのであるから。
「ええ、おかげ様で。この前、二人で海へ行ったときも――」
ユーリがこの青果店の世話になる場面は、なにも喫茶で出す料理の食材調達ばかりではない。
この青果店で購入した果物や野菜が、二人のデートを彩ることもある。
ユーリは知っていた。
海デートに『彼女』が持ち込んだスイカは、この青果店が出所であったことを。
そして今、目の前にいる店員がデートのためと知って値段を少しオマケしてくれたことも。
二人の関係は、様々な人々の応援を受けている。
そのことを噛みしめるように感じることができた、出来事であった。
「スイカ、とても美味しかったです」
「ははっ、そいつは何より。安く売った甲斐もあるってもんだよ」
だからユーリはニカッと歯を見せて礼を述べた。
それを受け、青果店の店員もどこか誇らしげに笑んでみせる。
「とと、今日は新メニューのために来てくれたんだったね」
ここで青果店の店員は、はたと思い出したように本題に触れた。
ユーリと『彼女』の話題に熱中するあまり、そもそもの用件を忘れていたようだ。
それだけ二人に対する関心があるということだろうけれど、とユーリも苦笑する。
「どうだい? なにか思いついたかい?」
「ええ、なんとなく見えてきた気がします」
店員に問われ、ユーリはしっかりと頷き返した。
ユーリ曰く、店員との会話の中で目指すべきものが浮かんできたのだという。
「僕はやはり『彼女』と共にあるべきなのだなと」
そして、ユーリは胸を張ってそう答える。
直接メニューの内容を告げたわけではないが、彼の中では結論が出ているらしい。
「はて? なんだかよく分からないけど――そうかい!」
店員は不思議そうな顔を見せるも、どうやら勝手に何かを納得したようだ。
腕を組みながら、うんうんと首を縦に振っている。
「トレーガーさん、頑張りなよ! あの子をよろしくね!」
「ええ、頑張ります」
あっはっは、と豪快に笑った店員に背中をバンバンと叩かれて。
ユーリはくすぐったそうに微笑んだ。
なにも青果店の店員が『彼女』の保護者というわけではないだろう――。
そう野暮なツッコミを入れるのは、ユーリも我慢できたようである。
●
棚に所狭しと並ぶ、箱、箱、箱。
それらの箱それぞれに『楽しさ』が詰まっている。
そうした箱のひとつに伸びる、小さな手。
箱を棚からゆっくりと引き出した手は、子供のものだった。
子供は大事そうに箱を抱えると、親らしき姿が待つテーブルへと駆けていく。
ユーリの経営する卓上遊戯喫茶は、今日も人々で賑わっていた。
先程の子供がテーブル上に色とりどりの駒を広げて歓声を上げる。
エプロン姿であわただしく店内を行き来するユーリも、その様子に目を細めていた。
と、そのテーブルからユーリに声がかかる。
「はい、ご注文でしょうか」
客から受けた注文を書き取ったユーリが、厨房へと向かう。
やがてテーブルへと戻って来たユーリが手にした皿には――。
「お待たせしました。季節のフルーツサンドです」
果物をふんだんに挟んだパンが盛りつけられていた。
そう、これこそユーリが思いついた新メニュー。
ここに『彼女』の店で焼かれたパンを用いることで、ユーリなりに『彼女』との絆を表しているのだ。
香ばしく焼けたパンに齧りつけば、フルーツの爽やかな甘みと酸味が顔を覗かせる。
そんな自慢の味に、仕上がった。
テーブルでそれを味わった大人も、子供も、笑顔になって。
それをユーリも満足げに見守っている。
やがて卓上遊戯喫茶も閉店の時間を迎え。
店の扉を通って外へ出た客たちは、帰り道で口々にこう言い合うのだ。
今日は楽しかったね――と。
これまでだって、そうだった。
これからだって、そうだろう。
いつだって答えはそこにある。
僕と『彼女』の縁が、標となって行く先を照らしてくれる――。
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赤、黄。そして、緑。
鮮やかな色彩が籠に詰め込まれ、店先に並べられている。
そのうちの黄色い丸に伸びる、ひとつの手。
手が取った丸――柑橘のような果物を、青年の青い瞳がしげしげと眺めた。
「あら、トレーガーさんじゃない。今日は何をお求めだい?」
その様子に気付いた一人の女性が、声を上げた。
「こんにちは。お店で出す新しいメニューに使える食材が何かないかと思いまして……」
橙の短い髪を揺らし、青年が女性へ顔を向ける。
青年の名はユーリ・トレーガー。
先程の言葉からも分かるように、飲食店を経営している。
この町、リブラネスタで。
そしてユーリが営むのは、単に飲食だけを提供する店ではない。
飲食と同時に、卓上遊戯が楽しめる店――卓上遊戯喫茶なのだ。
その性質から主な目当てが卓上遊戯にある客も多いのだが、それはそれ。
やはり食卓を彩る料理も、楽しい時間を演出するのに欠かせない物である。
ゆえに新メニュー開発もユーリの大切な仕事のひとつ。
こうして近所の青果店に立ち寄ったのも、アイデアの種を求めてのことだった。
「なるほど、そうかい! どんなメニューが出来上がるか、楽しみだねえ!」
そう言ってカラカラと笑う女性は、この青果店の店員だ。
この店舗は当の女性が一人で切り盛りしている――というわけではなく。
店長が仕入れで出かけているため、一人で店番をしている最中である。
こうして女性店員が店頭に立っていることは何も珍しいことではない。
そのため、今ではユーリもこの店員とすっかり顔なじみとなっていた。
「そういうわけなので、なにか新しく入荷した食材などあれば――」
「ああ、目玉商品はだいたい店先のあの辺りにまとめてあるよ。いくらでも見ていっておくれ!」
ユーリは店員に連れて行かれた先で行われる商品説明に、真剣な面持ちで聞き入っている。
卓上遊戯喫茶というユーリの店の性質上、売れ行きの商品は遊戯の合間でも楽しめる軽食や飲料だ。
とはいえ、しっかり腹を満たせる食事の需要もないわけではない。
どういった方向性で新メニューを用意するか――まずはそこから考える必要があった。
アイデアを出すという作業は難しいもので。
最初の糸口さえ掴めれば後は容易く手繰り寄せられるようなことでも、その糸口がなかなか掴めない。
それでも何がヒントになるか分からない以上、情報収集が大切なのだ。
目にしたもの、耳にしたものを全て記憶に留め置き。
そうして頭の中に蓄えた点と点がやがて線で繋がる時、アイデアという像を結ぶのだから。
「それにしてもトレーガーさんがこっちでお店を開いてから、もうけっこう経つんだねえ」
すると、ふと思いついたように青果店の店員が雑談を持ち掛けた。
時が経つのは早いもんだと店員がしみじみ呟くのを聞いて、ユーリもまた回想する。
ここ、リブラネスタへ辿り着くまでのこと。
そして、リブラネスタで店を開いてからのこと。
ユーリは以前、リーンエス王国でパンクリアース学園に在籍していた。
学園卒業後は実家を手伝っていたユーリであったが、兄と大喧嘩の末に家を出ることに。
その際、付いて来てくれた使用人二人と共にやってきたのが――このリブラネスタだった。
リブラネスタで卓上遊戯を楽しめるお店を開こう。
学園生時代にたくさんの幸せをくれた卓上遊戯を、より多くの人々へ――。
その目標は、家を出たユーリに自然と付いてきた。
卓上遊戯の文化を広めることは、胸に抱き続けてきた想いだったから。
すると、どうだろう。
彼が店を開こうとした場所は、『彼女』の切り盛りする店のすぐそばだったではないか――。
ユーリと『彼女』の劇的な邂逅の噂は瞬く間に広がり、二人はご近所さんの間でもちょっとした名物となっていた。
それが物語だったとしてもドラマチックなストーリーに、娯楽に飢えているご近所さんたちが食いつかないはずもない。
「トレーガーさんが来てからというものの、あの子も前より楽しそうにしてるよ」
何を隠そう、この青果店の店員もユーリとその『彼女』の関係を見守っているご近所さんの内の一人だ。
青果店の店員はユーリより長くリブラネスタにいるため、以前の『彼女』についても様子を知っているのだと言う。
まあ『彼女』が以前より明るく感じるというのも、あくまで店員視点の話であるが。
「そうでしたか。改めてそう言われると、どこか照れくさくもありますね」
話を聞きながら、ユーリはポリポリと頭を掻いていた。
二人が共に過ごせるようになったことを『彼女』が喜んでいるようで面映ゆい気持ち――も、あったが。
それまで『彼女』が置かれていた境遇を思うと、どこか申し訳ないような気持ちもあった。
そこにユーリの負うべき責任は、なかったとしても。
「で、どうなんだい? あの子とはちゃんとうまくいってるかい?」
店員の話はさらに二人の関係に踏み込んでいく。
やはりこの店員のように世話焼きな女性ともなると、他人の色恋沙汰にも敏感になるものらしい。
受け取り手によっては大きなお世話とも捉えられかねないが、ユーリは特に気を悪くした様子もない。
その点については、ユーリが『彼女』との関係を大っぴらにしていることも大きいだろう。
なにも恥ずべきことなどではなく、むしろ誇らしいことなのであるから。
「ええ、おかげ様で。この前、二人で海へ行ったときも――」
ユーリがこの青果店の世話になる場面は、なにも喫茶で出す料理の食材調達ばかりではない。
この青果店で購入した果物や野菜が、二人のデートを彩ることもある。
ユーリは知っていた。
海デートに『彼女』が持ち込んだスイカは、この青果店が出所であったことを。
そして今、目の前にいる店員がデートのためと知って値段を少しオマケしてくれたことも。
二人の関係は、様々な人々の応援を受けている。
そのことを噛みしめるように感じることができた、出来事であった。
「スイカ、とても美味しかったです」
「ははっ、そいつは何より。安く売った甲斐もあるってもんだよ」
だからユーリはニカッと歯を見せて礼を述べた。
それを受け、青果店の店員もどこか誇らしげに笑んでみせる。
「とと、今日は新メニューのために来てくれたんだったね」
ここで青果店の店員は、はたと思い出したように本題に触れた。
ユーリと『彼女』の話題に熱中するあまり、そもそもの用件を忘れていたようだ。
それだけ二人に対する関心があるということだろうけれど、とユーリも苦笑する。
「どうだい? なにか思いついたかい?」
「ええ、なんとなく見えてきた気がします」
店員に問われ、ユーリはしっかりと頷き返した。
ユーリ曰く、店員との会話の中で目指すべきものが浮かんできたのだという。
「僕はやはり『彼女』と共にあるべきなのだなと」
そして、ユーリは胸を張ってそう答える。
直接メニューの内容を告げたわけではないが、彼の中では結論が出ているらしい。
「はて? なんだかよく分からないけど――そうかい!」
店員は不思議そうな顔を見せるも、どうやら勝手に何かを納得したようだ。
腕を組みながら、うんうんと首を縦に振っている。
「トレーガーさん、頑張りなよ! あの子をよろしくね!」
「ええ、頑張ります」
あっはっは、と豪快に笑った店員に背中をバンバンと叩かれて。
ユーリはくすぐったそうに微笑んだ。
なにも青果店の店員が『彼女』の保護者というわけではないだろう――。
そう野暮なツッコミを入れるのは、ユーリも我慢できたようである。
●
棚に所狭しと並ぶ、箱、箱、箱。
それらの箱それぞれに『楽しさ』が詰まっている。
そうした箱のひとつに伸びる、小さな手。
箱を棚からゆっくりと引き出した手は、子供のものだった。
子供は大事そうに箱を抱えると、親らしき姿が待つテーブルへと駆けていく。
ユーリの経営する卓上遊戯喫茶は、今日も人々で賑わっていた。
先程の子供がテーブル上に色とりどりの駒を広げて歓声を上げる。
エプロン姿であわただしく店内を行き来するユーリも、その様子に目を細めていた。
と、そのテーブルからユーリに声がかかる。
「はい、ご注文でしょうか」
客から受けた注文を書き取ったユーリが、厨房へと向かう。
やがてテーブルへと戻って来たユーリが手にした皿には――。
「お待たせしました。季節のフルーツサンドです」
果物をふんだんに挟んだパンが盛りつけられていた。
そう、これこそユーリが思いついた新メニュー。
ここに『彼女』の店で焼かれたパンを用いることで、ユーリなりに『彼女』との絆を表しているのだ。
香ばしく焼けたパンに齧りつけば、フルーツの爽やかな甘みと酸味が顔を覗かせる。
そんな自慢の味に、仕上がった。
テーブルでそれを味わった大人も、子供も、笑顔になって。
それをユーリも満足げに見守っている。
やがて卓上遊戯喫茶も閉店の時間を迎え。
店の扉を通って外へ出た客たちは、帰り道で口々にこう言い合うのだ。
今日は楽しかったね――と。